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『掌』 作者:月夜野 / ショート*2
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<冬の伊豆に行くなんて、どうかしている>
 君から大学卒業間際のあの時期に伊豆に行こうと誘われたとき、僕は正直こう思った。
それまで僕は、冬というのはこたつに入ってみかんを食べ、だらだら過ごして春という季節が芽吹くまで待つ、という過ごし方が基本なんだと頑なに信じていたんだ。

 「就職したら、こんな機会も少なくなるかもしれないよ?」
 君はそんな風に言って、僕にせっついた。
 
 ただ、学生生活最後の正月を君と一緒に過ごす口実としては悪くないと思ったし、レストランのメニューを眺めるときのようにガイドブックを真剣に見つめている君の横顔はなんだかおかしくて、見ていて飽きなかった。だから、僕が不平を唱えるのもどうかなと思ったんだ。
 
 そしてそれは正解だった。海沿いを走る列車にほとんど何も持たずに2人で乗り込み、前の席に座っている老夫婦から千葉だか茨城だかの名産のお菓子を頂いただけで、僕はすでにああいい旅だなと思ってしまった。
 また、湯ヶ野の町を散歩し、修善寺の温泉街に着く頃にはいっぱしの大作家になった気がして、僕はなんだか浮かれていた。もちろん、祭囃子も聞こえてこないし、なにか素敵な言葉が頭の中に思い浮かんだわけではなかったけれど。
 ただただ、君と一緒に浮かれていたんだ。

 温泉をとりあえず味わった後に、君と温泉街の散策に繰り出した。
青い浴衣姿の君は冬の伊豆の寒さを甘く見ていたのかもしれない。温泉宿の人が貸してくれた茶色の羽織がとても大きいために、君はすっかり羽織の中に縮こまりながら歩いていた。アップにしている君の黒髪に粉雪がすこしだけ残っていた。

「昔の文学者も、こんな感じで温泉街を歩いたりしてたのかな。もしそうだったら、なんかおかしい。笑っちゃう。」
 温泉街の中心を流れる川にかかる大きな橋の途中で、君は笑ってそう言った。
「いや、少なくとも女の子と一緒に散歩、ということでは無かったと思うよ。たぶんね。」
「そうかなあ。踊り子だってこの時期じゃいなかったかもしれないし。淋しいね。冬はちょっと淋しい。」
 君はそう言って、暖を取るかのように僕の手を掴んできた。
僕は気づき、そっと手のひらを握り返した。

 <淋しいのは、僕たちのほうなんじゃないかな>
と、突然思った。
 でも、そのときの僕は君に言うことはできなかった。
 心の奥底をほんのりと暖めるものを求めてきた君に対して、そんなことは言うべきではなかった。
君のことを想っていても、君の眼を見てちゃんと表現すべき正しい答えというものは、いつも僕の知らないどこか遠くにあったんだ。

 僕はただ、君のそのか細い手のひらを、力を入れなおして握りしめることしかできなかった。
2005/06/12(Sun)19:48:15 公開 / 月夜野
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■作者からのメッセージ
3作目です。長編小説もいつか書き上げてみたいと思いつつ、それだけの構想を練り上げる前にいろいろ様々な情景が浮かんできてしまいます。飽きっぽいから当分無理そうです・・・。
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