オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『勿忘草の記憶』 作者:蘭子 / 未分類 未分類
全角3197.5文字
容量6395 bytes
原稿用紙約10.1枚
 
 当時私は体が弱く、入院しがちの子供だった。時計は夕方の4時。
 お見舞いに来た人と患者の会話が、あちこちで聞こえる。それに混じって担架が走る音やナースコールの電子音も聞こえる。毎日耳にする其れらに厭きて、私は布団をかぶった。辺りは一気に、疎ましい病室の白さと対称的な暗闇になる。耳を塞いでいないのに、微かな空気音しか聞こえなくなる。布団をかぶるという行為によって作られる、架空の世界。何も見ず、聞かず、考えず────こうして常時、何かが自分を守ってくれているような感覚を味わうのを楽しんでいた。闇に包まれた平穏な世界────その時、外の世界で足音がした。
「何してるの?どうしたの?」
 突然の侵入者に我に返った。侵入者の声は枯れていて、弱々しい。一人遊びを中断して、私は侵入者との接触を試みた。外の世界では、枯れた声と対照的な顔が微笑んでいた。中学生くらいの男の子であった。彼の白く美しい顔が夕映えしていて、私は其れにしばらく見とれてしまった。すると、男の子の奇麗で細い手が静かに私の額に触れた。あまりに急な出来事に、私は息をのんだ。
「下がったんだね、熱。さっきまで看護婦さんが君のこと心配してたよ?」
「き、急に触らないで!」
「顔、紅い」
 彼は羨ましい程に奇麗な顔で笑った。切れ長の上品な瞳はまるで童話に登場する王子のようだ。唯一それらしくない箇所を述べるのであれば、枯れてしまっている声、そしてゼェゼェという音が混じる笑声だろう。
「のど、悪いの?」
「ごめん、聞きづらい声だよね……」
「そんなことないよ。早く治しなね、風邪」
「え? ……うん、ありがと」
 会話は続いた。私が何か言うと、その度に彼の口元が上がった。その笑顔を見るたび、胸の辺りがきゅっと何かに掴まれた。目を離せば、彼は消えてしまいそうだ。彼の肌は疎ましい病室と同化して、そのまま溶けていきそうな程に白かった。
 
          + + +
 
 それからというもの、彼は毎日私の元に来た。たくさん話をして、たくさん笑った。たくさん彼を知ったと思う。そして私は、着実に彼を意識し始めていった。夜な夜な彼の白く美しい顔を思った。彼の優しい言葉を思った。そして何より────彼の苦しそうな声が、治って欲しいと願った。
 恋よりももっと大きなものに感じた。心臓が焼かれるような、どうしようもなく苦しいような、形のないものだった。
 
          + + +
 
「葵ちゃん」
「あ、こんばんわ」
「こんばんわ」
「遅かったね。あれ、何持ってるの?」
 私は彼の手元に握られているものを、彼の手首を軽く掴んで自分の目線にあげた。強く握ってしまえば折れてしまいそうな細腕だ。私がした咄嗟の行動に、彼は驚くことなくいつもの微笑みを浮かべていた。
「この花の名前分かる?」
「え? さぁ……」
「きれいだよね」
「うん……とっても」
 薄い紫色をした小さな花々。透き通るような彼の肌ととても似合っていた。可憐言えども儚さや切なささえ醸し出してしまうその花は、寧ろ彼を象徴しているかのようだった。
「あげるよ」
「え?」
「姫に、王子からの捧げ物でございます」
 いつもと変わらぬ微笑みを向けて、彼は私にその花を渡した。花の茎をはさんでいる白い指は、幾度見ても奇麗だ。彼は本当に王子様なのかもしれない。あの日架空の世界に閉じこもっていた私を救い出してくれたのだ。そんな妄想までした。
 そっと花を受け取ると、私は渡された小さな花の茎を指先で転がして眺めた。彼はそれをぼんやりと見つめていた。
「全てのことが厭になってしまった時、忘れられる」
「え?」
「この花の効果。この花、勿忘草って言うんだ。苦しくて悲しいこと全て、この花が忘れさせてくれる。楽にしてくれる」
「本当? 忘れちゃうの? え、それじゃあもう思い出せないの?」
「きっとね……裏を返せば、こういうことなんだよ。悲しみが分からなかったら、喜びも分からない。
 喜びは、悲しみのあとにきっと待っている。それなのに人はどうしても、それを信じることが出来なかった。
 だから、そうやって仮説を作った。誰もが信じることが出来るように」
「カセツ?」
「そういうことにしちゃうってこと。悲しみを乗り越えて喜びを待つことが出来ないから、忘れるということにしたんだ。
 だから……全てを忘れるなんて、嘘だよ。忘れてしまっては、だめなんだ。忘れてしまうことが一番、悲しいんだ」
「どうして?」
 彼は答えなかった。そのかわりに笑った。しかし、それはいつも見せる微笑みではなかった。口だけが無理矢理に笑っているようで、目が曇っていた。こんな彼を見たのは、この日が初めてだった。しかし、その日の別れ際にはいつもの笑みに戻っていたので、私はこの時のことを気にせずに眠りについた。
 
          + + +
 
 ────彼が息を引き取ったと聞いたのは、次の日の早朝だった。
 
 彼は彼らしく、奇麗なまま静かに息を引き取ったという。何も失ったことのない私にとって、これほどに悲しいことはなかった。架空の世界に閉じこもる時間が長くなった。時々外の世界に顔を覗かせると、薄紫の勿忘草が心配そうに見つめている。────忘れさせることが出来るんでしょう? それなら忘れさせてよ。苦しさから救ってよ。それに目で訴えて、視界が次第に涙で滲んでゆく。
 そんな繰り返しの日々を重ねながら、わたしは遂に退院の日を向かえた。
「枯れそうね、このお花。勿忘草?」
「………」
 聞こえなかったふりをして、わたしは黙って荷物の整頓を続けた。 
「これ、勿忘草?誰から貰ったの?」
「………」
「勿忘草の花言葉、知ってる?」
「………」
「 わたしを忘れないで 」
 作業をしている手が止まった。
 彼の顔が、勿忘草を手渡したときの奇麗な指の映像が、一気にわたしの目の前に飛び込んできた。いつのまにか暖かい液体が頬に流れていて、それに気付いた看護婦は優しく微笑んでそれを手で拭ってくれた。
「この前亡くなった、男の子から貰ったの?」
 わたしは黙ってうなずいた。声に出してうなずけば、きっと涙声になり、涙は止めどなく頬をつたってしまう。
「彼は、葵ちゃんに忘れて欲しくなかったのね。彼はね、もう後一ヶ月しか生きられないって子だったの。
 いつ自分が死んでしまうか、彼はもう知ってて頑張って生きたのよ。そして……これから長い人生を生きる葵ちゃんを
 応援したかったんじゃないかな。葵ちゃんに忘れないでいてもらって、葵ちゃんの心の中では、永遠に生きていたいと…
 本当は、そう願ってたんじゃないかな。それを願って、この花を贈ったのかもしれない……」
 忘れないで? 本当は、そう願った?
「勿忘草は……悲しいこと全て忘れさせてくれる。だけど、それは違うんだって……。
 悲しみを乗り越えた先には喜びがあるのに、それを信じることが出来なくて、だから無理矢理忘れて……。
 でも忘れちゃだめなんだって……忘れることは一番悲しいって……そうやって言ってた」
 涙を必死に堪えながら、私は看護婦に訴えた。訴えながら、彼があの日遺した言葉の数々を噛みしめていった。
 忘れてしまうことが一番悲しい。それに、どうして? と私は訊いた。その答えが今、返ってきた。
 今頃になって教えてくれたのは、もちろん彼の枯れた声ではない。
「そうね。本当はそうなのかもしれない。忘れちゃうのは、悲しい。私も同じだわ。私は信じる人になりたいもの。
 悲しいこともちゃんと受け止めて、その先にある幸せを、信じたいもの────」
 
 病室のカーテンが靡いた。彼を象徴する、勿忘草が揺れた。
 それは彼が、看護婦の優しい言葉に同意するように、何度も何度も頷いているかのようにも見えた。────
 
 
 
2004/09/30(Thu)17:50:20 公開 / 蘭子
■この作品の著作権は蘭子さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。蘭子と申します。読み応えのある作品をお書きになる作家さんが多い故、この作品を投稿することに少し躊躇っていました。拙い文章ですが、読んで頂ければ幸いです。作品に対する批評・批判であれば大歓迎です。

>メイルマンさん
ご丁寧な感想、そしてアドバイスありがとうございました。取り敢えず行間と全体のバランスだけ直しておきました。これからはもっと読み手に伝わりやすい描写を学んでいきたいな、と思いました。本当感謝しています。

>ドンベさん(返信遅れてすみませんでした)
感想、そしてご親切なアドバイスありがとうございました。こんな未熟作品をじっくりと読んで頂けて…これに超して嬉しいことなどありません(涙)。今後、プロットをもっと細かく立てていこうと思います。次回、頑張ります!

>村越さん
心のこもったアドバイスと感想、ありがとうございました。自分の作品が読んでくれている方がいるのかと思うと創作意欲もぐんぐん沸きます(ぇ)!そうですね…相当プロットが甘かったようで…反省です。創作意欲も沸いてきたところですし、改善を試みてみます!
この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除