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『麦立山のポコポン(読みきり連作)』 作者:ささら / 未分類 未分類
全角14815.5文字
容量29631 bytes
原稿用紙約48.55枚
麦立山のポコポン(読みきり連作)






                              ポコポン



 松下結城は夜もすがら誰かが自分の家――アパートの自室のドアを叩いている事に気づいた。
 ――誰!?
 壁時計を見ると、現在、午前三時である。
 結城は恐怖に震えた。いったいこんな夜中に訪れるものが正常な者であるはずがない。変質者か、幽霊か、はたまた物の怪の類かと。
 ――う、うそ、やだ、怖い!!
 しばらく、全身の感覚を耳に集中させて、必死にドアの向こうの気配を感じ取ろうとした。何かがドアの前に立っていることは、確かに感じられる。
 ――いったい、誰なの!!
 結城は、恐る恐る立ち上がり、ドアスコープから来訪者を確かめるために、忍び足でドアに近づいていった。
 結城が魚眼レンズを覗いた。そして、それを待っていたかのように、大きな真っ黒い眼が覗き返してきた。人間のものではない。
 ――ひっ!!
 結城は声にならない悲鳴を上げる。
 ドアの向こうの存在は、
「おや、今、御仁はもしかしてドアの前に? そうでしょう、そうなのでしょう?」
 と嬉嬉とした声を上げた。
「いやはや、おらっしゃらないものかと不安に感じていましたところであります。さあ、ドアを開けてくださいまし」
 ――ドアを開けろだって?
 そんな馬鹿なことなど絶対にしてはいけないと、結城は自分自身に言い聞かせた。着ぐるみを来て深夜に押しかけてくる人間など、異常者以外の何者でもないではないか。おそらく開けた瞬間に襲われ、身包みをはがされ、そして……。
「御仁? いらっしゃるのでしょう? どうか、某を部屋の中に早く入れてくださいまし。外が余りに寒いものでありますから、袋が冷えてしまいます」
 ――どうしよう。
 結城は苦悶する。とりあえず警察を呼ぶべきである事は分かっていた。いや、それより大声を出した方が早いかもしれない。そう決意した結城だったが、体は何故か鉛のように重く、声を出そうとしても軽い息がはき出るだけで音にならない。まるで金縛りにでもあったように。
 ――どうして!?
「御仁どうなさった!? 室内に邪気が満ちておりまする。」
 ――邪気!? 何を言っているの?
「御仁、危険でございまする、早くドアをお開けくださいまし!! 早く!!」
 扉の向こうの存在は声を荒げて、結城に危険が迫っていると主張する。それに対して、結城は恐怖と謎の金縛りで動けずにいた。
「これにて、仕方なし。僭越ながら強行いたしまする!!」
 ――強行?
 結城の頭の中に不吉な二文字が頭をよぎった瞬間、
 ――カチャン――
 結城の目の前でドアのチェーンが勝手に外れ、そして鍵も開錠された。そして、ドアが静かに開く。
 ――意外に地味な強行だ。
 結城は訳の分からないところで安心して、そして次の瞬間ドアの向こうにいる存在を見て絶句した。
 ――着ぐるみじゃない!!
 茶色いふっくらと太った毛むくじゃらの体に、眼の回りに黒い隈。短い手足に、尻尾が申し訳なさそうに生えている。
 ――これは、どう見ても……。
 前から見ても狸、横から見ても狸、下から見ても狸、たぶん後ろから見ても狸であった。
「某は、狸のポコポンで御座いまする」
 狸は自己紹介をする。結城は耳を疑った。
 ――狸がしゃべった!!
 いや、それより――狸がしゃべる事も大事だが――二本足で歩いて、しかもまるで漫画のような……いや、それより……、
「えと、ドッキリテレビですか?」
 頭の中が真っ白になった結城の、何とか口に出せたセリフがこれだった。
 結城は頭がおかしくなりそうだった。今見ている光景が現実であるとはとても思えなかった。思いたくなかった。
「ドッキリテレビ? 何を仰いますか!! 御仁、ポコポンがやってきたのですよ!!」
「知りません」
 結城は即答した。
「おや、ポコポンを御存じないとおっしゃりましたか? そうですね、そうなのですね?」
 ――ポコポン!! 何故かポコポンが私の家に来てしまった!!
心の中で叫ぶ。
 結城は愕然としていた。何故か、ポコポンとかいう異常な狸が深夜にやって来た。結城の頭の中は恐怖と絶望で渦巻いていた。
「ご説明に少しお時間を頂いてもよろしいかな?」
 結城は訳も分からず絶句していたが、ポコポンはそれを肯定と受け取って、
「それでは説明致しまする。某、遥か極東より参上致しました、仙人、ポコポンというものでございまする。本日は、御仁に取り付きし邪鬼を払うために参上した次第で御座います」
 ――仙人? 邪鬼?
「仙人? 邪鬼?」
 あれ、結城は再び恐怖に凍りついた。どういうことだろう。頭の中で考えた事が、勝手に自分の口から飛び出してくる。
「邪鬼の力が強くなっているのでございます。あるいは、某の霊力に反応してのことでございましょうか。御仁に取り付いた邪鬼は、『口滑らし』でございますので」
 ――何を言ってるの? このでぶ狸は。
「何を言っているの、このでぶ狸は」
 ――ちがっ!
「ちがっ!」
 ――何で、勝手に。
「何で勝手に」
 ――しゃべっちゃうのよ。
「しゃべっちゃうのよ」
「御仁、落ち着きくださいまし!!」
 ポコポンが叫んだ。結城は泣きそうな表情で、ポコポンを見つめる。
 ――どうすればいいの?
「どうすればいいの?」
「『口滑らし』を払う方法はただ一つしかございません」
 狸は結城を落ち着かせるように穏やかな声で言った。
 ――払えるの?
「払えるの?」
「もちろんでございます。そのために某が来たのですから」
 ――どうするの?
「どうするの?」
 ――早く何とかしてよ!!
「早く何とかしてよ!!」
 ――このデブ狸!!
「このデブ狸!!」
 ――ちがっ!!
「ちがっ!!」
 結城は口を両手で押さえる。そうしている間にも、もごもごと結城の口は勝手に動く。
 ――もう、嫌だ……。
「ほほ、ひはは」
 指の隙間から、空気のように音が抜け出す。結城の瞳から涙がこぼれた。
 ――ポコポン、助けてください……
「ほほほん、はふへへふははひ……」
 ポコポンは毛むくじゃらの手を、やさしく結城の肩に乗せ、
「『口滑らし』を払うためには聖なる歌を某と御仁で合唱すればいいのでございます」
 ――合唱?
「合唱?」
「はい、聖なる歌を唄うのです」
 ポコポンはそう言って笑みを浮かべる。
 ――聖なる歌?
「聖なる歌?」
 ポコポンは頷く。
「さあ、某に続いて合唱なさいまし」
 ――え?
「え?」
 結城は耳を疑った。
「それでは、皆様お口を拝借!! さあ御一緒に!! せーの!!」
 ポコポンは思いっきり息を吸う。
 ――ちょっと待って。 今は深夜なのよ!!
「ちょっと待って、今は深夜なのよ!!」
 しかし、ポコポンにはもう結城の声は聞こえていないようだった。
「た、た、たぬきの○○○○は〜♪」
 ――嘘!! まさか!!
「嘘! まさか!!」
「か〜ぜもないのぶ〜らぶら〜♪」
 ポコポンはなおも唄い続ける。
 結城は顔を真っ赤に赤面させながら、
 ――や、止めて、お願い!!
「や、止めて、お願い!!」
 必死にポコポンを止めようとするが、体が動かない。
「そ〜れをみ〜てい〜たお〜やだ〜ぬき〜♪」
「そ〜れをみ〜てい〜たお〜やだ〜ぬき〜♪」
 ――私の口が勝手に!!
「私の口が勝手に!!」
「おお、良い歌声ですぞ、御仁!!」
 ――ちがっ!!
「ちがっ!!」
 結城の意思とは裏腹に、『たんたんたぬき』の歌は口を割って出てくる。 しかも軽快に。
 それは、あまりにも大きな美しくハモッた合唱で、そおの轟音はアパート中に響き渡っているものと思われた。
「お〜なか〜をか〜かえ〜てわっはっはっ♪」
「お〜なか〜をか〜かえ〜てわっはっはっ♪」
 結城は絶望的な気分で呻いた。近所の住人が怒鳴り込んでくるのも時間の問題だ。そしたら、なんと説明すればいいのだろう、と。
「さあ、続いていきますぞ!!」
 ――え、まだやるの!?
「え、まだやるの!?」
「もう少しでございます!!」
 ポコポンはふくらんだおなかを、ポン、と叩き、
「さあ、行きましょうぞ!! そら、お口を拝借!!」
 ――ま、待って!!
「ま、待って!!」
「それ!! た、た、たぬきの○○○○は〜♪」
「それ!! た、た、たぬきの○○○○は〜♪」
 ――止めて、よりにもよって私が○○○○なんて!!
「止めて、よりにもよって私が○○○○なんて!!」
 ――もういや……。
「もういや……」
 結城は泣き叫んだ。
 しかし、それでも、結城の口からは留めなく『たんたんたぬき』の歌が流れるのだった。
 二人、一人と一匹の合唱は夜遅くまで続いた。そして、そのおかしな合唱はアパート中に響き渡った。


 何分経ったのだろうか。結城が気づいたとき、目の前――ドアの前には数人の人だかりが出来ていた。そのうちの一人、大家が、前に進み出てきて、
「松下さん、あんた、いったいどういうおつもりで?」
 怒りで爆発しそうなのをこらえるような声で結城に詰めかかった。
「え、私は、だって、ポコポンが……」
 結城はしどろもどろしながら横を振り向くが、
「あれ? ポコポン? どこ?」
 ポコポンの姿は既にない。
「あれ? おかしいな。さっきまでいたんです、本当に。あれ、どこ、え? ちょっと待って、あれっ?」
「ポコポン? 失礼ですが、あんたドラックでもやってなさるんとちゃいますか? よりにもよって、○○○○などとこんな深夜に大声で……」
「違います? 本当にいたんです。ポコポンが私の邪鬼を払うって!!」
 結城は必死で訴えるが、大家と、周りの住人達は、哀れみと軽蔑の目を結城に向けているだけだった。あまりに理不尽な憤りを感じながら、
――みんなして、勝手な事を言って……私が悪いんじゃないわよ!!
 結城は、思わず心の中で叫ぶ。
「みんなして勝手な事言って……私が悪いんじゃないわよ!!」
 そして、それに違うことなく結城の口から爆音が発せられる。
 突然の結城の叫びに唖然とする住民達を見つめながら、
「口滑らし治ってないし……」
 結城の中で、何かが音を立てて切れた。
 そして、次の瞬間、結城の口からポコポンの恨みつらみが轟音となって、夜の街中に響いたのである。あまりに下品な言葉であった。それが、結城の心の中で描いたものか、実際に結城が自分の口を動かして発したものかどうかは誰にも分からない。

「この○○○○野郎が!!!!!!」

               終わり







     


                          麦館山のポコポン




 新人の仙人、狸の玉道(たまみち)が自らの住家――古ぼけた築年数四十五年の賃貸アパートに帰路についたのは、明け方の四時半のことだった。玉道は、仙人としての職務である『邪鬼払い』を済ませて、心身共にへとへとに疲れきっていた。
 ――『邪鬼払い』それは、現世に巣食う『邪鬼』を払う仙人の重要な役目。
 今回が自分にとって三回目の仕事であったが、我ながら上手く出来たはずであると、玉道は意気揚々としていた。そして、疲れていながらも、仕事を終えたという達成感が、毛むくじゃらの丸い体にとても心地よかった。
 しかし、ずいぶんと大声で歌ったせいで玉道の喉はかなりひりひりしていた。
 ――ああ、早く水が飲みたい
 コップたっぷりの水一気に飲むのは仕事を終えた後の玉道の楽しみの一つである。
 水の仄かな酸味を想像すると疲れた足も軽くなる心地がする。ふっくらとした毛深い腹を揺らしながら、玉道の足は自然と早くなる。しばらくして、ようやく住処のアパートの前にたどり着いた。
 玉道の住処は二階にある。
 自分達夜行性の狸と違って、人間はもう寝静まっている事だろう。なるべく足音を殺しながら一段一段静かに階段を上る。自分の家のドアの前に着いて、玉袋から鍵を取り出す。鍵を挿し回し、毛むくじゃらの右手で自分の家のドアノブを回した。
 扉を静かに開くと、
「お帰りなさいませ。玉道さん」
 玉道よりも少し薄い毛色に、しかしお腹は玉道と同様にふっくらと膨らんでいる。
 ドアの中の狭い玄関に自分の妻、玉子(たまこ)が立っていた。
「ただいま、玉子さん」
 玉道は出迎えてくれた妻、玉子に向かって微笑んだ。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇


「お疲れでしょう、玉道さん。本当にお勤めご苦労様です……」
 玉子はしみじみとそう言って、玉道の前のグラスに水をたっぷり注ぐ。待ちきれない気持ちでコップに水がなみなみと注がれるのを見て――それを一気に飲み干した。
「おいしい……」
 玉道は大きく息を吐く。待ちに待った瞬間だった。
「ああ、本当においしい。やっぱり、水は故郷の麦立山のものでなければね……。水道の水は不味くていけない」
 玉道は感慨深げに呟く。
「本当に、玉美叔母様に感謝しなくてはね。毎週、麦立山の水を贈って下さって」
 玉道は頷いて、
「うん。この水がなかったら、僕はもう人間界での生活に嫌気がさして、麦立山に帰っていたかもしれないな。故郷の味を噛み締めるたびに勇気が沸き起こってくるよ……」
 玉道は、姿勢を楽にし、座布団の上で胡坐を掻いた。そして、故郷の懐かしい味に触発されて、仙人になる前、今では遠い昔のことに感じられる、自分がまだ麦立山を走り回っていた時代――過ぎ去った過去に思いを巡らせた。思わず目頭が熱くなってしまう。
 玉道は、自分の眼からいつも涙がこぼれてしまうのは、自分がまだ仙人として半人前だからと自分を戒めようとするが、それでも涙は止まらない。
「玉道さん」
 玉子は、玉道に花柄の青いハンカチを差し出した。玉道は受け取って、自分の涙を拭いた。
「水が入ると湿っぽくなっていけないや」
 玉道は、はにかんだ笑顔を作ってみせた。
「それは、決して恥ずかしい事ではありませんよ、玉道さん。故郷の事を思って涙を流すのは、玉道さんが未熟であるわけではなく、玉道さんが純粋である証拠です。それに、私も時々、故郷が、麦館山が恋しくなるときがありますから……」
 そう言って、玉子の瞳からも一筋の雫がこぼれた。
「もう、玉道さんのせいですよ。待ちくたびれて欠伸が出てしまいましたよ」
「玉子さん……」
 玉子は不覚な事をしてしまいました、と照れ笑いして。
「さあ、ご飯にしましょうか」
 と台所の奥へと引っ込んでいった。玉道は、玉子の去っていく背中を見つめながら、何となく切ない気持ちに浸っていた。そこに、
「おとうたん、お帰りー」
 玉道より大分小さい体に、玉道よりも柔らかい毛、真っ黒な大きな丸い瞳。しかしその腹は父と同様にやはり膨らんでいる。
 玉道の四歳の息子、玉五郎が目を擦りながら、父親である玉道の元へ、おぼつかない足取りで歩いてきた。さっきまで仮眠をしていたようで、まだ目は半分閉じたままである。
 玉道は、目に入れても痛くない、愛する息子――玉五郎(たまごろう)に穏やかな笑顔を向けながら、
「何だ、玉五郎もまだ御飯を食べないで待っていてくれたのか」
 そう言って玉道は息子のまだ毛が短い頭を撫でた。
 玉五郎は照れたように頷いて、すとん、と玉道の隣に収まった。
「玉五郎ったら、お父さんを待つんだって聞かなかったんですから」
 台所の奥から玉子の微かに苦笑いの混じった声が響く。
「そうか、ありがとうな、玉五郎」
 そう言って、玉道はもう一度愛する息子の頭を撫でた。玉五郎は、てへへ、とくすぐったそうに笑う。
「おとうたん、今日はどんな『しゃき』をはらったのー?」
 玉五郎は父親の膝に寄りかかりながら、目を輝かせている。
「うん、今日は『口滑らし』っていうこわーい邪鬼だよ」
「くちすべらしー?」
「そう。こいつは、なかなか厄介で、『口滑らし』に取り憑かれた憑者は思った事をしゃべらずにはいられなくなってしまうんだ」
「へー」
 少しの恐怖で大きな好奇心で玉五郎はくりくりした瞳をさらに輝かせる。
 玉道は何となく満足げにその息子の様子を見つめて、
「でも、お父さんにかかればあっというまさ。お父さんの『聖なる歌』で『口滑らし』もたまらず地獄へ帰って行ったよ」
「すごーい!!」
 感嘆の声を出して、玉五郎は、きゃっきゃと跳ねた。
「こら、玉五郎!! 今は人間が眠っている時間なの。あんまり騒いでは駄目よ」
 玉子の声に、玉五郎は少しうなだれた。しかし、その顔はすぐに笑顔に変わって
「おとうたん、あれやってー!! いつもの!!」
「こら、玉五郎。お父さんは疲れているのよ」
 玉子が台所から出てきて、料理の乗った皿をテーブルの上に並べながら言った。玉道は、大丈夫だよ、と玉子に笑顔を向けて
「しょうがないな……」
 とまんざらではない様子でその場で立ち上がった。
「それじゃあ、行くぞ」
「うん!!」
 玉道は、少し歩幅をとって、扉を開ける演技をしてから、片手を前に突き出して、
「某は狸のポコポンでございまする」
 我が子に向かって両手を広げ大袈裟にポーズをとってみせた。
 感動に言葉を失っている息子を見つめながら、
「本番でもここまでやらないんだからな。玉五郎には大サービスだ」
 照れながら頭を掻く。
「おとうたん、かっこいいー!!」
 玉五郎はきらきらした瞳で父親を誇らしげに見つめる。
 そして、何度か玉道が『口滑らし』を退治したときの様子を手振り交じりで玉五郎に伝え、玉五郎が何度目かの感嘆の声を漏らした後、テーブルの上にはお払い祝いの何とも豪勢な料理が出揃った。


◇      ◇      ◇      ◇


 玉道の元に、玉道の上司で、東の仙人たちを束ねる長――東仙長から電話がかかってきたのは、玉道がまだ夢の世界にいた、玉道の『口滑らし』払いと同日の午後六時過ぎのことだった。心地よい深い眠りから、突然電話で叩き起こされたことに不機嫌になりながらも、東仙長からの電話には出ないわけにはいかないと、玉道はしぶしぶ受話機に向かった。
 そして、東仙長が電話の向こうで話し始めた内容を聞いて、玉道は、眠気など一瞬で吹き飛んで、そして唖然とした。
「何ですって? 私が『口滑らし』のお払いに失敗した? そんな馬鹿な!?」
 玉道は思わず受話器を落としそうになるのをなんとかこらえた。そして、自分の耳を疑った。何度も自分に確認する。確かに、自分は『口滑らし』をお払いしたはずだと。
 ――まったく、私は信じられない限りだよ。まさか、君が『口滑らし』ごときのお払いも出来ないとは……。
 電話の向こうの東仙長は、かなり呆れているようだった。玉道は、もう一度、自分が『口滑らし』をお払いしたときの様子を思い出してから、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! 私はちゃんと『かっこいい仙人のあり方』に記された通り、『口滑らし』のお払い方法である聖なる歌を唄いましたよ!!」
 玉道は断固として主張する。その声に東仙長はため息を漏らして、
 ――君はまだ『かっこいい仙人のあり方』なんて幼稚なものを読んでいるのか? せめて、『仙道百選』とか、『神仙異聞禄』とか読もうとは思わないのかね?
「いや、でも、それらには漢字に振り仮名がないので……」
 玉道はくぐもった声で言う。東仙長はもう一度ため息をついて、
 ――まあいい。それで、君はどんな歌を唄ったんだね?
「え? 私が『口滑らし』を払うときに唄った歌ですか?」
 ――そうだよ。聖なる歌なのだから、当然、格式高いものを選んだのだろうね。
 玉道は少し考えて、
「もちろんですよ。我が里に古くから伝わる『たんたんたぬき』を憑主と共に合唱しましたから」
 自信たっぷりに答えた。
 ――たんたんたぬき? 聞いた事がない歌だが……、狸の里に伝わる歌か……。それで、それはどういう歌だね? 少し唄ってみてくれないか。
「今ここで、ですか?」
 玉道は尋ねる。
 ――そうだよ。早くしたまえ。
 少し迷った後、
「わ、分かりました。それでは僭越ながら……」
 玉道は丸まると膨らんだ腹に大きく息を吸い込ませて、
「た、た、たぬきの○○○○は〜♪」
 ――ちょ、ちょっと待て!!
 東仙長の声が玉道の歌を遮ろうとするが、玉道には聞こえていないようだった。玉道は『たんたんたぬき』をなおも歌い続ける。心なしか、調子が出てきたようだった。
「か〜ぜもな〜いのにぶ〜らぶら〜♪」
 ――待てといっているだろうが!!!!!!!
 地を揺るがすほどの怒声が玉道の鼓膜を貫いた。玉道は唖然として、
「うわ!! な、何ですか、いきなり……」
 ――君は、あー、まさかとは思うが、その歌をお払いのときに唄ったと言うんじゃないだろうね……。
 東仙長は、恐る恐る尋ねる。玉道は、喜々とした声で、
「ええ、唄いましたとも!! まさに、聖なる歌でありましょう!!」
 誇らしげに言った。そして、その直後、受話器の向こうから東仙長の今まででもっとも大きなため息が聞こえた。
「どうなされました? 東仙長」
 玉道は、不安気に尋ねる。
 ――いや、何故、君が『口滑らし』ごときをお払いできなかったか、その理由が今、私にもやっと分かったよ。
「そ、それはどういった意味で? 私の歌がへたくそであるという事でしょうか……」
 玉道は少し悲しげな声でつぶやく。
 ――いや、そうではなく……。あー、まことに遺憾ではあるが、君の、その狸の里とやらに伝わっている歌は世間一般において聖なる歌とは呼べないのだよ。
 玉道はこれには驚いて、
「何故ですか!? 狸王も愛した歌ですよ!!」
 と叫ぶ。驚き興奮し、ありえない!! と叫ぶ玉道を何とか落ち着かせて、東仙長は、
 ――狸王が、どうとか……君の歌声が、どうとか……いや、……もういい。それで、事実として君は『口滑らし』をお払いできなかったわけで、それは理解できたかね?
 落ち着き払った声で尋ねる。
「はあ……正直、納得できない事ではありますが……」
 玉道は、まだ若干の憤りを感じながら呟いた。
 ――『口滑らし』は排除されていなかった。そして、たまたま憑者の前を通りかかった別の仙人が、代わりに『口滑らし』を退治してくれたよ。
「べ、別の仙人?」
 玉道は驚いて尋ねる。
 ――ああ、極西のウラクルとかいう狐の仙人だ。偶然通りかかった所、街中で憑者がわめき散らしているのを発見したらしい。
 そう言った東仙長の声には微かな落胆が含まれていた。
「極西の……」
 ――うむ。我々としては、あまり借りを作りたくない奴に貸しを作ってしまったというわけだ。真に不本意ではあるがね。
「それは、とんだ事でありますね」
 玉道はしみじみと言った。
 ――君がそれを言うかね?
「はあ……」
 ――それで、君は今回仕事を失敗したと言う事を認識してもらいたい。
 玉道は愕然とした。確かにお払いは成功したと思っていたのに、いったい何がどこで間違ったというのだろう。いくら考えても、玉道の頭の中に答えは浮かばなかった。
 玉道は、ハッとして、
「そ、それでは、お払い賃は……」
 と恐る恐る尋ねた。
 ――勿論出ないよ。出るわけないじゃないか。君は、あー、結果的には何もしていないし、むしろ、憑者は君に対して……言っていたらしい……、
「な、なんとおっしゃていたのですか?」
 ――うむ。君の事を○○○○野郎と……。
 玉道の顔はみるみるうちに紅潮し、
「なんたる恥辱!!」
 愕然と叫んだ。
 ――局内でもねぇ。最近、君の事は色々と噂になっているんだよ。悪い意味で。
 東仙長は言いにくそうに呟いた。
「ど、どのような……」
 ――ま、私の口から言っていいものかどうか迷うところではあるがねぇ。君の事を、あー、ただの腹と○○○○のでかい奴だと……。
 すでに興奮でりんごのように真っ赤になった顔をこれでもかと紅潮させて、
「そ、それは狸全てに対する侮辱じゃないですか!!」
 ――うむ、一応私の方でも諌めておいたが……しかしだね、局内でこういった噂が上がるという事は、君の方にも責任があると言う事を分からなければならないよ。
「何と!! 私の腹と○○○○が大きいのは罪であると言うのですか!? 社会悪と!!」
 玉道はもはや怒りで頭の中が沸騰しそうだった。東仙長は玉道の声に気圧されながら、
 ――い、いや、何もそこまでは言わないが……あー、せめて、服を着て外を出歩いたらどうかね? ただでさえ動物の仙人は風当たりが厳しいわけであるし……。
 さりげなく提案した。しかし、これに対して玉道はもはや、これ異常ないというぐらいに声を荒げて、
「狸は服を着ない生き物です!!」
 絶叫した。東仙長は、まあまあ落ち着きなさい、と玉道に冷静になる事を呼びかけるが、今の玉道にはとうていかなわない事だった。狸の一族を汚された怒りに、体中の毛が総毛立っていた。
 ――君の言い分も分かるが……。あー、いや、君とここで狸の服装のあり方を話し合っていても仕方がない。
「何をいうのですか!! 我々の威信にかかわる問題ですよ!!」
 ――あー、分かった、分かったから。服は着ないでよろしい……ただし、周りからどう言われようと、私は知らないがね……。それより私も忙しい身だ。そろそろ本件に入らせてもうよ。
 東仙長の声に、玉道は急速に我に返った心地で、
「本件ですか?」
 と聞き返す。
 ――ああ、あー、君は事実としてお払いに失敗したわけだから……当方としては規則どおり、君を停職処分にしなければならないのだよ。
 玉道は愕然とした。こんな馬鹿な話はあるだろうか、と。自分には落ち度などあるはずはない。こんなにも喉をからして、自分は誠心誠意勤めを果たしたと玉道は自負していた。理不尽に対する憤りが込み上げてくる。
「そんな馬鹿な!! 私は心を込めて喉がかれるまで唄ったのに!!」
 玉道は、絶望と、憤りが混じった声で叫んだ。
 ――君は、二ヶ月間の停職処分だ。私も忙しいのでこれで失礼するよ。それでは……。
 東仙長は何となくばつが悪そうに早口で呟いて、
「ま、待ってください!! 東仙長!!」
 と玉道が叫んだ瞬間には、電話は既に切れていた。ただ一人、唖然と受話器を耳に当てる玉道を残して……。


◇      ◇      ◇      ◇


 受話器を電話機に置いて、ふらふらと寝所に入ってきて布団に向かう玉道を、玉子は呼び止めた。玉道は、焦点の定まらないおぼろげな瞳を玉子に向けて、
「ああ、玉子さん。『音締め』の術を使っていてくれたんだね。そうだね、僕があんなに大声で叫んだんじゃあ、ご近所に迷惑だもの……」
 そう呟いて、力なく笑った。玉子は、夫のただ事ではない様子を心配そうに見つめながら、
「玉道さん。お役所様はなんとおっしゃっていましたか?」
 不安そうな声で尋ねる。玉道は、まだ信じられないことを聞いた事が信じられないといった様子で、
「……僕が、『口滑らし』のお払いに失敗していたって……」
 と呟き、毛むくじゃらの手で丸くぷっくりとした腹をさすった。玉子はあまりの事に口を覆って、
「そ、そんな……」
「……それで……謹慎だそうだ。二ヶ月間の……」
「ああ……」
 玉子は布団に顔を埋めた。玉道は妻のその様子を、どことなく人事のように眺めていると、
「おとうたん? どうしたの、何でそんなに悲しい顔してるの?」
 いつの間にか目を覚ましていた玉五郎が不安そうな顔をしながら玉道に尋ねた。玉道は、玉五郎に向かって微笑んで、
「ああ、お父さん、明日から玉五郎と一緒にたくさん遊んであげられるぞ。お仕事にお休みを貰ったんだ」
 そう言って、複雑な表情で微笑んだ。
「おとうたん、本当!?」
 玉道の身に起こった事情など一切知らない玉五郎はこれに素直に喜んだ。
「ああ、本当だ。明日は一日中遊ぼうな。だから今日はもう眠りなさい。夜更かししていたんじゃ、明日眠くて遊べないだろう?」
「うん!!」
 玉五郎はにっこりと笑って、布団に飛び込んだ。そして、数秒後には既に寝息が聞こえてきた。玉道は、こんなにも無邪気な我が子をうらやましそうにしばらく見つめて、そして、静かに顔を布団に埋め、涙を流した。



◇      ◇      ◇      ◇



「しかも、憑者はかんかんだそうだそうだよ……」
 玉道と玉子は居間のテーブルを囲んで座っていた。泣くだけ泣いて、その後にようやく二人に話し合えるだけの活力は戻った。しかし、その声は疲れ果て、少し枯れていた。
「どうして……」
「もしかしたら口調が偉すぎたのかもしれない……。はは、『某』なんていかにも偉そうだよね。僕は、仙人は威厳があるほうがいいと思ったんだ。けど……、ちょっと……少しばかり『役』に入りすぎちゃったのかも……」
 玉道は自虐的に笑った。それを聞いた玉子は、少し考えて、
「玉道さん、それより『仙名』がいけないのではないでしょうか……。 『ポコポン』なんて、こっちの世界では受けが悪い名前なんじゃ……」
 玉道は首を振って、
「何を言うんだい、玉子さん。『ポコポン』は狸界のヒーローの名前じゃないか。最高の名前だよ。体がぞくぞく燃え立つようなさ!! それを知らない者なんているはずないだろう? まさか、憑者が『ポコポン』を知らないとは思わなかったけど……」
 最後の部分は尻すぼみになっていた。玉子は、疲労している玉道を見つめながら、
「でも、玉道さん……人間は狸界のヒーローなんて知らないのではないでしょうか……」
「それは……」
 そうかもしれない、と玉道は思ったが、あえて口には出さなかった。口に出す事はとても悲しい事であるように思えたから。玉子はそんな夫の様子を悲しげな瞳で見つめて、
「玉道さん、いっその事、『玉吉』とか『玉えもん』とかありふれた普通の名前にした方がいいのではないでしょうか」
 と小さな声で呟く。玉道はしばらく玉子の言葉に対する答えを考えていた。
 しかし、玉道は、これだけは譲れない、譲るわけにはいかない、と感じて、
「いいかい? 僕は、ポコポンのようになりたくて仙人になったんだ。わざわざ故郷を離れてまで。仙人の学校の社会人試験まで受けてだよ」
落ち着いた声で呟く。自分自身に対して、確認しているような声だった。
「でも……」
 玉子が次の言葉を出そうとするのを遮って、
「ああ、もしかしたら、お払いの後、成功したかを確認をせずにとっととその場を立ち去ってしまったのが悪かったのかもしれない。――いや、もちろん自信はあったけど、だって、ヒーローの『ポコポン』は事件を解決したら、いつもいつの間にかいなくなっているから……」
 ごまかすように呟いた。玉子も言葉を出すタイミングをくじかれてしまい次の言葉がつなげられない。しばらく沈黙が続く。
 その沈黙を割るように、この場に雰囲気に不釣合いの音が響いた。
 短い電子音。玉道は、その音に反応して玉子が立ち上がろうとするのを制して、
「ああ、僕が出るよ」
 と代わりに立ち上がる。そして、そそくさと、箪笥の引き出しの一つから一枚の枯葉を取り出して、自分の頭の上においた。
 目をつぶって、玉道が悶々と念を唱えると、次の瞬間には、玉道の姿は狸のそれから、人間の姿に変わっていた。二十台前半の青年の姿である。さらに急いで、洋服ダンスから少しほこりの被った人間の衣服を取り出した。
「玉子さん。変じゃない?」
 自分の見慣れない体をせわしなく調べながら、不安げな声で玉子に尋ねる。
「ええ、完璧ですよ」
 玉子の返事に安心して、玉道は玄関に向かった。



◇      ◇      ◇      ◇



「いえ、うちは間に合ってますんで。はい。すみません。失礼します」
 そう聞こえてしばらくした後、玉道は居間に戻ってきた。
「新聞の勧誘だったよ」
 と苛立たしげに呟く。そそくさと服を脱ぎ捨てて、
「はあ、全く、何でこう人間の世界は面倒なのか……」
 と言って、頭の上に手を伸ばす。玉道が頭の上の枯葉を取って狸の姿に戻るのを見つめながら、
「あの、玉道さん。私、思うのですけど、いっその事、変化したままでお払いした方がいいのではないでしょうか……」
 と玉子は目を伏せながら呟いた。
 一瞬、場に静寂が生まれた。玉道は玉子が今、自分に言った事が信じられなくて、思わず一瞬声を失ってしまったのだ。
 玉道は、玉子さん何と言う事……、玉子さん何と言う事を……、と小さく何度も悲しげに呟いた後、徐々に目に涙を溜めて、
「玉子さん!! なんてことを言うんだ!! それは、狸の誇りを捨てる事だ!! 僕は麦立山の皆の、いや、狸族全ての期待を背負って仙人になったんだ!! それを、狸であることを隠すだって!? そんな事は僕達を笑顔で送り出してくれた皆に対する侮辱だよ!!」
 泣きながら叫んだ。
「ごめんなさい。私そんなつもりじゃ……。ごめんなさい、私………」
 夫の怒気に怯えながら、玉子も泣く。
 自身で泣きながら、そして玉子の涙を見ながら玉道は、今日自分達は涙を流したのが何度目かであるかすらわからないのに、それでもどうして涙は枯れないのであろうかと、もはや既に頭がパンクしかけておかしなことを考えてしまう自分に呆れていたのだった。


◇      ◇      ◇      ◇

 静寂な部屋の中を、玉子のしゃくりあげる声だけが支配していた。
 玉道は既に数分前に泣き止んでいた。そして、思いっきり泣いたせいであるかはわからないが、不思議と自分の心が落ち着きつつある事を感じていた。そうなれば、平静を取り戻しつつある玉道の心は、自然と目の前で目を晴らしている玉子に移るものである。
 どうして自分はこんなに愛しい、自分の事を、家族の事を切実に考えてくれている妻を泣かしてしまったのだろうかと。ただただ、後悔の念と罪悪感が募ってきた。
 玉道は考える。
 自分が二ヶ月間の間、職を失ってしまったのは事実である。それを現実として受け止めなければならないと。そして、その間に自分にやれることはなんであろうかと。
 自分が愛する家族のために出来る最大の事は、と。
 ……やがて、数分間考え抜いた後、玉道は一つの結論に達した。
 玉道は決意を胸に込めて立ち上がった。その心にはもはや迷いなど微塵もなかった。
 玉道は玉子の涙でぬれた手に、自分の手をそっと重ねた。
 玉子は、少し驚いた顔で、玉道を見上げる。玉道は微笑を浮かべて無言で首を振った。
「……玉子さん。落ち込んでいても仕方がないよ。どんどん気持ちが沈んで、最後は泥沼にはまって抜け出せなくなってしまうもの」
 そして、玉道は玉子をそっと抱きしめた。
「玉道さん……?」
 玉子は一瞬体を強張らせたが、すぐに解いて、玉道に体を預けた。玉子は、夫のぬくもりを感じながら、自分の心が穏やかに静まっていくのを感じていた。
 玉子を抱きしめながら、
「僕は今まで甘えすぎていたようだ。確かに、少しは妥協しなければ、この世界で仙人なんて出来ないのかもしれない……」
 玉道は少し不器用に言葉をつむぎ始める。
「玉道さん……」
「僕は自分に、いや、玉子さんに甘えていたんだ。それに、きっと僕はずっと無力な存在であるはずなのに、仙人になれたからって驕っていた」
「そんな事は……」
 玉子が玉道の言葉を否定しようとするのを、
「いや、そうなんだ」
 玉道は首を振って遮った。
 そして、静かに愛する妻の玉子の体から腕を、体を離した。
「玉子さん……。玉五郎には約束守れないでごめんって言っておいて。本当に勝手だけど……」
「た、玉道さん、まさか!?」
 玉子は、玉道の決意を察して、思わず夫の毛むくじゃらの尻尾をむんずと掴んだ。しかし、玉道はその手をやさしく振り解いて、
「うん、そうさ。もう決意した。僕はもう少し先に進んでみようと思うんだ。勇気を出して、もう一歩先に……」
 悟ったように穏やかな顔で、玉子に微笑みかける。玉子はその夫の顔を見て理解してしまった。ああ、もう自分にはこの人は止められないのだと……。玉子は心配ではちきれそうな自分の胸を押さえながら、
「玉道さん、それではいってしまうのですね……」
 と目を潤ませて呟いた。玉道は大きくはっきりと頷く。
 そして、顔には満面の笑みを浮かべながら……、





                        「うん、今から仙道百選を買いに行くよ!!」


                        気持ちの良いぐらいの清々しい声で叫んだ。





                                 終わり

2004/11/27(Sat)10:18:07 公開 / ささら
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■作者からのメッセージ
お読み下さりありがとうございます。
え〜、ポコポンの続編であります。
前作よりも大分長くなってしまいました。
今回は、ポコポン(玉道)視点で話を進めてみました。稚拙な地の文が少ない小説ですが、これは出来るだけわかりやすくと思って書いた次第であります。読みにくかったらすみません。(苦笑)それでは。また、ポコポン連載で書いてみようかなぁ、なんて少し考えているのですが、そのことに関して、『止めた方がいいよ』とか『書いてみたら?』など、一言でもいいので意見があったら嬉しいです。それでは。
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