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『遠ざかる日常』 作者:つまようじ / リアル・現代 恋愛小説
全角4490文字
容量8980 bytes
原稿用紙約14枚
 夕暮れの近づく校舎に聞きなれたチャイムの音が鳴り響く。

 溝口猛はギョロリとした目と突き出た顎の、そのひょうきんな顔で、大きなあくびをした。帰りのホームルームが終わった。教室全体が一日の授業のおわった開放感で、リラックスしたざわめきに満ちる。ずんぐりむっくりとした背格好の彼が小熊のようにゆったりと立ち上がり伸びをすると、近くの生徒たちが笑顔で肩を叩き彼に話しかける。普段は遅刻や無断早退で教師に叱られることも多い彼だが、その愛嬌のある外見とユーモラスな人柄で友人も多い。溝口は放課後に教室で友達と目的もなく雑談をして過ごすことがほぼ日課だった。
   

 気が付けば、三学期も残りあと一ヶ月ほどになり、早々と夕日は沈んでしまっていた。下校時刻近くまで皆と雑談した後、溝口が帰ろうと校門へ向かう階段を降りて行くと、クラスメートの尾崎由比が同じく下校するところだった。
 いつも自分が冗談を言ったりおかしなことをすると、楽しそうによく笑う尾崎。帰る方向が同じで教室でもよく話すようになったが、まじめな話でもこちらの言うことをじっと聞いてくれるところが魅力的だった。
 "よう"と声をかけ、少し話すとお互い一人だったこともあり、二人は並んで校門を出た。


 帰りながら溝口は彼女に最近あった事を冗談も交えて話し、彼女の普段読んでいる本や好きな映画の話などを聞いた。普段は物静かで自分のことはあまり話さない彼女も、こういう時はゆっくりだが自分のことを話す。
 帰宅方向の別れ道に来てもなんとなく会話が途切れず、住宅街への道の途中にある街灯の下で、ガードレールにもたれて話す。
「早いなあ……。二年生ももうすぐ終わって、私達も受験生になるって思うと」
「おお。理系コース行くんやろ?」
 うちの高校は三年から受験別にクラスが分かれる。試験も格段に増え、生活もこれまでとはがらりと変わるという。
「うん一応、農学系の学部希望してるから。溝口君は?」
「文系行きたいわ。でも落ちて働くことになったら親父は家に金入れろって」
「そうなんだ。じゃあ来年はきっとクラス違うんだ」
 そう呟く尾崎の横顔から白い息が出る。
 溝口にとって帰り道で尾崎に会うことはめずらしくなかったが、最近彼女と話していると、いつのまにか少し緊張する自分に気付いていた。
「しかし、こんなにすぐ二年が過ぎると思わんかった」
「うん」
「いい加減将来のどうするかも考えんとなー。……めんどくせえな」
「溝口くんも悩んだりするのね」
「少しはな。尾崎は悩みとかあんのか?」
「私は……最近なんだか毎日が淡々と過ぎていって。何もしてない気がして、すごく気持ちばっかり焦る」
 常に成績上位の尾崎がそんなことを言うのは、溝口には意外だった。
「尾崎とかでもそんな風に思うんだな……。すげえ優秀なのに」
「そんなことないし。……溝口君いつも楽しそうに過ごしてるよね。よく怒られてるけど先生も他のみんなも、この先も思い出すのは溝口君みたいな人だと思う。少し羨ましい」
 そう言ってこちらを見た尾崎と目が合い、溝口は思わず目を逸らしてしまった。恥ずかしさでうまく言葉が返せなかった。
 尾崎は少し遠くを見ながら、独り言のように呟いた。 
「変な話だけど私、小さい頃おばあちゃんの家の温室で、初めて真っ赤な薔薇を見た時のこと今でもはっきり覚えてる。でも最近あったことはあんなに鮮明に思い出せない。私大人になってから、この年ぐらいのことちゃんと思い出せるのかな……」
 

 別れ際、溝口はふと思いついたことをそのまま彼女に言ってみた。
「明日学校さぼって、どこか遊びに行こうか?」
 尾崎は少し驚いた表情をした後、夜に電話でまた返事をするとだけ言って帰って行った。
 自分の言ったことに自分で驚いたのは彼女の姿がすっかり見えなくなってからだった。溝口は家に帰ってからも夕飯も食べずに自分の部屋のベットにあぐらをかき、手に持った電話と数時間にらめっこをしていた。

 時計の針が九時を回ると電話が鳴り、溝口は手から取り落としそうになりながらそれに出た。
「遅くなってごめんね。今日いろいろ話聞いてくれてありがと。溝口くん今電話大丈夫?」
「おお、平気」
 自分の声が緊張していないかを気にしながら、溝口はできるだけ明るく応えた。少しの沈黙の後、尾崎は続けた。
「あの……早めに家出たら、親にも気付かれないと思うし。多分大丈夫」
「ああ。じゃあ、朝六時に**駅集合で。朝寒いから厚着してな」
「ありがとう。授業さぼるなんて初めてかも……。なんだか緊張する」
 そう言って笑った尾崎の声に、溝口も自然とつられた。
 
  
 二月の早朝はまだ息が真っ白になるほど寒かった。空気はぴんと張り付き、小さな駅には人影もまばらだった。ダウンジャケットを着た溝口は入り口の柱にもたれて、時計をちらちら見ては通りの向こうを眺めていた。来てから五分も経たないのに、随分ながいこと居る気がする。気持ちがちっとも落ち着かない。時刻は六時六分。……ひょっとしたら来ないかもしれない。

 急に温かいコーヒーが飲みたくなり、向かいのコンビニへ入った。店内は暖房が効いていて緊張が少しほぐれてくる。
 レジで会計を済ませると後ろから背中を軽く叩かれた。
 振り返ると尾崎がそこにいた。
 紺色コートで緑のストライプのマフラーを首に巻き、ジーンズを履いた彼女は寒さのせいなのか、走って来たのか頬が赤みを帯びていた。溝口はうれしさと驚きが入り混じった気持ちでおはようとだけ言うのが精一杯だった。

   
 四人用のボックス席に向かい合って座った二人を乗せて列車をゆっくりと走り出した。おもしろいとこがあるんだ。それだけ尾崎に言ったあと、溝口ほとんど何もしゃべれず窓の外を見ていた。この辺りは田んぼや畑が多く、市街地へ向かう国道以外は静かに見えた。まだ片田舎の進学校に通う溝口にはどこにいけばいいのか、実は当てなどなかった。なんとなく遠くに行きたかった。
 列車は一定のリズムを刻みながら田んぼの間を流れて行く。同じように外の景色を見つめている彼女の顔が窓に映り、見詰め合ってしまわないように遠くの方を見るようにしていた。自分はまるでいつもの調子が出ないのに、ちらりと見た尾崎の表情は普段より明るかった。


 温室で見たという花。自分のことはあまり話さない彼女。この年ぐらいのことちゃんと思い出せるのかな。農学系の学部希望してるから。さぼるなんて初めてかも。毎日が淡々と過ぎていって……。今、尾崎は何を考えているのだろう……?


 しばらくして乗り換え駅に着くと市街地とは反対の列車に乗り、その後も二人は長いこと列車に揺られ続けた。やはり、街中へ行ったらすぐ補導されてしまうと思ったからだ。溝口はだんだん建物がまばらになっていく景色を眺め、内心少し焦りながらどこへ行けば良いのか考え続けた。乗り換え駅まで割と混んでいた列車は、通勤時間を過ぎてしだいに静かになり列車内には次の駅を告げる車掌のアナウンスだけが響く。
 二人で窓を見つめながら、尾崎が見つけた車窓の草木のことを軽く話すうちに、溝口は少しずつ緊張が解けてきていた。薄曇りの空の下、灰色の風景が遠くに続いていた。


 無人の駅を二つ通り過ぎるうちに、ちらちらと雪が降り始めた。走り続けるごとに雪の粒はしだいに大きくなり、車内との温度差でじんわりと窓が曇った。二人を残して乗客はもう一人しかいない。
 尾崎は持って来た手提げからアメの袋を取り出すと、食べると聞いて溝口に一粒渡した。アセロラ味のキャンディー。
「みんなびっくりするかな? 今こんなとこにいるの知ったら」
 にこりと笑顔でそう話す尾崎に、溝口は温かな気持ちになり思わず笑い返していた。
「おお、きっとな」
「教室にいても、ここにいても一日は一日のはずなのに、どうしてこんなに感じ方が違うんだろう……」
「感じ方?」
「うん、うまく言えないけど。今みんなが多分普通に教室で過ごしてるってことが、なんだか信じられない」
 最後の方は少し冗談めかして尾崎が言った。
「そうだなー、今教室行ったらもしかして空っぽなんじゃないかって気がしてくるわ」
「あはは」
 溝口も今日は朝から時間が長く感じたり、短く感じたりして、明るいような暗いようなこの天気のもとでは、時計がなければ時間の感覚を失いそうだった。
 列車は変わらぬテンポで雪の降る空の下を進み続けた。
「次の駅で降りよう」
 溝口は特に意識もせず彼女の目を見て言った。 
  

 駅の外は一面雪景色だった。元が畑か田んぼかまったく分からないほど白い絨毯は遠くまで広がっていた。
 溝口は興奮して雪の中に走り込んでみた。くるぶしまで埋まるほどの深さであまり速く進まない。振り返ると尾崎も雪の中を歩いてくる。
 雪の中に溝口は仰向けで大の字に倒れこんだ。ずぶりと体が埋まり、空と落ちて来る雪だけが視界を埋める。すごーいと言う声とともに彼女が近づいて来るのが分かった。
「何してるの?」
「降ってくる雪見てる」
 尾崎は彼の頭の方へ歩いて行き、こちらに頭を向けて彼女も仰向けに寝転がった。二人は上から見ると頭の先を中心に左右対称に寝そべっていた。その上に二人をこの景色に隠そうとするかのように真っ白な雪が舞い落ちる。
「すごい! 生き埋めにされそう」
「おお!」
「なんかあんまり寒くないね」
「ああ、不思議だな……」
「うん……」 
 溝口は今見ている景色も不思議でしょうがなかった。遠ざかる日常。今見ているこの空は、本当に普段暮らしている世界とつながっているのだろうか。これは誰かが作った映画のセットではないだろうか。突拍子もない疑問が次々と浮かんでは消えた。

 なんとなく違和感を覚えて起き上がり振り向くと尾崎がいなかった。あたりを見回しても一面の雪景色。足跡も次々と埋まっていくなかで彼女がどこに行ったのか分からない。


 溝口はあたりを見回しながら探し回った。
 すると、少し離れた雪の中に赤いものが、点々と落ちていることに気が付き駆け寄った。尾崎のくれたキャンディー。見るとそこからわずかに残った足跡が続いている。その先を歩いていくと、うずくまる尾崎がそこに居た。

「何してんだ? 迷子になるよ」
 背中越しに声をかけると、振り向かずに尾崎が応えた。
「平気だよ。目印置いてあったでしょ?」
「すぐ雪に埋もれちまうよ」
「それならそれでいいかも……」
 クスリと尾崎が笑う。溝口はなんだかちょっと申し訳ない気持ちがしてきた。彼女を当たり前の日常に帰さなければ。
「……そろそろ帰るか」
 静かに溝口は言った。
「……ハイ」
 そう言って立ち上がった尾崎を見て、溝口は少しほっとし、元来た方へ歩き始めた。小走りで彼女が隣へ並ぶ。
「私、今日のことは忘れないと思う」
 尾崎が小声で呟く。


 ふと、振り返ると彼女の座っていた足元に赤い花が咲いていた。アメ玉で描いた真っ赤な薔薇。


 
2005/09/09(Fri)12:48:35 公開 / つまようじ
■この作品の著作権はつまようじさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
季節はずれですが、これから秋になり寒くなり、冬がきたらを想像して呼んで頂けると幸いです。

うまく言葉にできない高校生の主人公たちの気持ちを表現したかったような気がします。
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