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『世界中で一人きり』 作者:神夜 / 未分類 未分類
全角5579.5文字
容量11159 bytes
原稿用紙約16.5枚





     「世界中で一人きり」



 この町は馬鹿みたいに田舎で。
 町中が親戚同然の付き合いで。
 隣同士なんてのは家族と同じで。
 だからこそ、信じられなかった。いや、信じたくはなかったのだ。
 家が隣同士だったから小さな頃からずっと一緒にいて、もう一つの家族のような存在だったはずの彼女の家が引っ越すと聞いたとき、誰よりも信じられなくて、誰よりも怒った。だけど、中学三年のガキが何を言ったところで大人の事情が変わるはずもなく、彼女の家は当たり前の如く引っ越すことになる。それでもどうしても納得できなくて、最後のわがままを挙げた。
 ――里奈(りな)と別れるときは、二人きりがいい。
 子供のような提案だったと思う。それでも彼女の両親は受け入れてくれた。引っ越しの日を彼女だけ一日ズラして、見送りを自分一人だけと決めた。
 最後の、わがままだった。

     ◎

 夏休みのちょうど真ん中の日の早朝、僕は自転車を力の限り漕ぐ。
 中学に入学したときに買ってもらったはずのその自転車はなぜかもう錆び付いてしまっていて、車輪が回る事に耳障りな悲鳴を上げる。それでも自転車は確実に進み出していて、着実に前へ前へと進んで行く。しかしそのスピードがあまりに遅い。驚くほど遅い。理由はカゴの中に馬鹿でかく重たい鞄が入っているからかもしれないし、上り坂だからかもしれないし、もしかしたら後ろの荷台に里奈を乗せているからかもしれない。いや、たぶん全部だろう。そもそもこんな大荷物を自転車に乗せること自体が間違いなのだ。それに上り坂なんだから里奈も降りてくれればいいのに。
 さっきからそんなようなことを言ってみても、里奈は決まってこう言うのだ。
「うるさいな。浩介があたしを送るって言ったんだから黙って自転車を漕ぐの」
 選択を誤ったのかもしれない。一時の感情に任せて里奈を送ると言った自分の考えを少しだけ呪う。
 自転車を漕ぐ度に荒い呼吸が静寂の朝に響き渡る。線路沿いの上り坂は緩いくせに驚くほど長くて、一人でも必死になるのにそれが二人乗りだなんて拷問に他ならないような気がする。しかしそれでも僕は全身の力を足に込めて明け方の駅へと自転車を進め続ける。そんな僕の後ろでは楽しそうな声で「もうちょっとだ、あと少しだ、それ行け浩介、こら休むな、コケたら怒るからね」という里奈からの命令が飛び交う。うるさいっつーの、と悪態をつきながらも仕方が無くそれに従う。
 この上り坂は線路以外は何もないような場所で、見晴らしが良かった。時刻はまだ朝の五時半くらいだろうか。夏なだけあってその時間にはもう辺りは明るくなっていて、そしてそんな時間からもう始発の電車が動いている駅が少しだけ恨めしい。田舎のくせにそんな早くから動くことないじゃないか、とも思わなくはないのだが、そもそもそんな時間に出る始発に乗ろうとする僕等も僕等だと思う。けど、それにはちゃんとした理由がある。里奈と別れるときは二人きりがいいという提案の下の考えだ。田舎の、しかも夏休みの始発の電車ともなれば乗る人間などまずいまい。そうなれば別れるときは本当の二人きりだ。駅長などはいるだろうがその辺りはもう黙認で行くしか道は無い。とまあそんな理由で、こんな朝方からニケツで駅を目指しているのだった。
 後ろに乗っている里奈から伝わるぬくもりが、なぜか無性に嬉しくて、同時に悲しかった。今までは当たり前のように一緒にいたはずの里奈が遠くに行ってしまうこの感覚が、どうしようもなく恐い。本当ならこのまま里奈を連れてどこかに逃げ出したいような気もするが、それはできないことだった。それにもし逃げ出したとしも、結局は何もできずに戻って来てしまうのだから。自分はまだ、ガキに他ならないのだから。
 頭の中に渦巻くもやもやした気持ちを振り切って、ペダルを漕ぐ足にさらに力を込めた。やっとのことで坂を上り切り、平坦な道に出た瞬間に、僕と里奈は同時に言葉を失った。目の前に見えるこの光景が、驚くほど綺麗だった。僕と里奈を迎えてくれたのは、まるで異次元に連れて行ってくれるような美しい朝焼け。この季節のこの時間のこの町が、こんなに綺麗だということを初めて知った。
 どこかで小鳥が鳴いていて、それに合わせるかのように里奈は僕の後ろで笑った。
「……本当に二人きりだね……」
 そうかもしれない、と半ば本気で思った。
 今のこの瞬間だけは、世界中に僕と里奈しかいないのではないかと本気で思った。
 里奈を振り返れなかった。振り返って里奈の笑顔を見たら、泣き出しそうだった。別れまであと数十分も無いはずである。その間だけは、笑顔でいようと決めていた。里奈の前では絶対に泣かないと決めていた。最後の最後で、格好悪いところなんて見られたくはないから。
 嬉しそうに笑い続ける里奈を乗せたまま、僕は自転車を駅の目の前に停める。この駅は無人駅だ。ここから三つ目の駅までは全部無人である。しかし三つ目からは大きな町に出るので人がたくさんいる。そこから先がどうなっているのかはよく知らない。そもそも僕自身、三つ目より先の駅には行ったことがないのである。そこよりもっと先の駅から辿り着く町なんてどんなものなのかは想像もつかないし、だから、一番端の一番高い切符が行く町なんて未知の世界に他ならない。
 里奈は、その未知の世界に旅立とうとしているのだ。中学生の自分にとって、線路の一番向こう側なんて距離はほとんど永遠と変わらないような気がする。
 里奈とはもう、会えないのかもしれなかった。
 自転車のカゴから大きな鞄を引っ張り出し、肩に掛けて里奈は歩き出す。その後を僕はゆっくりと追う。一番端の一番高い切符を買う里奈の少し後ろで僕はその背中を見つめていた。切符を買って里奈が改札を抜けようとしたときに鞄の紐が引っ掛かった。その拍子にコケそうになったが何とか踏み止まり、引っ掛かった紐を外そうと引っ張るがビクともしない。膨れっ面になりながら里奈は僕を見た。僕は僅かに視線を外しながら肯いて、引っ掛かっている紐をゆっくりと外してやった。
 駅のホームにあるベンチに二人並んで座り込み、時計と時刻表を照らし合わせてみる。電車は、あと五分足らずでこの駅に辿り着く。その五分が、里奈と過ごす最後の時間だった。
 ホームからはもう朝焼けは見えなくなってしまったが、町はまだ静まり返っていた。辺りを包み込む静けさに身を任せながら、何か話した方がいいのだろう、とは思うものの、結局は何も言えないまま時間だけが過ぎていく。何か言わなければと思うほど何も浮かんでこない。情けなさ過ぎて死にたくなった。隣にいるはずの里奈の顔さえ見られない。こんなことでは里奈と別れるときは二人きりがいいと言った意味がないではないか。何でもいいから言え、何でもいいから。
 呂律が巧く回らなかった。
「あ、あの、さ、里……」
 突然に里奈の人差し指が僕の目の前に突き出される。
 里奈は笑っていた。
「ここで問題。今、あたしは何を考えているでしょう?」
「――は?」
「番号で答えて。
 @お腹減った。
 A今日の晩御飯は何だろう。
 B新しい学校はどんなトコだろう」
「あの、里奈?」
「はい、早く答える」
 里奈がズイっと身を乗り出し、真剣に見つめてくる。
 どうしようもなくなって、結局は何も考えないまま適当に「@」と答えた。
 瞬間に里奈に叩かれた。何で殴るんだよ、と抗議すれば、珍しく里奈は本気で怒ったような顔をして言う。
「あのね浩介。幼馴染の男の子と別れる五分前に『お腹減った』なんて思う女の子いると思うの?」
 いるじゃんここに、とは言えなかった。何だか癪な気分になって、「じゃあ答えは何だよ?」と訊けば、里奈は笑う。
「答えはC」
「C? そんなの選択肢に無かったじゃん」
「甘いよ明智くん。そんなことでは名探偵にはなれないね」
「何か混ざってない?」
「うるさいツッコミはいらないの」
「……まあいいや。で、そのCの答えは?」
 里奈の視線がゆっくりと外れる。
 空に昇り始めた朝日を目を細めて眺めながら、里奈はこう言った。
「んー……。浩介と、もう会えないのかな、って」
「……え?」
 だってさ、と里奈は続ける。
「今さ、あたしが持ってるこの切符。駅で一番高いヤツだよ? こんな切符今まで買ったことなんてないし、そもそもこの切符で行ける町なんてあたしは当たり前のように知らない。どんな場所なのかも行ったことがないんだしさ、中学のあたしたちじゃ行こうと思ってもそんな簡単に行ける距離じゃないじゃん。……本音言っちゃうとね、すっごく恐いんだ。知らない町なんて行きたくない、この町にずっといたかった。……でもやっぱり、わがまま、なんだよね、それって……」
 何言ってんだよお前、会おうと思えばすぐ会えるじゃん、だって切符買えばそこまで行けるんだぜ。とでも言って笑い飛ばしてやればよかったのかもしれない。
 だけどいつまでも経っても、言葉は出てこなかった。喉のどこかに引っ掛かっているんじゃない。そんなたった一言を、言ってやれるだけの勇気が無かった。根性ナシだった。無責任な言葉でも掛けてやればよかったのだ。それで里奈を安心させることができるのならそうするべきだったのだ。それなのに、会える、というその一言が最後まで言えなかった。情けなさ過ぎて、本当に死にたくなった。
 ホームにアナウンスが響く。二人揃って視線を向けたそこに、ゆっくりと眠たそうに電車がやってくる。やがて線路を飲み込むようにホームに滑り込み、里奈の前で停止してドアが開いた。
 鞄を肩に掛け直し、里奈は立ち上がる。
「じゃあね、浩介。またいつか、会おう。さらばだ友よ」
 そんな軽い台詞を残して、里奈がその一歩を踏み出す。
 今まで里奈が歩んで来た何万歩より距離がある、大きな一歩だった。ホームから電車の車内へと里奈の体が入る。
「――里奈」
 自分でも、何を言いたかったのかわからなかった。ただそれでも、ここで呼び止めなければ一生後悔すると思った。
 里奈は振り返らなかった。細く綺麗な腕を突き上げて、里奈は言う。
「浩介! 今まで黙ってたけどさ、あたし――」
 その最後の言葉を掻き消すようにベルが鳴り響き、すべてを閉ざすように電車のドアが閉まった。
 里奈の体がドアに凭れかかる。ゆっくりと俯く里奈の姿を見て、胸の中の何かが弾けた。
 ドアに両手を付いて、向こう側の里奈に聞こえるように叫んだ。
「――会えるからさっ!! 絶対に会えるからっ!! 約束だっ!! いつの日か、必ず会おうっ!!」
 里奈は、最後まで振り返らなかった。
 里奈を乗せた電車がゆっくりと動き出す。それに会わせて歩を進め、会えるから、と叫び続けた。
 ホームを抜けた電車に背を向けて全力で走り出す。ホームを抜けて改札を飛び越え、駅の目の前に置いてある自転車に跨って力の限りペダルを漕いで上って来た下り坂を風のように下る。ハンドルを握る手に力が篭る。今ここで、里奈に言わなくてはならない。間違いじゃないだろう。だって、里奈は、さっき――
 追いつけと体中に言い聞かせてペダルを漕ぎ続けた。静寂の中に響く電車の車輪の音と自転車の車輪の音。錆び付いた自転車の車輪の悲鳴がピークに達したとき、ゆっくりと進む電車と精一杯並んだ。視線を一瞬だけ彷徨わせ、まだドアに凭れかかっている里奈を視界に捕らえる。息が続かないがそれでも声を絞り出し、またしても叫び続ける。何と叫んでいるのかは、自分でもよくわからなかった。ただ、叫び続けていた。
 心の中で思う。言いたいことがあるんだ。この十五年間、ずっと一緒にいたけど一度も言わなかったことあがる。たぶんさ、さっきの里奈と一緒のことを言おうとしていると思うんだ。振り返らなくていい。わかってるから。顔を見なくても今の里奈がどうしているのかはわかる。何年一緒にいると思ってんだよ。里奈は今、泣いてんだろう。証拠ならあるさ。だって、さっきの里奈の声、震えてたじゃないか。里奈の声が震えるときは泣くときだ。小さな頃からずっとそうだった。少しでも震えたら里奈は泣く。たぶん、僕は里奈以上に里奈のことを知ってる。だから言いたい。里奈、僕は――
 その一言を叫ぶ前に、電車がスピードを上げて自転車との距離を開けた。叫んでも聞こえない距離に里奈は行く。どうしようもなくなって、さらにスピードを上げようとしたときにハンドルを道路に取られた。その場に派手にぶち転んで、地面を軽く転がった。痛がっている暇も無ければ体の汚れを気にしている暇も無かった。その場に一瞬で立ち上がり、小さく見える里奈に見えるように大きく手を振った。
 自分でも驚くほど涙が出た。どうして泣いているのかはわからない。コケて痛かったから、というのは言い訳でしかない。
 小さく見える里奈が、振り返った。そして、手を振った。
 互いに小さくしか見えなかった。だからこそ手を振ったのだ。

 互いに泣いていても見えない距離から、手を、振った。
 約束だ。絶対にまた、いつの日か必ず会おう。そのときに言うよ。言えなかった、この言葉を。

 視界から里奈を乗せた電車が消える。朝焼けはもう無い。町が賑わい出していた。
 カゴが少しだけ歪んだ自転車を引っ張り起こして、乾いた笑いを漏らす。
 世界中で一人きりみたいだ、と僕は泣きながら笑う。
 自転車に跨る。少し前までは馬鹿みたいに重かったはずの自転車が嘘のように軽い。
 なのに、錆び付いた車輪からは悲鳴が上がり続ける。
 それでも自転車は、残された僕を運んで行く。



 ――里奈が、好きだった。






2005/01/09(Sun)17:02:05 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さてはて、初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり、神夜ッス。
この登竜門に寄生して早約一年。十日ほど作品を投稿OR更新しなかったのは久しぶり、或いは初めてではないだろうか。この十日ほど、まったく小説を書いていなかった……。そもそも皆様の作品もあまり読んでいないという失態……。むう、怒濤のような十日だった……。
買ったゲームクリアして(これで七十時間くらい)、今まで取り貯めていた録画映像の保存形式変換及びCMカット(これで下手すりゃ六十時間)、今まで放置していたウイルスソフトの延長キー購入(ウイルスがヤバかった(笑))、酒飲んで煙草吸って風邪引いて……。ああ、アホか、自分は……。
そしてそんな日々を潜り抜け、ついに辿り着いた安泰の日々。早速小説を書き始めるべ、などと思って【セロヴァイト・リターンズ】の構想を思い返しても十日のブランクがすべてを無にする。だったらまずはリハビリから始めようってことで、取り敢えずショートを一作品。って、十日でブランクとは言わないか。
ちなみにこのショート、以前自分が書いた【永久の夢】の如く歌をモデルにして造り上げました。気づいてくれた人はいるだろうか。前回はあまり知られないコブクロの、しかもアルバムの中の曲だったのを引き換えに、今回はメジャーなBUMP OF CHICKENの【車輪の唄】をモデルにしてみたました。最近こればっかり聞いていたので(笑)
しかしそこで問題が一つ。コブクロの場合はあまり知っている人がいないので多少おかしくても問題はありませんでしたが(マテコラ)、今回は恐らくその歌のファンが多くいることでしょう。歌のイメージ、ぶっ壊してたら本当にすいません(汗;) 書き上げて初めてそのことに気づきました……。 ま、まあいいか、自分もファンだし(オイ!!)
ゲフンっ。さて、取り敢えず今日明日中に冬休みの宿題を片付け、一段落着き次第【セロヴァイト・リターンズ】の方を書き始めたいと思います。これは続編ではありますが、前作を読んでいない人にもわかるように書きますのでどうぞお気軽にお目を通しください(とか何とか言いながら書かなかったどうするつもりだ)
長くなりましたが、この作品を読んでくれてありがとうございました。感想などを頂けると感謝の極みッス。しかし最近、自分が書くショートがワンパターン化しているのは気のせいだろうか……。いや、事実だな、うん(マテコラ)
何はともあれ、読んでくれてありがとうございましたっ!!
……ふと、ショートを書いていると思うのですが、誰かと共作(合作?)などもしてみたいな、などと思う無謀な阿呆でした、と。
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