オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『終わらないイブ(誤字修正)』 作者:夢幻焔 / 未分類 未分類
全角8641文字
容量17282 bytes
原稿用紙約28.5枚

 そう、夢を見ていた。
 いつ覚めるか分からない、長い長いの夢を―――


 ―――今日は12月23日―――


 空からは、まるで天使の羽のように、真っ白な雪がふわふわと舞い降りていた。
「そういやさぁ、後ちょっとでクリスマスだよね」
 とある喫茶店の窓際の席で、俺の彼女が、ガラスの向こうを白い息を吐きながら行き交う人々を見ながら、コーヒーカップを片手に話しかけてきた。
「ん? ああ、そういや明日だっけ? クリスマスイブ」
 商店街やケーキ屋など、様々な所が店先をキラキラと光を放つツリーやサンタの人形、赤と緑で彩られたリースなどで色鮮やかに飾っていた。
「そーだなぁ、明日どこか行くか? 遊園地とか… なんならどっかのレストランでディナーでもいいけど?」
 普段はあまり贅沢をしない。と言うよりかは、贅沢が出来ない俺だが、クリスマスという特別な日なので、彼女のために少しだけ奮発しようと考えていた。
「ありがと。けどやっぱりいいや。二人で小さなケーキでも買ってさ、二人っきりでこっそり祝おうよ」
 彼女はにっこりと微笑んだ。
「いや、けどさ? やっぱせっかくのクリスマスなんだし…」
 内心ほっとしつつも、やはり男の意地である。なんとか彼女をその気にさせようと説得するが、彼女の次の一言で、その『意地』は木っ端微塵に打ち砕かれてしまった。
「いいよいいよ、無理しなくて。本当はそんな余裕ないくせに…」
 笑いながら、物の見事に図星を貫かれ、俺はがっくしと首をうなだれた。
 しょんぼりと目線を下に落としている俺に、彼女は少し頬を赤らめて、こう言ってきた。
「ごめんごめん。でもさ、ほんとにいいよ? 一緒にいられるだけで十分なんだし…」
 その言葉を聞いた瞬間、俺は今まで都合のいいとき意外は信じたことのなかった神様に心の中で礼を言った。
『神様、こんな心優しい女の子を俺の彼女にしてくれてサンキュー』と。
 手を組み、上を見ている俺の顔を、彼女は不思議そうに眺めていた。



 それからしばらくして、店を出た。
「んーと、どうする? ケーキ買うの?」
 アーケードの商店街を歩いていると、ケーキ屋の前で立ち止まり、彼女が尋ねてきた。
「ああ、ケーキのことは心配するなって、な?」
「あ、そうだったね。すっかり忘れてた」
 ケーキのことで心配する必要はなかった。なぜなら俺のバイト先は、この商店街から少し外れた場所にあるケーキ屋なのだ。
「そうそう、こーんなでっかいケーキ持って行くからさ、二人で食べて太ろうぜ?」
 俺は腕で大きな輪を作り、彼女と話しながらケーキ屋の前を立ち去っていく。
「そうねぇー。それだけあれば4日は食べられるかもね?」
 つまらない冗談に笑いながら、俺達はぶらりと商店街の中を歩いて回った。
「あっ! あれ可愛いーー!!」
 彼女が突然叫ぶと、すぐ近くに見えていた雑貨屋の前へと走っていった。
 店先には、大きなうねうね動くサンタの人形が置いてあり、彼女はそのサンタ人形を見て子供のように騒いでいる。
「おいっ、ちょっと…」
 俺は慌てて彼女の元へと駆け寄ったが、彼女はすぐに店の中に入ってしまった。
 すると、彼女は店からヒョコッっと出てきて、まるで「エサちょうだい」とじゃれてくる仔犬のような目で、こちらを見てきた。
「カワイイのあったよ!! ねーねーっ、これ見てよっ!!」
 彼女は俺の服の袖をグイッっと引っ張り、店の中へと引きずり込んでいく。
「ちょ、ちょっと待てって……」
「これよこれっ!」
 彼女が指差した先には、2人のサンタクロースがソリを引き、ソリの上にデカイ態度で座ったトナカイが、サンタクロース達に鞭を振るっている格好をした人形が置いてあった。
「おぉ、こりゃおもしろいな」
 あまりに滑稽な格好に笑いながら、その商品を手に取り、こっそりと値段を見た。
(680円か… 安いな)
 俺はその人形を手に持ったまま、無言でレジまで歩いていく。
「えっ? ちょっと、いきなりどうしたのよ?」
 彼女の問いかけにわざと答えないで、ささっとレジで精算してもらい、「ありがとう」と店員に礼を言ってから店の外へと出た。
「ちょっと、どうしたのよ? さっきから…」
 訳が分からないといった表情でこちらを見てくる彼女に、さっき買ったばかりの人形を差し出した。
「はいこれ。一応プレゼントな」
 俺は照れながら、彼女に手渡した。
「えっ。あ、ありがと…」
 受け取った彼女は、突然のことに少し驚いたような顔をして答えた。
 それからしばらく歩いていると、彼女は満面の笑みで、俺の腕に寄りかかってきた。
「さっきはありがとね。いきなりだったから、少し驚いちゃった」
 彼女は、まるで天使のような笑顔を俺に向けてくれた。
『あぁ、神様サンキュー』
 幸せいっぱいの俺は、またもや都合のいいときだけ信じる神様に礼の言葉を心の中で述べた。
 それから、俺達は商店街の色々な店を見てまわった。
「なぁ、それより明日の予定どうする?」
「どうするって、私の家でいいんじゃない? あっ、でも明日バイトあるんじゃなかったの?」
「ああ、それなら大丈夫。店長に早めに上がれるように言ってあるからさ? それにケーキ買って店の売り上げに貢献するって言ったら、店長も嫌とは言わないだろ?」
 俺は、少し得意気に話す。
「おっ、さすがだねぇ。準備いいじゃん。それじゃ六時半くらいには家に来れるよね?」
「まかせろって」
 喋りながら歩いていると、商店街を抜けたところで、日はすっかり落ち、辺りは真っ暗になっていることに気が付いた。
「うわっ、もう外は真っ暗じゃん… 家まで送ろうか?」
 辺りも暗くなっているので、俺は気を利かせて彼女に尋ねてみた。
「ありがと。けど、この後ちょっと寄るところあるからさ、また今度でいいよ」
「そっか、それじゃ気をつけてな」
「うん、今日は色々ありがとね」
「こちらこそ。じゃ、明日な!」
 そう言い残し、俺は雪が降る中、家路を急いだ。



 ガチャ… と、ドアを開ける音が響いた。
「うぅ〜、寒っ! ただいまー…」
 誰もいない部屋から返事が返ってくるはずも無く、俺はいそいそと靴を脱いで部屋へと入り、明かりを付け、暖房のスイッチを入れた。
「うはぁ… やっぱまだ寒いな…」
 暖房を入れてからしばらく経つが、やはりまだ寒い。
 そこで、俺はキッチンへ向かい、カップラーメンを取り出し、湯を注いでから、こたつへと持っていった。
「う〜ん、いい香りだ。…ん? あっ、箸忘れた…」
 急いで箸を取りにキッチンへと戻り、急いで戻ってくる。
「さて、いただきまーす」
 少し固めの麺をズズズズ…っと勢いよくすする。
 カップラーメンが入っていたカップは、ものの数分でスープ一滴残すことなく、空になった。
「うん、ごちそうさん」
 食べ終わった頃には部屋も暖まり体も温まり、一日の遊び疲れのせいか、急に眠気が襲って来た。
 しかし、その眠気に逆らうように、寝そうな体を風呂場へと引きずり、シャワーを浴びてから寝る仕度を済まし、そのままベッドの布団へと潜り込んだ。


 ―――そして12月24日、クリスマスイブ―――


「うーっ、寒っ! おはよーございまーす」
「おうっ、今日も頼むぜ」
「うぃーっす」
 朝早く、俺はバイト先であるケーキ屋へと来ていた。
 そこでは既にパティシエであり、この店の店長である『オッサン』が仕込みをしていた。
 パティシエといえば、普通はもっと紳士的で繊細なイメージがあるかもしれないが、うちの店長はかなり豪快な性格で、まるで荒々しい海の漁師(オトコ)のようであった。
「おっし、今日はがんばって働いてくれよ? なんせクリスマスイブなんだ。ケーキが飛ぶように売れてくぞ?」
 店長は嬉しそうに大声で話している。
「あっ、店長。俺も一つケーキ買うんで、一つ取って置いてもらっていいですか? ちゃんと料金は払いますし…」
 昨日の彼女との約束を思い出し、少々気を使いながら店長に尋ねてみる。
「おぅ。金払ってくれるなら文句は言わん。好きなだけ取っとけ」
 まるで、久しぶりの大物を釣り上げたような笑顔で、こちらを見てくる。
(このオッサンがパティシエなんだよなぁ… ありえねぇ…)
 心の中で、いつもこの言葉を言うが、決して口にはしない。
「あっ、それと。今日は早めに上がらしてくれるって約束も忘れないでくださいよ?」
 忘れられていては困るので、少し強めの口調で店長にお願いした。
「おう、それも心配するな。閉店時間よりずっと早く終わるからよ? 俺が作ったケーキは即完売だ」
 店長の口からは、一点の曇りすら感じられない、自信満々の答えが返ってきた。
 たしかに、店長が作るケーキは評判がよく、ほとんどが完売してしまうのだ。
(このオッサンがなかなかやり手なんだよな…)
 心の中で、ぽつりと呟いた。
「ほらっ、なにボサっとしてんだ。早くケーキ並べてこい」
「うぃーっす」
 俺は店長が丹精込めて焼き上げた、数々のケーキを店内に運び、並べていく。
 すると、数あるケーキの中で、一つだけ俺の目に留まった。
 それは、少し小さめで、二人で食べるにはちょうどいいほどの大きさで、真っ白な生クリームと真っ赤なイチゴで飾られたケーキだった。
「店長ー? このケーキ買うんで、除けといてもいいですかーっ?」
「おう、なんでもいいから好きにしろ。サービスでどれでも千五百円にまけといてやる」
「ありがとうございまーす」
 俺はそのケーキを、急いで店の奥にある冷蔵庫の中へと移し変えた。
「それじゃ、千五百円っと… はいこれ」
 財布からお金を取り出し、店長に手渡した。
「ほい、まいど。レジの中に入れておいてくれ」
「分かりました」



 準備を終え、普段より一時間早い、朝九時から開店した。
 まだ午前中である。俺の予想通り、客はなかなか姿を見せない。
「んー、暇だ……」
 俺はレジカウンターにへたり込み、そのままボーっと客が来るのを待っていた。
 ――お昼前、一人の少女が店内に入ってきた。まだ小学校低学年くらいだろうか、髪を赤い飾りの付いた可愛らしいゴムで二つに結び、フワフワの付いた白いコートを着ている可愛らしい少女であった。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん一人?」
 尋ねてみると、少女は「うん」と小さく頷くだけで、並べてあるケーキをじっと見ていた。
「ねーねー、お兄ちゃん。このケーキちょうだい?」
 しばらく悩んでいた後、少女は一番手前にあった、クリスマス用に飾り付けられたチョコレートケーキを指差した。
「あ、はいはい。ちょっとまってね… …はい、二千五百円になります」
「えっとえっと… はい、二千五百円」
 なんだか幼い子供からお金を受け取ってることに妙な罪悪感を感じつつも、商売なので仕方なくお金を受け取り、レジへと仕舞う。
「はいどうも。ありがとねー」
「うん、ばいばーい」
 少女は幼い足取りで、店を出て行った。
(あの子、途中でケーキ落としたりしないかなぁ…?)
 少し不安を感じつつ、レジカウンターのところに座って時計を見ると、既に正午をまわっていた。
「店長ー? そろそろ飯入りまーす」
「おうー」
 この時間、俺は昼食を食べるため、いったん店の奥へと下がる。
 その間、俺の代わりに店長が店番をやっているのだ。それまで店長は何をしていたかというと、特にすることが無い様で、いつも店の奥で椅子に座って雑誌を読んでいる。
「はぁ… またコンビニ弁当か…」
 毎日のように続いているコンビニ弁当に、ついぼやいてしまう。
「さてっ、いただきまーす…」
 割り箸を手に取り、弁当をガツガツと口の中へかき込んでいく。
 すると、レジのほうから店長の声が聞こえてきた。
「おーい! お客さんが増えてきた! 早いとこ手伝ってくれー!」
「んぐんぐ… うぃーっす」
 突然の呼びかけに、口の中に入っていたものを急いでお茶で流し、店内へと出て行った。
「うわっ… すごいなこりゃ」
 ここのケーキ屋の店内はあまり広いほうではない。しかし、その店内には大勢のお客さんたちがひしめき合っていた。
「こらっ、なにボサっとしてんだ。 俺はラッピングするから、お前はレジを頼む」
「うぃーす」
 急いでレジを入れ替わり、次から次へとやってくるお客さんを捌いていく。



「…はぁ。ようやく落ち着いた…」
 あれからというもの、客足は絶えず、店内は常にお客さんがいる状態が続いた。
 だが、そのおかげもあって、店長が作った大量のケーキは、あっという間に売切れてしまった。
 この頃、時計は既に夕方の四時をさしていた。
「おう、今日はよくやってくれたな。少しばかり給料も奮発しとくぜ」
「あっ、ありがとうございます」
 あれだけ頑張ったのだ。何か報酬があっても不思議ではなかった。
「おっし、後は店内をざっと掃除すれば終わりだ。ご苦労さん」
「うぃーっす」
 『ざっと』と言ってはいるが、やはり食品を取り扱う店である。衛生面には気を使い、丁寧に掃除をする。
「ふぅー、おわりましたー」
 床でモップでピカピカに磨き上げ、カウンターやテーブルは布きんでピカピカに磨き上げ、消毒をしておいた。
「おつかれー。適当に上がっていいぞー。 あ、取っておいたケーキ、忘れんなよ?」
「あっ、はい」
 あまりの忙しさに、つい忘れてしまうところだった。
 急いでケーキを箱に仕舞い、店を後にする。
「それじゃ、お先に失礼しまーす」
 この頃、時計は夕方の五時半、辺りは真っ暗になっていた。



「えっと、たしか… あ、あったあった」
 俺は、バイトを終えたその足で、昨日彼女と来た商店街の一角にある、小さなアクセサリーショップに来ていた。
 昨日、彼女とあちこちを歩いている間に、この店を訪れ、商品を眺めていると、可愛らしいシルバー製のペアリングが目に付いたのだった。
 そのペアリングのことは彼女には教えないで、今日のプレゼントとして買うことにしていたのだ。
「あ、すみません。このペアリング下さい」
 近くにいた店員を呼び、商品を取ってもらう。
「えーっと、二万円になりますね」
(うそっ!? こんなので二万もするのかよっ!?) 
 予想よりずっと高い値段に驚きつつも、財布から二万円を出す。
「はい、じゃあこれで」
「はい、ありがとうございましたー」
 プレゼントを買い、着ているコートのポケットにそっと入れ、急いで店を出る。
(やべっ! もう六時過ぎてるじゃねーか!?)
 時計を見た俺は、そのまま一直線に商店街を走り抜ける。もちろん、ケーキが崩れないよう慎重に。
 商店街を抜け、大きな交差点を渡ろうと、歩行者用の信号が青に変わるのを歩道の前辺りで待っていた。
 ちょうどクリスマスのこの時間帯、会社員やサラリーマンなどの帰宅ラッシュで、歩道はいっぱいに込んでいる。
「うわっ、これは結構厳しいかも…」
 時計を見つつ、そわそわと待っていると、車両用の信号が黄色に変わった。
 すると、帰宅ラッシュの団体も、じわじわと前のほうに詰まって来た。そんな時であった。
「きゃっ!」
 小さな悲鳴と共に、まだ車両用の信号が赤に変わらないうちに、白いコートを着た、髪を赤い飾りの付いたゴムで二つに結だ少女が道路へと押し出され、倒れてしまった。
(あっ、あの子は…? なんでこんな時間に…)
 その倒れた少女は、昼にアルバイト先へケーキを買いに来た少女であった。
 と次の瞬間、赤に変わろうとする信号を無視し、猛スピードで車が走ってきた。
「危ないっ!!!!」
 俺はとっさに少女に駆け寄り、急いで抱き上げて歩道へと放り投げた。
 しかし、少女が歩道にいた人に抱きかかえられたのを見た瞬間、目の前が真っ白になった。
「キャーッ!!! お兄ちゃん!?」
「おいっ! やばいぞ!! 誰か早く救急車を呼べ!」
 その声が聞こえた直後、真っ白だった世界が突然、真っ暗に変わった。




「もう、遅いわねっ。何やってるのかしら!?」
 時計は既に、約束の六時半を大きく過ぎ、7時半をさしていた。
―――トゥルルル、トゥルルル…
 突然、家の電話が鳴り響いた。
(もう、どうせ「ごめん、少し遅れる」って電話ね?)
 そう思い、私は受話器を手に取り、少し不機嫌そうな声で「もしもし?」と言った。
 しかし、その電話の主は彼氏ではなかった。
「は? ええ、そうですけど…」
 私は「誰だろう?」と思いつつも、会話を続けた。
「え… それ、本当…ですか?」
「……わ、分かりました。すぐ行きます…」
 その電話の内容は、あまりにも信じられないものであった。
 私の彼氏が事故に遭い、意識不明のまま病院へと運び込まれたそうだ。
(嘘っ! 嘘よねこんなのっ!?)
 その電話の直後、私は慌てて家を飛び出した。運び込まれた病院とは、私の家のすぐ近くにある。
 私は走って病院に向かいながら、未だにさっきの電話を信じられずにいた。いや、信じたくなかった。
 気付かぬうちにあふれ出していた涙を拭うこともなく、私は病院へと駆け込んだ。
「あのっ! こちらにさっき、交通事故で運び込まれた男性がいると電話があったのですが…」
 受付の人に聞くと、彼は二階の手術室で治療を受けていると言う。
 急いで二階の手術室前へと来た。
 そこには既に、二人の人が椅子に座って待っていた。
「あの… お姉ちゃん?」
 そこには私のことを『お姉ちゃん』と呼ぶ、小さな女の子が泣きながら座っていた。
「どうしたの?」と尋ねると、彼女の代わりに隣に座っていた会社員風の男の人が答えてくれた。
 どうやら雰囲気的に、その事故現場にいた人らしい。
「実は、横断歩道を渡ろうと信号が変わるのを待っていたら、この女の子が突然後ろから押されて、道路に飛び出して倒れてしまったんですよ。信号も黄色だったので、大丈夫だろうと思っていたら、一台の車が猛スピードで走ってきましてね? この子を助けようと彼が飛び出し、助けたまでは良かったのですが… 彼は間に合わずに…」
 男の人は、その場の現状を、私に詳しく教えてくれた。
「それで… その車の運転手は… どこですか…?」
 私は止めどなく流れてくる涙を必死に堪え、男の人に聞いた。
「運転手は、今警察で取調べを受けてると思います…」
「……そうですか…」
 私は唇を噛み締めた。このやり場のない怒りと悲しみを絶えるのは、気が狂いそうなほどの苦痛であった。



 それから数時間後、手術中の赤いランプが消え、中から先生が出てきた。
「先生、どうなんです!? 助かるんですか!?」
 私はすがりつく様に何度も聞いた。
「少し落ち着いてください。一応一命は取り留めましたが…」
 先生の顔が一瞬、曇った。
「頭のほうを強く打っておられて… 最悪の場合、このまま意識が戻らない可能性もあります…」
 その一言に、私は愕然とした。
(つい昨日まで、一緒に楽しく遊んでいたのに… それがたった一日で、死ななかったとはいえ、もう目覚めないかも知れないなんて…)
 あまりのショックの大きさに、私はその場にへたり込んだ。
「ちょっ、しっかり… そうだ、あなたに一つ、渡しておくものがありました」
 そう言うと、先生は血で染まり、くしゃくしゃになった何かを渡してくれた。
「彼が手術を受ける前からついさっきまで、意識がないのにも関わらず、ぎゅっと大事そうに握り締めていたものです…」
 それは、どうやら潰れた小さな箱のようであった。
 震える手でゆっくり開けてみると、中から赤く染まったリングが二つ出てきた。
「うそっ…? これって…」
 それは、私が彼氏と入った、小さなアクセサリーショップで目をつけていた『ペアリング』であった。
(なんで? 私、「欲しい」だなんて一言も言ってなかったのに…)
 彼女は欲しいことを遠慮して言わず、彼氏はプレゼントにしようと内緒で考えていたもの。二人とも、同じものに目をつけていたのだ。
「なんで、なんでなのよぉ…」
 そのことに気が付いた瞬間、私はその場に泣き崩れた。
 彼女のその一言が、薄暗い廊下に悲しく響いていた。

  
 ―――翌年、12月24日のクリスマスイブ―――


 私は病院に来ていた。
「ねぇ? あれからもう一年よ? そろそろ起きたらどうなのよ…?」
 あの忌まわしい事故から一年、彼氏は植物状態のまま、未だに目覚める気配を見せない。
「もう、いい加減早く起きないと、ほかの所へ行っちゃうからね?」
 不機嫌そうに冗談を言ってみるが、やはり起きることはなかった。
「まったく… いつまで待たせるのよ…?」
 彼女が花瓶の水を換えにいっている間、彼の指が微かに動いた。
 だが、誰も気付くものはいなかった。
「よいしょ、新しい花活けてきたわよ?」
 窓際に、綺麗な花を活けた花瓶をそっと置いた。

 二人の指には、去年のクリスマスプレゼントのシルバー製のペアリングが鈍く、輝きを放っていた。
 あの頃の思い出が消えることのないように―――



 ――俺は夢を見ている。それは決まって同じ夢。
 天使の羽のように、真っ白な雪がふわふわと舞い降りている街を見ながら、喫茶店で彼女と二人、暖かいコーヒーを飲んでいるシーンから始まる夢――
 

〜〜〜終〜〜〜
2004/11/30(Tue)01:24:28 公開 / 夢幻焔
■この作品の著作権は夢幻焔さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、ご無沙汰してます。夢幻焔(むげんほむら)ですm(_ _)m
 えーっと、クリスマスが近付いているということで、季節のネタを取り入れたものを書いてみました。久しぶりに書いたので、文章力その他はガタガタだと思いますが…。また感想や酷評などを頂けると幸いに思います。それではこの辺で(o_ _)ノ
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除