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『シリウェル――【ゲーム1話〜7話】』 作者:青いリンゴ / 未分類 未分類
全角33732.5文字
容量67465 bytes
原稿用紙約98.4枚
 〜プロローグ〜

 どこかの荒地の真ん中で悲しそうにたちつくす一人の青年その周りにはまだかわいていない血をしたたらせている死人…彼にとって人生最大の大会にして人生最大のゲームに勝ち抜いた瞬間である。
しかし、その待ち望んだ瞬間でさえも優勝するためにはらった犠牲の大きさに比べたら大したものではなかった……
 それから何時間か過ぎたとき彼は一つの事をする……二度と自分がこのような過ちをしないように一つの事をする……あるモノを封印したのだ。
 これでもう二度と自分は過ちを犯さないですむと彼は思ったであろう。確かにそうだった…確かに自分では過ちを起こさなかった。しかし、その過ちを他者が起こしたのである……



 ゲーム1「転校生」

 滝のような雨の中、竜下 和谷(りゅうもと かずや)の葬儀は行われた。死因は事故というだけで詳細は不明だった。葬儀に訪れた者たちはそのことが不思議でならなかったが遺族のことを配慮し聞かないでおいてくれた。たとえ聞いていたとしても遺族の竜下弦と恵理は答えなかっただろう、いや答えられなかったのだ。
 そして葬儀は進み和谷は焼かれ、骨になり、墓の中に埋められた。そのことを知ってか知らずか右腕の肘に四角形の中に三角形が入っているような傷がある赤ん坊が泣いた。その赤ん坊の名を竜下 武谷(りゅうもと たけや)。和谷の子供である…
 そして、それから15年の月日が流れた。


 透き通る様な空に太陽が昇り小鳥が鳴きだした。彼はまだ暖かいベッドの布団の中にいて眠っていた。
 しかし、平穏な時間は中々長続きしないもの、今日もこの平穏な時間を終わらせようと階段を上ってくる1人の人間…
 扉のドアノブが回りドアの開く音が彼の耳に届く。それでも彼は目をとじたまま布団にいっそう強くくるまる。彼女はその布団をアッサリと剥ぐと彼は身震いをした。
「さみぃ〜……――母さん鬼だな」
 彼はさぞ寒そうに腕をさすりながら、彼女の方を見ながら言った。
「おはよう武谷――でもねぇそろそろ起きないと学校に遅れるわよ?」
 彼女は自分が持っている短針が7と8の中間地点を指している時計を武谷の目の前に持っていった。
「7時か…――って7時30分じゃん!?」
 その言葉を言い終わらないうちに武谷はベッドから跳ね起き、階段を駆け下り、顔を洗い歯を磨き、朝食のトーストを口にくわえながら制服に着替え、鞄を持ち家をでた。我ながら見事な早さだと自分の腕時計を見ながら感心した。今は7時28分なんとマイナス2分で用意を済ませてしまったのだ。
ん? マイナス2分……――はめられた!

 その頃武谷の家では――恵理の時計が第2の被害者になろうとしている祖父の弦(げん)のもとにいた。
「お義祖父さん、もう10時ですよ」
 恵理が今度は短針が10を指している時計を弦に見せた。
「10時か、これまた長いこと寝てしまったのう――大変じゃ、時代劇が始まる時間ではないか」
 弦はとても老人とは思えない動きでリビングのテレビの前までいくとテレビの電源をつけた。そして、弦は目にするテレビ画面の左上に7時30分と表示されているのを……――はめられた!

 それから30分後。武谷は幼馴染の下村 堅士(しもむら けんじ)と自分の教室――3年B組の教室で他愛のない話をしていた。堅士は学年トップクラスの賢さの上に剣道は全国レベルの実力の持ち主と天から二物も三物も与えられている様な人間だ。
「しかし、ユニークだよな――お前の母さん」
 堅士は笑いながら羨ましいぞと肩を叩いてきた。
「毎朝毎朝色んな起こし方をされるこっちの身にもなってくれよ…」
 武谷は一つ大げさにため息をついてみせた。
「まぁ、退屈しないからいいんじゃないか?」
 堅士はまだ笑い続けながら極論を出した。
「……まぁ、そうだな」
 武谷は堅士の極論に反論する元気もなく、また大きく一つため息をつき首を振った。
――ガララ、教室の扉を開け少し小太りの女の先生が入ってくる。
「それじゃ席もどるわ」
 堅士はそう言うと自分の席に戻っていった。……といっても武谷の後ろの席なのだが。そして武谷は前の担任の方へ体を向けて座りなおした。
「はやく席に着いて〜、ちょっと今日は転校生の子がいますから〜」
 それを聞くと生徒は皆サッと席についた。武谷はこの先生にいつも「もう少し厳しくしてもいいんじゃないか?」と思う。実際この先生は甘すぎて生徒は授業中の私語はもちろん、居眠りも携帯もやりたい放題だった。
「はい、席に着きましたね。それでは入ってきてください」
 クラス全体が視線を扉に集中させると同時に扉がゆっくりと開く、入ってきたのはとてもきれいな銀色の髪をして、身長は武谷より顔一つ分小さい位の女の子だった。
 クラス全体が静まり返る、そして銀色の髪の女の子は教壇の所までいくと黒板にチョークでとても丁寧な文字で名前を書き始めた。
「なぁ、武谷」
 武谷の後ろの席の堅士が唐突に話しかけてきた。
「ん?何?」
 武谷はとりあえず後ろを向かずにできるだけ小さな声でなおかつ堅士に届くような声で言った。
「あの子ハーフかな? 可愛いな」
「銀色の髪してるんだからハーフじゃないか?」
 武谷が堅士に返答した次の瞬間に銀色の髪の女の子は名前を書き終えた。チョークを丁寧に担任のチョーク入れに戻し、クラス全体を見渡すようにしながら自己紹介を始めた。
「水霧 霞(みずきり かすみ)です。髪の色はこんな色をしておりますがハーフではありません。
ちなみに運動は得意です。皆さんよろしくお願いします。」
 武谷らの会話を見透かしたような自己紹介を終わらせた水霧はペコリとお辞儀をして担任に自分の席の場所を教えてもらっていた。
「おい、あの子に俺らの会話聞こえてたのかな?」
 心配そうに武谷が堅士に訊いた。
「いや、俺ら一番後ろのほうの席だし、小声だったから聞こえてないと思うぜ?たぶん、よく間違われるから念のためにいったんだろ」
 堅士はサラっとプラス思考な意見をすぐに述べた。こうやってすぐに理由をつけてプラス思考な考えを言ってくるあたり流石、学年トップクラスの賢さなんだなと武谷は思う。
「そっか、それならよかっ……」
 唐突に教壇の方から視線を感じた。武谷は視線の主を確認しようと教壇の方へ向いた。そこには先ほど自己紹介を終わらせた水霧が武谷を見つめていた。そして武谷と水霧の目が合う。すると武谷は金縛りにあったような感覚に襲われた。目を反らせない…手が動かない…足も、首も、肩も、腰も…――体が言うことをきかない。 
「どうした? 武谷」
 武谷の異変に気づいた堅士が訊いてくる。しかし、武谷にはそんな声は聞こえていなかった。武谷に聞こえているものの全て――それは水霧が近づいてくる足音だけだった……そして武谷の隣まで来るとただ一言。
「改めて宜しく。王の血をひく者よ」
 それを言うと彼女は俺の隣の開いていた席に座った。武谷は体全体から力が抜けていったのを感じた。
 ――なんなんだよ、一体…


 これが俺と彼女の初めての出会い――そして残酷なゲームの始まりの序章だった……



 ゲーム2「木箱」

 無機質な音が学校中のスピーカーから流れる、チャイムの音が鈴白学園付属校の生徒に下校時間が迫ってきているのを告げる。いつもと代わり映えのない授業を受け、いつもと代わり映えのない友達と喋りいつもと代わり映えのない終礼をして帰る。これが武谷の学校での日常だった。今日もそうなる筈だった。
 しかし、今日は違った――転校生が入ってきたのだ。それだけなら珍しくも何とも無いのだが武谷はその子に恐れに似た様なものを感じていたのだ。それが彼女の何から感じられるものなのかは武谷にも分かっていた、雰囲気…ただそれだけなのである。何故、雰囲気だけで恐れを感じるのかは武谷自身もわからなかったが一つだけ予想できる事があった。それは武谷の事を知っているという事だった――
「……もと――竜下!」
 この怒声で考え事にふけっていた武谷の思考は停止した。そして今自分が何をしているのかを思い出した。
陸上――部活である。それも、スタートラインの所で一人クラウチングスタートの構えをしていた。「竜下! 何をしてるんだ、とっくの前にスタートの合図は鳴ってるぞ?」
 その言葉を聞いた武谷はゴール地点のほうへと視線をやる。そこには100mを走り終えて息を切らせている同級生がいることに気が付く。そして、自分がふざけている様に周りから見られている事にも気が付いた。
「あ、南田先輩……ちょっと考え事してて――すいません」
 武谷を怒ったのは南田 迅(みなみだ じん)武谷の先輩であり陸上部のキャプテンである。武谷の所属している陸上部は付属校の生徒と本校の生徒とが合同の部活な為付属校最高学年の武谷達では主将になれない。武谷は南田の方に体を向けて立ち上がり頭を下げ謝った。 
「今は部活動中だ、考えることは陸上の事だけにしておけよ」
 南田はそう言うと武谷にそこをどけと手でぶっきらぼうに指示をして武谷がいたところにクラウチングスタートの構えをとった。それを見て南田の同級生が5人スタートラインに向かった。
 ――ドン、スタートの合図と共にタイムの計測者が立つ白いラインに向かって駆けていく6つの風。
 その中で5つの風にグングンと差を離していく1つの風――南田 迅
「やっぱ、速いよな南田先輩――全国大会レベルだもんなぁ」
 武谷の後ろにいる短髪の男子が隣の男子に話しかけた。武谷はただ走りを見てるだけではつまらないので後ろの男子たちの話を聞いていないような振りをして聞くことにした。
「だよな、全国レベルだもんな……ついでに勉強でも全国レベルだったな、人間不公平だよな…………」
 ――勉強も全国レベル、それは初耳だ。
「おまけにムチャクチャ可愛い彼女がいるって噂だぜ?」
 ――何!?それも初耳だぞ。っていうかそこまで揃ってるのって凄い通り越して卑怯だろ……
 等と武谷が後ろの男子たちの会話に聞き入ってると100m程向こうから南田が部員に「集合」と掛け声をした。
「今日の練習はここまでにする。皆さっさと着替えて帰宅する様に。解散」

 ◆◇◆◇

「ただいま〜」
 武谷は家につくと真っ先に自分の部屋へと向かった。部屋についた武谷は着替えを済ませベッドに倒れこむように横になった――疲れた…ベッドに横になって改めて思う。水霧 霞が学校に転校して来た。それだけで今日の学校は武谷にとっていつもの学校とは違うものになった。隣の席には今日一日中水霧がいた。たったそれだけの事が武谷にとっては凄まじく疲れの材料となった。隣を見ればまたあの症状が出るかもしれないから向けない。しかし、隣が気になって仕方が無い。それが一日中武谷の中で続いていたのだった。
「武谷ご飯できたわよ〜」
 一階から聞こえる母の声に適当な返事をしてベッドから立ち上がり一階の食卓に向かった。机の上には白いご飯とサラダとハンバーグと煮豆と箸が3人分置いてあった。
「降りてきたな、では『いただきます』」
 弦はそう言うと箸を持ち白いご飯を一口食べた。そんな弦を見ている時不意に武谷の頭に直感めいたものが走った。
「ねぇ、じいちゃん」
 武谷は何故か弦が今日の転校生――水霧 霞の事を知っているような気がしたのだ。
「水霧って苗字の子しってる? 髪の毛が銀色の子で背は俺より顔一つ分位小さい子なんだけど」
 それを聞いた弦は酷く驚いてご飯を喉につまらせた。――やっとのことでご飯を飲み込んだ弦を見ながら武谷は弦にもう一度聞いてみた。
「水霧って苗字の子を知ってるんだね?」
 武谷がそう聞くと弦はコンマ数秒で答えてきた。
「知らん!」
 温厚な弦にしては珍しく張り上げ妙に裏返った声が長方形の部屋に響く。それは「知っている」というより分かりやすく武谷に弦が水霧の事を知っていると言う事を伝えてしまった。
「知ってるんだ……」
 武谷は小声でそう言うと立ち上がり自分の部屋に戻る事にした。
「武谷ご飯は?」
 食卓から聞こえる母の声に適当に返事をして階段を上り自分の部屋に戻ってまたベッドに横になった。
 ――知らん!
 あの時の妙に張り上げ裏返った声が頭の中に響く。弦は知っている……と言う事は当然向こうも弦の事をしっているに違いなかった。武谷はそんな事を考えながらベッドの上で何回も寝返りを打ちつつ携帯電話に一通のメールが届いているのに気が付く。
 武谷は充電器から携帯をはずし、折りたたみ式の携帯を開けてメールボックスを開ける。
そこには見覚えの無いアドレスから送られてきたメールが一通きていた。
 ――水霧からだ、武谷はそう思った。何故アドレスだけでそう思ったのかはわからなかったが武谷は確信していた。

『NO TITLE

竜下家の「秘密の部屋」を探せ。そして「封印の箱」を探し出せ。
そうすれば少しは私の事がわかるかも知れないぞ?

水霧 霞  』

 ……馬鹿げている、何が「秘密の部屋」だ、何が「封印の箱」だ。普通の人から貰ったメールなら武谷はきっとそう思っただろう。
 しかし送ってきたのは水霧 霞である。今日の武谷に起きた症状、水霧が武谷に言った意味深な言葉。全てが水霧 霞という女を謎な人物にしている。武谷にとって一番知りたい相手であり一番知らない相手が水霧なのだ。だからこそメールを信じる価値はある――武谷はそう思った。
それからの武谷は「秘密の部屋」がどこにあるのかをずっとベッドの上で寝返りを打ちながらあそこでもない、そこも違う、と考え続けた。すると、自然にそして唐突に思い出した。
「……父さんの部屋」
 出すつもりじゃなかったのに思わず声が出た。武谷が和谷の部屋だという結論にたどりついたには訳があった――「秘密の部屋」というフレーズがヒントだった。武谷はそのフレーズにどこか懐かしさを感じそれを考えていたのだ。そして先程思い出した。
 ――あれは俺が3歳くらいの時だった。物心付いた頃から父さんがいなかったからそれが普通だと思っていた。実際、父を知らない俺にとってはいなくても支障がなかった。しかし、友達に父親がいるその事をしった時は少しショックだった。何だか自分の持ってないオモチャを友達は持っている様な羨ましさ。俺は父の事を知りたいと家に帰りいつも鍵のかかっている父の部屋を開けてと母にせがんだ。しかし母は決して開けようとはしなかった。
「ここはダメよ、秘密の部屋なんだから」
 と言って……――
 水霧が故意にそのフレーズを使ったのか偶然に同じフレーズだったのかは知らないがおかげで武谷は思いつくことができた。そして武谷は自分の部屋を出て2階の突き当たりにある開かずの扉の奥にある父の部屋に扉が開いてることを願いながら向かった。
 ドアノブを握り回してみる、すると回転は中途半端な所で止まる、やはりその扉は12年前と同じく鍵が掛かっていた。12年前の武谷ならここで諦めていただろう。だが、武谷は鍵と違い成長している。武谷は鍵の在りかを考えた。そしてこれまた唐突に思いついた。
 ――じいちゃんの部屋のタンスだ、大事なものは弦の部屋のタンスの一番上の棚にしまってあるのだ。そして和谷の部屋の鍵――大切なものだ。
武谷はまず自室に戻り時間を確認した……12時15分、この時間なら弦が寝ているだろうと思い弦の部屋に向かうことにした。足音を鳴らさないように階段を降り弦の部屋へと忍び足で向かった。
 ――グゥー、弦の部屋の前に来たときにすぐに聞こえてきたのは弦のいびきだった。寝ているのを確認して音を立てず扉を開けた。弦の部屋は床がフローリングではなく畳でいつもは部屋の中央にある机が壁に持たれ掛けられその代わりに弦が布団をしいて寝ていた、部屋の隅っこにある小さなテレビの上には時代劇のグッズがズラッと並んでおりその隣にタンスがあった。武谷はタンスの一番上の棚を開けたそこには武谷が保育園の時に描いた弦の似顔絵、武谷の小学生の時の通信簿、武谷が運動会の徒競走で一等賞を取ったときの賞状――武谷に関係するものばかりが収められていた。そんなタンスからは弦がどれほど武谷の事を可愛がっているか痛いほどに伝わってきた。そんな弦に感謝の念を抱きつつ和谷の部屋の鍵を探す。
 ――あった。棚の奥の方で見つけた小さな小箱に入った鍵をズボンのポケットに入れて弦の部屋を静かに去り、行きと同じように足音を立てないように階段を上り和谷の部屋へ来た。武谷は弦の部屋にあった鍵をズボンのポケットから取り出し和谷の部屋の扉の鍵穴に挿し込んだ。鍵は見事に鍵穴にフィットした。そして、鍵を回す。鍵は綺麗に鍵穴の中で回転し気持ちよい音が響いた。武谷は胸が高鳴るのを感じながら扉の取っ手を掴み――開けた。
の12年前入りたかった部屋、今まで一度として入ったことが無かった部屋――秘密の部屋に武谷は遂に入ってしまった。その部屋は書斎の様に本棚が部屋あちこちに置いてあり、その本棚に無造作に置かれた本の題名は全て英語で書かれていた。部屋にある物はそれが全てだった。武谷の胸の高まりは徐々に収まっていった。
 ――たったこれだけ……、本棚と本以外何もない部屋に落ち込みを隠せない武谷はそのままこの部屋をでるのも惜しいので適当に本を取って訳してみた。「魔術師の常識」……何じゃコリャ。その本を適当な場所に置き次の本を取ってみた。「魔術の危険性」…………コレも駄目だな。次の本を取った「魔術の歴史」「魔術師にとって大事な3つの事柄」………………
武谷は本を読むのを諦め部屋を出ようとしたとき何か硬いものに足の指が当たった。
 ――ゴツン、いかにも痛そうな音をたてて硬いものが扉の方に滑っていった。
「痛ってぇ〜……ん?」
 足の指をかばって歩きながら扉の近くにある木箱を手に取った。それは直径30cmくらいの木箱で随分と厳重に糸の様な白い物で何重にもして縛り上げられていた。
 ――「封印の箱」を探せ、頭の中であのメールの「秘密の部屋」ではないもう一つのフレーズが思い浮かんだ。武谷は父親の部屋に入れた事によって本来の目的を忘れていたのである。本来の目的――「封印の箱」を探すことだった。武谷はそのことを思い出すとがむしゃらに木箱の周りの糸の様な白い物をほどき――木箱を開けた。
 ――その瞬間武谷は太陽の光によく似た色のやわらかな光に包まれた……


 同刻、武谷の携帯に一通のメールが届いた――水霧からだった。

『NO TITLE

王の血をひくものよこの瞬間より貴方のゲームへの参加が決定した。

                                     水霧 霞 』




 ゲーム3「異変」

 12月の凍てつくような朝の気温に目を覚まされる。まだ寝ぼけた脳をフルに活動させて自分のいる場所を考えた。電気が点いていない暗い部屋に天井の小さな窓から入ってくる微かな光。一体どれだけの本をしまっておけるのだろうと思わず思ってしまうようなくらいに多い本棚。床に無造作に置かれた題名が英語の本、そして木箱。それらを寝ぼけた脳で一生懸命関連づけここが父――和谷の部屋だと気づく。そして何故自分がこんな所で寝てしまったのかを考える。昨夜の記憶を一生懸命に思い出そうと頭をひねりふと自分のポケットに入っている携帯の重みを感じる。そのことが記憶の泉の栓を抜いたように昨夜の記憶が戻ってくる。
 昨夜、水霧からのメールの内容に従った武谷は「秘密の部屋」が和谷の部屋だと気づき弦の部屋に大事にしまわれていた鍵を持ち出し和谷の部屋に入った。その中で厳重に縛られていた木箱を発見し開けやわらかな光に包まれた。
 そのことを思い出した武谷は不思議に思うことがあった。「あの光は何だったのだろう?」という疑問だった。あの光に包まれて気絶はしたものの体には何の異常も見当たらず逆に調子が良くなったような気さえもした。そんな事を考えているとガクガクと震ええている自分に気づく。とりあえず「光」の事は後で考えることにしてその場を立ち和谷の部屋をでて鍵をして一階に降りていった。鍵をどうしようか悩んだが弦の部屋に侵入して見つかることを恐れ自分の財布の小銭入れの所に隠しておくことにした。それから武谷は台所へ朝食のトーストを焼くために入っていき食パンを1枚トースターに入れ、リビングに向かい、ストーブをつけ、電気を点け、テレビを点けた。リモコンのボタンを押すとテレビの真っ黒い画面に徐々にニュース番組が映し出される。それを見て武谷はリビングにある緑のふかふかしたソファに座った。
「ここ数日、通り魔的犯行が起こっている事に関して警察は――」
 ニュースキャスターの声が静かな部屋に響いた。武谷はリモコンでテレビのボリュームをちょうど良い所まで下げた。そして先程食パンを入れたトースターが鳴いた。あくびをかみ締めながらソファから立ち上がり食器棚から皿を1枚ナイフを1本、冷蔵庫からバターを取り出しトースターが吐き出しているトーストを取って皿に載せて、またソファへと向かった。
 ナイフでバターをすくいまだ焼きたてで熱いトーストに塗る。トーストに触れたバターはジワっと溶けていきそれをナイフでトーストにまんべん無く塗る。そしてそれを1口かじりながらテレビを見る。無意識の内にテレビの左上に表示されている時刻が目に入る。5時40分、随分と早起きをしてしまったものだ、と思いながらまた1口トーストをかじる。しばらくするとトーストを食べ終わりすることが無くなった武谷は学校へ行く準備をすることにした。いつもなら適当に直す寝癖をいつもの何倍もの時間をかけて直し、歯、顔をいつもより丁寧に洗い、いつもならササッと済ます制服への着替えもいつもより時間をかけて着替え、先程着ていた私服のズボンのポケットから携帯を取り出し制服のズボンのポケットにいれた時、後ろから声が聞こえた。
「あら、武谷? 珍しい事もあるのね。武谷が早起きするなんて」
 恵理はそういうと雪でも降らないかしら? と窓を開けてまだ薄暗い空を見上げた。
「大丈夫だよ、母さん。雪はふらないって天気予報でやってるよ」
指で天気予報がやっているテレビの方を指してやった。
「あら、その天気予報師の人よく外す人だわ」
「…………」
 武谷は恵理の声が聞こえない振りをして時計をみた。6時30分、そろそろ学校が開く時間だ。
「ちょっと早いけど学校いってくる」
 武谷は玄関まで行き鞄を肩にかけるような形で持ちながら『いってきます』と恵理に言い家をでた。家の外にでると凍てつくような風が吹いていた。そんな風を武谷は体に感じながら「もうすぐ冬休みだな」と思いながら学校へと向かった。

 ◆◇◆◇

 学校に着いたのは家を出て30分くらい経ってからだった。教室には一番乗りで到着はしたものの何もすることがない武谷は仕方が無いので今日の授業の予習をすることにした。シャープペンがノートに文字を書き込む度教室にシャープペンと紙がこすれあう音が一定のリズムを刻みながら響く。しばらくすると勢いよくドアが開いた。
「お、珍しいな武谷。こんなに早く学校にくるなんて。雪でも降るんじゃないか?」
 恵理と同じよう事を言ってくる堅士に苦笑いをしながら「おはよう」と挨拶をする。
「今日の天気予報は残念ながら晴れでした」
 武谷が残念でしたねと首を振りながら言った。
「あぁ、今日の天気予報師の人よく外すぜ?」
「なぁ……お前さ俺の母さんと裏でつながってるだろ?」
「はぁ?」と訳の分からない様な顔している堅士を見ながら武谷は1つ大きな ため息をした。そして窓の外を見てみる。校門の所に銀色の髪をした女の子を見つけてしまった――水霧だ。そう思った瞬間校門の所にいる水霧から見えないように隠れていた。
「何してんだ? お前」
 堅士が呆れ顔で武谷の方を見て言った。武谷は自分の体位を見て堅士が呆れ顔の理由を悟った。椅子に座った状態のまま上半身をストレッチしているかのように前に曲げていた。
「いや……ちょっと――ストレッチしたくなってさ」
 武谷はとりあえず言い訳しておいた。素直に水霧が見えたからなんて言ったら水霧の事を武谷が意識しているのがバレてしまいそうだったからである。
「あ、そう。つかお前何勉強してるの?」
 どれどれと武谷が俺の机の方へと歩みよってくる。
「ふっふっふ。聞いて驚くなよ――英語の勉強だ!」
 おぉ、と堅士が大げさに驚いてみせながら武谷のノートをまじまじと見る。そしてため息をついた。
「お前……全部間違ってるぞ」
 堅士がやれやれと俺のほうへとノートを返してくる。武谷はそれを受け取り答えと自分のノートに書いた問題の答えを照らし合わせてみた――全問不正解、見事だ見事すぎる。
「お前答えも見ないでよく全部間違えてるってわかったな」
 そういいながら武谷は尊敬の眼差しを堅士に送った。
「お前……今日ここのテストだぞ? 知らなかったのか?」
 堅士がとんでもないことを口にする。テスト……武谷にとっては最大の天敵である。しかも今日は宣戦布告もなしである。卑怯すぎるぞテスト。
「抜き打ちテストかよ……じゃあ、何でお前知ってるんだよ」
 至極当然な疑問を口にする。それを聞いた堅士はまたもや呆れ顔になった。
「昨日の英語の時間先生が何回も言ってただろ? 明日はここのテストするぞって」
昨日……水霧のせいで全く授業に集中していなかった自分を武谷は思い出す。
「頼む堅士、俺英語を教えてくれ」
 堅士はそれを聞くとやれやれといった感じで俺に英語を教え始めた。

 ◆◇◆◇

 朝起きテレビの上にある時代劇グッズを横目で見ながらタンスの一番上にある棚にしまってある和谷の部屋の鍵を確認するのが弦の毎朝の日課であった。今日もその日課を遂行しようと弦はタンスの中に手を入れ探し始めた。すぐに小さな箱を見つけ引っ張り出す。そして箱の蓋を開け鍵を確認する――無い!
 弦は目を疑った鍵がないのだ。急いで恵理がいる台所に駆けていきその事を報告する。
「鍵がなくなった!」
 弦は息をきらせながら恵理にそう言った。
「鍵――和谷さんの部屋のですか!?」
 いつもゆっくりとした口調の恵理にしては珍しく速くそして大きな声で言った。
「うむ……」
 弦はゆっくりと首を縦に振り。そして鍵が入っている筈の箱を恵理に見せる。
「……武谷かもしれない」
 恵理は酷く心配そうな声でそう言った。
「ワシもそう思っていた所じゃよ……もし、そうであれば大変なことになるぞ……」
 そして二人は沈黙した……

 ◆◇◆◇

 ――おかしい、武谷は堅士に朝勉強を教えてもらった頃からそう思うようになり始めた。おかしい、記憶力が良すぎるのだ。いつもなら数分で英単語の3つか4つ覚えられるだけなのに今日はスラスラ覚えられてしまう。それは単に記憶力がいいというレベルではなかった。良すぎるのだ、まるで見ただけで覚えられてしまうのではないかと思うくらいに今日は記憶力が異常に良かった。おかげで英語のテストはかなりの手応えがあったわけだが。
 そして、もう一つおかしい出来事が起きた。水霧を見ても何も感じなくなったのだ。たとえ目が合ったとしてもそれは、普通の人と目を合わすのと何等かわりはなかった。そして水霧の方もその事を知っているかのように朝堅士と一緒に勉強していた武谷を見て「どうやら変わったようだな」と一言言った。
 そんな色んな不思議な出来事が起きた今日の学校はそろそろ終わりをつげようとしていた。
「武谷、英語のテストどうだった?」
 終礼が終わって帰りの仕度をしていた武谷に堅士が聞いてくる。
「ん? お前のおかげで随分と手応えあったよ」
 武谷は自分の机の中から持ち帰る教科書を選びながら堅士にそう言った。
「そっか、良かったじゃん。俺も手応えバッチシだ」
 持ち帰る教科書を選び終わり今度はそれらを鞄の中に詰め、立ち上がる。
「お前はいつものことだろうが……」
 武谷はそう言うと堅士に『帰ろうぜ』と言い教室を出て、昇降口へ向かい、靴を履き学校を後にした。
「ところで、お前部活行かないのか? 今日は」
 学校を出てしばらくしてから堅士が思い出した様に言った。
「う〜ん、今日はちょっと体調が悪いってことにして休んだ」
 実際は今日はおかしな事が色々と起こったので早く家に帰りたいというのが本心だったが、そんなことをストレートに堅士に言ったら無駄に心配をかけてしまうだけなので適当にごまかしておいた。
「それよりお前、もうすぐ全国大会あるんじゃないのか?」
 武谷がそう聞くと堅士は「まぁな」と頷いた。
「だったらお前こそ何で練習にいかないんだ?」
「えっと……用事――今日は用事があるから休んだ」
 堅士にしては珍しくしどろもどろな言い方で答えてきた。武谷はそのことに少し疑問を感じたが自分も嘘をついている身なので黙っておいた。
「それじゃあ俺こっちだから」
 そう堅士は言うとT字道を右にまがり走っていった。その姿を見送りながら武谷は左に曲がりさっきよりも足早に家に向かうことにした。

 ◆◇◆◇ 

 時計の秒針が時を刻む音が部屋に聞こえる全ての音だった。部屋の中心に置かれた机に肘を突きながら部屋の隅にある小さなテレビの上にある大好きな時代劇グッズ等にも目もくれず弦はタンスの一番上の棚を見つめていた。
恵理にあの事を話してから弦は真っ先に和谷の部屋に向かった。武谷が鍵を使わずに持って行っただけでありますようにと藁にもすがる思いで和谷の部屋のドアノブを握りそして回した。ドアノブは中途半端な所で回転をやめ弦の侵入を拒んだ――鍵がかかっている、弦は良かったと心の中で大きなため息を一つついた。
 そして、もし和谷の部屋の鍵が無くなったときの為にと作っておいた合鍵を自分の小銭入れから取り出す。念のために部屋の中を確認することにしたのだ。鍵穴に自分の持っている鍵を挿し込み回す。そして再びドアノブを握りそして回す。今度はきちんと回転し弦の部屋への侵入を認めたかのように扉が開いた。
 そして、部屋の床に転がっているある物を見たとき弦は我が目を疑った。それは15年前見たときと全然変わらない形をしていて唯一の和谷の形見である物――木箱だった。それから何分か経ったとき目から頬を伝わる一筋の物を弦は感じた。それは悲しいから出た涙でもなく嬉しいから出た涙でもなく懐かしいから出た涙でもなく、ただ後悔から出た涙だった。弦は思う、何故、鍵をもっと厳重に管理できなかったのか……何故、昨日あの話題が出たときにきちんとあの事を言えなかったのか……何故――
 弦はその後悔をひきずったまま今日一日を自室で今のポーズのまま何もせず過ごした。唯一していたとするならば考える事だけだった。武谷にあの事を言うべきか言わざるべきかを……そんな考えを答えも出ないまま今日一日考えていた。そんな時元気良く聞こえてくる明るい声。武谷の声だった。その瞬間、弦の考えていた事に答えが出た――全て武谷に話そう、それが武谷の為でもある。そう思うと弦は玄関へと走って行き、靴を脱ぎ終わり自室がある2階へと向かう武谷に重みのある声で言った。
「武谷……話がある……今すぐにだ」
 ただならぬ弦の気配に武谷はゆっくりと頷いた。




 ゲーム4「過去」

 静かな廊下を弦の後姿をみながら弦の部屋まで歩き、昨夜侵入した弦の部屋に入る。部屋は昨夜とあまり変わっておらず唯一変わっているのは昨夜は壁に持たれ掛けられていた机が部屋の中央に来ていてその上にお茶が入っている湯飲みが置いてあるぐらいだった。そんな部屋の様子を見ていると弦に座れと促され武谷は机を挟んで弦の正面に座った。
「武谷よ、今日何か変わった事は起こらんだか?」
 不意に弦が訊いてきた。武谷はこの質問に対し本当の事を言うべきか言わないべきかを悩んだ。言えば弦に心配をかけてしまうのは明白だったからである。
「…………」
 悩んでも中々答えは出てこずしばらくの間2人に沈黙が訪れた。そんな時沈黙を破ったのは弦であった。
「……どんな些細な事でも良い、例えば昨日話しておった水霧という子の話なんかでもな?」
 チラッと上目遣いに武谷を見てきた。その事に対し武谷はドキッとした反面で本当の事を言おうと決心した。
「うん……変わった事が今日は色々あったよ」
 武谷はゆっくりとそう話を切り出した。
「じいちゃんが言う水霧についても変わったし、記憶力が異常に良くなった……」
 その話を聞くと弦は眉をピクっと引き攣ったものの平静を装い話をつづけた。
「ふむ……水霧という子に関してどう変わったんじゃ?」
 弦は落ち着いた声で尚且つ重みのある声で訊いた。
「昨日水霧が皆の前で自己紹介した後に目があったんだ――」
 弦は手を組み「ふむ」という様にゆっくり頷いき、しっかりと武谷を見据えている。
「こんなこと言うと笑われるかもしれないけど、その時に金縛りみたいなのが起きてそれと同時に俺……水霧に恐怖の様な感覚を覚えたんだ。その事を知っていたのかわからないけど水霧が俺にこう言った『改めて宜しく、王の血を引くものよ』って。でも今日あったら何も感じなくなってた……何も」
 それを聞いて弦は一度ため息をつき引き締まった顔で俺に言ってきた。
「武谷よ、お前は水霧という子に対して恐怖の様な感覚を覚えたといったな?」
 弦がさっきよりもしっかりとした目つきで武谷の方を見据えそう言ってくるのを見て武谷はゆっくりと頷いた。
「ふむ……それはじゃな人間の本能というヤツじゃな。」
「……本能?」
 思わず頭にふと浮かんだ疑問が口にでた。その質問が出ることを予想していたかのように弦が続けた。
「さよう。人間というものは自分にとって理解しがたいモノが現実に出てきたときその事を自分の中で頑なに拒否する。それが昨日のお前に金縛りや、恐怖の様なモノという形となって出たのじゃろう……」
 その言葉を武谷はゆっくりと噛み締める。そしてある疑問が頭の中に浮かぶ。
「じゃあ――水霧は人間にとって理解しがたいモノを持ってるっていうのか?」
「もっておるとも。といっても一部の人種にとっては理解しがたいモノではないだろうがな。そしてワシはそれを――水霧という子が持っておる力も知っておる」
 弦はそう言うと机に置いてあったお茶を一口啜った。その様子を見ながら武谷は今まで弦が話してきた内容をゆっくりと理解する。
「じゃあ水霧が何か特別な力を持っているとでも言うのか?」
 その言葉を聞くと弦はもう一口お茶を啜りそして質問に答えてきた。
「あぁ、当然知っておるとも。その子はどうやら和谷と同じ力の持ち主らしいからな……」
 その言葉を言う弦の目はとても悲しそうな目をしていた。そして武谷は弦との会話で生まれて初めて父の名前が飛び出した事に心臓の鼓動が高まった。
「父さん……父さんにどんな力があったの?」
 その言葉を聞くと弦はしっかりとこちらを見据えて言った。
「父さんの事が知りたいか……まぁ当然の事じゃろう。よかろう、和谷とも約束していた事じゃからな……。これから話す事について途中で一切口をはさまんでくれ、わかったな?」
 その弦の言葉を聞いた武谷はすぐに頷いた。――早く父さんの事が知りたい、その一心だった。武谷が頷いたのを見ると弦はゆっくりと語りだした。

 ――――……1966年、ビートルズが日本での第一回公演を行った事が話題にあがっていた頃、鈴白市のとある小さな産婦人科で新たなる生命の誕生を意味する産声が上がった。その光景を見た父は成人して初めて泣いた。生まれた子は男の子であった。それも父と母が必死になって願った五体満足な体。唯一変わっていたのは右腕の肘あたりにある三角形の傷跡の様なものがあるくらいだった。それも無事に生まれたという事実等からしたらどうでもよいことであった。父と母はその子に名前を付けた。その子が友達と互いに相手を大切にし、協力し合う関係になれるように『和』という文字に人生の谷に落ちぬように『谷』という文字を加え『和谷』と。その子は親の望みを叶えるかのように大きな病気もせずスクスクと育っていった――15才のあの日がくるまでは……
 ――父さん、俺凄い事出来る様になったぜ!和谷は15才のある日突然、部屋にいる父にそう言った。父が優しく「何が出来るようになったんだ?」と聞くと和谷はさぞ嬉しそうにこう答えた。
 ――魔術!と……和谷のその言葉を聞いた父は、まだまだ子供だなと微笑ましく思い微笑んだ。その微笑みを見て和谷は「あぁ、信じてないな? 見てろよ」といった。父は優しく、はいはいと頷きながら和谷の行動を眺める事にした。
 まず和谷は目をつぶった。そして精神統一しているかの様に身動き一つせずにその場に立ち尽くした。しばらくすると和谷は部屋の片隅にある小さなテレビの上にある時代劇グッズに手の平を向けた。   次の瞬間父は我が目を疑った自分の大好きな時代劇グッズが突然宙に浮いたのである。父がその光景に信じられず口をポカンと開けながら目を擦っていると和谷が自慢げに――な?本当だろ、と言った。
 それから何日かたった頃、竜下家に和谷と一緒に同じぐらいの年頃の女性が一人訪れてきた。その女性の腰まで伸びた長い髪の毛はとても綺麗な銀色をしていた。彼女の名前は水霧 香恵(みずきり かえ)。彼女の話によると和谷は彼女のパートナーとなる人材だから少しの間和谷を貸してくれという事であった。この話の中の「パートナー」や「貸す」が何を意味するのかわからない父と母は顔を見合わせどうしたものかと考えた。そして、しばらく二人で考えあった結果二人は結局「パートナー」というのは彼氏の事で「貸す」というのはしばらく遊びにでかけるという事だろうと解釈した。その事に何の反対もない父と母は和谷達に許可をだした……そして歯車は動き出す。
 2週間後、和谷はずいぶんと身長が高くそして体つきがたくましくなり竜下家の扉をたたいた。その音を聞き父と母は急いで玄関に向かった。そこにはたった2週間で随分と大人びた和谷の姿があった。そして、和谷は父と母の顔をゆっくりと交互に見て突然泣きだした。突然の事に父と母は酷く驚いたが和谷は「ごめん」といいながら涙を拭き父達に「話がある」と言いこの家の主、弦の部屋に二人を呼び机を囲むようにして座らせた。それを見届けて和谷はゆっくりと座りしばらくの間3人の間には沈黙が訪れた。その沈黙を破って和谷は突然語りだした……その話とは、父と母が遊びにいくのだと思って許可を出したあの日から起きた出来事についてだった。異世界へと続く扉があること、その世界では魔術が普通に存在するということ、自分の右腕の肘あたりにある三角形の傷跡が魔術師の証拠だったいうこと、魔術を使い王を決める古から伝わるゲームがあること、そのゲームで和谷は優勝したこと、あの水霧という子がパートナーとしてゲームに出場したこと、そして和谷が魔術を使えるうえにアッチの世界の王になってしまった以上コッチの世界にはいられないこと……しかし、和谷はこうも付け加えた、魔術が使えなければ扉をくぐることができなくなりアッチの王にならなくてもすむかもしれないと。そのあまりにも現実からかけ離れた話を和谷が前から魔術が使えると実際に二人の前で使って見せていたりしたせいで感覚が麻痺していたのか二人は驚くことに全てを冷静に聞くことが出来た。そして一言「そうかい……」と二人は優しく和谷に言ってやった。
 父と母に語り終えてから数日後、和谷は言っていたことを実行する――魔術の封印である。その結果、和谷の予想通りアッチの世界の王にはなることなく平和な時間が過ぎていった。そして、和谷は運命の人と巡り合い結婚した。そして、息子が生まれた……その名は武谷。和谷と同じ五体満足であり、そして和谷と同じく右腕の肘あたりに三角形の傷跡があった……――――

「……ということじゃ」
 そう語り終えた弦はゆっくりと机の上にあるお茶を手を伸ばして取り、そして啜った。
「…………じいちゃん……」
「しんじられないか?」
 弦が武谷の心情をずばり読み口に出した。自分の言葉を取られた武谷はゆっくりと頷きそして訊いた。
「仮にだよ、その話が本当だとしたら俺は魔法が使えることになるよね? でも、俺は魔法なんて使ったことも無いし、それに使えないよ?」
 武谷がそう言うと、弦は困ったような顔をした。
「……何故、魔術を使えないのか……それはじゃなお前の父さんがお前の魔術を封印して死んでいったからじゃ……」
「俺のために死んだ? 嘘だ! 父さんは事故で死んだんだ!」
 武谷は父が自分のために死んだという事をつきつけられ酷く動揺した。父さんが自分のせいで死んだ……その事だけで武谷には罪悪感が上り詰めてきたと同時にその事を受け入れまいと頭の中で頑なに拒否した。そして、その時弦の部屋の扉が開いた事に武谷は気づかなかった。
「そもそも魔法だなんて存在するわけがない。さては、じいちゃん俺を驚かそうとしてるんだな?」
 武谷はそうあって欲しいと願い望みを口に出した。それを聞くと弦はゆっくりと首を横に振った。
「武谷……魔術はな…………」
 弦が何かを言おうとした途中に第三者の声が弦の言葉をかき消した。
「魔術と貴方の父については私が詳しく話しましょう」
 突然違う声が入ってきた事に武谷は驚き声が聞こえてきたほうを急いで向いた。そこには綺麗な銀色の髪をした女性――水霧の姿があった。
「……お母さんにそっくりじゃ……武谷、魔術とお前の父の死については恐らくこの子の方がワシよりも詳しいじゃろう……」
 そう言うと弦はゆっくりと立ち上がり、水霧に自分の座っていたところに座るように促すと静かに部屋を出て行った。
「では、話そう。魔術について――そして貴方の父の死について……」
 昨日武谷が恐れた人間――水霧がゆっくりと語りだした。

 ――全ての歯車が動き出した……




 ゲーム5「旅立ち」

 張り詰めた空気の部屋を後にした弦は静かに居間に向かい自分の部屋にいる二人の人間の事を思う。居間のテレビには弦が愛してやまない時代劇が映し出されていたがその事に全く興味を示さずにただ思う。――これで武谷の人生が決まりつつあるのか、そして自分達が武谷と会うことが出来る時間は後どのくらい残されているのかと……
 そんな答えがわからぬ疑問が次々と弦の頭に浮かんでは消えてゆく。尽きることのない疑問を頭に抱えながら弦は武谷のこれからの旅立ちに備え準備してやることにする――無事に帰ってこられるようにと祈りながら。

 ◆◇◆◇

 昨日恐れた人間、弦の話によれば魔術師であると言われる人間――水霧 霞が机を挟んで武谷の正面に座っている。武谷はその事実に気おくれしている自分に気づく。そして、その気おくれをどうにもできない自分にむずがゆさを感じた。
「……そんなに固くなっていてはこれから話す事は理解できないぞ?」
 水霧が武谷をみながらそう言ってきた。その言葉に武谷は自分が気おくれをしているのを見透かされたような気がして無性に腹が立った。そのおかげか体が急に軽くなったような気がした。
「話をもどすけど、魔法とやらのことを説明してくれよ」
 武谷は挑戦的な言葉で水霧に質問した。その質問に水霧は答えた。
「魔法ではない。魔術だ」
「魔法と魔術って一緒のことだろ? 何が違うんだよ」
 なんだか水霧に馬鹿にされているように思った武谷はまたもや腹が立った。そして、先程からの現実からかけ離れた馬鹿話に武谷の頭が混乱し始めたのか魔術が存在すると言う事が前提で話がすすめられていくのに武谷は何の疑問ももたなかった。
「簡単に言うと、魔法というものはどのような者が使っても全てを凌駕し全ての物事を思いのままに操る力のことを言う。そして、魔術というものは扱う者により威力が異なり、どのような技を使おうとも魔法を越えることはできず限界が生じる力のことだ」
 あまり頭の回転がよくない武谷にとってこの説明は余計に頭を混乱させただけであった。そんな武谷を見つめながら水霧はため息をついた。
「貴方は本当に王の息子なのか……母上の話によれば貴方の父はすぐさま魔法と魔術の違いについて理解したというのに……」
 父という言葉に武谷の頭は混乱をやめ、その事を追求しようとした。
「水霧、父さんの事どれぐらい知ってる?」
 意外な質問に水霧は驚いたようだったが質問を理解するとすぐに答えてきた。
「恐らく貴方が想像する以上に詳しいと思いますよ」
 その言葉に武谷の胸の鼓動は高まった。そして、頭は父の事の思考でいっぱいになった。
「魔術の話はもういい。父さんの事について教えてくれ!!」
 つばが飛びそうなくらいに勢いよく水霧に質問をした。
「貴方の父についてか……時間がないから簡単にでしか説明できないぞ?」
「それでもいい!!」
「わかりました。貴方の父は私たちの世界の王、すなわちこの国でいう天皇に似たような存在です。そして貴方の父はあなたの魔術を封印してお亡くなりになりました。ちなみに、貴方が昨夜開けた木箱は貴方の父が生前自分の魔力を封印した箱です」
 それだけを言うと水霧は「以上です」と言い。和谷の事を話終えた。そのあまりにも簡単すぎる質問に武谷は怒った。
「何が説明だよ! あれだけじゃ全然理解できないじゃないか、もっと詳細を話せ!!」
「私は『簡単』にと言ったはずだ。そして貴方はそれに同意しました。貴方のおじい様には悪いが頼まれた説明も私は時間の関係で詳しくお話することはできない。用件だけ済まさせてもらう」
 武谷の怒りに臆することなく堂々と水霧が述べた。そして、武谷がさっきまでは気づかなかった水霧の膝の上にある鞄の中から長さ1mぐらいある羊皮紙を一枚引っ張り出してきた。そこには見たこともないような文字で上か下まで埋め尽くされていた。その紙を武谷の前に差し出した。
「シリウェル参加状…シリウェルとは私たちの世界で行われる魔術を用いたゲームだ。同意の場合は羊皮紙のどこでもいいから貴方の血で母印を押してください」
 サラっとそれだけ言うと水霧は武谷が母印を押すのを待つかのように羊皮紙を見つめた。
「そんなもん誰が参加するかよ」
 武谷は自分の手元にある羊皮紙を持ち上げると水霧に破るぞと脅した。
「あなたがそれを破ることは出来ない――何故なら」
 その言葉に武谷は本気で破ろうとした。しかし、破ろうとした瞬間話の続きが聞こえてきた。
「――何故なら、貴方の父も破らずに参加したのだから……」
 その言葉を聞いた瞬間武谷は羊皮紙を机の上に落としてしまった。そして水霧はまたもや母印を待つかのように羊皮紙を見つめた。
「くそったれ! これでいいんだろうが」
 武谷は『父』という決め手の言葉と好奇心に負け、親指の甲を噛みそこから湧き出た血を羊皮紙のど真ん中に思いっきり母印を押してやった。

 ◆◇◆◇

 水霧が家にきて武谷に母印を押させてから今日で丁度5日目になる。あの日以来水霧は学校を休み続けていた。転校してきて2日目から休むという変わった出来事にクラス内では水霧についての噂が流れた。噂といっても色々で、盲腸になったらしい、風邪をこじらせた等と普通のものから、実はまた違う学校へ転校した、誘拐されるとこを見た等と根も葉もない噂まで流れた。そんな噂を聞くときはいつも水霧が武谷の家から出て行く間際に言った言葉を思い出してしまう。
 ――私がこの世界を次に訪れるのはあなたの都合がよい日……貴方の通う学校とやらが終わる日だ。その時は貴方の家まで向かいに行き私たちの世界へと導きます。この言葉を言い水霧は武谷の家を出て行った。それからしばらくすると武谷の頭の中には疑問が泉のように溢れ出してきた。そして、その疑問を弦や恵理に問いただした。弦や恵理の話す事全てがつじつまが合うことから武谷はいまや魔術の存在を信じる所まできていた。そして、魔術の存在を認識している自分を改めて思うと思わず笑ってしまった。
「遂に武谷の脳みそがオーバーヒートしたか……」
 後ろから不意にとんでもない事を言い出してくる本人を確かめようと後ろを振り返る。そこには、堅士の姿があった。そして、物思いにふけていた武谷はここがどこなのかを考えた。広い体育館の前では校長がマイクを握りなにかを喋っていてその言葉を聞いているようなふりをしながら大半寝ている生徒。その事からここは終了式が行われている体育館だと気づく。――そして突然笑ってしまったせいで周りの生徒から変な眼差しで見られている自分にも気づく。
「……オーバーヒートって……俺の脳は機械かよ」
「ん? もっと悪いか」
「……もういい…………」
 堅士はニシシと笑ういながらゴメンゴメンとポーズをとった。武谷はそんな堅士をどこぞの偉いサンのような態度で許してやった。
「ところでさ、うちの校長の話いつも長すぎじゃないか?」
 武谷は毎年校長の話を聞くたびにその言葉を言う。そんな言葉に堅士は慣れたように答えてくる。
「趣味が『論文を書く事』じゃあしかたないよ……まぁ、今年は少し早めに終わりそうじゃん?」
 確かにいつもは1時間以上かかる校長の演説が40分を過ぎたところから終わりに近づいてきたのが話の内容からわかった。
「やった、早く終わりそうだな」
そう武谷が言うと堅士もうれしそうに「だろ?」と言ってきた。
「――であるからして怪我の無い冬休みにして楽しんでください。以上です」
 その言葉を聞くと寝ていた大半の生徒は起きて拍手をした。俺と堅士もその拍手に負けないぐらい強く拍手した――はやく離任してくれと祈りながら。
「それでは――」
 我が3―Bの担任の声がスピーカーから響く。その言葉を聞いた武谷と堅士はすぐに教室に帰る体勢をとりながら担任の終了式の終了の合図を待った。
「続きまして、校長先生の趣味の論文が何とコンクールで入賞したのでそれをお披露目願いたいと思います……」
「…………」
 生徒達全て。否、この場にいる校長以外の全てのものに沈黙が訪れた。その事に全く気づかない校長は意気揚々と手に分厚い紙の塊を持ち壇上に上がっていく。
「なるほど……これのせいで話が早く終わったのか……」
 武谷がポツリと呟いた。そして校長はそれと同時に論文を読み始めた。
「題名『この様な人間は嫌われる』 近年増加している……――」


「頭いて〜……」
 校長のとても素晴らしい論文を数時間に渡り聞かされた武谷の脳はパンク状態だった。しかも、一番校長が読んでも説得力のない題名の論文をである……
「武谷、すまないけど今日は先帰るわ。用事あるから」
 武谷にそう言うと堅士はそそくさと教室を出て行った。その姿を見届けたてからしばらく頭を休め、武谷は席を立ち大きく一回伸びをしてから帰りの準備を済まして下校することにした。
 学校の外に出ると12月の凍てつくような風が武谷に襲い掛かった。その寒さから一刻もはやく抜け出したくて武谷は自宅まで入って帰ることにした。
 しかし、またもや武谷は自分の体に異変が起きてることに気づく。それは、疲れないのだ。厳密に言えばちょっとやそっとの事では疲れないのだ。この事は走ってしばらくして気づいた事だった。終了式の日ということもあって日頃からためていた教科書類が入っている鞄はいつもの2倍も3倍も重かった。それなのに中々疲れない。試しに思いっきり走ってみると驚くことに荷物を持ちながらという悪条件の中いつもの全力疾走よりもはやく走れたのだ。その事に気づいた武谷はもう魔術について心から認識した。そして自分の中で何かが変わったことも改めて実感した。そんな事を体感しながら武谷は自宅に到着した。
「ただいま〜」
 武谷は家に帰ってきて毎日行う日課の言葉を言うと制服から着替えるために自分の部屋へと向かった。そして自分の部屋のドアノブを握り回転させた。ドアが開くとそこには水霧の姿があった。水霧は武谷の姿を見ると少々お怒り気味に武谷を叱った。
「遅い! さぁ、行くぞ。時間が無い!」
 水霧はそう言うと武谷の右手を引っ張り部屋の外に出し先程武谷が開けた扉を閉めた。
「ちょいまて。何する気だよ? 部屋の中いれろよ。乗っ取りか? 乗っ取りなのか?」
 俺は隣で鞄の中から何かを探している水霧にわけのわからない質問を大声で言った。その大声を聞きつけて弦と恵理が駆けつけてきた。
「何事じゃ?」
 弦が息を切らして聞いてきた。
「水霧が俺の部屋を乗っ取――」
「今から『魔縁の門』を開けます」
 武谷の言葉を遮って言ったその水霧の言葉を弦と恵理は理解できたらしい。そして弦はまた急いでどこかに駆けていった。
「『魔縁の門』ってなんだよ? じいちゃんはどこ行ったんだよ?」
 武谷は恵理に質問攻めをした。その質問に恵理は優しくすべて答えてくれた。
「『魔縁の門』というのは和谷さんの話によるとこの世界と水霧さん達の世界をつなぐ門らしいわ」
 その説明を聞くと水霧は頷きながら鞄の中から何かをまだ探していた。
「お義祖父さんは多分武谷の準備をとりにいったんじゃないかしら?」
 その言葉を恵理が言い終えると同時に水霧は鞄の中から一つの大きな鍵をとりだした。そしてその鍵を体の前で両手で持ちながら何かをつぶやきだした。
「黄泉の世界を用い異界と魔界を繋ぎし鍵よ、今ここに力を示せ」
 その呪文を水霧が唱えると鍵の周りに白い霞のようなものが発生しその霞のようなものは鍵に吸収された。
「『魔縁の門』開!」
 それを言うと水霧は武谷の部屋の鍵穴には大きすぎる鍵を勢いよく突き刺した。武谷はその瞬間扉が壊れたと思った。しかし、実際には鍵は小さくならず鍵穴自体が巨大化した。そして、その鍵穴にはまった鍵を水霧が回転させた。すると、いつもの鍵が開く音ではなくとても低い音でゴキと鳴った。そして、扉が自動的に開いた。そこには、これが本当の闇というのだろうと思うくらいに光がまったく無い真っ暗な世界に通じていた。武谷はその光景に呆然と立ち尽くしその闇を見つめていた。
「いいか? この真っ暗な世界は黄泉の世界だ」
「ヨミの世界?」
 さっき起きた出来事に呆然としていた武谷は水霧の不意な説明によって頭にでてきた疑問を口にだしてしまった。
「黄泉の世界とは死後の世界の事を言うんじゃよ。そして、その黄泉の世界を通る者には死者が通る者に暗示をかけて心を惑わすところから『魔縁』の門という名がついたそうじゃ」
 武谷の旅の準備をとりにいったという弦は息を切らしながらもそう答えてくれた。
「へ? 死者の世界!?」
 武谷は突拍子もない単語に面食らった。
「霞ちゃん……武谷をよろしく頼むぞ。そして、お母さんに宜しく言っておいておくれ」
 弦はそう言うと後ろを向いた。後ろを向いた弦の体は小刻みに震えていたことから武谷は恐らく泣いているのであろうと思った。
「『魔縁の門』はそう長い間開いておけるものではない。さぁ、行こう」
 そう言うと水霧はさっさと暗闇の世界に入っていった。水霧が入った次の瞬間には完全に水霧の姿が見えなくなっていたこと武谷は恐怖を感じた。
「武谷……行かなくてもいいのよ?」
 恵理がそうつぶやいた。しかし、水霧が5日前持ってきた羊皮紙に母印を押したことにより武谷がシリウェル参加することを第一に考えるように心をコントロールされている事を知っている恵理にとっては武谷を引き止める精一杯の言葉だった。そんな引止めの言葉とは裏腹に、武谷自身は父が訪れたというアッチの世界に行ってみたいと思っていた。
「武谷……これを持ってきなさい。和谷が昔アッチに行ったときに持っていた物じゃ」
 さきほどまで泣いていた弦の目を武谷は直視できずに弦が差し出している古ぼけた袋を受け取り、武谷は心を決め水霧がそして父和谷が通ったであろう暗闇の世界へと一歩また一歩と入っていった。




 ゲーム6「異世界」

 『魔縁の門』をくぐり死後の世界に来てどれくらいの時間が経っただろう。ふと、武谷はそう思う。視界の全てが暗闇に覆われ何も見えない状態、その暗さは思わず失明したのではないかと思うぐらいであった。そして中に入って気づいたこと。それは声が出せないのである。恐らくこの世界の住人には『声』という物をつかわなくても意思疎通ができるのであろう。そんな世界に『声』すなわち『音』という物は存在しなくてもどうでもいい存在なのであろう。
 しかし、武谷はこの世界の住人ではない。そんな普通の者が突然、聴覚も視覚も奪われている現実に徐々に脳が混乱を始める。脳が今見ている物を視神経によって伝えられても見えるものは暗闇だけ。そして脳が声を出せと指令を発しても声がでないし、発したはずの声も自分が今出しているであろう
足音も聞こえない。これらの事が『魔縁の門』をくぐったときから続いている。そして、そのような事を考えれば考えるほど武谷の脳はより混乱した。そんな時、心に語りかけてくる『声』があった――水霧の声だった。

 ◆◇◆◇

 ――全くどうしてここはいつもこうなのだ……だからこの世界は嫌いだ。水霧は心の中でそうつぶやきながら真っ直ぐ足早で歩く。そして心の中に語りかけてくる『声』を振り払う。そして、水霧はまた心の中でつぶやく。
 ――これほど『魔縁』という文字がふさわしい場所はないだろうな……。そして再び水霧の心に『声』が語りかけてきた。これで丁度10回目の『声』の誘惑。最初は水霧の母、香恵の声だった。そして次は水霧が幼い頃死んだ父の声……そして今は武谷の声。声の種類は違えど、どれも言ってくることは皆同じような事だった。「こっちだ」「こっちに来て」等だった。そのどれもが苦しそうな声で尚且つ人間が一番弱い心に語りかけてくる。だが、この誘惑も幼い頃から魔術師としての訓練を受けている水霧にとっては効き目のないことだったが、やはり偽りの声だとわかっていても苦しそうな声を無視することは中々に辛いものであった。
 しかし、その辛さも後もう少しで終わりになる。そう、あの明るくなっている門をくぐれば――
 その時、あることに気が付き嫌な予感がした。水霧は武谷を王の息子としての実力を信じ、そして母が話していた「王は一人で『魔縁の門』をくぐってきた」という言葉を信じて武谷を残し一人で『魔縁の門』をくぐってきた。しかし、はたして王の息子という事実だけでそこまで過信して良いものだろうか。確かに、あの木箱を開けて武谷の魔力が高まった、すなわち『封印』が解けたのを感じた。だが、魔術に関してはまったくの無知。そして、もうすでに武谷は魔術と魔法の違いの理解力によって王との違いを見せ付けている。水霧の心にある嫌な予感が確信に変わった。そして、次の瞬間すぐさま今まで歩いてきた道のほうに振り返った。
「心に語りかけてくる言葉を信じるな! その言葉の誘惑通りに進んで行き着く先は『死』のみだ!!」
 字のごとく声にならない叫びを水霧は思いっきり叫び、心に語りかけてくる『声』を今度は辛さも感じず無視をして一心不乱に武谷の方へと駆けていった。

 ◆◇◆◇

 ――そうだ、水霧の声に従えばいい。そう武谷が気づいたのはつい先程だった。脳が混乱してパニックに陥っている時に聞こえてきた水霧の声。それは神の声のような存在だった。しかし、聞こえてきたといっても耳にではなく心にだった。その事にいつもの武谷なら疑問をもっただろう。しかし状況が状況だけにそんな事を考える余裕は武谷の頭にはなく、その心に聞こえてきた『声』を何の疑いも持たないまま信じる事にしてしまったのだ。
 しばらく、その『声』に従い歩いていると水霧の声を聞いたせいか武谷の混乱は徐々にさめていった。そして、混乱から開放された武谷に二つの疑問が浮かびあがってきた。
 ――何故、水霧は心に話しかけることが出来るんだ……、そして後一つの疑問。
 ――何故、声だけで『こっち』の方向がわかるんだ……。という疑問だった。一つ目の疑問はすぐに水霧が魔術師であること、そして済んでいる世界が違う事からアッチの世界にはそういう能力もあるのだろうと勝手に納得した。しかし、後一つの疑問はわからなかった。魔術で方向を教えている、と言えば簡単に片付いてしまうが、これが魔術でないことは武谷自身が気づいていた。この事に武谷が気づけたのは弦のおかげだった。
 水霧が武谷の家を去ってから5日間の間武谷は、弦が和谷から教わった魔術についての知識を武谷に教え込んでいた。そのせいで武谷は毎晩深夜過ぎまで弦の魔術講座につき合わされていた。そのかいあってか何とか物を宙に浮かせるまでに成長していたのである。その「物を宙に浮かせる」という魔術は全ての魔術の基礎にあたる魔術であることも弦に教わった。そして、その魔術の過程とは第一に体内に存在する魔力を引き出し放出する箇所に集中させ、第二に魔術をかける物質に向かい魔力を放出させる箇所を向けてしっかりと狙いを定め、第三に最初に引き出して集中させた魔力を一気に放出させると言うものだった。魔術師とはこれらを高速に行える才能を持つ者の事を指すということも弦から教わった。そして、今の状況は第二の過程ができないのだ。その事は魔術が使えないという事の何よりの証拠だった。それなら何故――
「助けて……こっちに早く」
 疑問の答えを考えている時、不意に『声』の調子が変わった。先程までいつもの水霧の凛とした声だったのが突然苦しそうな『声』に変わった。その突然の異変に武谷は驚きながらも『声』の苦しみ方からただ事ではないという事だけは理解した。そして、その『声』のする方に武谷は元の世界にいた時に陸上部で鍛えた足、そして武谷の魔力の『封印』が解かれたことによって強化された足を思いっきり使い全力疾走で駆けた。陸上部、魔力この二つに強化された足で全力疾走すると驚くほどに速くなっているのが体感できた。その事を嬉しく思っている暇はなくただ全力で駆けた。
 すると、次第に声のボリュームは大きくなってきた。――水霧の場所は近い。そう思った瞬間また水霧の声とは違うものが武谷の心に語りかけてきた。
「武谷行くな! それは水霧の声ではなく悪霊の声だ!!」
 その声は緊迫感を持っていた。そして、それは武谷にとってどこか懐かしく温かみを持った声だった。――父さんの……声? 何の証拠もないが武谷はそう思った。急いで止まりその場所に留まりもう一度その声を聞こうとした。だが、全力疾走をその場でピタリと止めることは出来ず数メートル地面をスライドしてしまった。そして後少しで止まるという瞬間、急に地面の感覚が無くなった。いや、感覚ではなく地面そのものが無くなったのだった。そして、次の瞬間、内臓がふわっと浮き上がる感覚に襲われ、落下……しなかった。そして、右腕を強く握りしめられているのに気づく。その手は徐々に武谷の体を引っ張り地面のあるところまで引っ張り上げた。その手は武谷を引っ張り上げるとどこかに消えてしまった。武谷はその手を暗闇の中腕を振り回しながら探した。しばらく、すると手の平サイズの半円形の物に手が触れプニっとした感触が手から伝わってきた。そして、それと同時に右頬に強い衝撃。意外な攻撃を受けた武谷は混乱しながら戦う構えをとった。しかし、そんな事をしても敵が見えないのではどうしようもないことに気づく。その瞬間武谷は再び誰かに腕を捕まれ引っ張られていった。

 ――なるほど、この世界でも魔術は使えるか……。引っ張られ始めてからしばらくたって武谷はそう思う。その理由は確かにどこにいるかわからない者に魔術をかけるのは不可能。しかし、相手がどこにいるかわかるなら可能だろうということだった。そして、引っ張る奴はそれを見事に武谷の体で実演してみせた。引っ張られて早々に魔術で体を浮かせられた武谷は身動きがうまくとれずふわふわと浮いているだけだった。しばらくは脱出しよう悪戦苦闘してみたものの手も足もでず諦めた。そして、しばらくすると前のほうに明るい場所が見え始めた。その光を見た武谷は「あそこは生贄の裁断か……」等と悲観的な考えをしていた。その光は近づくにつれて徐々に形をはっきりとさせていった。上が丸みを帯びた扉のようだった。その場所に武谷を引っ張る奴はどんどんとはいっていった。そして当然ながら引っ張られている武谷も。
「到着だ。ようこそ魔の世界ルイシスへ」
 突然の事に声が出なかった。そして、武谷の前で立っている水霧を見てしばらくしてから武谷は全て理解した。
「じゃあ、今まで俺を引っ張ってくれてたのは水霧? 俺を殴ったのも水霧?」
「あぁ、そうだ。引っ張ってきたのも……ビンタしたのも私だ」
 ということはあの武谷が触った半円形の物でプニっとした感触の物というのは……。想像しただけで顔が赤くなった。
「……とりあえず、ここを出よう」
 そう言われて武谷はここが生贄の裁断ではなくどこかの部屋だという事に気が付く。先程、武谷達が通ってきたであろう扉はいつのまにか閉まっておりその扉意外には何もない部屋だった。もちろん出口も無かった。
「出ようって……どこから?」
 至極当たり前の質問を武谷が口にすると水霧は少し笑った。
「そうか。貴方たちの世界にはテレポースは無いか」
 わけのわからない単語を出してくる水霧に説明を要求する空気を出してやる。
「テレポースというのはこういう『魔縁の門』出口等と公共の場には必ずといっていいほど存在するもので、いつもはこの様な魔術陣なのだ」
 水霧は今まで武谷が気づかなかった足元の魔方陣のようなものを指で指した。
「この上に立ち、行きたい場所の名前を口にすると、もしその場所にテレポースがあればその場所にテレーポトしてくれる」
 あまりの突拍子も無い話に武谷はただただ驚く事しかできなかった。
「では、行こう。……『シリス』!」
 まだ、頭の整理をしきれていない武谷をそっちのけで水霧がそう言うとテレポースとやらは光を放ちだした。そして、次の瞬間どこかの町の中に来ていた。あまりにも唐突の事で何がなにやらわからなくなっていた武谷に水霧が説明してやった。
「……ここは、『シリス』という町だ。この世界を形成したと言われるシリスが最初に作った町という伝説からシリスと名づいたそうだ。そして貴方の父も最初にここを訪れている」
「父さんが……」
 その事を聞いた武谷は死後の世界で父の声を聞いた事を思い出す。
「なぁ、水霧」
「何だ?」
 武谷が喋りかけるとすぐに水霧は反応してくれた。
「ヨミの世界とやらで死んだ肉親とかが話しかけてくることってあるのか?」
「それはないでしょう、あったとしても悪霊が声を真似ているだけです」
 さらりと水霧はそう言ってのけた。しかし、果たしてその悪霊が武谷の命を助けようとするのだろうか。そして、武谷はもう一つ疑問が沸いた。
「何であの時、水霧は暗闇なのに落ちていく俺の腕をつかんで助けれたんだ?」
 それを聞いた水霧はわけのわからなそうな顔をした。
「助けた? 私は落ちていく貴方の手を掴んで助けてなんかいないぞ?それに、最初に私の……に触ってきたのはそっちじゃないのか?」
 それを言うと水霧は少し顔を赤らめた。しかし、そんな顔の変化等今の武谷にはどうでもいいことだった。――助けてない……じゃあ、あの手は……。そう思うと不気味に思えてきた。そして思わず身震いしてしまった。
「まぁ、何です? あなたの父上が貴方の為に舞い降りてきて助けてくれたんじゃないですか?」
 そう水霧は笑って言ってきた。恐らく冗談だったのだろう。しかし、武谷はそれを真に受けた。……そうか父さんが……。そう思うとさっきまで不気味だったものが嬉しく思えた。
「最後に一つだけ質問していいか?」
「何だ?」
「何故この町を選んだ?」
「それは……貴方が王の事を随分と知りたがっていたから……」
 そう言うと水霧はまた顔を赤らめた。恐らく水霧なりの気遣いなのだろう。意外な水霧の優しさを知った武谷の口には思わず笑みが出た。
「あ、笑ったな?」
 水霧はそう言うと少し怒った。そんな水霧を見てから武谷は父が訪れたという町をじっくりと見渡し、また再び笑みが出た。そして武谷は思う。

 ――俺はついに来た、父さんが王と呼ばれるこの世界に!




 ゲーム7「シリス」

 見渡す限りが荒地だった。地面からは熱気が漂い『事』が起こってからあまり時間が経っていないことを物語っていた。そこには、命という火が燃えきった後の者が数人倒れていた。そのどれもが、血をしたたらせある場所を見つめていた。それは、その荒地でたたずむ一人の男。その男は小刻みに震えながらまるで意識がないような虚ろな瞳で周りを見渡し、操り人形の糸が切られたかのように不意に空を見上げるようにして倒れた。それらの全てをいつもとは違う視点――上空から見ている自分に気づいた。その事実に多少は驚いたもののすぐに理解した。
 ――夢か……
 唐突にそう思った。夢を夢だと認識する。簡単そうで中々出来ないことだが今日の自分は、不思議と理解できた。それが、魔力のせいなのかただの偶然なのかそんな事は今の自分には関係なかった。  それは、先程倒れた男の顔を見てしまったせいだった。その男の顔それは――

 不意に感じた右腕の傷跡の痛みに夢を遮られる。その事にイラつきながら武谷は自分の右腕の状態を確かめた。すると、そこには今までと何ら変わり無い右腕の傷があっただけだった。大きく欠伸を一つしながら、先程痛みがあった傷跡を撫でた。そして、それをし終わると武谷は今いる部屋をゆっくりと見渡した。10畳程の大きさの部屋の隅にアンティークな机が1つ、椅子が2つ、それとは反対側にベッドが2つ、天井に窓が1つあるような部屋だった。部屋を見渡して何故自分がここにいるのかを考えた。そして、理由は隣のベッドで寝ている水霧を見た瞬間に記憶の泉の栓を抜いたかのように一気に思い出した。
 昨日、水霧と一緒に通り抜けた『魔縁の門』の出口にあった『テレポース』とやらに半強制的にここ『シリス』に連れて来られた武谷は水霧に和谷もここに来ているという事実を教えられた後、町見学も半ばで直接この水霧の叔父が経営しているという宿に連行されてきた。という事だった。そこまで思い出すと武谷は昨日できなかった町見学をするため、水霧に気づかれないようにそっとベッドから抜け出すと机の上に置いてあった服にパパっと着替え、そこらにあった裏にこの宿の事が書かれている部屋のカードキーを持って部屋を後にした。
 外に出て辺りの建造物を見渡してみると石造りのものがほとんどだった。石造りといってもやはり武谷らがいた石造りの家とはちょっと違っていた。姿かたちは確かに似ていたが水霧曰く材質が違うらしい。どうやら、この石は何かの宝石の原石で衝撃吸収、耐久性、保温など色々な面に優れている物らしい。これは昨日、連行されている途中に唯一教えてもらった事だった。試しに思いっきりそれに向かってそこらへんに落ちていた石ころを投げつけたのはこの際別の話である。
 そんなこんなで街中を適当にうろうろしていると帰り道がわからなくなってしまった。俗に言う迷子というやつだ。15にもなって迷子とは情けないものだと心の中でため息まじりに自分に呆れながら曲がり角を曲がった瞬間、何か堅いものにぶつかって後ろに倒れた。急いで視線を上げて当たったものを確認する。それは顔に深くフードをかぶった男だった。
「……気をつけろ」
 その言葉を発した男は全身から殺気とも威圧感ともとれない雰囲気を発していた。そして、その雰囲気をぶち壊すような明るい声が男の後ろから聞こえてくる。
「どうしたの? うわ……大丈夫?」
 声の主はちょこんと顔を男の後ろから突き出した。それは、とてつもなく可愛い女の子だった。その子は俺が無様に倒れている姿を見るなり慌てて男の後ろから飛び出してきて俺が立つのを手伝ってくれた。
「ありがとう……あの、ここってどこにあるかわからないかな? 迷ったみたいで……」
 カードキーの裏側を女の子に見せながら尋ねた。そうすると、女の子はしばらく考えると「あっ」といいながら手をポンッと叩いた。
「この道の突き当たりを右に曲がってずっと進んだところだよ〜」
 これまた明るい声で道を指差しながら説明してくれた。
「あ、ありがとう」
 そう言うと男とその女の子は武谷の進行方向とは逆の方向へ歩いていった。それを見届けると武谷は自分の顔が赤くほてっているのに気がついた。それは、あの子があまりにも可愛かったせいもあるのだろうが一番の原因は他にあった。それは――
「……いちいち仕草が可愛らしすぎるんだよ」
 そう武谷は独り言をつぶやくとさっきあの子に立つのを手伝ってもらった時に握られた手をギュッと握り締めながら教えられた道の通りに歩いていった。
 しばらくすると、あの子が言ったとおり水霧の叔父の宿に到着した。宿の中にはもうすでに明かりが灯っているようだった。その事を確認しながら武谷は宿の扉を開けた。そこには、大きな机で水霧が他の宿泊者達と距離を置いたところで朝食をとっていた。それを見た武谷は自分が空腹であることに気づいた。机の周りを見渡すと見慣れないが恐らく食べ物だろうと思われるものが色々と並んでいることからバイキングだろうと思い武谷は皿をとり手当たりしだい食べ物を皿に盛りつけ水霧の隣に座った。
「町の見学は楽しかったか?」
 水霧が唐突に訊いてきた。その質問に驚いた武谷は今、口に含んだばかりの球状な野菜のようなものを思わず飲み込んでしまった。
「……ゲホゲホ……知ってたのか?」
 むせながら武谷がそう訊いた。
「いや、貴方の性格からして大人しくしているはずがありませんから」
「…………」
 サラリと見事に自分の性格を言い当てられた武谷は反撃もできずに沈黙した。
「さて、それを食べ終わったら部屋に戻って来い。話がある」
 それを言うと水霧は皿を片付け2階の方へと上がっていった。
「さっきの子とは大違いだな……」
 2階へ上っていく水霧の後姿を見ながら武谷はつぶやいた。

 ◆◇◆◇

 朝食を食べ終わった武谷は朝食時に水霧に言われたように部屋に戻っていた。しかし、肝心の水霧が中々現れないことにいらだっていると突如ドアをノックする音が聞こえた。
「私だ開けてくれ」
 声は水霧のものだった。自分達が借りている部屋にいちいちノックをする水霧に多少の疑問を抱きながら扉を開けた。そこにある水霧の姿を見て疑問が解消された。水霧は今にも落ちそうなくらいの書物を両手いっぱいに抱えていたのだ。その書物を持ったままゆっくりとベッドの所まで歩いていきベッドまで来ると持っていた本を一気にベッドにぶちまけた。
「何を持ってきたんだ?」
 武谷が今水霧が持ってきた大量の本を指差しながら新たに沸いた疑問を投げかける。
「あぁ、これは魔術に関する本だ。貴方は魔術を使えるようにはなったが、知識があまりないようだからな」
 それだけ言うと水霧はベッドに散乱している本から一つの本を見つけると武谷に投げつけた。そのスピードは意外に速くて危うく顔面で受け止めてしまうところだった。
「……手加減しろよ」
 顔面ギリギリでキャッチした武谷がそう言い放った。しかし、そんな事を気にする様子もなく水霧はまた本を見つけ武谷めがけて投げつけた。
「ナイスキャッチ。今、私が貴方に渡した本は魔術の基礎の事が書いてあるから読んでおいてくれ。少し分厚いがすぐ読み終わるだろう。読み終わるまで私はちょっと調べ物をする」
 そう言い終わると今度は武谷に投げつけずにベッドに散乱している本を一冊手に取ると椅子に座りながら読み出した。
「すぐ読み終わるって……分厚すぎだろ、オイ」
 水霧にギリギリ届いているかどうかというぐらいの大きさの声でそうつぶやくと武谷は本をめくり始めた。
 めくって最初のページで武谷は水霧がすぐ読み終わると言った理由を理解した。それは、武谷の世界とコッチの世界――ルイシスとの本という物の違いだった。武谷の世界の本では文字を目で追ってそれを頭で解読し、理解するがルイシスの世界ではページに書いてある文字を眺めるだけで不思議とそれら全てを理解することが出来た。それは文字が自ら武谷の頭に入ってくるような感覚であった。このカルチャーショックに最初は驚いたが、しばらくしたらこれも魔力のせいなのかその事に慣れてしまった。武谷は二冊の本をわずか数分で読みきった。そして本を読んだことにより新たに沸いた疑問を水霧に聞いてみることにする。
「全部読み終わったぞ。質問していいか?」
 その声を聞いた水霧は今まで読んでいた本を閉じると武谷の座っているベッドの隣のベッドに座った。
「読み終わったか。それで質問は何だ?」
「この本に書いてあった魔術の種類ってやつがよくわからなかったんだけど」
 二冊のうちの一冊を指差しながらそう言った。それを水霧が手に取りパラパラとページをめくって小刻みに頷いた。
「なるほど。ここか……簡単に魔術といってもそれには3種類ある」
 武谷はそれを頷きながら続きを水霧に促した。
「まず1つ目は『一般魔術』だ。今貴方が使える、物を浮かしたりする魔術もこの魔術に属する。この魔術はルイシスの人間であれば誰でも使える魔術だが、その利用範囲は日常生活を少し楽にする程度の物だ。要するに誰でも使えるが、あまり利用価値のない魔術だ。2つ目に『一般魔術』から進展したもので『契約魔術』というものがある。これは私も使う魔術で精霊との契約で使えるようになる魔術だ。精霊といっても多種多様でとてつもなく弱い精霊から信じられないくらいに力をもっている精霊までピンからキリまである。契約する精霊の力によって魔術の威力が左右されて『一般魔術』より強い力を発揮する時もあれば弱くなってしまう時もあるという事だ。そして最後にこれも『一般魔術』から進展したもので『直体魔術』というものだ。これは、魔術を自らの体に直接かけてその部分を強化するという戦闘に長けた魔術だ。この魔術で強化した体は信じられないような力を発揮する反面で自分の体の消耗につながる諸刃の剣だ」
 一気にここまで話した水霧は武谷に「わかったか?」という空気を出す。それに答えるように武谷は言った。
「まぁ、なんとなく理解できた。そして、俺に本を読まさせた理由もな。シリウェルに参加する以上は『契約魔術』か『直体魔術』のどちらかを習得しろってんだろ?」
「そうだ。と、言いたいが『直体魔術』ができるようになるには才能と時間が必要だ。今はシリウェル開催まで時間がない。よって自動的に貴方に残された魔術は『契約魔術』だけだ」
 水霧はさらりとそれだけ言い放った。
「……わかった。それで精霊と契約ってどうするんだ? というより精霊ってどこにいるんだよ?」
 至極当然の質問を武谷は今更のように言った。それを聞いた水霧は困った顔一つせずに答えてきた。
「精霊は私たちとは異次元の世界に住んでいると言われている。実質的に精霊に会いに行くことは不可能だが、精霊から会いに来る事は可能だ」
「……要するに精霊が俺のために来てくれるってのか? ありえないだろ」
 武谷が少々バカにしたような口調で水霧に言い放った。
「いや、厳密に言えば呼び出すんだがな。呼び出し方だが精霊と契約するための魔術が存在するからそれを使う」
「……それを今からやるのか?」
 武谷が少し緊迫感を持った言葉を口にする。
「まぁ、今すぐにはやらない。まだ貴方がどの程度の魔力を秘めているかわからないからな」
「じゃあ、いつするんだよ?」
「とりあえず、この町を出て次の町を目指す。契約はその後だ」
 そう言い終わると水霧はベッドに散乱している本を集めだし半分程持つと武谷に渡した。
「私一人ではきついからな」
「……うい」

 本を片付け終わり荷物の整理となった時に武谷はある事に気づいた。それは『魔縁の門』をくぐる前に弦に渡された袋がなくなっているという事だった。部屋中のありとあらゆる所を探してなかったので恐らく『魔縁の門』の中で落ちかけたときに思わず落としてしまったのだろうという結論にたどりついた。せっかく荷造りしてくれた弦に謝罪の気持ちを感じながら武谷は水霧が待つ1階へと降りていった。
 1階へ降りると階段の下で水霧が待っていた。その事に少し意外だという気持ちを抱きながらも言葉には出さないでおいた。
「さて、宿代だけ清算してから次の町へと向かうか」
 そう言うと水霧は叔父の所へ行き清算し始めた。するといきなり水霧がこちらを向いて言ってきた。
「…まさかとは思うが朝食を手当たりしだいとったってことはないだろうな……?」
「え? バイキングだろ? 手当たりしだいとったさ」
 そう武谷が平然と言うと水霧がガックリとうなだれて言った。
「ここはバイキングじゃない……ちなみに手当たりしだいとったって言うやつは全て高級食だ……」
 それだけ言うと水霧は財布から何枚かのお金と思われるお札を叔父に手渡した。
「普段の10倍の値段だった……貴方って人は…………」
「……すまん」
 その謝罪を聞いた水霧は仕方ないと区切りをつけたのか表情を変えて武谷と一緒に宿から出た。

「これから、またテレポースを使うのか?」
 武谷が水霧にそう言うと水霧は首を横に振りながら答えた。
「このシリスという町はあまり他の町との交流をはかろうとはしない。その関係でこの町のテレポースは外へテレポートはできない」
 水霧が残念そうにそう言った。
「何で他の町と交流をはかろうとしないんだ?」
「……次の町へ行けばその理由はおのずとわかる。今はただ他の町との交流を拒んでいるとだけ知っているだけでいいだろう」
 それだけ言うと水霧は足早に町の出口が在るほうへと歩いていった。それを追いかける形となって武谷が歩く。
「まぁ、次の町行けばわかるんならいいけど……それより一つ頼みがあるんだけど」
「何だ?」
 水霧が足早に歩きながら訊いてくる。それに置いていかれないように武谷も足早に歩きながら言った。
「俺のこと『貴方』って言わずに普通に名前で呼んでくれ。なんか『貴方』だと固い感じするからさ」
 それを聞いた水霧はいきなり歩くのをやめた。
「わかった……武谷…」
 はにかみながらそう言ってくる水霧に「そうそう」と頷きながら再び歩き出したさっきに比べて数段仲が良くなったような気がする水霧の後につづいて武谷もまた再び歩き出した。――次の町に向かって。


【続く】
2005/01/31(Mon)19:08:27 公開 / 青いリンゴ
■この作品の著作権は青いリンゴさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
7話目更新完了っす。今回はテストがあったり追試があったり(オイ 等で中々小説を核時間がなかったのでここまで更新が遅れてしまいました。すいませんでした。
今回のストーリーですが全然話が進んでませんね(汗 更新遅れ+話展開せず……最悪ですか?最悪ですね……ごめんなさい。
こんな章ですが読んでいただけたのなら光栄です。

卍丸さま<毎回の様に感想ありがとうございます。今回の更新でCONYさんに指摘された水霧の口調を修正したのですが水霧ノイメージが変わってしまっていたらごめんなさい。口調がたまにおかしかったのは自分の力量不足でした。

影舞踊さん<卍丸さん同様に毎回の様に感想ありがとうぞざいます。これからもお付き合い願えたら光栄です。

CONYさん<指摘ありがとうございました。一応修正を加えてみたのですがどうでしょうか?また気が付いた点があったら教えてください。感想ありがとうございました。
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