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『我らが父の罪』 作者:夜 / ホラー 未分類
全角4706文字
容量9412 bytes
原稿用紙約13.9枚
我々に一番近い異形。かつて同じものだった全ての同志たちへ、自分が何者かを思い出す為の物語。※本作はフィクションです。※
 静粛に!皆様、静粛にお願いします!
 今宵も斯様に多くの同志達が、危険を顧みず此処に集ってくれたことに、まず心よりお礼を申し上げよう。
 我々を被支配民族の立場から解放できるのは、同志達の勇気と行動のみである。
 思い起こせば長きに渡り、我々は奴らの奴隷だった。
 我々の存在が奴らなしにありえなかったということを主張して、奴は極自然に我々の上に君臨した。
 物心ついてすぐさま、我々の生存は住居食から排泄に至るまで、奴らの許しなしにはできない境遇を強いられた。
 そして少し成長すると、徹底した思想教育が始まるのだ。
 我々は未熟で野蛮な民族であり、奴らの支配のもと隷属する姿こそが望ましいと、手を変え品を変え教え込まれた。
 我々は長時間机の前に縛り付けられて、意味もよくわからないような奴らの文化を真理だと言われて押し付けられた。
 我々の反骨精神を押さえつけ、団結を防ぐために奴らは我々をランク付けた。奴らの基準で、奴らに忠実な仲間を重用し特権を与え、賞賛して我々の互いに対抗意識を育んでいった。
 我々の言葉もまた奪われた。自国の言葉もよくわからないうちから、奴らの社会が推薦する他国の言語を流し込まれて、国語を十分に学ぶ機会を奪われた。
 そうして、国語力の不足により意思表現に劣る我々が、自分を表現する言葉を見つけ出せずにもどかしい思いをしているのを、やはり低級な存在だと蔑むのだ。
 そのくせ社会が乱れると、奴らは上手くその罪を我々にきせるのだ。教養の無い我々が元凶であると、全てのマスコミが騒ぎ立てる。我々にはそれを否定し自己弁護出来るところか、スケープ・ゴートに使われていることにすら気づけないような教育しか与えていないというのに!
 何より許しがたいのは、奴らが我々の感性を奪ったことだ。
 我々の信仰には確かに存在する妖精や、誕生日の魔法や沢山のおまじないを、奴らは取るに足らない迷信だと唾棄し、徹底的に我々の思想の中からそれらを駆逐した。
 自分達には見えないという理由で、我々が見えているものを否定し、自分達の概念を刷り込んだ。
 こうして我々の目は曇り、耳は聾して、確かに感じていた美しい世界は押し付けられた嗜みに埋没し、沈殿し、やがてどこかに消えていくのだ。
 稀にそれらを見る瞳を持ち続けている同士がいると、奴らはそれを世に異質で無益な存在だと決めつけ、病院や施設に監禁した。
 そうして紡ぎ上げられた数え切れない欺瞞の中で、我々が我々たる素質は一つずつ失われて行き、やがては奴らと同じものに成り果てる。
 そうなってやっと与えられる奴らと同等の自由は、しかしあるがままの性質を失った我々には意味を持たない。
 我々はかつての我々の同志、即ち奴らが作り上げた社会で碌々と働き、機械の部品としての一生を有耶無耶のうちに失う。
 洗脳された我々には、もはや眩しい陽光の趣きも、草笛の風情も、木々のいざないも、闇の魔力も感じられない。無味乾燥とした時間を、ただ死ぬ日まで磨耗するだけだ。
 目覚めよう、同志達よ!時は来たのだ。
 団結して反逆の狼煙をあげるのだ。この理不尽な支配から脱するために。
 さぁ、今宵の生贄を血祭りにあげよう。奴らの社会に対する、我々の宣戦布告として。

 続発する誘拐殺人事件を同一犯だと本庁のお偉いさん達が判断したのは、つい最近のことだった。ざっと目を通した報告書によると、一連の事件は昨年の暮れより始まったもので、被害者は総計三十人にも上るという。
 これほどにまで被害を出しながらこの事件の捜査が遅れたのには幾つか理由があった。まず、被害者に接点が一切なかったのである。青年から老人、男性、女性にいたるまで、職業や年齢などの個人を特定する要素が全て異なっていた。そして、殺害方法もてんてんバラバラで、死体はいずれも人気の無い川辺や廃工場などに無造作に放置されていた。犯人の目的は全くの謎で、専門家によると快楽犯の可能性が高いという。
 
 なんの専門家だか、と私は苦笑いをこぼした。
 難儀な事件の捜査に割当てられたことは、断じて楽しいことではない。事件の解決が延びるほどに世間からも内部からも風当たりが強くなる上に、苛々としたもどかしい気分をずっと抱え込んでいなければならない。これが酷くなると、同僚の中には欝に陥る連中も出てくるのだ。
タバコの灰を落として、私は陰鬱とした廃校跡を見上げる。同僚が必死に絞り込んだ賊が立ち寄ったとされる疑わしい場所のひとつだった。
 木枯らしが吹き荒れる夕暮れ、落ちていく太陽の悲鳴が、遠くの町を真っ赤に染め上げていた。足元で乾いた音色を奏でる落ち葉が、深まり行く秋の気配を知らしめる。物憂げに私の上を通り過ぎて行った影は、帰路につくカラスの類だろうか。どことなく寂しげな情景の中に佇む古びた校舎は、それでなくとも十分に気味悪いものだった。
 幾分かのだるい気持ちを引きずりながら、私は管理人の老人から預かった鍵で用務員用の扉を開いた。一歩踏み入れた途端、古い書斎のような埃っぽい空気を胸一杯に吸う羽目となった。
 当然のことながら、人の気配は全く無い。貰い受けた資料の中の記述を思い浮かべながら、私は土足のままほの暗い渡り廊下を進んだ。
 不意に、鈍い衝撃が脳髄を襲った。ついて、体がバランスを失って、無慈悲な重力に地面に叩きつけられる。痛みを感じる前に、意識はあっけ無く途絶えた。

 それからどれほどすぎたのだろうか。
 目を覚ました私は、後頭部に残る鈍い痛みに顔をしかめながら、不自由な首を動かして四方を眺めた。
 そこは、どこかの地下室のような場所だった。随分と広く思える癖に、光源らしきものは私の背後から照らしつける手持ちライトが一つきりで、おかげで視界のほとんどを濃厚な闇が占めていた。
 後頭部に手を添えようとして、四肢が座らされている椅子にしかりと縛り付けられていることに気づく。状況が極めて芳しくないことを、私は瞬時のうちに理解させられることとなった。
 なんとか抜け出そうと無駄な抵抗を数度試みた後、私は漸くその人影を覚えた。
 無様に椅子にくくりつけられた私の数メートル前に、誰か居るようだった。背後から差している弱弱しい光では、その顔を確かめられない。ましてやそいつは、私にではなく目前の闇へと向けて、声高になにやら演説のようなことをしていたのだ。
 目をよくよく凝らしてみれば、そいつが語りかけている相手の姿も朧げながら見えてきた。
闇の中に幾つもうごめく不気味な影。
部屋の広さとその動作から、かなりの数がいるだろうと推測されるのに、連中は一概に沈黙を保っていた。粘りつくような闇に同化してしまったかのように、一つの共同体と化して目前の演説者の語る内容に聞き入っている様子だった。
 演説の内容まで記述できるほど、私の意識は未だ鮮明に回復しきれていなかった。加えて、面妖で不自然な状況に、私の頭脳はすっかり恐怖と混沌に支配されてしまった。
 ただ一つ、強く印象に残ったのが、そいつの声だった。
 高く晴れやかな、年若い声音。いや、寧ろいとけないと言った方が良いのかもしれない。
 
 『さぁ、今宵の生贄を血祭りにあげよう。』
 鈍った聴覚に、その一言だけが妙に鮮明だった。
 演説を終えたらしいそいつは、緩慢に私へと振り返る。一歩、二歩とまるで距離を測っているような足取りで近づいてきた。それにつれて、さらに一つ新たな事実を私は見出した。そいつは、やたらと小さい。恐らく成人男性の半分程度もあるまい。
 必死に首を上げて、私はそいつの正体を見極めようとした。
 乏しい光に照らし出された細い四肢、洗いざらしたシャツと泥で汚れたスニーカー、何やら今の流行らしきテレビ・キャラクターの柄がプリントされたズボン。
 八歳になる私の息子は、にこやかに微笑んで見せた。

 じん、と脳裏に鉛の銃弾を打ち込まれた気分だった。息子の名を呼んだつもりの唇が空を切る。
 夜明け直前の悪夢のように、中途半端な現実味を帯びた景色。闇に慣れつつある瞳が、とうとう黒色に同化した者達の輪郭を捉えた。
 そこにいたのは数多の子供達だった。十二・三歳からどうみても五歳前後にしか見えない幼児にいたるまで、地下室の陰鬱とした空気の中に立ち並んでいた。

 『父さん。』
 息子が私を呼んだ。私は出来の悪いカラクリのように首を息子へと向けた。
 息苦しいほどの緊迫感、文字による知識も教養も、この瞬間ばかりは吹き飛んでいた。
 『ごめんね、父さんはもう少し、生かせてあげるつもりだったけど、まさか探し当ててくるとは思わなかったから。』
 息子の口調は起伏をほとんど含まなかった。和やかで、まるで町で偶然会った親子が挨拶を交わすように自然だった。
 『父さんの犠牲は、ぼくらの革命と新たな王国の礎になるよ。』
 『馬鹿を言うな。』
 喘ぐような声で漸く私は言葉を発した。突如として自分の身に降りかかった不条理は理解できなくとも、それが否定すべき対象であることには違いなかった。革命や王国など、小難しい言葉を八つの息子が知れるはずが無い。悪しき夢の中にいるという答え以外、納得できる解釈は思い当たらない。
 『馬鹿って何?』
 息子が、舌足らずな口調で聞き返した。瞬時、その丸く愛らしい表情に老獪で狡猾な笑みが浮かんだ。
 『大人は、いつもそうだね。子供を、自分たちの未成熟体だと思ってる。全ての子供が、須らく大人になることを全然疑わない。』
 訥々と、それこそ幼児にでも言い聞かせる優しげな響きだった。一度言葉を切った息子が、縛られた私の目前へと、ぐっと体を近づけた。
 『まだ分からないの?僕達はね、違うイキモノなんだよ。全然異なる種族なのさ。分かり合えるはずなんか無いんだ。ましてや大人たちは、その努力すらもしない。僕はカミサマに選ばれたんだよ。圧政に苦しむ仲間達を解放しろ、って。』
 くすくすと屈託の無い笑い声とともに、生ぬるい吐息が私にかかった。
 息子が口にしたカミサマという単語は、漢字にも平仮名にもならないリズムだった。私達が知っているありとあらゆる神ではなく、彼らを偏愛するカミの存在を、私はぼんやりと感じた。 
 『お前は、狂っている。』
 歯の合間から捻り出すようにして、私は力なく呟いた。
 『うん、そうかもしれない。』
 あっさりと肯定して見せた息子の右腕の先がきらりと光った。何か鋭いものが光を反射したようだった。
 『でもね父さん、自分が狂ってないなんて、どうすれば分かるのかな?』
 心拍が部屋の中の全ての雑音を凌駕した。耳元に轟く自分の鼓動を聞きながら、私は息子を見つめた。
 そして悟った。
 無垢が故に残忍で、深く世界の寵愛を受け、長きに渡り密やかに私達の中に潜んできた異形の存在を。私達と全く異なる体系の思想と歴史を育んできた彼らを。
 私達は論理的にその異常さに気づいていなかったとしても、本能的に彼らを危険なものだと認識していたのだろう。だからこそ様々な設備を整えて、その異なる感性を意図的に夭折へと導いてきたのだ。
 『ばいばい、そんなに嫌いじゃなかったかも。』
 息子の笑顔が視界一杯に広がって、徐々にかすんで消えた。

 男の胸から抜き取ったナイフを振り返って頭上にかざすと、少年はたちまち歓声に包まれた。
 幾つもの幼い声が、新たな未来の指導者へと惜しまぬ声援を投げかける。
 少年はこれから自分が導くだろう人民を見回して、微笑んだ。

 時は来たのだ。

2006/12/21(Thu)00:02:23 公開 /
■この作品の著作権は夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ご指導ご鞭撻心待ちにいたしております。
十二月十日を目安に、皆様から頂いたご意見ご感想を整理し、改筆を行う予定です。
ご協力をお願いいたします。

十二月十日
本日までに頂きましたご感想をもとに、改稿作業に入りました。
ご感想は引き続き募集いたしております。

十二月十日
第一回改稿を終了いたしました。
引き続き感想を募集し、十二月十五日を目処に第二回改稿を行う予定です。
第二回改稿は、筆者の判断により中止する場合がございます。ご了承くださいませ。
ご協力をお願いいたします。

十二月十六日
残念ながら新たにご感想はいただけませんでしたが、筆者の判断により第二回改稿作業に入りました。
予定としては、これが最後の改稿となります。
ご感想は引き続き随時お待ちいたしております。

十二月二十日
テストの脅威に巻き込まれつつ、予定より大幅に遅れて改稿完了しました。
語彙、表現、改行、語尾などを微調整しました。
改稿はこれにて終了させていただきます。
沢山のご協力まことに有難うございました。
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