オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『シャラップ! 2の中編〜後編』 作者:小田原サユ / 未分類 未分類
全角10040文字
容量20080 bytes
原稿用紙約34枚


1話 スコール

某県田舎の山奥に位置する大郁小学校は、今時超珍しい全木造のボロい小学校で、全校生徒9人、教員も先生1人と校長の2人だけという小さな学校である。それでいて、よくテレビなどで見る廃校寸前の小学校のアットホームさなど無く、至ってどこの学校と変わりなかった。多分、その手の番組は結構な芝居がかかっていると思う。
そんでもって学校にはクラスが一つしかなく、1〜6年生まで同じ教室で受けている。と、言っても1年生と2年生は居ない。
そんな廃校寸前の小学校の唯一の6年生である僕は年下にいじめられている。まぁ、いじめられていると言うかハブられている。常にひとりだ。
朝はいつも気が滅入る。また、学校に行かなくちゃいけないんだと。
そんな時は「あと、1年の辛抱」と心に言い聞かせている。中学生になったら、市内の中学校に通う事になってるのだ。そしたら、そこで友達を作って奴らに仕返しをしてやろうとみみっちぃ事を考えている。
今日も朝が来た。僕はいつものように言い聞かせて、つまらない小学生ライフをおくっているのだ。



――グギィ…ギィ…ギギィー……

このボロい学校は、掃除時間になると床が悲鳴をあげる。机を少し動かしただけで、ギィギィ音が鳴るのだ。力の無い僕が机を運ぶと、獣の鳴き声のような凄まじい音がするので、努めてほうきをやる事にしている。今、机を運んでいるのは4年生の女子。自分がちょっと情けない。

――サッサッサッ……

そして、僕はほうきをはいている。
ほうきをはく音は単調でつまらない。まぁ、ほうきをはく音に面白さを求めたってどうにかなるって訳じゃないんだけど。
「あはは、何それ? 本気ウケるんだけど」
「だろ? そんでさぁ〜」
掃除をしているすぐ側で3人組の男子がサボっていた。
僕は無視して掃除を進めていく。すると、後ろから服の袖を引っ張られた。
「あのさぁ、あの人達に掃除やるように言って欲しいんだけど」
机を運んでいた子だった。僕は即答で「いやだ」と言ったが、あまりにもしつこかったので断り切れなかった。こういう時ばっかり僕を利用するのはやめて欲しい。
「――ったく!」
ほうきを持って3人組の方に歩いて行った。
「ねぇ。掃除、真面目にやってよ」
「はぁ?」
さっきまでの笑い声が途絶えた。
「掃除だってば」
「お前がやってるじゃん」
「そっちも当番だろ」
持っていたほうきを前につきだした。
「つーか、お前しつこいんだけど。ウザイ」
そう言うと、3人組は教室を出て行き、僕はその姿をじっと見つめていた。
「はぁ」
ため息をつくと、掃除を再開した。
「按(あん)君、あの人達呼んで来てよ」
久しぶりに両親以外で名前呼ばれた。ちなみに僕のフルネームは崗屋 按(おかや あん)変な名前だねとよく言われる。自分でもそう思う。今度こそ僕は断った。これ以上利用されるのはごめんだ。
「按君! はやく行ってよ!」
なおも女の子は僕に命令する。うるさいなぁと思いながら無視してほうきをはきつづける。
「はやく行ってよ!」
無視。無視。
「按君ってば!」
しつこい。
「按! 行け!」
呼び捨てかよ。しかも目の前で仁王立ちしてきて邪魔だし。
「あのさぁ、そこ居るとほうきはけないんだけど」
僕はその子の足下をほうきではいた。それがいけなかった。
その子はキレた。

――バチーーンッ!

威勢の良い音が響く。
左の頬に平手打ちが飛んできて、僕はか弱いのでよろけた。そして間をあけず「はやく行けぇぇぇ!」という声と共に跳び蹴りを喰らった。あまりの痛さに意識が遠のいていた。そんな中、僕がか弱いんじゃなくこの子が凶暴すぎるんだと悟った。本能が「危険!」と叫んでいる。このままだと、キャメルクラッチまで喰らいそうな勢いだったので僕はすぐに教室を出た。



廊下、職員室、体育館、トイレ……
「見付かんねぇー」
未だに顔がジンジン痛む。全く! 自分で行けば良いのに。
一応、くまなく探してみたものの見付からない。周りをキョロキョロしてると、チャイムが鳴った。掃除終了のチャイム。僕はUターンをして教室に戻ろうとしたが、見つけださないと今度はキャメルクラッチを本当にお見舞いされると思ったので探し続けた。
そして、10経過。
いない。
本当に何処にもいない。これで教室に戻ってるというオチだったらどうしよう。
そう思いつつ、教室の目の前に来た。

――ガラガラ……

コッソリ開けたつもりが、この学校はボロいのでドアの建て付けが悪い。教室の中を覗くと3人はすでに戻っていて、帰りの会(HR)の真っ最中だった。やっぱりなという気持ちと、今まで探し続けた自分のアホさに呆れた。しかも大分遅れてきたので僕は先生に怒られて泣きたくなった。そして10分くらいこっぴどく怒られた後に席に着けた。
「明日は調理実習なのだが――」
先生は帰りの会を何事もなく再開していった。
怒られた直後だというのに僕はほとんど先生の話しを聞いていない。と言うか、基本的にいつも先生の話は聞かない。大抵窓の外を見ている。だから今も聞いていない。
「――と、エプロンを必ず持ってくるように!」
さっきまでの曇り空が一気に雨に変わっている。音もポタポタからザーザーという激しい音になっていた。
「崗屋! 聞いているのか!」
あーホント凄い雨。スコールみたいだなこれ。どうせにわか雨だし、すぐ止む。
「崗屋!」
ヤバッ! 傘忘れてきた!
「崗屋!!」
こりゃ走って帰るしかないな。
「崗屋ぁぁぁ!!」
先生の大きな声が轟いた。僕はやっと自分が呼ばれている事に気付く。
「へ? は、はいっ!」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「もういい。放課後、職員室来なさい」
「――はい」
今日は厄日だ。
後ろでコソコソ話してるのが聞こえる。「あいつ、また怒られてるよ」とか何とか。好きで怒られてんじゃないんだけど。
そして、帰りの会はそこで終了となり、みんなは「先生さようなら〜」とか言いながら、良い子ちゃんぶって帰っていった。僕もコッソリみんなに混じって帰ろうとしたが、すぐに先生に手を引かれ職員室に連れて行かれた。これから先生にこっぴどく叱られるかと思うと、今度は本当に目に涙が滲んできた。

――ガラガラ

建て付けが悪いのは何処のドアでも一緒だなと思ったが、今そんな事考えている暇はない。もうすぐ僕は怒られる。最低でも30分はかかるだろう。
「あ、神父(ファーザー)」
担任が先ほどの僕よろしく間抜けな声を出した。
よっしゃぁ!
僕は心の中でガッツポーズをした。僕らの学校では週3でキリスト教の神父が来てお祈りをやらされる。僕はいつもこのお祈りが面倒くさいなぁと思っていたのだが、今日はお祈りでも何でもやってやろうと思った。なぜなら、この教師つまり僕の担任今川はこの神父に頭が全くあがらないのだ。理由は知らないが物凄く大人しくなる。僕は、この神父のおかげで叱られる時間が短くなると踏んだのだ。
「こんにちは」
神父はいつものおっとりとした調子で返事をしてきた。僕はペコリとお辞儀をした。すると、神父の隣に見知らぬ人が立っているのに気付いた。
「隣の方は?」
先生は僕が聞くよりはやく尋ねた。
「あぁ、紹介遅れましたね。新しく修道院に来た、上村 優哲(うえむら まさてつ)君です」
サングラスをかけた長身の男だった。こんな奴が!? と僕は思ったが人は見かけによらないもんだと思った。そいつは「初めまして」と言って僕と先生に握手を求めてきた。僕と握手した時、サングラスの奥の瞳が少し光った様な気がしてゾッとした。
「あぁそうだ。今川先生にご報告しなければならない事があったんですよ」
神父は手をポンと叩いて先生を廊下へ呼びだし、僕はサングラス男と2人きりになってしまった。
気まずい。こうゆう時、上手く対応できる人って凄いよなぁ。
「そのほっぺの怪我どうしたの?」
長く続くだろうと思った沈黙はサングラス男によって破られた。
「え? ほっぺですか」
急に話しかけられるとビビる。
「赤くなってるよ。ぶつけたの?」
「いやぁ。別に」
掃除の時間の平手打ちだなと心の中で苦笑いをした。
「ふぅん。そう言えばなんて名前?」
質問責めだなぁと思いつつ「崗屋 按です」と言った。そして例のごとく「変わった名前だね」と言われた。
「ねぇ、按ちゃんは神様って信じる?」
「は?」
僕は少し戸惑った。
「まぁ信じてますけど」
「ふぅん」
つぅか一応信じるって言うだろ。神父(?)の前なんだし。
「じゃぁさぁ、修道院に入ってシスターになったりするの?」
「はぁ!?」
だから“按ちゃん”って言ったのか……
「あ…あの〜」
否定しようとした瞬間、先生達が戻ってきた。
「上村君。修道院に戻りますよ」
神父の目つきがいつもと違って感じられた。サングラス男はすっくと立ち上がる。
「じゃね」
短くそう言うと手を振ってきた。そして男は、職員室を出ていった。
「あ……」
誤解されたままである。
――どうしよう。追いかけてって「僕は男です」ってハッキリ言った方が良いのかなぁ。でも、今度は神父に怪しまれそうだし……でも……。
迷っているうちに、二人の後ろ姿が遠のいていく。僕はその光景を眺めていた。すると、神父が後ろを振り返ったので思わず目が合ってしまい、神父は慌てて僕から目をそらす、と逃げるように帰っていった。変だなと首をかしげると、先生に声をかけられた。
「崗屋」
「なんですか」
これから叱られるのだなぁ思うと、胃が痛くなる。
「帰って良いぞ」
「はいぃ?」
先生はいつになく沈んでいた。
「良いんですか?」
僕が顔をのぞき込むと後ろにのけぞり「は、はやく帰りなさい」と言ってきた。
「じゃぁ帰りますね」
僕は、あの神父のおかしな態度から何かキツイ事でも言われたんだろうと思い、先生の気が変わらないうちに学校を出た。
雨は相変わらずザーザー降っていて、僕は傘を持ってきてない事に今一度打ちひしがれていた。



2話 ネーム

一応、僕にもあだ名がある。
その名も「ニック・スミス」通称ニック。
それは、Blood・Collection(ブレッド・コレクション)というゲームの主人公からとっており、その人物に僕がそっくりだというのだ。茶色い髪に、勇敢な顔立ち。そして、その主人公ニックのとても優しくて強い人間というところが僕と更に似ているとみんなは言う……というのは全て嘘で、事実無根です。似てんのは髪型だけです。すんません。嘘つきました。ニックはただ単に僕がなりたいと憧れているだけです。すんません。

なぜ、僕が今あだ名の話をしているかと、その答えは目の前にあるアレのせい。

――その名はエプロン。

明日、調理実習なのでエプロンが必要らしい。
まぁエプロンとあだ名は直接関係しているわけじゃない。問題は色なのだ。
この何とも言えないダサさ、そして色そのもの。
「あ・ず・き」
そう、小豆。小豆色のエプロンなのです。それが今、大いに僕を悩ませているのです。
実を言うと僕の本当のあだ名はあんこ。按(あん)だからあんこ。ドラ〇もんの好きなドラ焼きの中身に入っているアレです。アレ。
「はぁ〜」
ため息が出てくる。
明日の調理実習の僕の姿が目に浮かんでくるようだ。
みんなが「あんこが本当にあんこになったー」とか何とか言って僕を笑うんだろう。そんで、1週間以上冷やかされ続ける……。
「はぁ〜」
そりゃため息だってつきたくなるさ。
目の前にある、実は2つあるエプロン。このどっちかを持って行かなきゃならないわけで。一つは、先ほど紹介した小豆エプロン、もう一つは母さんの使ってるフリフリエプロン。究極の選択。
つぅか、なんで家にはこの小豆エプロンとマニアが好みそうなフリフリのエプロンしかねぇーんだよ。
不満だって言いたくなるさ。
「はぁ〜」
本日、三回目のため息。小豆エプロンの隣にあるフリフリエプロンを手に取った。
――まぁ小豆よか、ましかぁ……。
「って、んなわけねぇだろ!!」
フリフリエプロンを床に叩き付けた。



――そして翌日。

小鳥のさえずり、柔らかな日差し。とてもさわやかな朝だ。風がそよそよ吹いている。
「ちゅんちゅんとか、小鳥の鳴き声うるせー」
でも僕はそんなのを喜びに感じる真人間じゃない。
頭をボリボリかきながら、歯を磨きに洗面所に行った。
「ぅわぁ……」
寝起きの顔は悲惨で、鏡に映る顔は顔面蒼白で普通にキモかった。僕は、人並み以上に嫌な事があると顔に出るらしい。
シャコシャコ歯を磨いてると、例のごとくフリフリエプロンを着た母さんに「おはよー」と言われたので「おふぁひょー」と日本語じゃない言語で返した。
そして朝食。
昔、父さんに「なんで、飯食う前に歯ァ磨くんだ?」と聞かれたのだが、寝起きの口の中ってなんかモゴモゴしていて気持ち悪いので、朝ご飯前に磨いているのだ。
「いただきまぁーす」
僕がご飯を食べつつ、テレビに目をやると7時10分をさしていた。あと、30分で僕は家を出なきゃならない。そして、学校へ向かうのだ。気が重い。ノロノロ食べていると、父さんに怒られたので途中から急いで食べた。
「ごちそうさまでした」
ちゃんと残さず食べた。残せば、なんたらかんたら言ってくるだろうと思って。
パジャマを脱いで、洋服を着る。ふと、サングラス男を思い出した。
「按ちゃん」っていうあの呼び方むかつく。女と間違えるなんて失礼極まりない。名前は分かるとして、見た目はニックにそっくりな美少年じゃないか。服装だって……
意味無く鏡の前でポーズをきめた。
「按!」
父さんがその姿を見ていた。そして、僕は急いで服を着替えた。



「いってきまーす」
そうこうしているうちに、7時40分がきた。親に哀願したって休めるわけがないので、仕方なく学校へ向かう。
「はぁ〜」
累計4回目のため息。僕の右手にはあの小豆エプロンが入ったバックが握られている。
――不安だ……。
今の僕の顔は凄まじく生気が失われているんだろうなぁ。
――不安……。
道行く人が僕の顔を見ている。そんなにやばいのだろうか……。
昨日の雨のせいで水たまりが出来ていたので、それで顔を確認する。
「ぅわぁ……」
寝起きより凄い。
なるたけ自然に顔の表情を変えなきゃ! そう、笑顔に。笑顔に。自然に、自然に。
水たまりに顔の表情を映す。頬の筋肉が痙攣してピクピク動いていた。
――無理はよそう。
足早にその場を立ち去った。



「はぁ〜」
僕ほどため息をつく事の多い小学生って居ないんじゃないだろうか。
あーぁ、来ちゃったよ。着いちゃったよ。
目の前に立ちはだかるボロい校舎。僕は校門の前で突っ立ていた。
「おはよう! 按ちゃん」
不意に後ろから声がした。あぁ、今日も厄日だなそう思いつつ、後ろを振り返った。
サングラス男がぴかぴかの笑顔で立っていた。嫌がらせか。
僕はその場からさっそうと立ち去り、昇降口に行った。
「んぎぎぎ……」
例のごとく建て付けが悪くなかなか開かない。これだからボロい校舎は。

――ギィ……ガッタッタガランッ!

後ろからにゅっと伸びた手がいとも簡単に開けた。
「按ちゃん。おはよう」
だから、その笑顔怖いって。
「おはようございます」
そう言って、急いで靴を下駄箱に入れ、早歩きで歩き始めた。
「ちょっ!按ちゃん!」
サングラス男が慌てて声を掛けてきた。僕は一旦足を止めた。
「何ですか? それと、僕は女じゃありませんよ」
冷たく言った。
「うん。知ってる。その事じゃなくて……」
「へぇ!?」
――知ってたんかい!!
「な…何ですか?」
思わず拍子抜けしてしまった。
「この学校の礼拝堂ってどこにあるの?」
「校舎の裏の方にありますけど」
「そーなの? だから、見えなかった訳か」
学校のすぐ後ろには大きな山がそびえ立っているのだ。
「按ちゃんありがと。じゃぁ、ミサで会おうね」
サングラス男は礼拝堂の方に行くかと思いきや、歩き始めた途端にクルッとこっちの方に振り向いた。
「人間には4つの窓があるんだって」
そう言いながら僕を指さした。
「え?」
そして、サングラス男は足早に去っていった。

――キーンコーンカーンコーン

ヤバッ! 急がないと!
教室の方へ走っていく。昇降口のすぐ側なのですぐに着いた。

――ガラガラ

教室のドアを開けると先生はまだ来てなかった。まばらな生徒があちこちでお喋りをしている。ホッと肩をなで下ろし席に着いた。
ランドセルから教科書を取り出し机に突っ込んだ。右手に堅く握られたバックを机にかける。ふと、サングラス男が最後に言った言葉を思い出した。
『人間には4つの窓があるんだって』
一体、何の事なんだろう。
「みんなお早う!」
担任今川の登場だ。僕はランドセルをロッカーに素早く置いて、席に着いた。次第に、生徒達は席に着き始め、自然にHRが始まった。
今川はスゥと大きく息を吸った後、教卓の上に手を置いた。
「今日、予定していた調理実習だが明日にする事になった」
――はへぇ!?
心臓がバクバク鳴っている。周りは平然としていた。
「調理室のガスコンロが壊れてたんだよ。朝、それに気付いてね。明日、先生の家から簡易ガスコンロを持ってきますから」
持ってくんな。ていうか、今日無いんだ!! うひゃひゃひゃ……!!
顔がニヤニヤしてきた。
「えーと、それから――」
これからの今川の話しは聞かなくていいや。
僕は窓を見る事にした。空は、昨日と違って晴れ渡っている。冬は昼が短いから、こんなに明るい空を見るのもどんどん減っていくのだなぁと思った。
そして、HRは間もなく終了した。
「ほらー早く列べ」
今川が叫ぶ。
これから僕らはお祈りしに行くのだ。廊下に9人が列ぶ。
「じゃぁ静かに」
僕らは歩き出した。足音だけが響く。
朝来た時には気付かなかったが廊下はひんやり冷たい。このボロい学校は風通しが良すぎるなぁと思った。いっそのことブッ壊して新しい校舎にすりゃぁいいのに。
そして僕らは校舎を出た。より一層寒いというか風が痛い。校舎の裏を廻ると、すぐに礼拝堂は見えた。それは、結構小さいのだが日の射し込むガラス窓が綺麗で僕はそれが好きだ。とある教会ではシャガールの描いたガラス窓があるそうだ。一度でいいから間近で見てみたい。
僕らは礼拝堂へ入っていく。
暖房がきいていて、ふんわりそこは暖かかった。
神父が待ちかまえたような笑顔でこちらを見た。
「では、早速始めましょうか」
皆は適当に椅子へ座って行く。
気が付けば一人になっていた。僕はそそくさと一番後ろの椅子の方に歩いていく。ふと、友達が居ないんだなぁと知る。いつもはそんな事当たり前すぎて考えないのに。いつもと状況は変わらないのにはずなのに、なんでだろ。心に針が刺さったような気持ちが広がっていく。
席に着き、聖書をパラパラとめくる。
「今日は、聖書の……」
神父の声のみが礼拝堂に響いていた。
――タッタッタッ……
急に足音が響く。その音は僕の近くで止まった。
「隣いい?」
サングラス男だった。
「あ……はい」
みんなが唖然と見ている。でも、サングラス男はそんな事お構いなしに手に持っていた聖書のページをめくり始めた。前方から「誰あの人?」という声が聞こえてくる。
神父は周りの気配に気付いたのか、サングラス男の事を説明し始めた。
「皆さん、彼は新しく来た、上村 優哲君です」
サングラス男はペコリと頭を下げた。そして僕はこの人の名前が上村さんという事を思い出した。
「上村と言います。どうぞ宜しくお願いします」
今一度頭を下げた。そしてもう一言、二言、自己紹介をした後にほどなくミサが始まった。
神父が聖書を読み始める。
僕らはそれをじっと聞くのだ。
チラッと隣を見ると真剣そうな眼差しで聖書を見ていた。
いつもなら聞き流しているのだが、今日は真面目に聞いてみる事にした。そうしていないと、隣のサングラス男もとい上村さんに申し訳が立たないような気がしたから。



「――そして、そこで……」

――キンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り響く。すると、神父がパタンと聖書を閉じた。
「では、今日はこの辺でミサは終わりにしましょうか」
いつものニコニコ笑顔で言う。
そして、一人、一人神父にお礼を言い、今川の命令で列ばされた。
「移動中は静かにすること!」
今川が言う。全くうるさい男だ。
僕らは静かに歩き出す。この暖かい礼拝堂から教室へ戻るのは、少々億劫になる。
ふと、後ろでなにやらコソコソ話している。どうせ、くっだらねぇ話だろうと思い、さほど気にとめなかった。
――ドンッ!
急に肩に力がかかった。
「え……?」
よく状況がつかめないまま、体制が前のめりに崩れていく。そして、僕は頭を地面に激突させていた。
「いってぇー」
スックと立ち上がると、後ろの奴らが必死に笑いをこらえていた。そして、僕は瞬間的に理解した。コイツらが僕を転ばせたのだ。さっきの話はこの事だったのか。言い様のない怒りがこみ上げて、キッと後ろを睨んだ。
「――っぶわはぁっは!!」
僕が真剣に怒ったのがよほどおかしかったらしく、爆笑し始めた。
「そこ静かにしろ!」
今川に言われると、奴らは必死に笑いをこらえた。僕は、憤慨した気持ちになり、コイツらは徹底的に無視しようと前に振り返った。
「先生、怒り方ちがうっしょ」
「へ?」
急に話しかけられ、今川は間抜けな声を出した。――一喝したのは上村さんだった。
「さっき、後ろの子達に崗屋君が押されてたじゃないですか」
「はぁ……」
今川は頭をかく。その姿はまさに授業中、先生に急に指さされて「今の問題解いてみろ」と言われていて困っている生徒のようだった。
「矢口! 関原! 飯岡! 人を転ばせるなんて、最低だぞ」
今度は今川が一喝した。
「……はーい」
いかにもばつの悪そうに返事をする。僕が上村さんを見ると、少しだけ微笑んで礼拝堂の奥へ歩いていった。
そして、僕らは今川に促されるように教室に戻っていった。後ろの奴らは不愉快きわまりないという様子で、殺気立ってるのが伝わってきた。



「先生、さようならー」
みんなの声が響く。僕は、どめんくさい(面倒くさいの意)ので言わなかった。
ミサ後の今日は、不自然なほど3人は静かだった。これで、懲りたのだろうか。だと、良いんだけど。
ふと、視界に小豆エプロンの入ったバックが見えた。少し嫌な気持ちになって「どうせ、明日使うんだし」と言う事で置いていくことにした。
そして、僕は足早に家に帰った。



「アイツ超ムカツク!!」
按が帰った後、矢口・関原・飯岡は教室に残っていた。
「アイツのせいで先公に目ェつけられたじゃん」
図体のでかい関原が言う。
「つぅかさぁ、アイツ調子乗りすぎだし!」
リーダー格の矢口が言う。
「なんか、仕返ししてやりてぇな」
3人の中で一番冷静な飯岡も言う。
「じゃぁ、崗屋の机に花瓶でも置いてやる? ほら“コイツは死にました”みたいなさぁ〜」
笑いながら矢口が言う。そして、少し見下すように飯岡が喋り始めた。
「そんな低レベルじゃなくて、もっと崗屋が嫌がることやってやろうよ」
「例えば?」
低レベルと言われて、少し憤慨されたような表情で矢口が聞く。
「えっと……そうだ。関原、あの崗屋の席にかかってるバック取って来いよ」
大きい図体を揺らして、関原がバックを取ってくる。
「はい。持ってきたよ」
ちょっと、動いただけなのに関原は息が上がっていた。それを飯岡が無造作に開ける。
「――あっはぁっははっ!」
中身を見た途端、飯岡が笑い転げた。
「なんだよ。早く見せろよ」
矢口が飯岡からバッグを引ったくって見る。
「これって……」
矢口が最大限に笑いを抑えながら言う。そして、今度はやっと関原がバックの中身を覗いた。飯岡の笑い声に関原の笑い声が混じる。
「あんこ色じゃん」
矢口の一言に飯岡と関原が爆笑した。
「アイツ、自分があんこって呼ばれてるの気付いてないんじゃねぇ」
関原がまさに腹を抱えて笑う。
「そう! これだよ。これ! これにやってやろうぜ!」
飯岡がやっと笑い終わって、提案する。
「マジックで“あんこ”って書いてやる?」
矢口はまだ笑いながら言う。
「いいねぇ! それ」
関原も賛成する。
すると、なにやら飯岡が自分の机の方から取り出した。
「飯岡、それ……?」
矢口の顔から笑いの表情が薄れた。
「徹底的にやってやろうぜ」
飯岡が不敵な笑みを浮かべた。



「明日、何聞かれても知りませんって言えよ」
もう時刻は5時近くになっていた。
「わ、わかったよ。飯岡」
関原が言い、矢口も頷いた。
「じゃぁな」
「うん……」
3人はバラバラに家路に向かった。


NEXT→→3話 もう一つのネーム
2004/12/12(Sun)16:13:59 公開 / 小田原サユ
■この作品の著作権は小田原サユさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ


2話やっと終わりましたぁー。
今回の更新もギャグ無しです。そして、シリアスでもありません。中途半端です(笑)
前回の更新に「4つの窓」の説明を書くと言ってたのですが、次回の更新となりました。スミマセン。

卍丸さん
いつも感想有り難うございます。展開は3話から劇的(笑)に変わる模様です。
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除