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『【創作祭】エンシェント・ロスト・スペル』 作者:COYN / ファンタジー 未分類
全角21456.5文字
容量42913 bytes
原稿用紙約68.75枚
創作祭用に執筆した作品です。せっかくなので投稿させていただきました。
 リテラの町を出て一週間が経った。
 道沿いに丘を二つ、川を五つ越えて、ゴートの森が見えたら道を外れ、森に回り込む形で南へ進んだ。明日の夕方には目的の場所に着けるだろうが、出来れば明るいうちに着きたかった。そんな訳で、今日は早めに寝ると決めた。
 日はまだ完全に落ちていなかったが、鬱蒼とした森は暗闇に覆われている。森の奥の方をじっと見ていると、底なしの暗さに、つい自分が引き込まれそうな感覚に陥る。
 最近獣がここを通ったか、縄張りの印などは無いかを確認しつつ、枯れ枝を持てるだけ拾う。
「……良さそうだな」
 この辺りに、獣や魔物の気配はないようだった。森を抜けて平野を少し歩くと、焚き火の明かりが見えてきた。火の横ではアグニアが鍋をかき混ぜている。
「おかえり、ローディン」
 ローディンと呼ばれた少年は枯れ枝を降ろし、焚き火を挟んでアグニアの反対側に座った。
「どっこらせ」
 ローディンは焚き火に薪を放り込んだ。
 炭が折れ、火の粉が舞う。
 火にかけられた鍋の中には、良く煮込まれたシチュー。ジャガイモと野草の他に、昨日捕まえたウサギの肉も入っている。
「そろそろいいと思う。食べる?」
「おう」
 ローディンはアグニアからシチューの入った皿を受け取り、一口すする。
「…………」
 ローディンの口の中に、不思議な味が広がっていく。
 アグニアは『美味しい?』と聞きたげな目をしている。
 いや、決して不味い訳ではない。不味い訳ではないのだが、根本的な所で間違っている――そんな味だった。例えば、パンにジャムを塗る代わりに、ソースをぶっかけたような。パンだと思って食べたのに、トマトソースの味しかしなかった。アグニアの料理は、感覚的にはそれによく似ている。
 要するに、今ローディンが口にしているシチューは何故かとても甘いのである。
「うーん……まあ、こんなもんじゃねえ?」
 ローディンはいつものセリフを吐き、お茶を濁した。
「おかわりする?」
「いい」
 即答するローディン。
 対して、おいしいおいしいと食べているアグニア。その光景を見る度に、ローディンは食文化の違いについて悩むことになる。彼女からしてみれば、ローディンが首を傾げながら食べるのは癖だと思っているに違いない。
『ごちそうさまでした』
 食事が終るとすぐに、二人は寝床を作り始めた。明日は早い。夜も明けきらないうちから出発しなくてはならないのだ。
「おやすみ、ローディン」
 アグニアは焚き火に背を向けて、眠りに就いた。
 ローディンも、いつものように銃の整備をして、くべられた薪を崩してから、毛布にくるまって寝た。

 次の日の朝早く、二人は太陽が顔を出す前に荷物をまとめてキャンプを後にした。
 歩きながら朝食代わりの果物を食べ、森に沿って進んでいった。
 だが昼前になって、運の悪いことに、二人は魔獣に出くわしてしまった。
 ここらではガルムと呼ばれている。犬のような外見をしているが、その体躯はライオン並に大きい。魔獣と呼ばれるからにはそれなりに知能が高く、そこらに干し肉を放り投げて逃げることもできない分、ただの獣より性質が悪い。こいつらは干し肉などよりよっぽど美味くて新鮮な肉を見逃したりはしない。
 そいつが――三頭いる。
 もちろん、たった三頭で来るなんて思わない。ガルムは最低でも十数頭の群れで生活しているので、残りの何頭かは森に隠れているかもしれない。獲物が自分達より強ければ退散し、弱ければ一斉に襲い掛かってくるだろう。もちろんそうなれば、二人の命はない。
 言わば、目の前の三頭は小手調べだった。
「獣のくせに、俺達を試そうってのが気に入らねえな」
 ふん、と鼻をならし、ローディンは腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。
「アグニア、お前は下がってろ!」
 ローディンが叫ぶと同時に、三頭のガルムは牙をむき、突進してきた。それも、彼が予想していたよりもはるかに早いスピードで。
 二人がガルムに遭遇したのは、実は初めてだった。全く、本で得た知識だけでは当てにならないものだ。
 しかしローディンの闘志は変わらない。戦闘の経験の代わりに、彼には今までずっと磨いてきた銃の腕がある。
「くらえっ!」
 横一列に並んで突き進んでくる三頭のガルム。ローディンはそれぞれの額に狙いを定め、三発撃った。
 左右のガルムに当たり、二頭はもんどりうって倒れた。しかし真ん中の奴には外れた。物凄い速さでローディンに迫ってくる。
「――!」
 もう一発撃つ。しかしこれも外れた。
 一気に間合いを詰められ、ローディンにガルムの牙が襲い掛かる。
「ローディン!」
 アグニアには、ローディンがガルムに体当たりを食らって吹っ飛ばされたように見えた。そもそも体の大きさが違い過ぎる。接近戦で適う相手ではない。
 このままではローディンが死んでしまう、とアグニアが思った時、銃声が聞こえた。
 最後のガルムは、下あごから頭を打ち抜かれて絶命した。
「危なかったな……」
 ローディンはそう言いながら、最後の一発を森に向けて発砲した。
 威嚇のつもりだった。もしこれで襲ってくるのなら、拳銃ごときでは勝ち目がないからだ。
「……襲ってこないみたいだ」
 しばらくしても残りのガルムの姿は現れない。どうやらガルムのリーダーは、『こいつらを狩っても割に合わない』と判断して、下っ端ともども退散したらしい。
「……ふう」
 ローディンは安堵のため息を吐いた。一歩間違えば死んでいたところだった。
 彼が左腕の傷だけで済んだのは、ガルムの弱点を知っていたからだ。図体はでかいが所詮は犬。奴らにとって唯一の武器である牙にさえ気を付ければ、被害を最小限に抑えることができるのだ。まあそれが出来たのは、あの恐ろしい牙を見ても怯まない彼の勇気あってのものだが。
「大丈夫だった!?」
 アグニアがローディンに駆け寄る。
「ああ」
「傷見せて! 治癒<ヒーリング>の呪文唱えるから!」
 ローディンは左袖をまくり、傷を見せた。傷そのものは深くないが、とめどなく血が流れている。
 治癒の呪文を唱えたアグニアの手に光が宿り、その手をローディンの腕の傷に当てた。
「ごめん……ごめんねっ!」
 ローディンを治療しながらも、アグニアは涙目になっている。
「な、なんだよいきなり。何を謝ってんだ」
「だっ、だって、ローディンが死にそうだったのに、私、なんにもできなくてっ!」 
 嗚咽を上げるアグニア。
「アグニアは俺の援護だって決めたろ? 十分役に立ってる」
「で……でもっ! ぐすっ……」
 ローディンはアグニアの頭をなでてやる。子供っぽいなあとか思いながら。
 彼は鼻をすすっているアグニアの顔を見て、微笑む。
「心配してくれてありがとな」
 そんな彼の言葉を聞いて、彼女は涙を拭き、笑顔を見せた。

 十一歳のアグニアに、十三歳のローディン。旅人としてはあまりにも幼い二人だ。
 そんな二人が目指す場所は、『ウィルママウンテンズ』と呼ばれる、崖のようにそそり立つ山々だった――

       †

 ローディンとアグニアが秘密基地として使っていたのは、魔術教会の地下室で偶然見つけた隠し部屋だった。アグニアはそこの教会で働いている会員の娘であり、最初に隠し部屋を見つけたのも彼女だった。教会の人間は誰もその部屋のことを知らない。そこで一番仲良しのローディンだけに隠し部屋のことを打ち明け、以後、雨の日は必ずここで遊ぶようにしていた。二人で悪巧みをするのも、絶対に洩らしてはいけない秘密の話をするのも、もちろんこの部屋で。
 隠し部屋と言っても、そんなに狭くない。一般的な家の部屋くらいの大きさはあった。
 部屋の中には埃にまみれた本棚と、大きな木箱の中に、物騒な事に拳銃があった。何故こんな物がここにあるのか分からないが、ローディンにとって一番の宝物になった。弾だって沢山ある。彼は暇を見つけては村の外で銃の練習をした。
 アグニアは本の方に興味が行った。とても古い本がずらりと並んでいる。自分が知らない文字で書いてあるが、時々描いてある挿絵を眺めているだけで胸が高鳴った。様々な世界の絵を見て、そしていつか自分も旅をしてみたいと思うようになった。数ある本の挿絵の中でも特に彼女のお気に入りは、広大な海に、雲間からいく条もの光が射し込むものだった。自分もいつかそんな素晴らしい光景を見てみたいと思った。
 そんな訳で、ローディンとアグニアは、幼い頃から町の周辺を冒険するのが好きだった。大人達は危ないから村から出るなと言われていたが、門番の隙を見てはこっそり抜け出していた。
 二人は旅について色々勉強した。ローディンは戦い方を覚え、アグニアは主に防衛魔術を覚えた。家から旅に必要な道具を持って来たり、旅人から食べ物と交換してもらったりした。特に、町に時々訪れる旅人から聞く話はとても参考になった。
 そんな時に、例の秘密の部屋で見つけたのが、古びた地図だった。本棚の裏に隠されていたのを見つけたのが、ついひと月前のことだ。
「なんだろ、これ?」
「ここに印が付いてる。きっと宝の地図だ。ここから結構遠いけど、行ってみようぜ」
「印の下に何か書いてある……『鉄に眠りし黒き力よ』? どういう意味だと思う、ローディン?」
「さあな。とにかく行ってみれば分かるさ。早速旅の準備だ!」
「もうっ、ローディンってば、せっかちなんだから」

       †

 二人が住んでいた町であるリテラを抜け出してから八日が過ぎた。親や知り合いが心配しているかもしれないという罪悪感はあった。しかし今は、二人で冒険をしていることが楽しくて仕方がなかった。最初は訳が分からず戸惑っていた旅も、一週間を過ぎて大分慣れてきたように思う。
 そして日が大きく傾いた頃、どうにか目的地に着いた。
 岩山の切り立った崖の下、人一人がやっと入れるくらいの穴が空いている。
「洞窟か……でっかい遺跡でもあるかと思ったんだけどな」
「それよりローディン、今日はここでキャンプする?」
「とりあえず入ってみようぜ」
「気を付けて、いきなり襲われるかも」
「そんなことねえって。心配すんな」
 ローディンは使い慣れたランタンに火を灯し、洞窟の入り口を照らした。
「ん……?」
 足跡がある。かなり新しい。大きさから見て大人、一人だけのようだ。
「先客がいたか……まずいな」
「どうする、ローディン?」
「入ってみるしかねえさ。足跡は奥へ向かってる。こことは別の出口がない限り、財宝はまだ取られてないみたいだからな」
 そうして二人は、洞窟に入っていった。
「結構でかいぞ、ここ」
 入り口そのものは小さかったが、奥へ進むにつれて、穴がどんどん大きくなっていく。ローディンはランタンをかざしたが、光が奥まで届くことはなかった。
 ――ズゥゥゥ……ン……
 どこか遠い奥の方で、低く重い音が響いた。
「何、あの音?」
「さあな。先に入った奴が暴れてるのか、化け物が暴れてるのか。ま、ここにいるのは俺達だけじゃないようだな……ん?」
 突如、黒い塊が二人に向かって飛んできた。
「アグニア伏せろっ!」
「きゃあっ!」
 二人が身を屈めた直後、黒い小さな生き物がたくさんの羽音を響かせて上を掠めていく。数は計り知れない。数百はあるのではないだろうか。
 二人をの頭上を飛び去っていく生き物達。全部通過するのに、実に五分以上かかった。
「……コウモリか」
「びっくりしたぁ」
「夕方だからな。エサを探しに出て行く時間なんだろう……奥に行ってみるか」
「うん」
 二人は洞窟の奥深くへと進んで行くのだった。

 足音の響き方が変わった。
 かなり広い場所にでたらしい。ランタンの光は、目の前にある下り階段の途中までしか届かなかった。フロア全体を照らすには強い光が必要だったので、アグニアが照明<ライティング>の呪文を唱えた。
「すげえ、なんだここは……」
「こんなとこに出るなんて……」
 二人は目の前の光景を見て、ただ呆然としていた。
 洞窟の穴は、あれから奥に進むごとに狭くなっていった。突き当たりの岩壁には大きな亀裂が出来ていて、向こう側に出られるようになっていた。
 二人が亀裂をくぐると、そこにあったのは、巨大な地下迷宮だったのだ。
 端から端まで歩くのに、一体どのくらいかかるのだろうか。平坦な通路よりも、階段の方が圧倒的に多い。石造りの細く狭い階段が縦横無尽に張り巡らされている。奥の方へ行くほど深くなっているようだった。途中で階段の陰が邪魔して見えないので、一番奥はどうなっているのか分からない。
「うはぁ……こんなでっかいダンジョンだとは思わなかった。本当にお宝が眠ってるかもしれないな」
「誰が、何のために造ったのかしら。昔の王様のお墓だとしたら、高価な物がたくさんあるかも。……でも」
「どうした、アグニア?」
「帰れなくなるかも」
「……まあな」
 確かにこれだけ入り組んだ場所だと、帰り道が分からなくなる危険がある。
 そこでローディンは腰から短剣を取り出した。
「こいつで壁に傷を付けながら行けば目印になるだろ」
「だけど……なんだか怖い」
「魔物の気配はないんだ、行ける所まで行ってみようぜ」
「うん……」
 目の前の階段を下りて、目印を付けようとした。が、既に×印がついていた。それを見たローディンは、先客がいたことを思い出す。
 アグニアもその目印に気づいたらしく、しばらく二人の間に沈黙が続いた。
「……もしかしたらすごく怖い人かもしれないよ? やっぱり帰ろうよ、ローディン」
「…………」
 ローディンは答えず、バッテンを見詰め続けている。 
「ローディン?」
「……やめた」
 誰が付けたかも分からない印に吐き捨てるように、ローディンはそっと呟いた。そしてアグニアの手を掴む。
 不意に手を握られて、アグニアは頬を赤く染めた。
「え?」
「誰かの後を追うのなんて、もうやめた。――俺は自分で道を切り開く!」
「ちょっと……ローディン? ローディンってば……きゃああああ!」
 ローディンはアグニアの手を引いて、目の前に広がる迷宮に突っ込んでいった。
「わーはははざまあみろ! すぐに追い抜いてやるから首洗って待ってやがれ!」
「すとっぷ、すとーっぷ」
 何がざまあみろなのかは分からないが、今のローディンには、彼に目を回して引きずられているアグニアが見えていなかった。

 もちろん道に迷った。
 ローディンが我に返った頃にはもう、帰る道はおろか、方角すら見失っていた。
 三方を高い段差に囲まれた空き地があったので、二人はそこで腰を降ろして休んでいる。幸い魔獣の気配は無いようなので、今日はここで寝ることにした。
「――でもここ、どこなんだろ?」
「……すまん」
「あっ、別にローディンを攻めてるわけじゃないよ。そうだ、ご飯にしよ!」
 荷物袋から缶詰をいくつか取り出すアグニア。
「ねっ?」
「ああ……」
 食事中も空気はすこぶる重い。
 久々にアグニアの料理以外の物が食べられて幸せなはずのローディンも、さすがに今回の無責任な行動には反省しているようだ。このまま迷い続けて脱出できなかったら、下手をすれば命にかかわるからだ。……まあ、明日になったら忘れてしまうだろうが。
 ともあれ、アグニアにとっては、ローディンにどうしても元気を出して欲しかった。何とか彼のために、明るい判断材料を探さないといけない。と言うのも、アグニアは自分がやるせなくて仕方がなかったからだ。昼間のガルムとの戦闘で、自分は見ているだけで何も出来なかったのが悔しい。今考えると、あの時にこそ使える魔術があったはずなのに、パニックに陥っていたなんて魔術士として失格である。これ以上彼の足手まといにはなりたくなかった。
 考えに考えた結果、アグニアはあることに気づいた。
「でもね、走り回ったおかげで、何となくなくだけどここの構造が分かってきた。すっごく広いフロアだけど、外側ほど浅くて、中央へ行く程深くなってるのよ。もしかしたら真ん中の一番深い場所に何かがあるかもしれない」
 それを聞いて、はっと顔を上げるローディン。
「本当か!? どっちが真ん中か分かるのか?」
「分からないけど、高い所で照明の魔術を使えば多分……」
 それを聞いたローディンは突然立ち上がった。
「あいつめ、追い越してやるからな! 待ってやが……」
「ダメだよ! 今日はもう寝るの!」
「……うい」
 アグニアはいつも不思議でしょうがない。男って、何でこんなことに必死になれるんだろう。ローディンの競争好きには呆れるばかりだった。
「あ、そうだ。念のために結界張っておくね」
 三方を高い壁で囲まれているため、アグニアは簡単な結界を敷くことにした。
 袋から魔力を編みこんだ縄を取り出し、その両端を壁に接着した。これで唯一の進入路を閉ざしたことになり、敵の侵入を防ぐことができる。
 さらにアグニアは縄に手をかざし、魔力を補充する。これで寝てる間は、誰一人通れないはずだ。
「おやすみ、ローディン」
「ああ、おやすみ」
 ローディンもその後、日課となっている銃の整備をして眠りに就いた。

 妖魔や魔獣というものは得てして闇を好む。故にその大部分は夜行性である。
 人間の匂いを嗅ぎ付けて、深い迷宮の奥底から妖魔が一匹、コウモリのような翼を羽ばたかせながら出てきた。長い爪に、大きく裂けた口からのぞかせる鋭い牙。それは悪魔の姿そのものだった。人間からはファミリアと呼ばれている妖魔の一種である。
 どうやら獲物を見つけたらしい。十メートル位の崖下にある袋小路で、二人の人間が眠っている。しかもとびきり若くて活きが良さそうだ。極上の獲物を前にして、ファミリアは大いに喜んだ。
 縄で結界が張ってあるが、あれは横からの侵入を防ぐものだ。上から飛び込んでしまえば関係ない。いや、むしろ獲物の逃げ場所がなくなる分、かえって都合が良かった。
「ケケッ……」
 垂直の壁に張り付き、頭を下にして降りていく。音を立てないように、少しずつ。
 美味そうな匂いにたまらず舌なめずりするファミリア。やがて地面に降り立ち、目の前の少年の顔をのぞく。良く眠っているようだ。
 ファミリアは口を目一杯開け、少年の首に勢い良く牙を突き立てた。
 痛みに目を覚まし、少年は悲鳴を上げる。
「いってええええーッ!!」
「むにゃ……どうしたのローディ……きゃあっ!?」
 ローディンの首筋に、妖魔がくっついていた。
 ……全長二十センチくらいの小さな妖魔が。
「吸ってる! こいつ血ぃ吸ってる!!」
 ローディンはファミリアを素手で引き剥がす。が、ファミリアは彼の手に爪を突き立てて逃れた。
「痛っ! なんだこいつ」
「ローディン、大丈夫!?」
 アグニアはローディンに駆け寄った。彼の首と手から出ている血を見て、回復呪文を唱える。
「俺のことはいい、それより……」
 ファミリアは宙に浮かんだまま、手を天に掲げた。手の平に火の玉が生まれ、見る間に自分自身よりも大きくなっていく。
「火の魔術……しかも無詠唱なんて!」
 魔術というのは、広い意味では現実には起こり得るはずのない事象を引き起こすことである。それがどんなに小さいことでも、普通の術者にはある種のきっかけが必要になる。呪文であったり、特殊な道具に魔力を込めたりすることだ。
 それが、今目の前にいる妖魔は、何の前触れも無く火の玉を出した。こんなことが出来る妖魔を二人は知らない。「燃エロ」
 ファミリアは、大きな火の玉を二人に向けて投げつけた。
「うわっ!」
 ローディンは慌てて毛布を投げ返す。毛布は火の玉を包み、一瞬で炭になった。
「……こいつ、ただの妖魔じゃない!」
 魔物の中でも人語を理解し、魔術を使う者を特に妖魔と呼ぶ。しかし目の前にいる小さな妖魔は、二人が知識として持っているそれとは桁違いの魔力を秘めていた。
 確かに形は小さいが、底が知れない相手と始めて対峙する二人に緊張が走る。
「ケケケ……」
 久しぶりに新鮮な人間の血を吸ってご機嫌なファミリアは、両手に火の玉を出現させた。
「させるかっ!」
 ローディンはホルスターから拳銃を抜き、ファミリアに二発撃った。右の翼に穴が空き、わずかにバランスが崩れる。だが飛ぶのに支障は無いようだった。翼は飛行の補助的なもので、本来は魔力によって浮いているからだ。
「久々ニ焼イタ人肉ヲ喰ラエル」
 火の玉が二発同時に来る。地面に着弾すると同時に炎が膨れ上がったが、二人はこれを跳んで避わした。
 ファミリアは先ほどよりも更に高い場所を飛び、呪文を詠唱している。どうやら今度は本気らしい。
「……アグニア、防御壁を作ってくれ」
「……分かった」
 アグニアは頷くと、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。混乱していては魔術は成功しないのだ。それが終わると、彼女は懐から鉄製のワンドを取り出し、詠唱を始めた。
 ローディンの拳銃も、飛び回るファミリアにはなかなか当たらない。
「くそっ!」
 ファミリアの腕には、バチチッ、と紫色の電気をまとっている。今度は雷を落とすつもりなのだ。電撃など避けれるはずがない。それを阻止しようとローディンは撃ちまくるが、やはり命中しない。
 ファミリアの詠唱が終わったようだ。腕を二人に向ける。
「アグニアッ!」
「できた……魔障壁<マジックバリア>!」
 ファミリアの手の平から幾筋もの雷光がほとばしり、間一髪で完成したアグニアの障壁がこれを受け止めた。
 透明なはずの障壁は紫色に染まり、そのせいで壁が削られていく様がはっきり見えた。雷撃の方がわずかに強力だったのだ。
 ガラスが割れる音にも似た響きとともに、雷は魔障壁を貫通した。
 電撃は網目の様に細く散り散りに分かれ、ローディンとアグニアに降り注ぐ。
『うわああああ!!』
 壁を壊したことで、電撃自体が弱まっていたことが幸いした。直撃を受けたら即死は免れなかったはずだが、二人は気絶すらしていない。
 しかし、ダメージを負った事には変わりは無かった。戦闘経験の浅いアグニアは、傷を負った状態で防御壁を作るには時間がかかる。
 対してファミリアは、もう詠唱に入っている。再び電気を帯びていく両腕。
 アグニアも必死に詠唱をしているが、命の危険が目の前に迫っている今、冷静になれるはずは無かった。いくら唱えても魔力がワンドに集中してくれない。
 ――絶望的だった。
「死ネ」
「やめてええっ!!」
 放たれる電撃。魔障壁すら打ち砕いた魔術など、生身の体ではとても耐えられない。
 光速で襲い掛かる電撃は、二人に届く前に、短剣に吸収された。ファミリアが雷を放つ寸前に、咄嗟にローディンが投げた物だ。短剣は失速せず、ファミリア目掛けて飛んでいく。
「ギイャアッ!」
 ファミリアは電流を帯びた短剣に胴を貫かれ、二人の元に落ちてきた。
 ローディンはファミリアが絶命したのを確認した後、短剣を引き抜いた。
「こいつが銀製で良かった……鉄だったら効かなかったかもな」
「それより早く傷見せて!」
 アグニアは彼の傷口に手を当て、治癒の呪文を唱えた。傷に光が当てられ、みるみる塞がっていく。
「さんきゅ。でもこれくらいの傷なら治さなくていいぞ。魔力がもったいない」
「いいの! 私には……これくらいしかできないし」
「壁で守ってくれたじゃんか」
「あんなの全然役に立たなかったじゃない」
「んなことないって」
「それに……もう私、これ以上ローディンが傷つくの見たくない! 治癒しかまともにできないけど……でも、私……ぐすっ」
 涙目のアグニアをどうしたものか、と悩んでいるローディンは、ふと、ある気配に気づいて上を見た。
 それを見たローディンは反射的に叫ぶ。
「アグニア、上ッ!!」
 アグニアも鼻をすすりながら見上げ、そのまま硬直した。
 高い壁の上で、十数匹のファミリアが、こちらの様子を覗っていたのだ。奇襲は不可能と見たファミリア達は一斉に呪文の詠唱を始めた。
「――!」
 ここまでか、と思ったその時。
 どこかから、ハープの音色が聞こえてきた。その場違いに美しいハープの音は心地よい旋律を奏で、正しき者に安心を与えた。その音は二人に近づいている。
『ギギギ……!!』
 ファミリア達にとっては不快でたまらないらしく、あっと言う間に飛び去ってしまった。
 ハープの音は止み、二人の後ろから声が聞こえた。
「驚いた。こんなところで人に出くわすなんて」
 二人は振り返った。結界縄の向こうに、男が立っていた。

 男は、名をファレルと言った。
 金髪は肩まで伸び、赤いローブを身にまとっている。格好からして吟遊詩人のようだった。
 ここは危険だから付いて来いと言われ、ローディンとアグニアは急いで荷物をまとめた。
 ファレルは時折、ハープの弦を弾いている。その美しい音は静まった迷宮に響き渡り、邪悪な者に苦しみを与えた。どうやら音の波に魔力を乗せているらしい。二人とも始めて見る類の魔術だった。
 男は二人の先を歩きながら事の顛末を語った。
「急に魔物が騒ぎ出したので、あいつらの後を尾けてみたら君達を発見したというわけです」
「ファレルさん、助けてくれてありがとうございました」
「でも、見たところ吟遊詩人のあんたが、どうしてこんな所に?」
「そんな君達こそ、どうしてここへ来たのです?」
 ローディンの問いに、ファレルは逆に問い返した。
 ローディンはこの迷宮へ来た経緯を述べた。
「そうでしたか。ならば残念でしたね。ここにはおそらく、財宝の類は隠されていませんよ。というのも、ここの地下にあるものは、王の墓などではありませんから」
「じゃあ一体何なんだ?」
「ふふ……何だと思います? 後でお話しますよ。付いてきてください」
 ファレルにはぐらかされて釈然としなかったが、二人は彼の後を付いて迷宮を進んで行った。
 しばらくして地下への階段、すなわちフロアの中心に着いた。三人はらせん状の石階段を下りていく。かなり深い。
「足元に気をつけて。コケで滑りやすくなっています」
 一体どれくらい降りたのか分からなくなってもまだ降り続けた。降りても降りても同じような景色ばかりでいい加減飽きてきた。階段の終わりがあった。十数分かかって降りきったその先には、真っ直ぐに伸びる長い通路があった。三人が横に並んで歩いても十分な程広い。そして両端の壁には、なにやら不思議な模様が刻まれている。
 その壁に手を当て、ファレルはおもむろに話し出した。
「これが、私がここに来た理由です」
「……どういうこと?」
「大昔に書かれた伝承が刻まれているのです。現代の人々が、遠い昔に忘れ去ってしまった事実が記されている。それを後世に伝える事が、吟遊詩人としての私の役目だと自負していますから」
「へぇ……全然読めないけど、どこかで見た気がする。ローディン、見覚えある?」
「うんにゃ」
「とても古い言語で書かれています。知らなくて当然でしょう。私も必死に勉強して覚えましたよ」
 そんな話をしながら、長い長い廊下を歩いていき、やがて突き当たりに到着した。突き当りにはテントが張ってあり、その向こうには重そうな鉄の扉がある。
「この扉の先は、恐らく祭壇になっていると思います。今は古くなっていて開きませんが」
「祭壇?」
「ええ、どうやらここには、何かが祭られているらしいのです。それが何なのかを調べるためにここに来たのですが、まだ解読の途中でして。何せ数千年前に刻まれた文字だ、コケを掃っただけでは読むことも難しいのです。詳しい事はまだ分かりません」
「この扉の奥に、神様に捧げた宝はないのか? 骨董品くらいはありそうだけど」
「あるかも知れませんね。しかし、開ける術がありません」
 それを聞いたローディンは、お前の言ってることは信用しないとばかりに、扉に向かっていった。
 全力で押してみたが、びくともしない。もちろん引いても開かない。
「ぜえ……ぜえ……」
 荒い息を吐き、ローディンは肩を落とした。
 その光景を見たアグニアは、そっと呟く。
「……ローディンのばか」
 
「今日はもう遅い。よかったら私のテントで休まれてはいかがですか」
「いいの? ファレルさんの寝る場所がなくなっちゃう」
「私はこれを書き写す仕事がありますから」
 ファレルはテントの中から本を一冊取り出した。
「えっ、これ全部……? 両側の壁の文字、全部書き写すの?」
「ええ、伝承歌にするために。よければ明日、この物語をお話しましょう」
 ファレルは本を開いた状態で地面に置いた。腰の袋からペンを取り出し、魔力を込める。するとペンが本の上で動き出し、勝手に文字を書き始めた。
 ローディンはおろか、魔術協会にいるアグニアすら、あんなペンは見たことがなかった。
「おやすみなさい。二人のために眠りを導き、疲れを癒す音楽を奏でましょう」
「ありがとう、おやすみなさい」
 二人はファレルに就寝の挨拶をして、テントに入った。
「不思議な感じがするけど、いい人みたいだね」
「んー……まあな」
 ローディンは不機嫌だった。競争相手に助けられ、しかも最大の目的である財宝はないと言われたのだ。これほど白ける話はない。
 しかし、間もなくファレルのハープが聞こえてきた。何とも心地良い音色がローディンを包み込み、競争や宝など、どうでもよくなってしまった。つい先ほど妖魔に襲われた恐怖すら消え去り、二人は安らかな眠りに就いた。

 そして次の日。
 といっても、太陽の位置が分からないので、正確には朝になったのか分からないのだが。
 ローディンとアグニアがテントから出ると、魔法のペンはまだ本の上を走っていた。ずっと向こうには、ランタンを掲げながら、壁の文字と睨めっこをしているファレルが見える。
「ファレルさーん!」
 アグニアが手を振って呼ぶと、ファレルはそれに気付いたようで、二人の方に歩いてきた。
「おはよう、ファレルさん」
「おっす」
「おはようございます、ローディン君、アグニアさん」
「ファレルさん、あれからずっと起きてたんですか?」
「ええ、ここに書いてある物語がとても興味深いものでしたので。昨日は興奮して眠れませんでした」
 微笑み合うアグニアとファレル。
 ローディンは仏頂面で荷物袋の食糧を漁っている。
「朝食の間、少しお二人にお話しましょう」
「ぜひお願いします」
 朝食は昨日と同じ缶詰だったが、ファレルの話す物語がとても面白くて、昨日の夕飯よりずっと美味しく感じた。
 物語はこうだった。

 昔むかし、国と国がこの地で激しい争いをしていました。
 戦いはなかなか決着せず、とうとう片方の国は恐ろしい魔術を使ってしまいます。世にも恐ろしい悪魔を呼び出してしまったのです。
 悪魔は、召喚した者の魂を奪う代わりに、一つだけ願いを叶えてやると言いました。
 国王はそれを聞いて大層喜び、悪魔に敵国を滅ぼしてくれと頼みました。
 悪魔は相手の国をあっという間に滅ぼしました。
 その後悪魔は召喚した者の魂を奪って帰っていくはずでしたが、強欲な王様は、これからもその悪魔を利用し続けたいと思いました。
 そこで国一番の魔術師に、ある魔術を使わせて、悪魔を箱の中に閉じ込めてしまいました。
 それからこの国は、平和な時はここに悪魔を封じ込めた箱を隠し、敵が押し寄せてくるたびに箱から悪魔を出して戦わせました。
 こうして今も、国は栄え続けているのです。

「ここに刻まれている物語はこれで一旦終わります。しかし、遠い国の歴史書に書かれていました――この国の最後が。約二千年前に内戦で滅んでいるのです。……他国の侵略には強くても、自分の国に悪魔を放つには、力が強過ぎたのでしょうね。皮肉なものです」
 話を聞き終わったアグニアは、少し脅えてる様子だ。
「怖い……私達のすぐ近くに、そんなすごい悪魔が眠ってるなんて」
「大丈夫ですよ。固く閉ざされた鉄扉の奥で眠っているはずです。何もしなければ目覚めはしません」
「だといいけど……」 
 ファレルは「これは私見ですが」と前置きし、
「私が興味を持ったのは魔術についての記述です。私が思うに、ここで語られている魔術は、悪魔を封印するものではない。悪魔を服従させるためのものであったのではないでしょうか。そうでなければ『箱から悪魔を出して戦わせ』ることは出来ない」
「そう言われれば」
「今はそのことについて書かれていないか調べています。一体どんな魔術なのでしょうね。判明したら、もう用はありません。私と一緒にここを出ましょう」
 朝食が終わると、ファレルはそれではと言って解読作業を再開しに行った。
「良かったねローディン、帰れるって」
「…………」
「どうしたの?」
 ローディンは昨日からずっと、釈然としないままだった。自分が思っていた冒険とは何か違う。こんなものじゃないと思い続けていた。ダンジョンの奥底には凶悪な敵、そして宝が待っている。そのはずだったのに、こんなグダグダではやってられない。これで旅は終りだなんて尻すぼみである。
 ローディンは腰の袋から、古びた地図を取り出した。
「何だって、こんな遠くまで来たんだか……」
 そして、地図に書かれた文字に気付いた。
 さっきの昔話を聞いた今では、この文字が何を意味しているか分かる。
「なあアグニア、この『鉄に眠りし黒き力よ』って、悪魔のことじゃ……」
 ローディンがそう口にした直後、後ろで轟音が響いた。
 振り向く二人。今までびくともしなかった重い鉄の扉が開いていく。
『……!』
 地図に書かれていたのは、扉を開けるための合言葉だったのだ。
「……入ってみようぜ」
 ローディンは扉に向かって歩いていく。
「ちょ、ちょっとローディン!? 待ってよ!」
 アグニアも慌てて彼の後についていった。
 わずかに開いた扉の隙間から入ると、そこは二人が思っていたよりもずっと狭く、五メートル四方の部屋の奥に、お粗末な祭壇しかなかった。祭壇の上には燭台の他に何もなかった。
「なんだここ、何にもないな」
「でも、祭壇がある……この中に悪魔が眠ってるってこと?」
「調べてみようぜ」
 ローディンは祭壇に足を伸ばそうとしたが、いつの間にか二人の元まで来ていたファレルがそれを制し、彼の目の前に立ちはだかった。
「ここは危ない。さっきの話を聞いたでしょう? ほんのちょっとしたきっかけで悪魔が目覚めかねません」
「でも、すごいお宝があるかも……」
「いけません!」
 今までの穏やかな口調とは打って変わって、ファレルはきつい怒声を放った。
「万が一悪魔が蘇ったら勝ち目はありません。長年旅をしてきた私の勘が告げているのです。下手したら死ぬ、と」
「…………」
「…………」
 沈黙が続く。
 しばらくしてローディンが引き下がろうとした、その時。
 壁から突然、巨大な腕が生えた。
 ごつい鉄の防具で覆われた丸太のように大きい腕は、石造りの壁を突き破って、ファレルを掴んで引きずり込んだ。
「……!!」
 壁の向こうに部屋が隠されていたのだ。ほんの一瞬のことで、二人は言葉を失った。
 向こうの部屋で、鉄が擦れあう音が響いている。
「……ファレルが危ない! アグニア、行くぞ!」
 ローディンとアグニアは、鉄の腕が作った壁の裂け目から奥の部屋へ入っていった。
「ファレルさん!」
 部屋は広く、祭壇があった部屋の十倍はあった。床一杯に魔法陣が描かれている。
 そして、ファレルを掴んでいる腕の主が、部屋の真ん中に立っていた。
 所々錆びた鉄の鎧に身を包んだ化け物が、そこにいた。三メートルはあろうかという巨体である。兜の隙間から覗く眼だけが赤く輝き、ギョロギョロと動いている。
 ファレルは鉄の巨人に掴まれたままで、足に地面が着かない、身動きも取れない状態だった。
「に……逃げて……二人とも……!!」
「ギ……ギ……」
 鉄鎧は金属が軋むような声で唸ると、ファレルを高く持ち上げ、二人に向けて投げつけてきた。
「うおっ!?」
 二人は避けたが、軽々と放り投げられたファレルは、壁に出来た穴を抜け、飛んで行ってしまった。
「ファレルさんっ!!」
 アグニアが呼んでも返事はなかった。
 冷たい部屋に取り残される二人。
「…………」
 ローディンは震えていた。目の前の圧倒的な存在をじっと見据えながら。だが、その目に恐怖の色はない。
「これでこそ、冒険を締めくくるのにふさわしいよな……やっぱりこうでなくっちゃな!」
 呼吸を整え、武者震いを鎮める。
「お前が何者か知らないが、ファレルがやられた以上、十倍にして返してやる!」
「ギ……!」
 鉄巨人はローディンに襲い掛かり、叩き潰そうと拳を掲げた。
 大きな拳は巨体にあるまじきスピードで振り下ろされ、地面に敷き詰められた石を粉々に砕いた。寸前で後ろに跳躍したローディンも、弾け飛んだ石の破片を受けて傷を負った。
 だが、なんとか体勢を崩さずに着地する。
「アグニア、ファレルを頼む!」
「え、でも、でも……」
 アグニアはパニックに陥っていた。ローディンとファレルが飛んで行った方向を見比べているだけで、結局何も出来ずにいる。
「早く行けっ!」
「グ……ギ……素早イナ……小僧」
 初めて巨人がまともな口を利いた。相変わらす金属が擦れ合うような不快な声音だった。
「へへ、昨日の犬っころより鈍いでやんの!」
「図ニ乗ルナヨ……」
 兜の奥で、黒い生物の口が笑みに歪んだような気がした。
 次々に拳を地面に叩きつけていく巨人。その度に足場が抉れ、平らな場所が無くなっていく。
 ローディンは巨人と少し間を置き、ホルスターに手をかけた。
「くらえっ!」
 狙うは兜の隙間だ。鎧の部分に弾を当てても無駄だろうが、あそこなら……!
 ローディンは立て続けに三発撃った。二発は兜に当たったが、一発は見事、隙間に命中した。
 しかし、巨人には変化が見られなかった。兜の隙間に入った弾は、闇に吸い込まれるように、すうっ、と消えてしまったのだ。
「な……まさかこいつ!?」
「ソンナ物は効カヌ……ワハハ!」
 笑いながらローディンに突進してくる鉄巨人。
「アグニア! 援護を頼む!」
「ごめん……さっきから唱えてるんだけど、失敗しちゃって上手くできない……」
 今まで見たどんな者よりも凶悪で、正体不明の敵を目の前にしていては、アグニアの精神が平静を保てるはずがない。成功率が精神状態に大きく左右される、それが魔術である。
 ローディンに襲い掛かる重い拳。またもや紙一重で避けるが、凄まじい風圧でバランスを崩した。
「しまっ……!」
 瓦礫につまづき、尻餅をつくローディン。
 見上げた彼の視界には、巨大な手がすぐ側にまで伸びていた。
「ローディン!!」
「ギ……!」
 巨人の手が止まる。
 アグニアの叫びに怖気づいたわけではあるまいが、鉄巨人は動きを止めた。
「え……?」
 心地よいハープの音色が聞こえてくる。ファレルが奏でる破邪の旋律が部屋に響き渡った。
「ファレルさん、良かった……」
 口から血を流し、地面に這い蹲りながらも、ファレルは必死にハープを弾いていた。
「……物語に出てくる悪魔は、まさしくそいつです。悪魔を封じ込めた箱とは鎧のことだったのです。その鉄鎧には強力な魔封じの呪いが書かれています。奴はほとんど力を出していないでしょう。しかし、床に描かれていた魔法陣が砕かれた今、こいつを再び封印する術はありません。私がライアを奏でている間に逃げてください!」
 ファレルは重症のはずだった。あちこち骨折していて当然の攻撃を受けたのだ。だが、それにも関わらず、自分の身を呈して二人を守っている。
「白銀ノらいあカ。忌々シイ音色ダ。……ホトンド効カヌガナ。ワハハハ!」 
 悪魔はあっけなく動き出した。多少動きが鈍くなっているだけだ。ファレルもまた、怪我のせいで魔術が完全ではないのだ。
「貴方達だけなら逃げられます……大丈夫、私が時間を稼ぎますから、早く逃げて……!」
 演奏しながらも苦痛で顔を歪めているファレル。
「早く……」
 だが、ローディンは構えを解かない。
 銀の短剣を取り出し、鎧の悪魔に切りかかった。
「アグニア……援護魔術頼む!」
 はっと我に帰るアグニア。もう心に迷いはなかった。精神統一し、ワンドを構え、静かに呪文を詠唱する。
「二人とも……何故逃げないんですか!」
 嵐のように駆け抜ける鉄の拳を避けながら、ローディンは口を開く。
「ファレルはどうすんのさ? そんな怪我で、こいつから逃げ切れるのか?」
「それは……」
「俺達は、傷ついた仲間を見捨てて逃げる程、性根が腐っちゃいないんでね。なあアグニア?」
「そういうことっ! 肉体強化<オールマイティ>!」
 アグニアの呪文が完成した。一時的に身体能力を向上させる魔術だ。ローディンの体が淡い光に包み込まれる。
 ローディンは鉄の拳を余裕で避わし、カウンターで兜の隙間に短剣をねじ込んだ。
「グヌ……!」
 苦痛にうめく悪魔。
「銀の武器が効くなんて、やっぱりお前悪魔だな」
「オノレ……」
 怒りにまかせて鉄拳を振るうが、ローディンは完全に相手の動きを読み切っていた。
「ローディンが押してる……これなら勝てるかもしれない!」 
 彼の戦いぶりを見て少し安心したアグニアは、重症のファレルの元に駆け寄った。
「ファレルさん、今怪我を治すから」
「あ……ありがとう。しかし、私なら大丈夫です。それよりも、あの悪魔を何とかしなくては……」
「ローディンならきっと勝てる。心配いらないよ」
「いえ……銀の武器くらいで倒せるとは思えません。あの鎧の中身は、国を滅ぼす程強大な力を持った悪魔ですよ。人間の力だけでは到底無理です」
「そんな……何か私に出来ることはないの?」
 ファレルは羊皮紙の巻物を取り出した。
「さっき投げ飛ばされたとき、祭壇にこれが隠されているのを見つけました。おそらくこれが、あの悪魔を服従させたと言われる魔術です。本当は貴方がたが逃げた後で一か八か使ってみようと思っていたのですが、正直なところ、私は魔力があまり残っていないのです。……しかしアグニアさん、きっと貴方なら出来る」
「分かった、……やってみる」
「古代語で書かれているので、翻訳しなければなりません」
 詠唱は、現代語でも古代語でも意味が変わらなければ問題ない。術者による言葉と精神の同調こそが重要なのだ。
 ファレルは紙を取り出し、魔法のペンに現代語の呪文を書かせた。
「アグニアさんは精神統一を」
 言われた通り、瞑想を開始するアグニア。
「ぐあああああっ!!」
 しかしその直後にローディンの叫び声が聞こえた。
 アグニアが目を開けて見た光景は、鉄鎧に投げ飛ばされ、壁に激突しているローディンだった。
「ローディン! ……そんな、まだ呪文の効果は弱まっていないはずなのに」
「……くそっ」
 肉体が強化されているおかげで、ダメージ自体はそれ程ではない。しかし、今まで互角以上だったスピードがくつがえされたことに怯むローディン。
「こいつ……どんどん強くなってやがる!」
「グハハ……サッキマデノ威勢ハドウシタ!」
 見間違いではない。鉄巨人の身のこなしが素早くなっている。
 敵の攻撃は次から次へと繰り出され、ローディンは再び避けるだけで精一杯になる。
「……よく見ると、奴の鎧全体に細かいヒビが入っています。鎧は魔力を封じるためのもの。長い時を経て、封印が弱まっているのです。このままだと鎧の封印が解けてしまう。まだ全て訳してはいませんが、時間がない。詠唱を始めて下さい!」
 アグニアはうなずき、
「ローディン、今助けるからね……」
 ロッドを構え、静かに詠唱を開始した。

 ただひたすらに高き者よ
 最古にして最強の騎士よ
 汝の力を前にして全ての悪はやがて滅びる――

「ソレハ……ヤメロ……!」
 アグニアの口から発せられる呪文を聞いて、悪魔は露骨に動揺した。
 対峙していたローディンを無視し、アグニアに向かって突進していく。
「アグニアっ!」
「危ないっ!」
 すんでの所で、ファレルがアグニアを突き飛ばした。ファレルは鉄巨人の体当たりが直撃し、壁に叩きつけられて気絶した。
「ファレルさん!」
 悪魔はアグニアに拳を放つ。だが、今度はローディンが間に入って攻撃を受け止めた。
「ぐ……ぁ!」
 かつてない重さの衝撃に、ローディンの体が悲鳴を上げた。
「邪魔ヲスルナ……小僧」
「ローディン……ファレルさん……」
 アグニアは、ややもすれば泣いてしまいそうになる自分を戒めた。
 ファレルは、目の前の悪魔が完全復活するまで時間がないと言っていた。そしてそれを防ぐには、古代の魔術を使うしか無い。
 今、何が出来るのか。何をすべきなのか。そのことを自分に言い聞かせ――覚悟を決めた。
「ローディン、出来るだけ時間を稼いでっ!」
 ローディンが振り返り、一瞬、二人は目が合った。
 彼の瞳が「やれるな?」と語りかけてくる。
 無言で、しかし強く頷くアグニア。
「頼んだぞっ!」
 ローディンに拳が振り下ろされるが、避わすと同時に悪魔の腕を掴み、そのまま持ち上げてしまった。
「グヌ……!」
「うおおおおおっ!!」
 持てる力の全てを使って、悪魔を部屋の反対側まで放り投げ、さらに追い討ちをかけようと単身突っ込んでいく。
 今度は守っているだけではいけないのだ。攻撃して、アグニアへ注意が回らないようにしなくては。
「ローディン、頑張って……!」
 アグニアはそう呟くと、再び詠唱を開始した。

 ただひたすらに高き者よ
 最古にして最強の騎士よ
 汝の力を前にして全ての悪はやがて滅びる――

 肉体強化の魔術が解けてきたようだ。ローディンの動きが徐々に鈍くなっていく。
 それでもローディンは一歩も引かない。銀の短剣を振りかざし、ひたすら攻める。

 汝に三つの誇りを差し出そう
 一つは死を恐れぬ勇気
 一つは弱き者をかばう慈愛
 一つは困難を打ち砕く知恵
 これぞ我が魂 汝の強さ
 我が魂に汝の強さを与え給え
 優しく強き一筋の――

 魔術の完成が近いようだ。体内で練られたアグニアの魔力が、ワンドに収束していく。
 そして――
「――!?」
 それだけだった。魔力の塊がワンドに集まって、ただそれだけだった。 
 これで、書かれていた呪文は全て読んだ。何も起こらないのはおかしい。
 そしてすぐにアグニアは思い出した。ファレルが気絶したと同時に、魔法のペンも動きを止めたことを。
(そ、そんな……!)
 あと少しなのに、最後の単語を言えばいいはずなのに、それが何なのか分からないなんて。
 このままでは、せっかく一点に集中させた魔力が散ってしまう。
 アグニアはどうしていいか分からなくなり、辺りを見回す。羊皮紙が見えた。半ば無意識に駆け寄った。古代語など分かる訳がない。それでも何故か、見ておかないと気が済まなかったのだ。
 羊皮紙に書かれている最後の文字、それは偶然にも、彼女が良く知っているものだった。
 ――魔術協会の隠し部屋。
 知らない文字で書いてある、古い書物がずらりと並んだ本棚。
 数ある本の挿絵の中でも、特にお気に入りは、広大な海に、雲間からいく条もの光が射し込むもの。
 いく条もの、『光』――

「光よ!」
 その言葉を発した途端、ワンドに集められた魔力は形を成し、光り輝いた。神々の時代に作られたという伝説の武器となって、目の前に現れたのだ。
 その武器の名は――グングニル。
 戦いの神オーディンが持つとされる、一撃必殺の聖槍である。
「ギギギ……!」
 部屋全体を照らす程のまばゆい光に悪魔も気付き、怖気づいた。
 グングニルは宙に浮かんだまま、ただ静かに呼び出した者の命を待っている。
「聖槍よ、悪を貫け!!」
 アグニアが叫ぶと、稲妻の如き速さで空を切り裂き、鉄の鎧を貫いた。
「グギアアアアアア!!」
 光に侵食され、悪魔はこの世のものとは思えぬ悲鳴を上げている。
 やがて、力なく膝をつき、動かなくなった。
「…………」
 部屋が静寂に包まれる。
 アグニアも今の魔術で魔力がすっからかんになり、床にへたり込んだ。
「……終わった?」
 これで終わった。二人はそう思った。
 だが次の瞬間、悪魔の腕がローディンを掴んだ。
「がはっ……!」
「ローディン!」
 アグニアの魔力が足りなかったのか、それとも悪魔が強過ぎたのか。今となってはどうでもいい。ただ、目の前の悪魔は死ななかった。その現実を突きつけられ、彼女にはどうすることもできなかった。
 ローディンは首を締められているにも関わらず、残った力で悪魔に突き刺さっている槍を掴み、引き抜いた。
「……貴様ノ魂ヲ喰ロウテヤルワ」
 悪魔も瀕死だった。片腕すら満足に動かせない様子で、魂を食って傷を回復させる気らしい。
「ぐ……!」
 ローディンは槍を持ち上げようとするが、力が入らない。
「死ネ……」
 悪魔の腕に力がこもる。
 それに呼応するかのように、ローディンの瞳に光が失われていく。
 グングニルを持つ手が下がっていく。
「……ローディン!!」
 何度も彼の名を呼び、泣き叫ぶアグニア。だが返事はない。
「槍よ! 悪魔を貫け!」
 そう叫んでも、槍はぴくりとも動かない。槍の召喚で魔力を使い過ぎたのだ。
「フハハ……ソウ死ニ急ガズトモ良イ。順ニ喰ッテヤルカラ安心シロ」
 このままでは殺されてしまう。
「モットモ今逃ゲタトコロデ、地上ノ人間ハ全テ我ノ腹ニ収マルノダガナ……フハハハハ!」
 もう駄目だ、みんな殺されてしまう……。
 そう思った時、それは聞こえた。――ファレルのハープだ。
 悪しき者の力を弱める、その音色は実に心地良かった。
 悪魔の力が抜け、ローディンの拘束が解かれていく。
「ゲホ、ゲホッ……!」
 ローディンは何とか意識を取り戻した。槍を構え、疲れ果てた笑みでもって悪魔を見据える。
「よくもやりたい放題やってくれたなぁ、おい……」
「ヤ、ヤメロ! コンナ餓鬼ニ……!」
「あばよ!!」
 ローディンは最後の力を振り絞り、光り輝く槍を悪魔の兜に突き入れた。
「ギュオオオオオオオオオォォ……!!」
 槍の放つ光に吸い込まれていくような、悲鳴ともつかぬ断末魔だった。
 鎧全体から黒いもやがあふれ、散っていく。それと同時に、鎧はバラバラになって崩れ落ちた。
 グングニルも自分の役目を終えたと知るや、閃光を放ち消滅した。
 ――倒したのだ。悪魔を。
「へ、へへ……倒したな」
 三人は目を輝かせ、顔を見合わせる。
「俺達は倒したんだ!!」

 洞窟を出ると、太陽が地平線の彼方に沈んでいくところだった。
 悪魔を倒した後、体力と魔力を回復するために少し休んだのだが、その間、ファレルは二人を叱るばかりか誉め称えていた。
「悪魔の復活は間近に迫っていた。これは私の憶測ですが、既に奴は自ら魔法陣の封印を破り、魔封じの鎧の効果が薄くなるのをじっと待っていたのでしょう。ですが数千年の間、食糧である人間の魂を喰っていないせいで、奴はかなり弱体化していた。一国を滅ぼした悪魔をたった三人で倒せたのは、そのおかげであると言っていいでしょうね。つまり、奴を倒す時期は今がベストだったわけです。いや、ローディン君の判断は全く正しかった。年長だ、旅の上級者だと偉ぶったりした自分が恥ずかしい限りで……」
 などと、ひっきりなしに話しているファレルを尻目に、二人は囁き合う。
「……怪我人のくせにお喋りだよな」
「……うん、ちょっと、ね」
 ――そして今、三人は赤い夕日をしばらく眺め、感慨にひたっている。
 しばらく無言が支配していたが、ファレルが口を開いた。
「アグニアさん、治療をありがとう。私は旅を続けます。貴方がたもお気をつけて」
 ファレルはそう言うと、森の中に消えていった。
 そして姿が見えなくなった代わりに、ハープの音色が聞こえてきた。別れに相応しい、少し悲くて、とても美しいメロディだった。
 二人は耳を澄まして聴いていたが、段々と遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
「……さてと、帰るか?」
 ローディンがアグニアに尋ねる。
「うん……でも」
「ん?」
「このまま旅を続けてもいいかな、って思っちゃった」
 それを聞いてローディンは微笑む。アグニアも静かに微笑み返す。
「それもいいかもな。どうせ帰っても、皆にめちゃくちゃ怒られるし」
 アグニアは、へへ、と笑いうなずいた。
「どうする? ローディン」
「そうだなぁ……」
 ローディンはポケットから銅貨を一枚出した。
「表なら帰る。裏なら旅を続ける、ってのはどうだ?」
「……うん!」
 二人の運命を乗せた銅貨は、勢い良く舞い上がった。
 空に向かって、高く、高く――
2005/09/12(Mon)18:12:40 公開 / COYN
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■作者からのメッセージ
いろんなとこからネタをパクッてる匂いがしますね。うん。
こんな話でも読んでくださってありがとうございました。
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