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『願うことは』 作者:晃 / リアル・現代 未分類
全角3454.5文字
容量6909 bytes
原稿用紙約10.75枚
SIDE・He〜彼の願い〜

 もう何時間経ったろう。 
 時計なんかこの部屋にないから、確かめるすべはないのだけれど。着いた時は明るかったのに、もう窓からは西日が差し込んでいる。
 開け放たれた窓から、様々な『音』が漏れてきた。
 車のエンジン音、靴と地面が触れ合う音、人のざわめき、鳥のさえずり。
 それらは世界が絶えず動いていると言う証拠のようなものに思えた。そうだ、世界は動くものだ。どんなに有名な人間が死んだとしても。
 それでも、自分の心は止まったままだ。止まったと言うより、乾いたと言った方がいいのかもしれない。どんな楽しげな会話も、美しい夕日も、心にはまるで響いてこないの。
 彼女が死んだと、告げられたときから。
 初めは何をいわれたのか解らなかった。嘘か、冗談かと思ったのだ。
 でも、眼前に横たわる冷たくなった彼女を見て、現実を理解する。彼女は間違いなく、死んだのだと。それが受け入れなければならない事実だと―――逃げる事が叶わぬ現実だと知る。
 胸に湧き上がるこの思いは。
 使者へ対する追慕の念か、無力な自分への怒りか。それとも、彼女を失った悲しみか。様々な感情が渦巻いて、胸と喉を圧迫する。どうすればいいのか解らなくて、何もかも打ち切れそうだ。
 ぽたりと、水滴がひざの上に落ちた。ズボンにしみを作るそれが何なのか、訝しげに思う。窓から覗く空は、うっすらとした雲がたなびいて、薄紫に染まっている。雨が降っているわけでもなければ、降りそうな気配すらない。
 不意に視界が歪んだ。 
「あぁ、そうか」 
 ぽたり、ぽたり。水滴は落ちる。 
「泣いてるのか、俺が」
 理解した瞬間、水滴はその量を増して。
 絶え間なく、落ちてくる、落ちてくる。
 ただ、あえてそれを止めなかった。止めるすべを持っていなかったから。
 自分は、泣く事がほとんど無かった。子供の時にさえ、泣いたという明確な記憶はほとんど無い。それが何故なのか、よくは分らなかったけど、それでも幼心にそのことに関して仮説を立ててみたものだ。
 結論としては―――結局、泣いても何にもならないから、という、ただそれだけだった。涙が何もうまないとは言わない。涙を流すことによってストレスが減少する事は科学的にも立証されているし、自分の感情を理由もないのに抑えるほど無意味な事はないと思う。
 それでも自分が泣かなかったのは、もはや逃げにも近い諦めの思考ゆえ。
 泣いても何も起きない、だから泣かない。
 目の前に横たわる恋人は、なきたいときには泣いた方がいいといったけれども。
 それでも、自分の中で泣くという行為を積極的に肯定できずにいた。
 なのに、思い出してしまった。泣きたい、なんていう想い、できればずっと忘れていたかったのに。目の前の現実はそれを許さない。許してくれない。
 
 
 俺がもう少し強かったら、君を救う事が出来ただろうか? 


 もう二度と起きない彼女の耳にそっと唇を寄せる。謝罪ではなく、感謝でもなく、ただいま胸のうちにある願いを伝えるため。
「     」
 ざぁっとカーテンを揺らし、入り込んできた風に、その言葉は、かき消された。
 それでも、なぜだろう。彼女には、届いたような気がした。

 
 俺がもう少し強かったら、君を救う事が出来ただろうか? 






 
SIDE・She〜彼女の願い〜 

 はた、と突然目が覚めた。 
 体を襲うのは、奇妙な浮遊感。浮いているのだろうか、と考え、思わず下を見てしまう。そこには、なぜか自分がいた。寝台に横たわる自分の隣に、恋人である彼が座っている。どういう状況か考える事、数秒。 
(そう言えば…) 
 死んだんだっけ、私。
 何と無く実感はわかないけど、それだけは分る。夢が夢とわかる感覚と似ているな、ぼんやり考える。
 自分が天井付近をさまよっている事に気付いて とりあえずふわりと地面に降りてみた。タイルの固い感触はない。
 どうやら、自分は本格的に死んだようだ。それは自らの肉体を見ただけでも明らかだった。青ざめた表情は、正に死人そのもの。
 よく死んだとき、眠っているようだ、なんていうことがあるけれど。眠っている人は、こんな血の気の失せた顔色をするものだろうか?そこにあるのはもう、生前見慣れていた自分ではなく、ただの有機物の塊だ。
 ふと窓の外を見る。差し込んでいた西日は大分暗くなり、ぽつぽつと電気がつき始めていた。人の波はいまがピークなのか、一定の流れを作りながらも、どこか不規則に流れていく。
 不思議だな、と思う。
 自分と言う人間が死んだとて、世界は何一つ変わらないのだから。それが妙に虚しくもあり、けれどどこかほっとする。
 この世界が好きだから、自分後時が死んだ位でどこも変わって欲しくない。
 さて、と視線を彼に向けた。下を向いているせいで彼の表情は伺えない。自分が横たわる寝台に肘を着いて、組んだ手の上に額を乗せている。 
 ぽたり、と不意にシーツに染みが生まれた。
(何…?)
「ああ、そうか」 
 疑問に答えるように、彼が顔を上げる。 
 その表情を見て、愕然とした。 
 ぽたり、ぽたり。 
 彼の目から溢れた水滴は、頬をたどって顎へ滑り、重力に従ってシーツやズボンに染みを作る。 
 泣いているのだ、彼が。 
 彼は泣かない人だった。感動モノのホームドラマを見た時も。足の骨を折ったときも。自身の両親が、死んだときですら。彼は、涙1つこぼさず、目を潤ませる事もなく、凛と、ただ真っ直ぐな瞳をしていた。まるで未来を見据えるように。 
 何故、と問い掛けたことがあった。彼は少し考えた後、その価値が無いから、と笑いながら言った。
 泣いたところで、俺如きが泣いたところで、なにもかわらないだろう?
 そんな事ないのに、そう思った。泣く、というのは、感情に付随してくるものだ。高まりすぎた感情を外に押し流す――――それが涙だと思う。泣く事を我慢すれば、うれしい時も悲しい時も、悔しいと時も腹が立った時も、その感情を思いっきりぶちまけられないではないか。彼は感情を抑える事なんか馬鹿馬鹿しいといっていたけれど、泣く事を我慢すると言うのは、必要以上の感情を出さないと言う点で一緒なのではないか。
 確かに、大人になれば我慢しなければならない場面も出てくるかもしれない。それでも、そんな毎回毎回我慢して耐える必要性はない。少なくとも、自分の前ではさらけ出して欲しいのだ、全てをとまでは言わないから、できるだけ多くのことを。
 そう言っても泣かなかった彼が、泣いている。 
 肩も震わせず、嗚咽も漏らさない静かな泣き方ではあるけれど。それゆえに、有り余るほどの悲しみが伝わってくる。
 (ごめんなさい)
 口をついて、するりと言葉がこぼれた。
聞こえない事は分っていたけれど、言わずにはいられなかった。ただあの真っ直ぐな瞳を曇らせているのが自分だという事実に、どうしようもなく打ちのめされたから。
 襲うのは激しい後悔。
 彼をこんな形で泣かせてしまった自分への、激しい怒りと共に、湧き上がる、湧き上がる。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!) 
 なんどもなんども、叫んだ。それでも彼は気付かない。
 当たり前だ。自分はもう死んでいるのだから。かれはまだ生きているのだから。生きるものと死んだ者。その隔たりは、あまりにも大きく、深い。
 ふと、彼が自分だったものの耳に唇を寄せる。そうして漏れたのは、切実な、泣きたいほどに切なく、辛い声音。
「嘘でも、偽りでもいいんだ。ほんの少しの間だけで良いから――――会いたいよ、もう一度」
 ささやかれた言葉は、入ってきた風にかき消されるほど弱弱しかった。胸が痛くなる。不思議な事に、この姿でも涙は流れるらしい。流れたとしても、彼の涙のように染みを作ったりはしない。
(ここにいるよ、ここにいるから、ねぇ、私を見て。ごめんね、ごめんね)
 なきたいときは泣いた方がいいなんて言ったときもあったのに、その彼の泣顔を見るのが、酷く辛い。側にいるのにその涙をぬぐう事すら出来ない自分の無力さを思い知る。
 せめて、自分の言葉が伝えられたら良かったのに。
 だけど、どれだけ必死になったとしても、届かない。永遠に、届く事がありはしない。
(泣かないで―――お願いだから。笑っていて)
 口にされたその願いすら、彼に届かず、空気に消えた。

                            終
2006/09/07(Thu)19:06:23 公開 /
■この作品の著作権は晃さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、晃です。
いきなり暗い話でごめんなさい。
泣かない、というのは辛い事です。彼は、泣けないんじゃなくて泣かないだけです。
泣けないと泣かないでは、大きな違いがありますよね。

皆様のご指摘を受けて、改めて書き直してみました。雰囲気とテーマ自体は変わらないよう気をつけたのですが…うーん。
不自然な点ありましたらお教えください。

それでは。
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