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『水葬の魚 (掌握)』 作者:結城圭仔 / 未分類 未分類
全角4529.5文字
容量9059 bytes
原稿用紙約12.7枚
 


 ぼくは魚をみるとおもいだすことがあるんだ。魚っていっても熱帯魚だとか金魚だとかそんなものだけじゃなしに、晩ごはんの焼き魚だってそうだ。とにかく魚ってものをみるとボタンを押したら落ちてくる缶ジュースみたいにストンと頭に浮かぶんだよ。そういうのってだれにだってあるだろう、それがぼくには魚なんだよ。
 本当は小さいころからずっと頭からはなれないわけじゃなくて、ある時いきなり夢にみて、それからずっと棲みついちゃっているんだよ。たまたま思い浮かんだアニメのテーマソングのサビがずっとこびりついたみたいに。そのスイッチがぼくには魚をみることなんだ。
 さかなさかなさかなってさっきからいってるいるけど、それまでのいきさつをきいてくれるかな。たぶんそんなに長い話じゃないとおもうんだ。あきたら寝ちゃってもいいよ。毛布くらいかけてやるよ。これはきっと風邪みたいにだれかにうつさないと、っていうか話さないとよくならない病気みたいなものだとおもうんだ。わかってもらえるかな。あの、嫌なら耳せんしてぼくのことみてくれてるだけでもいいんだ。その場合は笑顔を強要するけどさ。話してもいいかな。
 大学に入るといろんなバイトがあるだろう。ぼくもある新聞の世論調査だとかをやったことがある。あれはすごいよ。時給がものすごくよくて、三時のおやつの時間にはお菓子がでるんだ。その時間も時給としてちゃんとはいるんだよ。夜の九時ををすぎると二百円増しになって、一日で一万五千円以上稼げるときだってあるんだ。そのかわり朝からひどいときは夜の十一時くらいまで座りっぱなしで、受話器をもちっぱなしで、
「中国にどんなイメージをもっていますか。次の中から選んでください」だの、
「現在の首相を支持しますか、次の中から選んでください」だのをひとにきいて、いきなり説教されたり、てめぇは何様だといわれたり、無言できられたり、呪いかけられたり、丁重にきつくことわられたりってのがあって、他人様といきなりコミュニケーションをとるということがいかにむずかしいのか考えさせられたりする。一応ハガキはだしてあるらしいけど、世間はせちがらいよ。あ、話がずれた。大江健三郎が小説に書いていたの死体洗いのバイトはなかったよ。都市伝説になってるみたいだね。本当にないんだけどさ。あと医大の解剖でつかう人間のホルマリン漬けの話しってるかい。プールに死体を沈めてるんだよ、ホルマリンにつけて。で、ガスがたまって浮いていくる死体を棒でまた沈めるってバイトさ。日給がとてもいいらしいけど、夜は怖いし、においが染みついて臭いらしいよ。まあ、それも本当には無いバイトだけれども大学にはいったら一度は耳にする話だよね。ぼくはティッシュ配りだとか、居酒屋だとコンビニだとか、家庭教師だとかもやっていましたよ、ふつうに。そんなバイトのなかで忘れられないものがあって、なんていうか軟禁だったんだ。家の中に。
 ぼくと同じゼミに千沙っていう可愛い子がいたんだ。脚がスラッと長くってミニスカートがよく似合ってて、美乳でブラジャーのほうが形を矯正させてるんじゃないかってくらいなんだよ。たぶん胸の写真だけ十枚くらい並べられても千沙の美乳ならあてられるんじゃないかってくらいだよ。なんで笑うんだよ。本当だよ。顔だって可愛いんだよ、目がぱっちりしてて、まつ毛なんてきっと輪ゴムが三つくらいのるんじゃないかってくらい長いんだよ。そんな千沙がさ、
「たのむよ吉野ぉ、行ってくれよー」ていうんだよ。おもわずうなずいたよ。うなずくと美乳がみえたよ。だから笑ってくれるなよ。ぼくはほんとにそうおもってるんだから。
 ただぼくをひきとめるときなんかに肩をたたくんだけど、Tシャツくらいしか着てないぼくの肩にごっついシルバーアクセがあたるんだ。それがまた痛いんだ、ってまた話がそれた。とにかくそんなかんじでそのバイトにいくことになったんだ。
 それにしても変なバイトだ。一週間ほど泊りこみということだけが分かっていて内容はさっぱりわからない。千沙はなにもしなくてもいいといっていたけど、なにもしなくていいバイトとはいったいなんなんだ。
 いわれた日にぼくはメモどおり、マンション十三階にある家にいった。
 呼び鈴を鳴らしたらぼくより五、六歳うえらしき男がでてきて、どうぞと中へうながした。ヒゲがのびっぱなし、よれよれの紺色のトレーナーにジーンズで、素足だった。
 ひと部屋あたえられてぼくは荷物をおいてひと息ついた。彼がくれた名刺をみたら小田秀和と書いてあった。会社名は片仮名で、何の会社か分からない。小田さんは外出するときに玄関近くのホワイトボードに一言書く、という決まりをいったけれど他にルールはないみたいだった。
「とりあえずいればいいから」
 千沙もいっていたがそんなかんじが確かにする。やる気もなにも関係のない仕事みたいだ。
 部屋からでて、トイレだとか風呂だとか、他の部屋をみてまわった。他に十畳くらいの和室と洋室がひとつあって、ダイニングキッチンとリビングを料理ができるカウンターで仕切っていた。たぶん、小田さんはとても金持ちなんだなあ。
 カウンターのシンクに使った食器があったので気になってそれを洗っていると、ちょうど正面にベランダがあって、小田さんの背中が見えた。フローリングの床に座って、テーブルにパソコンをおいてなにやら打っていた。キーボードをたたく音がきこえた。
 ぼくは冷蔵庫をみた。冷蔵庫には磁石で紙がとめてあって、中にあるものと買った日付が書いてあった。彼女なのかと思ったら紙の下に千沙と書いてあった。他にも知らない名前が書いてあった。名前だけみていると男のほうが多いかもしれない。
 千沙で思い出したけれど、ぼくには姉と妹がいる。サンドイッチみたいに挟まれた真ん中は具だから美味しいと人にお世辞をいってもらうこともあるが、なぜか上下にこきつかわれる。発言権がない。親の愛情が希薄な気がする。そのせいかぼくは真面目で器用貧乏になったんじゃないかとおもう。というのは姉も妹も料理も洗濯もアイロンかけもしないひとたちだからだ。実際まわりがどう思っているかは別として、三人で孤島に行ったとしたら生き残る可能性の高いのはきっとぼくだな。そんなわけで、午後四時も過ぎたのでご飯でも炊くか、と。ついでにたまっていた洗濯物も洗濯機に放り込んだ。飯といっても作るのはカレーだけど。カレー、シチュー、ハヤシライスはルーをかえるだけなので、それくらいなら作れるよ。料理って炒めたり煮たり焼いたりすれば、たいていの物は食べられるよな。
「あの、晩ごはんなんですが」
「あ、勝手に食べていいから」 
 パソコンに顔を向けたまま小田さんはいった。ノートパソコンに顔を向けたまんまだったよ。なんかぼく、空気みたいだ。もしくは違う世界のひと。
「あの、カレー、食べますか」
「え、俺のもあるの」
 顔をあげた瞬間、おんなじ世界になったなあと、よくわからないけどそうおもって、ぼくはパソコンの横にカレーライスをおいた。
「おお」
 歓声なのかよくわからない声をあげて小田さんは食べた。別に家政婦のようなバイトではないんだよ。ぼくは向かいで一緒に食べた。おもえば千沙はぼくが料理するなんて知らないだろうし。小田さんは食べ終わるとごちそうさまでしたと手を合わせてまたキーをまた打ちはじめた。パソコン関係の仕事なんだろうか。たとえばウェブデザイナとか。あとはなんだろう、よくわからないなあ。きこうとおもったけどそのときにはもう、違う世界にいっちゃってて話しかけにくかったからやめた。
 僕は食べたものなんかを片付けて洗濯物を干してから部屋で寝た。大学生になってから、ありえない規則正しい就寝時間な気がしたけど、まあいいや。布団に入って目をつぶったらすぐ寝てしまった。


 変な夢をみた。
 それは7歳くらいのぼくだった。魚の水槽にポンプがなんであるのか解らなかった。魚って水の中でいきてるじゃないか。水の中にサンソってものがあるなんで知らなかったんだよ。
「魚だってサンソがないと死ぬんだよ」
 相手の顔は真っ黒でわからない。誰だっただろう。覚えていない男の声。
「水だけじゃだめなの、サンソって、なに」
「ほら、このポンプで泡をだしてるだろう」
 ぼくはそのとき魚を手にのせていた。なんでそうしたんだろう。よくわからないけれど、てのひらのうえでぬるくなってうごかなくなる魚をじぃっとみていた。
 ポチャン。
 なまくさい水槽の水が顔にはねた。力なく魚は水槽のそこに沈んでいった。他の魚は見向きもしないで泳いでいた。


 水のなかで死ぬ魚はしあわせだろうか。
 目が覚めてしまったので水でも飲もうと部屋をでた。家の中はベランダからの月の光であかるかった。月ってこんなに明るいのかっておもったよ。青白く光る家の中を見渡して、太陽とは違うもんだなあって。きっと高いところにいるから光がこんなにとどくんだろうな。そうか、孤島にいっても夜はあかるいんだなあ。ちょっと感動しながらコップに水を入れて飲んで落ちつくと、床に転がってる小田さんがみえた。寝ているみたいだ。パソコンの画面がスクリーンセイバーに変わっていて、音も無く画像は動いていた。
 突然、冷蔵庫がうなった。背筋がびくりとふるえた。冷蔵庫の音なんかこんなにくっきりはっきりときいたことなんてなかったよ。いつもうちでは誰かがいびきをかいているかんじで。そう思った瞬間、ああ、そうかとバイトの意味が分かった。
 僕は和室にいって毛布をだして、小田さんにかけた。小田さんはすぐ気がついて、座るとキーをちょっと打ってから、毛布のお礼をいった。
「ぼく、さっき夢をみて」
 キーを打ってる小田さんの横でぼくは話しだした。小田さんの反応はなかった。ただキーを打つ音だけがしている。でも全然かまわなかったんだよ。いや小田さんは多少、気にはなったのかもしれないけれど。
「魚って、酸素がないと死ぬんだなあって、思い出したんです」
 ぼくはこたえを待ってたわけじゃなかった。だたぼうっと隣に座ってた。
「パンのみに生きるにあらずですか」
「いや、そんな高尚なもんじゃなく」
 待ってもいなかった声がきこえて驚きながらことばをかえした。
「ひとだって死にますよ、反対に酸素だけあったって」
「冷蔵庫の音、」
 そこまでいって何がいいたいのか自分でもわからなくなった。その返答も、しばらくしてからようやっと、なんでか返ってきた。
「俺はきらいだ」
「そうですね、ぼくも、こんなに響くの初めてききました」
 なんだかよくわからないけれど二人で笑った。
 それ以来そのバイトをよくするようになって、ほとんど住み込みになって小田さんと正式に籍まで入れて、それで、いまではぼくも小田になったんだよ。
 なあ、あの魚のおかげなのかなあ。
今だったらお墓をたててあげるのにっておもうんだよね。だからなんで千沙はそこで笑うの。ただ馴れ初めを話しただけじゃないか。
2005/01/08(Sat)00:57:21 公開 / 結城圭仔
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