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『蝉時雨は恋の歌』 作者:ミノタウロス / ショート*2 ショート*2
全角3211文字
容量6422 bytes
原稿用紙約12枚

      昔、俺が経験した、嘘のようなホントの話。



        俺はあの夏の日を忘れない。





大平 義輝(現在35才)
あれは、俺が大学生になって初めて迎えた夏休み。


俺の実家の近所には大きな寺があった。小学生の頃は、夏になるとその寺の林に毎日のように蝉を捕まえに行ったもんだった。
東京の大学へ行っていた俺は、夏休みに入るとすぐに実家に帰ってきた。
何でか、なんて野暮な質問はしないで欲しい。
東京で彼女の一人でも出来てりゃ一人暮らしも満喫できたんだろうけど、一人暮らしなんて思ったより楽じゃない。実家にいる方がうまい飯も食えるし、何より寂しくない。少し年の離れた弟や妹がいる実家は賑やかで暖かだった。
東京の高湿度のうだる暑さと違うここの暑さは、水に濡らした肌を風が撫でると何とも心地よい清涼感が全身を包む。車で10分くらいの場所にはきれいな浜辺もあって避暑地としては最適だ。

その日もかなり暑かった。
昼飯を食った俺はあまりの暑さにへばって寺の境内に向かった。
境内の脇には湧き水の源泉があって、林の中を小川が流れている。
俺たちはよくそこで水遊びをしていた。
小川に行くと近所のガキや親たちが足や手を濡らし声を上げて騒いでいたが、その声に負けないぐらい境内の林の中は蝉の声が溢れていた。

俺は小川に足を入れて岩に腰掛けた。ひんやりと冷たい水は気持ちが良く、熱くなった体を冷やしてくれた。
1時間ほどたった頃、すぐ側の椚の木に一匹の蝉が止まったのが見えて、子供心が蘇りそっと近付き捕まえた。
手の中で、ジジジ………と言う蝉を、虫取り篭も持たずに捕まえてしまったので持て余していると、
「放しておやり」と声を掛けられた。

丸太で出来た椅子に腰掛けた爺さんが、微笑みながら俺にそう言った。
せっかく捕まえたので勿体ない気がしたが、家に急いで帰る気もしなかったので放してやった。
すると、ジジジ………と言いながら俺にションベンを引っ掛けてそいつは逃げて行きやがった。
「畜生!」
爺さんは笑って見ていた。
「一寸の虫にも五分の魂じゃ。その内良い事があるさ」


俺は小川で顔を洗って爺さんの側に行った。
「一人で涼みに来てるんですか? それともあの中に連れが?」
俺は小川で遊ぶ子供や親子を見ながら言った。
爺さんは首を振って微笑んだ。
「おまえさんこそ、一人でこんなところで涼んでる場合じゃないだろう。若いんだから、彼女と遊びに行かにゃ、勿体ない」
「悪かったね。あいにくモテない男で、未だに彼女がいませんよ」

不思議だった。
初めて会う見ず知らずの爺さんに、次から次へと話し掛けてしまう自分が変だと思いながらも、嫌な気はしなかったし、むしろその爺さんに話し掛けていると、小さい頃死んじまった、優しかった婆さんを思い出して心が和んだ。
爺さんは優しく笑いながら言った。
「何も、モテる必要はないさ。たった一人、愛せる人を見つけられればそれでいい」

くすぐったかった。
【愛】なんて言葉にまだ縁がなかったし、俺はまだまだ未熟だった。


「おまえさんに話をしてやろう。昔話さ。むかし、むかしのお話だ」


    ――――むかーし、むかしの事じゃったぁ。――――

俺は婆さんと一緒に見ていた『日本むかし話』を思い出した。




「――――むかし、むかしのお話だ。
夏の暑さに誘われるようにある男と女が恋に落ちた。燃えるような恋だった。
出会って直ぐに互いに惹かれあったその恋人達が、結ばれるに至るのに時間など掛からなかった。
毎日二人は共に唄い、共に野へ山へと出かけていった。
ところが、お互い永久の愛を誓い、添い遂げようとした、まさにその時だった。二匹の小鬼が二人の前に現れて、二人をまんまと捕まえると、その残酷な二匹の小鬼はこう言った。
『これは随分珍しいのが手に入った』『本当だ。お前にはそっちをやる。こっちのは俺がもらう』
そう言って小鬼たちは声高らかに笑っていた。
―――恋人達はそれぞれ別々に連れて行かれようとしていた。離れ離れに連れて行かれようとしているその時に、女が叫んでこう言った。
『私達は必ず生まれ変わる』と。そして、『7年後必ず再会する!―――必ず!!』
小鬼には彼らの言葉は分からない。しかし、彼女の言葉はしっかり男に伝わっていた。

だから男は願った。―――必ず生まれ変わりますように。再び巡り会えますようにと。―――

そして二人は殺された。
それから7年の後、彼らは見事生まれ変わり再会を果たした。
出会った瞬間、互いの前世の記憶は蘇り、二人は抱き合った。言葉など要らない。ただただ抱き合い愛を確かめあった。それで充分だった」


しばらく俺は黙って聞いていたが、内心笑った。
生まれ変わって7年後に再会したんじゃ、まだ子供じゃないかと、口を挟みたかったが、【お話】だし、他愛もない爺さんの作り話だから仕方ないかと思いながら最後まで黙って聞く事にした。

「ところが、彼女が子を産もうとした矢先だ。一匹の小鬼が二人の前に再び現れた。
二人は逃げ惑った。
『お願い! 止めて! 私には子供がいるの……お願い、助けて』
しかしそんな懇願も虚しく、あっという間に小鬼は彼女を捕まえ鷲掴みにしよった。
彼女はあっけなく死んでしまった。
ところが、その小鬼は殺すつもりがなかったらしく、手のなかの亡骸を見つめ、困った顔をしてその場に暫く立ち尽くしていた。
そして、何を思ったのか、楓の木の根元に彼女を埋めて立ち去った。
取り残された男は何も出来ず、ただうろうろとその木の側からいつまでも離れなかった――――。」

爺さんは暫く沈黙した。



「それで? その後、男はどうなったんです?」
「………どうもならんよ。今も、そこの楓の木の側をうろうろしとる」

悲しく微笑んだ爺さんの頬を涙が一筋流れて消えた。その時だった。



ゴオオオオォォン



鳴り響く寺の鐘の音と蝉時雨。


    ――――やっとお迎えがきた。


囁くような爺さんの声。薄れる姿。


耳がわんわんと振動していた。
頭の芯に靄(モヤ)がかかったような耳鳴りの中、

ぽとり――――――と落ちる音だけが、はっきりと聞こえて、振り向くと蝉の亡骸が仰向けに落ちていた。
蝉時雨は益々大きく鳴り響き、辺りを包んだ。





蝉の亡骸に近寄って俺がそいつを拾い上げると、


アリガトヨ


と手から伝わってきた。俺が今からしようと思っていることを読まれた気がした。

そっと手に乗せた亡骸を、側にあった楓の根元に穴を掘って埋めてやり、その上に小さな石をちょこんと置いた。
何だか形の良い石が、まるで用意された墓石のようで、まわりの短い雑草とマッチして、ジオラマを見ているような気がした。


と、その時。
「あれ、大平くん? あーやっぱりそうだ! 久しぶり! 大平くんも帰って来てたんだ」
「え? もしかして………水野さん? ………何か随分感じ変わったね――――」

綺麗になった。いや、もともと整った顔をしていたけど、垢抜けたんだな。
微笑んだ水野さんは覗くように俺の顔を見上げた。
「何してたの?」
「いや、別に………。そっちこそ、何でこんなとこに?」
「近くを通りかかったら何となく懐かしくなって」
小首を傾げて自分でも不思議だと言うような顔をしていた。
「――――ねえ、もし暇だったら、今から一恵ちゃん達と飲みに行くんだけど、一緒に行かない? 」
「行く、行く! でもいいの?」
「もちろん」



俺は水野さんと思い出話に花を咲かせながらその場を後にして、数歩進んでそっと振り返った。


小さな墓石がぼんやり光って見えて、何となく爺さんが引き会わせてくれた――――そんな気がした。




暑い暑い、夏の日の思い出。
淡く懐かしい、甘酸っぱい記憶と共に蘇る。




降り注がれる蝉時雨。


いつまでも、いつまでも、それは寺の境内を包んでいた。



2005/07/26(Tue)02:06:25 公開 / ミノタウロス
■この作品の著作権はミノタウロスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ノンフィクションです。
嘘・もちろんフィクションです。
日本古来の怪談話。昔は幽霊や、動物霊が自分の無念や、想いを聞いてもらうだけと言う可愛いものだったそうな。
今は恨みや怨念渦巻くホラーばかりで、人間の性根が腐ってきたっちゅう事なんですかね。
って事で、夏なので蝉の怪談話(ほのぼの編)を書いてみました。

ご意見・ご感想・ご指摘・etcございましたらお寄せ頂ければ、とっても嬉しいです。

爺さんの話を出来うる限り膨らましてみました。【7/26】
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