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『演劇 【読み切り】』 作者:rathi / 未分類 未分類
全角829文字
容量1658 bytes
原稿用紙約2.8枚
 私は三つ指をついて入ってきたお客様を出迎えます。
 「お帰りなさいませ、ご主人様」
 ご主人様、と呼ばれたお客様は大層に満足したような笑みを浮かべ、私を見つめます。
 「お風呂の致しますか? それとも……」
 その後の言葉は、お客様の口づけによって遮られました。お客様の舌がまるで触手のように私の口内に侵入し、粘液と粘液を交換しようとてきます。
 私は積極的にではなく、消極的に舌を絡ませます。まるでこの行為を恥じらう、淑女のように。
 「そんな…いきなりなんて困ります…」
 頬を赤らめ、視線を下に向けました。そんな私の仕草に興奮したお客様は、私を押し倒しました。
 私を蹂躙すべく、あちらこちらをまさぐり始めます。
 「ぁっ……!」
 胸を触られ、私は短い喘ぎ声を上げました。その喘ぎ声を恥じらうように、私は自分の口を手で押さえます。
 私は淑女。こんな事は『イケナイ』と思いながらも感じる自分を押さえることが出来ない、そんな淫らな淑女。行為の最中も、私は自分にそう何度も何度も言い聞かせます。
 それがお客様の望んだこと。ここに居るのは『私』ではなく、お客様が望んだ『人格』。お客様が理想としている女性像を私に宿らせ、演じる。
 四畳半にも満たない狭い部屋で行われる『ままごと』。それが私の仕事。私に与えられた役割。
 「夏芽……!」
 お客様は忙しなく私の身体をまさぐりながらも、喘ぐように『私の名前』を呼びました。
 「ご主人様……!」
 要望された名称を喘ぎながら呼び、お客様との行為も頂点を目指して走り出しました。
 
 ――そして、お客様と私はほぼ同時に頂点へ辿り着き、爆ぜました。
 
 時間を告げるベルが鳴り響き、お客様は名残惜しそうな顔をしながら服を着始めました。
 私は再び三つ指をつき、深々と御辞儀をします。
 「いってらっしゃいませ、ご主人様」
 最後まで演じきるのも私の役割。ここはお客様にとっての理想郷。最後の最後で崩してはならないのです――。



2004/09/30(Thu)19:33:02 公開 / rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも、久しぶりです。
やや官能的に書いてみました。
つい先程突発的に書きたくなり、書いてしまいましたよ、これを。
……規約違反ではないですよね、これ?
本当に短いし、ちょっとヤバめな表現入ってるし…。

短編ホラーの方を期待していた方、今暫くお待ち下さい。
現在練っております故。

【近況報告】
長編ホラーで考えていたのが二つ程潰れてしまいました……。
アイデアは固まったんですが、如何せん知識不足でした。
生物学とか発生学とかその辺の知識は個人ではどうしようもなかったので、諦めました。
かなり残念。
ではでは〜
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