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『車輪の跡(ショートショート)』 作者:ささら / 未分類 未分類
全角4608.5文字
容量9217 bytes
原稿用紙約13.5枚
 西の空から葦の蔓ように伸びてきた闇が、すべての空を自身の暗黒に染め終えた時頃だった。
 二人の初老の男が、息を切らしながら、人気もなければ灯りもない、ただ、その先に足を伸ばすだけの獣道を歩いていた。
 両脇を茫々と茂る肢の長い雑草に密に覆われたその道は、誰に手入れされる事もなく、脇に生えた丈の長い淡い緑色と草木が剥げた赤茶色だけに区分されていて、その赤茶色の道の上にはこの道と共に平行に伸びる一本の浅い溝があった。
「本当に、この先に屋敷はあるのか?」
 剥げた男が、不安そうな声で顎鬚の男に尋ねた。
「そのはずだが――依然としてその灯りの切れ端さえ見えないのはどういうわけだろうか。道が正しいのならば、そろそろ、屋敷から毀れる、光の足が見えてもよいはずなのだが」
「道が間違っていると?」
「いや、だがこの道なりに伸びる溝は、おそらく、私達がこれから行く、屋敷の主人の二輪車がつけた車輪の跡だろう。なにしろ、この屋敷以外にはとてもじゃないが酔狂な屋敷の主人以外、人など住んでいるはずのない、辺境だ。――この車輪の跡を辿っていけば、自然、屋敷に着くのが道理だろう」
「だといいがな――いや、しかし」
 剥げた男は、ふう、とため息をついて、道の先に目を配る。道の先に見えるのは、やはり道。依然として代わり映えのない風景。
 男達が歩んできた道は遥か後方に長く、すでにどれだけ歩いてきたかも定かではない。 一つだけ覚えているのは、男達が屋敷を目指して一本の車輪の跡を追い、小さな両端に丈の長い雑草の茂る獣道に入ったとき、太陽はまだ南天に輝いていた。それから、久しく車輪の跡を追い続けているが、日が完全に落ちた今、依然として屋敷の端さえ見えない。
「もしかしたらこれは車輪の跡ではないのではないか?」
「……何だと?」
 顎鬚の男は眉根を寄せる。
「どういう事だ? これが車輪の跡ではなかったら何だというのだ。我々は今まで何を追いかけてきたというのだ!!」
 顎鬚の男は苛立たしげに叫んだ。
「……分からん、分かるはずがなかろう」
「ふん、分からんのならば、軽々しく異を唱えるでない」
「……何だと?」
 二人の男は睨みあった。
 歩を進めるに連れて二人の仲は徐々に険悪になっていた。歩き続ける疲労、先の見えない不安。
 苛立ちと、先程から振って湧き始めた捉え所のない恐怖が、二人の精神を圧迫していた。
「そう言えば……この道に入る前、小さな墓地があったよな」
 剥げた男が前置きもなく呟いた。
「あったが、それがどうした?」
 顎鬚の男の声は辛辣だった。
「我々は、あの墓地から伸びていく、車輪の跡を追いかけてきた。もしかしたらあれは、あの墓地に巣食う悪霊が我々を陥れようとしたのではないのかと、今、ふと考えたのだ。いや、それとも狐に化かされているのか」
「馬鹿馬鹿しい……、そんな絵空事を考えている暇があったら、今、我々の置かれた立場を改善する事を考えろ」
「ふん、そういうお前はどうなのだ? 先程から私を非難してばかり。よもや、車輪の跡を追おう、と始めに言ったのがお前であったのを忘れたわけではあるまいな」
「私のせいだと言うのか」
「……かもしれぬな」
 もはや、二人の不穏は一触即発だった。
 疲れを紛らわせるために、片方が発した言葉は、常にもう片方の男を苛立たせた。
 それが繰り返されるたびに、長年連れ添った二人の親友の間には、もはや憎しみの度を越して、殺意さえも芽生え始めていた。
 一体いかほど歩いただろうか。東の空に、ぼんやりと日が射し始め、斜光が二人の男の相貌を照らした。その顔には理知の光はなく、疲労により深く刻まれた皺と、親友に対する怒りを携えた歪みがあった。二人の男の視界は、霞んで、もはや、数歩先も捉えられなかった。代わりに、足元に刻まれた車輪の跡を、それが唯一の救いの道であるように、来た道を戻ることなど不思議と考えもせずに、眠る事さえも忘れて憑かれたように追い続けた。
 太陽は東に現れ、南に至り、西に消えた。
 車輪の跡は常に足元にあった。
 幾晩の夜を越そうと、それは続いていた。
 もはや、二人には話す気力も残されておらず、まるで遥か南、砂熱き地を進む旅人のように、その体は乾ききっていた。
 喉の渇きは極限まで達したが、脇道は荒野で無論水気などなく、自分達が今でも信じている、この道の先に屋敷があり、そこには水など掃いて捨てるほどあろう、という希望だけを持って、二人は渇望に耐えていた。
 六度目の暗黒が訪れてしばらく経って、突然、顎鬚の男が立ち止まった。
「どうした?」
「道が……途絶えている」
「……何だと?」
 剥げた男は信じられないような表情で、自分の足元の赤土に鼻をくっつけるぐらい近づけて車輪の跡の先を凝視したが、車輪の跡は、その道の終わりと共に荒野に少し入って、それで見えなくなっていた。
「……馬鹿な、そんな馬鹿な!!」
 剥げた男は絶望で呻いた。
「やはり悪霊だ!! 悪霊の仕業だったのだ!! 悪霊が我らの魂を貪る為!! 水の一滴もないこの長き道を歩かせ続けたのだ!! やがて、我らが死に至るまで!!」
 雄叫びを発しながら、剥げた男は天に向かって仰ぐ。
 そんな発狂寸前の剥げた男の顔を、他人事のようにぼんやりと見つめながら、顎鬚の男は、ふと鼻先をくすぐる懐かしい香りに気づいた。
「まて、……水だ。水の匂いだ」
「何だと!? どこだ、どこに水がある!!」
 男達は視線を即座に周囲に泳がせた。
 男達の少し前方、車輪の跡の延長線上の荒野の中に、草に隠れて、緑色の筒のような形をしたものが横たえていた。
「なんと!! 水筒だ!! 何故こんなところに!?」
「中身が入っているぞ!!」
 男達は歓喜に震えた。
「神だ!! 神は我らを見捨てなかったのだ!!」
 剥げた男が、涙で震えた声で、天に向かって叫んだ。
 その一本の水筒はちょうど二人分の喉をとりあえず潤すのに満足する量の水が入っていた。
 ふと、顎鬚の男の心にどす黒い影が過ぎった。
 ここにある水は、何とか二人分を満たすものだ。しかし、ちょっと待て。今ここで水を飲んで、自分達はまた来た道を戻らなければならない。それならば、ここで水を飲んでも、帰る途中には再び自分は乾いてしまうのではないか。
 ふと顎鬚の男は、自分のポケットに一丁の拳銃が入っているのを思い出した。その拳銃は、古い旧家の貴族に住んでいるこれから行く予定だった屋敷の主人を殺して、その家にある財宝を自分達のものとする――今回の強盗の計画のために、裏ルートから足が着かないように購入したものだった。
 ―― 一人で飲めば自分は助かる ――
 今の極限まで追い詰められた顎鬚の男の精神状態に、それは至極当たり前な解答だった。
 剥げた男が、何やら水筒を目の前にしてごそごそと弄っている間に、顎鬚の男は拳銃に弾を込めた。
「お前から先に飲んでもいい。一口ずつ交互に飲もう」
 剥げた男が、張り付いた笑顔でそう言って、顎鬚の男の方に振り返った瞬間、火薬が弾ける音ともに、剥げた男の眉間を弾丸が貫通した。
 横たわる剥げた男の死骸を見下ろしながら、顎鬚の男は、
「ふん。先に飲んでもいいなど、心にもないくせに。大方、俺が水を手にして油断した瞬間に、隠し持ったサバイバルナイフで俺を刺し殺すつもりだったのだろう。貴様の狡猾さは、長年連れ添った私には十分承知済みだ」
 そう思って、横たわった剥げた男の死骸をまさぐったが、それらしいものは見当たらなかった。
「どういうことだ? まさか、本当に、私の事を案じていたのだということもあるまい」
 そう呟いて、とりあえず、もはや痛みすらも感じる喉の渇きを潤すため、水筒に口をつけた次の瞬間、
 顎鬚の男は口から血を吐いた。
「……そうか……毒……」
 それだけ呟いて、顎鬚の男も絶命した。
 剥げた男は、顎鬚の男が拳銃に弾を込めている間、強い酸性の液体を、水筒に混入していた。顎鬚の男が水筒に口をつけて、その強い酸性胃を焼かれた跡、塩基性の液体を混ぜて、中性にしてから自分ひとりで飲むつもりだったのだ。
 車輪の跡の先に初老の男二人の死骸が横たわった。

 その二人の様子を隠れて見守っていた一人の老人神父が一輪車を押しながら、草の陰から姿をあらわした。
「ふん、悪霊だの神だのたわけた事を言いおって。貴様らのようなカスに御神が微笑むものか。それに、本当の悪霊は貴様らだろうが。いや、これから悪霊になるのかな? それが悪霊の仕業とは聞いて呆れる。お前達が勝手に自分でここまで来て、勝手に死んだんじゃないか。まあ、ワシも少しは誘導したがね。それに、この道は、今までに死んだもの達の怨念が染み付いているのだ、確固たる意思がなければ、抜け出る事も、引き返す事も出来んよ。しかし、水を二人で分け与える心があれば、まだ救いがあったのだろうに」
 二人の死骸と水筒に交互に目をやりながら、老人神父は呟いた。
「我ながら良いアイデアだ。妻を殺し、我が教会の財宝を盗んでいった悪人を駆逐しようと、もともとはそのための毒草を積みにきただけだったのだがな。あらかじめ、莫大な財宝を抱えた貴族の屋敷の情報を流しておいて、欲にかられた悪人がその財宝を手に入れようとこの地に訪れる。年老いたワシには人を殺すほどの力はないが、しかし馬鹿な罪人共は自ら命を落としてくれる。もしもこの状況で水を二人で分け与える心があれば、ともすれば、彼らも助かったかもしれんのだがな。何しろもう数キロ荒野を歩けば、ワシが住む町にたどり着けたのだから」
 老人神父は、くつくつ、と笑う。
「だが、彼奴らは必ず車輪の跡を追ってくるというのは実に面白い。実際には、ここと、毒草を隠している墓地との間、ここにしか生えていない毒草を運ぶ一輪車を押していたときについた車輪の跡だったのだが、よもやこのような効果を生もうとはな。人は時々、跡、という実体のない極めて不確かな物を追いかけようとする。それが、屋敷の主人のものであると、一体誰が言ったのだ? だからこそ、愚かなのだ。目先の光に縋って、本当の光をいつも零してばかりいる。まあ、そのおかげでワシは苦もなく復讐を果たせるのだがな」
 老人神父は、嬉しそうに顔を歪ませた。
「さて、いつ客人が来るか分からぬのだから、すぐに新しい水筒を準備しておかなければならないな。それにしても、そろそろ、もっとこの近くに毒草の隠し場所を変えた方がいいかもしれん。さすがにこの歳で道の往復は疲れるわい。それに、もう、毒草も十分摘んだしのう」
 ふうっと、ため息をついて、老人神父は一輪車の荷台に、二人の男の死骸を載せて、ついでに毒草も少し摘んで、道の入り口にある墓地――自分の拠点へと帰っていった。

「だって、車輪の跡があるじゃないか」
 二人の男女は、そう呟いて、その両脇に丈の長い草木が荒れ茂った、赤土の道へと入っていった。
 男の懐には、屋敷の主人を刺し殺すための刃渡り三十センチほどのナイフが隠されている。
 男女の視線の遥か先、長い長い車輪の跡の先には、二人分の水が入った木筒が彼らを待つように横たわっている。
『そうだ。車輪の跡を辿るが良い。次はお前達の番なのだからな』
 道を進んでいく男女を見つめながら、老人神父は嬉しそうに呟いた。
2005/03/21(Mon)14:43:40 公開 / ささら
■この作品の著作権はささらさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お読み下さり有難うございます。
ショートショートの広場を見ていたら、何となくSSが書きたくなって書いてみたこの作品。
書き終えてみると、改めて、ショートショートの難しさと、自分のあまりの力のなさを実感しました。
精進のために、と兎にも角にも投稿した作品ですが、御感想、批評、いただけると嬉いっす。
それでは。
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