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『Light Joke[JSPA!!] the first〜the network』 作者:貴志川 / 未分類 未分類
全角20928.5文字
容量41857 bytes
原稿用紙約70枚




『日記』-the first-

私の中にはあなたがいる。

あなたの中には私がいる?

・・・・・・・・・・・・

ずっとね、長い間思ってた。
正しいとか、正しくないとか、きっとそんなものはヒトという一種の生命体が作った虚言ではないかと。
あなたと会ったときから。そう思ったのは。
きっと正しいのは「常識」で、私たちのようなものはホントに「異端者」だったのね。
私は・・・そう知ってた。知らないフリをするのは楽で、つらくて。
あなたに会って感じたのはそれ。
あなたは見抜いていた。そして見つめてた。知らないフリなんかせずに。

自分が「異端者」であることを

それだけが私たちのような者が救われる唯一の方法だったのね。

・・・・・・・・・・・・

さて。もう行くわ。
私の最後の誤算はあなたに愛されなかったこと。
でも、ありがとう。
この世にあなたを持ち続けていた人間がいたことを忘れないでね。

さよなら。「異端者」の中の

「異端者」さん。



『運命』-not so need-

ぱらぱらという表現が似合わない雨だった。
秋が終わりを告げた十一月。寒空のした、たくさんの人間が急ぎ足で走り抜けていく。悲しいかな、ほとんどの人間が傘を持ってなかった。大戦時の情報規制が根強くのこっているため、放送されるテレビは一局。皆同じテレビを見て皆傘を忘れたというなんとも間の抜けた情景だった。
その情景もひどくなる雨で美しくコーティングされ、さらに朝から出ていた霧の中へ消えていく。
霧は濃く、美しくなっていき・・・世界を白く塗りつぶした。

「冗談でもこんな日は・・・ヘリなんか飛ばさない」
震える声がその濃霧の中をヘリと切り抜けるようにして飛んでいく。
「・・・そこを・・・狙った」
ヘリは、飛ぶ。



研究所というと少しは聞こえがいいのだろうか。

首都東京の郊外にある研究所、「塩基コード高度解析研究所」の職員は思った。
彼の心はそう、使い古した言葉で言うなら「この空のように曇ってどんよりして」いたわけだ。
「主任。濃霧がでました。警邏開始します。」
 その彼専用の部屋、主任室に太い男の声が響いた。それはスピーカーを通して当然のように彼の耳に届いた。
「・・・」
 しかし彼は返事をしなかった。それは無駄で、必要の無いことだからだ。この研究所には「無駄」が存在しない。ここはそういう場所だった。
彼は外を見つめる。この暗澹とした思いを代弁する空に何らかの感傷を得たからか、それとも他に何かあるのか、それは彼自身も理解し得ないことだが、・・・要するになんとなくだ。
「・・・・・・・・・・・・ん?」
 彼はそのとき、異変に気がついた。もとよりほとんどいつもと変わらない「無駄」の無い生活になれていたせいか、そういう異変にはかなりすばやく反応した。
「(なにか・・・音が?)」
 その音は断続的に空気を裂く音のようにきこえる。そして・・・近づいてきていた。このような山の中に用があるのは役所のお役人か、小動物だろう。彼は後者を選択した。
音はさらに大きくなっていく。
彼は気にも留めずに仕事を再開した。一応防音壁があるから、セキュリティーに問題を報告しても無駄だろう。そしてこの研究所はそのような無駄は認められない。

だが、事態は無駄でも、下らないことでもなかった。

あとから見ればそれは歴史的大事件の幕開けであり、そして彼は初めてそれと遭遇した人物だった。
だが世界はリアルタイムだ。それが決して「無駄」なことでも、「大変意義がある」ことでも、事態はリアルタイムで進行していた。


・・・そして。発砲音。



「ひゃっほ―――!!!」
ヘリの中から都市迷彩・・・急襲警察官の着るあれだ・・・を着た男がガッツポーズした。その手には狙撃用のライフル。つい先ほどそこから飛び出した弾丸は上空のヘリにもっとも近かった警備員の頭を貫通し、地面にめり込んでいた。
「よし!降下ぁぁぁぁ!!!!!」
さらにヘリの中から都市迷彩姿の男たちがロープを蹴り飛ばし、降下し始めた。シュルシュルとすばやい降下行動は2秒かからず男たちを地面に着地させていく。
「止まるな!いけっ!!」
その中でも一番体の大きな男がアサルトライフルを抱えて研究所に走りこみ、それに続いて他の男たちも走り出す。

パァーパァーパァーパァー

最初のドアを銃で撃ち割ったとき、警報が鳴った。しかしそれは予想されていたことだったので誰一人として気にとめず突入の手を緩めない。
警報に気づいた突撃服姿の警備隊が無駄の無い動きで一斉にエントランスに集まり、銃を向けてもそれはおなじだった。
「警告だ!その場に銃を捨てろっ」
明らかに警備隊のほうが数は上手だったが、男たちはその言葉には反応せず、先ほどから命令している男の右手が上がると同時に進撃のために行動を移した。

連続した重い発砲音。

瞬間、光がしゅんしゅんという音と共にエントランスを駆け巡った。
角から出てきた警備員は弾丸が股間から喉にかけて当たり、倒れこむときには死んでいた。拳銃を構えた警備員は皆一気に掃射にあい、目玉や舌、ほおの一部などをもっていかれながら倒れこむ。防壁に隠れて反撃に転じようとしたものは振り返りざまに頭を打ちぬかれて黄色い脳しょうを撒き散らしながらヘッドスライディングのように倒れこんだ。
すべてが一瞬のうちに終わり、そのあとは血が飛び散るだけだった。
「急げ!」

そうして事態はリアルタイムに進む。

決して立ち止まることなく迷彩部隊は進撃していく。途中で警備隊を殺しながら、血を垂れ流しながら、空薬莢をはじき出しながら、進む。
「げはっ」
「がぁ!?」
「ゴヘア!!」
警備隊と迷彩部隊の戦力差は明らかだった。警備隊のほとんどがアサルトライフルだけなのに対し、迷彩部隊は重火器を多用している。警備隊はほとんど抵抗できずに血を撒き散らしていく。




とそこに違う動きが現れた。
「目標確認!」
リーダーの男の前にはロックされたドア。迷彩部隊がすばやく警戒のために、今まで進んできた通路へ銃を向ける。
「コード解析!5秒前!」
部隊の中の一人が飛び出してきて、吸盤のようなものの付いた四角い機械をドアのコード認証に押し付けると、宣言通り5秒後に「ピー」という間の抜けた音と共にドアが開いた。
「突入!」
男たち全員が突入した。

さらに、中で銃撃。


「・・・・・・・・・」
そうした騒ぎは当然歴史的事件第一遭遇者、研究所主任にも聞こえていた。
彼は警備室からの情報を・・・つまるところ警備員に取り付けられていたカメラから音声と画像を・・・見ていた。
その画像はかなりの数がフラッシュアウトしており、取り付けられた人間が死亡しているのを表してもいたが、彼にはそんな「無駄」なことは関係ないようだ。
「画像が少ないな・・・」
こうつぶやいただけで、特にそれにはふれず、むしろ「独り言」という「無駄」を生み出した自分に軽く心の中で失望していた。
そして
「・・・」
今、男たちが研究資料室に突入した。
中の警備隊が気づいて銃を向けたが、一瞬のうちに迷彩部隊の後ろを固めていた数人がグレネードランチャーから手りゅう弾を射出し、爆殺される。カメラがぶれて、そのあとには血や体の一部が部屋いっぱいに広がっている映像が映った。………それでも生きている警備員は首の骨を折られる。アゴと肩を掴んで一気にまわすとゴキャッと音がした。
警備員全員の殺害を確認した迷彩部隊は、リーダーと思われる浅黒い男に指示されてそこらにあるファイルを手当たりしだい引っ張り出しはじめた。

………これ以上は進入を許すわけにはいかない。ここで止める。

「・・・」
彼はスイッチに触れた。それを押すことはどのようなことになるのかわかってはいた。

もちろんそんな「無駄」なことには関心も示さなかったが。


ぷしゅー
間の抜けた音と共に研究資料室の四つある入り口が閉じていく。
「・・・!?・・・ちぃ!撤退だ!!!出口がふさがれてるっ!!」
リーダーの男の声に反応して男たちが動いた。ファイル回収に気をとられていた迷彩部隊の中にはそれでやっと入り口が閉まるのに気づいたものもいた。
「閉まるぞ!!!」
北へ向かうドアが最後まで開いて残っていた。だがそれもすぐさま閉まり始める。
「まずいぞ!いそげっ!!」
そこに30人近い男が殺到した。幸いドアは大きく、部隊もかなり洗練された人間ばかりだったのではみでるようなことは無かった。


「おい!善児!早く!」
「はい!あとこのファイルだけ!」
まだ残っている人間がいた。デスクの引き出しに隠されていたファイルを引っ張り出している男がいる。
「急げ!閉まるぞ!!!!」
ゆっくりとだが確実にドアは閉まっていく。
ファイルはデスクのどこかにひっかかっているのか、なかなか外れない。ガチャガチャとひっかかったファイルを左右に振るが、取れない。
「くっそ………」
「もういい!!善児!こい!」
その時にはもうドアはもう膝ほどしか開いていなかった。
善児と呼ばれた男は名残惜しい顔をするが、すぐさま立ち上がって走り
・・・一気にスライディングした。
スライディングの体とドアの隙間は僅かに余裕がある。
「よし!!」
何とか間に合うか、
希望の声と共にリーダーが手を差し伸べようとする


いや、だめだった。

ドアは今までとは打って変わった素早い動きで降りた

「!?善児!!!」
ドアについたガラス窓の向こうでは善児が必死にドアを叩いてるのが見えた。目を見開き、何かを叫んでいる。
「隊長!!新宿から公安がきます!!」
「ぐ・・・」
「隊長ぉ!?」
中では着色されたガスが漏れているのか緑色の気体が浮いている。それを見た善児がなきながら窓に叫び、がんがんと殴る
「・・・・・・撤退だ!いそげ!」
男たちが動く。
リーダーも目をひん剥き、口から何かを吐き出す善児を見て、敬礼して走りはじめた。

足をもつれさすことも無く全員が紡錘形の形となって階段を駆け上がる。その間も警備員に後ろから発砲を繰り返されていてチュチュンと弾丸が手すりや壁に当たって跳弾となって光が交錯するが、彼らはそれを見ることも、考えることもせずに走り抜ける。
そして暗い階段の中に薄く光がさした。
「屋上だ!行けっ行けーーーー!!」
彼らは一気に光の中に飛び込んだ。
『突入班ご苦労!!回収する!!』
その屋上にはヘリがひゅんひゅんという音と共に何体も降下してきていた。
「搭乗!!」
そこに命令が飛び、男たちがきれいに分かれて乗り込む。

離陸


「くそ!撃て!」
残った警備員が仲間の遺恨にかヘリに発砲してきていた。

ぱんぱんぱん
ぶううううううううううううううううううううううううううううう・・・

そこに音が重なった。ヘリに取り付けられたミニガンからの発砲。とんでもない連射で音が途切れず、その音と共に警備員は一瞬のうちに肉塊となった。
「よし、いけ」
ヘリはその命令に従い離陸と同時に撤退する。
しかしその最後に残ったヘリは頭を研究所に向けていた。動かず
「パッチ1。シュート開始」
という通信と共にミサイルを撃ち込んだ。それはいわゆる・・・・対地ミサイルで


「・・・・」
軽い苛立ちを覚えながら監視カメラの映像を見つめている男がいた。研究所主任だ。
警備員は皆死んだらしくすべての映像はフラッシュバックしていた。そのためわざわざ取り付けていた監視カメラの映像を見る羽目になった。
映像にはガストラップで死んだ男が写っている。
苦労と費用をかけて設置した機密漏洩防止のトラップも一人を道ずれにしただけのようだった。しかもドアが閉まらないという不具合までおきた。
トラップという性質上まさか始動テストまでするわけにいかず放置していたのがまずかったのか。もともと研究員の資料持ち逃げに対しての脅しのようなものだったからこんな散々な結果も当たり前だったのかもしれない。
彼はそう思いなおし、今では唯一の情報源となった窓を見た。


「あ」


それが彼の行った最後の行動だった。
窓には迫りくるミサイルが映っていて・・・



彼の最後の行動が彼にとっての「無駄」なことだったのは、神の悪戯というやつだったのか。
それに答える者はおらず、世界はそう、リアルタイムに・・・









『輪の中心』‐the world see this man-




音楽が聞こえる。

昨夜爆破テロがあった現場には軍服を着た男達がたむろしていた。爆破テロの調査にきたわけだ。当然捜査ではなく、さらなる爆発物が無いかの調査だ。爆発を起こし、そこに集まってきたものたちをさらに爆破に巻き込む。都市テロの常套手段だ。

その緊張した場面で・・・音楽が聞こえた

兵士たちが皆、一様に顔を渋くさせた。命がけの仕事をバカにされた気がしたからだ。

音楽・・・何世代も前の・・・もう歌手だって誰一人として知っている人間もいないような曲だ・・・その間が抜けたような、それでいてクールのような曲は現場に向かってくる車から奏でられていた。
車は検問所にとめられ、兵士に一睨みされて運転手はなにか怒られていた。
散々怒られた後運転手は音楽をとめた。ピタリと辺りは静かになった。
どうやら車の中では二人・・・シルエットでわかる・・・が随分大きなひと悶着をやった後でとまったとようだ。それを見ると一人が猛反対してやっととめたらしい。
そうして車はゆったりと進んだ。
黒いシックな車は音楽さえなければなかなかの上物で兵士たちの目を引く。



そこで車から手がでた。
黒い窓が開いて手が・・・ピースが・・・・でた。

そして




爆音



「こるぅらぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
誰だこの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そしていい加減キレたわけの軍曹がマッハでとんで出てきた。
車はその言葉に反応して止まり、しばらくがたがたとした音と共に車体を揺らす。そしてさらにピタリと音は止み・・・そして

若い男女が現れた



「だからうるさいって言ったでしょう!!!」
「あーゴメンうるさすぎて全っ然聞こえなかったわ」



そうして世界に現れたのは・・・古い言葉で表すなら・・・いや、この歴史的大事件の最初の目撃者の喪に服して「無駄」なことは言わないでおこう。
きっと語らなくても彼らがそう、表してくれるはずだ。



「この世界の主人公である」と
「すべての事件は自分達のための前座でしかない」と




          それこそまるで「Light Joke 」のように




『情勢』 −the world−


  「現日本における情勢関連報告書」
                                                      2512/11/12 
No.3                 


・・・それによって行われる米政府行動には我々の情勢に何らかの影響が出ると思われる。

○わが国の現状況について

わが国の現状況(問題点)は以下の通り


1・DLの生成に反対する右翼団体(これは新興宗教団体など)をおさえる。
    2・国民のサプリメーション化(脳内情報化)の調査
    3・JASP結成による治安悪化の対策
    4・中国の他国侵略対抗


でありこのうち2、4が対策を採られている。
 補足情報として以下の点を追記。

■DL
デザイナーズチルドレンの略といわれる。いわゆるクローン生成されたクローン人間をさす俗称。
世界で最初にクローン生成をしたのは日本であり、また世界に最初に報告したのも日本。
実際には2122年、いわゆる「大戦期前」にも生成されている。
世界報告は『大戦によって激減した人口の補足』とし、大戦に巻き込まれた形となった日本に同情の声が上げられ、合法化した。
実際には大戦によって減った人口増加は各国も狙っていたために了解された。という考えが定着している。いわゆるローカルルール化状態。
また、通常の人間よりも身体能力が高い。
彼らの心情面では「人間」と「DL」は個別化されており、「別種視」感情があることも確認されている。生成方法に問題があるかどうか判断が仰がれている。

■サプリケーション化
2126年から開発の進められていた「脳内情報化計画」によって生み出されたヒトという一種の種別の思考源と思われる「脳」をITのように「情報 化」することにより情報伝達などを高効率化すること。脳内に直接干渉するため、顔、声、抑揚などをデータとして他人に送ることが出来る。さらにパーソナルコンピューターシステムを導入されている。簡潔に言い表すなら「通信映像を視界に出現させる事ができ、パソコンの能力もかねそろえた人間となることができる」
2126年以降軍事利用が考えられていたが、2315年、終戦間近の完成となった。しかしながら日本が大戦を沈静化できたのもサプリケーション化によるものが大きい。
そして終戦後2352年、一般解禁となった。
人間の原始的かつ効率的な「会話」をしなくても情報伝達が行うことができ、世界各国どこでも通信が行えるため大きな「人間改革」となった。
現在、サプリメーション化は賛否両論であるため、一部情報によると国民の35%程度で増加に歯止めがかかっている状態とされている。
■JASP
JSPA(Japan Security Police Authorities) 日本治安当局の略称。 「ジャスパ」と俗称がついている。
2497年の治安維持部隊集隊法施行により、2498年 警察、自衛隊、保安 庁、公安調査庁、公安、がJASPとして統括された。
しかし情報のサプリケーション化によって 治安維持に貢献するはずだったJASPは開始当初に不具合が続発し、治安は悪化の一途をたどることとなった。
現状況2502年には治安は安静化してきているが、予断が許されない状況が続いている。
■中国
もともとの人口過多もあり、大戦によってむしろ人口調整がついた中国が最近有力となっている。
大戦によって日本は(国連批判もあり)領土は得なかったが「買収」という形で中国領土を買い取ることとなった。その買収用意金額をスパイ行為によって確認しようとする動きがあるのをJASP国家公安統括課がつかんだ。公正取引に影響があると思われるため、JASP国家公安統括課が調査にのりだしている。


以上報告を終わる。

                       JASP国家公安統括課
                          山川 幸平 少佐

※追記報告
先日のテロ事件については調査中。派遣員を公開しておく

JASP国家公安統括課
   中川 裕二 少尉 /  ナカガワ ユウジ / 16
JASP国家公安統括課
   仲間 優煤 少尉 / ナカマ  ユメ /  16



『調査』 ‐It is …

自衛隊諜報部の中には緊張が走っていた。
先日のテロ事件の容疑者がついさっき現場で拘留、送還されて来たのだ。現地の調査班によると彼らはまるで力を誇示するかのように大騒ぎをおこしながら現れ、調査班による拘留後もまったく反省の色を見せずに意味不明なことを口走っているという。
これに対し自衛隊諜報部は容疑者たちがさらなるテロを計画していた可能性もあるため事実解析、及び容疑者たちの身元をわりだしている。


「いや、だからさ、公安課の捜査員なの、俺達は。本物だって」
「ふざけるな!!今公安課に連絡を入れたからな!お前たちの身元もすぐわかる!」
諜報部の取調室では緊張の走る取調べが続いていた。
諜報部とテロ容疑者との熱い駆け引きが繰り返される・・・
「証明証も持ってるんですけど・・・」
「そんなモン今時いくらでも偽造できるだろ!さっさと次のテロの標的を言え!」
「だから俺たちはそれを調査してきたんだって・・・」
「口が減らんな・・・貴様らは」
「あ!痛って!殴んなよ!公務執行妨害だぞ!」
「それは公務員に適用される法律だ。ラリッたガキにはなんの効果も示さんのだよ!」
「うるせえな・・・・・・・・・・・あっ―――」
その時、殴られた男はサプリケーション化によって可能となった脳内通信で公安統括本部からの通信を通信をうけた。
すると彼の視界の端に『通信』との文字と共に初老の男があらわれた。
「『・・・これ以上しかってももう耳には入るまい。初の人間干渉は失敗だな』」
「(・・・すまん)」
「(私のせいではないですから)」
視界の端に『介入』の文字が表示された。同じく取り調べられていた女がそれと同時に現れる。その顔は明らかにいやそうな顔をしていた。
「『なんのために君をつけたのか理解してるかね?』」
「(・・・)」
「『まったく・・・』」
「・・・おい、聴いているのか?」
諜報部の男が無反応になった容疑者二人に話しかけた。二人は「はいはい」と声をそろえて言い、それがさらに男の神経を逆なでして殴られそうになる
「わっバカ!やめろ!手はだすな!手は!」
と・・・そこに素晴らしく裏返った声が飛び込んできた

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!?あれが!?捜査員なのか!?」

・・・そうして激しい動揺が諜報部を襲い、
「『話はつけた。さっさと行け』」
激しい謝罪の言葉を口外に要求する声が容疑者=捜査員二人の脳内に響いた。



・・・暗く闇が支配するこの場所に光が射した。

光は一定の場所をうろうろしながら白い壁を照らし出し、それと同時に土砂が壁を埋め尽くしているのも映し出す。その光の光源には何かの使者のような黒い影がうごめいていて・・・そしてその影は語りだした。


「まさか公安の連中がお前らみたいな子供を送り込んでくるとはな・・・自衛隊も落ちるトコまでおとされたもんだ・・・」
過去、この研究所の職員だったという年老いた軍曹は爆破によって半分吹き飛ばされた施設を案内しながら自己嫌悪っぽくつぶやいた。
手に持つライトから出た光は周りの壁を浮かび上がらせている。
公安から派遣された黒短髪黒礼服の男・・・中川はだらだらとした足取りでついていきながら
「まあ・・・大戦前のガキがいない頃の古い法律がまだいきってから・・・」
と頭をかく。いかにもお友達感覚な喋り方だった
「ちょっと・・・もっと丁寧な話かたしなさいよ」
そんな態度の中川を隣にいた女・・・ショートヘアでシックな服を着こなしている・・・が肘でこづいた
「君もだよ・・・仲間・・・優煤さんだっけ?ややこしい字だな。・・・ほら」
軍曹は渡された優煤の証明証を返した。
「子供みたいな奴が最近JSPAをうろついてるのは見てたがな、まさか連中が職員だとは思わなかったよ。」
「ええ。JSPAの職員で十六歳くらいなんていったら日陰組の公安課くらいですから・・・最近じゃ私たちみたいなのは『戦争ひきたて屋』なんてよばれてますよ。」
優煤は自虐とも本質的な指摘ともつかないことをいった。
「・・・昔から公安と自衛隊だけは役立たずだとかは言われてたからな。俺たちは昔のほうがよかった。大戦の影響で俺たちもお前たちも神様のごとく崇められて、そして終わったら今度は日陰者に逆戻り・・・人間なんて一発ミサイルぶち込まれたらこんなものなのに、だ」
しばらくその話を優煤は相槌をうちながらきいた。自分たちと境遇がにているこの老軍曹に多少なりとも同族意識をもっていたからだ。
その横で中川は土をいじりながら、その話を聞いているのか、聞いていないのかよくわからない顔をしていた。

ライトで周辺を照らす

「この研究区だって20世紀初頭じゃ無駄を一切排除した日本屈指の研究機関だったわけだ。それがいつの間にか防壁さえ無くされて、『ヒトゲノム計画』が終わった21世紀後はその重要性は一切なくなったってわけだ。・・・ついでにココの施設も日陰者・・・あの後言ってた『DL計画』とやらも結局失敗したのか成功したのか・・・」
軍曹は時間つぶしに自分から話した話にげんなりしていた。「我ながら」というやつだ。


「・・・そんなモンじゃないの?どうせ俺たちみたいな、『有用性』の上でしか成り立たない『にんげんもどき』は」


「・・・は?」
軍曹が中川をみる。中川はのんびりと歩くだけで何も言わなかった。
「すみません。この人たまにおかしいこというんです」
優煤が中川の頭をこづく
軍曹が中川を見たが、中川はまるで土と遊ぶようにのんびりと、そしてふらふらとあるくだけだった。

しばらく無言で歩いていた軍曹がピタリと足を止めた。
「この辺りは資料室でな、研究員の中じゃ『知識の泉』とよばれてて、金庫並みの重宝具合だった」
それがこんな土だらけになっちまって。と軍曹はつぶやいた。
「そしてそんな泉の中には死体が浮いていましたとさ・・・ここで変死体があがったのか?」
のんびりと中川が座り込み、地面をいじりだした。かさかさした土が中川の手につき、すぐにぽろぽろとチタンの床に落ちる。風があればきっと砂埃を上げていたろう。
「そうだ。」
「死体はすすを吸ってたのか?」
「その辺りはこっちじゃわからんな、警察課に死体は持ってかれちまった」
「警察介入?聞いてねえケドな・・・」
中川は脳内通信で公安課と連絡を取る。視界の端に『通信』の文字が浮かんだ。
「(本部・・・悪いが昨日のテロ事件に警察介入の跡がある。調べてくれ)」
中川の動きにはなんの変化もないが、彼の脳内では脳内ITを通して視界の端に現れた年老いた男との通信が始まっていた。
「『警察か・・・おそらくは単なる嫌がらせだよ。大戦中はほとんどの事件を公安担当にしてきたからな、力をつけてきて反撃・・・といったところだ。』」
年老いた男はかぶりを振った
「(めんどくせ・・・まだ縄張り争いなんかしてのか警察は・・・。)」
「『大丈夫だ。こちらから圧力をかければすぐにしっぽをみせる』」
そういって男はしわの多いその顔にニヤリとした笑みをうかべる。
「『警察には知り合いが多くてな、多少の融通なら利くだろう』」
「(わかった。よろしく頼む)」
中川は通信をきり、またもぼんやりと土をいじりだした。
「裕二、調査始めるよ」
「もうやってるよ」
優煤はそんな態度に「かわいくな〜」と言いながら自分も地面にはいつくばりだした。

・・・
・・・・・・どれだけたっただろうか?
・・・・・・・・・そろそろ時間の感覚がなくなってきていた。暗闇は人間の第六感はよく働かせるが、ほかのすべての感覚は遮断してしまうようだ。
「もう何もないと思うぞ、警察がもう全部もっていちまった」
軍曹はライトを持つのがおっくうになって、そうつぶやいた。
「私たちが向かう現場はたいていそんなもんですから。」
「・・・全部調べつくされた後を調べるってのか?ごくろうなこったな」
「まったくだよ・・・ミサイルはどんなのが打ち込まれたんだ?」
「はっきりとしたことはわからないが・・・おそらくアパッチタイプに搭載されていた対地ミサイルだろう。」
「なるほど・・・」
その情報はあまり役立ちそうに無い、と中川は判断した。ついでにあくびもする。
「・・・そろそろいいんじゃない?裕二。もうなんにもないよ、ここには」
優煤が立ち上がっておしりについた土をはらった。ついでにすすも。中川はその言葉にのんびりと
「・・・ん」
といって同じように立ち上がりすすをはらう。
「よかった。いい加減光が恋しくなってきていてな、ここまで年をとると日の目を拝めるのも残り少ないからな」
「・・・あはは・・・」
軍曹が放ったシュールなギャグを優煤は薄く笑ってながした。あきらかにあまり深く突っ込むとやばそうである。
「よし、いこう。早く光がみたい」
軍曹はそんな優煤の態度には気づかず、ライトをもってさっさと出口へ向かっていった。
それに優煤はあわててついていきながら
「裕二、いくよ」
と声をかけた。
「ああ・・・」
裕二は一言返事をしてのんびりと歩き出した。

・・・無駄足だったな

と彼は少し名残惜しそうに今調べていた場所を振り返った。
「ん?」
なにか・・・光ってる・・・?
そこには光がなくなったがために判断できるようなわずかな光が漏れていた。
中川が足でその地面を軽く掘ると、銀色のアクセサリーがでてきた。
「・・・なんだこりゃ」
それは銀色の弾丸のような、ちいさな筒状のものだった。首にかけるためのチェーンがついていて、さらにそのチェーンには、ドッグタグがおまけのようについていた。
そしてそこに書かれているのは

「・・・『用瀬』・・・『善児』・・・?」

「ちょっと!裕二!早く来なさいよ!」
「あ、ああ!」
彼はそれをポケットに突っ込み、小走りに走り出した。
そして途中で一度暗闇に足を取られてずっこけていた。



最後にはだれもとくことができないほど複雑に絡み合う『それ』は今、
最初の絡み合いができていた。
『それ』に意識など無い。
もとより生きるものに『それ』は『運命』という複雑なものを預けるのだ


昨日から続いていた霧も、朝にはもう太陽の光によってきれいに空へと消えてなくなっていた。からりと晴れた晴天の街の、申し訳程度に植えられた木。その木からから静かに流れるしずくのみが、昨日の悪天候を表している。
街は平日ということもあり人通りも少ないが、それでも人口の多い東京だけあって人を見なくなるということは無い。そしてそんな人口過多なところでは、おおやけに仕事が出来ないやつらが集まる。というのが何世紀も前からつづくローカルルールだった。
「(・・・というわけです本部。結局なにも手がかりになるようなものはありませんでした)」
優煤は脳内通信で公安課本部へ連絡を入れていた。
「『そうか・・・大胆な事件だからな。証拠も結構残っていると思ったんだが』」
「(私もそう思っていましたが逆に建物の損傷がひどくて調べようがありませんでした。)」
その会話に裕二が介入する
「(ついでに目撃者はゼロ。事件当時いた職員、警備員も全員爆発で死亡したらしくて・・・ていうかほとんど研究員は休みで、やすんだ職員にも話を聞いたが何も出なかった)」
「『なるほど・・・結局無駄足だった。ということか』」
本部統括課長、山川幸平少佐はその、深いしわが刻まれた顔を難しい顔にして、しわくちゃの顔にする。親指を眉間に当てて少し考えているようだった。
「(いや、無駄足ってわけでもなかった。)」
「『何かわかったかね?』」
「(そう聞かれるとはっきり答えにくいんだけど。あそこの元職員の軍曹の話ではあの研究所・・・『DL計画』に参加していたらしい)」
「あ」
優煤が小さく声を上げた。通信で出した声ではない。現実に声として『言った』のだ
「どうした?」
裕二が同じく通信抜きで話しかける。
「・・・ううん、別に」
「『ほう・・・今回は裕二の方が一枚上手だったようだな?優煤?』」
「(・・・そうですね)」
優煤はその見当違いな言葉に当たりさわりの返事を返した。彼女なりには違う意図(というには無意識すぎるが)をもって発した「あ」だったが、特に指摘はしなかった。
「『DL計画について知っているか・・・一般人に知っているものが居るのは少々おどろきだな』」
「(だろ?)」
現在DLが日本に存在していることを知っている者は少ない。DLについての報道すべてに政府内で話題になった当時、報道規制が入っていたからだ。だがそれ以上にマスメディアが新聞や、IT情報のような活字に頼られ、放送系のニュースなどは一局のみ(しかも政府の息がかかった国営放送)というお粗末な状態になったがため『知ろうとすればわかるが、知識に渇望が無いものには何も知りえない』という状態になってしまったのが要因としては大きい。
「『それが関係してると思うか?』」
「(・・・つまり『DL計画に何らかの関連があってテロを起こした』ということですか?)」
優煤の疑問系の言葉に山川は
「『そうだ』」
と肯定の返事をする。
「(なんともいえないけど、どっちにしろそれしかないんじゃないの?俺たちに出来ることって)」
「『・・・そうだな。』」
山川はしばらくの間黙る。眉間に親指を置くのは彼の癖らしい。そしてその癖が出たとき、彼はしばらく口は開かない。
だから裕二は口を開いた

「なんかあったのか?」
裕二が通信に会話が流れないように気を使いながら・・・優煤にはなしかけた。
「え?」
優煤はとっさのことにビクリとした
「いや、さっきなんか言ってたろ?」
「・・・ううん。別に。なんでもない」
裕二は眉間にしわを寄せて不満な顔をした。
「なんでもないってさ・・・その態度じゃ気になるきまってんだろ」
そういわれて優煤はしばらく黙る。裕二の不満そうな顔を見て、早く本部から返信が無いかと優煤は思ったが、彼女が沈黙を限界と感じる頃までに返信があることはなかった。
「・・・裕二ってさ」
少々長い沈黙の後、優煤はつぶやいた
「あ?」

「DLじゃん?」

その確かめの疑問に少し間があり
「・・・ああ。だから?」
「別に」
「アンタは人間だろ?」
「・・・うん」
「ならいいじゃねえか」
「・・・うん」
そんな投げやりな会話があったことにほんの少し優煤は・・・・

「『よし優煤、中川。爆破テロについて調査を開始しろ。全責はすべて、私がとる』」
・・・優煤は感傷に浸れなかったことに安心した。そしてそんな自分がよくわからなかった。
「(了解。)」
「(・・・了解。とりあえずコッチの『つて』を使ってみる。)」
裕二は優煤との会話はもう終わりと決めたのか、さらさらと返事をして歩き出した。
「優煤、いくぞ」
「あ、うん」
なんだか研究所にいたときと逆だな。と優煤は思った。そしてついでに自分が少しばかり混乱しているな、とも思っていた。



『出会い』-she is Evildoer-

暗い部屋だった。いや、日当たりはいい場所なのだが、この部屋に住む人間の性質上、ブラインドが降りているのだ。
そこは小さなオフィスのような場所だった。シックな椅子と机が一ずつあり、その机の上には書類が散乱している。

そしてその書類の束に影を落とす男がいた

「すみません・・・自分の責任です」
随分と体の大きいその黒人風の男は、この部屋に暗い影を充満させている、ブラインドの前に立つ人間に頭を下げ続けていた。
「・・・別にいい。」
「・・・しかし同士の弟を、むざむざただのトラップなどに殺されるなんて・・・」
「・・・弟のことは、もういい。居なくなった者ついて語ることは悲しみのように無意味なものでしかない。」
男は黙った。このレジスタンスのリーダーである同士にとがめられては、それを無理に押し返して謝っとしても本当にもう無意味だと感じたからだ。
「・・・それよりも彼に渡してあった『モノ』は回収してきたか?」
「それが・・・トラップはガスであったため、回収することが出来ませんでした・・・本当に・・・」
男がさらに深く頭を下げる。
暗い沈黙がつづいた


「・・・DLか・・・」
「え?」
「我々が生まれてくることは人間たちにとってはいい事でしかなかったろう。なにせ・・・働き手がいくらでもできる、戦争はマスゲームのようにいくらでもできる、子供の心配はない、無理してヤリあうことも必要ない」
「・・・」
「だがDLにとってはどうだ?結局我々にはなにがのこっている?・・・データという永遠の服従手錠がかけられた我々には、なにも残ってはいない。人間に対する服従でしか生きのこるすべは無い。」
「…しかし俺たちは集まりました。同士、『構想主』のもとに」
構想主と呼ばれた人間はすこしうなづいた
「…そうだな。我々はその呪縛からとかれたのだ。・・・だが、まだたりない。まだ、本当の自由を手に入れてはいない・・・」
「本当の…自由?」
構想主はかぶりをふる。こうべをたれ、それこそ世界の終わりのように。
「その自由を手に入れるためのものを、弟には預けてあった」
「!」
「いや、いいんだ。『死』というものは誰にも等しくおとずれる・・・それに気づかず、行かせた私がいけなかったのだ・・・」
そこで頭を下げていた男がガバっと顔を上げ、さけんだ
「構想主!違います!それは――――」
構想主は彼の言葉を手で制した。そして静かに話しかける。
「もういい。責めるのはやめよう。それが自分であれ、他人であれ。・・・結局は無意味なものとなる・・・」
「構想主・・・」
男は構想主を尊敬と、信仰の対象の表情で見上げた。その顔を表現するのは難しく・・・強いてあげるなら、神の光臨を見届けた表情だった。
「・・・一つだけ頼みたいことがある」
構想主は少し困ったようにつぶやいた。
それを聞いた男は身を乗り出して言う
「なんです。構想主・・・俺たちはあなたのためなら・・・なんだってします!」
構想主は「ならば」といって・・・振り向いた。
「・・・『モノ』を手に入れてくれ。あれは丈夫だ。きっと爆発でも壊れることは無いだろう。発信機も取り付けてある。そちらの方は爆発で多少壊れたかもしれないが・・・」
「・・・まかせてください。命に代えても・・・持ってきます!」
男はバッ!と礼をすると、急いで外に出ようと大またでドアに向かっていった
「・・・ああ、もうひとつ頼みたい」
「はっ。なんでしょうかっ」
「無駄に死ぬな・・・自由を手に入れてからもそれは遅くはないのだから」
「・・・!!・・・・・・わかりました!」
男は威勢よく出ていった。彼の頭にはそう、任務まっとうという言葉しか浮かんでないのだろう。


・・・そして彼が出て行った後、一人残された『構想主』は

「・・・・・・『善児』・・・お前も死んだのか」

一人つぶやいた。




『幕間』-after noon-

シックな車が岸辺の道を、日の光を浴びてのんびりと走っていた。
そろそろ昼になる時間だ。暖かな日の光が車内にまで流れ込み、その男は日の光と共に空に飛びあがった…そして蝋で固めたイカロスの翼はその温かい日の光によって少しづつ少しづつ溶けていき…

ガクガク
ああ、翼がなくなったよ。

ガクガク
俺は落ちてしまう…


…………ゴッ


「…寝ようとしてない?」
痛む頭をさすりながら起き上がると、優煤が下から覗き込んでいた。
「…………俺、空飛んで無かったよな?」
裕二はかなりとんちんかんな事を、…彼にとってはとても重要なことを聞いた。
「…気をつけないとあたしまで空飛ぶことになるから…なるべく分けわかんないこと言わないでね…」
優煤はそう言うとかなり不安そうな顔をして助手席に倒れこむように座った。
「ああ…わり、結構気持ちよくてさ…お昼っていいなあ…」
「もう…お願いだから事故起こさないでよ…あ〜心配になってきた…」
そう言いながらも優煤自身も少し眠そうだった。うとうとした目を裕二に向けている。
…どうやらさっきの、少し困ったような様子も消えたようだった。
海辺は『ヒト』の心を穏やかにする。自分の考えは当たったようだ。
裕二は少し安心した。


裕二たちはテロの調査のために岸辺の家に向かっていた。例の『つて』に会いに行くためだ。彼らの『最後の砦』的なその情報源は、少々気難しい事でその手の人間達には有名だった。
裕二たちの乗る車の走る、道路の向こう側の海もその情報源の趣味の一つだった。
コバルトブルーの美しい海が広がっていて、その水面はやわらかく射す光をキラキラと反射させていた。波はほとんど立っておらず、潮風がわずかに吹くそよ風に乗って、優煤の髪をゆらし、あの独特の香りを車内に広げる…

…そうして、うたたねしそうな優煤を見て、裕二は小声でゴメンと笑って頭をさすった。


……………そして、違和感。

…なぜさすらなければいけない?

優煤は窓の外の景色を軽く微笑みながら「あたしも寝ちゃうかもしんない」とあくびを手で隠しながら目をつぶった。
その手にスパナを持って。
「…お前………それで殴ったのか?」
「え?」
「それで殴ったのか?」
「…それって?」
「優煤が今持ってるもの」
「…………」
「オイ」
「…………」
「オイ」
「…………」
「なんで今かくした?」
…車は、走る。



岸辺にある、その名をあらわすかのごとく黒い壁、屋根で統一されその喫茶店は、夕暮れの景色が美しいことでも有名だった。客がドアを開けると、まずは外と一線を画すシックな淡い色の木を主調とした店内に驚く。そしてその店のマスターの勧めで座った窓際の席から見る景色にまた、息を詰まらせるのだ。
客はそのマスターに問う。『なぜこれほど美しい景色が見れることを売りにしないのか?』
そしてマスターは何度となく繰り返されたその質問に、用意されたその言葉を何の気なしに口に出すのだ
『他に売りになるものが、たくさん…ありますから』

岸辺にある喫茶店は『Mr.スケアクロウ』という趣味がいいのか、それとも悪いのかよくわからない名を、自らの主から与えられた。ついでに近所の子供などからも『お化け屋敷』というとっても趣のある名も与えられてていたが。

そして主の名もたくさんある。『マスター』『Mr.』『スケアクロウさん』『主』…
彼はそのように親しまれている自分が嫌いではなく、またこの店も、この店に来て驚く『一般の』も嫌いではなかった。

彼は今、景色を堪能して帰っていった客に静かに礼をした。

マスターはしばらくして、帰っていった客の飲み終わったカップをカウンターまで運び、洗い出した。
その手つきは非常に細やかであり、音は一切立てない。ただ、海のさざなみが控えめにBGMの代わりに流れていた。
静かなときが流れる…


彼がこの店を出したのに理由は無い。
ただ、彼としては客が来ることが唯一の理由だともいえないでもないと考えている。
彼の本当の名を知るものは少ない。
ただ、彼はたくさんの名を有していたから、特にそれには気をとめてはいない。

…たったひとつ、彼が一番嫌がる名以外は

その名は彼の考えるこの喫茶店のイメージに合わず、かつ無粋であり、優雅さのかけらも無い。その名は彼の店ではタブーであった。想像しただけで彼のカップを拭く手に力が入る。

………落ち着こう。
考えすぎた。たかが名前ぐらいで興奮しすぎだな。と彼はゆっくりと拭いたカップをそばにあったカップ入れに入れた。
さあ、お客様を迎え入れなくては。この店を楽しみにして来てくださるお客様を最高の礼儀で出迎えるのだ。
…ほら、もうお客様が入り口の前に来ているぞ。さあ、挨拶だ。私。
この場合の最高の挨拶は…そう、『いらっしゃいませ』だ
客の入ってくるタイミングを読み取り、ぴったりのタイミングで
「いらっ――――」



「店長、いる?」



少年のような男が入り口をあけて入ってきた。
「…………………………………………………………………………しゃい。」
いや、彼も一店主である。
まさか少し嫌な名で呼ばれてムカついたくらいで客に対してキレたりしない。まさかな。まさか。

ここはなんたって最高の景色と、最高のコーヒー
そして

最高の情報を提供する場所『砦の情報源』なのだから。



『網走』-the network-



「………何がほしい」
マスターは久しぶりに会った裕二に挨拶すらせずに言った。それは彼にしてはとても珍しいことだったが、
「そうそう、話が早くていいねえ」
原因は気づかない。
「先日の爆破テロ事件、覚えてますか?研究所を高圧爆弾で爆破した………」
「……それは………一般のマスメディアに流れた………情報だな。………実際には………アパッチヘリの………対地ミサイルをうけたと………聞いている」
ここにはじめてくる優煤は少々面食らう。優煤の軽いカマにもマスターは完璧な形でぼそぼすと答えた。その顔には別段誇るような顔はなく、それこそ常識であるような顔をしていた。
「さすが情報通………それに関係した話で何か知らないか?」
マスターは少し黙ってからつぶやいた。
「………何か、注文を」
「……………………え?あ、ああ」
一瞬何を言っているのかわからなかった優煤は、あわててメニューを見た。
「うわわぁ……」
そしてその中にあるメニューの量におどろいた。メニューは大きさがA4サイズでそれが三ページほどのものだったが、その中にはびっしりと、最近では珍しい手書きの文字が書かれており一目でいくらのメニューがあるのかわからないほどだった。
「俺、ツナトーストとホット」
それであるにもかかわらず裕二は別にメニューを見たりせずに注文した。その様子をみると常連らしい。
「………お嬢さんは」
「あたしは………えっと………レモンティー、ください」
とりあえずどこにでもありそうな商品を適当に頼んでみる。
マスターはぺこりと頭を下げて料理に取り掛かった。……どうやらあるらしい。
随分手馴れた様子でカップとトーストを用意し始めた。

「…ここに来るハッカー……クラッカーから聞いた情報………というのは…あまり……無い」
マスターは話しながら五枚切りのトーストを半分に切ってその間にツナ…缶入りの安物なんかではなく、地元の漁師から譲り受けた自家製のものだ…にマヨネーズを混ぜたものをはさむ。
「…聞いた情報…によると…襲撃したその日は……気象庁と自衛隊の連絡ミスによってパージ型の……空気圧調節ナノマシン……が散布された…ために……局部的なデータ移行障害が………起き、それによって…レーダー関連に支障が…出ていた………らしい」
色どりのためにパセリをさらに盛って、パンに申し訳程度のレタスを挟み込む。
「………どういうこと?」
「気象庁保有の爆発して拡散されるタイプのナノマシンがあって、それが気圧調整をして霧とかの発生を抑止するわけだ。
ただしそれは霧が発生する前に散布しないと意味が無い。だから大抵急いでに散布される。
んで、そのナノマシンは散布されるとレーダーに影響を起こす。機影がたくさんあるようにレーダー映っちまう。自衛隊はそれを警戒して霧がでると気象庁と事前に連絡をとりあって対策をたてるんだが、今回はそれをミスってレーダーが効かない状態になった。」
優煤の疑問に、いっぺんにまくりたてた裕二は「のど渇いた〜」と少しカウンターにつぶれた。
………よくわからなかったがとりあえずレーダーは利かなかったらしい。まぁわからなくても気にしないでおこう。もともと自分はそういう役割ではない。
「そこに…襲撃したグループが現れ…る。羽田空港…に在駐していた軍用ヘリ……を自衛隊本部と気象庁の混乱に乗じて…パイロットごと………強奪。このヘリは……もともと…レーダー異常対策のため…に…自衛隊が…急いで用意……したものであり……緊急出動のため…に認証もされて……いなかった…。……そのため…に誰もその……異常に気づかなかっ………た」
コーヒーの豆を自分で挽き、最高のあら挽き具合のところでコーヒーの抽出にかけた。荒すぎず、細かすぎない。ここが長年のカンというやつだ。
「……レーダーも利かない……濃霧のため……視認も出来ない、そのために……48分間もの間………ヘリはだれにも…気づかれずに飛びつづけていたことが…わかっている。………その間に襲撃したことも」
紅茶の葉を取り出し、直接カップの中に入れた。その上にさらにパックに包まれた紅茶をいれてお湯を注ぐ。………この店独特のやり方だ。
「自衛隊もずさんな管理体制だな………緊急出動って『どの機体でもいいから一番早く出た機体に作戦指揮権を与える』ってやつだろ?こうゆうことが起こっても文句言えんだろうな」
マスターは裕二の言葉にうなずきながらさらに口を開く。
「………襲撃したグループは……手口から………『報復の概念』というグループと…判明……したらしい」
その無責任な言い方に優煤が口をはさむ。
「『らしい』……というのは?」

ちん

音と共にトースターが開いた。そこからマスターはツナオトーストを取り出していろどりをしてあった皿に盛り付けた。
「………テロを起こしたのにもかかわらず………犯行声明を……出しては…いない……その点から言ってもこの事件は……あやふやだ」
「あやふや?」
優煤がその身を乗り出して更なる疑問を口に出す。明らかにその言葉には変革性がある、といわんばかりの攻勢に
「………」
マスターはカップを無言で差し出した
「え?」
「……レモンティー………です」
「あぁ………ありがとうございます」
その軽く湯気をあげる紅茶を会話の合間程度に口にした。そして更なる質問をぶつけようとし
「………!おいしい……!」
その味に驚嘆した。その優煤にマスターは特にうれしそうな顔もせずに頭を下げた。
「…あの……とってもおいしいです、あぁーどうやって表現すればいいんだろ……?…これ、なんていう紅茶なんですか」
優煤は『心ここにあらず』の表情でマスターに聞いた。マスターはまた頭を下げて
「きっと……よくわからないというのが………おいしいのですよ」
それこそよくわからないことを言った。
「おいおい…店長、常連の俺は後回しかよ」
裕二が笑いながら苦言をいって注文をせかす。
と、
その瞬間マスターの手が止まったが、それは瞬間的なことで二人はまったく気づかなかった。
「‥…………………………………………………………どうぞ」
マスターは多少不自然な動作で裕二にコーヒー差し出した。その横にツナトーストも。
「ここにくるときはこれが楽しみで……」
裕二はそう言いながら薄く焦げ目のついたトーストにかじりついた。


「……あ、そうだ。それでなんで『あやふや』なんですか?」
しばらく紅茶に心を奪われて沈黙し、危なく本題を忘れるところだった優煤は少しハッとしてマスターにたずねた。
マスターはゆっくりとそしてぼそぼそとそれに答える
「……テロを起こしたにも関わらず………犯行声明をださない……それはテロを起こしたことに………意味が無いことを………表すことになる」
「意味が無い……?」
「テロとはテログループにとっていわば………『自己表現の絵画』の………ようなものだ………当然絵画には………作者の名前………が無ければ誰がそれを書いたのか………わからないし、その………『自己表現』が何なのか………常人にははかりかねる……」
「………あ、そうか。つまりテロを起こした『理由』を説明しないといけないのにそれがでていないということですか?」
マスターは無言でコクリ、とうなずいた。もとより彼は聞かれたことにだけ反応する。
そこに裕二が割って入った。
「……テロ自体に意味が無いと捕らえるなら、このテロ事件には別の目的があると考えるのが妥当か?」
「だが……そう思わせる狙い………もあるかもしれない……」
「それ自体がトラップ?」
「そう?わりに合わない気がするけどなぁ……」
マスターは少し考えるように頭にてをおいてから口を開く
「……あれだけ大きな事をやってのけたにも………かかわらず犯行声明を………出さないほうが……不自然だ……」
「いや、出してないのはもしかしたら『出せない』のかもしれない。出したら『何か』に明確に狙われる……とかな」
裕二がコーヒーにミルクを入れながら言った。
「でも他のテログループとかだって、『明確に』あたしたち公安から狙われてるのを承知で声明をだすわけでしょ?おかしくない?」
「だったら……『公安』じゃない『何か』だったら?」
「……つまり『狙われる』というよりは『知られる』だけでまずい状況にさらす『なにか』がいるっていうこと?」
裕二は砂糖を取り出した
「そうだ」
ゆっくりとコーヒーを飲む。
「テログループに敵がいるみたいな言い方だね」
「もしかしたらの話だ」
ゆっくりと置いたコーヒーは、静かに波紋を立てていた。



2005/02/13(Sun)12:34:12 公開 / 貴志川
■この作品の著作権は貴志川さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうでしょうか?微妙な感じですね……戦闘シーンがないので飽きるかも…でもまだまだこれから!!ついてきてくださいm(__)mできるだけわかりやすく書いているつもりですが……『意味不明〜〜』ってとこがあったら指摘お願いします。
更なる辛口意見、お待ちしています。
羽堕さん、ゅぇさん、lizさんいつもレスありがとうございます。いつも感謝してます。
夢幻花 彩さん、読んでいただきありがとうございます。このような駄文を見て感想を書いていただけるとは…ありがたいです。


そして書き込みしてくださった皆様、遅れるかもしれませんが、お礼と共に返信させていただきます。なるべく早い更新頑張ります!
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