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『源五郎丸義経伝記 〜ニーソックス編〜』 作者:神夜 / 未分類 未分類
全角18608文字
容量37216 bytes
原稿用紙約53.9枚
「自動販売機の中には」の番外編。ニーソフェチの私の下に、集え同士よ。
 




     「源五郎丸義経伝記 〜ニーソックス編〜」



 一つ、断言しておく。
 私は別に変態ではない。
 それだけはわかって欲しい。そしてそれを踏まえた上で、私の自論を聞いて欲しい。
 つまり、人にはフェチってもんがあると思う。それは人によってそれぞれだ。匂いフェチだったり尻フェチだったり、胸フェチだったり足フェチだったり指フェチだったり、いろいろあるはずだ。人の数だけそれはある、と私は思う。だから私は、どんなフェチだろうとそれが間違いであるとは思わない。ゆえに、人のフェチに対して難癖つける輩は許せないのだ。むしろ自分のフェチを認めて公言しない馬鹿など、人生の半分は損していると言っても過言ではないのと私は考えている。
 それを踏まえた上で考えて欲しい。
 そして理解して欲しい。
 フェチ=変態では決してない。
 心をオープンにして、言ってみようじゃあないか。
 君たちは一体、何フェチなのか、と。
 勇気がないのなら私が先陣を切ろうじゃないか。これは恥ではない、我等にとっての大切な一歩なのだ。
 刻み込もう。体に着せた「羞恥心」など剥ぎ捨てて、裸の自分を曝け出そうではないか。
 私は言おう。心から、この世界中に叫ぼう。
 私、久居久雄(ひさいひさお)37歳独身は、ニーソックスフェチである、と。
 ――うん。ニーソ好きなんだ。そりゃもうすげえ好きなんだよ実際。好き過ぎて毎日のように繁華街に出て道路の端にあるベンチに座り込み、新聞を読むフリをしながら行き交う人々に目を凝らし、ミニスカにニーソを穿いてる娘っ子をそりゃもう赤子のような無垢な瞳で発見しては、菩薩のような大らかな視線で見守り続けている。これはもうどうすることもできない私の日課である。ミニスカとニーソのコラボレーションはある種最強ではないかと思う。巷ではミニスカとニーソの間に見えるふとももを絶対領域なんて言っているらしいが、何が絶対領域だ笑わせる、そんな訳のわからん名前をつけて価値を下げる馬鹿共の気が知れない。あれは言葉では言い表せない、素晴らしい領域なのだ。高々人間風情がそこへ立ち入るなど恐れ多いのだ。加えるのであれば、ニーソを穿けるのは、神に選ばれた娘だけなのだ。神に選ばれた娘は独特のオーラを放つ。私はそのオーラを感知する能力を、屈折37年でようやく会得した。オーラを発する娘の存在の接近は恐らく、500メートル離れていても感知できる。それほどまでにニーソとは神々しいものであって、一般ピーポーが気軽に穿いていい代物では、
 ――嗚呼。すまない悪い癖だ。話を戻そう。
 とにかく私はニーソフェチである。
 ゆえに毎日毎日、道路の端にあるベンチに座り込んで、オーラを放つ娘っ子、つまりはニーソっ子を赤子のような無垢な瞳で発見しては、菩薩のような大らかな視線で見守ってる。仕事はしていない。だがそれにはもちろん理由がある。俗に言うニートでは決してない。あれは私が十歳の頃、両親が交通事故で他界してしまったのだ。非常に不幸なことだ。私の手元に残ったのは、両親の骨と、一人では広い一軒家と、そして、莫大な遺産だった。十歳の私にはその額の多さがわからなかったが、歳を取るにつれてその莫大さがわかるようになり、金欲しさに寄って来る親族共を蹴散らし、一人で生きて行こうと決めて飛び出したのが18の夏である。それからはひもじくひもじく生活し、両親の残してくれた遺産を糧に、ひっそりと生活していた。
 それが功を成し、今現在、私久居久雄の全財産、約2億。
 ウハウハである。この歳で何もしてないのに2億持ってりゃ、そりゃもう勝ち組街道まっしぐらであろう。
 働くのも馬鹿臭い。だから私は、こうして毎日毎日、選ばれしニーソっ子たちを見守る生活をしているのだ。
 しかし時には見守るだけではない。ニーソっ子に痴漢を働く輩を捕まえたりもする素晴らしい男であるのだ、私は。この前など、ニーソっ子が盗撮されそうになっていたところに私が颯爽と乱入し、その男を取り押さえることに成功したのだ。したのだが、取り押さえた瞬間に右ストレートで返り討ちに遭い、そのままニーソっ子に倒れ込んでしまい、まるで漫画のようにあろうことかその美少女ニーソっ子の乳を思いっきり揉みしだき、イメケンのお兄ちゃんにボコボコに殴り倒された後、警察に連れて行かれた。結果的に私は捕まってしまったのだが、あのニーソっ子の卑猥な写真がネットで世に回らなかったことは良しとしよう。私は影のヒーローでいいのだ。ニーソっ子たちがのびのびと歩ければ、それだけでいいのだ。私はそれ以上のことを、何も望みはしない。しかしあの時の感触が未だに忘れられない。あれはいい思い出だ。
 そして今日も私は、いつもと同じ場所で、いつもと同じように、ニーソっ子を見守っている。
 そんな折、ふと邪な気配が私の脳裏を掠めた。これは痴漢の気配である。
 私は新聞から視線を上げ、鷹のような鋭い眼で気配の出所を探る。
 出所を突き止めて警戒し、痴漢が行動に移したら即御用である。押さえ込んでボコボコにした後、相手の腕を捻りながら立ち上がり、ニーソっ子に向って爽やかな笑顔で「もう安心だお嬢さん。こいつは私がこらしめておくから(キュピーン)」と言い放ち、立ち去ろうとするとニーソっ子は言うのだ、「あのっ。どこの何方か存じませんが、本当にありがとうございましたっ。よければお名前を……!」、尊敬の眼差しでこちらを見つめるニーソっ子に、私はもう一度爽やかな笑顔を向ける、「いいえ、私は当然のことをしたまでですよ。気にしないでください。それでは(キラーン)」、しかしニーソっ子は引かない、「そんな訳にはいきませんっ。お礼くらいはさせてくださいっ!」、私は罪深き男である、また一人、このニーソっ子の心を奪ってしまった、「……わかりました。ではまた、この場所でお逢いできたのならば、お付き合いしましょう。もう一度ここで出逢えるときがあるとすれば、それは……」、ここで決め台詞、「――それは、運命ですから」、ニーソっ子はもう私の笑顔を忘れることができない、「ああ、なんて素敵な人」、頬を紅くして私の背中を見つめるニーソっ子、もう何もかも運命だ、ふひひ、いひひひひひひひ、くひひひひひひひひひひ。
 おっといかん、妄想はここまでだ。ここからは、妄想を現実に変える時間だ。
 さあ来い愚かしき痴漢よ、この私が成敗してくれる。
 視線をゆっくりと動かして、邪な気配を辿る。
 そして私はそこに、変なものを見る。
「……なんだ、あれは……?」
 なんて不思議な光景だろう。
 私の見ているあれは、果たして現実なのだろうか。
 人が休みなく行き交う繁華街。所々剥げたレンガ造りの道路。今日一日で一体何人の人がそこを通ったのかもわからない。人は前を見ているだけで、誰一人として下を見ようともしない。それもそうだろう、こんななんの変哲もない道路を見ても何も得るものなんてないのだ。しかし今だけは、視線を下に向けてみる。次から次へと人々の足が流れ、レンガの隙間を縫って生えた雑草は幾重にも渡り踏み潰され、しかし決して挫けることなく真っ直ぐに伸びようと懸命に頑張っている。その横で誰が捨てたのか、まだ火が消えきらない煙草が最後の狼煙を上げており、蟻が何かを運んでいる。そんな何の変哲もない風景の中に一つ、決定的な間違いが存在する。
 私が感知したニーソっ子が歩いて来る。
 ミニスカとニーソのコラボレーションだ。最強だ。おまけに今まで見てきた中でも特に美少女だ。神童と言っても過言ではないかもしれない。痴漢が手を出したくなるのもわかる。私だって手を出したいくらいの上物だ。しかし今はそんなことをほじゃほじゃ言っている場合ではない。邪な気配を醸し出しているのは、間違いなくあれだ。あれなのだが、どうするべきなんだ私は。
 ミニスカ、つまりはミニスカートである。横から見ている分には、風などが起こらない限りまず中を見られることはないだろう。が、ミニスカは案外脆いのだ。少しでも角度が下になればキワドイラインになるし、もうちょっと行けば見える。なら真下から見られている場合、どうなるのか。そりゃ無防備にも程がある。丸見えだ。それこそ世界丸見えだ。私も一度でいいからそのアングルから世界を覗いてみたい。だがそういうプレイでもしない限り、日常生活においてそのアングルから世界を見ることは一生ないであろう。にも関わらず、あれは、さも当然のように、真下から世界を見上げていた。
 ニーソっ子の歩調に小走りでついて行く。
 上を見ながら鼻を伸ばしている。
 離れていてもハアハア言っているのが聞こえる。
 あれはなんだ。一体何なんだ。
 見たままを言うのであればそう。

 ちっちゃいおっさんだ。

 ちっちゃいおっさんがいる。
 思わず叫んだ。
「ちっちゃいおっさんがいるぞっ!!」
 その場にいた全員が、足を止めずに怪訝そうに私の方を見る。
 皆が皆、気持ち悪いと言わんばかりに私を見て、口々にコソコソと何かを言いながら通り過ぎて行く。しかし今の私にはそんなことなど関係ない、何なんだあのちっちゃいおっさんは、おかしい、気づいているのは私だけか、いやそれもそうだろう、普通気づくはずもないのだ、だが私だけは気づいている、そして現にあのちっちゃいおっさんは選ばれし神童、美少女ニーソっ子に痴漢を働いているのだ、あのニーソっ子の危機を救えるのはこの私しかいないのだ、おのれあのちっちゃいおっさん私の声にも気づかずまだハアハア言ってやがる、なんて羨ましじゃない、なんて罰当たりな、この私が成敗してくれるっ、覚悟しろっ!!
 私はあらん限りの声を上げ、ニーソっ子の足元に纏わりつくちっちゃいおっさんに向って突進するっ!!
 人々が私の叫び声(奇声)に道を空ける、今、私は、輝いている!! ニーソっ子のために我が身を危険に晒してまで行動するこの私は、どんな人間よりヒーローに近い存在なのだ!! ふふっ、私は影のヒーローでよかったのに、別に私は何もヒーローになろうなんて思ってないさ、ただ人間として、ニーソを愛する一人として、当然のことをし、気づいたらヒーローになっていただけ、ただそれだけだ、ふひひひっ、もう止まりません止まれませんよおっ!!
 私の勇敢な行動に気づいたニーソっ子が歓喜の声を上げる、ちっちゃいおっさんまで後数センチまで迫った頃になってようやく、そいつは私の存在に勘付いた。ちっちゃいおっさんはそれまでの緩み切った顔を一変させ、恐ろしいほど尖った眼孔で私を捉え、一瞬の内に跳躍しようと足に力を込め、
 ――遅いっ!!
 私の右手がちっちゃいおっさんを捕まえるっ!!
 すべてはスローモーションのような光景。ちっちゃいおっさんと一度だけ、目が会った。
 ちっちゃいおっさんは言った。
 ――ワイの完敗じゃ、玄人。
 私は言い返す、
 ――相手が、悪かったですね。
 私とちっちゃいおっさんは互いを称えるように不敵に笑い、
 気づいたときにはすべてが手遅れだった。
 突っ込んだ勢いが簡単に止まるはずもなく、私はそのままニーソっ子の足に激突する。
 ものすごい衝撃が来た。
 神童だから体重は天使の羽のように軽いのだと信じていたのが私の過ちで、例えどんな美少女でも人間にはそれなりの体重が存在する。スライディングされたかのように足を崩されたニーソっ子は成すすべなく私の上に倒れ込んできて、だが勢いはそれでもなお留まらず、二人揃ってレンガ造りの道路の上を転がった。しかし途中、いつかの憶えのある感触が私の顔を包み込み、それに安心した私は無我夢中にしがみ付いてしまう。やがて勢いが止まったとき、そこにいるのは勇敢なる私と、私に感謝を抱くニーソっ子である。はずだった。
 体勢がまずかった。
 転がった勢いでニーソっ子の衣服が乱れていたことがなおのこと悪かった。
 思いっきり押し倒すような形で馬乗りになっているのは他の誰でもないこの私で、弾みでニーソっ子のシャツは捲れ上がり、露出した乳をブラごと左手で鷲掴みにして顔を埋めているのもこの私で、足を強引に絡めさせてまるでレイプでもするかのような体勢を取っているのももちろんこの私で、極めつけたなぜか私の右手が、いや本当になぜかはわからないのだが、このゴールデンフィンガーが、ニーソっ子のスカートをおもむろに捲っていた。
 騒ぎを見ていた通行人が、唖然と道路に倒れる二人を見つめる。
 混乱していたニーソっ子が状況を理解したとき、盛大なる悲鳴が上がった。

 気づいたら、私は通行人に袋叩きにされていた。

     ◎

 ――あのね、あんたね、舐めてんの? ちっちゃいおっさん? そんなのいるわけないでしょ? 頭おかしいの? もしかして薬でもやってる? いるんだよねー、会社を自分の無能さのせいでリストラされたくせに、社会が悪いんだ、なんつって薬に手出しちゃうあんたみたいな中年。あんたらみたいのがいるからダメなんだよ今の世の中。さっきの子、可哀想に泣いてたじゃないか。あの子もう外を歩けないかもしれない。あんたよりよっぽど未来がある可愛い子じゃないか。あの子がこれから前のように生活できなくなったらどうする気? あんた責任取れんの? それに前にもこんなことをしてただろあんた。いい加減にしないと豚箱にぶち込むよ? いいんだよ、今からぶち込んでも? ねえ聞いてんの? ちょっとねえ?

 警察に散々嫌味を言われた後、私は何とか開放された。
 次同じことをしでかしたら、本当に豚箱行きかもしれない。
 だが私には2億の金がある。示談にさえ持ち込めばこっちのものなのだふへへへへざまあみろ無能な警察め。
 しかし困った。いつも通り、道路の端のベンチに座り込みながら私は思う。
 あのちっちゃいおっさんが、いつの間にかいなくなっていた。
 この右手は確かにあのとき、あのちっちゃいおっさんを捕獲したはずなのだ。なのにこの手には何も残っていない。なぜなんだ。まさかあれは私の勘違いだったとでも言うのか。いやそんなはずはない、あの時感じたあの邪な気配は確かなものだったし、あの妙に生温かい奴の感触も確かにこの手に残っているし、倒れ込む瞬間に交わしたあの視線、あれは間違いなく、互いを認めた者同士が交わせる視線である。
 あのちっちゃいおっさんの存在が気のせいであったとは、どうしても思えなかった。
 あのちっちゃいおっさんは果たして何者であったのか。37年生きてきたが、あんな奇想天外な生き物を、私は見たことがない。好奇心なのだろうか。もう一度、あのちっちゃいおっさんに会ってみたかった。そして、話を聞きたかった。なぜあのニーソっ子に付き纏っていたのか、あのニーソっ子をローアングルで見上げた世界とはどのようなものなのか。私は、どうしてもそれが気になって仕方がなか、じゃないじゃない、なぜあんな破廉恥なことをしていたのか、小一時間問い詰めてやりたいのだ、私は。
 ふと視線を上げると、またしてもニーソっ子が目の前にいる。
 嗚呼、なんて心が穏やかになる瞬間だろう。
 あの黒いニーソは、さながらブラックパールか。ニーソにはいろいろな種類が当然のようにある。縞々ニーソも捨て難いのだが、やはり私は黒一色のニーソが好きである。あのスラリと見えるニーソ、そしてそこから覗くような白いふともも。あのミスマッチのような具合が堪らなく私を昇天させる。あのニーソっ子のニーソとふとももに貪りつければ、我が生涯に一遍の悔いなしだ。
 思わず、私にしては珍しく声が出ていた。
「いいなぁ」
 そんな私の声に共感する声が一つ、
「ええのぉ」
 同士の存在に思わず胸が高鳴る。
「おお、貴方もそう思いますか」
「もちろんや。あのムチムチ感が堪りませんなぁ」
 ここまで合致する同士が近場にいたことに興奮する、
「そうです! いやー貴方わかってらっしゃる!」
「当たり前や。ワイにニーソを語らせたら右に出るモンはおらんぞ」
「むむ。聞き捨てなりませんな。私こそ、この世界で最もニーソを愛する男ですぞ」
「なんやと玄人。ワイに喧嘩売っとんのかいな? 買うぞコラ?」
「物騒なことを言わないで頂きたい! 私は何事も平和に解決することが一番だと思っていますゆえ! そもそも貴方は誰なんですかさっきから!!」
 あまりの横暴さに腹が立って私は声の方を振り返った。
 そこにいたのはちっちゃいおっさんだ。私が座っているベンチの真横に、さも当然のように、ちっちゃいおっさんが座っている。
 ベンチから転げ落ちた、
「うわああああああっ! あんたさっきのちっちゃいおっさん!?」
 ちっちゃいおっさんは不敵に笑う、
「ワイの顔を忘れたんかいな、ライバルよ」
 いつの間にかライバルに認定されていた。ちっとも嬉しくない。
 体格差は圧倒的なのに、今、見下ろしているのは私ではなく、ベンチに座っているちっちゃいおっさんだった。
 奴は、言った。
「ワイの名は源五郎丸義経(げんごろうまるよしつね)。玄人、名は何て言うんや?」
 何なんだこいつは――。
 相手はちっちゃいおっさんである。さっきのように掴んで捻り潰せば、簡単にお陀仏になりそうなひ弱な存在であるはずだ。楽勝である。掴んで捻れば鼻水と内蔵をぶちまけて「ひでぶっ」とかほざいて死ぬに決まっている。ライターくらいの大きさしかないおっさんだ、これほどまでに体格差があるんだ、蟻が熊に決闘を挑むようなものである。にも関わらず、なんだ、これは。ちっちゃいおっさん、源五郎丸義経と名乗ったこの男が、途方もなく、――巨大な存在に見える。
 ベンチに足を組んで座っている。出で立ちは休日の部長のような股引きと腹巻、頭は悲しいかなバーコード禿げ。しかしそれをまったく意に返さない堂々としたオーラ。これは何だ。この男から発せられるこのオーラは一体何なんだ。ニーソっ子オーラとは違う、この圧倒的なオーラは何なんだ。これほどまでに巨大なオーラを、先まで邪な気配を出していた男が発せられるものか。一瞬で悟るには十分過ぎる。オーラを感じ取ることができる私にはわかる。武道の達人同士が戦わずして相手の力量を見抜けるのに似ている。私もこの男も、同じ道の達人。ゆえに、悟ったのだ。
 私は、この男には、勝てない。
 私を見下げるその姿、まさに威風堂々――。
 気づいたときには頭を下げていた。
「はっ。私、久居久雄と申します」
 ふむ、と源五郎丸は相槌を打ち、
「玄人。貴様さっき、ワイよりニーソを愛しとるとかほざいてへんだか?」
 ギクリ、と私の全細胞が硬直する、
「い、いえっ。た、確かに私は今までこの世界の誰よりもニーソを愛していると自負しておりましたっ。しっ、しかし今貴方様に出逢い、気づきましたっ。私はまだまだ青二才なのだとっ」
 思った。
 私は、この人について行こう。
「源五郎丸義経様っ、いえっ、源五郎丸師匠っ!! どうか私を、弟子にしてくださいっ!!」
 土下座する。
 公衆の面前なのにみっともない、なんて考えは頭の隅にもなかった。
 今この空間を支配しているのは、この源五郎丸師匠だ。この方に逆らえば、ここでは命がない。それほどまでに大きい存在だ。体格差など関係ない。簡単に捻り潰せると思っていた自分の浅はかさが愚かしい。この人にかかれば、私など鼻糞を捏ねるかのようにあしらわれて終わりだ。37年生きていたが、これほどまでに偉大なお方に出逢ったのは初めてだった。この人について行こう。この人のためなら私の命など、惜しくはない。出逢ったばかりだったが、そう決意するのに時間は必要なかった。これは、直感に似た何かだった。
 源五郎丸師匠は私を見つめ、言った。
「――気に入った玄人。よし、弟子にしたるわ」
「ほ、本当ですか!?」
 ふふん、と師匠は笑う。
「ワイについて来ることは世界を獲るより難しいやろ。けどな、ワイについて来れれば、お前は、天国を見ることができる。険しい道のりや。命を落とすかもしれへん。それでもお前は、ワイについて来れるか!?」
 心は決まっていた。
 覚悟を決める。
「もちろんです師匠!! 私の命は、貴方に預けましたっ!!」
 よしきたっ!、と師匠は膝を叩いて立ち上がる、
「我が力、貴様にだけは見せたるっ!!」
「し、師匠のお力っ!? この私に!? 嗚呼っ、なんと勿体無いっ!!」
「目ん玉見開いてよう見とけやっ!! これがワイの力じゃっ!!」
 師匠はベンチに立ち、両手を前にして、まるで大便を気張るかの如く力み出す。
 その手の先にいるのは、先ほどからオーラを発してたニーソっ子だ。
 一体師匠は何を為さるおつもりか――見つめる私の前で、師匠はこう叫ぶ。
「――すべてを曝け出すオカンの風っ!! ウインド・マーザーっ!!」
 刹那――
 風が、吹いた。
 それは、どのような現象か。今までほぼ無風だったこの街の一角に、突如として突風が巻き起こったのだ。偶然なんかじゃない。証拠に、この風は生きている、そう感じるほど、明確な意志を持つ何者かによって操られている。ではその風を操っているのは何者なのか。そんなもの、決まっている。師匠以外に誰がいようか。凄いお方だとは思っていた。だがまさかここまで凄いお方だとは、一体誰が思おうか。なんと言う力、これは大凡の人間が一度は手に入れたいと思う力のはずだ。この力を持ってすれば、そりゃもういろんなことができるはずだ。この風が起こす奇跡を、私は一体何度、想像したことだろうか。
 風は道路スレスレを走り、ニーソっ子の真下で一瞬だけ停滞し、瞬間、
 ――吹き上げた。
 マリリンモンローも真っ青な光景だ。
 師匠が言ったあの言葉を思い出す。すべてを曝け出す。その言葉に嘘偽りはない。私の目の前で、神に選ばれしニーソっ子は今、素晴らしいものを曝け出している。その事実に気づいて小さな悲鳴と共に慌ててスカートを押さえ込むが、師匠がそれを許すはずもないのだ。「甘いわっ!!」との叫び声と共に風は勢いを増し、ニーソっ子の抵抗を無効化する。これは神が与えたもうた、私に対する褒美なのだと、本気で思った。そうに違いなかった。この方との出逢いは、神のお導きなのだ!!
 風が納まる。ニーソっ子は顔を真っ赤にして小走りで走り去って行く。
 その背中を見つめながら、師匠は言う。
「……これが、ワイの力や。どうや?」
 体の芯から震えた。
 生まれて初めて感じる感覚。
 これが、武者震いか――。
「……素晴らしいです、師匠……っ!!」
 この人に、地の果てまで、ついて行こう。


 師匠は自分のことを、小人族だと言った。
 その昔、我々人類がこの地球を支配するより太古から、小人族は存在していたという。
 しかし歴史は残酷なもので、体が小さい、というのはどうしようもないハンディとなって小人族を襲う。いつの間にか数を増やした人類―
 ―巨人族に小人族の居場所は制圧され、自由に生きることを許されなかった。体の小さな小人族が生き残る術は一つしかなかったのだ、と師匠は涙を堪えながら私に話した。その存在を隠し、日陰に生きることを余儀なくされた小人族は一致団結し、小人族だけが自由に生きれるユートピアを求めて何百年も地球を彷徨ったらしい。
 しかしこの地球のどこにも、そんな場所はなかった。
 その長旅で失った同胞の数は計り知れない。時には涙を堪えながら友の屍を越えて行かねばならないこともあったと言う。小人族の存続さえも危うくなっていた昨今、しかしそんな彼らが唯一、安心して暮らせる場所が発見されたのだ。それがここ十数年の間に世界に普及し、小人族は絶滅の危機を逃れた。仮初であるのはわかっているのだろう、だがそこが、そこだけが、彼ら小人族の安住の地――まさにそこはユートピアだったのだ。
 師匠は、そう言って指を差した。
 ――自動販売機を。
 師匠曰く、自動販売機には『あったか〜い』と『つめた〜い』ってあるやん? あの間の鉄板のトコが最高なんや。年中快適に過ごせる温度を保ってくれる最高の場所、それがあれや。それに自販機はそこら中にあるさかいに、隠れ場所には困らん。一台の自販機に一人の小人族。木の葉を隠すのなら森の中、ってな。
 聞けば、すぐそこにある自動販売機の中にも小人族がいるらしい。まさかそんな身近に師匠のような存在がいたとは思ってもみなかった。この世界には私の知らないことがまだまだ沢山あるのだと知った。青二才とは我々人類のことを言うのだと、今ほど思ったことはなかった。
 私は師匠たち小人族の話を聞き、涙を流した。
 何と過酷な運命を背負った一族だろうか。私のような何の苦労も知らず生きる奴には想像もできまい。すべての元凶は、我々人類ではないか。小人族が何をしたというのか。我々が、悪いのだ。想像してみろ。我々人類が蟻でも踏み殺すかのように、まるで気づかれずに殺された小人族。我々人類が無責任に捨て野良と化した野犬が小人族を食らい、森林伐採により餌不足に悩まされる鳥類は上空から小人族を襲う。挙げ句の果てには、人類がモルモットのように小人族を捕獲し、解剖する。人類の軽はずみな行動で、小人族は家族バラバラに引き離されて、もう二度と会えなくなってしまうのだ。こんな横暴が許されていいのか。叫ぶ。我々人類は、何と酷いことを繰り返しているのか、と。なぜ私は、人類に生まれてしまったのか、と。こんな罪深い種族が、なぜこうも我が物顔でこの地球を占領しているのか、と。
 泣き叫ぶ私に、しかし師匠は優しく微笑む。
「ええんや。これはな、玄人。世界の摂理っちゅーもんなんや。こればっかりはどうしようもない。こんな残酷な世界やけどな、でもな、ワイらは皆、この地球が大好きなんや。何も残酷な運命ばっかりをワイらに残したわけやない。これは秘密なんけど、玄人だけには教えたるわ。ワイらはな、巨人族にはないものを持っとる。それは、いつ如何なるときも助け合う精神を忘れない強き心と、そして――魔法や」
 師匠は高らかに言うだ、
「ワイらは魔法が使える!! そりゃもうショッボイのからゴッツイのまで様々や!! 小人族が一丸となって本気になったら、この世界を七日で火の海に変えることもできるやろ!! せやけどワイらはそんなことはせん!! 魔法は人を傷つけるためにあるんやない!! これは、困っとる奴を助けるためにあるんや!! ワイらを追いやった巨人族に対してもそれは例外やない!! ワイらの夢は、すべての生きとし生けるものたちが手を取り合って自由に暮らせる、本当のユートピアを作ることなんや!! 道は険しい!! でもワイらは諦めへん!! 諦めたらそこで、何もかも終わってまう!! せやろ!! すべては、すべてはあっ、この地球のためにいっ!!」
 師匠は、叫んだ。
 心の底から、叫んだ。

 嗚呼、でっけえ――。

 なんて、大きいんだ。
 怨みを持っているはずの巨人族に対しても、師匠は助けの手を差し伸べると言うのだ。これほどまでに寛大な心を持った人間が、果たしているだろうか。否。この源五郎丸義経という小人族は、この世界でもっとも偉大で、心の大きなお方なのだ。この人に敵う者など巨人族小人族、他のいかなる種族を探しても見当たらないだろう。私は本当に、素晴らしい人に出逢えた。この人の弟子になれたことを末代まで誇りに思うだろう。今日、何度も思ったが、もう一度言う。
 私の命、この方のためなら惜しくはない。
 師匠が一通り話を終えた後、自分の体の長さ程もある煙草をどこからともなく取り出したので、私はいつか道端で拾った百円ライターでそっと火を点けようとした。
 瞬間、思いっきり横っ面を叩かれた。
「バカチンかおのれはあっ!! 煙草はジッポライター!! 復唱してみいっ!!」
 叩かれた頬を押さえ、私は直立不動で言い返す、
「押忍っ!!  私が間違っていましたあっ!! 煙草はジッポライター!!」
「わかればええ。お前に、ワイの宝モンである、このジッポライターを預けとく。この意味、わかるな?」
 どういう構造か、腹巻から体と同等の大きさのジッポライターを出して、そっと私に差し出す。
 それは、何と有り難きお言葉だろうか。
 師匠の宝物を、この下賎な私に預けてくれると言うのだ。
 感極まりない、
「もちろんでありますっ。そのお言葉胸に刻み込みっ、私は師匠のために働きますっ!!」
「ええ心がけや!! ワイをがっかりさすなよっ!!」
「はっ!!」
 今日は、私の新しい門出の日だ。

     ◎

「師匠、一体これから私たちはどこへ?」
 私は今、繁華街を歩いている。
 師匠は私の肩に座り、先ほど私が買ったハンバーガーを貪りながら答える。
「ほもまほがふぉえあ」
「師匠。食べていては何を言っているのかわかりません」
 ごくんと租借して口の中を一発で空にした師匠は言う。
「ワイはな今、ある小人族を追ってんのや」
「小人族を? なぜです?」
 師匠は恐ろしいほど冷ややかな目をした。
「……ワイの所に、巨人族の卑猥な写真を巨人族に売って荒稼ぎしとる小人族がおるいうタレコミがあったんや」
 巨人族の卑猥な写真を巨人族に売る?
 待てよ。私の中で、ある一つの仮説が生まれる。
 なぜ、このような偉大な師匠が、ニーソっ子に痴漢行為のようなことを働いていたのか。小人族がミニスカのニーソっ子の真下にいて上を見上げれば、そこに広がるのは神秘の世界。裏を返せば、小人族は気づかれずにニーソっ子の真下に潜り込むことができるということだ。それは先ほど、師匠が実演した通りである。仮説が現実味を帯びてくる。私たち巨人族が仮にニーソっ子のスカートの中をローアングルでデジカメなどで激写した場合、発見される可能性が大だ。その行為を行っている巨人族は確かにいるが、大抵が捕まる。かなりのリスクを伴うその行動を本気で起こしている巨人族などロクな奴はいないし、そういった輩の末路を私はよく知っている。しかし、だ。巨人族では無理があるが、小人族ならどうなのか。
 小人族は元々小さい。人が賑わう繁華街の真下にいても、気づかれもしないだろう。
 ならば簡単ではないのか。小人族が何も知らない純粋なニーソっ子たちをローアングルで激写し、その卑猥な写真を巨人族に売り払う。見つかった所で小人族なんて出鱈目な存在を認める人間はいないし、魔法が使えるのであれば姿を消すこともできるのかもしれない。いろいろな要素を悪い方向に駆使すれば、それは小人族だけがなれる、盗撮のプロに他ならないのではないか。師匠があんな不自然な行為に走っていたのは実演するためと、あわよくばその盗撮のプロである小人族を誘き寄せるためなのだ。
 知らずの内に、私は拳を握り込んでいた。
 そうとも知らず、私は師匠の調査の邪魔をしてしまった。自分の中の正義が唯一絶対であると信じて疑わなかった。師匠の中にあった本当の正義の邪魔をしたのだ、この私が。なんという愚かな行いであったのだろう。自分が不甲斐無い。自分の無知さに腹が立つ。私がニーソっ子たちを守っているのだと思っていた。だが本当は、私がその妨げになっていたのだ。知らなかった、なんて言い訳が通用するはずがない。私のちっぽけな正義感など、師匠の前ではゴミクズに他ならないのだ。なんてことを、してしまったのだろう。
 自分の情けなさに涙が出そうになる。
「申し訳、ありません、師匠……っ! あのときニーソっ子の真下から世界を見上げていたのは、調査の一環だったのですね……っ! そうとは知らず、私が邪魔をして……っ! 本当に、申し訳っ、ありません……っ!」
 師匠の体が強張るのを、肩越しに感じた。
 師匠の方を見れない。見る権利など、私には微塵もないのだ。
「あ、い、いや、お……? おっおおっ! そ、そう、そうなんや。ワイはな、調査のためのあんなことしてたんや。本当はしたくなかったんやけど、実際に気づかやんのかどうか調査しとったんや、うん」
 何と不甲斐無いのだろう、私は。
 しかしそんな私の肩を叩き、師匠は言った。
「気にすることやない。玄人は玄人の正義に従ったまでや。そのことをワイが責めれる権利はない。あの姿は誰が見ても勇敢やった。その正義感をワイは信じる。これから行く奴の落とし前、お前がいっちょつけたれや」
「有り難きっ、お言葉……っ!」
 私たちは歩く。
 偉大な方を肩に乗せている。
 私は今、それだけで幸せだった。
 やがて辿り着いたのは、繁華街から離れたビル街の裏路地だった。ゴミが散乱しており、ビルに遮られて太陽の光が届かないそこはまさに無法地帯に他ならない。悪党が潜んでいるには持って来いの場所である。ゴミ袋が異臭を放っている、ここを縄張りにしている鴉が私たちに向って鳴き声を上げ、電信柱の影に潜んでいた猫が走り出す。その猫を追って視線を移すと、見えて来るのは、一台の自動販売機である。
 こんな所に自動販売機を置いて採算が取れるとは思えない。
 だがだからこそ、悪党が潜むには打ってつけの場所なのだろう。
 そっと師匠が私の肩から道路に降り立ち、ゆっくりと目の前の自動販売機へと歩いて行く。
 その背中、なんと大きく、なんと恐ろしいのか。まるで獲物を見据えた虎のようである。
 師匠は言った。
「この自動販売機は完全に包囲されとる! 大人しくお縄につかんかいボケェッ!!」
 待つこと数秒、自動販売機の取り出し口が微かに動き、そこから何かが這い出て来た。
 スーツだ。黒のスーツに黒のサングラス、金のネックレスに金の腕時計。小人族にそういった職業があるのかは知らないが、あれは紛れもない、ちっちゃいヤクザだ。小さいが迫力がある。カタギにはない威圧感だ、並大抵の者ならすぐに逃げ出すであろう。だが師匠は一歩たりとも引かない。そんな師匠に後押しされ、私には力が漲って来る。
 ちっちゃいヤクザは言う。
「なんじゃぁワレ。ここがどこかわかっとんのかいな?」
 師匠は言い返す、
「貴様こそなんじゃい。下っ端に用はないんや。頭ぁ出さんかい」
「なんやとコラ、舐めた口聞いてっとヤッてまうぞハゲ」
 小さな体が一瞬だけ揺れる、
「……なんていうたお前コラ、もういっぺん言うて」
 その刹那、
「お待ちください。貴殿、『灼熱の源五郎丸』とお見受け致します」
 またしても自動販売機の取り出し口が動き、そこから小人族が出て来る。
 出て来る出て来る、まだ出て来る。
 一体どれだけ入っていたのか、自動販売機の前をスーツを着た小人族がわんさかわんさか。その数二十はいるだろうか。あの自動販売機の中に、どうすればこれだけの小人族が入ることができるのか。そしてその中で一際目立つ小人族がいる。
 他のスーツの奴らとは違う、紋付袴を着こなしている、顔に大きな傷のある大柄な小人族。
 あれが、頭だ。
 その頭は言う。
「先ほどの部下の失言、丁重に謝罪させて頂きます。しかし貴殿が何ゆえこのような場所へお出でなさったのか、お聞かせ願えるか」
 師匠は鼻で笑った。
「自分の胸に聞いてみぃ。ワイに叩き潰されるようなことを、貴様らはしとるはずや」
「なんのことかわかりませんな」
「惚けるんは一回だけにしとけよ。ワイは何度も同じことを言うんは嫌いやねん。わからんのやったら言ったるわ。――貴様ら、小人道に反することをしとんやろ。巨人族の卑猥な写真を巨人族に売り払っとる。ネタは上がってんねん。大人しく罪を認めて罰を受けんのなら穏便に済ましたる。投降せえや」
 頭はさも可笑しげに笑い、
「貴殿が小人道を持ち出すか。貴殿が一体何度我らが禁忌を犯したかお判りになっていないので? 現に今、貴殿の後ろにいる巨人族。その巨人族にも姿を見せ、ここにまで連れて来ている。可笑しい話ですな。禁忌を最も犯している貴殿が、我々に禁忌を問うのか」、そこで空気が凍りついた、「舐めたマネして難癖つけた落とし前……しっかり取ってくれるんやろうなぁ源五郎丸さんよォオッ!!」
 手を振り上げ、頭は一気に振り下ろす、
「ぶっ殺せッ!!」
 ちっちゃいヤクザたちが咆哮を上げて突進して来るっ!!
 物凄い気迫である。いくら師匠と言えどこの人数を相手にできるのか。ふと気づけばちっちゃいヤクザはそれぞれにギラリと光るドスを手に持っている。あんなもので刺されれば師匠の命はない。足が震える。怖くないと言えばこれ以上の嘘はない。だけど私は、師匠のためなら命など惜しくないと思った。その覚悟は嘘ではない。ならば今、この時こそ、それを証明する瞬間なのではないか――。
 無数のドスが師匠に狙いを定めたとき、私の体は私の意志ではなく、決意によって突き動かされた。
 師匠を庇う形で前に出て、無数のドスが私の足首に突き刺さる。激痛が走った。否、痛みだけを見るのなら大したものではないのだろう。だが、刃物で足首を刺されたという事実が恐怖感を一気に解き放ち、腰が砕けてその場に倒れ込んだ。私を呆然と見ていた師匠が慌てて顔に近寄って来てくれる、
「玄人っ!! おい玄人、平気か!?」
 頬をべっちんべっちんと叩きまくる師匠の表情は、見たこともない弱気に染まっている。
 そんな師匠、見たくはないのだ。
「……師匠。私の正義、見ていてくれ、ましたか……師匠を守れたこと、私にとっては……これ以上ない、喜び、です……ですから、師匠……ッ! 勝って、ください……!! ニーソっ子たちが、安心して暮らせる、世界を……守る、ために……っ!!」
 私は精一杯の声を振り絞る。
 その声を聞き、師匠は力強く、ただ一度だけ、肯いた。
 それだけで、私にとっては十分だったのだ。
「くはははははっ! 笑わせる巨人族!! どうせ源五郎丸もここで死ぬのだ!! 無駄な足掻きをしたものだっ!! 今こそ小人族が巨人族に宣戦布告する時が来たのだっ!! まず手始めに源五郎丸ッ!! 貴様から血祭りに上げてくれるわっ!! 殺せ野郎共ッ!!」
 頭の合図と共に、ちっちゃいヤクザたちが師匠に背中に襲い掛かるっ!!
 しかしすべてはその時点で決していた。
 襲い掛かったはずのちっちゃいヤクザたちが一気に吹き飛ばされ、辺りに散らばる。状況を理解できないちっちゃいヤクザたちは師匠を牽制しつつ距離を詰めるのだが、背後を向いている師匠にドスを向ける切っ掛けがあと一つ足らない。わかっているはずだ。この世界で相手に臆した時、それは自らの命を捨てた時だと。この時点で、勝負は決している――。
 立ち上がり、ゆっくりと振り返る師匠。
 いいや、違う。それは私の知っている師匠ではない。
 源五郎丸の体を炎の渦が取り巻いていく。それはゆっくりとうねりながら大きさを増し、辺りをたちまちに灼熱へと変化させる。その炎におののくちっちゃいヤクザたち。これほどまでに強大なる炎を、果たして彼らは見たことがあるのだろうか。小人族は魔法が使える。だがその威力は各々によって異なる。使い手が違えば、同じ魔法でもまったく別のものへと変化する。その事実を今、彼らは目の当たりにしている。
 止まらない、止められない。
 バーコード禿げをしたちっちゃいおっさんを包み込むは灼熱の炎。これこそ『灼熱の源五郎丸』の真骨頂。かつて小人族の中でも群を抜いて最強と謳われ尊敬された存在。それが、源五郎丸義経――。
 源五郎丸は言うのだ。
「……ワイの可愛い弟子を傷モノにしよってからに。貴様ら……覚悟は、できてんのやろなぁあッ!?」
 炎が世界を覆い尽くす。
 その炎はすべてを飲み込んでいく。ちっちゃいヤクザも、路地裏に広がる無数のゴミも、そして源五郎丸の頭に生える、数少ない髪の毛も。その被害に比べれば、私の服が次から次へと燃えているのなんて屁でもない。この体が例え燃え尽きようとも、師匠の、いや、源五郎丸義経というこの男の戦いを、私はしっかりと目に焼きつけておく必要があるのだ。
 ちっちゃいヤクザを次々と薙ぎ倒し、源五郎丸は頭の下へと直走るっ!!
 しかし頭は引かない、
「これが『灼熱の源五郎丸』か! 面白い、受けて立ってくれるわっ!!」
 刹那、眩いばかりの閃光が天空を裂く。
 光が引いたとき、そこにいるのは雷のようなものを身に纏う頭。
「我こそが『雷の家光』!! この勝負、我に勝機ありっ!!」
 炎と雷が交錯する。
 それは、巨人族は愚か、小人族でさえ立ち入りを許されない戦い。
 源五郎丸は言った。小人族が一丸となれば、この地球を七日で火の海にできる、と。その言葉に嘘偽りナシ。この戦いを見ていれば、人間の力などなんとちっぽけなものか。これほどの力を持っていながら、迫害されようとも小人族たちは巨人族に復讐などしなかった。それはなぜか。彼らには夢があったからだ。すべての生きとし生けるものたちが手を取り合って自由に暮らせる、ユートピアを作るという夢が。その信念を掲げ、――彼らは生きているっ!!
 確かにあの家光という男、強い。源五郎丸に遅れを取っていない。しかし、背負っているものが違うっ! 小人族の夢を背負い、源五郎丸は戦っているっ! 自らの欲望でしか動かないあの男に負ける要素など、どこを探せば見つかるというのか。我が師匠は最強だ。あれほどまでに偉大なる男は、歴史上いないはずである。あの男は、この地球の、宝となる男だっ!!
「せぇえぇぇえぁぁああああッ!!」
 振り抜かれた雷を紙一重で裂け、源五郎丸は家光の懐へ潜り込む。
 拳一線、家光の体が宙を舞う。
 地面に叩きつけられた家光はボロボロになりながらも立ち上がり、源五郎丸を睨みつける、
「これが我の最強の技だっ!! 食らえ源五郎丸ッ!! サンダー・ボルケーノッ!!」
 家光の頭上に巨大な雷の龍が浮き上がる。
 あれを食らえばいくら源五郎丸でも生きてはいまい。だが源五郎丸が、それを食らうはずがないのだ。
 なぜならば、源五郎丸は、地上最強の小人族なのだ。
「そんなものがワイに効くかいな。覚悟はええかぁ……貴様らがしてきた行い、お天道様が許しても、このワイが許さんぞっ!!」
 源五郎丸が吼える、
「――親父の存在太陽の如しッ!! 一撃必殺!! バーニング・キャノンッ!!」
 前方に構えた両手から、源五郎丸は炎の球体を撃ち出した。
 それは神速の速さで迎え来る雷の龍と激突し、圧倒的な威力の下に炸裂する。轟音が辺りを塗り潰し、爆風と共に炎が巻き起こってとんでもない規模で炎上する。爆炎は家光さえも飲み込み、断末魔を残してその姿を消した。その威力こと、家の一軒分ならば一瞬で丸焼きにできるほどの威力はあったはずである。
 勝負は、ここに決する――。

 私は生涯、この瞬間の源五郎丸の勇姿を、忘れはしないだろう。

     ◎

「……やはり、行ってしまうのですか」
「せや。もうここにおる理由がない。しかしよかったのぉ、玄人の傷、全治3時間やて。無事で何よりや」
 すべてが終った後、師匠が要請していた小人警察によって家光らは逮捕された。
 そして師匠は、ここにいる理由はもうないのだと言った。それもそうだろう、師匠は奴等を成敗しにここへ来たのだ。その役目が終わった今、ここに滞在する理由はもうない。師匠を必要とする小人族や巨人族はまだまだこの世界には大勢いるはずなのである。新たな地で夢を実現させるために動く師匠を止めていい理由など、私には微塵もないのだ。それはわかっている、わかっているのだが、本音を言えば、師匠にはずっとここにいて欲しい。どこにも、行かないで欲しい。だがそれは私の我侭だ。快く、見送ろう。それが、この人について行こうと決めた私にできる、最後にできることなのだ。
 夕陽に視線を向けながら、私と師匠はしばらく無言でいた。
 やがて師匠がふと、
「なぁ、玄人」
「なんですか」
 少しだけ名残惜しそうに、師匠は言った。
「……ワイがおらんくなっても、ニーソっ子たちを、守ったれよ。あの子たちにはまだ、玄人みたいな正義感が強いモンが必要やねん。ワイはまた少し旅に出なあかん。せやから、玄人が守ったれ。この源五郎丸義経の意志を継いで。ワイがまたここへ戻って来るまで、ジッポライターは預けとく。それまでワイらの誓いの火を絶やさず貫き通すと、ここに誓え!! なぁ、久居久雄っ!!」
 泣くな。
 泣いてはダメなのだ。
 男の門出に、涙など流してはならないのだ。
 これは師匠が送る、弟子に対する激励なのだから。
 私は、生まれて初めて、心で泣いた。
「――誓いますっ!! 私、久居久雄はあっ!! 源五郎丸義経師匠との誓いを貫き通すとおっ!! ここに誓いますっ!!」
 別れの時だ。
 師匠が預けてくれたこのジッポライターに今一度だけ、誓う。
 師匠が戻って来るまで、この街のニーソっ子たちは、この私が守り通します。
 最後に、師匠と握手を交わした。夕陽をバックに、永遠の決意を胸に、私たちは互いの道を行く。
 各々を必要としている、その場所へ。

 私は、貴方に出逢えて、本当によかったです、師匠――。

 私たちの戦いは、まだまだ始まったばかりなのだ。





      ◎





 余談であるのだが、源五郎丸の腹巻の中には今、ジッポライターのスペースにSDカードが数枚詰め込まれている。
 家光のアジトにあったものを拝借してきたのだ。
 その中に果たして何が映っているのか、それを知る者は今はいない。
 涎が止まらない顔をそのままに、頭を下げる久居久雄という弟子に背を向け、源五郎丸は歩いて行く。

 もうすぐ、写真屋が閉まってしまう。
 急がなくてはならない。




2007/08/18(Sat)01:47:32 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。ゴッド・ナイトです。
これからよろしくお願いします。
神夜?違うよ、全然違うよ。

はい、初めての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり、この挨拶も随分久しぶりに思える神夜です。
最後に投降したのはたぶん「心夏」でしょうか。さっき調べたら2006年4月だそうです。
それから自分、小説をまったく書いていませんでした。ぶっちゃけ、これからも小説を書く予定はあまりなかった。
が、なんか最近、登竜門で知り合った人から「読みたいぞボケコラ」と言われたので、一年と数ヶ月の歳月を経て、戻って来てみた。
夏休みだし就職決まったし、学生生活最後の夏だ、ここいらでいっちょ長編でもぶち上げるか、と思ったのが昨日の夜。
だけど一年も書かなかった自分がいきなり長編を書けるはずもなく、果たして今現在、自分の能力がどの程度なのか、ちょっと短編書いてみた。
結果、わかった。ダメだこりゃ。描写・テンポ・ノリ・まとめ。ボロボロだ。そりゃ一年前の財産でやってんだ、そんなもんだろ。まるでスラムダンクの三井みたいだ。そんなカッコイイもんじゃないけど。しかしダメだとわかった途端、ちょっと悔しくなった。箱○に入り浸っていた自分ですが、しばらくこっちに本腰入れよう。
とりあえず一本、長編完結させにゃ気が治まらん。
その手初めてとしてこの作品。以前投稿した短編『自動販売機の中には』の番外みたいなもの。
何を書いているのか、自分でもさっぱりわからん。いや、書いている分には楽しいんだ。だからこうして無謀にも投稿してる。今の登竜門にこんなアホなものがあっていいのかどうかわかりませんが、とりあえず投稿してみた。叩いてください。どうぞお好きに。渇を貰わないとどうも危機感がない。ただ、少しでも楽しんでくれる部分があれば幸いか。
【セロヴァイト・シリーズ】や【心夏】を、自分が書いていたとはどうしても思えない。あの頃まで自分を何とか引き戻したい。暇な方々、長丁場になる可能性ありますが、自分が干乾びるまで、お付き合い願えれば有り難い。
また次回作で。次回からはきっちりとした「神夜」としての作品を出します。こんなノリのはこれっきり。
長々と失礼。では、一人でも楽しいと思ってくれた方、いないと思いますが、それを願い、これにて。
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