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『空の青』 作者:叶 遥 / リアル・現代 お笑い
全角7787.5文字
容量15575 bytes
原稿用紙約27枚
友人からの一言。「一緒に死なない?」いきなり、あっけらかんとそう誘われて…。彼は、どんな言葉を俺に望んだんだろう。
 普段滅多に声をかけてこない幼馴染が久しぶりに俺を呼び出したかと思うと、
あいつはいきなり俺に「一緒に死なない?」なんて明るい表情でのたまってくれた。
あまりに軽いその物言いに、一瞬何を言われたのか理解に苦しむほどに。何も答え
ずに黙っていると、あいつは痺れを切らしたように「どう思うよ?」って聞いてきた。
「本気で言ってんの?」
「冗談でこんなこと言うほど、俺は腐っちゃいねーぞぉ」
 えっへんと胸を張って言われても…。「死なない?」なんて普通本気で言う台詞とは
思えないじゃないか。むしろ、そんな台詞本気で言っていることのほうがよっぽど腐っ
てるって。…もちろんそんなこと、あいつに直接言う気はないんだけど。
「どーだか」
「あ、信じてねーな」
「信じろってほうが無理な話だよ。正気の沙汰とは思えないね」
 そっけなく答えてやったら、あいつはぷうと頬を膨らませた。…ちっとも可愛くないっ
ての。
「冷たい奴。じゃあ何?俺のこの提案、受け入れる気はないっての?」
「当然」
 「死なない?」って言われて「うんいーよ♪」なんて答えるなんて思ってたんだろうか、
こいつは。俺がきっぱりと断ると、あいつはますます不満そうな顔をして「ちぇ〜」と言っ
た。
「いいよ。いいよもう。俺一人でやるから。ホント、友達甲斐のねー奴」
「帰っていい?」
「え!俺一人にすんの!?」
 よいしょと腰を上げた俺を見上げて、あいつは情けない声を出した。
「困る?」
「困る!」
「いたら邪魔でしょーが。一人の方がいいんでないの?」
 やっぱり自分一人で死ぬんなら普通静かな方がいいでしょ。
「邪魔じゃないよいてくれよ淋しいだろ〜っ!?」
 あいつは俺の制服のズボンを必死に掴んで俺をこの屋上から出すまいとしている。
何かその半泣きの表情があまりに情けなくて、俺はそっと心の中で笑った。
「だって見たくないし。外で待ってるからさ、終わったら呼んでくれる?」
 人間が死ぬ瞬間なんてできれば自分が死ぬまでお目にかかりたくない光景だから
な。
俺は軽くあいつの手を払って、のそのそと出口に向かって歩き出した。
「それ以上動いたらっ!」
 いきなり、背後から真剣な声が突き刺さった。
「……何」
 あんまり必死な声だったんで、俺も振り向いてやる。
「お前がこの前の保健のテスト、性教育のトコだけ満点だったってばらしてやるからな
っ!」
「……それで?」
「恥ずかしーぞお、性教育のとこだけだぞ?松山はそーゆう知識ばっか豊富のムッツリ
スケベだって皆に思われるんだぞ。それでいいのかな〜?」
…はあ。全く…低俗な脅しだ。てゆーか、本人これで俺を脅してるつもりなんだもんなあ
…やんなっちゃうよ。こういうところ、昔からちっとも成長してない。
「…帰る」
「わかったっ!ごめんなさいもうしませんだから帰らないでお願い松山様ぁ、なんでもしま
すからぁ〜っ!!」
無視してまた歩き出した俺に、あいつは慌ててまたしがみついてきた。脅しが通用しない
とわかって慌てたんだ。全くもう…本当にお子様なんだからなあ。
「巨人阪神戦のドームチケット」
「努力します」
「仕方ないなあ」
 とりあえず約束を取り付けて俺は座りなおした。約束なんて守れるはずがないってわか
ってたけど、でも約束は約束だ。
 俺が座ったのを確認するとあいつは嬉しそうに笑顔になった。
「さて、松山もここにいてくれることだし、これで心置きなく作戦にかかれるぞ〜」
「協力はしないぞ。ここにいるだけだからな」
「いいよ、それでも。さ〜てどうしようかな〜?」
 ウキウキと、まるで遠足に行く子供みたいにあいつは持っていたカバンの中を探り始め
た。その中からは出るわ出るわ、自殺によく使われるような道具が。ナイフ、ロープ、ライ
ター、風邪薬の入ったビン、そして手紙。あいつはそれを全部並べてう〜んと唸った。風
がさらさらと俺たちの間を通り抜けていく。あいつはその風を追うように視線を泳がせて、
フェンスの向こうを見つめた。
「う〜ん…でもやっぱり屋上にいるんだからスタンダードに飛び降りかな…」
「めっちゃくちゃのドロドロになるぞ」
 なんてったってここ、5階だもんな。映画やドラマみたいに、キレイな死体じゃないんだ
ぜ?飛び降り死体って。
「……じゃあ薬でっ」
 怖くなったらしい。さっさと方法を変えやがった。
「これ睡眠薬じゃなくて風邪薬じゃん。これじゃ効果は期待できないね〜、それにこんな
使いかけのじゃ足りないよ」
「ナ…ナイフ?」
「頚動脈を上手く切らないと意味ないよ。それに即死しないし」
 まあ、苦しみたいってんなら別だけどさ。
「燃やす!」
「灯油とかも無しで?ライター1本でそこまで燃えるかなあ」
「じゃあ首吊りっ!」
「いい天気だなあ…ここですんの?」
 この素晴らしい青空に、ものを引っ掛ける場所なんかありゃしない。
「家庭科室でガス中毒っ!」
「外に漏れたら意味ないって知ってる?」
「感電っ!」
「手間かかるし黒こげだよ」
「銃とか、毒とか…」
「死ぬ前に逮捕だな」
「…お前さあ、俺に恨みでもあるわけ?」
 さっきから俺にことごとく作戦を却下されてあいつは不満げに俺を睨みつけた。
「別に」
「じゃあなんでそんなに俺の邪魔をするんだようっ!」
「じゃあなんでそんなに死にたがるのさ」
 逆に問い返してやると、あいつはきょとんとした目で俺を見返してきた。
「なんでって…死にたいから」
「だから、なんで?」
「なんとなく」
 一瞬の沈黙。
「……は?」
「だから、なんとなく。飽きちゃったし、生きるの」
「それだけ?」
「うん」
 …本当に…この男は…。
「お前…馬鹿?」
「あーっひっでえな、俺はこんなにも悩んでいるのに!」
「悩んで『なんとなく』死ぬ奴があるかっ!」
「おかしいか?」
 真剣な顔で聞いてくる。こいつは、本気で「なんとなく」死ぬ気らしい…。これはさすがに、
不味いだろ。友達として…いや、幼馴染としてこれは止めた方がいいだろう。何か深刻な
悩みがあるならまだしも、「なんとなく」で目の前で死なれちゃいくらなんでも後味が悪い。
「死のうとすんのは、怖くないわけ?」
「死んだことないしわかんねー」
「…ま…そりゃそうだね」
「松山はさぁ、死にたくないのか?」
「まだ早いよ。好き勝手生きてないしさ」
「えー?お前、じゅうぶん好き勝手生きてるじゃん。この間だってさぁ、レンタルビデオでア
ダルトビデオ10本借りてきて、延滞料金払ってただろ〜」
 こ、こいつ…なんでそんなこと知ってるんだ!
「自分で死ぬ前に殺してやろうか…?」
「きゃあ〜怖いわ松山くんてばっ」
「もったいないとは思わんの?」
「何が」
「死ぬこと。まだ十代なんだぞ?」
 そうだ。俺たちはまだ高校生なんだ。これから受験ていう嫌なものも待ってるけど、でも
その先にはきっともっと楽しい大学生活が待っている。まだまだこれから先、楽しいことは
あるはずなのに死ぬなんてもったいないよ。
「『もう』十代だよ。もう飽きた。大して面白くもないし」
「わっかんないな〜」
「わかんなくていいよ。ん〜、どの方法がいいかなぁ、入水…あーでも水泳得意だしなぁ。
飛びこみ…でも他の人に迷惑かかっちまうか…」
 随分と真剣に、自分の死に方について悩んでるな…こんな真剣なこいつ見たの、何年
ぶりだろう?…そういや、いつ頃からこいつとあんまり話さなくなったっけ?クラスが離れ
て、部活も違って、それでなんとなく疎遠になったんだっけ…。それまではしょっちゅう一
緒にいたから、周りからは「ケンカでもしたのか」って心配されたなあ。
 そんなことをぼんやり考えながら、俺はそっとあいつの足元に目をやった。真っ白な、
清潔そうな封筒に入った手紙。きっと遺書のつもりなんだろうな。
何気なく手にとって中を見ようとしたら、それに気づいたあいつは大声で叫びながら俺か
ら手紙を奪い取った。
「何」
「読むなよ〜っ!」
「…いいだろ?どうせ死んだら皆に読まれるんだしさ」
「遺書なんて生きてるうちに読むもんじゃないだろぉっ!!」
「そんなうろたえるなんて…読まれて困ることでも書いてんのか」
「そうじゃないけどさ…」
「じゃあいいだろ。見せろよ」
「だから、こういうのは…」
 なんだよ、やたらと渋るじゃないか。
「わかった。じゃあお前が死ぬのを見届けてから一番に見せてもらうことにする」
 それを代金代わりにしてやるよ、って言ったらあいつは眉間に思いっきり皺を寄せて『誘
う相手間違ったかな…』なんて呟いた。その通りだよ。
「で?死ぬ方法決めたのか?」
「ん〜…」
「そんな悩まんでも。いいじゃん。せっかく屋上にいるんだし、パーっと景気良く飛び降りち
ゃえば?」
「んで、景気良く体がはじけ飛ぶってか」
「うん」
「嫌だっ!ぐっちょんぐっちょんのめちゃくちゃになんかなりたくないっ!それじゃ俺ってば
あまりにかっこ悪いじゃないか!」
「何、かっこよく死にたいわけ?」
「うん。だってせっかく自分で死ぬ方法選ぶんだしさ、なるべく痛くなくてかっこいい死に
方したいじゃん」
 そんなかっこいい死に方したいんなら尚更自殺なんて止めりゃいいのに。死んだ理由
がかっこ悪すぎじゃん。
「お前の顔じゃたかが知れてるよな」
「悪かったな。人のこと言えないくせに」
「お前よりマシ」
「嘘つけ!お前今まで彼女いなかったじゃねーか」
「俺は面食いなの。お前みたいに女なら誰でもいーんじゃないんだ。だから告白されても
ホイホイと付き合わねーんだよ」
 これでも告白されたことあるんだからな、お前が知らないだけで!…まあ、断ったのは
その子が好みの顔じゃなかったわけじゃなくて、俺がかなわぬ恋を『ミス桜ヶ丘』にして
たからなんだけどな…。もちろんフラレタさ、彼女には。
「じゃあどんなのが好みなんだよ」
 不満げにあいつが聞いてくる。
「スタイルが井川遥で顔が加護亜衣で声が石川梨華」
「……ロリコン?」
「なんでっ」
「お前さぁ、まさか10本借りてきたアダルトビデオ、全部「お兄ちゃん」って呼んでくる奴と
かコスプレ系だとか言うんじゃねーだろーなー」
「なっ・・・なんだよ、「お兄ちゃん」は男のロマンだろぉ!」
 このロマンがわかんないのか!?「お兄ちゃん」と言って無防備に甘えてくる女の子!
これで萌えなくて、何で萌えるんだお前はっ!
「えー。俺、妹いるけどあいつに「お兄ちゃん」て呼ばれても寒気するだけだしなー。てゆ
ーかガキに興味ないし」
「どこがガキだよ、スタイルは井川遥だぞっ!」
「でも顔がアレで声がソレだろ〜?」
「かっ、可愛いじゃねーかあの舌ったらずな所とかっ丸いほっぺとかっ!」
 どうしてわからない!あの加護ちゃんの柔らかそうなほっぺで、梨華ちゃんの声で甘え
てくる井川遥並の巨乳少女!萌えだろ、萌えだろうっ!?
「俺…たしかに前から松山は変わった奴だと思ってたけどよー…ここまでだったとはなぁ…
フッ」
 わざとらしく遠くを見つめやがって…。
「じゃあそういうお前の好みはどうなんだよ?そこまで言うんなら、さぞかしいい趣味して
るんだろうな!」
「俺?そうだなぁ…スタイルは江角マキコで顔はデヴィ夫人」
「…誰だって?」
「デヴィ夫人」
 あいつは、何かおかしいか?と言わんばかりに平然と繰り返した。
「うっわー信じらんねーお前どっかおかしーんじゃねーの!?」
「なっなんだよ知らないのかっ?デヴィ夫人て若い頃はすっげー美人だったんだぞっ!」
「どんな美人もいつかああなるのか…時は残酷だな…」
 さっき散々言われたからな、俺はここぞとばかりに言い返してやった。
「ひどい言われようだな…」
 ふん、お前だってさっき俺のことそれくらいこき下ろしたんだからな、これでおあいこだよ。
「あ?でもお前さ、今付き合ってるあの子…高岡、だったっけ?あいつ全然好みと違うじゃ
ん。背も低いしどっちかってーと丸いほうだろ?顔は…デヴィ夫人ていうより美川憲一だ
し」
「どこが美川憲一だっ、どこが!」
「じゃあ野村沙知代」
「よけー悪いっ!!」
「で、なんであいつと付き合ってんだ?好みと正反対のくせに」
「フッ…愛の前に理屈は関係ないのさ」
「っくしょん!っあー…で?今何か言ったか?」
「…お前…やっぱり道連れ決定っ!!」
「わ〜っ早まんなバカァアッ!!」
 あいつは俺の襟首掴んで締め上げようとしやがった。なんだよ、変なこと言ったそっち
が悪いんじゃないか!てゆーかこれじゃあ無理心中だろ!
「っと…そうだった、こんなことしてる場合じゃなかったんだ。早くしないと日が暮れちまう」
 急にパッと手を離して、あいつは腕時計を見た。…とりあえず、助かったな…。
「今日中じゃないと駄目なのか?」
「ああ。だってもう宣言してきちゃったし。エリちゃんに」
「高岡に?」
 さっき言ってたあいつの彼女だ。高岡エリ。人当たりが良い、優しい子なんだけどさっき
も言ったようにちょっとぽっちゃりで顔が野村沙知代似。面食いの俺としては、どんなに
良い子でもあのルックスはごめんこうむりたい。
「何言われた?」
「信じてもらえなかった。『俺今から死のうと思うんだ〜』って言ったんだけど」
 あいつのその言い方はまるで、『今から友達の家行ってくる〜』って感じの言い方で。
「そんな軽い言い方じゃ無理だよなぁ」
「でも俺『冗談じゃないよ、本気だよ』って言った」
「お前の本気なんて信用できないもん」
「あー。俺、今すっごい傷ついた」
「……あのさ」
「うん?」
「今フッと疑問に思ったんだけどさ」
「うん」
「なんで一番最初に俺誘ったワケ?『一緒に死のう』って」
「変?」
「変だろ。なんで俺?高岡じゃなくてさ」
 俺たち、最近全然会ったりもしてなかったくせに。
「だって可哀相じゃん」
「可哀相?」
「エリちゃんはさ、俺と違って夢もってんだ。看護婦になるってさ。そんですっごい頑張っ
てんだ。そんなエリちゃん死なすなんて可哀相だろ?」
 なんだ。考えてることは考えてんじゃん。
「じゃあなんで俺はいいんだよ」
「俺と同じ匂いがしたからさー。『人生どうでもいいや』って」
「そうか?」
「うん」
 まあ…どうでもいいって考えてたことはあるなあ…。
「でも俺、別に死にたくないし」
「うん。ちょっとびっくりした。人生どーでもいいくせに死ぬ気ないんだもんな」
 てゆーかそれが普通なんだよ、バカ。
「お前さぁ…高岡のこと…好きなんだろ?」
「うん」
「置いていくのは可哀相じゃないのか?」
「うん?」
 俺の言葉の意味がわからなかったのか、あいつはきょとんと首をかしげた。
「高岡を一人にするのは可哀相じゃないのか?」
「一人じゃないだろ?」
「わっかんない奴だなー。お前に先に死なれたら高岡が悲しむんじゃないのかっ!!」
「あー…うん、悲しむかもなー。ってゆーか悲しんでくれないと困るってゆーか…」
「死ぬことに意味があるんじゃないんだろ?お前」
「意味」
 馬鹿みたいに反芻してんなよ。ホント…お前って何考えてんのかわかんない奴。
「『なんとなく』だろ?だったら無理して死ななくてもいいんじゃないの?」
「うーん…」
「彼女悲しませてまでさぁ、意味なく死ぬのって…ちょっとなぁ」
 俺別にフェミニストじゃないけど。優しい人間てわけじゃないけど。置いてかれる人間
の気持ちってのはさあ、他人にはわかんねーくらい辛いものなんだろうなってことは想
像できるんだよ。
「松山は俺に死んでほしくないの?」
「は?」
 何言い出すんだ、こいつは。
「俺が死ぬと悲しい?」
 見つめてくるあいつの瞳を、俺はじっと見返してやった。こいつの目は、どんな答えを
求めてるんだ?
「まあ・・・悲しいんじゃねーの?バカできる相手が減るんだし」
「そっか」
 俺が素直に返答をしてやったら、あいつは何かくすぐったそうな、でもすごく嬉しそう
な顔をした。
「なに、その顔」
「いや、俺ってば愛されてるなぁって」
「バカ」
 恥ずかしい台詞言ってんじゃねえよ、バカ。
「で、松山は死んでほしくない?俺に。死のうとしてる俺のこと、止めたい?」
「止めてほしいのか」
「うん、止めてほしい」
「じゃあ死にたくないのか」
「いや、死にたいよ」
「どうなんだよ」
 止めてほしいって思ってるくせに、それでも死にたいのかよ。意味わかんねー。
「俺に死んでほしくないって思ってくれる人がいるって嬉しいじゃん。俺って必要とされ
てんだな〜って思って死ねるだろ」
「何お前、そんなこと思ってたわけ」
「うん」
 あいつは微笑んで、ゆっくりと空を見上げた。
「なんとなーく俺が死んでも誰もなんとなーくしか悲しんでくれないのかなーって。ちょ
っと試したい。それで何が変わるってもんでもないけど」
「ふうん」
 なんだ。なんとなくって言うけど…やっぱりなんか考えてたんじゃないか。
「エリちゃんは泣いてくれるかな。かなり俺の言うこと信じてなかったけど」
「さあ…泣くんじゃねーの?『鬼の目にも涙』って言うだろ」
「誰が鬼だっ!!」
 止めたいけど…幼馴染として、止めたほうがいいんだろうけど。でも、何かこいつの
願いも叶えてやりたいよ。やっぱり、幼馴染だしさ。
「ちゃんと報告しに行ってやるよ。お前の葬式に何人来てくれて、何人泣いてくれて
たか」
「マジでっ!?頼むよぅ」
「ああ」
 ああ、そんなに嬉しそうな顔しちゃって。ダメだよ、なんかもう…止めらんねーよ。ご
めんな、皆。
「よっし、決めたっ!!」
「どうすんだ?」
「やっぱここから飛び降りるっ」
「グッチャグチャのメッタクタだぞ?」
「いーよ。ぐっちょんぐっちょんな俺見ても泣いてくれる人知りたいから」
「…俺も見なきゃダメ?」
「おうっ!VIP席だぜっ!」
「…ぐぇ」
「頼んだからなっ」
 あいつは爽やかにそう言って、せえのでフェンスを飛び越えた。まるで、ハードルを飛
び越えるかのようにキレイなフォームで。ああ、そういえばこいつ、陸上部だったっけ。
 下のほうでドスンて音がして、にわかにざわめき始めた。俺は、あえて下を覗こうとは
しなかった。気持ち悪いからじゃない、泣いてしまいそうだったから。ホラ、俺は誰があ
いつのために泣いたかチェックしなきゃダメだろう?その俺が泣いてたんじゃ示しがつ
かないじゃないか。
 俺は放り出された手紙を拾い上げてポケットにしまった。
もしかしたら、俺おばさんとか高岡に怒られるかもな。『どうして止めなかったんだ』って。
それどころか逮捕されるかもしれない。『自殺幇助』って言うんだっけ。あれに問われる
かもしれないな。まあ…それもいいかな。俺の人生を、あいつに振り回されながら進む
ってのも、それはそれでおもしろいかもしれない。なんたってあいつは、この俺を一緒
に死ぬパートナーに選んでくれてたくらいだからな。
 なあ、大成功だよ。皆泣いてるよ、お前が死んで。高岡も、おばさんも、先生だって
泣いてるよ。お前、皆にすごく愛されてるよ。
 なあ…もう満足だろ?大成功だよ。もし戻ってこれるんなら、戻って来いよ。皆待っ
てるよ。
  お前がいないと、つまんないよ。



                 END



2005/10/31(Mon)17:23:51 公開 / 叶 遥
http://angeliccolors.hp.infoseek.co.jp/
■この作品の著作権は叶 遥さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、叶遥と申します。初めて投稿させていただきます。
ライト感覚の会話が好きなのですが、ライトになりすぎた感も…。
個人的には気に入っている作品です。
この作品に対する感想 - 昇順
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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