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『ApproAch』 作者:亜理子 / 未分類 未分類
全角6791文字
容量13582 bytes
原稿用紙約24.65枚
一話《出会い》

 私、桜井琥珀。
 高校一年生。
 朝は駄目だ。
 眠くて眠くて……やる気がでない。
「琥珀っ! 琥珀ー! 起きなさい! 遅刻するわよ!」
「はいはい。わかってるって!」
 朝はイライラしてるっていうのに。
 母親の声がでかくて余計むかつく。
 本当に毎朝毎朝うるさいな。
 もう高校生になったんだから言われなくてもできるって。
「ほらっ、早く」 
 もう、本当うるさい。
 ほら、年頃になると時々相手にされたくない時ってあるでしょ。
 そんな感じ。自分でいうなって感じだけど。
 私は乱暴に鞄をひっぱりだして何も言わずに家を出た。
 ったく。
 遅刻なんてしないっつーの。
 そのとき、車の音でうるさいはずの耳に、やけに耳につく声があった。
「にゃー、にゃー」
 猫?
 やけに私は気になって、そこら辺を探してみた。
 すると、歩道橋の下の草原にダンボールがひとつ。
 普通の人なら見つけられないだろう、ひっそりと。
 思ったとおり、ダンボールの中には猫が一匹入っていた。
 聞こえないはずの声、見つけられないはずの猫。
 そのとき、なぜか自分が特別な気がした。
 この猫にとって、私じゃないといけない何かがあると思った。
「おい、猫。どうした。腹へってんのか?」
 歩道橋の下にしゃがみこんで、猫に話しかけた。
「にゃー……にゃー」
 動物の中では猫が一番好きだったから、連れて帰りたいと思った。
 でも、学校あるから……。
「ごめんな、猫。私が帰るまで居たら、連れて帰ってやるから」
 周りから見たら、変な女子高生だろうか?
 座り込んで猫に話しかけて。
 なんか恥ずかしくなって、すぐに立ち上がった。
 学校まで走り出したら、うしろで猫の声がやたら耳についた。
 後ろ髪ひかれる想いだった。
 授業も、委員会も、部活も、手につかなかった。
 異常なくらい、猫が気になって仕方なかった。
 下校のチャイムと共にダッシュで歩道橋のところに走った。
「猫……猫……。はぁ、さすがにいないか。」
 猫を見つけたときは私が特別だと思ったけど。
 ただの独りよがりで……。
 なんか急にさみしくなった。
 すると後ろから声がした。
「ねぇ! ねぇってば!」
「は?」
 振り返ってみると、そこには同い年くらいの男子が立っていた。
 やけにかっこよくて……思わず赤面した。
 黒い髪で、前髪に白いメッシュ……耳には右に三つ、左に二つのピアス。
 アシンメトリーの前髪に、軽くたてた黒髪。
 前髪の下から赤茶色の軽いツリ目がのぞいていた。
「な……なんですか」
 緊張してて、ぶっきらぼうに返事した。
「あんたさ、俺のこと探してたんでしょ?」
 語尾のハテナとともに首を少し傾けた姿がかわいかった。
 でも言ってる意味がわからない。
「あの……人違いじゃないんですか?」
 うまく顔が見れない。
 かっこよすぎる。
「人違いじゃないよ! 朝、連れて帰ってやるって言ったじゃん!」
 私は眼を丸くした。
 信じがたいけど、このかっこいい男は、朝の猫か。
 ……馬鹿馬鹿しい。
 きっと朝の私の態度見てからかってるだけ。
「ねぇ、何で黙ってんの? 俺待ってたんだよ、あんたがくるの!」
 うるっさいな。
「私、猫のこと探してるんですけど。あんたに用ないですから。」
 自分で言ってて少し恥ずかしかった。 
 高校生にもなって猫探してます……なんて。
「だーかーらー。俺、その猫だってば! ほらっ。」
 目の前にたってる男は綺麗な黒髪の隙間から、猫の耳を出した。
 まったく……理解できない。
 猫?だって人間じゃないの。何処から猫の耳なんて……。
「ね……猫って……人間じゃ……」
「俺さ……」
 その男(猫)は下を向いた。
「あんたに会いたくて……人間になりたかった。」
 そう言って軽く微笑んでくれた。
 かわいい。
「あんたの側に……いさせて。」
 私も、こいつの側にいたかった。
 何がなんだかわからないけど、ただひとつわかることは……
 やっぱり朝思った気持ちは本物で。
 この猫にとって、私は特別な人間だったのか。
 少し、嬉しかった。
「ねぇ、あんた名前なんてーの?」
 いきなり話しかけられた。
 名前……名前?やばいパニくってる。
「こ……琥珀!桜井琥珀!」
 やけに大きな声をはりあげた。
 すると
「ぷっ・・・・・・はっ!!! 声でかすぎだよ、琥珀っ!」
 いきなり呼び捨てにされて、真っ赤になる。
 笑った顔がかわいくて、こっちも幸せになった。
「俺の名前、琥珀が決めていいよ。」
 名前?
 もし猫を飼うなら、名前は決めてあった。
「い……壱丸!! 壱丸がいい!!! と思います……」
 名前をまた大声で言って、だんだん声が小さくなった。
「琥珀かわいいな」
 久しぶりに、言われたよそんなこと。
「壱丸か……!へへっいい名前だな」
 これから、どうなっても大丈夫。
 そばに壱丸がいてくれる。
 会って間もないけど、何もない人生には、十分な刺激だった。


二話《キス》

 どうなってんの。
 私の目の前にいるやけにかっこいい男は、猫なんだ。
「ねぇ、壱丸。猫の姿に戻れる?」
 自分で言ってて恥ずかしい。
 ファンタジーとかそういうのは小学生で卒業してたから。
 全然信じられなかった。
「え? 戻れるけど、何で?」
 何でって……
「その姿じゃ、家には連れて帰れないんだけど」
 そのときの壱丸の格好は、
 白いYシャツに黒いネクタイ。
 すそが少し白いダボダボの黒いズボンをはいていた。
 一歩間違えればホストだ。
「あぁ、そっか! でもさ琥珀。俺、キスしてくれないと戻れないよ」
 は?
 何言ってんだ、このニャンコロめが!
 キスって……。
 あぁ、そうか。
 あれだ。よく魔法系の話にあるやつ。
 呪文みたいなやつか!ってそれがキス!?
「え!? いやよ! 無理!」
 私は顔が真っ赤になった。
 ただでさえかっこいい壱丸とキス?
 無理よ、絶対無理!
「えーでもそしたら俺、人間のまんまなんだけど」
 う……
 そっか……でも……。
 ん?ちょっと待てよ。
 ってことは、猫から人間になるときはどうしたんだろう。
「壱丸。猫から人間になるときはどうしたのよ?」
「だからキスなんだってば」
 ふーん。そっか。
 って……キス!?
 そんな軽がるしく……。
 なんでか知らないけど、やけに腹が立った。
「だ……誰に?」
「んーと、琥珀と似たような制服で男子……ってあ!! あいつだ!」
 いきなり大声だしたからびっくりしてしまった。
 壱丸も興奮したのか、ズボンから先が白くて黒いしっぽが飛び出した。
「ちょ……ちょっと壱丸! しっぽ! 見えてる!」
「ぅえ!? あ、やべぇ! ってか、あいつだよ琥珀!!」
 壱丸はしっぽを引っ込めた。
 そして、壱丸が指差す先には……
 たしかに私と同じ学校で、同じクラスの……学校一の問題児!
 山崎すばるだ!
 車道をはさんで、向こう側の歩道にあの山崎すばるがいた。
「あいつが、俺みつけて、抱き上げて、キスしてったんだよ!」
 あの山崎がキス!? しかも動物に!?
 暴力沙汰で警察に世話になったとかいう山崎が!
 あれ……でも、ちょっと待て。
「い……壱丸。あんた男同士でキスしたの?」
 ってことになるよね!
「うん。そうだよ。でも俺、猫だし。それにキスくらい」
 ……。
 私はやけに腹が立った。
 キスくらいって……ってことは、私じゃなくてもいいんでしょ?
 でも……
 そのとき、私は、変なプライドがあって。
 私だってキスくらい!って思って。
 壱丸のネクタイを自分の方に思いっきり引っ張った。
 歩道橋の下で、きっと誰にも見られてない。
 でも、そのとき私は、そんなことちっとも気にしてなくて……
「にゃー! にゃー!」
 うまれて初めてキスをした。
 私は、息がきれてて、体が熱かった。
 きっと顔は真っ赤で、汗だくだったと思う。
「どうだ! ざまーみろ。私だって……キスくらい!」
 変な意地をはってみたけど、足元にいた壱丸も、顔が赤いように見えた。
 壱丸は、両耳の先と、両手足の先としっぽの先が白いだけで、あとは真っ黒。
 朝見た猫と同じ姿だった(当たり前だけど)
 私は、すっかり暗くなった中、壱丸を抱いて、家に連れて帰った。


三話《名前》

 猫にもどった壱丸を抱いて、家に帰った。
 うちは、田舎で結構山奥。携帯も圏外だったりする。
 いつもは、バスで帰っているけど、今日は壱丸を連れてたから、歩きで帰った。
「ただいまー」
 玄関のドアを開けると、大好きなハンバーグの匂いがいた。
「あら、遅かったわね。どうしたの……って何それ!?」
 迎えてくれたのは母だった。
 赤いエプロン姿で、壱丸を指さしていた。
「あぁ、これ? たぶん猫」
 私は、コイツ(壱丸)を素直に猫とよんでいいのか、と思っていた。
「たぶんって……。どうみても猫じゃないの。かわいい模様ね」
 良かった。
 母は動物が好きだったから、反対はしないだろうと思ってはいたけど。
「飼ってもいいでしょ?」
 私がそう聞くと、母は少し下を向いた。
 一瞬、反対されるのかと思ったが、母が心配する原因は私にあった。
「私はいいわよ。でも……琥珀はいいの? また、傷つくかも知れないよ」
 そのとき壱丸は私の腕の中で少し動いた気がした。
 また…………。
 でも、いまさら壱丸を捨てるなんてことはできない。
「へへ……忘れてたや…。大丈夫よ、もう。あ、今日はハンバーグ?私、おなかペコペコ! 着替えてくるね!」
 私は、笑ってみせた。
 そして、壱丸を抱えて二階の自分の部屋へと駆け上がっていった。
 ちゃんとしなくちゃ。
 もう、忘れなきゃ。
 大丈夫。これからは壱丸がいるもの。
 全然……平気。
「にゃーにゃー」
 座りながら考え事をしていたら、壱丸の声にとても驚いた。
 いまだに壱丸を抱えていたので、床におろそうとした、そのとき……
「んっ……!」
 いきなり壱丸が飛び上がってきて、私の口にキスをした。
 相手が猫だとわかっていても、すごく恥ずかしくなった。
 私は、息がきれてて、ノドの辺りをおさえながら下を向いていた。
「はぁ、はぁ。何よ、いきなり……びっくりするじゃない……!」
 私は、落ち着け、落ち着けと頭の中で唱えていた。
 目の前には、人間の姿になった壱丸が、なにやら泣きそうな顔で私を見ていた。
 壱丸の整った顔はまだ見慣れなくて、しかもそんな表情をしたから、私は真っ赤になった。
「琥珀……」
 壱丸は座って、いきなり私の顔を覗き込み、話しかけてきた。
「琥珀、前に猫飼ってたの?」
 あまりに唐突なことを聞くので、私は少し口が開いてしまった。
「え……あ、まぁ、うん。真っ黒な猫。飼ってたよ」
 壱丸は少ししょぼくれた顔をした。
 なんだろ……あんたがそんな顔するから、罪悪感感じるじゃないの……。
「ねぇ、琥珀。俺と、その猫、どっちがすき?」
 私は、少し笑ってしまった。
 なんだ、やきもちか。
 すこし、嬉しかった。
 もう、忘れるって決めたんだよ、前の猫のことは。
 だから……誰も……聞かないで。思い出させないで。
「何言ってんのよ。今は壱丸が私の猫でしょ。壱丸のほうが大事だよ」
 相手が猫だと分かっていても、好きとは口にだして言えなかった。
 恥ずかしいから……
 会って、まだ一日もたってないのに、こんな気持ちになるのは変かな。
「そっか! 良かった! 俺も琥珀のこと好き!」
 私はまた真っ赤になった。
 壱丸が本当に嬉しそうに笑ってくれたから。
 でも…好きだなんてまだ言ってないぞ、ばか丸。何が「俺も」だ!!
「ねぇ、その猫、なんて名前だったの??」
 少し、つばを飲んだ。
 いえない。壱丸には……いえない。
 嫌われたくない。
 でも……。うそもつきたくない。
「名前は……零丸」
「ぜろ……まる?」
 壱丸が私に名前つけていいよって言ってくれたとき、すぐに壱丸っていう名前がでた。
 前の猫に……壱丸が似てたから……。零の次は壱でしょ。0の次は……一でしょ……。
「琥珀ー!ご飯できてるわよ。早く降りてきなさい」
 階段の下から、母の声が聞こえた。
 壱丸は、何も言わずに窓の外から夜空を眺めていた。
 少し、後ろ髪ひかれる思いだったけど……私は、下に降りていった。


四話《キス》

 母と姉と私の三人で夕飯を食べていた。
 少し暗い今の私の心には、天井からつるされてる電気の光がまぶしすぎた。
 母は、私の暗い雰囲気につられて会話が少なかった。
「ちょっと琥珀。メシがまずくなんやけど」
 大阪の大学に通ってた姉は、もうすぐ成人。成人式のために帰ってきたのだ。
 大阪にいたせいか、関西弁がときどきでる。
 でも、関西弁に関係なく、言葉遣いはかなり悪い。
 顔は私に似てるけど、スタイル抜群な姉は綺麗でモテる。
 だから、男付き合いもかなり悪いのだ……。
「あれか、恋わずらいか! 男やろ、男! 琥珀もそういう歳になったんなぁ!」
「こら、やめなさいよ、天珠。はしたない」
 うちの姉の名前は天珠(てんじゅ)。
 上品な天然石の名前で、気品があって、名前だけでも人気がある。
 私なんて、琥珀って名前に負けてるのに……姉とは違う……。
「家に帰ってきてまで関西弁使わないでよ、天珠姉。大阪の人に失礼じゃん」
「んま! 琥珀ったら言うようになったな!」
 この馬鹿は……。
 まったく気遣ってくれないじゃんか。
「ってか琥珀! 猫見せろ、猫! 零ちゃんに似てるんやろ? 名前は!?」
 わー……本当に馬鹿だ。妹のこと、もう少し気遣え!
「もう、いいじゃないの。琥珀、お風呂入ってきちゃいなさい」
 はいはい、と返事をして、着替えをとりに部屋に戻ろうとした。
 食器を流しにおいて、階段をのぼろうとしたが、ふと足が止まった。
 そうだ……私……壱丸……。
 どうしよ……気まずい……。
 って!何気まずがってんの!壱丸はそんなこと気にしないって!!
 自分で自分に語りかけた。あほらし……。
 私は、冷蔵庫のところに戻って、牛乳をとりだし、お皿を手にとった。
 そして、駆け足で階段をのぼろり、勢いよく、自分の部屋のドアを開けた。
「壱丸!! 牛乳もってきたよ! 飲むでしょっ!」
 壱丸は人間の姿でいて、私の声に驚いたのか、しっぽか飛び出した。
 今までずっと……窓から夜空を見ていたんだろう、後ろ向きだった。
「壱丸……そっか、猫に戻ってなかったんだね、見つかったら危なかったねー」
 なんとなく……気まずい。
 何で……私、零丸の話しただけだよね……やきもちかな。
 まっ……まさかね!! うぬぼれちゃ駄目駄目っ!!
「い……壱……丸??」
 零丸の話、なんでそんなに……
「琥珀……キスしてくれないと猫になれないんだよ」
 壱丸がいきなり話した。
 少しびっくりしたけど、きっと今はキスしてあげられる。
 壱丸の背中が……猫背の背中がやけにさみしそうに見えて、抱きしめたくなった。
「壱丸……」
 私は、そっと壱丸に近づいて、後ろから抱きしめてあげた。
 体は、やけに冷たくて、あたためてあげたいと思った。
「前の猫は、人間になれないんだよ。俺、こうして人間になれるんだよ」
 やっぱり、零丸のこと気にしてたんだ……。
「そうだね。壱丸は特別だから」
 私がそう言うと、壱丸はいきおいよく振り返って、私の両腕を掴んだ。
 そして、そのまま、おおいかぶさるように私を床に倒した。
「いった……何すんのよ……」
 つかまれた両腕は、壱丸の力が強くて動かせなくて……
 私の顔の目の前には壱丸の顔があった。整った美しい壱丸の顔があった。
 壱丸は何も言わずに、少しツリ目の赤茶の目で、私をじっと見ていた。
「壱丸!? ほら、天珠姉とか来ちゃう……!」
 私が話し終わるか終わらないかの時、壱丸が私の唇をなめた。
 とっさに顔をそむけてしまったが
「琥珀、こっち向いて」
 いつもより少し低い壱丸の声に逆らえなくて、また壱丸のほうを見た。
 すると、今度はキスをおとした。
 それは、いつものキスとは違くて……壱丸のざらざたした猫の舌が口の中に入ってきた。
 私は、壱丸の行動が信じられなくて、思いっきり突き飛ばそうとしたが、すでに猫の姿に戻っていた。
「い……壱丸!! 何……すんの……」
 顔が異常なくらい熱い……。
 私は、タンスから下着とパジャマをとりだして、ダッシュで下におりていった。
 母と姉にこんな真っ赤な顔を見られるとまた何か言われると思ったから、そのままお風呂場へ走った。
 どうしよう……相手……猫なのに……。
 私は、少し震えている自分の口をおさえた。
 足も、指も……小刻みに震えていた。
 
2005/05/03(Tue)22:13:00 公開 / 亜理子
■この作品の著作権は亜理子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
少し……大人向けっぽくなっちゃって……期待裏切っちゃってたらすみません。いつも読んでいただいて、本当に感謝しています。やはり、文章に肉がつくように注意はしていますが…どうでしょうか…?
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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