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『破壊の引き金、狂った人生の駅で』 作者:七海 聖歌 / リアル・現代 ファンタジー
全角2280.5文字
容量4561 bytes
原稿用紙約6.6枚
プロローグ「狂った始まりの場所で」

何もかも腐っていた。自分の頭でさえも、この世界でさえも。自分は何も知らなかった。こんなにも世界が腐っていたとは。
「希望ってなんですか?」
 先生に聞けばさぞかし美しい答えが返ってくるだろう。着飾って曇り一つ無い綺麗事。聞いているだけで吐き気がする。でも純粋な子供はそれをただ受け取り、それが正しいのだと誤解する。希望は綺麗で、自分にもあるんだと大いなる誤解をする。それはなんとも滑稽で、薄ら笑いを顔に表してしまうほど。あぁ、なんて腐っているんだろう。まるで人生のレールを大人に綺麗にひかれているよう。錆びも無い。真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ終わりまで伸びている。標識は全部大人たちの理想の言葉。完全に作られた人生だ。
 ――それが嫌で嫌でたまらなかった。
 両親は勝手に大学を薦め、無理やり入れようと塾に通わせる。なんてくだらない、なんて醜いんだ。しかし、両親も綺麗事だけじゃ生きれなかったようだ。
 あいつらは、僕を捨てた。そう、捨てた。まるで飼っていたペットをダンボールに入れてそこら辺においていくように。あれに比べ、随分賢い。次の飼い主なんて探しもしていない。
「拾ってください」
 その一言すら、僕には掛かっていなかった。めんどうだったのか、それとも手間がかかるのが嫌だったのか。どちらにせよ、僕の事はどうでも良かったんだ。まだ10代なかば。夢だってあった、そんな時に……
 僕は家族を失った。居場所もその時無くなってしまった。
 でもその時決めたんだ。自分は絶対生きてやるって。この身がどんなになろうとも生きてやるって。僕の人生は僕が決める。
 人生のレールは、いくつにも枝分かれしているから。

*****

「ごめんねー、僕はそんなに優しくないんだ」
 乾いて、感情の失った声。薄ら笑ったような口が淡々とそう言葉を吐いた。きつく握られた短銃。短距離で撃ったのか、返り血で少年の手まで薄く汚されていた。だがそんなの気にしない。気にしている時間も無かった。
「お願いだ!どうか助けてくれ、頼む!!」
 すっかり怯えた殺しの対象。銃口を顔に近づけるだけで、高い悲鳴が上がる。実に滑稽だ。しかし、命乞いを聞く趣味なんて少年には無い。あるのは無の心。そして引き金を引く指だけ。
「死ぬ前の言葉、それだけでいい?家族に言いたい言葉とか無いの?最も、伝えはしないけど」
 鼻で笑い、再度銃を強く握る。怯えていた目の前の男性は、静かに口を開けてただこちらを睨んでいた。聞き取れやしない小声。何が言いたいのかさえわからない。ただ、怯えながらにその瞳は鋭かった。
「――はーい時間切れ。じゃあね、オジサン」
「……悪魔め」
「はっ?」
 微かに聞こえた声。思わず、手が止まる。
傷だらけで弱った体を無理に起こし、憎しみだらけの瞳で強く睨む。黙っていてもわかる。何を言いたいかも、何がしたいのかも。もう、何人も殺してきたのだから。
 男性は血だらけの手で、少年の黒い服の裾を掴んだ。無地の布に、べったりと男性の血がこびり付いた。
「悪魔め……お前は神に見離された醜い悪魔だ!!」
 裾にこめた力。もうすぐ死にそうだと言うのに、通常時と大して変わらないその力。いや、むしろ何時もより強かった。憎しみと執念がこもっているからだろう。
 少年はただしがみつくその男性に、銃を向け黙って見つめていた。
 息をするのも苦しそうだと言うのに、何故ここまで自分にしがみ付いてくるのか。そこまでして生きていたかったのだろう。だからと言って情けをかける事などしない。こいつが言っているように、自分は「悪魔」なのだから。
「……人間なんてほとんどが悪魔だよ」
 言葉はそれだけ。後は、勝手に指が動いた。もう、何も感じない……。

「うぁぁぁぁ!!!」
 ドン、っと低い銃声に混ざり高い悲鳴。目を閉じ、何も見えない状態で少年は撃ち続けた。銃の中に入っている弾全てを撃って、そして殺す。声が聞こえなくなっても指は止まろうとしない。露出した肌にかかる液体、目をつぶっていても頭の中にまで光景が浮かんできそうだ。赤く、少し黒味がかった血液。ぶちまけられて、色んな物を赤く犯した。
 カチリ、引き金を引いても弾が出ない。どうやら全部無くなったようだ。少年はそれに合わせて目を開ける。銃を握っていた手から滴り落ちる血。思ったより、返り血は浴びていなかった。ふと、目に入り込んだ無残な死体。いたるところに銃弾の跡が残っていた。
「……バイバイ、あの世で呪って貰って結構だよ」
 ズルリと腕であった物が地面に力なく落ちた。バラバラになった四肢は、投げ出されいたる所から血を流している。顔も、それが顔であったとはわからない。耳も口も鼻も目も、どれも形は残っていなかった。これが人間だと言って、どのくらいの者が信じただろうか。わからぬまま、ただ声を無くすだろう。
 少年は死体に背を向けた。そして無言のまま歩き出す。弾の無くなった銃の引き金を何度も引き、カチリと音を鳴らした。硬い地面を叩く靴の音、カチリと鳴る引き金の音。哀しく、その場所に響いた。
 一体何人目だったろうか?
 考えて苦笑する。何て悪魔みたいな事を考えているのか、少年もわからなくなっていた。あびた返り血をこすり、手に付いた他人の血を少し舐める。鉄臭くて味は何とも言えない。すぐに口から吐き出し、また笑って見せる。まだ成長期の身長、少し高い物のやはり幼さが残っていた。
 京橋 白夜、16歳。彼もまた腐った世界に終止符を撃ちたいと思う少年だった。


2006/09/25(Mon)22:12:04 公開 / 七海 聖歌
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