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『夕焼け空の定義』 作者:ちょう子 / リアル・現代 恋愛小説
全角4111文字
容量8222 bytes
原稿用紙約11.6枚
親友を好きになってしまった少年。キレイな夕焼け空の下、ついつい告白してしまいました。きっと、夕暮れの美しさに惑わされてしまったのでしょう。

 素直に「気持ち悪い」って言われていたら、もっと気が楽だったのだろうか。人の優しい言葉が、こんなにも苦しいものだとは思っていなかった。


 燃えるような赤い夕暮れ時だった。そんなキレイな紅の下で、俺は1人ただ立ちつくしていた。少し前の出来事、少し前に俺の横を通り抜けていった、あいつの姿を思い浮かべながら。
(何で、あんなコト言っちまったんだろう)
 なんていう、後悔の念を胸の内で唱えつつ。
 何があったのかって言うと、まぁ俺「坂下 マサノブ」好きな奴に本日フラれたわけでありまして。しかもそのフラれた相手というのが、友人の「坂森 ユウト」という、男なわけで。初めからフラれる確率が限りなく高いような、そんな相手に戦いを挑んでしまったわけだ。
「……ハァ」
 フラれることなんて、解っていた。だっていくら友人で、人として好きな奴だったとしても、同性である以上異性に対して抱く感情を抱くことなんてそうそうあるもんじゃない。俺だって、急に男に(たとえ仲の良いヤツでも)告白されたりしたら、好きとか嫌いとか関係なく驚いて、とりあえずお断りする。少しだけ「気持ち悪い」なんて胸の内で思いつつ、「そんな対象には見れないんだ」なんて、そんなことを言いながら。
 でもそれはあくまで理屈の問題で……いざ自分が「告白する側」になってフラれてみたら、頭では「仕方ない」と納得しつつも、心の中では「どうして?」なんていう疑問符ばかりを浮かべてしまうんだ。
……きっとその原因は、あいつがあまりにも優しかったからなんだろうけど。
「俺も、マサのコト好きだぜ。だから、ずっと親友でいよう」
 なんて、あんな言葉。遠回しなお断りの言葉だってことは解ってる。でも、貶すわけでも、軽蔑するわけでも、というかはっきりの拒否の言葉も言わずに、あんな「好き」なんて、「親友」なんて言葉をあいつは使って……。
「……バカヤロー」
 それにあいつは、最後まで笑顔でいてくれたんだ。
一度だけ、俺の「好きだ」という言葉につり目がちな目を見開かせて。それからずっと、微笑むような、少しだけ口角を上げて目を細める俺の好きなあの笑い顔でいてくれて。そんな優しい顔で、俺を真っ直ぐ見つめてあんな言葉……。なんて残酷なのだろうと思う。なんてヒドイんだろうと思う。きっとあいつのことだから、本当に今までと変わらず明日も明後日もそのずっと先も俺の親友でいてくれるんだろうな。って思う。胸には気まずさを秘めつつも、いつも通りに。あいつは優しい奴だから。
 そして確かに、俺はそれを求めてた。あいつの優しさを望んでいた。フラれることは解っていたから、「だけどせめて今のままでいてくれ」って。きっとあいつも解っていてくれたんだろう。だからあんな優しい、嬉しい言葉をかけてくれたんだ。
 わかってる。全部、初めから解っていたんだ。フラれることも、あいつが優しい言葉を言ってくれるのも、そしてその言葉に自分が酷く傷つくことも、全部全部。だけど、止まらなかった。
(気付いたら、我慢出来なくなってた)
 知らないうちに膨れあがっていく感情が、恋だなんて思っていなかった。考えたくもなかった。でも、ダメだったんだ。気付いたらあいつの一番になりたくなっていて、あいつのための俺でいたくなっていた。たまに漏らす弱音も、全部全部自分だけのものにしたくてたまらなくなってた。
「俺のものは全て見せるから、お前の内側のものも全部、俺だけに見せてくれよ」
 なんて、そんなコトを考えるようになっていたんだ。それに気付いてからはもう、「好きだ」っていう感情でいっぱいになっていた。いつも近くにいて、週に何回も2人で遊んで、2人だけの話題が両の手から余るほどに増えていって、全部が、あいつだけになりそうで。その現実が嬉しくて、でもそれだけじゃ足りなくて、とにもかくにもまぁ、耐えきれなくなってしまってた。
 そして、今日この日。ついさっき。ついに思いが破裂した。
「なんかさー、面白いコトねぇかなー」
「ないんじゃね?や、でも俺、お前といたら楽しいから、それで良いよ」
「ハハ、まぁなー。俺もマサといればそれで楽しいかも」
 そう言いながら、あいつは笑った。それから空を見上げて、
「毎日毎日、お前といると飽きないよ」
 って、呟いて。……その言葉に、一体俺は何を思ったのだろう。もしくは思う暇なんてなかったのだろうか。ただ気付いたら、言葉を発してた。
「ユウト、俺、お前のコト好きだわ」
 何の脈絡もないそんな言葉が、夕焼け空の帰り道、2人だけの空間に響いてた。言ってしまってハッとして、自分でも呆然としながらあいつを見つめてた。そうしたら、あいつも同じような顔で俺のことを見つめてて。その姿が、やたら目に焼き付いた。あまりにもキレイだったからだろうか。そして数秒たった後、あいつは当たり前のことのように微笑んでこう言った。
「俺も、マサのコト好きだぜ。だから、ずっと親友でいよう」
 一瞬、何が起こったのか解らなかった。自分が言ってしまった言葉も、あいつがあまりにも自然に俺の言葉を受け止めてああ言ったことも、全部全部夢なんじゃないかって思った。だけど夢ではなくて。相も変わらず夕焼けが美しくて、その夕焼けに照らされたあいつの笑い顔が美しくて、全部現実で。
「……ん。じゃあ、また明日な」
 俺はただそう言って、それなのにその場から動くことが出来なかった。数秒、数分、あるいは数十分?長いようで短い時間が経過した後、あいつが俺の横を通り抜けて、1人家路を辿っていた。ただ俺は、ボンヤリとその背中を見つめていた。何故あんなことを言ってしまったのだろうと思いながら。
 毎日毎日「ユウトが好きだ」なんて思いながらも、その言葉を口にすることはこの先ずっとないと思っていた。かといって、別にそんな言葉を口走ってしまうような、そんな特別な雰囲気だったわけでもなかったハズなのに。ただいつものようにお互いの存在を認識して、「俺達は友達だなぁ」なんて、そんな確信を抱いて終わるような、そんな会話だったハズなのに。本当にそんな当たり前の帰り道だったはずなのに、どうして、俺は……
「……好き、なんて、そんなこと……」
 言ったところでどうしようもないことだって、解っていたのに。ただ自分だけが傷ついて、あいつに少し気まずい思いをさせながらも、今まで通りの生活が続くだけだって解っていたのに。なのに、あぁ全く。バカな言葉を言ったものだ。
(きっと、この夕焼けのせいだ。空がキレイで、あいつが余計にキレイに見えて、だから……)
 なんて、空のせいにしたところでどうしようもない。何もかもがどうしようもない。だって時間は元に戻らなくて、俺の言った言葉も、あいつの優しい言葉も全部現実なんだから。
……でも、何かのせいにしなければやってられないんだ。バカみたいに、泣きたくなってしまうんだ。
(情けねぇなぁ。あぁもう全く)
 何十回何百回と「好き」を繰り返せば、いずれは望んだ返事が返ってくるのだろうか。それでもダメだったとしたら、来世とかいう時にでも?でもそれじゃあ意味がない。魂だけが結ばれたって、何の意味もないんだ。俺は俺で、あいつはあいつで、だから好きなんだ。だから感情が止まらないだ。なんて、バカなことを考えてるって解っているけど。
「……なぁ、何回好きって言ったら、お前も同じ思いを抱いてくれるんだよ」
 呟く声に答えがないってことも、解ってる。それでも、言葉が止まらない。
「好きだよ、好きだ。あんな優しい言葉は、反則だ」
 なぁどうして、どうして「気持ち悪い。もう友達やめようぜ」って言ってくれなかったんだ。どうして、あからさまな拒絶の表情を見せてくれなかったんだ。あんな優しさを、微笑みを浮かべることが出来たんだ。いくら友人でも、気持ち悪いだろう。変な気持ちになるだろう。それとも俺の告白は、あいつにとって何の意味もなさないものだったのだろうか。酔っぱらいの寝言のような、戯言にしか聞こえなかったのだろうか。
 ……いいや、違う。あいつは全部、解っていたはずだ。きっと、いいや絶対、俺が抱いている感情をずっと前から察していてくれたはずだ。だからあんな優しい言葉を言ってくれたのだろうから。俺が望んでいた言葉を、くれたのだろうから。……でも、それで自分がよけいに傷つくなら、影であいつに気まずい思いをさせてしまうのなら、それなら……そんなことを思うけれど、でも。
「何でこんなに、会いたいんだ」
 苦しいくせに、辛いくせに、全てが終わってしまえば良かったのにと思うくせに、あいつのことを考えて「会いたいなぁ」と思うばかり。
「あぁきっと、たとえ気持ち悪いと罵られても関係が壊れても、俺は変わらずユウトのことが好きだっただろうな」
なんて、思っていることとは逆の確信を抱いてしまった。あぁもう、どうしてこんなに好きなんだ。
「クッソーバカヤロチックショー!!」
 意味もなく叫んだ声は、一人きりの帰り道に嫌によく響いて。バカみたいにキレイな夕焼け空は、痛いくらいに目に染みて。無性に泣きたくなって、「あぁでもどうせ一人きりなんだから」って考えて、俺は小さく泣いた。その行動すらもバカらしくて悲しくて、涙は一向に止まる気配がない。
 あいつが好きなだけだったのに。どうして俺は傷つくと解っていて告白して、優しくフラれて、泣いているんだ?
 空を見上げてそんなことを夕焼けに問うてみても、当然ながら何も返事は返ってこなくて。むしろ余計に悲しくなって、「あぁそれならば、こんなにデカいくせに、人1人も救えない空ならば沈んでしまえばいいのに」と、俺は生れて初めてこの空共々世界中を呪ってみせた。

だけどあいつが生れてきて、生きて、今も近くで呼吸をしているという当たり前の現実だけは呪えなくて、あぁもうダメだ。明日からあいつに、どんな顔で会えばいい?なぁ誰か、自分に力があると信じてるバカ者たち。それならたった数分前の、たった数分間のあの出来事をなかったことにしてくれよ!

2007/07/25(Wed)16:04:57 公開 / ちょう子
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■作者からのメッセージ
気付いたらこんなお話を書いていました。1人語りが多くてごめんなさい。BLテイストでごめんなさい。色々な面で不快な思いをさせてしまっていたら、本当にごめんなさい。でもこんな恋愛話もありなかぁと思ってしまったのです。ご指摘お願いします。
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