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『鈴の音色U 【続編】』 作者:神夜 / 未分類 未分類
全角8185文字
容量16370 bytes
原稿用紙約24.2枚





     「鈴の音色U」




 ――リン。

 時折、窓の外から聞こえるその鈴の音色が、気になって仕方なかった。
 だけど、聞こえてすぐに窓を開けても、その正体を見ることできなかった。
 あの鈴の音を響かせているのは、予想が正しければ確か――。


     ◎


 親に怪しまれずに学校を休むための三カ条。
 一つ。起床時間を過ぎても絶対に起きて行ってはならない。
 一つ。親から内線で起きろと言われてもすぐには起きずに五分ほどしてから起き上がる。
 一つ。如何にも頭痛で死にそうですという顔をして、キメ台詞として「便所で吐いた」と言う。
 そうすれば大概は休ませてくれる。いやまあ、俺ん家だけかもしれないが。
 携帯電話のアラームで朝起きて、薄暗い部屋の中で思った。今日は学校休もう。別に理由はないが何となくそう決めた。それでも理由が欲しいのなら奉げよう。面倒だから。これで満足ですか、俺。この不良学生が、というコメントは甘んじて受け入れよう。煙草吸ってる時点で不良確定だし。だったら欠席の一つや二つどうってことねえ。
 よし、休もう。俺の中でそれが確定事項と化した。だったらやることはただ一つ。もう少し寝よう。ベットに身を任せて目を閉じる。何度も闇と光の中を彷徨い、気づいたら十五分も経っていた。そろそろ来るだろうと思ってたら、本当に来た。
 部屋に置いてある電話の子機が内線の音を響かせる。そして母親の声。
『起きない、早くしないと遅刻するわよ』
 できるだけ弱々しい声色を作り出す。
「……うん……」
 ここですぐに起き上がっては意味がない。すぐに起きて行ったら、元気満々気分ハツラツですと言っているようなものだ。だからまだ耐えるんだ、俺。このまま五分ほど石のように固まっていろ、そうすれば栄光はすぐそこだっ! 輝ける未来はそこにあるぞっ!
 五分が経過したそのとき、俺はゆっくりと起き上がる。ふらふらとした足取りで歩き出し、部屋を出て階段を下りる。そのまま居間へは行かずに先に便所に向った。便座とズボンを下ろしてじっとしている、世にも情けない時間が過ぎ去る。結局何も排泄しなかったのに水を流し、げっそりとした顔付きで居間へ向かう。言っておくが手は洗った。説明しなかった俺が悪い、すいません。
 居間のドアを開けると、母さんが洗物をしていた。音を立てない足取りで歩み寄る。
「……母さん……?」
 幽霊でも見たかのように母さんが驚く。それからすぐに「どうしたの? 顔色悪いわよ?」と首を傾げる。
 俺は心の中でガッツポーズを取り、食い付いたと叫ぶ。が、それを微塵も顔に出さないのがコツだ。頭を押さえ、俺は言う。
「……今日、学校休む……」
 母さんが心配そうに俺を覗き込む、
「熱でもあるの?」
 首を振る。
「熱は……ない、と思うけど気持ち悪い……」
 さあ、キメ台詞の出番だっ! 痛恨の一撃を食らえっ!!
「……てゆーか、さっき便所で吐いた……」
 母さんは「本当に? だいじょうぶなの? わかったわ、先生には電話しとくから部屋で寝てなさい」と言いながら電話の方へ向かう。その背中に「……うん」と小さくつぶやき、俺は居間を出る。まだ足取りは重いままだ。階段を上がり、部屋に辿り着く。後ろ手でドアの鍵を閉め、部屋の中には静かに時計の秒針の音が響く。
 その中で、俺は無言で勝利のポーズを広げた。よっしゃあっ! 作戦成功っ! かっかっかっ、甘い甘い、てゆーかこの俺のナイス演技! 将来は役者に成れるんじゃねえのか!? え、無理だって? あっはっはっは、そんなこたあ言われなくてもわかってるって。さて、降って湧いた休日を存分に楽しむとしますかっ! 取り敢えず、まずは寝よう。学校の友達が授業を受けている最中に俺は爆睡、ああ、良い気分だ。
 ベットにダイブした俺は、棚の上の置いてある携帯電話を手に取る。電話帳を検索して、巨神・川田にメールを送る。『俺学校休むからそこんとこよろしくぅ』、数秒後、すぐに返事は帰って来る。『テメぇ仮病だなクソ! はっ! お前まさか今日がホームラン祭だってことを知ってて……!? 裏切り者めっ!!』
 え? 今日ってホームラン祭!? ああクソっ! やらかした! 頭痛じゃ外に出れねえっ! 腹痛とかなら歩いた方が楽だとか言って外に出てそのままパチンコ屋行けたのに……っ! 幸いの中の不幸じゃねえか! ……いや、その言葉、俺が今さっき考えました。しかし、まあいいだろう、スロットは諦めよう。この前大負けしたばっかだし。
 携帯を棚に戻す。メールを返すと何やらややこしいことになりそうだったのでシカトだシカト、ふっ。さて、俺ぁ寝ますかね。ああ、この体を伸ばす感覚、いつもより良い気分だ。目を閉じるとすぐに襲って来る睡魔に身を任せる。
 最高の気分だった。
 そして、意識は深い闇の中に飲み込まれて行く。


 ――リン。
 その音を聞いたのは夢か現か、俺はついにわからなかった。


 それからどれだけの時間が流れたのか。何かの物音に気づいて目を覚ました。
 ぼんやりとした意識を彷徨わせ、時刻を確認すると十二時過ぎだった。欠伸を一発、ああ、よく寝た……。その拍子に喉が乾いていることに気づく。
 確か棚の上に昨日の夜に開けたばっかのアクエリアスのペットボトルがあったはずだけど……あ、あったあった、これだこれ。ペットボトルを引き寄せ、上半身を起き上がらせながらキャップを開けて中身を口に含む。生温かいがそれなりに美味かった。
 カーテンの向こうから、いきなり、コンコンとノックのような音が聞こえたのはそのときだった。ふと疑問に思い、俺はアクエリアスを飲みながらベットの上を這って、窓まで辿り着く。こんな所から客か? ……っは!? まさか白昼堂々の泥棒さんかチクショウ! 舐められたモンだぜ俺も。知ってるぜ、お前もどうせ俺がパセリにも勝てない男だって思ってだろ? 甘いぜおっさん、元気があれば何でもできるっ!! そう思いながらカーテンを開け放つ。外から射した陽射しに顔を顰めながら、
 俺は窓に向かって盛大にアクエリアスを吐き出した。
「ぶうはぁあっ!! げはっ、お、おぉぇえぇえ、って、ごふっ、なっ、なっ、み、ミーナっ!?」
 そこに、白いワンピースを着たミーナがいた。逆さまで。屋根の雨どいに足を掛け、ぶら下がっていた。
 目をくるくると回して、そこにミーナがいた。
 寝起きの頭にその光景はあまりにもショッキングで、驚くのを通り越して頭がぼんやりし始める。へえ、何してんだお前。何だそれ? 新手のぶら下がり健康法? 楽しそうだけど頭に血が溜まって死ぬぞ? やるならやるで構わないけど程々にね。こんな所で死なれたら俺が困るから。さて、俺はもう一度寝ますか。うん、そうしよう。
 我に返ったのは、ミーナの首輪から、リン、と鈴の音色が響いたからだった。事態をようやく理解した。
 急いで窓を開け放つ。
「ってミーナっ! お、お前何してんだ!? 何だ、大ピンチで絶体絶命なのか!? ああよしっ、ちょっと待ってろ、今助けてやるからなっ!!」
 窓から屋根の上に出て、ミーナに近づく。
 最初はミーナが自分からこんな体勢をしているのかと思ったのだが、よくよく見ると足が金具に引っ掛かっている。どうやら屋根の上を移動している際に足を取られ、そのまま転倒してこういう状況に陥ったのだろう。目を回しているのは腹が減っているからなのかそれとも死にそうだからなのか、理由はよくわからないがそんな女の子を放って置く訳にはいくまい。何せモットーは年下の女の子には常に優しくあれ、なのだから。
 ミーナを何とか救出し、俺はその体を抱えたまま部屋の中に戻って来る。てゆーか、コイツ体軽っ! 人間の比じゃねえぞこれ!? どっちかって言うと小動物みたいだ。そう、猫とかそんな感じだ。……うん、そーだね、軽いのは当たり前かもしれないね、うん。その辺はまあご都合主義で許されるだろう。だからこれ以上聞かないで。俺も心の奥の宝箱にそっとしまっておくから。
 ミーナをベットに寝かせ、取り敢えずどうするかと考える。そう言えばミーナを見るのはかれこれ何日振りだろうか。一週間経っていないような気もするし、もしかしたらもっと会ってなかったのかもしれない。あのスロット行った日っていつだっけ? ええっと、あれは確か……。
 そんなことを考えていると、ミーナの腹からぐうぅぅうっと何とも変な音がした。ああそうか、コイツやっぱり腹減ってんのか。ベットで目を回すミーナに、やはり聞こえているのかどうか知らないが言い聞かせる。
「いいか、絶対にそこで寝てろ! 部屋の中引っ掻き回すなよ!? 見られるとお前に嫌われるようなもの盛り沢山だから! わかったな!?」
 何だか今にもミーナからはきゅぅうとか聞こえて来そうだ。あ、説明しとくとバタンキューでピーポーピーポーの「きゅー」ね。……どういう意味なのか俺もわかんねえや、ごめん。
 部屋から出た所で、一度だけ俺は立ち止まる。さて、どうしたものか。このまま下に行って食い物を持って行く所でも母さんに見られた厄介だ。今朝吐いたばっかのヤツがいきなり何か食ったらそりゃ怒るよな。下手したら仮病だってバレる訳だし。……よし、取り敢えずまずは飲み物だけにしよう。ミーナの飲めるものって何だ? この前みたいに茶か? それとも……あ、ミーナにぴったりのものがった。
 俺はゆっくりと、足音を立てずに居間へ向かう。そっとドアを開けるが母さんの姿はない。よし、今の内だ。居間の隣にある台所の冷蔵庫から牛乳のパックを取り出し、皿にしようかコップにしようかと一瞬だけ悩み、今のミーナならコップの方が良いだろうと思ってそれも持って二階へ戻った。ついでに見つからないのを良いことにパンを一つだけ持って行く。ミーナがまた喜んで食べてくれるかと思うとなぜか嬉しかった。
 二階に帰り着き、部屋へ行くとやっぱりミーナはベットでバタンキューのピーポーピーポーだった。起きるのか? と不思議だったが、食べ物の匂いを嗅げば起きるだろうと勝手に納得した。取り敢えずまずは牛乳だ。パックからコップに注ぎ、そしてそっとミーナに近づく。
 今日は反応が早かった。牛乳の香りを嗅ぐと、ミーナはばっと起き上がって俺の手に持っているコップに――ってちょっと待て! イカンイカン! これはおにぎりじゃないから危ない危ないあぶ、あぁあぁああ―――――――――――――っ!
 そして、最悪の展開は同時に押し寄せて来た。
 俺の一生の汚点だった。部屋の鍵を、閉めるのを忘れていた。簡単に回るドアノブが動き、そこから母さんが顔を出した。
「ごはん、何か食べ――」
 母さんは部屋の中の状況を確認すると、言葉を失くした刹那、いきなりにっこりと世にも恐ろしい笑みを浮かべてドアを閉めてどっかに行ってしまった。
 呆然としていること二秒、俺もようやく部屋の中の光景を確認する。……ああ、これは誤解する訳だ……。なにせ、今の体勢は、どう考えたって俺がミーナを押し倒しているようにしか見えねえモン。それにまあ、牛乳がすっげえ良い感じでミーナの顔に付いてるし……って、ごめんなさい、今の描写はわかる人だけわかってください。わからない人は忘れてください。お願いします。
 ……って駄目じゃんっ!! 何のんびりしてんだ俺っ!! 今すぐ逃げろ、逃げるんだっ!! てゆーかこらミーナっ!! 美味しそうに牛乳舐めるなっ!! やっべえんだってそんなことしちゃっ!! ああ、違う違う、そんな場合じゃないっ!! どこか、どこか逃げる所はねえのかっ!?
 俺は急いで立ち上がり、部屋の押入れを開ける。しかしぎゅうぎゅうに押し込まれたそこに隠れるスペースなし。そうだ、外に逃げるんだ、ってここ二階だアホ。どうするどうするどうするてゆーかどうする。ああ、そうだそこしかない、PCが置いてある机の下! そうだそここそが異次元への入り口! 入れば何人足りとも俺の後を追って来ることは不可能! はっはっはって現実逃避している場合じゃねえんだっつーのっ!!
 追い詰められた俺は、不思議そうに俺を眺めているミーナを横目に、ベットの下の潜り込んだ。すると何かの遊びと勘違いしたのか、ミーナも一緒に潜り込んで来る。こら、お前牛乳付いたままじゃねえか! って違う! お前は隠れても意味がな――
 来る、来る来る来るっ! とんでもないものが来るっ! 階段を上がって来る音が死へのカウントダウンになっている! 来よる、来よる来よるぞぉお―――――――――――――っ!! 自己坊様の気持ちがわかった瞬間だった。
 そして、地獄への扉が、その口を開いた。
 部屋に入って来たのは母さんだった。頭に角生やして。口から牙覗かせて。左手にフライパン持って。右手に包丁持って。
 そこに、母さんが立っている。
「貴様っ!! 人様の家の子になんてことしてんじゃドチクショウっ!! 出て来いオラァア―――――――――――――っ!!」
 殺される、ぜってー殺されるっ!! 隣でにこにこと笑っているミーナが死ぬほど羨ましい。
「そこかァアッ!!」
 ベットの上から包丁刺された。顔の数センチ横から刃が突き出る。
 死ぬかと思ったっ!! 母さん、やべえですって! 目がイっちゃってますよ!! ねえ!!
 ベットがまるごと吹き飛ばされる。そこにいた俺とミーナがロックオンされる。いえ、間違いです、ロックオンされてるのは俺だけです。
「死ねぇえやあ―――――――――――――っ!!」
 包丁が振り下ろされる。
 俺は絶叫する。
 いやぁああ―――――――――――――っ!!


 ドスッ。
 ――リリン、リン。


     ◎


「なんだそうなの? それならそう言ってくれればいいのに。母さん変な誤解しちゃったわ」
 そう言って母さんは笑う。
 いや、笑いごとじゃねえっつーの。俺死にかけたんだぞ、頬のバンドエイド一枚で済んでいるのは奇跡であり、神様がまだ生きろと言ってくれたからだ。思い出しただけでも泣きそうになる。よく死ななかったよな、俺。うん、生きてるって素晴らしい。
 そしてその原因を作り出した元凶は、俺の隣で俺の私服を着てにこにこと笑っている。その笑みにはたぶん悪気はないんだろうと思う。いや、悪気があったらそれこそヤっちまうぞコラ、って感じだ。ミーナがなぜ俺の服を着ているのかと言えば、牛乳で白いワンピースが汚れたからだ。それは今、洗濯機の中で回っている。つまりは洗濯中だ。
 あの一連の騒ぎのあと、俺は必死に母さんを説得して落ち着かせ、理由を話した。取り敢えず、この少女はミーナで、以前ある切っ掛けが原因で知り合い、なぜだが今日は遊びに来ていて、腹が減っているとか言うのでまず先に牛乳でも飲ませてやろうと思ったら飛びつかれ、『ああいう』状況に陥った、と説明した。半信半疑の母さんだったが、ミーナが『なにかされた後』のような表情をしておらず、それどころかいつまでもにこにこと笑っているのでようやく納得してくれた。
 母さんの笑いが納まり、「ゆっくりしてってね」と出て行った頃になって、俺の服をミーナが引っ張った。視線を向けると、なぜかミーナは寂しそうな顔をしている。どうしたんだコイツ。さっきまでにこにこ笑ってたのに。……あ、そうか、この表情はアレだ、腹減った何か食わせろってことだ。
「腹減ったんだろ? 何か食う?」
 そう聞くと、ミーナは小さな手を重ね合わせ、ぎゅっ、ぎゅっという感じで握った。何だそれ? ジェスチャー? 両手を握り合わせてぎゅっぎゅって……あ、わかった。なるほど、「おにぎり」か。何だか面白いジェスチャーだな。
「おし、ちょっと待ってろ、作ってきてやるから」
 ミーナは嬉しそうに肯く。俺は立ち上がって部屋を出る。台所に行って炊飯器の中からごはんを取り出す。サランラップの上に盛り付け、具は……昆布を発見。冷蔵庫の中からシャケフレークをゲット。二つあればいいだろう。ちなみに、おにぎりは何気に上手く作れる。小さな頃からおにぎりを作るのが好きだったのが原因だ。夜食として毎日のように食べていたような気がする。
 手早くおにぎりを作り、お茶と一緒にお盆に載せて二階へ戻る。ドアを開けると待ってましたとばかりにミーナが近づいて来る。
「ほれ、食え」
 お盆をテーブルの上に置き、おにぎりを手に取るとミーナは嬉しそうに頬張ってはぐはぐ。あの夜とまるっきり同じ動作だった。
 そんなミーナを横目に、俺は部屋の窓際に置いてある煙草のパッケージに手を掛ける。中から一本だけ取り出し、ジッポのライターを開けて石を回す。が、なかなか点かない。そう言えばオイル入れたのいつだっけ。そろそろ切れてもおかしくは……あ、点いた。少しだけ小さ目のそれで煙草に火を灯す。煙を胸いっぱいに吸い込み、吐き出す。
 視線を移すとミーナは二つ目のおにぎりに手を掛けたところだった。どうやらおにぎりが好物のようだ。それはずっと前からそうだったのか、それともあの夜に俺がやったおぎにりを食って好きになったのか。どっちでもいいが、なぜかミーナとおにぎりがベストマッチだ。なぜか可愛らしい。
 煙草の灰を灰皿に落とす。部屋の中を見ると思わず苦笑してしまう。ベットが薙ぎ倒され、カーペットは牛乳臭く、床には包丁の突き刺さった跡。掃除するの大変じゃねえかクソ。しかしまあいいか、とはほんの少しだけ思う。買ったばっかのPCと小説の入った本棚さえ無事なら俺は何度でも蘇れる。逆にどちらかが壊れたりしたらその場で俺の人生が終る。友達にも絶対に触れさせない俺の宝だ。……秘蔵の宝はまあこの際置いておこう。
 煙草を咥えながら背伸びをする。窓の外を眺め、今頃学校のヤツらは昼休みか、と何となくそんなことを思った。雲はのんびりと流れていて、そこから見える青空はどこまで続いていて。そんな景色が見える部屋の中には、煙草吸ってる馬鹿な高校生と、おにぎり頬張ってる少女がいる。うん、何となく良い感じだ。
 リン、とミーナの首輪の鈴の音が響いた。
 ふと視線を向け、咥えていた煙草を落としそうになった。慌てて空中でそれをキャッチし、そこに視線が釘付けになる。
 ……おいおい、マジかよ、何だよそれ。そこに、ミーナがいる。うん、それはわかる、当たり前だ。俺がわからないのは、そこにいるミーナが猫だってことだ。着ていた俺の服の隙間から必死に抜け出そうと転がっている。その姿も可愛いっちゃー可愛いが……ねえ?
 やがて脱出に成功したミーナは鈴を鳴らしながらしっぽをピーンと立て、俺に視線を向けて「なあっ」と鳴いた。なぜかそれが「ありがとう」に聞こえた。ああ、俺もついにあっちの世界の住人か。飼ってる猫の鳴き声が人間の声に聞こえるっていうそういう世界。しかしまあ、良いか。ミーナはちょっと変わってる訳だし。
「おう。また来いな」
 なあっ。
 そして、ミーナは俺の横を通り抜け、窓の外から外に出て行った。
 それを見送りながら俺はただ一言。
「今度屋根の上歩くときには気ぃつけろよー」


 ――リン。
 どこか遠くて、鈴の音色が響いていた。


     ◎


 煙草を吸い終わった俺は、ぼんやりとPCの前に座り込む。
 そしてお気に入りに登録してある【登竜門】を開く。以前投稿した《鈴の音色》にパスワード入力、編集ページを開く。
 ふむ。これの続きって案外簡単にできるのかもしれない。
 ネタのない俺にとっては好都合だな。ノンフィクションだからいろいろ考えないでそのまま書けるし。題名変えるのもあれだし、そうだな……。
 よし、これでいいべ。
 俺はこう打ち込んだ。



       ――《鈴の音色U》――



                         作者・神夜



                                 END



 P.S その日から、ミーナは腹が減ると度々、俺の部屋までやって来てはおにぎりを食って帰って行くようになった。
2004/09/26(Sun)17:24:58 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さてはて、どうもゴッド・ナイトです。
この度、【鈴音の音色】を【読み切り】という形で投稿したのにも関わらず、いきなり【続編】などという横暴破りに出た愚か者です。いやまぁ、ネタがないんで……浮かんだのをその一瞬一瞬で形にしていかねばやっとれんです、はい(黙れ
ゲフン、改め神夜としての挨拶を。
この【続編】、【鈴音の音色U】のアイディアをくれたバニラダヌキさんにまずお礼を言いたいです。しかし、許可無く勝手に物語にしたことも謝罪申さなければならないのが本当のところだったり……すいませんっ!!(土下座
【鈴音の音色T】のテーマが『何だかよくわからないけどほのぼのする物語』とするなら、
【鈴音の音色U】のテーマは『何だかよくわからないけどテンションの高い物語』でしょうかね。その場のノリと気分で書き上げてしまったのでそうなって当たり前というか、もっとちゃんと構想練って書けよっていうか、ただ自分が書いてて楽なのでそれでいいかなぁとかなんとか思ってたりして(マテ
……イカン、このまま書き続けても墓穴掘るだけっぽいです(笑   ちなみにこれも、前半まではノンフィクション。以前の話をそのまま書いてます。ですので主人公の性格はそのまま、いや、悪化している可能性大です。それでも一人でも楽しいと思ってくれた方がいてくれればそれだけで幸いです。
それでは、読んでくれた皆様へ最高級のお礼をここに、感想、ご意見、指摘などともらえると光栄ッス。
赤い首輪をした茶色い猫におにぎりをあげつつ、神夜でした。
鈴の音が心地良いです。
(「T」に続編として突っ込みたかったのですがパスを拒否られました。一応報告はしたのですがどうもお忙しいのか、それとも自分が何か間違えたて失敗したのか、よくわかりませんが未だに拒否し続けられ、思い悩んだ末に新規投稿。まあ「T」はあれで完結していたので、それでも良いかな、と。もしやべえようでしたら消しますんで、ご判断お任せします、管理人様。)
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