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『彼女は悩んでいる。 〜改〜』 作者:もろQ / リアル・現代 恋愛小説
全角3511.5文字
容量7023 bytes
原稿用紙約9.45枚
「彼女は悩んでいる。」の改訂版です。5/6さらに改訂
 彼女はよく色々悩んでいる。友達の事から、仕事の事、将来の事、果ては人間の生死についても考えている。時と場所を問わず、色々な所で色々悩んでいる。僕はただ、なんとなく面白いなーと思って、くっついて歩く。

 彼女の眉間におけるしわの寄せ方はすごい。なんていうか、ギューッとなって、柔軟で、それでいてスキがないっていうか、とにかくすごい。何か突然そこに新たな生命体が産まれたみたいな。ビジュアル的には。
 あんまりすごいから、一度だけ指摘してみた。そしたら彼女、自慢げな顔して「これは苦悩の証。長年悩んできた勲章みたいなものよ」
 なんて答えた。勲章って、そんな大袈裟なものなのかな。僕が笑うと、彼女も照れくさそうに笑みを浮かべた。そしてまた眉間にしわを作る。

 彼女は小さい頃からチャレンジャーだった。子供の頃には女優を目指し、中学校でテニスにハマり、高校では翻訳家を夢見た。本格的な英語の勉強をするためなんとアメリカへ渡った。しかし3ヶ月で断念し、そのまま普通に帰国している。その後は大学にも行かず、喫茶店、運送業、ピザ屋、書店、魚屋など十回以上もアルバイトを経験し、そして現在は小さな楽器店で働いている。
 読んでいてワケが分からないだろう。その人物を実際目の当たりにしている僕でさえ分からないのだから、無理もない。この自由奔放な彼女の性格に、どうやら両親も愛想を尽かし、ついこの前まで音信不通だったらしい。まあこれだけ豊富な人生経験をしているからこそ、悩みの種も尽きないんだろう。あらゆる場所のあらゆる人と、色々な思いを巡らせているんだろう。これだけ豊富な経験をしているからこそ、僕のような話題のない人間は簡単に惹き付けられてしまう。

 彼女と僕は、今日も近くのファミレスで落ち合う。お互い仕事があるからどうしても夜遅くになってしまうが、それでも僕らは飽きもせず店のドアをくぐる。
 たいてい僕が先に席に座っている。遅れて彼女がやって来る。楽器店で働いているから、たまにギターやサックスなんかを連れてきたりする。椅子の側に楽器ケースを下ろし、ふうと一息ついたりする。
 席に着くなり彼女は悩みを打ち明ける。突拍子もない話をいきなり聞かされるので、長年一緒にいる僕でもたまに驚く。例えば、百円玉のどっちが表でどっちが裏だったかみたいなどうでもいい事を考えていたら、突然「安楽死を認めるべきか」というなんとも重苦しい議題に一方的にすり替えられてしまう。働き先で一体何があったのか、いささか不安になる。でも、百円よりよっぽど面白そうな話題を振られ、僕は思わず黙って彼女の話を聞いてしまう。
 カラン、ドアのカウベルが音を立てる。さて、今日はどんな悩みを持ち出して来るやら。

 彼女は別に答えを望んではいない。ただ単に苦悩の時間を楽しんでいるだけなんだ。そうでなきゃ、話している最中あんなに嬉しそうな顔をするわけがない。まあ例外もあるけれど、考え悩む事で、彼女は一種の快楽を得ているんだろうと思う。考える事が楽しいという。ゴールのない迷路をひたすら進んでいる。僕にはその楽しさはいまいち伝わらないが、それでも、彼女が楽しいというなら僕は一向に構わない。僕はただ、彼女の話が面白くてたまらない。

 彼女が悩みを打ち明ける相手は、どうやら僕一人らしい。昔はバイト仲間とかとも色々話したらしいが、回を重ねるごとに相手がキツい顔をしていくのだという。極端に言えば、口に出した悩みなんて愚痴の一環みたいなものだから、中にはそれが「重い」と感じる人もいるのだろう。とにかく、話し相手がついにいなくなった彼女は、しばらくあてを探してウロウロしていたらしい。そこでちょうど、彼女は僕に出会った。
 実際、最初は変な人だなあと思った。けど、彼女の「悩み癖」には別段嫌悪感を抱かなかったのを覚えている。僕にはむしろそれは魅力的だった。都合のいい話し相手を見つけて、彼女も僕の事を「いいカモだ」みたいに思ったのだろう。
 でもよく考えたら、本来いろんな人に配られるはずの彼女の苦悩は、全部僕の所にやってきている。全部か。うん、ちょっと気が引き締まる。

 彼女も、風邪を引いたりする。春先がどうも苦手で、3月から4月にかけてやたら具合を悪くする。彼女は嫌がるが、一応看病をしにいく。かくいう僕もこの季節は毎年のように花粉症にかかり、「鼻水カップル」と言ってふたりでバカ笑いしたりもする。
 そして、そういう時でも彼女は悩んでいる。少し安静にしてたらいいのに、と思うけれど、もう悩む事が習慣みたいになってしまっていて、具合が悪い時にはやらないなんていう器用な事はできないらしいのだ。仕方がないので僕も付き合ってやる。部屋の中にふたりっきりで、鼻をズーズーやって、目をウルウルさせて、あーとか、うーとかいいながらやたらこむずかしい議論を繰り広げる。はたから見たらなんとも不思議な空間である。でも、楽しいのだから仕方ない。たとえ風邪をひいていても、いつものように彼女の眉間にはしわが寄っている。いつだって何かを考えている。

 彼女が泣いた事がある。何かと他人から「重い、辛い」と言われる彼女が、「辛い」と言って泣いた。それまで連絡の途絶えていた彼女の両親から、突然メールが来たのだという。僕はどうする事もできず、ただ涙を流す彼女を黙って見ているしかできなかった。
 私たちは、お前をそんな風に育ててやった覚えはない。仕送りもアメリカで無駄にし、仕事もころころ変え、本当に情けない娘だと思っている。なんとも浅はかな生き方だ。ろくでもないお前の人生にどれほど干渉したところで、何か改まるはずもない。そう思い、しばらく連絡を絶っていた。私たちはもう、お前の生き方に一切口を出さないと決めた。好きなように生きなさい。それでは。
 メールを読み終えて、彼女を再度見た。黒い前髪の向こうで、目が潤んでいる。しゃくり上げて小さな声を漏らしている。僕ははっとした。

 それまで僕は彼女の事を、恋人ではない別の人として見ていた気がする。もちろん告白はきちんとしたし、付き合っている事も実感できる。このまま関係がうまくいけば、結婚もするだろうと思っている。だけど、彼女と会っている時、話を聞いている時、僕は恋愛感情よりも、好奇心を満たしてもらおうとしていた。彼女よりも彼女の言葉に魅力を感じていた。彼女が好きな理由は、彼女の話が好きだからだった。
 ところがその時、彼女の頬を雫が伝うのを見て、気がついた。
 彼女の苦悩は、彼女の今までの人生があって初めて存在した。その多種多様な人生と、どこへ行っても柔軟な心がなければ、彼女は何も迷う事なくここまでやってきていただろう。彼女が心から楽しんだ悩みを、人生を、こんなにも冷ややかに侮蔑された彼女は、どれほど悲しいんだろうか。ゴールのない永遠に続くこの迷路を、こんなにもあっけなく壊された彼女はどれほど辛いんだろう。
 僕はいつしか、彼女の生き方に恋していた。気づいた途端、彼女を否定されるのがすごく怖くなった。

 どうすればいいか分からなかった。ただ、目の前で俯いて涙を流すその人を、一瞬でもいいから守ってあげたいと思った。僕の中にある何かを彼女に贈りたいと思った。それは彼女にとってきっと必要であるもの。真っすぐに届くもの。それを無くす事で、例え僕に傷がついたとしても、彼女をきっと守ってくれるもの。
 耳にかかる長い髪をそっと指でなぞった。目の前のただ一人にしか聞こえないような声で、たった一言、「大丈夫」とだけ呟いた。それしかできなかった。ただそれで充分彼女を救えると、本気で信じた。

 彼女が楽しいなら、僕も楽しい。彼女が悩むのなら、僕も同等に悩んだ。あなたがいなかったら、僕はこんなに苦悩しなかった。あなたの人生は、僕の存在をも変えてしまった。あなたの存在は僕に、新しい世界をくれた。守る力をくれた。僕はただ、なんとなく一緒に居ただけなのに。
 あなたは、僕の人生なんかより明らかに幸せな人生を生きていると思う。あなたの幸せな人生が、もっと大きく、もっと幸せなものになってくれる事を、心から祈っている。

 彼女はよく色々悩んでいる。友達の事から、仕事の事、将来の事、果ては人間の生死についても考えている。時と場所を問わず、色々な所で色々悩んでいる。僕はただ、なんとなく愛しいなーと思って、くっついて歩く。
 カラン、今日も彼女は、ドアのカウベルを鳴らして僕の元にやってきた。窓に映った「悩みの勲章」は、天井のライトを透かして驚くほど眩しい。
2006/05/07(Sun)00:28:46 公開 / もろQ
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■作者からのメッセージ
諸事情ありましてちょっとばかし改造しました。見た目あんまり変わってませんが、実は一味も二味も、いや、あえて謙虚に一味だけ、変わっております。
改訂前も過去ログにあるので、ゴールデンウィーク中何も計画なくてヒマーって人はそっちの方もどうぞ。
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