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『だから俺は、彼女に口付けをする。【1】』 作者:呪羅 / 恋愛小説 リアル・現代
全角3244文字
容量6488 bytes
原稿用紙約10.95枚
俺は、どんな事があろうとも、彼女を守る。だから、銃を取った。彼女に口付けた。だから、俺は殺人をした。
 いつものように緋影島(ヒエイジマ)は青かった。



 世界は大きな問題に直面していた。食料不足と、宗教問題だった。人口の増えすぎた世界は食料不足で堕落し、食料を奪う為に全ての国が戦争を始めた。そして、宗教。誰かがイスラム教を罵ったとか、誰かがキリスト像を壊したとか、小さな事で戦争に発展した。
 日本は、戦争をしないと言い続けてきたが、とうとう自衛隊を使って戦争を始めてしまった。日本は北と南に分断され、北は戦争に賛成する者の集団。南は戦争に反対する集団と、分かれてしまった。
 その南の端に、小さい島・緋影島はあった。

 人口約150人。車で3時間程で島を一周出来るぐらいの広さだ。
 
 小学校と中学校は共同で、高校は無かった。中学を卒業すると、皆、島の外へ行ってしまった。
 生徒の数は34人。小学生が28人。中学生が6人。去年までは3年生が12人いたが、皆、いなくなってしまった。



「キョーくん、私今年の生徒会長に選ばれちゃった」
 赤口今日助(アカグチ キョウスケ)の幼馴染・鳥弓絵姫(トリユミ エヒメ)は言った。
 送る側、としては最後の卒業式だった。絵姫は照れ臭そうに笑った。
「えへへ……、生徒会長だって。ドン臭い私が。出来るかなぁ? あ、でも、キョーくんが副会長だから大丈夫だよね」
「ああ……」

そして、3年生になった。

「絵姫、さっさと皿片付けろ。今日、朝会あるだろッ」
 家が隣である今日助と絵姫は、食事はいつも一緒に取っていた。今日助の両親は軍事関係の仕事だから、滅多に帰って来る事は無い。そして絵姫の父は、絵姫が生まれてすぐ他界し、母は病気を抱えて病院から戻って来れない状態だ。だから、2人はいつも一緒だった。まぁ、同級生が他にいない事も関係するが。
「うん、待ってキョーくんッ。って、きゃぁぁぁぁあぁッ!!?」
 盛大な音が台所からして、今日助は恐る恐る玄関から台所を覗いた。そこには、転んだせいで空色の下着が露わになった絵姫と、割れた皿があった。
「……ッ、ぁ、絵姫……、そこはイイ。……早く立って、学校行くぞ」
「ぇっ、でも。お皿……」
「皿は帰って来てからッ! いいから、早く立てッ!!」
「はっ、はいぃ!」
 慌てて立ち上がり、鞄を取りに行く絵姫の背中を見送ったすぐ後。今日助はがっくりと額を押さえた。
 顔が、いや、全身が熱い。いくら生まれた時から一緒でも、朝っぱらからあれは無いだろう。今日助も青少年だ。絵姫が知れば、顔を真っ赤にする事だって考える。いや、寧ろしている。だから、起き抜けで低血圧な自分の脳をいきなりそっちの方向へ持って行かないで欲しい。
「ごめんね、キョーくん。学校行こッ」
 見上げると、絵姫の健康的な白い太股が目の前にあった。得に制服という物が無いせいか、それとも今が春と夏の境目だからだろうか、絵姫は短い裾のスカートを穿いていた。その裾から、先程見えていた水色の色が……、
「……ッ、がッ!? なっ……、ぅえぇっ、おッ、お、遅ェよ。さっ……、さっさと行くぞッ!!」
 今日助は、ウブだった。


「皆さんお早う御座います」
 教室の仕切りを取った、小さなホールのような所の壇上で絵姫は『生徒会長の挨拶』をしていた。横の司会者の演説台で、今日助はその光景を見ていた。
 教師10人と、生徒34人が集まった教室。小さな小学生から、ひょろりと背の高い中学生までが揃う。
「そろそろ皆学校生活を思いだしてきた頃でしょう。今年は残念ながら小学校の新1年生が1人でしたが、学校生活には慣れましたか?」
 皆真剣に絵姫の話を聞いている。唯一、今日助だけが大欠伸をし、ヤンキー座りをしていた。もう5回目の欠伸をした所で、頭を体育教師、川崎宏(カワサキ ヒロシ)に叩かれた。
「何だよ、いきなり」
「何が『何だよ』だ。きちんと話を聞け」
「もぉ終わるよ。ほら」
 小声で会話していると、絵姫が挨拶を終えたところだった。
「ほーら、な。……姿勢を正して、礼っ」
 得意そうに川崎に言った後、今日助は凛とした声で号令をかけた。全員と絵姫が礼をし、絵姫は壇上から降りる。
「お疲れ〜」
「うん。あ、ほら司会者さん、次」
 ひらひらと手を振ると、絵姫は微笑みながら今日助に命令する。
「へいへい、っと。校長先生のお話。校長先生お願いします」



 朝会が終わって今日助と絵姫は教室へ向かっていた。
「しっかし、何で朝会なんて下らねぇ事しなくちゃなんねんだ? 新手の嫌がらせかよ。生徒を殺す気満々ですか先生殿は」
 ブツブツ呟くと、絵姫が今日助を見上げる。
「でも、朝会は私達生徒会が司会するんだよ?従ってる私達も共犯だよー」
「……そうだなぁ。……って何で犯罪になってるの朝会ごときがッ?」
 突っ込む今日助を、絵姫は笑った。2人が保健室の前を通り過ぎると、保健室から人影が出て来た。
「あっ、絵姫ちゃん。ちょっと……」
 保健師の蒼井美咲(アオイ ミサキ)だった。まだ十分若く、栗毛の美人な女性だ。
「あ、蒼井先生」
 逆戻りを絵姫がすると同時に、予鈴が鳴る。その後姿に、今日助は呼びかける。
「先公には言っとくぞー。次数学だし」
「うんっ、ゴメンね」
 律儀に振り向き、絵姫は謝る。そして美咲に連いて行く。
 絵姫が教師に頻繁に呼ばれるようになったのは、3年になってからだ。5日に2回程のペースで、絵姫は教師と話している。よく授業に遅れるから、その度に今日助が科目の先生に言うのだが、得に先生は怒った様子も無い。そして帰って来た絵姫に、『お疲れ様』とか言ってる。今日助には何が何だかさっぱり理解不能だ。だからって、絵姫に『何で先公に呼ばれてんの?』とか言うのも下らない。
「意味が分からん……」
 今日助はいつものように呟いた。






「それで?」
 赤い影は栗毛の影に聞いた。
「北の……、よく子供達が遊んでるあの公園で出たわ」
「あぁ、北緋影公園ね」
「出来れば、今日の放課後にでもお願い出来るかしら? 子供達が襲われたら大変だから」
「分かった」
「……あの子に話したの?」
「……まだ」
 栗毛の問いに、赤い影は首を横に振る。
「早く話してね。じゃないと彼、可哀相よ」
「……でも、こんな私を見たら……、きっと嫌いになる。きっと、私を避ける」
「そんな事無いわ。貴方、彼と仲良いでしょ? 彼の事、好きでしょ?」
「……スキ……」
「彼もきっと、貴方が大好きよ。だから、大丈夫」
「……スキって、どういう事? 私が彼をスキなように、彼も私がスキなの? それとも、もっと違う風にスキなの?」
「それは……、分からないわ。貴方が確かめないと」
「そうだけど……。怖いの。彼の存在と、前の私の存在がぶつかり合うの。どっちが本当に好きなのか分からない。前の私は、好きだった。彼もスキ。でも、彼と前の私の『スキ』は違うの」
「……悩む前に、まずは彼に自分の事を言わないと。……そうでしょう? エヒメ……」
 赤い影は、ゆっくりと頷いた。





(絵姫遅いなァ……)
 とっくに午前の授業は終わり、昼食の時間になっていた。考えながら、今日助は林檎ジュースのパックにストローを挿した。
「鳥弓先輩遅いですね〜。何かあったんですかねェ?」
 今日助より1つ下の眞鍋昭(マナベ アキラ)がパンに齧り付きながら言う。
「行儀悪ィぞ。ってか、汚いから食べながら喋るな」
「え〜。まったくセンパ〜イ、もし鳥弓先輩があ〜んな事やこ〜んな事になってたらどぉすんですか?先輩の愛しのカノジョが取られちゃいますょ〜」
「あ〜んな事とか、こ〜んな事とか、そ〜んな事とか古いぞお前」
「そ〜んな事は余計ですよぉ〜」
「ってかアホか。絵姫は彼女じゃねぇって。何回言ったら分かるんだ」
「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘。嘘付け〜ぃ。さて、今何回嘘って言った?」
「11回」
「ちっ、先輩なら引っかかると思ったのに〜」
「黙れ」







 絵姫は廊下を歩いていた。その長い茶がかった髪には、小さく緋の色が付いていた。
2006/03/30(Thu)14:27:54 公開 / 呪羅
■この作品の著作権は呪羅さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えーと……、はい、今回はちょっと続きモノです。多分長いです。
更新遅いですが、生暖かい目で見てやって下だい。
感想、批判、何でも待ってます……(ェ
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