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『意味』 作者:あひる / 未分類 未分類
全角9050.5文字
容量18101 bytes
原稿用紙約30.2枚
水がなくなって枯れそうなあたしに、キミは水をかけてくれた
―――誰かに支えてもらわなくても独りで生きていけるから

 だからキミの手が、鬱陶しかった。

 一生懸命、生きたかったというキミの声が。







君が思っているよりも、生きるということは難しかったよ。








 普段と何も変わらない日常。正直、飽きる。

 少女は、自分の部屋のベットで寝転がっていた。
 夏休みなんて、かったるい。学校へ行くのも嫌だけど、夏休みよりはマシだわ。何もすることもなく、ただじっと時間が経つのを待っているなんて。

「おつかい行って来てくれるかしら」
 下から母さんの声が聞こえる。少女―――あたしは、いつもと違う動きを出来るのは嬉しいけれど面倒臭いことはしたくはない、という性質なのでいつも同じ返事を返す。
「いま勉強してるの、静かにして」
 あたしは、さも勉強しているかのように返事をする。ハメる、と言うのかもしれない。
 それがあたしの、習慣になってしまっているのだ。それを自分で、いけない事だとは思わない。
「そう……。お勉強頑張ってね」
 何言ってるの? 勉強なんかしないわよ。そーんな面倒臭い事。
 あたしは母さんのことを嘲笑う。母さんのこの言葉から、少し残念そうな素振を見せながら、それでも笑顔を発している様子が思い浮かべられる。けど、あたしはそんなのに同情はしないわよ。こう育てたのは、あなたなんだから。

 ああ、つまんないなぁ……。
 何か死にたいなぁ……。

 その言葉が、あたしのあたまを支配する。そういうと、なんか吹っ切れるような気がする。気、だけかもしれない。
 そんなことを考えている間、月日は流れ、あたしの口癖になってしまった。
 暫くして、あたしがうとうとし始めた頃、数メートル離れた机の上で、携帯が音楽を鳴らしていた。
 あたしは暫く放置していたが、その音が耳障りなので、電源を切りに立った。
―――誰よ、もう。疲れたぁ……。なんか、死にたい……。
 何もしていないのに、精神的に疲れる。そうすると、何故か『死にたい』を連発してしまう。
「着信……誰……」
 覚束無い足取りで、携帯を手に取る。そして寝ぼけているせいか、耳に持っていく、そんないつもと同じ行動パターン。

「もしもーし」
 そんな陽気な少年の声に、綾芽の朦朧としているあたまが、またはっきりと回転しだした。
―――出るつもりじゃなかったのに……。
 あたしは後悔しながら、耳から携帯を離した。この陽気な声、あたしの最も嫌っているタイプ…。
 そして、はぁとため息をついた。
 何をするのにも疲れてしまう。

 そんなあたしは、生きていて何になるのであろうか?



「もしもーし、聞こえていますかー?」

 とても陽気な声が、あたしの耳に響く。ああ……、うざいなぁ。こーゆー声、鬱陶しい。
 結局電話に出てしまったので、あたしはしょうがなく用件を聞くことにした。どっちにしたって、適当な返事をして、すぐに電話を切るはずだった。
「聞こえてますよ。それで……なんですか?」
 あたしは体勢を崩して、机によっかかる。腰に手を当てて、ラフなポーズをとる。
「え、あ……本当ですか? あーよかった、電話通じないかと思ったぁ。あ、電話の相手の人さん、ありがとうございますっ! ところで質問したいんです―――」
 少しだるそうな感じで喋って、相手を困らせよう、という考えは呆気なく散った。
―――少しは相手の気持ち、考えて話せよ!

「生きているって、幸せですか?」

「はぁ?」
 意味不明な言葉。こんな質問、聞いたこと無い。
『幸せ』? はぁ? 何言ってるわけ? そんな、無理強いしないでよ。
「……意味分かんないんだけど」
「え……その通りに答えてくれればいいんだよ。そんな無茶言われても、ボク困るよ」
「質問自体が分かんないっつってんのよ!」
 あたしはつい興奮して、携帯を落としそうになる。
 コイツ、どうにかしちゃってる。きっと頭逝っちゃってるんだ。普通の人なら、こんな質問しないもの。

「そんな……―――ボク、もうすぐ消滅するんだ」

「はぁ?」
 コイツの口から連発するのは、意味不な言葉。
『生きてる』? 『幸せ』? 『消滅』? 意味分かんないし。特に『消滅』。なんか非現実的で、すこしかっこいいと思ってしまう。
「ちょっと、意味分かんないんだけど」
「ボク、30分後にこの世界から消えるんだ。その前に、聞きたかったんの」
 30分後に、アンタは消えるって? そんなの、あたしに関係ないじゃない。
「さっきの、意味不な質問?」
「うん。ボク、生きる事が出来なかったから、それだけでも知りたくて」
 生きる事が出来なかった? じゃあ……貴方はなに者なのよ。
 あたしが『真実』を掴もうとした瞬間に、誰かが『真実』を遠くにやってしまったみたいな。本当のことを隠して、あたしには教えてくれなくて、焦らされている感じがして、とてもイラつく。

「あたしには、無理よ。そんな質問、答えられないわ」
「どうして?」
「生きる事に、もう飽きてしまったから」
「それは哀しいね」
 哀しい? あたしはそう思ったことがないけど。確かに、面倒臭いとか、死にたいとか、よく思うけれど、自分のことが哀れだとは思わない。
「けど、ちゃんと答えて。きっと答えはあるから」

「そう? てかさぁ、名前なんつーの? それくらい言ってからじゃないと、何か不確かなんだよね」
 そうよ。いきなり『答えて』なんて、非常識すぎるわ。せめて、名ぐらい名乗りなさいよね。
「ああ……そういえばいってなかった……。ボク、正確な名前は長いから……通称だけでも教えてあげる」
 教えてあげるって、何偉そうに言ってるの……。ムカつく、何コイツ。

「ボク、アンドロイドなんだ」

「え……あ……何ソレ……」
 ああ、言葉が詰まるなぁ。コイツ、相当頭逝っちゃってるんだ。そうだ、そうだよ。
「人間になることを、失敗したんだ。おかげでいまは、こーんな身体。あ、電話って直接見えないんだったよね?」
「当たり前じゃん」
「あー……そうそう。本題に移って。早くしないと、ボク消滅しちゃう」
 そんなこと言ったって、あたしは同情しないわよ。けど、可哀想だから質問に答えてあげることにした。
「微妙。正直もう飽きた。けど、まだいい事が沢山出来るかもしれない」
 あ、なんかあたし、コイツに慣れちゃったのかもしれない。人間と、こうやって話したこと、無いし。
「それなのに、飽きちゃったの?」
「うん。あたしは短気だからね」
「人生って、残酷なの?」
「そうだよ。裏切られるものなの」
 そうなんだよね。大人になるにつれて、全てがつまんなくなってくる。
「なんか、キミって人間じゃないみたい」
「……そうかもね。キミよりも人間じゃないみたい。自分でもそう思うよ」
「キミは現実離れしすぎなんだよ。もっと、初めて自分以外の奴のために、行動して哀しんでよ。そうやって、人間になっていけばいいじゃん。ボクはもう無理だけどね」
 哀しいことは言いながら、アンドロイドはクスッと笑う。
「……だからいまの時代は、ヤバいんだよね」
「ん……?」
「死ねとか、普通に言う時代だもん。殺しとかが起きてたって、当たり前じゃん」
 あたしは簡潔に言った。あたしのことを、驚きながら見るアンドロイドのことも気にせずに。
だって、べつにいいじゃん? こーんなどーでもいいイタ電を気にしなくても。

 あたしは一向に喋らない。相手もなにも喋らない。
 沈黙が続く中、奇妙な音が聞こえた。

―――ピーッ

 携帯から発せられる、奇妙な機会音。耳障りだなぁ……何、コレ。あ……電池切れだぁ。
「何の音?」
「充電忘れてたんだ。あと25分で切れるの、忘れてたあ……」
 額に手をあてて『あちゃー』のポーズ。無意味だけど、これがあたしの習慣になった。
「……30分……」
「え……?」

―――ボク、30分後にこの世界から消えるんだ

 あ……。コイツ、もうすぐ消えるんだった。
「そーかぁ……。いまは、もうグチャグチャだったんだね。ありがとう。ボク、人体実験に成功しなくて良かったなぁ」
 そんな、グチャグチャまでは言ってないし。いまはIT 社会で便利になったし。あたしが言ったのは、あたしの思うがままの気持ちだよ。
『爆破から、あと5分』
 そう考えているあたしの耳に、耳障りな機械音が聞こえた。―――あと1分で『爆破』?!
「ちょ……爆破?! どこでよ、周りの人たちが大変じゃない!」
「別に……そんな大きいのじゃないよ。周りの人には害は加えないもん」
「そう……? そうならいーんだけど」
 あたしは携帯から流れ込んでくる少年の周りの音声を聞き取る。
 小鳥の囀り、噴水の水、子供たちの声、飛行機の音、お婆さんたちの声。
 あ…此処、T公園だ。この婆ちゃん、町内会の集計係のじゃん。きっとまた、ゲートボールやってるんだ。

「ああ、やっぱりキミは人間だ」
 すこし間をあけて、アンドロイドがつぶやいた。ふっと、笑うような感じで。
 けど、笑ってはいないんだろうな。少し哀しそうで、自分のことを哀れんでいる感じなんだ、きっと。
 そして、悔やんでいるんだ。『ボク、人体実験に成功しなくて良かったなぁ』、なんていいながら、本当は生きたかった、っていう気持ちを隠し持っているんだ。
 アンドロイドは、便利だけど『幸せ』が分からないんだ。
 生きている事がどんなに辛くても、アンドロイドは『生きている』ことが幸せなんだ。

―――そうかぁ……。あたしは、幸せなんだ。

「なんで? 人間じゃないみたい、とか言っておきながら」
「やっぱり、実感した。他の人を、心配できるっていいな……。キミは感情を持っているんだ」
 ああ……キミは感情を持っていないのか。じゃあ、楽しいということも、悲しいということも、おいしいということも、全部知らないんだ。

「心配できるって、いいことなんだ……。あたしは、いまの世界に慣れちゃっているから、なにも感じないんだね。なんか、微妙だよ……」
 慣れって怖い。人からそういわれて、初めて気がつく。
「うん……食べないでも生きていける、人が死んでも悲しめない……。すっごく辛いんだ。分かる?」
「いま、分かった。キミは、えと……失敗したんだよね? むかしは生きていたんだね。食べる、悲しむ、楽しむ、ということを知っておきながら、できないなんて、拷問だね……」
 あたしはいま、楽しいと感じている。コイツと話していると、いままで気がつかなかったことに気づく。新しい発見って、面白い。
 でもキミは、面白いとは感じていない。ただ、あたしと話しているだけ。
「だから―――あたしと話していて、つまんないんだ」
「……いや、そんなことじゃなよ。ただ、……ね?」
「うん」
 話していると、なんか面倒くさい、とか考えなくなった。
 いきなり質問されたときは、なんかだるくて、たっているのも、訊いているのも、面倒臭かったけど、これは面白いから? なんでだろう。

「あたし……キミに会いたいな」

「え?」
 いつもだったらこんな電話、無視しちゃってんのに。いや、無視どころじゃない。こんな非現実なこと、信じない。
 だから、こんなに興味が湧いたのは、初めてだ。
「いい?」
「いいけど、分かるの? ボクの居場所。それに、あと―――」

 答えられる前に、行動! それがあたしのモットー。
 あたしは『正しい』と思う事だけする。すべて勘だけれども、あたしはあたしを信じるから。
 だからこの行動も『勘』。衝動的に、動いてしまう。
 ただそれだけ。
 いまあたしは、コイツに逢わなきゃいけないんだ。これも勘だけど、そーゆー胸騒ぎがする。

「分かってるよ、心配しなくても大丈夫」
 そう言って携帯電話を切った。世界が戻った感じ。なんか違和感があった。
「何処か行くの?」
 母さんに呼び止められる。
「うん、行ってくる」
 ああ……こんなまともに返事をしたの、何ヶ月振りだろう。

「あー……暑い」
 自分が人間であることを実感している。
 なんか自分が恵まれているような気がする。
「生きてるんだよなー」
 つぶやいて、暫く空を見上げていた。
 広くて、大きくて、青い空を。こんなもんがいつもあたしたちの真上にあるのは、当たり前で、ないのがおかしいと感じられる。
 これも慣れ。
 最初は、なんで空があるんだろう? って疑問を感じたくらいなのに。

 生きているのは難しい。
 それを乗り越えるのに意味がある。

 そんな簡単なこと、いままで忘れていた。
 自分が此処にいて、いま生きている事は当たり前だと思っていた。けど、違うんだ。

 教えてくれて、有り難う。


「……アンドロイドー?」

 公園についた。けど、あの少年らしきものは見えなかった。もしかして、あたしと想像しているのと懸け離れているのかもしれない。だから見落としてしまったのかも。
 蝉があたしを嘲笑うかのように大きな声で鳴く。そして、ノースリーブに短パンという格好の露出度の高いあたしに、蚊がこれでもかというくらいに襲ってくる。
 だから夏の公園は嫌い。

「あ、人生に飽きちゃった人!」
 そのとき、いきなり後ろで陽気な声が聞こえた。それは正しくあのアンドロイド。
 クリクリとした青い大きな瞳で、あたしを興味津々の目で見る。まるで、生きているような目。あたしよりも、はっきりしていて、逞しい。
「キミ、そんなに若かったんだ……。てっきり、中学生かと思ってたよ」
 あたしの目に映るアンドロイドは、美しい、そして柔らかく温かい肌を持つ、小学校4年生くらいの子。難しいことを言うので、中学は行っていると思っていた。
「そりゃあ……そんなに老けてたらたまらないよ?」
 はっきりとしたカタチを持っていて、自分の意思で動く。本当にアンドロイドなのかなぁ……?
 コイツは確かに、笑った。これは喜んで、嬉しくて、面白くて、恥ずかしくて、笑ったんじゃないの? だからキミは、感情を持っているんじゃないの―――?
「……どうかした?」

「え……ううん。ただ……思ったの。やっぱりキミは人間みたいだって」
 そんなあたしの唐突な言葉に、アンドロイドが目を丸くした。
 ほら、驚いている。キミが気づいてないだけなんじゃない? 感情が無いっていうのは。
「……有り難う」
 笑った。アンドロイドが笑った。それはまるで人間みたいに。
「キミも―――人間らしいよ」
 柔らかく、とても優しく、そして儚く散った笑顔。哀しみの色が、少しあらわれる。
 あたしはすこし、気にかかったがアンドロイドには伝えなかった。

「……有り難う、嬉しい。キミと逢えて、あたしは人間になったんだから。とっても……嬉しいよ」
 目尻が熱くなる。情けない、と思いながらもあたしはそのままの笑顔でいる。
「なんで泣くの?」
「なんか…嬉し涙?」
 正直言うと、あたしにも分からない。この涙の意味が分からない。
「ふふ…なんか可笑しい。あたしがいて、あなたがいること。これは運命なのか、偶然なのか、必然なのか」
「きっと必然だよ。ボクがつくられる前から、決まっていたんだ」
 アンドロイドは、少し楽しそうに笑う。その目の後ろには、悲しみがないように、楽しそうに。
「……そうだと、いいね」
 そしてあたしが笑うと、またアンドロイドは優しく微笑んだ。

「あーあ……。キミが生きていれば、良かったのになぁ」
 あたしはそこらへんの木に寄り掛かる。わざとらしくため息をつく。
「なんで? 別にボクが生きていても……」
「だって……何でだろう。そんな気がするの。なんか……」
「なんか?」
「うん」
 あたしは短く返事をすると、アンドロイドの頬を触った。
「温かくて、柔らかい」
「人口肌だからね」
「ふーん」
 アンドロイドは寂しそうに言った。そんな陽気な声をして、いきなりシュンとならないでよ。
「キミは本物だ」
「うん」
「キミは生きている」
「うん」
「とっても羨ましく思う。けど、命をよこどったりはしないよ」
「うん」
 アンドロイドの、冗談被った言葉に、あたしがはにかむ。
「だから、教えてあげる」
「ん……?」
「ボクがうまれたのは、白兎博士のもとだ。それだけ」
「は……くと?」
「そう。ただ、それだけ知っておいて欲しいんだ。ボクは欲張りだから」
「うん……」
 意味が分からなかったけど、それはあたしに知っておいて欲しいことなんだ。あたしは一生懸命『白兎博士』を覚えた。

「ボクも、キミに逢えてよかったと思う」
「あたしのそうが、そう思わなきゃ」
 あたしはそよそよと吹く、生暖かい風を鬱陶しそうにしながら、アンドロイドを見た。
「どうして?」
「いまのあたしがいるのは、キミのせいだから」
「……それは、褒めてくれてるの?」
 アンドロイドが、あたしを下から見る。 青い目があたしだけを見つめている。

「そうなるかな? あたしはね、絶対に冷たい冷酷人間になっていたと思うの! 人を騙して、なんでも面倒臭がって……」
 そんなあたしが、いまは?
「此処まで来てくれたんだ、ボクのために」
 アンドロイドが、嬉しそうに微笑む。あたしもつられて笑う。

「うん。生きている事を実感できた。この世界にいるのも、偶然かもしれない。けどね、神様があたしを選んでくださったの! この世に、生きる事を許してくれたの……」
 偶然、かもしれない。けど、あたしはいま生きている。
「なんか大袈裟」
「大袈裟でもいいよ。とにかくあたしは、生きている事を実感できた。本当に有り難う……」
 あたしはアンドロイドの小さな手を握った。
「うん……」
 
 あたしは生まれ変わったんだ。蛹から蝶が生まれるように。

「そうそう、あたし言いたいことがあったの。実はね、人生って―――」
 あたしが言いかけたところだった。アンドロイドの身体全体が、すこし歪む。
「あ……もう時間だ。ゴメンね、最後まで聞けなくて」
 歪みは、足から顔まで全てに。それと、段々ボケてきた。
 時間? もう、消滅―――消えるってこと?
「あ……そうだ。ボクね、キミにボクの運命を托そうと思ったんだ」
 託す? その言葉は、キミがもうすぐ死ぬってことを示しているよ。
 アンドロイドは、溶けていく。無くなっていく、そこに居たことの証拠を消すように。
 そう、まるで、綺麗に書けた絵の上に、水をたらして、絵がボケていくような感じ。
 アンドロイドは、原型を失った。
「え……あ……」
「これは必然だったんだ。キミの言ったように、ボクはキミを支えるために生まれたんだよ」
 声だけがする。何処? 何処にいるの?

「ボクの分まで生きてね」

 パン、と小さい音がして、アンドロイドは消えた。
 ドラマみたいに、さっきまでアンドロイドがいたところを触ってみる。筒抜け、ただの酸素のカタマリ。
「…ウソみたい」
 あたしは公園に立ち尽くして、涙を流すまいと踏ん張っていた。

 誰にも同情しなかったあたしが、人間関係を築こうとしなかったあたしが、30分間しか喋っていなかった、人間でもない野朗に、涙を流すなんて情けない。
 初めて自分以外の奴のために、行動して哀しんだ。

―――キミを支えるために生まれたんだよ

 有り難う。
 本当に有り難う。

 キミはあたしを支えるために此処にいたんだ。

 そして、あたしに必然的に電話を掛けて、あたしのこころを揺さ振らすことを言った。
 
それは必然であって、偶然なんかじゃない。ずっとむかしから、決められていたこと、必ずそうなることなんだ。


『有り難う』


 それからあたしの命でアンドロイドの命を助けられた、ということを知ったのは、あたしがアンドロイドを失って2度目の春が訪れようとしているところだった。
「なんで……教えてくれなかったのでしょうか……?」
 涙と一緒に出てくる、悔しさを表す言葉。
 あたしはアンドロイドが死ぬ間際でいっていた『白兎博士』のもとを訪ねたのだ。
「きっと……君がとても大切だったんだ。命を削ってまで、守りたい人…? みたいなね」
 いまでも白兎博士の言葉が胸を焦がす。
 すこし軽い男であったが、アンドロイドの生みの親としてはぴったりの素敵な人だった。

「ありがとう、ございます……」
 あたしは白兎博士からもらったお土産を持って、家に帰った。お土産どころじゃないのに、白兎博士は無理矢理可愛い小包をあたしに渡した。
「…何だろ」
 あたしは浮かない目で小包みを開ける。時計が入っているような、小さな小包み。
 中から出てきたのは、博士の書いた手紙と、なんかの部品。

『こんにちわ! 大切なお友達を亡くして、お辛い事でしょう。ですが、アンドロイド―――0045は幸せでした。あなたのような素敵なお友達がいて。
わたしも、生きる時間を決めたアンドロイドなど作りたくはありませんでした。けれども、それが0045たちの残された生きる道なのです。もっとわたしが、研究を重ねればよかったのです。このことは、本当に申し訳ないと思います!
小包みの中に入っている部品は、0045の身体の一部です。お骨、ではありませんが、形見です。よければ貰ってやって下さいね。
あと、0045の遺言。きっと最後になんか言ったと思います。叶えてやってくださいね。
それでは、この先もずっとお幸せに。』

 長々と綴られた謝りの言葉。博士が悪いわけじゃないのに。
 あたしはその部品―――形見を握り締めた。
 透明で、透けてあたしの足が見える。とても磨かれていて、つるつるで綺麗。
「アンドロイド……」

 きっとこの先も、アンドロイドはあたしのことを支え続けてくれる、そんな気がした。

エピローグ

 何かが亡くなったのに、あたしと行き過ぎる人はなにも気づかない。
 ましてや、あたしのように泣くものもいない。

 世界は残酷だから。

 けれどキミには生きていて欲しかった。
 どんなに世界が残酷でも、きっと支えてくれる人がいれば、楽しくなるはず。
 あたしはそれを伝えたかった。
 キミがいれば、あたしは幸せって。

 その前に壊れてしまったけれども、大丈夫。あたしはいつまでも待っている。
 ほら、いまもあたしのとなりで、キミは変わらず微笑んでいる。

 気体となって、今日もあたしの周りを飛び交う。
2006/10/20(Fri)19:01:19 公開 / あひる
■この作品の著作権はあひるさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 お久しぶりです。腕がまた、おちたかもしれません。
 今度は人生に落胆した少女をメインにして、すこし非現実的な内容のものを書いて見ました。
 人間は一人じゃあ生きていけないよーっていうことを表したかったんですけど、伝わりましたでしょうか?
 すこし短くなりましたが、これでおしまいです。
 何か変なところがあったら、構わず注意してくださいね。
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