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『聖母』 作者:天告 / 未分類 未分類
全角2143文字
容量4286 bytes
原稿用紙約7.2枚


     
                           
浅葱色が吸いこまれる其の先は、彼を棄てた紺青。



聖母



「トキ」

 名前を呼んでみた、らしくも無く、愚を犯した理由などたかが知れていて。

 彼がけして気付きはしないのを承知の戯れ。

 見上げれば晴天の空、抜けるようだと誰が言ったかまさに其の通りで。

 雲一つないけれど見ていて飽きない、それは彼も一緒で。

 空を見上げる小さな頭、二粒の浅葱色がその青に吸いこまれる、そのうち彼ごと攫って行って仕 舞いそうな。

 焦りはけしてないけれど、嫉妬心なら優しく芽吹く、妬情が生したのは揶揄の名称。

「アホウドリがなに無視してんのよ」

 くすくすと意地悪く嘲うと、転げて仕舞うくらい後ろに傾けていた首をくるり半回転ついでに身 体も。

 優しい風に吹かれてひとつに束ねた薄い若葉色の髪の長い髪が揺れる、鼻のあたりまで被さって 密かに美しいと賞賛している浅葱色の瞳を隠して仕舞う憎い前髪が跳ねた、一瞬だけ垣間見る  瞳が悔しそうに。

 奪われたように見詰めていたら、何時の間にか彼は目の前に居て、憤った。

「その呼び方はやめろって謂っただろ!」

 小さい桜色の唇が悔しそうに揺れて、頬の筋肉がひくひくと引きつっている、その光景が滑稽で 自然と微笑みが漏れた、其れを覆い隠すようにまたひとつ嫌味を謂ってみる。

「アホウドリにアホウドリって謂ってなにが悪いの?」

「……っ!僕はあほじゃないってば!」

「あー、ごめんなさい、アホ過ぎて自分があほってこともわからないのね」

 可哀相にと、薄いレース越しの掌でその頭を撫でてやる、ふわふわとした若葉色の髪は陽光を浴 びて暖かかった、半分が前髪で覆われた顔は怒りで真っ赤に上気し、湯気が立ちそうだ。

 彼の背中の用を成さない翼がふわりと揺れた、其れを見ると少し不憫に思う。

 彼は飛ぶことを赦された民、有翼人として産まれた、しかし運命は其れを善しとしなかった。

 種族の長の長男として生まれた彼は飛べなかった、いや飛べなかったというよりは飛ぶことを恐 れた彼の性質が。

 先天的なもので、彼は有翼人でありながら高所を恐れた、異常に。

 小高い丘の上だろうが城の展望台だろうが椅子の上だろうが、立てばがくがくと四肢が震え酷い ときは泡を吹いて、…ご愁傷様。

 そんな彼は族長である父親に失望され、後継ぎとして選ばれた従兄弟と村の者に馬鹿にされ。

 唯一、味方になりうる母は彼を産んだ時、死んだそうだ。

 果てしない紺碧から産まれ落ちたように美しい彼は、其の紺碧に棄てられた。

 死んだ母の呪いだと実しやかな噂がどれほど幼い少年を傷つけたか。

「…アージュ?」
 
 同情が滲んだ瞳で彼を見ていたのだろうか、トキが心配そうに顔を覗きこんできた。

 慌てて取り成すことも無く、ふわりと微笑んで、安心したような笑みに少しばかり罪悪感を得  た。

「ねぇ」

 柔らかな問いに無邪気で、なに、と。

「空を見てたの?」

「…ちょっと」

 言いよどんだ唇が、不憫で、切なくて、見上げた空は日の淡い光を湛えて。

 暗闇を慕う血筋に産まれたわたしは暗闇を愛して、ある日、其れが恐れに変わった。
 わたしが生きるのを赦された場所は酷く居心地が悪くて、与えられた安寧の光りはあまりに眩し くて。
 見上げる、優しげな陽光が甘く、刺す。嫌うように漆黒を纏った腕の一部で其れを覆うように掲 げた。
 
 漆黒の繊細なレース細工越しの光がさらに淡く、身体が震える、あの、なにもかも飲み込むよう な畏怖の闇 が欲しいと、然し其処では生きては行けぬと淡く囁く木漏れ日は、慈母のように微 笑んで、裁判の女神のように突き付ける。

 暗い事実。

 闇を欲しがり、光りに生きる愚か者と、哀れな小鳥、どちらもさして変わりない。

「空が好きなのね」

 母を恋しがるのは当然の欲求、権利。

 其れに反して彼はきっと若葉越しに睨んだ、空か、わたしか。

「嫌いだよ」

「嘘」

「空なんか…大嫌いだよ」

 たんなる妬みと謂って仕舞えば彼は頷くだろう、そしてまた見上げる。

 畏怖と、妬情、向けようの無い母への慕情。
 それらすべて受け止めて、微笑む空は優しくて、残酷で、まるで母のようだと。

 飛べぬ青に嫌いと嘯いて事実焦がれて止まぬ空を飽く事なく見詰める浅葱色が哀れで。

 与えられた安寧に途惑って闇に横恋慕するわたしと、強がって密かに慕情募らせ見詰める彼。

 酷似している様で、そうでないわたしたちは、神様に嫌われたと俯くしかないから。

「トキ」

「ん?」

「わたしはすきよ」

 広がる青も、意地っ張りな瞳も。

「僕は嫌い」

 意味を知らぬ幼顔が緩く歪んで。

 その小さな肩に頬を寄せた。
                           
 浅葱色が吸いこまれる其の先は、彼を棄てた紺青。

 曇る空が不安だと言うなら、降るしずくが哀れむように。

 積もる雪は罪悪の念、微笑んで。

 見詰める瞳は母の乳を欲しがる赤子の無心な唇のようだと。

 今日も優しく照らす陽光は。

 まるで腕の中で眠る赤子を擁いた聖母の微笑みのようだと想った。



    
2005/04/29(Fri)19:03:53 公開 / 天告
■この作品の著作権は天告さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
2度目の投稿です、やはり詩ぽくなってしまって…すいません。まだまだ精進ですね。

このふたりの他にも〜恐怖症の出てくる話を今考えていて、連載できれば嬉しいです。

稚拙な文ですが、御指南、御感想頂ければ嬉しい限りです、では。
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