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『盲目のジャック』 作者:水芭蕉猫 / 未分類 未分類
全角7039.5文字
容量14079 bytes
原稿用紙約22.7枚
 月も照らさぬくたびれた夜の街を、灰色の髪の青年が駆け抜ける。
「まだ追ってきやがる」
 狭い裏路地を、右へ左へ全速力で駆け抜けながら青年は後ろも見ずにそう呟く。
 青年の黒い瞳は決して何かを映したりはしない。その眼窩に収まっているのは何の役にも立たない丸い玉。
 青年は肌に吸いつくような空気の感触と、並外れた聴覚と嗅覚のみでこの狭い裏路地を疾走する。
 彼の後ろを追いかけるのは三人の吸血鬼。
 吸血鬼と言ってもオリジナルではない。オリジナルを元に、かつての世界大戦で量産された、並外れた腕力と脚力を持ち血肉を啜るだけの醜悪な人間でしかない。
 青年は思う。今夜は月が出ていなくて良かったと。そして崩れかけたビルとビルの間に飛び込むと、そこは行き止まり。
 壁を感じて立ち止まり、振り向けばじりじりと迫ってくる吸血鬼達の気配と殺気が青年の青白い肌にじっとりとまとわりついてくる。
「やーっと捕まえたぜ可愛い可愛いワンちゃんよぉ!!」
「頼みのお月様も今日はオヤスミってわけだな!!」
「へっへぇ、ついに悪運尽き果てたって奴かい?」
 口々に言うチンピラじみた格好の吸血鬼ども。その姿は、オリジナルが携えているはずの威厳もへったくれもあったものではない。
 青年は鼻で笑った。
 たとえ目が見えなくとも、状況はしっかりと掴めているのだ。
「果たしてそうかな?」
「はぁ?」
 チンピラ吸血鬼が一言発する間に、青年の姿は闇へと消えた。いや、吸血鬼どもを遥かに上回る脚力でビルを駆け上ったのだ。
 盲目の青年は疾る。
 月の出ていない夜の街の、遥か高みを飛ぶように駆け抜ける。




「やっとまいたぜ」
 何処かのビルの屋上にて、灰色の髪の青年――ジャックは黒いロングコートの懐から紙巻タバコの箱を取り出し、一本口にくわえると手で風除けを作り愛用のジッポライターで火をつける。
 苦い煙を肺一杯に吸うと、美味そうに吐き出した。
 ジャックはビルの縁で足をぶらつかせる。その足元は遥か下。そこは崩れかけたアスファルト。ここから落ちれば並みの人間ならば即死亡。しかしジャックは気にしない。
 静かに、月のない夜のくたびれた街に顔を向けるが、ジャックには小さなネオンの明かりすら見えない。
 生まれつき目が見えなかったわけではない。アイツにさえ会わなければ、視力を失うこともなかった。しかしジャックは気にしない。
 視力など無くとも、ジャックには関係のない話だ。嗅覚と聴覚と感覚さえあれば、ジャックが困ることなど何一つ無い。
 眉間にシワを寄せて、また大きく煙を吐いた。
 静かだが嘗め回すような気色の悪い空気。

 刹那、

 ジャックはその場から飛び退った。
 今まで座っていた場所には銀色の弾丸。
「まーたお前か」
 呆れたように言うジャックから、少し離れたサビだらけの給水等の影からぴっちりしたライダースーツを着込んだ金髪の女が一人出てくる。美人なのだが釣り目がちなその顔は、どこか冷たい印象を与える。そしてその手には、遠くからでも狙えるライフル銃。
「あら残念。はずしちゃったのね」
 至って軽い口調で言う女に、ジャックは顔をしかめる。
「バケモノ狩りも結構だが、目の見えないカワイソーな兄ちゃんの一人ぐらいみのがしてくれないかね? 俺はこうして慎ましやかに生きてるだけじゃないか」
「もちろん只の目の見えない兄ちゃんなら見逃してあげても結構よ? でも貴方、バケモノじゃない。私はバケモノが一番嫌いなのよ」
 楽しそうに言った女はすぐさま銃を構えると、ジャックに銃口を向けた。
 そのライフルが火を噴くと同時に、ジャックは隣のビルに飛び移る。音の反響と空気の流れだけでジャックは正確なビルの位置が分かる。そしてそのまま夜の街を駆け抜ける。
「ちょっと狼男の癖に逃げるなんて卑怯よ!!」
 後から木霊してくる女の声。
 ジャックはタバコをくわえたままの気だるい表情で走りながら馬ー鹿と呟く。
「俺は律儀な吸血鬼じゃねーんだよ……泣く子も黙る人狼サマだ!!」




 今日も月の出てない夜の街の空を、盲目の狼男は駆け抜ける。




 ※ ※ ※ ※



「薔薇」


 そろそろ日暮れの空の頃。
 スラムに程近い、疲れ果てたような薄汚れた街の隅にある捨て置かれたベンチにて、灰色の髪の青年――ジャックは頭に腕を回して寝そべっている。
 彼は家を持たない。
 たとえ持ったとしても二晩もすれば吸血鬼どもの夜襲がかかる。
 だからジャックは家を持たない。あえて家を挙げろと言うなればこの街自体がジャックの住みなれた家であり寝床。
 世界大戦の傷痕が色濃く残る崩れて汚れたこの街ならば、身を潜める場所などいくらでもある。
 店が次々と閉まりつつある中で、ジャックは女性の声を聞いた。
 それもかなり近い場所である。
 彼は目が見えない。その代わり、それ以外のありとあらゆる感覚が卓越されている。
 ジャックはベンチの上で体を起き上がらせると、光の反射しない黒い瞳で周囲を見回す。正確に言えば、どちらのほうから音が聞こえるのか聞き分ける。


 その赤毛の女性はニ人のチンピラに絡まれていた。
「ねーちゃん綺麗だねー、こんな所で何してるわけー?」
「なんてーかさー、俺達と遊ばね?」
 頭の悪そうな発音で、年の頃なら二十前後のその女性をニ人で囲んで追い詰めている。女性は酷く怯えた表情をして小さな声で助けを求めているが、周りには聞こえない。
 辺りを歩く人間は、皆忙しそうに、あるいは哀れそうな眼差しを向けて足早に通り過ぎる。
 業を煮やしたチンピラの一人が女性の手を掴んだところで、灰色の髪の青年が割って入った。
「はいはいそこまで兄さん達。彼女嫌がってんじゃん」
 チンピラの太い手首を掴みあげ、焦点の定まらない気だるげな目をそちらに向けると、チンピラは笑った。ジャックの目が見えてない事を悟ったのだ。
「はぁ? アンタ何言ってんの?」
「目の見えない兄ちゃんは引っ込んで、なっ!!」
 言うと同時にジャックの右頬目掛けて繰り出された男の拳を、ジャックは頭を少し動かしただけでかわした。そして慈悲たっぷりの笑みで笑った。
「ちょっとちょっと、盲人相手に本気ってのは無いんじゃないかな?」
 そして、実際に見えていてもかわし切れないスピードの強烈な蹴りがチンピラのわき腹に炸裂する。
「ぐぉう……」
 汚い唾液を吐きながら撃沈するチンピラ。
「な、何だよこいつ!! くそっ、覚えてやがれ!!」
 三流悪役のセリフにもならないお約束のセリフを吐きながら、もう一人のチンピラが地に倒れ伏したチンピラを起こして逃げて行く。
「ちっ、根性の無ぇ奴ら」
 舌打ちしながら、ジャックは黒いロングコートから紙巻タバコを一本くわえて、愛用のジッポライターで火をつける。
 美味そうに紫色の煙を吐きながら、ジャックはまだ絡まれていた女が傍に居る事を気配と空気の流れだけで悟った。
「アンタ、逃げなかったのかい?」
 恐らく彼女が居るであろう方向を見ながら、声をかける。
「助けてくれてありがとう。でも、この先に用があるから……」
 ジャックは眉を寄せた。
 この先に通じるのはそこらに国のスラムとは訳が違うスラム街であり、スラム街はこんな女性が入って生きて帰れるほど生易しい場所では無い。盗みや殺人が日常茶飯事に横行し、マフィアやギャングがそこらにたむろしている。おまけに、量産された出来そこないの吸血鬼や作り損ないのバケモノがうようよしているのだ。ジャックでさえあまり入りたいとは思わない場所に、この女性は用があるという。
 幾分かまずくなった煙をジャックは吐き出しながら言う。
「それは止めておいた方がいいと思うぞ。この先は――知らなかったなら教えてやるよ。この先はバケモノハンターもさじを投げるような人間とバケモノの巣窟だぜ。何があってもおかしくないんだ。ねーさんなら、一歩入った途端殺されてバラ売りされるか、下手したらそこらのネクロフィリアの悪趣味どもに売られちまっても文句は言えねぇな」
 女性は無言だ。
 ジャックは舌打ちすると、女性の腕を掴んですたすたと歩く。
「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!!」
「黙ってついてきな」


 ジャックが行ったのは店じまいを始めていた小さな花屋。
 店先から、水を張ったバケツに入れた生け花を次々と仕舞いこんでいってる花屋の娘に、アンタが一番綺麗だと思う花を一本くれと言って金を渡すと、娘が戸惑っているのがよく解る。
「何、俺は目が見えないんでね。それに花の種類なんてわからんから、お前さんが選んでくれるのが一番良いんだよ」
 そう言うと、花屋の娘はトゲを切り落とした小さな赤いバラを差し出してきた。ジャックはそれを、礼を言いながら受け取ると、腕をつかんでここまで引っ張ってきた女性に差し出した。
 差し出された女性は、おずおずとその赤いバラをジャックから受け取った。
「アンタは死に急ぐにゃまだ早いよ。それ持ってさっさと家に帰れ」
 そう言うと、女性は小さな蚊の鳴く声でつぶやいた。
「家なんて、無いのよ」
 ジャックは溜息をついた。溜息をつくと同時に、女性を小脇に抱えて走り出した。
「な!? 何するのよ!! 放してよ!!」
 暴れる女性も苦とせずに、ぎっちり抱えてジャックは夕暮れの町を疾走する。
「悪い。ちーっと黙っててくれねーかな? 悪い奴に見つかっちまったみたいでな」
「はぁ!? なら尚更さっさと放してよ!! 私には関係無いでしょ!!」
「いやー、スラム行くなら死ぬのと同じだろ? どこで死ぬのも一緒なんだから俺に付き合って死ぬのもスラムのバケモノに殺されるのもいっしょジャン」
「一体何に追われてるのよ!!」
「それはヒミツです」
「いーやー!!! 放してー!!」
 ノンビリと言いながら、暴れる女性を小脇に抱えて、ジャックは夕暮れの町を全速力で疾走する。



 街を縦横無尽に駆け巡り、どこかの廃ビルの一室に身を潜めた時には、既に女性は乗り物酔いでぐったりしていた。
「わ、悪ぃ」
 ジャックは額に汗をかきながら謝った。床に転がった女性は鋭いまでの殺気を放っていた。



 日は沈み、夜の帳が落ちた。
 このくたびれて薄汚れた街にも月明かりがともる。
 ジャックが女性に尋ねると、どうやら月は満月のようで、ジャックは舌打ちした。そして、窓から一番離れた月明かりの当たらない場所に腰を下ろして暫く無言で居ると、女性は居心地悪そうにジャックに尋ねる。
「ねぇ、私が何でスラムに行こうとしてたか聞かないの?」
ジャックは言う。
「アンタが話したくなきゃそれでも良いさ」
 そして、黒いコートの懐に手を入れて、タバコを取り出し火をつける。紫色の煙が立ち昇り、ジャックは光の移さない双眸を細めた。
沈黙。
「気になってたんだけど、貴方目が見えないのよね?」
ジャックはあぁ。と一言答えただけ。
「どうして、杖も何も無いのに正確に走ったり蹴ったりできるの?」
その質問に、ジャックはしばし黙り込み、
「風の動きとそれらしい音と匂いだけで大抵の物事は解るもんだ」
 少し離れた場所に座っていた女性は暫く何かを考えるように黙り込み、静かにぽつぽつと語ってくれた。
「私ね、小さい頃に両親死んじゃってさ、それからずっとパン屋で住み込みで働いてたんだけど、どうにも経営が難しかったらしくてね。凄く良いおじさんとおばさんだったのよ。でね、スラムのビリーって人に借金しちゃったんだ」
 ジャックはタバコをふかしながら彼女の話をぼんやりと聞いていたが、ビリーという名を聞いて、眉をひそめた。嫌な思い出でもあるらしい。しかし、ジャックは口を挟まずにそれにに聞き入る。
「それでね、やっぱり期日までに借金返せなくて……私たち怖くて、逃げ出したんだけど、ビリーの手下に捕まって皆その場で殺されちゃった……」
「だから復讐に行こうとしてたのか?」
 女性はこっくりと頷いた。ジャックは沈黙でのみ察知する。
「やめとけ。復讐なんて虚しいだけだ」
「知ってる。でもね、体が勝手に動いちゃってたのよ」
 女性が笑った。寂しい笑い。諦めた笑い。
「難儀なもんだな」
「本当にね」
 暫くの沈黙。
「ねぇ、そっち行っても良い?」
 ジャックは短くあぁと言った。




 静かに夜はふけてゆく。
 女性はジャックの肩に寄りかかり、小さな寝息を立てていた。その体にはジャックの黒いコートがかかっている。
 その時ジャックは気配に気づいた。横で眠る女性を静かに揺り起こし、ジャックは静かにするようにと念を押す。
「追手?」
 静かに頷くジャック。
「大丈夫だ。いざとなったらお前は逃げろ。奴らの狙いは俺だけだ」
 女性を背中に庇い、暫くすると月明かりの中に闇がうごめき始める。ジャックはじっと 全精神全感覚を澄まして気配を伺う。
 見えた。
一、二、三、四、五……数えるのをやめる。
 女性にはそれがよく見えない。真っ暗闇の空間で、少しだけ闇が揺らめくように見えるだけだ。
「良いか? 俺が合図したら思い切り背中にしがみつけ。そして怖い物が見たくなきゃ目を瞑れ。俺が良いというまで目を開くな」
 ジャックの静かな言葉に女性は小さく頷いた。
「いいか……一、二、三、今だ!!!」
 掛け声と同時にジャックは駆け出す。女性も何とかジャックの背にしがみついて思い切り目を瞑った。
 瞬間、闇が凝縮するようにして二人に迫る。
 ジャックは闇を蹴散らし、地上のはるか高みから月照る闇夜へ身を投げる。
 体重を支える場所を失い落下する体の姿勢を整える間にも、月の光を受けたジャックの体は変貌する。
 手足が異常なまでに太く長くなり、鋭い爪が生える。体が人間の倍以上になり、元着ていた服が張り裂けて全身が銀色の毛並みで覆われる。顔は鼻面から顎に掛けてが前にせり出し、太い牙と歯茎が剥き出しになり闇色だった瞳は金色の月色に変色する。
 角のように尖った耳と毛で覆われた尾がかろうじて異形の姿に狼らしさを付け加える。
 コンクリートの壁に爪を食いこませ、堅いものを削るような嫌な音を立てて、その巨体は隣のコンクリート壁に静止した。すぐにその高い壁を四足で駆け上がる。
 それは人間のときとは比にもならないスピードで、危うく女性は落ちそうになったが、それでもなんとかその毛むくじゃらの背中にしがみつく。
 自分の腕の中で起こった青年の変貌に女性は気づいていた。気づいていたからこそ、今は目を閉じていた。それは自分の命を預かっているのがバケモノだということを認めたくなかった故か……。
 人狼は疾風のように走り、天にも届けと言わんばかりの地上遥か高みの屋上にて、女性をその背から下ろした。無論、怖い物を見たくなきゃ目は閉じてろとの脅し文句付きで。そして、その高みの真ん中で夜空に向かって叫ぶ。
「居るんだろ!! 俺はここだぜ! 堂々と勝負しようじゃねーか!!」
 それは咆哮にも似たざらついた声で、元のジャックのものとは思えなかった。
 狼男の遠吠えに呼応したかのように、ビルの縁から闇にも似た異形どもが這い上がってくる。
 それは、異形のレプリカント吸血鬼どもだった。
 黒衣を纏い、青白い顔に闇夜にも映える巨大な犬歯。眼窩に光る真っ赤な目は何にも増して不気味である。それらが獣のように四つん這いになり、じりじりとジャックに迫ってくる。
 それは見るもおぞましい光景だった。しかし、ジャックは気にしない。
 彼は元から『見て』など居ないのだから。
 だから彼は溜息をついた。そして、満月に向かって盛大に咆哮をあげた。




 人狼の咆哮に驚き、女性は目を開いていた。
 その場の光景は、とても言葉では言いあらわせられないだろう。
 一つ、無理矢理言うとするならば、それは闇夜の地獄とでも言えば良いのであろうか?
 血と肉と一方的な殺戮。
 巨大な銀の獣は飛び来る闇を強引に真っ二つに引き裂き、叩きつけ、噛み砕き粉砕して踏みつけた。圧倒的な強さ。圧倒的な力。しかし、その背には微塵の悔いも感じられず、ただの殺戮を楽しむ狂獣の影を映すばかり。
 目を逸らすなんて出来なかった。
 彼の周りにはもう動くものは存在しない。
血塗れのその顔に納まった金色の瞳が、女性を射抜いた。
 銀の毛並みが真っ赤に染まったソレは、ゆっくりと女性に近づいてくる。
「やだ……」
 体が震えて上手く声が出せない。脳を支配するのは恐怖と言う名の感情。それのみが暴走を始める。優しい人間の姿も抱えて走り回った記憶も全てが異形の前に吹っ飛んだ。
 すぐ側まで来た人狼は、女性に向かって手を差し伸べようと――。
「やだ! こないでよ、化け物!! 私に触らないで!!」
 瞬間、それの動きは一瞬ぴたりと止まり、女性の体に掛かっていた黒いロングコートを引っぺがした。
 そして後ろを向いてこう言った。
「それで良いんだよ。アンタにゃ夜の世界なんて似合わない。さっさと日の当たる世界に返りな」
 そして、逃げるように走り去る。




 太陽が昇れどもなお薄暗く人通りの少ない街を、灰色の髪の青年が歩いている。
 青年は紙巻タバコを一本くわえると、火をつけて煙を吸う。
 そして、光を映さない目を細めて小さく呟く。
「何、いつものことさ」
 今日も一日が始まる。

2005/08/07(Sun)20:21:42 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
サブタイトル『薔薇』です。
臭いの大好きなので……
大分矛盾も潰していったのですが、中々上手に行きませんね。
ご指摘ありましたらどうぞお手柔らかにお願いします。
小心者なので…
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