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『妖怪剣客商売人U』 作者:ましゅまろ / 未分類 未分類
全角7450.5文字
容量14901 bytes
原稿用紙約25.2枚
 第1夜 

 2005年−

 家を出て、早一ヶ月と少し過ぎた。
 夏の夜、山奥の廃寺の濡れ縁から見える庭には、仄かにうち光りながら一つ二つ蛍が舞っている。暑くはなく、むしろ涼しいくらいだった。
 数日前の大雨で、草が伸び放題の庭に水が降り注いで一層草が伸びているように見える。
 そして、俺はその濡れ縁から何をするでもなく柱に背を預け庭に目をやっている。
 横には月光に濡れそぼっている一振りの日本刀が立てかけてある。名は朧月。
 かなり古い太刀のようだが、刀身は美しく『業物』という言葉でも足りない程だ。
 柄は鮫皮で、鍔は粢鍔(しとぎつば)。刃は反りが少ない。見た目は、平安時代の細太刀だ……が、この刀は独特の妖気を放っていた。
 俺の先祖…神楽一族の初代の長、神楽鬼羅丸が、この刀を振るったらしい。
「綺麗な庭だな、朧月」
 俺は、隣の刀に話しかけた。
 −そうだな。まさか現代でこのような景色が見られようとは−
 俺達はまた黙り込んだ。
 月光が庭に差し込み、明るく照らし出された寺の庭に一頭の犬が何やら桶を口にくわえてこちらに歩み寄ってきた。
「月牙、いつもすまないな」
 月牙は、桶を俺の置くとヒョイと俺の横に座り、伸びをした。
「いえ、そんな事良いのですよ。気にしないで下さい。悠様」
 月牙は、喉を鳴らすと俺にすり寄ってきた。
 俺は、月牙の頭の後ろをカリカリと掻いてやった。
 月牙が加えてきた桶を見ると、大ぶりの鮎が4匹月光できらめく水の中で泳いでいた。
「お、美味そうな鮎だ。さて、これを焼く準備をするか」
 月牙は、寺の裏を流れる川で鮎を捕ってくるのである。
 俺は寺の奥にある七輪を取り出してきた。
 幸い、この寺には炭や薪などが倉庫に沢山あったからそこから失敬して使わせてもらっている。
 山奥にあるこの寺は、使われなくなってから誰も立ち寄った様子はなく数十年ほったらかしのようだった。
 俺は今、3週間程ここに滞在していたが、明日にはここを出るつもりだ。朧月が強い妖気を感じ取ったらしい。そこへ行かねば。
 暫くすると、七輪から良いにおいが漂ってきた。
 これまた失敬してきた皿に2尾の鮎をのせ、2尾を月牙に放ってやった。
 そして、庭に目をやり鮎に箸を付けた。
 箸を入れた所から、ほっこりと湯気が立っている。
 −小僧−
 朧月が声をかけてきた。
 −バカでかい妖気の事だが−
「うん」
 −どうやら、地獄の釜が関係しているだろう−
 地獄の釜……簡単に言えば、この世と地獄を繋げている通り道の入り口みたいな物だ。それが関係しているという事は、だいたいの話の予想が付く。
「釜が開きかけている……?」
 −うむ。……いや、もう開いているやも知れぬ−
「開くと…どうなるんだ?」
 −釜から、災いが出てくるだろうな。それも何千、何万の−
「妖怪…か?」
 −色々だ。鬼、妖怪、果ては邪神まで……−
 骨だけになった鮎を、この寺の軒下に住み着いている猫に放ってやった。
 月牙は、骨までバリバリと食べてしまい、門の見張りに行った。
「場所は?」
 −地獄の釜の場所は、ここから月牙を走らせて丸二日くらいかかる所にある。名は霊山『天門山』−
 二日…か。と俺は、呟いた。
 その後も夜の空に溶ける月を眺めていた。

 眩しい朝日が寺に降り注いだ。
 夏の朝、山の中だからか何となく涼しい。
 俺は、起きるとすぐ朧月を持ち裏の川に向かった。すぐ後ろを月牙がトコトコと付いてくる。
 川岸に立ち、朧月を抜いた。そして、札を取り出して式鬼を召還した。
 俺は、式鬼に一礼すると朧月を構えた。
 これから俺の一日は始まる。
 横では、月牙が川に入り鮎を追っていた。しぶきがこちらまで飛んでくる。
 旅に出て、この寺に来てからはからずっと、毎日の剣術の修行は欠かさない。人型の式鬼を召還し、ずっと手合わせをしている。
 一段落し、朧月を鞘に戻し式鬼を札に戻すと川に飛び込んだ。
 月牙と一緒に鮎を追った。水の冷たさが心地よい。
 5匹の鮎を捕まえる事が出来た。その鮎4匹を塩をまぶし七輪で焼いた。一緒に、川岸に生えていたキノコも七輪の上に置いた。3週間ずっとこんな感じのメニューだ。
 残っている鮎を1匹軒下の猫に放ってやった。今からまた、今までのように世話する奴がいなくなる。柄でもないがプレゼントだ。
 俺は、鮎を食べ終わると七輪をかたづけた。
 荷造りを終わらせると、ここを発つ前にもう一度寺を見た。
 そして、寺に向かって一礼し、犬神の姿になった月牙に跨り寺を後にした。
 その一部始終を軒下の猫は静かに見ていた。
 俺達が出て行った後猫は初めてねぐらとしている軒下から出てきた。
 いや、それは猫ではなかった。それには尾が2つ付いていた。
 『猫又』である。
 猫又は欠伸をし体を丁寧に舐め、静かに目を閉じた。そして、呪文のような物を唱えた次の瞬間、猫又は何処にも居なくなっていた。

 月牙を走らせて、1日立った。
 人目を避け、山の道無き道を走っている。
 杉のツン…とした独特の香りが鼻を突く。故郷では無かった体験だ。
 昨日は、山の中で野宿だった。まぁ、それも仕方あるまい。
 すると、ぽつりと1つ小さな村が見えてきた。
 近づくにつれて、村の形がはっきりとしてきた。藁葺きの家が建っている。
 月牙から降りて、村に入っていった。
 周りを見る限り、見た事はないが、平安時代の農村にタイムスリップしたようだ。
 電気がない。車も、自転車も。近代的な物は何一つ無い。
 むしろ、見た事もない物の方が多かった。
 井戸、火の見櫓など、都市には無い物がたくさんあった。
 山の中だからなのか、何か暗い。そして、ジメジメしている。
 それに、人気がない。村に入ってから人に会っていない。
 しかし、村には異様な妖気が充ち満ちていた。
「どうしたんだ……?」
 −妙だな−
「そうですね…。人の臭いがしない」
 近くにあった家の入り口をたたいてみた。
「すみません、誰か居ませんか?」
 ドンドンと空しく音が響く。
 はぁ…とため息をつきかけたその時、後ろに人の気配を感じた。
「悠様危ない!」
 月牙が叫び、俺を押した。
 同時に斧が扉に突き刺さった。
「なっ…!!」
 後ろを向くと、斧を持った人がおびえた目つきでこっちを見ていた。
「何をしに来た…! 生け贄は用意している! 出て行け!」
 そう言って斧を振り回す。
「ちょっ…落ち着いてくだ」
「帰れ! っ帰れぇぇぇぇ!」
 俺の言う事は耳にも入っていないようだ。
 俺は朧月を抜くと、走ってくる男を見据えた。
 ガギィィィ……ン
 と言う音と共に男の手の斧が飛んだ。
「ひぃぃ!この通りい…命だけはお助けをぉぉ」
 男は、地に跪き命乞いを始めた。
 すると、その男の後ろから
「おやめなさい。見苦しい」
 と言う声が掛かった。
 いつからそこにいたのかは分からないが、男の後ろ巫女の姿をした女がにたたずんでいる。すると、続々と家の陰、物陰から村人が姿を見せ始めた。
「魔奈様…」
「申し訳ない事をしました。旅のお方。どうぞご無礼をお許し下さい」
 と言って摩奈と呼ばれた巫女は男の後ろで頭を下げている。
「詫びと言っては何ですが、どうぞ我が屋敷へ赴かれませぬか?」

 第2夜
 魔奈の屋敷に招待され、連れられるがまま俺達は、魔奈の屋敷に上がり込んだ。
 客間に通され、これまでの旅の経緯を魔奈に話した。
 客間は、旅館のような造りになっていて、7畳ほどの小さな部屋だ。隅に布団がたたんでおいてある。
 灯りは、行灯に火が点っていたが薄く照らし出された部屋は、がらんとしていた。
「まぁ…退魔師のお方ですか」
 薄く紅を差した唇に微笑を浮かべたまま魔奈は、俺の話に聞き入っていた。
 魔奈の屋敷は、この村で一番大きく立派である。
 だけど、やはり藁葺きで現代の家とはほど遠い。
 ごゆっくり。と言って魔奈は部屋を後にした。
 スタン。と襖が閉まった。
「……妙だ」
 俺は、部屋を見回しながら言った。
 村人が言っていた生け贄…あれが何か引っかかる。
 しかし、今から調べるにももう夜も更け、障子越しに月光が漏れてくる。
 −お前も、精進が足らぬな−
 朧月が唐突に俺に言った。
「…!」
 俺は、思い立ったように障子に手を掛けた。
 バチン!と言う音と共に、後ろによろけた。
「ちくしょう! 俺とした事が!」
 そう、俺は『閉じこめられた』のだ。
 この部屋には特殊な結界が張ってある。
 俺は、朧月を取ると朧月の上で印を切った。
 印を切り終わった時、鞘の血印が黄金に光り出した。
 ジャギン!と霊刀ver.朧月を抜き、障子に一閃を浴びせた。
 バチバチバチ!と言う音と共に障子が吹っ飛んだ。

 そこには、朽ち果てた村が月光に照らし出されてたたずんでいた。
 急いで表へ出ると、月牙が眠らされていた。何かの術を使っているのだろう、いっこうに起きる気配がない。
 俺は朧月を構えたまま、村の中央部へ歩いていった。
 暫くすると目の前に、巫女の姿が見えてきた。
「なぜ…結界を破ってしまわれたのですか…」
 俺は無言で朧月を構え直した。
「そのまま…あの中にいれば…このような姿は…見せずに済んだのに」
 巫女がゆっくりとこちらを振り返った。
 月明かりに照らし出された青白い巫女の顔は、もう人ではなかった。
 角が生え、牙が生え、目はつり上がっている。そして、息を吐くたびに青白い火の玉が口から出ていた。
 般若−……
「ケケケ……楽に貴様の肉を喰ろうてやろうと思ったに莫迦な事を…」
 グググと腕を突き出した。カミソリのような鋭い爪が般若の手から生えている。
 ダッ!と般若がこっちへ走り出した。
 俺は、般若の動きに合わせ攻撃を受け流した。
(俺は、この子を助ける)
 −莫迦な! 生鬼ならともかく、般若となっては手の施しようが…−
 ガギン!ガギン!と、火花を散らしながらツメと朧月が混じり合う。
「ケケ…その喉笛かみ切ってくれる!」
 般若が叫んでいる。
(救われない命などあってはいけない!)
 俺は、目を閉じて般若に向け観世音菩薩の真言を唱え始めた。
「おんあろりきゃそわかおんあろりきゃそわか…」
 すると、般若の動きが止まった。
「…退魔師…様…は…やく…と…止めを」
 一瞬だけ、般若の顔が魔奈の顔に戻った。
「この餓鬼ぃぃぃ! やめろぉぉぉ! 真言を唱えるのを……やめろぉぉぉ!」
 般若がこっちへよろよろと歩いて向かってくる。
「おんあろりきゃそわかおんあろりきゃそわか…」
「は…やく…お…お逃げに…」
 魔奈はその場に倒れ込んだ。
 俺は、目を開け魔奈を抱え起こした。
 すると、般若がまた目を覚ました。
「餓鬼ぃぃぃその肉喰らってやるぅぅぅ!」
「俺の肉で良ければ喰らうが良い」
 俺は目を閉じ、腕を差し出した。
「だめ…です…退…魔師…様…の身…体を喰…らうな…どと」
 次の瞬間、俺の腕に痛みが走った。
 魔奈が俺の腕にかみついていた。
「餓鬼ぃぃ莫迦がぁぁ我に腕を差し出すとはなぁぁぁ」
「般若よ、地獄へは観世音菩薩が連れてってくれるだろうよ。おんあろりきゃそわかおんあろりきゃそわかおんあろりきゃそわか…」
 すぅっと魔奈の顔から牙と角が消えた。目も普通になり、般若は、魔奈の中にはもう居なくなった。
 すると、薄く魔奈が目を開けた。
「退魔師様…御手を煩わせて申し訳ありません…」
 魔奈の顔に一筋涙の線が引かれた。
「私は…およそ千年前、この村で巫女をやっておりました。」
 月光に照らし出された、魔奈の整った顔を涙が濡らしていく。
「ある日、この村に旅のお方がやって来たのです」


 その日、魔奈は近くの野原に薬草を採りに行っていた。
 眩しい夕焼けの紅い光が、甘いにおいのする野原の花を紅く染めている。
 すると、魔奈の後ろから、
「もし」
 と、呼びかけの声が掛かった。
 振り返ると、年は魔奈と同じ位の男がたっていた。
 犬神に跨り、白い狩衣をふうわりと纏った、長い黒髪の男だった。
「何か?」
「すまぬが、この近くに村はありませぬか? どうも、今日の宿が見つからなくて…」
「私の村が近くにあります。小さな村ですがどうぞお立ち寄り下さいませ」
「おう。案内してくれますか?」
「わかりました。付いてきて下さいませ」
 魔奈は、犬神を自分の村へと先導し始めた。
 その時には、もう日は暮れていた。
 村へ行く道すがら、男は自分の素性を話し始めた。
「名を言ってなかったですね。私の名は神楽 鬼羅丸です。お主の名は?」
「魔奈…でございます」
 ほろほろと村まで歩いていると、突然男が魔奈に言った。
「静かに……何か来る…」
 鬼羅丸は、魔奈を木の陰に隠すと、道の奥ををぐっと見据えた。
 すると、暗い道の奥にちらちらと鬼火が舞ってきた。
「百鬼夜行だ……。やはり…地獄の釜が関係しているのだな…」
 鬼羅丸は呟いた。
 魔奈は息をのんだ。
(百鬼夜行!!?)
「声を上げてはいけませんよ。魔奈殿」
 犬神が、そう言って魔奈の傍らに付いている。
 鬼羅丸は、札を取り出し、何やら真言を唱えながら印を切った。
「出てきなさい。四神,青龍」
 鬼羅丸が呼び出した青龍とは、四神の一頭で東を守護する長い舌の竜である。
 すると、ゴゴゴ…と札の周りの空気が渦を巻き始める。
 もう鬼は目の前に迫っている。
 グォォォォォ!と物凄い雄叫びを上げ、札から青龍が飛び出した。
 青龍は、月光を身体中に受けキラキラと光っていた。
「この物達を地獄へ送り返してあげなさい」
 そう命じられた青龍は、巨大な手を広げると百鬼夜行の鬼達をむんずと捕み、天へと上っていった。
 木の陰に隠れていた魔奈は、呆然と月夜に写る鬼羅丸を見ていた。
 初めてまじまじと鬼羅丸の顔を見た。
 不思議な雰囲気を纏った男…。目は切れ長で瞳は茶色がかった黒。鼻筋が通っていて、微笑を浮かべた唇は紅を差したように紅い。俗に言う美男子であった。
 見とれているのに気づいた魔奈は、慌てて犬神の先導に戻った。
「もう心配いりません。青龍が鬼を地獄へ送ってくれました」
 魔奈は、顔を伏せ、真っ赤な顔を鬼羅丸に見られないようにして頷いた。
 それから暫く歩くと、村に着いた。
 村の衆が、魔奈の所へ寄ってきた。
「巫女様大丈夫ですか? てっきり鬼に喰われてしもうたのかと…」
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ。んで、その横の男は誰です?」
「いい男だねぇ」
 と、村の女衆が騒ぎ出す。
 鬼羅丸は、いつものように微笑を浮かべるばかりだった。
「この人は、私の命を助けてくれた人です。くれぐれも無礼の無いようお願いします」 
 そう言って、魔奈は鬼羅丸を自分の屋敷へ連れて行った。
 犬神を馬小屋に入れ、鬼羅丸は魔奈の屋敷へ入っていった。
 魔奈は、鬼羅丸を客間へ案内した。
「今日は本当に助かりました魔奈殿」
「いえ…。本当ならあの時、鬼共の餌になっていた所。鬼羅丸様のおかげで私の命が延びました。ありがとうございます」
「お気になさるな。魔奈殿」
「では、どうぞごゆるりとなさって下さい…」
 そう言って、魔奈は襖を閉めた。
 
 その夜、笛の音に魔奈は目が覚めた。
 起きあがってみると、確かに笛の音がする。
 月光が漏れる障子を開けると、狩衣を纏った男が庭を見ながら濡れ縁で笛を吹いている。
「鬼羅丸様…?」
 鬼羅丸は、笛を止めると魔奈の方を振り返った。
「魔奈殿…起こしてしまったか?」
「いえ、良いのです。とても綺麗な音色でした」
「綺麗な月夜だったのでな…久しぶりに笛を吹きたくなって」
 そう言うと、鬼羅丸は笛に唇を当て綺麗な旋律を奏で始めた。
 魔奈はうっとりした目でその演奏に聴き入っていた。
 時折、風が吹き秋の草花が生い茂る庭から葉の擦れあう音が聞こえる。
 吹き終わると、口から笛を話した。
「良き笛でした…鬼羅丸様。まさかこのような月の下かような笛を聞く事が出来るとは…」
 鬼羅丸は、柱に背を預け座り込んだ。
「鬼羅丸様…」
「何でしょう」
「何時までも此処にいてはくれませぬか?」
「……私にはやらなければいけぬ使命があります」
 その時、魔奈の頬に一筋の涙が零れた。
「明日、此処を出ます」
「ならば…その使命が終わったら…私の元へ帰ってきてはくれませぬか…? またその笛の音を聞かせてくれませぬか…?」
「ええ…使命が終わったら…きっと」

 そう言い残して、次の日の早朝、鬼羅丸はこの村を出て行った。
 そして、それが魔奈の見た最後の鬼羅丸の姿だった。

「私は、千年間片時も鬼羅丸様の事を忘れたことはありませぬ」
 そう言う魔奈の声がどんどんか細くなって行く…
 「どうした!? 魔奈!?」
 蒼い月光に照らし出された魔奈の身体…足の方からサラサラと砂に鳴り始めていた。
「私は、息絶えるまでその時まで恋い焦がれていました…。そして、その『想い』だけが、この世に留まらせてくれるきっかけをくれたのです。この鬼と一緒に…」
 俺は、次々とあふれてくる魔奈の涙をそっと拭いてやった。
「もう…涙など…とうの昔に枯れてしまったと思うたに……」
 魔奈は、涙を流しながら青白い月夜を仰いだ。
「もう、アンタの中に鬼は居ない」
「しかし…もう、あの方と一緒の所へは…逝けないのですね…」
「いや…アンタには一緒の所へ行って貰う」
 そして、俺は口の中で真言を唱え始めた。
 虫の音、風の音しか聞こえない中、口にした真言が何処までも響き渡った。
「あぁ…なんて清々しい…そして…暖かい」
 魔奈は、涙で濡れた顔をその時初めて綻ばせた。
「退魔師…様」
 その時にはもう、魔奈の声は殆ど聞き取れないほどか細かった。
「こ…んな…わ…たしのために…。何も…恩返しは…出来…ませぬが…どう…ぞ…お許し下さい」
 しかし、真言を唱えている俺の耳へは届いてはいなかった。
「もう…私…逝きます…。今まで…ここに縛り付けていた…村の人達と…一緒に…」
 俺は、もうほとんど砂になってしまった魔奈の体を抱きしめながら真言を唱えている。
 魔奈は、最期に残る力を振り絞ってこういった。
「あり…が…とう」
 魔奈の最期の言葉だけは、俺に深く響いた。
 蒼い美しい月夜の下、一つの命が天へと旅立っていった……
2005/05/16(Mon)20:47:58 公開 / ましゅまろ
■この作品の著作権はましゅまろさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最期の更新です、後は多分来年になると思います。今までとても良いアドバイスを下さった甘木さんサスケさん、他色々な方、どうもありがとうございました。
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