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『漆黒の語り部のおはなし・7』 作者:夜天深月 / リアル・現代 ショート*2
全角5885文字
容量11770 bytes
原稿用紙約17.55枚
縛られていることを、貴方は不幸だと思っていませんか?
 御機嫌よう。またお会いしま―――っと、いきなり質問ですか。確かに、前回質問はまたお会いしした時お願いしますよ、と言いましたがいきなり質問するのはどうかと思いますよ。……はあ。解りました。確かに私は、来て早々質問をしてはいけませんと言ってませんでしたからね。ですが、答えるのは皆様を元の世界へと帰すときです。これだけは譲れませんよ。
 しかし、そちらの貴女。すごく好奇心が旺盛ですね。確か、何故あなた方を此処に来させたか? と質問されたのも貴女ですし、それについて随分と私を問い詰めていますからね。さらには、お会いしていきなり質問をしたのも貴女。好奇心旺盛なことは悪くはありませんが、今のように大勢の方々がいる前では気を付けた方がよろしいと思いますよ? ははは。これは、失礼しました。どうやら、大きなお世話だったようですね。
 さて、そろそろ今回の世の中についてお話ししましょうか。
 今回の世の中は、誰もが一度は思うような望みことが大きく関わっています。その『誰もが一度は思うような望み』、それが何だか皆様は解りますか? 取り敢えず、いつものように皆様にお聞きしましょう。では……そちらの貴男。『誰もが一度は考えそうなこと』、貴男はそれがなんだと思いますか? ……え? ……驚きの一言に尽きますね
 そうです。今貴男が言ったこと―――束縛されないことを望むこと。これが、『誰もが一度は思うような望み』です。いやあ、しかしよくお解りになられましたね。驚きましたよ。それと、正直当たらないと鷹を括っていましたからね。はは、そんなに怒らないで下さい。
 さて、話の続きですが、束縛されないことを望むこと。これが、『誰もが一度は思うような望み』です。窮屈だ。やりたいことが出来ない。自由になりたい。皆様もこう思ったことはありませんか? まあ、こう思うことは別に珍しいことではありません。寧ろ当たり前でしょう。
 ですが、自由といっても自由にも種類があります。時間に余裕があるという自由。やりたいことが出来る自由。こう言ったように、自由には種類があります。そして、今回の世の中で大きく関わる自由は―――全てからの自由です。
 さて、そろそろおはなしを始めましょう。
 おはなしの始まり、始まりぃ。


第七の世の中『誰も自由にはなれない』


 彼女―――森山 美恵子は、我が耳を疑った。いや、彼―――深間 兼一の言ったことは別におかしな事ではないが、兼一はこんなこと言うはずないと美恵子は思ったからだ。
「……美恵子さん、聞いてます?」
 兼一はおずおずと聞く。居酒屋内の喧噪で声は消えそうになるが、美恵子の耳にはしっかり届いていた。ちなみに、兼一が美恵子のことを下の名前で呼んでいるのは「上の名前で呼ばれたくない」と美恵子に言われてるからだ。別に恋人関係ではない。
「ん? えーと、何だっけ?」
 美恵子は、兼一の口から同じ事を言わせるために惚けてみる。兼一は溜息を吐いた。
「会社を辞めたいって、言ったんです。いつも一生懸命仕事をしてるのに返ってくるのは」
「上司の小言と給料と疲労でしょ」
「……よく解りましたね。もしかして、読心術みたいなの」
「できないわよ」
「……ですよね」
 兼一は、手元にあるコップに入ったウーロン茶をゴクリと飲み下す。真面目な性格の彼は、祝いの席や上司と先輩の付き合い以外では酒は飲まない。美恵子も先輩にあたるのだが「飲みたくなきゃ、飲まなくて良い」と言われているので、お言葉に甘えて飲んでない。
 美恵子も倣うように、お猪口に入った酒を飲む。胃がカッと熱くなる。
「でも、アンタ入社してまだ二年ちょいでしょ? 入社して直ぐで全然慣れない時なら解る気がするけど、こんな中途半端な時期に辞めたいなんて何で思うのよ? それに、アンタみたいな真面目な奴がそんな事言うとはかなり意外」
「……なんか、嫌になったんです。なんの目標もなく、漠然と仕事をする毎日に」
「大丈夫よ、誰だってそう考えることはあるわよ。アンタと同じ歳の二四の時私もそういう風に悩んだことあるわ。私がそういう風に悩んだのが二年前だったかしら」
 そいうものですかねえ、と兼一は気のない返事をして溜息を吐く。そして、もう一つ溜息をして皿に盛られている茹で立ての枝豆を食う。塩加減が絶妙でとても美味い。
 美恵子は話が一段落したので、手元にあるとっくりの中にある酒をお猪口に注ぐ。が、数滴酒が出てきただけで、美恵子妙な苛々感を与えた。どうせなら、一滴も出てくるな。逆に腹が立つ。手元にあるお猪口をジッと見る眼はそう言っているようだった。
「あ、すいません。注文いいですか?」
 美恵子は、整然と並べられているテーブルの間を忙しく動いている店員に声を掛けた。客が多いので慌ただしく動いていたからか、店員の額は薄く汗が浮かんでいる。それでも店員は注文用紙を素早く取りだし、営業スマイル満点の笑顔を浮かべる。
「はい、ご注文ですね。ご注文をどうぞ」
「焼酎を」
「ちょっ! まだ飲むんですか? もう、七本も飲んだじゃないですか」
 兼一が驚いたような声を出す。心なしか、呆れたような感じも含まれていた。
「いいのよ。顔だって赤くないし、酔ってないでしょうが」
「だめですよ。確かに顔も赤くなってないし、酔ってないですけど体に悪いですよ」
「っるさいわねぇ。体調管理ぐらい出来るわよ」
「出来ないから言ってるんです。だいたい、この前だって二日酔いして仕事中に吐いたじゃないですか」
「なっ! アンタ、公の場でそういう事を言うな!」
 またやってる。
 居酒屋内にいる、常連客や店員は自然と笑みを浮かべた。この二人のやりとりは、ここの常連である美恵子が兼一を連れてきた二年前から名物になっている。美恵子の無茶を兼一が止める。たったこれだけの二人のやりとりを見るのを楽しみにしている客だって少なくはない。自然と笑みが浮かんで、明日も頑張ろうという気が起きる。その代わり、美恵子と兼一がこの居酒屋に来なかった次の日は全くと言っていいほどやる気が起きない。
「……あのー、ご注文の方は?」
 店員は、笑みを浮かべながらも訊ねる。彼も、この二人のやりとりを楽しみにしている一人だ。
「焼酎で!」 「ウーロン茶で!」
 二人の声が同時に発せられる。それがどうしようもなく可笑しくて、カウンターでつまみをせっせと作っているオヤジ以外の店員と客は思わず笑い声を漏らした。
 そして、その笑い声に同時に顔を赤くする美恵子と兼一もまた可笑しかった。



 とても綺麗だ。
 兼一は、星が散りばめられている夜空を見て思った。特に兼一は、淡く青色に輝く星が好きだ。青く輝いてる星なんてありきたりだが、神秘的なところが良いと思っている。
「あ、流れ星……」
 思わず声を呟かせた。青白く輝いていた星が、硝子をつたう水滴のようにスーッと流れていった。一瞬の出来事だったが、兼一はそれを見てとても感動した。子供みたいに目を輝かせて、もう一度流れ星が見れるかもしれないという思いから、夜空に目を見張ら―――
「ぶぇっくしゅ!」
 一瞬にして思い出す。此処が駅員と自分と美恵子しかいない、薄汚れた現実感たっぷりの駅のホームだということを。自分が腰掛けているのは埃が被っている、壁に取り付けられた現実感たっぷりの椅子だということを。なにより自分の右隣に座っているのは、今くしゃみをした現実感の塊である人間―――森山 美恵子だということを。
「ん? 私の顔になんか付いてる?」
 無機質な目で見ている兼一に、訊ねる。どうやら無機質な目で見ている兼一を見て、顔に何か付いていると思ったらしい。だが、決して兼一の自然を楽しむ一時をブチ壊したとは思わないようだ。
「別に、なんでもありません」
「嘘言ったって私には解るわよ。さては私の魅力に気付いたんでしょ? いやん。美恵子さんモテ過ぎて困っちゃう」
 美恵子は両手で顔を覆って、身をくねらせる。いつもの兼一ならここで溜息を吐くはずだが、自然を楽しむ一時をブチ壊しにされたのでちょっと機嫌が悪かった。
「美恵子さんに魅力なんてありません。あるのは、現実感だけです」
 その声は丁寧語なのに、言葉の裏には人を小馬鹿にするような感じが見え隠れした。そんな声に、美恵子は腹を立てたようだ。眉間にシワを寄せたいかにも怒ってる表情だ。
 兼一は美恵子を見て、フッと笑った。もう機嫌も直ったので、
「はは、そう怒らないでください。ちょっとした冗談ですよ」
「いいわよ、べつに。それと、私は怒ってないから」
と、兼一は言った。兼一はつまらないことで、いつまでも機嫌を悪くする奴ではない。勿論美恵子もだ。
 兼一と美恵子がそう言葉を交わした後、暫く沈黙が流れた。別に大した理由はない。ただ単に、疲れと眠気で喋ろうという気になれなかっただけだ。
「ねえ、私にあるのは現実感だけってどういうこと?」
 電車が来るのも後五分ぐらいか、と兼一が思った時だ。美恵子が突然話しかけてきた。
「え?」
「今さっきアンタ言ったじゃない。私にあるのは現実感だけだって。あれどういうこと?」
 兼一は、美恵子の言葉を頼りに記憶を辿る。だが、なかなか思い出せない。つい二分前の会話も思い出せない程、兼一は疲れていた。
 現実感、現実感、現実感、現実感、現実感……あ。
「ああ、あれですか。簡単ですよ。いっつも、美恵子さんは現実見てるからです」
 美恵子は顔をしかめた。あまりにも意外な言葉が兼一の口から出たからだ。
「私が? 私が現実を見てる?」
「そうです、現実を見てます。どうしようもないことは無理に解決しようとはしないし、自分の力量をちゃんと見極めてる。現実から目を背けず、必ず現実の真意を見出してる」
「……っぷ」
 くふふふ、と今の状況にそぐわない声を美恵子は発した。直ぐに兼一は美恵子を睨む。
「……なにが可笑しいんですか?」
「だって、マジな顔でそんなこと普通言う? 言わないでしょ普通。だいたいドラマじゃあるまいし」
 肩を上下させて、美恵子は言った。表情は心底可笑しいと言いたげな、にやけた表情だ。
 兼一は深い溜息を吐き、両目を右手で覆った。だが、少しすると両目を覆っていた右手をダランと下げる。表れた眼は遠い場所を見つめているようで、虚ろだった。
「窮屈、なんです」
「はあ?」
 精神科の病院を紹介した方がいいかもしれない。美恵子は本気でそう考えた。
「美恵子さん、こいつマジでヤバイとか思いましたね?」
 兼一の問いに、美恵子はウッと喉を詰まらせたような声を出す。図星だった。
「別にいいですよ。でも、窮屈だと思いませんか? 他人の目、時間、金銭、そんな物に縛られることが窮屈だと思いませんか? 全てから自由になりたいと思いませんか?」
 笑えなかった。真剣に話している兼一を笑うことは出来なかった。
 兼一の言っていることは、決して可笑しくない。たが兼一の言っていることは、どうにもならないことだった。兼一も解っていると思うが、全てから自由になることなど無理だ。
「……全てから自由になるなんて無理よ。どんなに頑張っても、世の中は一方的に私たちを縛るんだから」
 美恵子は、一本調子の口調で言った。
「無理、ですか……。世の中って一方的すぎですよ」
「そうね。でも」
「でも?」
 兼一は聞き返してみた。だが、美恵子が答えるものは自分が求めている物ではないだろうと、思っていた。以前、美恵子と仲が良かった三原という社員がリストラになった時も、仕方がないの一言で済ませていた。その時のことが、ちょうど頭に浮かんだ。
「私は全てからの自由なんて望まない」
 凛とした真っ直ぐな声が、静かな駅のホームに響く。
 もしかしたら、そんな考えが兼一の脳を掠めた。自分が求めている物が返って来ないかもしれないが、納得させてくれる物は返ってくるのかもしれない。そんな考えが兼一の脳を掠めた。
「なんで、ですか……?」
 微かに震える声で訊ねる。直ぐに答えは返ってきた。
「だって、全てから自由になったら友人とか出来ないじゃない」
 どこまでも真っ直ぐで。綺麗事のようで。でも、現実の真意を見出したような答えだった。そして、明るい口調で諭すように美恵子は兼一に再び口を開く。
「窮屈でもいいじゃない。窮屈な分だけ色んな人や物に囲まれてるってことなんだから」
「……やっぱり、美恵子さんは現実見てますね」
 弱々しく微笑みながら、兼一は言う。それに対して、美恵子は「そう?」と訊ねる。
「そうですよ。なんか、僕はそういうの憧れますよ」
「アホ。子供みたいに眼をキラキラさせながら言うな。だいたい、窮屈だからってアンタ本気で会社辞めようとしたの?」
 軽蔑に似た視線を美恵子は射る。だがその視線には、ふざけ半分という感じがあった。
「えーと、まあそういうことですね」
「呆れた。アンタ真面目なクセに、わりと思い切ったことするのね」
 大袈裟に肩を竦めた美恵子に、兼一は苦笑した。
 と、その時、駅の周辺にある遮断機の警告音が鳴り響いた。言葉では言い表せれない独特の音だ。
「あ、電車来るみたいね」
「そうですね。あ、美恵子さん電車内で吐かないで下さいよ」
「うるさい! だいたい私は吐かない」
「前、吐きはしませんでしたが、ギリギリの表情で吐きそうって言ってたのちゃんと覚えてますよ。それと、駅に吐いたら直ぐトイレに駆け込んだことも」
「ああ、うるさい! アンタはそんなのだからモテないのよ!」
 美恵子の絶叫に近い声は、電車の停車音に紛れた。



 皆様どうでしたか? 今回の世の中は。音が聞こえる。喋れる。物に触れることが出来る。眠れる。窮屈だと言うことは、そんな当たり前のような幸せに似たようなもの私はだと思います。今回のおはなしに登場した美恵子が言ったとおり、窮屈だということは色んな人や物に囲まれてるってことだと思いますよ。
 それでは、そろそろ質問に答えましょうか。確か質問の内容は、なぜ私たちに世の中を教えようとしているのかという理由を教えろ、でしたね。本当は教えたくはないのですが、約束をしましたからね。でも、質問に答えたら直ぐに貴方達を元の世界に戻しますからね。次にお会いした時に、直ぐに質問をするなんて言うこともご遠慮下さい。
 さて、質問の答えですが―――約束をしたからです。
 それでは、さようなら。また会いましょう。
2006/03/18(Sat)16:02:13 公開 / 夜天深月
■この作品の著作権は夜天深月さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは、疲れている夜天 深月(ヤアマ ミヅキ)です。のびきったラーメンの麺のようにグデグデになっている夜天です。ちなみにラーメンと言ったらやっぱり醤油です。さらに言えばコテコテよりあっさり派。え? 塩? 味噌? 豚骨? 知りませんよ、そんな物。ラーメンと言ったらやっぱ醤油でしょう。……はい、すいません。塩ラーメン、味噌ラーメン、豚骨ラーメンをこよなく好んでいる読者様すいません。前、ラーメンと言ったら醤油って言ったのが自分だけしか居なかったのがとても悔しかったんです。どうか許してくださいOTL。
さて、以前から漆黒の語り部を読ん頂いてる皆さん、いきなりあとがきを百八十度変えてしまってすいません。ですが、最後まで楽しんでいただこうと思っての自分なりの工夫です。ですが、前回と同様批判、感想、アドバイスは随時お待ちしています。
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