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『BLACKCROSS』 作者:太田  / ファンタジー 恋愛小説
全角13018.5文字
容量26037 bytes
原稿用紙約37.6枚
魔剣士のアキと魔法使いのクレア仲間でありひそかに惹かれ始める二人だが、この戦いで二人の過去が明かされていく。それを恐れるアキ。二人の過去に隠された秘密とは。
黒い十字架   〜闇と紅 

プロローグ

 辺りを包み込む漆黒の闇。空には暗雲が立ち込め、時折闇を切り裂き轟く雷鳴。そこは、まるで地獄のように佇む場所。
 恐怖、苦痛、悲しみ、絶望、あらゆる負の感情に満ち、その全てが虚しくも消えていく。
 その場所は森と森との間にできた小さな平原で、周りは強風により黒い木々が不気味にざわつき、地面にはくるぶし程の草が生え広がっている。だが、その草にはすでに血痕が生々しく付着していた。
 戦場、先ほどまでここはそうだった。だが今ではもう誰もいない。存在しない。数多くの兵士により埋めつくされ、士気を上げた活気はもうどこにもない。闇、それだけがここにはあった。
 だが、そんな場所に一人の男が森の奥から駆け出してきた。木々を掻き分け今は無き戦場に到達する。
(……遅かったか)
 自分の目の前に広がる光景を目の当たりにし、心の中でそう呟く男。その男は二十歳ぐらいで表情は暗くどこか冷え切っているが、まっすぐな瞳をしており広大な暗闇の平原を直視する。地には剣や盾が無造作に落ちてあり、その光景には恐怖や不安を掻き立てる。
 だがそれでも男は歩き出した。まるで闇に手招きされているように一歩一歩を踏みしめる。何がこの男をここまで駆り立てるのか、普通の者ならここで腰を引き逃げ出すだろう。それでも男はそんな素振りも見せず淡々と進み続ける。
 そして、平原の中腹あたりで男は足を止めた。稲妻が光り辺りを照らし出してここで起こったことを白日の下に露にする。男は目を正面に向けた。少し離れた場所に積まれた山、男の身長を優に越えている。それを男は見上げた。
 一体何人だろう、死体により積まれその残忍で凶々しいほどの屍の山。死体は今もなおその苦しみに歪んだ表情を残し、まだ固まりきっていない生暖かい血が垂れ落ち溢れ出していた。
 死の象徴、この山はそう強調しているのだろうか。見る者全てを圧倒するものをこれはもっていた。
 そのとき、男は不意に目を細めた。自分の目を疑ったのだった。だがそれはこの光景を見たからではなかった。
――少女
雷が鳴り照らし出したその先には少女が一人、屍の上に立っていたのだ。まだ十五、六才だろうか、自分の半身以上もある杖を持っており後姿は幼げな感じだが、その少女というにはあまりにも合わない場所。そしてその後姿からでも他の者とは異質で尋常ならぬ空気を発しその画はまるで死神が降り立ったような強烈な印象を与える。その光景を目にして男は重い口を開いた。
「お前はなんだ、なぜそこにいる」
 男の口調は冷静でありながらも強い意志が込められており、その声に少女は半身を振り返る。丸みを帯びた幼い顔に長い髪、だがその瞳は虚ろで冷たく、何か大切なものを無くしてしまったような喪失感が秘められていた。生きる理由も目的も失ったただ生きる屍、この少女にはもうすでに生気を感じさせない。だからこそ出来る所業なのか、この山は彼女が一人で作ったのだろう、全身に大量の鮮血を浴び死臭をも漂わしていた。少女にも関わらずとてつもない戦闘能力だ。
「あなたは……誰?」
 彼女が静かに質問を返してきた。男は少女の姿を見て納得した様子で言う。
「なるほど、お前が紅の魔女か」
「…………」
 少女は答えない、それに続けて男は言う。
「噂では聞いたことがあったが、まさか子供だとは思わなかった」
 男はそう言った。それもそうだろう、誰が聞いても誰が見てもまさかこんな子供が人を殺すとは思えない。男はおもむろに腰に掛けていた剣を抜いた。目つきが変わる。
「それでも敵には変わらない、死んでもらうぞ」
 そう言いながら男は剣を構えた。そんな男の姿を見て少女は一人、上を向き暗空を眺めた。空ではまだ雷が鳴り響き轟音を響かせている。風が吹き草や木が揺れ死臭を運び葉が風に乗り舞い回る。少女は何かを思い出しているのか考えているのか、じっとそのまま眺めている。その姿はとても綺麗だがどこか儚く痛々しい。そして少しの間を空けて少女が男を見下ろした。
「私は、殺したくわない、死にたくない、戦いたくない。でもあなたみたいな人がたくさん現れて私を殺そうとする」
 少女の声は震えている。よほど今まで辛い思いをしてきたのだろう。悲しさや寂しさがその声から感じ取れる。だが次第にその声は怒りにも似たものになっていく。この不条理なことに納得が出来ない、許せないからなのだろう。
「戦いたくないのに、殺したくないのに、なのにどうして現れるの。嫌。あなたが私を殺そうとするのなら……私があなたを殺す!」
 そう言い少女は完全に振り向くと目を見開き男を睨み強圧する。その鬼神の如き形相はとても少女のものとは思えないほどの気迫を放つ。それでも少女に対抗するように男も睨み返し身構える。その気迫に一歩も引かないで平常心を保ち続けているこの男もかなり戦い慣れている。雷が近くで落ち強烈な音が響き渡り雷光が二人の激情を表にした。二人はお互いを睨み合い対峙する。
 一人の男と一人の少女。彼らは出会った、この闇の中で。そしてこの出会いが二人を変えていく、世界を変えていく、未来を変えていく。この出会いは宿命か、それとも……。
そして、この出会いから3年後。また世界は新たな局面を迎える


この世界には大きく分けて三つの種がいた。
科学技術に優れた「人間」
魔法に特化した「魔法使い(マジック)」
異形だが身体能力が高い「魔人(モンク)」
それらはお互いに干渉することなく暮らしていた。
 それぞれが築いてきた平和な世界。だがある日、この世界に大量の血が流れることになる。人間とマジックとの戦争。
「魔剣戦争」そう呼ばれたこの戦いで双方に甚大な被害を与え争いは熾烈を極めた。そしてこの戦争は人間軍からストライキが起こりそれはマジックにも影響を与え終戦となった。
 その後二つの種は魔剣同盟(人間とマジックとの同盟)を結び安定することとなる。
 だがそれから三年後、復興も順調に進む中、モンクが声明もなしに侵攻してきた。突然の開戦、またこの世界に血が流れる。


第1章 譲れないもの

 時間は正午を少し回り空は厚い暗雲により曇り、どことなく静かな風情を漂わしていた。この曇る遠い空はこれからの未来を暗示しているのだろうか、今では誰も分からない。だがその静寂に包まれた空気の中に威厳を放つかのような高い建造物が建っていた。
 魔剣同盟行政府敷地内。周りは外との交易を遮断するようなコンクリートで出来た高い壁に囲まれ壁の先端には鉄の柵が付いている。正面には巨大な門があり目を光らした数人の警護兵により守られ無理矢理な進入は出来ない。
 広い敷地内には四方に一つずつと真ん中に一つ、灰色の建物が建っている。コリント式の造りをしており、中心にはそれを土台にするように三段の建物になっていた。周りのものよりも威嚇を持ち上段はドーム状になっていて、天頂には角のような細長い装飾が一つ天に向かい伸びている。それに群がるようにして白い鳥の群れが円を描くように飛行し飛び交っていた。今この世界に何を思い感じているのか、無表情にも飛び続ける鳥達。その鳥達を雲から微かに漏れる日の光が包んでいた。
 薄暗い雰囲気につつまれた中庭。そこには赤や青黄色などの色とりどりの花が植えてある。さまざまな花が咲き誇り自らの存在意義を主張するようだが、その輝きも今は存分に発揮できずじっとし畏縮してしまっているようだ。中に入れば廊下は暗く、人の気配を感じさせず四角い固定型の窓から漏れるうすい光に平行に伸びる影を作り出していた。
 覆われている、ここは何か目に見えないものに確実に覆われていた。これが戦争中の独特の雰囲気なのだろうか。
 敷地内にある真ん中の建物は魔剣同盟総本部と呼ばれ、ここには多数の政府の要人や関係者が在席し法の立案執行を手がけ軍を動かしていた。今、政府はこの状況に緊迫し早期の終戦と対応を迫られ思考していた。そして、この場所のある一つの部屋で軍による会議が開かれた。

魔剣同盟軍事会議室
 広い部屋、窓はなく中は長方形になっており壁には絵が3枚飾ってある。どれも大きく左右と奥に1枚ずつ描かれた絵。右には平原に兵士が何列にも並び剣を縦に構えて堂々と胸を張り整列している。顔は皆凛々しく目はまっすぐとしており、しっかりした目つきをしている。この絵は正義や正々堂々等の意味を表しているのだろう、そういうのが分かり易いぐらいに伝わってくる。左には馬が正面から捉えられていている。こちらに向かい激走している様子で荒々しくも逞しい姿。油絵で描かれたこの絵は赤や黄色などの力強い色と激しいタッチで描かれており、今にもこの馬が枠を飛び出しこちらに突進してきそうな迫力だ。最後に奥の絵だが、この絵は他の絵とは異質で違う雰囲気を出していた。白い服を着た一人の女性が十字架の形に描かれており長い髪は四方に広がっている。全体的に白が主色で神聖な面持ちに穢れのない光を秘めているこの絵。これには何か不思議な魅力を感じさせる。
 床にはなにもなくただ中央に縦長いテーブルがあった。そのテーブルの周りには十二人の軍の隊長と一人の男が座っていた。テーブルを挟むように並び座る隊長達、だがそこには一つの空席が空いていた。座っている隊長達の中には女性も数人いる。
 そしてテーブルの一番奥の席、そこには軍事最高司令官ブラッド・ルイスが座っていた。最高司令官特製のコートを身にまとい両股にはホルスターが付けられシルバーの拳銃がコートの間から垣間見える。髪は茶色で後ろ髪は肩ほどまで伸びていた。無口だが実直で人望があり先の大戦で四大英雄と呼ばれた一人のマジックの男だ。
「今、また戦いが始まった。また、悲しみや苦しみが生まれる。だが、後には引けない。戦い続けるしかない、ひとつでも悲しみを増やさないためにも、大切なものを守るためにも戦い続けるんだ」
 淡々としているが力強い言葉にそこにいるほとんどの人たちが話を静かに聞く。
「一ついいですか、どうして奴らは今頃戦争を?」
 一人の隊長が聞いた。
「それは、我々マジックと人間が同盟を結び脅威に感じたからだろう」
「なるほどな」その言葉に納得したように呟いた。「で、奴らの戦力等はどうなっているのです?」
「モンクとはマジック人間共に交易をしたことがない。よってモンクの情報は皆無に等しい。上層部も今必死で情報を集めている。只、戦争を仕掛けてきている点では戦力は相当なものだろう。上もそのつもりで論議している」
 ブラッドは冷静に言った。事実今ここには情報があまりにも足りなかった。相手の政治経済首謀者、全てが謎だ。これでは行動するにも限られる。
「これからは国境の警備を強化し戦闘地域に軍を出す。今はそれしか出来ない」
「それしか出来ないって、それでいいのかよ」
 もう一人の隊長が不満そうに問いかけた。両肘をテーブルに置き手を強く握り締め険しい目で凝視する。重い視線がブラッドに圧し掛かる。その問いに向かい合わせに座っている男が返答した。白髪でその長い髪を縛り腰には刀を佩けている。
「仕方が無いだろ、情報がないんだ。なら、今出来ることを全力で成し遂げる。それだけだ」
 男は渋い声を投げかけた、その声には焦りはなく気が据わっている。
「だが、だからと言っていつでも受身ではいられないだろ。こちらからも攻めなければ奴らのやりたい放題だぞ」
「だから、そのためにも今上層部でも情報を集めていると、たった今ブラッド殿が仰っただろう。少しは冷静になったらどうだ、ここを何だと思っている」
「んだぁとゼンゾウ」
男は名前を吐きながら静かに席を立ち怒りを露にする。椅子が床と擦れ、にぶい音を出しながら後退する。
「チョット! 止めなさいよバンク。落ち着いて、情報がないのは仕方が無いでしょう。漸増、アンタも挑発するような言い方は止して頂戴」
 それを見ていた女性が止めに入った。ショートカットの白い髪が揺れ小高い声を響かせ二人を制止させる。その声に男は椅子を片手で引き寄せ座り込んだ。
この男はバンク=デートル。三番隊隊長でもあるが飛空挺団長をも兼任しており薄黄色い短い髪が特徴の人間だ。もう一人の男は五番隊隊長、清水=漸増(シミズ ゼンゾウ)その顔には少しながらシワが出来ており、もうそこそこな年なのが見て分かる。この男も同様人間だ。
 部屋が静かになりしばしの沈黙に包まれる。バンクがテーブルの上に置いてあるコップを手に取りそれを口に当て一口飲んだ。コップの外側にはすでに水滴が付いており、中の水は小さく波打ちしだいに静止した。
「だが、仕方が無いとはいっても同盟を組めばモンクにも何らかの変化が伴うのは容易に想像はつくはずだろう。この現状はそれを疎かにしていた上層部のミスだと言われても、それこそ仕方が無いことではないのか」
「確かにな」
「だが、そんなこと今更言っても意味がないだろ」
「意味はなくともこれは責任問題だ、どうしてくれる」
「その件に付きましては今ここで議論するものではないかと」
「では何を話す? こうしている今現在でも何処かの町や村が襲われているかも知れんというのに、情報がなければ話せることもないだろう」
 周りの隊長達も次々に意見を出すがこの状況下ではまともに話し合いが出来ることもなくただただ荒れていく。この場を一変して重苦しい空気が覆い尽した。不満や怒りが体中を駆け巡り暴走するが、理性という壁に阻まれ逃げ場を失った怒りは増殖する。その緊迫する雰囲気の中、ブラッドが言った。
「すまない」
「え?」
 いきなりの言葉に一人が素で声を漏らした。
「確かに、相手の動向を察知出来なかったのはこちらの責任だ」
「いや、それはあなたの責任ではないでしょう。ブラッド司令官は情報収集が担当ではないのですから」
 ブラッドの謝罪に神妙な様子で否定する。だが、それでもその気持ちは変わらず、自分の責任を負い込んでいる表情を崩さない。
「なら俺が代わって謝る、すまなかった。今更だが、全力で相手の情報を集め君達の力になろう。だから、君達も力を貸して欲しい」ブラッドが立ち上がる。「そして終わらせるんだ。この戦いを。悲しみや苦しみはもう作っては、繰り返してはならない。そのためにも今は君達の力が必要だ。必ず守ってみせる。俺の、君達の。大切な仲間、友を、そして家族を。だから、君達の力を貸してくれ」
「……ブラッド司令官」
 ブラッドがいきり立つような空気を切り裂いた。ある者はその言葉に心が打ち震え基本的なことに皆が気づく。周りの目つきも変わった、この男に絶対的な信頼を置き、ついて行くと決心し覚悟した眼だ。ブラッドという男の下に、先までは個々に独立しバラバラだった気持ちが統率された。
「ブラッド司令官。自分で良ければいくらでも貸しますよ」
「ああ、俺もだ」
「それで、俺達は具体的に何をすればいい?」
 一人の男の問いにブラッドが答える。
「いくつかの隊はここに待機してもらい、後の隊は警備等に当る。アキ、第23区が荒れている、頼む」
「了解だブラッド、まかせろよ」
 黒髪長髪で黒い服にズボンを履き赤いコートを着こなしている男性。アキ、そう呼ばれたこの男はブラッドとは親しいのか、隔たりのない口調で言った。本来ならば慎むべき場なのだろうが、上下関係ではなく、同じ戦いに身を置く仲間として成り立っている今、特に関係はないようだ。
「では、あとの各隊位については後に連絡する。以上だ」
 そう言うと会議が終わり隊長達は次々と席を外していく。広い部屋にただ一人残されたブラッド、先ほどまで十二人の者が並び部屋全体を覆いつくしていた気配が消え、落ち着きを取り戻した空間。もはやなすこともないこの部屋に、彼自身もそろそろ持ち場に戻ろうとした。その時、突然アキが現れブラッドを呼び止めた。その喋りは前と同じ隔たりのない口調で言う。だが、例え仲間という認識でもそこは上司、敬語を使わなければならない相手だろう。それでもブラッドは嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに足を止め顔を見合わせた。
「ブラッド、久しぶりだな」
「ああ」
「……それにしても、お前が最高司令官になったって聞いた時は驚いたぜ」
「……アキ。その、俺は」
 その言葉に何故か少し戸惑うブラッド。どういうことか、この男の前に先ほどの威勢や堂々とした態度が消えている。そこに一人の女性が加わって言った。
「分かっているわよブラッド、立場が違っても私たちは仲間だってね」
その女性はブラッドに優しく声を掛ける。美しく長い金髪は腰の後ろまで伸びその細く引き締まった腕には白い杖を持っていた。
「クレア」
 声のする方に体を寄せ振り向きながら言う。
「久しぶりねブラッド、まさかこういう形で会うなんて」
 その女性はクレア・マイオールといい、どこか懐かしそうにブラッドに声を掛けた。その大きく整った目は久しぶりに会った友を見てうれしそうに微笑んでいる。クレアは19歳。隊長達の中では最年少でスレンダーなスタイルをしており小顔で目はパッチリしている。第1番隊隊長のマジックの女性でブラッドと同じく先の大戦で四大英雄と言われた一人だ。
「そうだな、大戦が終わってからなかなか会う機会なかったし」
 クレアの言葉にアキも共感したように言う。
本名アキ・ゼカンド。第13番隊隊長でこの男も四大英雄の一人だ。四大英雄とはこの世界にいる種を問わず人々に貢献し活躍した4人の者達を総称してそう言い絶大なる強さに加え人格優良と認められた者達をこう呼ぶ。元々はこの四人を民衆がそう言ったことからきているので、政府は非公認だが一般化し定着している。その中でもこの3人は先の大戦によりこう呼ばれるようになったので、英雄になってからはまだあまり経ってはいなかった。ここにその四大英雄の内3人が揃っている。
「ホントだね。でも、またこうして会えて良かった」
 クレアは優しく笑った。心の奥で、今まで大切に育ててきた種から芽が出たのを見つけたような感覚。会えて嬉しい、何よりほっとした。ブラッドに会うのは3年ぶりになる。アキとは今までも会える機会があったが、軍事最高司令官という役職になっていたブラッドにはそのような機会も偶然もなかった。クレアは不謹慎なのを自覚しつつもこの戦争が起きてよかったと少し思っていた。そんなクレアの言葉にブラッドも一言ながら答える。
「……ああ」
ブ ラッドは二人を見つめてクレアと同様にホッとしたような落ち着いた様子で話を肯定する。懐かしい、昔と同じ、3年前を思い出す。3人が出会った年。話し合った、語り合った、そして戦った。世界を変えるために、この3人で。ブラッドは二人を見てそんな昔のことを思い出していた。二人が話し合っている最中、ブラッドの心は過去に支配され郷愁に浸っている。二人と別れたあの時から今まで一度も会っていない。この3人の中で誰よりも嬉しく思っているのは何よりもこの男だった。
「おい、ブラッド! 話聞いてるのか?」
 不意にブラッドを呼ぶ声、アキがいつまでも話しに乗らないブラッドを呼びかける。その声に我に返ったように目を少し見開いた。
「まったく、せっかく久しぶりに会ったてのにコイツは」
 アキは呆れたように言うが顔は笑っていた。
「相変わらずだよね、昔からそうやって聞いたり考えたりするだけで何も言わないんだから。本当、昔から無口だよね」
「でも、信頼はできる」
 アキはブラッドの眼を見て強くそう言った。そのセリフにクレアも「うん」と笑顔で頷きブラッドを見つめる。二人の視線が集まり混ざり合う。その二人の熱い視線を感じて恥ずかしいのかブラッドは少し笑った。
 結ばれていた。距離も時間も超越してこの3人の絆は昔と変われず結ばれていた。そのことが、何よりもブラッドの心を安心させた。
「こうして会えたんだから、もっとゆっくりと話でも出来ればいいんだが、そういうわけにもいかないか」
 ふと肩を下ろしながらアキが言った。折角会えたのにそれだけが残念だ。
「戦争中だからね、仕方がないよ。だから早く終わらせよ、こんなこと」
 最初は明るい口調だったが自分で言った言葉に改めて気づかされたか、思いつめた様子で言うクレア。昔のことを思い出し落胆する、また戦争が始まったことに嫌怨の念を感じずにはいられない。
「ああ、終わらせよう」
 そんなクレアの顔を見て心配そうに言葉を掛けるブラッド。この男も同じだった、前の大戦で多くの命を失いそしてまた自分自身も奪ってきた。そんな世界、そうでなければ生きられない世界。その世界がまた始まった。あの時のどす黒く噎せ返るほどの苦しみを知る者としてクレアの気持ちが痛いほど分かる。
「どうした二人揃ってそんな辛気な面して、そんなに考え込むなって。なぁ?」
 その時アキが突拍子もなくそんなことを言ってきた。そんな気の抜けたアキの言葉に二人は苦笑いする。簡単に言ってくれる、でもその言葉には力があった。この男も同じはずなのにこの余裕はなんなのだろう。本当に抜けているだけなのか真に強いのか、二人にも未だ分からない。だがこの男に心の奥で何かが湧いてくるものを感じていた。
ふとクレアの顔を覗き込むと先ほどの表情が消え元の顔に戻っている。それを見て安心しほっとする。その後右腕に巻いている銀色の腕時計に目を通すと、時間はすでに2時前になっていた。やることがまだ残っているのでもうそろそろ自分の書室に戻らなければならない。
「それじゃあ、俺はやることがあるから」
 惜しみながら言いうとその場を立ち去ろうとする。
「もう行くのか?」
「ああ、忙しくてな」
 立ち去ろうとするとアキはそう言い、その声に足を止めて言葉を返した。
「大変そうだね、大丈夫?」
 今度はクレアが心配そうに聞く。その問いに振り向き笑顔で答える。
「ありがとう、クレア。大丈夫だ。それじゃまたいつか」
「うん、じゃあねブラッド」
 その笑顔を見て安心しニコッと微笑むと、ブラッドも微笑んでその場から立ち去った。会議室の扉を開け廊下に出る。その後姿を二人は見送った。すでに雲は晴れ清々しい風が吹き、窓からは注ぎ込む光が廊下を照らし出していた。ここに来た時とは別世界のようにさえ感じる明るい廊下。窓から外を覗けば花が一面に咲き広がり、空では白い鳥が飛んでいる。この世界に何を思い感じているのか、その顔は少し笑って見えた。それにつられるようにブラッドの表情にも笑みが浮かぶ。そして、ブラッドは長く続く廊下を歩いて行った。その胸の中に友を抱いて。
 残されたアキとクレア。内心、これからどうしようかと迷っている。間に空白が出来き周りが静かになる。二人っきりの広い部屋に何かしらの違和感を感じながらも漠然とし立ちすくむ二人、とクレアが最初に聞いてきた。
「で、これからどうしようか。アキはいいの?明日からもう行くんでしょ」
「まだ正午過ぎだろ、別にいいさ」
 クレアはアキの先ほど決まった出動手配の話を持ち出す、それが気に掛かっているようだ。その問いに簡単に答えるアキ。
「ならどこか行こうよ! 久しぶりに会ったんだからさ」
 特に今は大丈夫だと知りクレアは大きな声でアキを誘う。その言葉の通り二人で何処かに行くのも久しぶりだ。
「それもそうだな、なら腹も減ったしなんか食いに行くか」
「イェ〜イ行こう行こう」
 上機嫌そうに笑いながら歩き出す、その笑顔が無邪気そうで実にかわいらしい。まぶしいほどの笑顔につられてアキも笑みがでる。二人はそのまま笑いながら町に出た。空を見上げれば、そこにはやさしい風が吹いていた。

 街の中心部から離れた商店通り。出店が並びさまざまな人々が行き来している。両側には建物が建ち並び雑貨店や飯屋服屋といろいろの店がある。二人はここに来ていた。時間帯もあり通行する人は少ないが、地面にはアリの大群が移来したかのような足跡がくっきり付いていた。空では太陽が下り坂に入り、時刻はとっくに昼を過ぎて空腹が腹を叩き続ける。
「あ〜ハラ減ったな〜」
 腹の中から常時湧いてくる衝動に堪らずアキがため息を吐く。通りには肉の焼ける匂いと市場には野菜などの食材が並んでいる。どれも表面が鮮やかで新鮮そうに輝いている。その匂いと光景が一層腹を刺激する。特にこの鼻を突く匂いは魅惑的らしく、足はダラダラと重く歩くが、その匂いを少しでも長く嗅ごうと首だけがその場を動かさない。そんな姿を見るだけでも、この男の人間性がよく見て取れる。
 そんなアキに対し、クレアは活発的で久々のアキとのお出掛けにはしゃいでいた。数々の出店を見て走り回っている。軍に身を置く者でも、こうして無邪気に駆け回る姿は実に幼げでかわいらしい。彼女もまだまだ十七歳の女の子だ。
「元気だね、よくそんなに動けるな」
 自分とはまったくの正反対にあるクレアにやる気なしに聞くアキ。自分は今にも倒れそうだというのに、どうしてこんなに動けるものなのか、と分からないような顔をしている。こういう時、体力的に女性の方が強いのだろうか。
「アキがだらしがないんだよ。せっかくのデートなのに台無しじゃんか」
「はいはい、すいませんね」
 そして精神的にも強いのだろうか。いちいち交答するのも面倒くさいので、あっさりと自分の非を認め降参する。こういう時は、熱くなる前に退いておいた方が無難だ。
 そんないい加減な態度のアキに内心ムスッとするクレアだが、確かに腹も減ってきたし、何よりこの男のことは今に始まったことでもないので気にしないことにする。正直、もう少しでもしっかりしてほしいものだが、渋々あきらめた。
 そんなアキを尻目に置いて両手を組み背伸びをする。清々しい気持ち。今まで会議などで重い心持ちだったが、こうして外に出るだけでも随分と楽になれる。心が解き放たれたような開放感を感じる。そのまま空を見上げ、広大な気持ちに浸かる。青空には巻積雲が斑に、そして雄大に広がっていた。
「なぁ、さっさと何処か食いに行こうぜ」
「もーうるさいな〜。少しは黙っててよね、折角優雅な気分に浸ってたのに。アキも少しは楽しんだら。アキだって久しぶりでしょ、こういうの。いろんなお店があるんだから。あ! あれカワイイ。ちょっと行ってくる」
 そう言うと、話の途中にも関わらずアクセサリーを出し並ばせている店に駆け寄った。その元気な姿に、まだまだ食事に有りつけるのは先になりそうだと予感しため息が出る。とは言っても、クレアが走るたび、その長い髪が左右に揺れ、華奢な体が動き回る姿は、見ていて絵になる。どことなく心が和む。
(う〜ん、可愛いな)
 そんなことをしみじみ感じながら立ち止まるアキ。久しぶりというのもあるが、彼女の一つ一つの仕草が目に栄える。そんな彼女に、ふと周りを気にした。時々ではあるが、視線を感じる。それは、敵意や殺気ではなくどこか暖かい微笑むような視線だった。
 こうして、並んで歩いている姿を傍から見れば、ただの恋人か兄妹ぐらいにしか見えないんだろうな。彼女の楽しそうな顔を覗き込みながらそんなことを思う。だが、俺達は違う。いつでも会える約束を出来る仲でもないし、ラブラブなバカップルでもない。軍人。いつも、こうしていられる訳じゃない。
 実際、明日からアキは任務でここを出ることになる。そうなれば、当然のことで彼女にはもう会えない。そう考えると、この何気ない一時も大事に思える。彼女といるこの時を思い残していようと思える。が――
「グゥゥ〜」
 ……だが、背に腹は換えられない。空腹がピークに達し、耐えうるのも限界だ。この波には逆らえそうもない。ここで餓死など元もこもないし、ただクレアを見ているだけ、などという理由で死ぬなど割に合わん。
 彼女は先ほどから出店の前で、中腰になって出品を舐めるように眺めていた。とても良い物か、ほしい物があるのだろう。
(……お前、金持ってないくせに)
 前言撤回するようにクレアの後ろにそっと回り込みながら、何をそんなに熱心に見ているのかと確認するアキ。
 そんな買う気満々な目で見るな、とでもツッコミをしたそうに隣に立ち並んだ。そういう買う気がないという意味では、先ほどからクレアが寄った店の人達には随分申し訳ないことをしていた。二人の後ろでは、今頃肩を降ろして落胆しているだろう店の人が頭に浮かぶ。ずいぶんと熱心に商品の説明をしていた定員もいたのは印象深い。まぁ、はなからウィンドショッピングが目的だから仕方が無いといえば仕方が無いのだが。その元凶とも言える当の本人は、後ろからでも充分聞こえる程の楽し気な笑い声を出していた。
「おい、いい加減飯屋にいくぞ」
「え〜」
「え〜じゃない! 一体いくら待たす気だよ。ほら、さっさと行くぞ」
「は〜い」
 そう言ってようやく歩き始める。まだ寄りたいとこがあったのか、顔はまだまだ不満気そうに頬が膨らんでいる。本当に子供だ。そんな俺達をやはり期待していたのか、店の人が「えっ」と言わんばかりに目を丸くして俺達の後ろ姿を見送っていた。
「さてはて、食うと決めたはいいがどうしようか」
 ぼそりと呟く。確かに、ここにはたくさんの店がある。食いたいものなら、それこそほとんどの物が揃ってあった。
「どこでも良いから行けばいいんじゃないの?」
「行くってなぁ。いろいろあるだろうが、肉なり野菜なり。何か食いたい物でもあるのか」
「ん〜……なんでもいいかな」
 質問の答えに少し戸惑ったようだが、食べられる物なら何でもいいらしい。
(まぁ、俺も同じだな)
 曖昧な答えに、俺も特にこれといった特定な物が食べたい訳でもなく、二人の意見があっさり重なる。
「そうかよ、なら一番先に目がついた飯屋でいいな」
「うん、いいよ」
 そうと決まり店を探す。幾多の店が並ぶ中で、ジャンルを問わず飯屋だけを探すのならば、それこそ動かずとも見渡すだけで容易に探し出せる。やはり食い物の割合が大きい。
すると、後ろから二人を呼ぶ声がする。その声に誰かと振り向いた。そこには、一人の女性が立っていて軽く挙げた片手を振っていた。
「クレアとアキじゃないの」
 そう声を掛けた女性は薄いブライン色の髪をしており、内巻きの髪型でサラサラとした髪を靡かせていた。モンシロチョウの羽のような白の長袖の服に、カラスの翼のような真黒のグローブとズボンを履いている。腰には鼠色でチャック柄の布を巻き、波のような曲線を描いて左側に垂れていた。
「あ! フロアじゃん。フロアもここに来てたんだ」
「うん、まあね。それにしても二人もここに来てたなんて」
「ま、お互い考えることは同じだな」
「本当ね」
 フロア・バイレージ、3番隊隊長の人間であり、女性にも関わらず戦闘方法は素手での格闘戦という見かけによらずダイナマイトな娘で、そのため常にグローブを嵌め出歩いている。どこぞの格ゲーにでも出てきそうな女キャラだ。俺とは元人間軍に所属していたので、クレアよりは付き合いが長い。
「で、お二人さんはこれから何処に?」
 右手を軽く腰に当て、首を傾けて清々しく聞いく。空には風が流れふんわりと髪を持ち上げる。
「今からどこか食べに行くところなんだけど、ねぇフロアも一緒に来ない? 久しぶりに会っんだし」
「え、いいの? 折角二人っきりなのに邪魔したら悪いんじゃないの?」
 そう言い、俺達に気を遣ったのかと思わせるような発言だが、少し表情がニヤついていた。
「いいのいいの、フロアとも折角会えたんだもん。ここで別れたら勿体無いよ。ねぇ、アキだっていいでしょ?」
 それをものともせず俺に振るクレア。その顔がまた可愛らしい。
(なんだかなぁ)
「まぁ、別に俺は構わないよ」
「よっしゃー、なら三人でレッツゴー」
 こうして、元気ハツラツな少女と落ち着いた感じの女性に、足並みの重い俺三人揃って近くの店に食事をしに行くことになった。
2005/11/12(Sat)11:53:12 公開 / 太田 
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