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『HERO'S  第2話』 作者:鋏屋 / ファンタジー 異世界
全角14927文字
容量29854 bytes
原稿用紙約43.3枚
超人的な力を持つ【ナイト】 その最高称号である【ロード】を目指す若き少年ライトの物語。
プロローグ

「―――ふっ、ふざけるなっ!」
 下卑た怒声が、天井の高いここ、謁見の間に響き渡り、それと当時に、黒く四角いプレートが大理石の床の上に投げつけられて軽い音を出した。
「へ、陛下っ」
 わなわなと震えながら玉座に座り、怒りを露わにしている主の横に控えた宰相が、その光景を見て引きつった声を漏らす。
 床にうち捨てられた黒いプレートは、二、三度跳ねて、玉座の下に控える人物の足下で、奇妙なダンスを踊った後、パタリと倒れた。その拍子にスイッチが入り、プレートの上にボンヤリと軍服をまとった人物の立体映像が映し出された。

『―――により、【ペセトンの戦い】で、我が軍の勝利は決定されました。現在、王都ドレーズは我が軍の包囲下にあります。これ以上の戦闘は無益であり、また城下市民に多大なる犠牲を出しかねません。アルメメイト陛下には、無血をもって城空け渡しを希望するものであります。尚、陛下以下、主立った王族の方々には、我が名にかけまして、御身分に恥じぬ処遇をお約束させていただき、我が国主である【碧皇】様にお目取りされるよう取りはからう所存であります ―――』

 仮にも、1万の軍勢を束ねる作戦司令官の名を持って送られた外交電文である。それを怒りにまかせて床にうち捨てるなど、その行為だけで開戦の火蓋を切る口実になる。
 果たして、使者は少しも動揺せずに片膝を着き、玉座の前に控えている。
「それが―――貴国、メサー国主の返答と受け取って宜しいでしょうか?」
「お、お待ち下さい!」
 国主アルメメイトの横に控えた宰相、レイモンドは、主が口を開く前に慌てて割ってはいる。レイモンドは背中に冷たい嫌な汗をかきながら、使者の表情を読みとろうとするが、頭からローブを羽織っているため影になって口元しか見えない。
 一国の国主と謁見するのに、頭からローブをはおり、顔を見せないと言うのははなはだ無礼なことであるが、戦時下、それも先の戦で大敗を喫し、現在、王都を蟻の這い出る隙間もなく完全に包囲している相手である。そんな些細なことで文句を言ってしまっては、自ら死期を早めることに他ならない。
「今、我が主は取り乱しております。ここは、使者殿の格別なる温情を持って穏便に事を納めるよう、お願い申し上げます」
 そう言ってレイモンドは頭を下げ、相手の反応を伺った。相変わらず表情は見えなかったが、口元にうっすらと笑みが浮かんでいるのが見て取れた。
 レイモンドは目を見張った。いくら見方の軍勢が城を包囲しているとはいえ、単身で敵のど真ん中に乗り込んできた訳である。たとえ自分に何かあったら外の自軍が黙ってはいないと思っても、主が玉砕を選べば、自分が真っ先に血祭りに上げられるとわかっているはずだ。それでも尚、不敵にも笑みを浮かべることが出来るこの者の度胸に、レイモンドは驚愕した。
 よほどの馬鹿か、それとも切り抜けられる自信があるのか。
 先の戦いで大敗したとは言え、此処は城である。場内にはまだ二千人からなる兵が居る。この会見前に、袖に配された完全武装の兵士が、主の号令一つでライフル片手に殺到する手はずになっている。外交の通例違反である事は百も承知ではあるが、戦時下に置いてはそのような建前を本気に実行する者はいない。そのようなことは、恐らく相手もわかっている筈である。いくら腕に自信があるにせよ、その包囲を突破し、生きて自軍に戻ることは不可能である。
 この者はいったい―――
 声から判断するに、まだ幼さの残る若い声だった。恐らくまだ20を過ぎてはいまい。使者として、どう考えても若すぎる。年齢が若いと言うことで「身分が釣り合わぬ」とつっぱね、改めて正式な使者を使わすよう要求されても文句は言えまい。しかし、そのような者を使者としてよこす敵の司令官の真意が、レイモンドには逆に驚異感じているのだった。
「ええい、レイモンドっ、こやつを殺せ! そして改めて正式な使者を寄越すよう要求するのだ!」
 禅問答のような会見にしびれを切らしたメサー国主、アルメメイト3世はそう喚いた。それは彼の育ちに合わない怒号のような声だった。
「お待ち下さい陛下っ、そんなことをすれば、外にかまえる敵軍を引き込むだけにございます。此処は自重し……」
「きさまっ、あのような要求を呑めと申すのかっ! 余があの【碧皇】を主君と仰ぐと言うことは、事実上の併合を意味するのだぞ。そんな要求、飲める訳がないではないかっ!」
「国を救うためにございます!」
 レイモンドは熱を帯びて主に語る。
「今は、今は耐える時にございます。一度は国が滅びても、民が、そして王家の血統が絶えなければ、必ずや再興の機会が訪れます。一時の感情に流され事を起こせば、血統も民も無に帰してしまうのですぞっ」
 そうレイモンドは主を説くが、アルメメイトは怒りのため冷静な判断が出来なくなっていた。
「民? そうだ、民がおったではないか。敵の司令官、アクテリオ大将は平民出で民心に厚き男と聞いた。罪もない住民を殺すのは躊躇う筈だ」
 レイモンドは耳を疑った。
「へ、陛下は自国の臣民を盾にするおつもりですかっ!?」
「余あっての国であろう。余が死ねばメサーは滅びるのだ!」
 アルメメイトは、さも当然のごとく言い放った。民の命でさえ、自分の所有物として考えている者の言葉である。それが、王族のような特権階級に生きる権力者という人種だった。だが、国土やそこに住む民が消え、王一人生き延びたところで、何の意味があるのだろうか。
 レイモンドはこの時、長年仕えてきたメサーが滅びるのを確信した。



第1話  ライトと時貞

 アルメメイトは玉座の横にあったスイッチを押した。その瞬間、城内にサイレンが鳴り響いた。それは交渉決裂を告げる合図となり、謁見の間に完全武装の兵士達が殺到してきて、敵国の使者を三方から取り囲んだ。
 アルメメイトは玉座から立上り、使者を見下ろした。その口元に残忍な笑みが浮かぶ。この不敵な若者が、情けなく命乞いをする姿が見たくて、その場に残ったのだった。
「ククッ 何か言い残すことはないか? 使者殿。お前の首と共に、自軍まで届けてやろう」
 そのアルメメイトの言葉に、ローブの男は少しも動揺した素振りを見せずに、ゆっくりと立ち上がった。
「つまり、滅びの道を選ばれた―――」
 そしてゆっくりと周囲を見回し、自分を取り囲んだ兵士達を確認する。そして再び玉座の前に立つアルメメイトを見上げた。
「ぶっちゃけ、そういうこと?」
 それは、今までとはうって変わって、軽い口調だった。この状況には全くそぐわないその口調に、アルメメイトやレイモンド、さらには取り囲んだ兵士達も面食らっていた。
「住民を盾に、ね。簡単に言ってくれちゃって。あんたやっぱ腐ってるわ。自分あっての国だぁ? 偉そうに、寄生虫が。むしろあんたが居ない方がもっと良い国になったんじゃないの?」
 その侮蔑の言葉に、もはやアルメメイトは完全に理性を失っていた。わなわなと震える腕を振り上げ、怒鳴った。
「無礼者がぁぁっ! 者ども、こやつを殺してしまえっ!」
 その言葉と共に、兵士達の所持していた銃が火を噴いた。けたたましい発射音が場内にこだまし、灰色のローブに無数の穴が穿たれていくその様を、アルメメイトは狂喜の表情で見守っていた。
「ああ、なんという……」
 一方、この主の暴挙を止めることが出来なかったレイモンドは、そう呟きながら、絶望しつつその場に尻餅を付いていた。
 だが―――
 一瞬、ローブ姿が跳ねたかと思うと、まるで風のようなスピードで兵士の一団に近づいたかと思うと、次の瞬間、4人の兵士が胴体を二つに裂かれ、鮮血を吹きつつ床に崩れ落ちた。ローブの男は、いつの間にか片手に鈍く輝く細身の剣―――いや、少し後ろに反り返った刃を持つ刀を携え、向き直った。
 一瞬驚き、たじろいだ兵士だったが、すぐにローブの男に向けて引き金を引く。毎分200発の連射を誇る野戦用ライフルは、確実に標的を蜂の巣に変えるはずだった。しかし、標的の男は、その全ての弾丸を、避け、あるいは手に持った刀を目にもとまらぬスピードで振るい、たたき落としていく。驚異的な反射スピードでもはや人間業ではない。
 一瞬、標的の体が沈み込んだかと思うと、次の瞬間、正面にいた兵士は、自分の腹から生えている剣の切っ先を見ていた。
 何が起こったかわからず絶命し、床に崩れ落ちる兵士の背中から剣を引き抜くと、ローブを翻し、そのまま返す刃で流れるような動作で両脇の兵士の首をはね、続いて距離を取ろうと後退した兵士を6人を横凪に切り捨てた。
 僅か数秒で、最初に駆けつけた完全武装の兵士達が、肉塊と化して大理石の床を赤く染めていた。
 その悪夢のような光景を、アルメメイトとレイモンドは唾を飲むのも忘れ、驚愕の表情で見つめていた。そこに駆けつけた第二陣の兵士達も、そこにある戦慄の光景に息を飲み、一瞬、銃を構えるのを忘れているほどだった。
 ローブの男は、そこで刀を振り、刃についた血糊を払うと、被っていたローブを脱ぎ、顔を露わにした。
 目の覚めるような金髪に、緑の瞳。幼さの残る顔立ちで、青年と言うより少年と言っても良いぐらいだった。深い紫色のコンバットスーツを身にまとい、左の肩当てに剣の柄と天秤をかたどった紋章が描かれている。腰のベルトには手に下げている刀の鞘を差し、右手には、赤い不思議な光を放つ宝石の埋め込まれた、少し大きめの銀色の腕輪を嵌めている。
「こんなんで、俺を殺れると思った? まぁ、顔隠してたし、無理もないかもね」
 そう言う青年に、アルメメイトは引きつった声で喚いた。
「き、貴様何者だっ!」
「えっ? 知らないの? ―――マジでちょっとショック。しかたねぇか、まだ【ロード】じゃねえしな」
 【ロード】
 その言葉に、いち早くレイモンドが反応した。そして彼の肩当てにある紋章を見て目を見張った。
「剣に天秤の紋章―――【暁の騎士】お、お前は【ナイト】なのか?」
「おっ、良いねぇ、その反応。オッサン、あんた命は取らないよ。いかにも、俺は【ナイト】。ロード・時貞の【ツヴァイ】(二番弟子)にして、将来有望な【ロード】候補のライトマン・ブラフォード。別名『疾風のライト』とは俺のことさ」
 その言葉を聞いて、兵士達がどよめいた。
「【ナイト】だって!? 」
「俺初めて見た」
「弾が当たらないって噂は、本当だったんだ」
 その兵士達の言葉に、ライトは気をよくした。その兵士達の動揺にアルメメイトは活を入れる。
「【ナイト】と言っても高名な【ロード】ではない。たかが弟子、しかも見ればまだガキではないかっ! 数で押せば何とかなる。こやつを殺せば恩賞は思いのままぞ!」
 滅びかけた国の恩賞がどれほどのものか疑問ではあったが、【ナイト】を倒すと言う言葉は兵士達には甘美な媚薬の効果があったらしい。
「確かにまだガキだぜ、みんなでやれば何とかなるんじゃないか? 」
「この先よぉ、傭兵になったって、【ナイト】を殺ったっていったらハクが付くってもんだろ」
「お前等マジ? マジ殺っちゃう? 」
 口々に好き勝手を言う兵士達の言葉に、ライトは苛立ちを憶えた。
「あのねぇ、お前等が変に妄想膨らますのは勝手だけど、本人に聞こえないようにやってくんない? ムカつくから」
 ライトはそう言うと、刀を後ろ手に構え、精神を集中する。刀の刃が仄かに青白く輝き出す。それに気付いた兵士達が、銃を構え引き金を引こうとした瞬間
「遅せぇよっ!」
 ライトが言い放つと共に、振り抜かれた刀から、不可視のエネルギーが放出され、床の大理石をまくりながら、兵士達の一団に炸裂した。30人ほどがミンチになって、まくれ上がった床の上に崩れ落ちていった。
「アレ? おっかしいな〜 旋風剣のつもりが仁王剣になっちゃった」
 自分が思っていたのと違う結果に、唇を尖らせながら悪態を付き、後方に控える兵士達の群れを見据えながら刀を構える。
「まっ、いっか。結果オーライ。次は何奴だ? 遠慮せずに掛かってこいよ」
 そう言ってライトは兵士達を挑発するが、今の光景を見た兵士達は尻込みをする。防弾効果のあるボディースーツを着ていても、それが全く役に立たずに細切れにされていく状況を目の当たりにしたのだから無理もない。
「なんだよ、もう終わり? 根性ねぇなぁ」
 そう言ってライトは、無防備な格好で前に進む。そこに、尻込みする兵士達の後方から、数人の兵士達が躍り出てライトを取り囲んだ。
「おっ、今度は何、何? 」
 ライトは余裕の表情でそれを眺める。
 すると兵士の一団から、少し長めのライフルを携えた兵士が躍り出て、ライトに向けてライフルを構えた。
「言っとくが、俺に銃は効かねぇぜ」
 刀を肩に預けたまま、ライトはライフルを構えた兵士にそう声を掛けた。
「毎分二、三百発程度のフルオートでさえかすりもしないんだ。その銃、どう見たってロングレンジライフルだろ? 無理無理〜♪」
「どうだかな―――」
 そう言って兵士は、なんと天井に向かって発泡した。弾丸は天井に当たる前に、瞬時に弾け、周囲に蜘蛛の巣のような網が広がったかと思うと、ライトの上に降り注いだ。
「うわっ、なんだこりゃ!? 」
 瞬時に判断して脱出を図れば、ライトのスピードなら十分に抜け出せたのだが、余裕をぶっこいていて、さらに完全に意表を突かれたので、為す術もなく網に掛かった訳だ。そして先ほどライトの周囲に散った兵士がすぐさま網の先端を床に縫う。
「うっわぁ、ちっきしょ〜! オイコラ! 放せよ卑怯もんっ! 」
 もがきながら刀を振るうが、特殊なコーティングを施してあり、またライトはうつぶせに床に押さえられているせいで、体勢が悪く振るおうとする刀に力が入らない。文字通り床に縫われた格好だった。
「強獣捕獲用の特殊鋼線ワイヤーだ。こんなにうまくいくとは思わなかったが、獣は網に限る。【ナイト】ってのは意外におつむが足りないんだな」
 ライフルを構えた兵士が、そう言って笑うと、それまで腰の引けていた兵士達もつられて笑い、いつしかアルメメイトやレイモンドまで笑っていた。
「良くやった、さすがは我が精鋭だ。褒めて使わす」
 そう言って上機嫌なアルメメイトは、その兵士にねぎらいの言葉をかけた。
「ちっくしょーっ、ドジった。ムカつく〜 こうなったら【術式】で―――」
 床に貼り付けられながら、ライトは目を閉じ、精神統一を図る。
『ちょい待ち。ライト、それ反則』
 どこからか声が聞こえた。
「えっ?」
 ライトが声に反応した刹那、兵士達がバタバタと倒れていく。そして一通り兵士達が床に伏したところで、ライトを拘束していた網がちぎられ、ライトが立ち上がった。アルメメイトとクレモンドはその光景を呆然と見守っていた。
「ったく、オメーはいつだってツメが甘ぇんだよ、ライト」
 その声と共に、拘束から解放されたライトの前に、まるで沸いて出たかのように、一人の男が姿を現した。
 ライトの着ているコンバットスーツとよく似た服で、同じく左の肩当てに剣と天秤のマーク。右腕に数個の宝石が埋め込まれた金の腕輪を嵌め、両手には、ライトの物によく似た二振りの刀を下げている。しかし、片方の刀は柄から刃の先端まで真っ黒で、まるで影から抜き出してきたような色である。髪は黒の長髪、面長な顔の作りで、少々ずり落ちた丸いサングラスがよく似合っていた。
「油断大敵火事ボーボーってヤツ。おまけにさっきの『なんちゃって仁王剣』、俺ゃ悲しいよホント。【ナイト】失格もんだぜ、まじで」
 長髪の男は、そう言いながら両手の刀一振りして、流れるような動作で腰の鞘に戻す。
「師匠ぅ、なんで? 」
「おめぇだけじゃ心配だったからよ、オプカル(オプティカルカモフラージュ)でこっそり後を付けてきたって訳よ」
 そう言って男は、ずれたサングラスを戻すと、ポケットから煙草を取り出し、慣れた手つきで火を付けた。
「あ〜うめぇ。そんでライト、おめぇあれほど【術式】は使うなって言ってあったろう? アクの大将も『城は無傷で』ってあれほど言ってたじゃねぇか、あん? 」
 長髪の男はそう言いながらライトに詰め寄った。
「い、いや、師匠、これはその成り行きってヤツでして、その…… 」
「ノンノン、言い訳はナッシング。聞きたくないねぇ」
 必至に言い訳をするライトの言葉を、そう言ってシャットアウトし、肺いっぱいに吸い込んだ紫煙をライトの顔に吹きかける。ライトは目をしかめながら片手を振って煙を散らした。
「き、貴様、何者だ! どこから沸いて出たのだ!? 」
 ここでやっとアルメメイトは割ってはいることが出来た。一連の流れに思考が追いついておらず、またこの二人の、完全に場違いな口調に、今まで取り残されていたのだった。 その言葉に長髪の男は玉座に向かって頭を下げ、こう言った。
「これはこれは、陛下、お初にお目に掛かります。私は【ナイト】の時貞【トキサダ】と申します。この度は弟子が大変無礼をぶっこきまして、申し訳ございませんです、ハイ」
 少々ふざけたしゃべり方に聞こえるが、彼、時貞にとってはかなりの気を使ったしゃべり方であった。彼は元々大陸の西の方出身で、訛りが非道く、気を付けていないと訛りが激しくてよくわからないと言う弱点があった。
「それで――― 先ほど我が不肖の弟子が、メサー方面軍最高司令官、アクテリオ大将の通告電文を持ってきたと思うのですが――― ご返答は? 」
 まるで、ショッピングストアの店員に「これ、いくら? 」と聞いている時のような気軽い口調で、時貞は聞いた。吐き出す紫煙が、丸いサングラスのレンズに白い煙の筋を映り込ませている。
「余の答えはとうに出ておる。こうなったら徹底抗戦だ。この首都が灰燼に帰そうとも、我らメサーの意地を見せてやるわっ! 」
 アルメメイトがそう言い放つと、騒ぎを聞き駆けつけた武装兵士が、先ほどに倍する数で広間に殺到し、ライトと時貞を取り囲む。先ほどライトを捕獲した『網』を打ち出すライフルや、大型の対機甲連射砲を構える兵士もいる。
「おいおい、建物の中で使う物じゃねぇだろう? 城吹っ飛ばす気かよ。 自分らの王様、そこに居るんだぜ? 」
 ライトが呆れて言う。だが、そこへ場違いな拍手がこだまする。
「いやいや、見上げたお覚悟ですわ。私、感服いたしましたよ、ホント」
 煙草を口にくわえ、拍手をしながら時貞が言った。何処か人を小馬鹿にした仕草だったが、本人は至って真面目で、本当に感じ入っていたのである。だが、その仕草にアルメメイトはかんに障ったのか、さらに声を荒げる。
「まずはお前達の首を上げて、我らの覚悟を見せてくれる。いかに【ナイト】とはいえ、たった二人で何が出来ると申すのだ。此処は城ぞ? まだまだ兵はおる。貴様等、生きて帰れと思うなよっ! 」
 その脅し文句と、居並ぶ兵士達の数に少しも動揺せず、時貞は口元の煙草を指で挟むと、ゆっくりとした動作で床に灰を落とした。
「陛下のご返答、確かに承りました。ライト、準備はOK? 」
「いつでもどうぞ、師匠」
 そう答えながら、ライトは刀を構える。その動きに、周囲を取り囲んでいた兵士達も揃って一歩後ずさり、銃を構え直す。
 時貞はもう一度煙草を口にくわえ、腰の刀に両手を添えた。次の瞬間、広間に一陣の風が吹き荒れた。凄惨という赤い色を添えて――― 



第2話  メサー滅亡

 「なっ―――!!」
 アルメメイトは次の言葉を紡ぐことが出来なかった。今眼下に広がっている光景を信じることが出来ないでいる。そして脳が起こった現実を理解するきっかけとなったのが、鼻先に突きつけられた刃先から臭う血の臭いだった。真っ青な顔で視線を刃がたどり、ゆっくりと刀の持ち主の顔を見上げる。
 口元に、崩れそうな灰を残した煙草をくわえ、サングラスのレンズに紫煙を映り込ませた時貞の顔があった。
 今さっき話していた時に吸っていた煙草が、先ほどより数センチ短くなっている。それから考えれば時間にして十秒ほど。だがその十秒ほどの間で、広間の様相は一転していた。
 アルメメイトは刀の刃先を突きつけられながら、視線だけを時貞の後ろに移す。
 彼の後ろには、刀を肩に持たせたライトの姿が見える。そしてその周りには、白かったはずの大理石が赤く染まり、そこら中に兵士達の『残骸』が散らばっている。
「―――そ、そんな、馬鹿な!? 」
 硬直したアルメメイトが、ようやく絞り出した言葉は、陳腐な決まり文句だった。
「お、思い出した。『紫煙のロード、影刃の時貞』……ロードナイトの一人」
 アルメメイトの横で、腰が抜けて動けなくなっていたレイモンドがそう呟いた。
 そこへ、横の窓からなにやら騒がしい音が聞こえてきた。ライトは、散らばっている兵士達の残骸を器用に避けて窓の脇まで行き、外を覗き込んだ。
「師匠、首都住民が門を空けて逃げていってます。あ〜あ、軍の兵士もいるぜ」
 ライトはそう言いながら刀を仕舞い、窓から町を眺めていた。
 見ると都を囲う城壁の門は全て開け放たれ、荷物を抱えた住民達が戦火を被るのを恐れて避難を始めていた。城門を守る軍との衝突も多少あったようだが、膨大な数の避難住民の数に圧倒され、また城壁から見た首都を取り囲む敵軍の数を目の当たりにし、怖じ気づいてしまった兵士達の多くも、武器を捨て住民達の避難の群れに加わる始末になっていた。
「な、何故じゃ。何故都を捨て、出ていくのじゃ? 」
「さっきの陛下の覚悟は、国民には伝わらなかったようです。かっこよかったんですがねぇ。でもまぁ、『盾にしよう』なんて思っていたんだから、自業自得と言えばそれまででしょう。文句を言える筋ではありませんよねぇ」
 時貞はそう言って刀を仕舞った。キンっという鍔の閉じる音と同時に、アルメメイトは、まるで糸が切れた操り人形のように玉座から崩れ落ち、床に膝をついた。
「余はな…… 少しでも国を良くしようと――― 【ロードナイト】よ、余は何を間違えたのだろうか? 」
 疲れ切った表情で、アルメメイトは時貞に聞いた。
「さぁ、私にはわかりません。しかし、そういう疑問に自分なりの答えを導き出すのも、また国を治める者の『責任』ではないでしょうか」
 時貞はそう優しく声をかけ、煙草を指でもみ消した。
「責任か、そうだな―――」
 そう言いながらアルメメイトは、玉座の肘掛けにもたれ掛かりながら立ち上がった。
「では、余は最後の『勤め』を果たすとしよう。それまで、何人も立ち入らぬ時間を、余に与えてはくれぬか? 」
 その言葉に、時貞はずれたサングラスを指で戻し、片膝を付いて深々とお辞儀をした。
「我が称号【ロード】の名において、陛下のお勤めを妨げぬ様、お誓いいたします」
 先ほどのふざけた口調とは一変した、王族に対しての礼を尽くした答えに、アルメメイト3世は大きく頷いた。そして、傍らに座り込んでいたレイモンドに声を掛ける。
「レイモンド、今まで良く仕えてくれた。礼を申す」
「へ、陛下っ」
 レイモンドは雷に打たれたように跳ね起き、膝を突いて王の前に控える。
「お前の言う通り、余の血筋と民があれば、再興の希望は持てよう。だがそれは余の役目ではない。余はどうしても【碧皇】に膝を折ることは出来そうにない。余の子等が再興を望むならそれも良かろう」
 アルメメイトは、まるで憑き物が落ちたような穏和な表情になっていた。先ほどの声を荒げ、取り乱した様子は微塵も感じさせない態度で静かに続ける。
「王など、責任ばかりで、つまらん物なのだが、その時は、お前の力を貸してやってはくれまいか? 」
 そう言うアルメメイトは、心なしか少し縮んだ様に見えた。
「はっ…… ふ、不肖レイモンド、しかとお受けいたします」
 レイモンドはそう王に誓い、さらに低頭して目をつむった。その姿にアルメメイト三世は「うむ」と満足げに頷くと、玉座の裏にある扉の奥へと消えていった。
「良いんですか、師匠? 国元がまたうるさいッスよ」
 窓辺から離れ、隣まで来ていたライトが時貞にそう聞いた。
「ああ、だがよぅ、ああ言われて、おめぇ断れるか? それに仮にも一国の王様だ。最後くらいは支配者らしく、かっこつけさせてやろうや」
 そう言うと時貞はまた煙草を取り出し火を付けた。そして大きく吸い込んだ煙を、上に向けて吐き出すと、血溜まりが広がる広間を後にする。ライトはもう一度玉座の方を見た。そこには、扉の向こうに消えた主に、尚も頭を垂れるレイモンドの姿があった。
「国を興すのも王なら、幕を引くのも王の仕事。なんだかなぁ。民衆にとっては、明日から仰ぐてっぺんが変わるだけ。王様って何なんだろう」
 そう呟きながら、ライトは振り向き、小走りに師匠の後を追った。辺りに漂う血の臭いに、仄かに含まれた煙草の臭いが、ライトの鼻をくすぐる。その饐えた臭いに、どことなく空しさを感じたライトだった。

 
 広大なイズモ大陸の西部地方、大小合わせて十二カ国からなるこの地域は『西域』と呼ばれる。この西域は、もう半世紀もの間、国家間の戦争が相次ぎ、長い動乱期が続いていた。そんな中、この西域の最も東に位置するグラード教和国が『西域統一』に乗り出す事を周辺諸国に宣言。長い動乱を収めるべく諸外国に宣戦布告したのである。
 元々、国土も大きくなく、それほど大きな力を持った国では無かったが、周辺諸国より居一歩進んだ発達した科学力を有し、それによって整備された軍事力を持って、宣言からわずか三年あまりで周辺五カ国をその手中に収めた。それまで長い間沈黙を守っていた国だっただけに、当初は『辺境の弱小国』と侮っていた列強の国々も、その力に驚きを隠せなかった。そして今また南の大国であるメサー国をその支配下に納めようとしており、グラード教和国は列強国の仲間入りを果たしたばかりか、西域統一の有力国として注目されることとなるのである。
 グラード教和国には、その発達した科学力と軍事力もさることながら、『ナイト』と呼ばれる非常に強力な戦闘集団が助力しており、破竹の快進撃を続けられる背景には、この『ナイト』の活躍による物も大きかった。高々千人に満たない集団だったが、ナイト個人の戦闘力は凄まじく、特にその中でも最高称号を持つ【ロード】と呼ばれる者たちは桁外れな強さを見せ、赴く先々で自軍に勝利をもたらす戦神として、生きながら半ば『伝説』と化し、自軍の兵士からは英雄として称えられ、逆に敵の兵士からは恐怖の対象として恐れられ、その存在を広めていったのである。
 『ナイト』は本来、どの国にも属さない完全な自主独立集団だったが、先々代のグラード教和国国主、グラード四世との友誼から、グラード教和国内に安住の地をもらう代わりに教和国の守護者としての役割を引き受ける約束を交わし、以来二百年もの間グラード教和国の守ってきたのである。今まで『ナイト』は完全に教和国防衛に徹してきたのだが、長きにわたる西域動乱で犠牲になる民や自然を憂い、『安心して暮らせる世界の構築』という現グラード教和国国主、グラード六世の理想に賛同し、一刻も早く『西域統一』を果たすために戦争に軍事介入する事になった。
 それは、彼ら『ナイト』が目的とする、万物【エーテル】のバランスが取れた理想郷、天都【リ・マリュウ】を実現させる近道と判断した結果であったのだが―――


 王都ドレーズが落ちた。この知らせは、すぐさま包囲していたグラード教和国軍の司令部にいた、メサー方面軍最高司令官アクテリオ大将の元にもたらされた。アクテリオはすぐさま軍を王都内に進ませ、自ら王国府に赴いた。
 アクテリオが、王国府に入城した時には、すでに国王であるアルメメイト三世は服毒自殺を図っており、詳細は近くに控えていた宰相、レイモンドの報告で明らかとなった。
 アクテリオは、王族以下、主立った国政の要職にあった物達の身柄を拘束し、本国に護送する手配を取った後、それ以外の貴族には武装解除させて自宅に謹慎させるに留めた。
 避難していた住民に対しては、副官のリゼル大佐に命じ、軍による暴行や略奪を一切行わない事を約束した上で都に戻るよう説得した。司令官であるアクテリオは、平民出の軍人で、ことのほか非戦闘員、しかも弱者には手厚いと各国に知れ渡っており、そのこともあってか、住民達はその言葉を信じ、素直に王都に戻っていった。
 さらに、占領した王宮を開放し、避難の際に怪我をした者や、病人を集め手当を行ったり、商人達を監視し、混乱に乗じた物資の便乗値上げを厳しく取り締まるなどの、住民保護の手厚い占領政策をいち早く実施したおかげで、王都での大きな混乱は起きなかったのである。
 また、元々あった王都警備隊を、占領軍の監視下の元で復職させ、都の警備に当てたおかげで、占領下での都の治安を回復させた。これは土地勘のない自国の兵士達が警備するよりも遙かに効率が良く、また、いわいる『よそ者』が都を取り締まる事で起こるであろう『住民の反発心』を抑制する効果があった。これにより、占領直後の都では異例の事件発生率となった。軍事面だけでなく、政策でも手腕を発揮するアクテリオだった。
 敗戦ですぐにでも虜囚のような生活が始まるのでは、と恐々としていた都民達はひとまず安堵したのである。


「もう行くのか? 」
 接収した王国府の執務室で、アクテリオは書類へのサインの手を止め、コート姿で正面に立つ長髪の男に声をかけた。
「ええ、テンプルへの報告もあるんでね」
 そう言ってコートのポケットから煙草を取り出した。
「ここ、禁煙だぞ」
「えっ? そうなの」
 アクテリオの言葉に、時貞は渋々と言った様子でくわえかけた煙草を戻した。
「お前達【ナイト】のおかげで、ほぼ無血占領に近かった。礼を言わせて貰おう」
 そう言ってアクテリオは、時貞に頭を下げた。折り目の付いた、真面目な軍人であるアクテリオらしい低頭だった。
「血は流れたよ。それに、アルメメイト陛下を止められなかった。礼を言われるほど働いちゃいない」
 そう言って時貞はサングラスを直し、横にある窓から外を眺めた。そこからは本来なら、見事な中庭が見えるのだが、今では何個もの野営用テントが建ち並び、優美な景色を覆い隠していた。
「『止められなかった』か――― 確かに音に聞こえた【ロード】にしては、少々疑問が残る手際だったかもしれんな。相変わらず不思議な男だな、お前は」
 そのアクテリオの言葉に、時貞の答えはなかった。
「まあ良いさ。それで、出発の挨拶に来たのか? 」
「一応、最高司令官殿には、報告をと思ってね」
「フッ、よく言う。お前達【ナイト】は軍に属している訳ではない。私の管轄外だ。軍から『要請』はできても、行動の『強制』や『監視』はできん。それがわかってての皮肉のつもりか? 」
 アクテリオはペンを置き、背もたれに体を預けながらそう言った。
「ははっ、いやね、実は帰る前に旧友の顔を見に来たのよ。連戦の心労で疲れが溜まってる窶れた顔をね」
 口元を歪ませながら外を眺めつつ、時貞はそう言った。
「なに、まだ大丈夫さ。心労が溜まるような歳じゃない。それよりお前の方こそ疲れてるんじゃないのか? ザクセ要塞戦から引き続いてだろう? 占領からまだ三日しか経ってないんだ。もう少しゆっくりしたって咎められやしないだろう」
 その声を背中に、時貞はコートのポケットに手を突っ込んで、ドアの方に歩いていった。
「【ナイト】はそんなに柔な体じゃない。たとえ敵国でも、国が無くなるのを見るのが嫌なのさ」
 そう言って時貞は執務室を後にした。残されたアクテリオは、また先ほど中断した書類のサインを再開しようとペンを取り、サインを書きかけてふと手を止めた。
「国が無くなるのを見るのは嫌――― か、あいつ……」
 その旧友の言葉を、アクテリオはもう一度呟き、物思いにふけったのだった。
 執務室を後にした時貞が、廊下の角を曲がると、向こうからライトがやって来た。
「師匠、ヘリの準備ができました。いつでも出発出来ます」
 時貞と同じく、紺色のコートに身を包んだライトが、そう時貞に告げた。
「師匠、もう行くんスカ? 俺もうちょっとゆっくりしたかったなぁ」
 時貞の隣まで来たライトが不満そうに呟いた。そう言って口をとがらすライトの顔は、まだ何処か幼さを残していた。
「ドレーズが落ちたからって戦争が終わったわけじゃねえ。この戦争で【ナイト】の数も激減してるのはおめぇも知ってるだろ。どこも人手不足なんだよ。場合によっちゃロード弥勒の方にも手ぇ貸すようかもな。先月の戦闘で奴ぁ弟子二人亡くしてるし」
「メイパルじゃ激戦が続いてるって聞くもんなぁ。あっ、でも師匠、カズ兄ぃはどうするんです? 」
「カズイなら大丈夫だろ、【リ・ナイト】(家弟子)も数人連れてるしよ」
 カズイとは時貞の一番弟子【アイン】で、ライトの兄弟子だった。
 ナイトは最高位であるロードになると、弟子を持つことが許される。ロードが直に鍛える弟子を【ガル・ナイト】(直弟子)と呼び、彼らナイトの本部である『ナイトテンプル』にて育成されたナイトを【リ・ナイト】(家弟子)と呼んだ。
 ガル・ナイトは、ロードによってリ・ナイトから選ばれるのが常であったが、希にロード自身が、見つけてきた素質のある子供を直々に鍛えて弟子にすることもあり、カズイもライトも、戦災孤児だったのを時貞に拾われ、ガル・ナイトとなったのである。
 カズイは現在二人とは別行動で任務に就いていた。
「おめぇと違ってアイツはクソ真面目だ。そして何より強い。アイツの実力は俺達ロードに匹敵する。いや、ひょっとしたら俺より強ぇんじゃねえか? 」
「ちょっと師匠、そりゃ確かにカズ兄は強ぇッスけど…… 」
「いやいや、手合っても三本に一本は確実にアイツが取る。今じゃ互角か、気ぃ抜いたら食われるかもな」
「マジでっ!? すっげえ! もうカズ兄ロードになれんじゃないッスカ! 」
 ライトは興奮気味に時貞に言った。カズイはライトにとって本当の兄の様な存在であった。血反吐を吐くナイトの修行でも、カズイがいたからこそライトは頑張れたと思っている。カズイはいつも三つ下のライトを助け、優しく、そして強かった。常にライトの前を歩き、決して越えられない壁として存在していた。それがライトから見た兄弟子、カズイであった。ライトはカズイを目標とし、また尊敬していた。そんなライトだけに、カズイがロードになるかも知れないと思うと、悔しい気持ちよりも嬉しく、何処か誇らしい気持ちで、まるで自分のことのように嬉しかった。
「そりゃぁ、無理だな。俺の弟子である限り」
 と、興奮気味のライトに時貞が水を差す。「なぜ?」と不思議そうな視線で時貞を見るライトを後ろに、屋上に向かうエレベーターに乗り込み、ボタンを押して壁に背中を預けながら、時貞が答えた。
「俺がロードになったのは、二十五ん時だ。師として、あっさりと弟子に抜かれたら格好悪いでしょうが。だ〜か〜ら推薦しね〜の♪ わははっ」
 そう言って笑う時貞を見ながら、ライトはため息をつく。
「―――それ冗談に聞こえねぇって」

 屋上では、すでにヘリのローターが回転しており、ライトの言う通りいつでも飛び立てる状態だった。時貞とライトがヘリに近づくと、脇に立っていた若い兵士が二人に敬礼してきた。
「俺達は上官じゃないんだ。敬礼なんて必要ないさ」
 時貞がそう声をかけるが、若い兵士は敬礼を止めようとしなかった。
「はっ、ありがとうございます。ですが自分にとって、【ナイト】は憧れであります」
 そう言って若い兵士は、後ろにいるライトにまで敬礼する。
「なんだかなぁ」
 時貞は、ローターが巻き起こす風に、乱れた長髪をうっとうしそうにかき上げながら、呆れた顔でヘリに乗り込んだ。一方、敬礼されたライトは、嬉しそうに満足げな顔で「まぁ、そう緊張せずに」と、偉そうに兵士の肩を叩いてから、ヘリに乗り込んでいった。ヘリに乗り込み、ハッチを閉めた事で多少静かになったが、耳障りなエンジン音が鳴っていて、時貞はこれから数時間この音につき合わされるのかとうんざりしていた。するとコックピットの副操縦士が振り向き、声を掛けてきた。
「離陸します。揺れますので、掴まっていてください」
「了解だ」
 時貞は片手を上げて、その声に答える。程なくしてグラッと揺れると、足下にあった接地感が消え、ヘリが離陸していった。 
2007/10/16(Tue)19:40:09 公開 / 鋏屋
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■作者からのメッセージ
どうも、鋏屋でございます。読んでくださった方、ありがとうございます。
ずいぶんゆっくりな更新になってしまってます。いや、ファンタジーは設定を考え、それを読者に伝えるのがこんなに難しいのかぁ と今更ながら思ってしまいました。文章にすると何だか安っぽくなってしまう気がする。ファンタジーでポイント取ってる方は凄いなぁ。
ともあれ、2話更新です。まだ世界観が触り程度にしか掴めないと思いますが、感想などをいただけると嬉しい限りでございます。ライフルやヘリなどの現代の単語が出てきますが、全くの別世界です。そのなかで、剣や肉体、さらには魔法じみた【術式】なる物を駆使して戦う【ナイト】と呼ばれる人間達。なるたけ読んでくださる方が混乱しないよう気を付けていこうと思ってます。
鋏屋でした。
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