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『イノセントワールド』 作者:みん / 恋愛小説 リアル・現代
全角1011.5文字
容量2023 bytes
原稿用紙約3.7枚


真っ赤な金魚を今年、初めて見たのは6月の終わり頃だった。
ぷくりとした体にセロハンをつけた様な尾びれ、こちらをくるりと見つめる魚眼。
その金魚の目には私は写っているだろうか。
ただただ、金魚蜂にしか写ってないだろう自分の顔をガラス越しに見つめた。
私を嫌がっているのだろうか、何度も向きを変えても私に尻を向けてくる。
食べてしまおうか。一瞬そう思った。

「どうしたの、その金魚。しかも一匹だけ?」
「あ、お帰り」

母が大きな紙袋をぱんぱんにさせて帰ってきた。
しかも、服は濡れて息を荒くさせながら袖で額に付いた水滴をぬぐっている。
私は顔をしかめながら聞いた。

「何?外、そんなに暑かったの?」
「違うわよ!!すっごいドシャ降りの雨!!」


気づかなかったの?あ、洗濯物取り込んでるはず無いわよね!!?もう!!
母は呪文のように私に怒りながらすごい形相で階段を駆け上がっていった。
般若のようだと思った。
階段を駆け上がる音と重なるように鞄や紙袋を投げ捨てた音が聞こえた。
ある意味階段を大股で駆け上がる母の音より大きかった気がする。
私はあとで買ってきたものを、ファッションショーの様に見せ付けられるんだろうなと考えながら、立ち上がって窓へ駆け寄る。
確かにすごい雨だ。
バケツをひっくり返したように降っている。
もう、梅雨だ。そして、あっという間に夏が来てしまう。
高校最後の夏が来てしまう。
庭には紫陽花が鮮やかな色をつけ始めていた。
紫、ピンク、水色。
庭のあちこちに咲いている。

早く来ないかな。いや、まだ此処でいいかな。


今度は窓越しの自分の顔を見た。
昨年より長くなった髪。
もう、腰まで届きそうな勢いだ。
夏といえば思い出さなければいけないものがある。
愛しさに苛まれたあの頃の髪の短い自分と「彼」。
もうすぐ、あれから一年を迎えてしまうのだ。
早いなぁ。
一年前と変わっているだろうか私は。
大人になっているだろうか。
胸は、顔は、腕は、足は。
時をちゃんと歩めているのだろうか。
髪だけ伸びているのは何だかいやだなぁ。
少し目を瞑って感傷に浸っていると、すぐに現実に戻された。

「ツカサ!少し手伝って!!勉強も何もしてないんでしょ!!」


上から大きな金切り声が聞こえた。
その声に驚いたのか紫陽花に乗っていた蛙が飛び上がった。

「もー!一言多いのよ、母さんは!!」


私も母に良く似た声で返す。
今度は鉢の中の金魚が大きく口を開けた。
2006/05/28(Sun)12:17:49 公開 / みん
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■作者からのメッセージ
初めまして。
小説は初めてに等しいのですが、一生懸命推敲しております。
これからよろしくお願いします。
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