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『支え』 作者:水城紫苑 / 未分類 未分類
全角5043文字
容量10086 bytes
原稿用紙約18.7枚
闇。
一面の闇の中でうっすらと、仄かな白が浮き上がった。
それは白さを纏うその人が、椅子から徐ろに立ち上がった為。
すっと、長い着物の裾を引いて、彼はゆっくりと歩き出す。
着物の色は、落ち着いた黒や臙脂の濃い色で統一されているのに対し、彼本来の持つ色は白に近い淡い色だ。
男にしては線の細い、その男はつと窓から見える海の波を見つめる。
天空の一番淡い色を思わせる瞳が、やがて窓から離れ自分の真後ろで隠れるようにしていた子供に向かい―。
そして、にこりと儚いとさえ言って良い笑みを浮かべた。


「どうしたの?そんなところに隠れていないで、おいで」


静かな水面を思わせるような声と共に、手招きをすると建物の柱からひょっこりと子供が姿を現した。
長い薄紫と茶を纏う髪の女の子と、その後ろ、薄い色素の茶の髪を持つ男の子が恐る恐ると近づいてくる。
それに苦笑して、彼は子供達の目線の高さに合わせる為、膝をついて屈んでみせた。


「どうしたの?二人とも」

「父上」

「・・・父さん」


問えば、二人の子供が口々に彼のことを呼ぶ。
色素の薄さにかけては、親子と言えば納得するくらい纏う白さもこの子供達は似ている。
唯一違うとすれば、彼の瞳が淡い天空の一番上の色をしているのに対し、
子供達の瞳の色は暗い夜空を思わせるような色をしていることだろうか。
それは、子供達の母親と同じ瞳の色だ。
彼は、そっと子供達の頭に手を乗せると、優しい声で名を呼んだ。


「涼、静・・・。何か怖い夢でも見た?それとも、声を聞いた?」


そう言ってから、安心させるように両腕で子供達を抱きしめたその彼こそ。
世界の中で魂の管理を行う冥王、漣。その人だった。







困ります、と従者の一人が言うのも気にせずに静は、質素な服装のままで回廊を歩いていく。
その後ろからは一定の距離を保ったままで、従者が追いかけてきていた。


「静、あまり従者を困らすものでも無かろう?」


その脇から声を掛けてきたのは姉の涼。
自分よりも幾分も背の低い姉に視線を合わせれば自然と見下ろさなくてはならない。
きちっと結わえた髪に鈴の付いた飾りをし、涼は前掛けの紗で出来た衣の乱れを細い指で整えた。
全体的に色素の薄い印象に対し、瞳の色だけは濃い夜闇の色を称えている。


「姉さん」

「イジィをあまり虐めるものでもない。ちゃんと着替えてやっても良いだろうに」

「・・・あまり身動きが取れないのは好きじゃないんです」

「よく言う。お前、幾ら裾の長い衣を着ても身軽に動けるだろう?」


涼という名に相応しく、涼やかに笑う姉に観念したのか静が溜息を吐く。
そして後ろにやっとで追いついた従者を首を巡らせて、見て取るとくるりと踵を返した。
困った従者に一言。
「着替えに戻る」と告げれば、従者がほっとした顔で嬉しそうについて、廊下の影に消えていく。
それを充分に見送ってから、涼は髪飾りに付いた鈴を密やかに鳴らして父の元へ行くことに決める。
彼は、今の時間なら城内庭園でも真ん中に位置する水中庭園にでもいるだろう。


長い白を基調とした城は、それでもあくまで陽が差し入ることはあまり無く。
常に薄闇を引き連れてそこに鎮座する。言うなれば、白と言っても青白いと言った方がいい。
その城の主、世界で唯一魂の管理を行うという運命を持つ現冥王漣は、城の持つ色に負けぬ程の白さをいつも纏っていた。
魂の管理は絶えることなく、淀みなく。
世界に生きるものがある限りずっと続くもの。
例え、世界が変革の時を迎えようともそれは変わらず普遍的であるもの。
それ故に、世界から少し隔絶した場所にこの城はあるのだ。
そして、その城の主は永い時を生きる。
例外などはない。
それは既に人の定義からは外れてしまっているのだから、冥王は人ではないことになる。
例え自分の中に半分、普通の人間の血が混じっていようとも変わりはしないのだ、と涼は何の感慨もなく思う。
普通の人間であった母のことを覚えているか?と訊かれれば。
覚えている、としっかりと答えられるだろう。
柔らかに笑う人で、そしてそれ故に大切なものを知り、強い人だった。
そしていつも鏡を見るたびに、自分の顔立ちの中に母の思い出を見つける。
自分は母親似なのだとも、自覚していた。



急に開けた視界に、水中で息をする花が自然と発する柔らかな光が一面を支配する。
まるで漂白されたような白さの中に、濃い色の衣を見つけて涼は声を掛けようと口を開きかけた。
同時に。
穏やかな水面を思わせる静かで落ち着いた声が涼の名を呼んだ。


「涼?・・・あぁ、静も」


気付けば何時の間にやら着替えて来たらしい弟も居て、涼はゆっくりと庭園の中に足を踏み入れる。
冷たい水が長い衣の裾を若干濡らし、冷たさが足下にひんやりと伝わる。
しかし、構うことなく。
庭園の真ん中に座する東屋に辿り着くと、其処に座って居た父に一礼を施す。
それは、黙礼ではあるが、それにゆっくりと父も応えた後に父の向かい側に腰を下ろした。
同じように一礼をして、しかしその場に立ったままの弟が、ゆっくりと父の後ろの方に微笑む。
それに、応えて空気は若干震えるのを感じた後。
静かさを称えた水面に細波のような波紋が広がる。


「二人とも、どうした?」


いつも通りに訊いてくる父の姿は、涼や静が幼い物心付いた頃から変わることはなく。
これ以上の白さを持つ人は、世界にこの人を於いていないだろうと思えるくらいに白く。
男にしては、綺麗で整った面もちの父が、ふわりと笑う。
儚い儚い、その印象の。


「・・・命日です」


その笑顔に静かに応えたのは、立ったままで座ることをしない弟の静の方だ。
何の命日か、など言わずとも知れている。
父がやがてふっと息を吐くと、何も言わずに息を吐いた。
そうしてゆっくりと天空の最上の淡い色を称える瞳を伏せる。
白と闇を纏う城の主は、そうして静かな水面の。水のたゆたう微かな音を聞くように。


「駄目、だね。永いこと生きていると、どうして大切な日さえも忘れてしまうのか」

「父上」


小さく呟かれ、落ちた言葉に心配そうに涼が声を掛ける。
それを、大事ないとふと笑って。
涼と静の父は、立ったままの静に視線を向けた。


「どうした?静。立っていないで、此処に座ったらいい」


ゆっくりと自分の隣を示して待つ父に、仕方ないといった感じで静が腰を下ろした。
同時に瞳を伏せて、つと庭園に一点を示す。
それが、何の行動だか分からずに首を傾げた涼と静かに何も言わぬ父に静が小さな声で呟く。


「リトが、来ました」


そうして指し示す先に、見えるものは何もない。
首を傾げたままの涼に、少し笑って静がもう一度、今度は明確に或る一点を指し示す。
同時に、そっと空いた方の手で涼の手に触れた。
そうして再び見開かれた静の瞳の光彩は先ほどとは一変している。
深い夜空を思わせる色ではなく、綺麗な湖面を称えるような碧緑の深い色。
精霊眼。
それは冥王の父が持つ力ではなく、普通の人間だった母が持っていた力だ。
だが生憎、涼にはその精霊眼の力は受け継がれず弟の静にだけ受け継がれている。
それを確か、人の世界では血統の精霊眼と呼んだはずだが。
静の力は血統の精霊眼も、真の、自らの力で契約を果たす精霊眼の力さえも優に凌ぐ。
その彼の力で見えるようになった精霊の姿に、涼は困ったように笑むと淡い桜色の髪の精霊も柔らかに笑んで寄越した。


「お久しぶりです」

「もう、こんなに大きくなったのね」

「・・・既に300年は経っていますから」

「リト、お前が来たと言うことは風の精霊は代替えか?」

「はい」


静かに頷いた風の第一位の精霊、リトは微かに笑ってみせる。
馴染みのあるその精霊が、命を終えるからこそ、最後にまだ生きたままで会いに来たと理解出来て何も言えずに居る涼に
まるで母親が子供にみせるような笑顔でリトが笑いかけた。


「そんな顔をしないで、涼。私はあなた達にも出会えて幸せだったの。
・・・勿論、リィナに会えたことが私の最大の幸せだったけれど」


リィナとは、涼と静の母の名だ。
今目の前にいるこの精霊こそ、母が契約をしていた精霊でもある。
既に母が死んで300年も経った今。
母を覚えている精霊は、彼女只一人だったはずだ。いや、もう一人存在している。
してはいるが、それは決して使役される存在ではない。
精霊を統べるものにして、世界を構成する柱の一つでもある精霊王。
彼もまた、母を覚えている数少ないものの一人だろう。

ゆっくりと音も立てずに立ち上がった父が、リトに笑いかける。
そしてその白い腕をリトに差し出して。
最初からそれが望みのようにリトがその手を取る。
それが、彼女が望んで冥王に死を賜りに来たのだと明確に告げていた。
精霊の代替え。
力の強い精霊で在れば、在るほど永い時を生きる。
でもそれは決して永遠などではなく。
力の衰退が起こるのと同時に、精霊は代替え出来る存在を捜すのだ。
無事に代替え出来た後は、その命が尽きるのを只待つか。
こうやって、冥王自らに命を終わらせて貰うかを決める。


「さようなら、リト。ゆるりと、輪の中に戻るまで休むが良い」


小さな静かな告げる声が、父の声だと理解出来るのと時を同じにして、涼の手に触れていた静が手を離す。
そして祈るように目を伏せた後。
やがて、父に似たその容姿で笑った。


「新しく代替えした風の精霊が、『安らかな最後をリトにくださって感謝しています』と」

「大したことはないよ」

「では、そう伝えておきます」


静かに頷いて、黙った弟の姿を見て涼は、ふと父が自分をじっと見つめているのに気付く。
城に集う魂の声が震えて、途切れては、静寂を示し。
理解する。
次の冥王は弟ではなく、自分だと。
それは、父が望むからではなく自分がそう望むからだと。
何時かはこの安らかな時も終わりを告げて、父も魂の輪の中に返る時が来る。
永い時を生きることの出来る冥王とて、死が訪れないわけではない。
正確に言えば代替えこそが、冥王に死を与える。
冥王は本来世襲制ではなく、その冥王に足り得る魂の器を持ったものが冥王の城に赴き
その時冥王の座についているものに認められたのであれば、次期冥王となる。
そして人としての定義から外れ、永い時を生きることになるのだ。
しかし現在冥王の漣は、それこそ珍しく人との間に子を設けた。
冥王は既に冥王であるが故に、人ではない存在。
それの子供もまた、人の定義からは外れてしまい永い時を生きる存在。
同時に子供には、皮肉にも冥王足り得る魂の器さえも備わっていた。
漣には子供が二人。
しかし、冥王になるのは一人。


「父上、父上にとって母上はどのような存在でしたか」


冥王は魂の声を聞き、隔絶された世界で生きる。
その冥王が、選んだ女性は普通の人で。人としての長さでしか生きられない。
それでも、共に生きることを選択したのはどうしてなのだろう?
失う時が必ず来ると知っていて、そして置いて逝かれるのだと知っていて選択したのは。
涼の質問に、驚いて目を丸くした父が、一瞬の後に笑みを浮かべる。
儚いその印象と裏腹に、非道く幸せそうに。


「リィナは、私にとって。日向だったのかもしれない。
・・・本当のことは分からない。でも一緒にいた僅かな時間は凄く幸せで。
本当に本当に幸せだった。そう思う。そしてお前達を残してくれて嬉しく思うよ」





―そう答えた冥王が。
代替えをしたのは、その50年後。
人にとっては永く、涼と静にとっては永いのかどうかなど判別もつかぬ曖昧な長さ。
そして冥王になるべき道を選んだのは涼。
冥王についた最初の仕事は、どの冥王も等しく。
先代冥王を魂の輪に返すこと。則ち、死を与えること。
動じず、自分の娘の手を取って最期にぽつりと漣が漏らした言葉は。


『リィナに会えて、お前達に会えて本当に良かった。
私にとっての支えは永遠にお前達三人でしかない。・・・ありがとう』


魂の輪に帰る父に涙を流したのは涼と静、どちらが先だったか。
それは、決して悲しいからではなく。
それは、決して苦しいからではなく。
自分たちの父で有り得た人が、どうしようもなく優しい人だったからだ。
そして、どうしようもないくらいに自分たちを愛してくれていたからだ。


波の音が反響し、静寂を作る城の中で。
そうやって冥王の代替えは行われた。

2004/09/20(Mon)21:40:06 公開 / 水城紫苑
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■作者からのメッセージ
初めて投稿させていただきます。
ファンタジー色強めの話ですが。何だか不思議な感じが出ていれば良いなぁ、と思います。
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