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『何だか冒険記(読みきり/中編)』 作者:ベル / 未分類 未分類
全角13176.5文字
容量26353 bytes
原稿用紙約39.4枚

私は――戦っていた。目の前の筋肉の塊と。ソイツは顔は鉄のマスクでガードしていて、と言うよりも身長が2メートル以上もあるので頭に対する攻撃が出来ないため。峰打ちでは倒す事は難しい。どこを叩いても筋肉の壁の前では所詮峰打ち。無力である。

私は悔やんだ。この男と戦う道を選んでしまったことを。そしてハラを立てた。こんな戦いをしてしまってる自分に。

ズガンッ!!

その私の腰周りはありそうな太い腕が、私めがけて振り下ろされた。軽やかにソレをサイドステップでかわし、その腕へと峰で剣を打ち下ろした。いくら峰とはいえ、鉄。最初はそう思っていたが。この男の筋肉は予想よりも固すぎて、とても傷つける事は出来ない。でもだからといって。武器を持っていない相手を斬りつけるのは私の「道」に反する。しょうがなく反撃を恐れ、アタシはバックステップを繰り返し、距離を置いた。

ああ腹が立つ。さっきからマスクの下で笑ってるこの男の顔もそうだけど。自分? 違うわ。私が何より腹が立つのは、女の子の私を行かせたあの村長!!

心の中でモヤモヤと渦巻く怒りの念を剣にのせ、自分の鼻先をかすめて行った脚を追いかけ、その膝裏に叩きつける。が、大したダメージがまるでみられず。戻ってきたカカトが私の体を吹き飛ばす。

「ったた……」

周りでヤジが飛び回る中。私は何とか体勢を立て直し。再度距離を置いた。
ああもういったいわね。レディーに対して容赦ないなんて……まるで男じゃないわ。いや、でもこんな女の子をむさ苦しいいかにも物騒な男共の集いへ行かせた……村長! あのハゲ! ああ今思い出しただけでも腹が立つ! 白いひげで口や目を隠してるから表情が分からないあたりホントに腹立つ! いや、怒るべきはそこではないんだけど……。

とにかく……。話は、私が村長に呼び出された日にさかのぼる。



――村の為に、頑張ってくれ

その日私は、どんなお話しにでも出てくるありきたりなセリフを、村長さんに言われた。まあ、それも無理は無いと思う。最近、この田舎村にも食糧難が迫ってきている。けど、だからって、いきなり『武刀大会』何ていかにも物騒な張り紙を押し付けられてそんなことを言われたのでは反論もしたくはなってくる。そもそも、大事な話があるといって家に呼びつけておいてから仮にも女の子にこんなことを言うのもおかしいとは思わないのか。

「な、なんで私なんですか!」

私はいきり立って反論した。しかし、村長さんはうなだれながら。

「……村の為だ」

と何度も何度もブツブツと繰り返すばかりであった。さらに、

「それにお前は、村一番の剣の使い手だろう?」

村長さんのいつもの決まりゼリフ。盗賊退治や狩りの時も優先的に女のこの私に剣の使い方が上手いからって何でもかんでもやらせる。そりゃ可愛くて頭も良くてさらには運動万能、何でもこなせる私に頼るのも無理は無いと思うけど。

「……分かりました。村の為ですもんね」

私がそう言うと、村長さんはうなだれた顔をあげ、嬉しそうに言った。

「おお、引き受けてくれるか!」
「た・だ・し」

私は人差し指をたて、ズイ、と村長さんの額に押し付けた。

「旅費は出してくださいね?」

当然だ、こっちは猛者どもと戦って金を稼がねばならない。私は笑顔を作ると、口ごもる村長さんを何とか言い伏せて、旅費を出してもらうことに肯定してもらった。家を出る時、村長さんの『ヘソクリが、ヘソクリが』と泣いた声が聞こえたが、あえて無視しておいた。さて、旅費ももらったし、さっさと用意して旅立とうじゃありませんか。武刀大会の開かれるコロシアムへと。

「やってやろうじゃないの〜!」

一人大声を上げて村の中を大またでズシズシ歩いていく私を見て、友達たちは私の事をどうおもったのだろう。どんな相手が出てくるのかと言う期待と、負けた時の不安を胸に抱えて、私は剣と旅の為の食料や道具などが入ったカバンを持ち、村を出た。

「疲れた……」

村を出て30分、私は挫折して、岩の影で休んでいた。

「やっぱり運動万能とは言え、女の子の体力じゃむりだ……」

ポシェットくらいの大きさのカバンから入るはずの無いウチワを取り出して、自らに風を送る。ああ、やっぱりこの4○元ポシェットはいいなあ。なんでも入るし。汗に濡れた顔へと必死に風を送り、充分に涼んだ後、体全体をタオルで拭き、私はまた出発した。

「しっかし、コロシアムって遠すぎるのよねー」

大陸東南端の緑茂る田舎村から中央の北西へと向うこと80キロ。確か前に映像と音声で情報を送る……テレヴィとか言う四角い箱で見た映像の中にあったフルマラソンと言うものの距離より遠いとはどういうことか。生まれるならもっと都会が良かったなー。思いながら、ポシェットから地図を取り出して、広げた。現在地が、大陸の名所とも言われるテルシム荒原。今度観光にでも来て見ようかなとは考えていたけど、まさかこんな目的で来ることになるなんて……。いやいやポジティブに。来れただけでもよしとしよう。コロシアムの位置まで後まだ75キロも在るという現実を知らずに、私はなるべくポジティブに考えようとしていた。

そして、それから19時間たった昼下がり、照り付ける太陽に微妙に腹を立たせながらも、私はそのボロボロになった体をコロシアムの中へと何とか運んだ。

「途中……色々あったけど、ようやくついたなあ」

感涙でもして見ようかと考える一瞬。でもこんな所でいきなり男泣きをしてたら変質者扱いされるかもしれない。私はそう考え、少しだけ目じりに溜まった涙を拭いて受付へと向った。

「ようこそ、バトル・コロシアムに」

コロシアムの外で見かけた、いかつい筋肉の塊どもとは180度かけ離れた小さな子供が受付のカウンターで背伸びをしていた。

「え、えっと……武刀大会に参加したいんですけど」

こういう子供と、いや、村にも子供はいたけど、こんな可愛い子はいなかったなぁ……。いやいや、私は優勝するために来たんだ、変な邪念は捨てよう。ブルンブルン顔を左右に振るう私を見て少しビックリしていたが、子供は何かの用紙とペンを渡してくれた。

「初参加の方ですよね? じゃあ、それに名前と出身地、それと自分が使う武器を書き込んでください」

私はその場で記入欄を埋め尽くした。名前……シャルル・リフィー……。出身地ぃ? ……都会の街とでも偽っておこうかしら。田舎者だと舐められるしね。アタシは埋め尽くした紙を少年に渡した。受け取った少年はそれに目を通し、また笑顔を作る。

「……はい、それじゃあ、後20分もしたら始まりますので、それまでは控室のほうで待っていてください」

あっちです、と受付のカウンターの後ろにある横に少し大きい扉を指差した。私はそのとき、他に暇を潰すことが無かったので、控室のドアを押してみた。そして、すぐさま思い切りドアを閉めた。どうして20分近くも筋肉と汗の部屋で過ごさなければならないのやら。結局、私は外に出て素振りをするほか、することは無かった。大体900位まで数えていた時、アナウンスが聞こえてきた。よしっ、ようやくこの時が来た。

「う〜、緊張する〜」

控室に半ば強制的に入れさせられた私は紅一点であった。他にも女の選手はいないかなと期待はしていたが、その期待は打ち砕かれた。筋肉の塊の中、私は一人、身震いをしていた。いわゆる武者震いというものだ。筋肉の中には、

「へいへい、姉ちゃん、びびってんのか?」

などとほざきながら私の事を笑い飛ばすやつもいたが、私はそれを我慢し、心の中で誓った。試合になったら潰す。そしてその誓いが果たされる時がいきなりやってきた。何と一試合目が私とその筋肉バカだった。いける、これはチャンス。完膚なきまでに潰す。楽に死ねるとは思わないでよね……。怒りのオーラを振るいながら、私は試合場へと突き進んだ。

「わっ」

地面が砂の、広い試合場に出た私を迎えたのは、吹きぬける風とヤジの群れだった。

「殺せ、殺せ、殺せ、殺せっ!」
「やっちまえー!!」
「そんなチビ女。一瞬だー!」

……ああもうウンザリ。早くゴングはならないのかしら。早くなって。今なって。今すぐ。すぐ、すぐ、すぐ、すぐ、す――

イラついて小さくジタンダをついていたアタシは、本能的に高く跳んだ。
すると、今私が居た場所を、筋肉バカが拳を突き出していた。

「ちょっ、いきなりなんて……」

――そして、男の不意打ちをかわして、暫く奮闘していた今に到る。

私は男の後ろに着地して。剣を構えた。男はからぶった拳をひき、グルグルと方を回しながら振り返り。私を見ながら笑った。

「命乞いするなら……手加減してやるぜ?」

プチリ。私の中で何かがぶちきれた。ほほう。それじゃあ……手加減は、いらないわね? 

私は両膝を極限まで曲げて。足の裏に『気』を集中させると。それを爆発させた。助走も何も無い。しゃがんだ状態からのマックススピード。砂煙を起こしながら目に留まらないスピードで男の懐へと瞬時に移動。いきなりのアタシの懐への出現に驚いた男は少しのけぞった。今だ。腕を上げてのけぞったなら……アゴががら空き!!

「とおおおお!! りゃああああッ!!!」

再び足の裏へと気をためて、爆発。男のアゴまで一直線に飛び上がり。アゴを傷つけないようにマスクだけを剣で突き上げた。空気を貫く切っ先は、見事にアゴのガードの部分に当たる。

キィイン!

激しい音と共に真上へと飛び上がるマスクを。それを眼で追う男のアゴにさらに膝蹴りを加えた。見事にあご先を捕らえた膝をアゴから離さぬまま。もう片方の腕で男の頭に肘を下ろす。膝と肘で頭をサンドイッチされた男は。白目をむいたまま、倒れることなく気絶していた。

「血を流さなかっただけ。ありがたいと思ってよね」

動かない男を指先でチョコンとつつくと。ゆっくり男の体は仰向けに倒れこんだ。私はそのまま振り返り。アナウンスの意外な状況に対するコメントを聞きながら、ひとまずその場を去った。

女だからって舐めてるからよ

男に色々なものが投げ捨てられているのも知らず。私はコロシアムのドアをくぐった。

「っしゃーー!! ストレス解消! いい気味だわ。あの男」

誰もいないのを確認してから、私は大きくガッツポーズを取った。
当たり前だ。仮にも私は女の子。こんな所他の人に見られたら恥ずかしいじゃない。誰に言ってるのか自分でも知らない私は。次を試合を見るべく観客……ヤジ飛ばし席へと行った。

「うっわ」

ヤジ飛ばし席は。コロシアムの中よりも白熱していて。賭けまでしている人までいた。はしたなくて下品なセリフを簡単に飛ばし、ミスをしたかと思えば手に持ったジュースのカンや瓶を投げつける。最悪だ。こんな所に来るんじゃなかった。けれどとんぼ返りしてしまうのも私の「道」が許さない。振り返ってどうする。逃げてどうする私。私の辞書に後退は無いのよ。さあ、あそこで都合よく空いている一列がある。あそこの端へでも座ってしまえ――

覚悟を決めた私は、弱々しい足取りで何とかその空いている一列のイスへと歩き出した。試合にだけ白熱している野次馬どもは、私の存在に気付いてすらおらず、ただ声を張り上げる。良かった。これならどうやら気にせずに座れそうだ。

私は安心し、その席を見る。と。そこには、さっきカウンターで見かけた可愛い男の子が真ん中に座っていた。うっそ。よくこんな子供なのにこんなところで見る勇気あるわね……。そう頭の中で呟いている私に気付いた少年は、手招きした。
可愛い男の子からの誘いは断れず、私はその男の子の隣に座った。

「さっきの試合、凄かったですよ!」

私が隣へ座った瞬間。眼を輝かせた男の子は私を腕を掴んできた。

「そ、そんなものでもないと思うけど……」

思わずたじろいでしまった私を追い込むように、さらに男の子は迫ってきた。

「剣を抜かなかったのも相手を傷つけないためでしょ!? カッコイイなあ! あ、さっきのしゃがんだ状態からの移動。どうやったんですか!? そ、それより――!」
「わ、分かったから……兎に角、抑えて」

ただ苦笑いをする事しか出来ない私は、とにかく優しく返した。あまり強く言い過ぎて泣かれても困る。それに、自分に対する尊敬感を本気で感じた事はまるでなかったので。案外イヤではなかった。村では友達は曲芸程度にしか自分の技を見ておらず。この子みたいに一生懸命に聞きに来てくれる人なんて、誰もいなかった。

オホンと咳払いをすると、私は少し恥ずかしそうに言う。

「武器を持っていない相手を傷つけるのは道に外れるからね! 相手が打撃ならこっちも打撃。相手が斬撃ならこっちも斬撃。そして相手が卑怯ならそれ以上の卑怯を。それが私の戦闘に対する道よ」
「へー……」

感心したように静かに聴いている男の子の次の反応を待たず。私はとにかく喋る。

「あの瞬間移動みたいなものはね。一つの……武術の移動方みたいなもんよね。私にとっては。他の人から見ればどうかは知らないけれど。私の場合。他の人より脚力が高いの。何故かは秘密ね。でね、体中に張り巡らされている「力」を。全て脚に集中させたの」
「えっと……。つまり、他の体の部位に使っている力を脚に集中させたってことですか?」
「ものわかりいいねー、君。まあそんな感じ。かなり辛い鍛錬だけど。積めば君にだって出来る様になるかもね」

私はニコリと自分でも気持ち悪い笑顔を浮かべると、もう何も喋りかけてこない少年の様子を見ると、私は戦う男たちの姿に目をやった。
ああ、戦い方悪いなあ。あ、ソコで跳んだら狙われるでしょ……ってアレ? あの男馬鹿? 何で跳んだ瞬間は無防備になるのに……。
あーあ。やられちゃった……あの跳んだ瞬間狙ったら――

「勝てないよ」
「――勝て――……え?」

その声は、一瞬誰のものなのかと思った。後ろに達人でもいたのか。ダレだろう。今のは。

「跳んだ方。二重の罠を張ってたからね。今の攻防はかなりのハイレベルだよ」

そう、その声の主は――今、ついさっき私の横で目を輝かせていた子供――
明らかに雰囲気が違う声で。私の言葉をさえぎり。続けた。

「跳んだ方はまだ武器を持ってた。恐ろしい切れ味なんだろね。懐のナイフ」
「ナ、ナイフ?」

隣を見ると、あの子供は、その丸い目を。なんと言うのか。そう、アレは達人――いや、それ以上。とにかく、幾つもの戦いを経験してきた猛者のような。

「うん。もう一人の方の棍棒……少し振り払うだけで切れそうなほどのね。でもあの棍棒使いは弱くない。むしろ強いんだ。あの状況で攻撃を加えなかった事がその証拠」
「なんで、そんなに……」

驚き戸惑う私を見て、子供は何も言わずに、その眼を向ける。とても子供のものとは思えない。ギラついたその眼を。
そして子供は席から立ち上がると、静かに言う。

「次は……僕とあの男だね」

振り返り、私を見た子供は笑みを浮かべる。

「まあ……すぐに終るから」

ゾクッ

私の背筋、いや、体全体というのか。私の体はどうしてしまったのか。冷や汗が止らない。体の震えも止らない。何より――

――本能が私に危険信号を送り続ける。

――キケンだって事を

その子供の笑みには、何の感情も込められていなかった。失笑でもなく、微笑みでもなく、ましてや無邪気な笑顔などというのはありえないもの。
ただその口の両端が吊り上げられ、小さな三日月を浮かべている子供の笑み。
だが、次第にその恐怖から来たのかと思える震えは、自分がワクワクしていることに気づき、武者震いという言葉を思い出す。

ああそうだ。私はこの子と戦ってみたいんだ

ヤジが飛び散る中、なぜかその子供の前だけに道が出来ていく。その様を見届けながら、私は自分が熱くなっていることに気付いた。

「……なんなのかしら、あの子」





待つこと20分。さっきの子供の言うとおり、そのナイフを使うらしい男と、子供が戦う時が来る。
ナイフを使うらしい男は、両の手に3本のカギ爪を装着しており、その爪先をチロチロと舌でなめまわす。はっきり言って、とても気持ち悪い状況だ。
しかし、あの子供はまだ現れない。もう試合は始まるというのに。もしこのまま来ないのなら強制的にあの男に勝ちに――

私の背筋が、またもゾクリと震える。体全体を稲妻が走り抜けるような感覚。来た。あの子が。

あの子供は、薄汚い砂埃がついたボロボロのキレを体全体に纏っていた。分かるのは、子供の殺気と、あの三日月の様な裂けた笑みだけ。
試合開始のゴングがなっても無いのに、カギ爪をつけた男は子供に向けて、その鋭利な爪を突き出した。
だけど、子供はその場所にもういなくて、男の後ろでただ佇んでいる。男は恐怖したに違いない。目の前にいた敵が突然後ろにいるのだから。
それにしても一体何が起きたのか。子供の体が少し揺れた瞬間。男のカギ爪は空を切り裂いただけで、子供はいつの間にか後ろに回りこんでて。

「一体何を……」

私は頭の中で考えていた言葉を、無意識のうちに呟いていた。気になる。あの動きがなんなのか。どうしたらあのような動きが出来るのか。

男のカギ爪は、ただ当たらない。子供に触れることが出来ない。子供を捕らえる事が出来ない。完璧に決まったように見えても、その子供はすでに男の腕を取っている。
速くは無い。なのに、舞い落ちる木の葉のように、相手の動きを見極め、最小限の動きで相手の攻撃を回避。そして相手の腕を取り、投げる。
その男は最早悲惨としかいい様が無かった。攻撃は当たることなく、その視界がぐるりと回ったと思った瞬間。地面に叩きつけられる。
何度も何度もこの固い砂の地面に叩きつけられては、ダメージも相当のもの。それでも立ち向かうあの男を、あるいみ尊敬する。

「あっ!」

私の悲鳴が上がると同時に、男はその爪を子供に向って放り投げる。一直線に飛ぶ爪をかわす。男はかわした後の動きに合わせて今度は足元へと投げ、自らも疾走。
子供は足元に飛んできた爪をも難なくかわす、が。子供の体が引き裂かれる。いや、実際に引き裂かれたのはボロキレの方なんだけど。
あれがあの子供の言ってたナイフ……。かすった様にしか見えないのに斬れてるなんて、ホントにとんでもない切れ味――


――銀色、三日月、空間が軋む音


気がつけば、男の体は全身が紅に染め上げられ、子供の姿はその場所に無く。会場が静まり返っていた。
一体何が起きたのか。子供のボロキレが引き裂かれ、ボロキレが風に飛ばされようとした瞬間。空間が軋むような音がして、あの三日月が、さらに吊り上げられたと思った瞬間。銀のきらめきが男の体を裂く。
手に握られたナイフは、その刀身が真っ二つになっていた。恐らく、子供の攻撃を受け止めようとして、そのまま斬られてしまったのか。
なんと言うことだろう。世界は広い。こんなバケモノが存在するなんて。私は息を飲んで、思わずその場で立ち上がり、震える拳を握り締めていた。

「……やってみたい。あの子と」

ワクワクと、体の武者震いが止められないまま、私はただ立ち尽くしていた。





『武刀大会決勝戦!!』

空気をとどろかせるほどのアナウンスの大声が響く。目の前にいる異質が放す殺気のせいか、会場内はアナウンスの声意外には、もう何も聞こえない。恐らく、話すことが出来ないんだろう。私は良くここに立っていられるものね。並の人間なら目の前に立つだけで気絶しそうなほど。

『数々の剣技や戦術を使い、幾多の猛者達を地面に倒れ付させた……シャルル・リフィー!!』

そう、私は今、あの子供と立ち合っている。子供を包む布は無く、小さな体が外気にさらされている。子供の姿を隠す布がないせいか、放たれる殺気は一段と強い。

『一方!! 残虐ともいえるほど手加減無用に! 敵を切り伏せていった……アシュレイ・ゼファー!!』

子供……アシュレイの腰からぶら下がっているその凶器、刀の柄に手をかけて、子供はその刀身を空気にさらしていく。ゆっくりと鞘と言う殻から出てくる銀色は、もう月と言えるほど美しくしく。滑らかに曲線を描いている。アシュレイが数歩歩いて、間合いを詰める。私は素早く警戒し、剣を構える。すると、アシュレイは先に見せた明るい笑顔を浮かべた。

「じゃあ、手加減無用で、おねがいしますね」

私は一瞬、アシュレイの笑顔を見て、緊張感を緩める。瞬間、銀閃が私の頬をかすめた。

「さあ、はじめましょうか」

さっきとは裏腹に、子供は冷酷な眼と、冷たい静かな殺気をむき出しにする。細められたその眼は、今にも私の心臓を握りつぶそうと狙っているように、私の体から眼を放さない。油断していた。いまのは多分、わざとはずしてくれたんだろう。私は頬から顎につたう血を親指で拭う。

私とアシュレイは、互いに静止する。

動かない、動けない。動けば待つのは死だけ。次は、アシュレイも本気で私を殺そうと容赦なく斬りかかって来る。ならば、私も殺す気で行かないとダメだって事だ。峰打ちじゃなく、刃で……。

今まで横に向けていた剣の躰を、徐々に動かしていく。その刃の部分を、子供に。腰を落とし、膝を沈めて、体は半身横に構えて、剣は体を守るように自分の体の前で刃を起こす。

いつでも、来い―――

思った瞬間だった。アシュレイの姿がぼやけたのは。来る。もうあのアシュレイは残像。何処に、上? 横? 後ろ? ……前ッ!!

『ア、アシュレイ選手、消えまし――!!』

目の前で放たれている銀色の一閃が、たった今私がいた空間を横に引き裂く。自分の胸が膝につくまで曲げた体のすぐ上を、刀が走っていく。私は、構えた剣をアシュレイからは死角となる、ほぼ顎の真下の位置から振り上げた。

『なッ、アシュレイ選手ッ。消えたと思ったらシャルル選手の目の前にッてああ! 今シャルル選手の剣がアシュレイ選手をーッ!?』

その実況が行われているころには、アシュレイは凄まじい反応速度で足を大きく一歩踏み出す。振り上げられるはずだった私の剣の刃の根元を大きく踏みつける。その靴は斬れることなく、私の剣を地面に突き刺した。そしてさらに踏み出した足に力をいれ、大きく跳躍。放たれるは殺気と銀の一閃。私は剣を抜かず、一歩。一歩だけ横に足を動かし、半身になって降って来たアシュレイの体と刀をかわす。私がアシュレイに攻撃を加えようと一歩踏み出すのと、攻撃した後の反動をものともせずに後ろへと跳躍したのは同時だった。

強い……じゃないッ!!

下がっていくアシュレイを見据えながら、突き刺さった剣を引き抜き、その勢いを消さぬまま私は走る。大きく剣を振りかぶって、丁度バックステップの途中。足場の無い空中へと跳んだ瞬間を狙い、横に振り払おうとする。少年の反応はすばらしいものであった。ただ、受けようともせず、刀を私の鼻先に突き出しただけ。刀は私の残像を貫き、横に跳んだ私へとそのまま空気という滑走路をすべり走ってくる。着地はせずに、私は狙われた頭を地面に、跳んだ足を空中へと向って反転。跳ね上げた足でアシュレイの刀の持ち手を狙うが、その手は瞬時に引かれ、私の足は空を切って跳ね上がっていく。一瞬浮いた刀は、まるで何も無かったみたいにもう片方の手で支えられていた。地面へと落ちていく体を手で支え、逆立ちの状態になって、空へ向う足に体重をかけ、すぐに地面につかせる。この状況で一秒同じ体勢を取るという事は死に等しい。四つんばいの崩れた体勢を一瞬で立て直して、私は後ろへと飛び下がり。構えて、そして生まれる沈黙の場。

『あ……えと、実況が追いつきませんでした。スイマセン。ですが、見る限りでは今の攻防がどれほどハイレベルなものかよく分かりますねえー。無駄な動きはどれ一つをとっても無く、さらに――』

疾走。三日月。銀色。空間の軋む音。

アシュレイは居合いの構えから疾走。そしてその体のうちに潜む本性を垣間見せた。その小さな唇の両端が、少しつりあがったと思うや否や、今まで受けていた殺気をはるかに凌駕するものが生まれる。

ギシィッ

空間が軋み、私の体は一瞬硬直する。動け、動けッ、私の体!!

「ヒュッ」

小さく細い呼気。
同時に鞘鳴りの音が空気を震わす。
誰の目にも映らぬだろう神速の剣閃。
もし、それを見る事が出来たなら、それは銀色の流麗な弧が虚空へと描かれたのがわかっただろう。

この時、かろうじて動いた私の体がが図ったのは速戦即決。
初っ端から全力の技を繰り出し、相手が本気を出す前に仕留める。

選んだ技は居合。
こと、今からなら遅いけど、それでも何とかできる。するッ!

大気すら断つ下段から逆袈裟への斬撃。

ガキィィ……ン

金属音。
神速の斬撃は私が掲げた剣により阻まれた。だが次の瞬間、アシュレイが目を剥く。

――迅いっ!!

弾いた筈の刀は、初めから抜かれていなかったかのように既に鞘へと戻っていた。
いや、はや既に第二撃は鞘内より撃ち抜かれていた。
これぞ正に神速の名を与えるに相応しい激烈な抜刀術。

今度は弧が上を向く。
腰を捻るように傾けての、異型居合。上段から降り注ぐ銀閃。

今度は私が、その足を一歩大きく前に踏み出し、振り下ろす刀の持ち手を掴む。子供は刀を放して、もう片方の手で掴んで、私の腰あたりに突き刺そうとした。しかし、私だって死にたくは無いんだ。私は突き出された刀を間一髪で避け、アシュレイの体にけりを放つ。少しよろめいたアシュレイの体を私は離そうとはせず、瞬時に構えた居合いの体勢から一気に間合いを詰め

「くッ!」

アシュレイは全身の反射神経を爆発させて、左に身体を逸らす。それはただ避けるだけの動作。反撃へと連ねる見極めをする余裕もなかった。アシュレイの頬のすぐ横を、私の剣が振り下ろされる。

虚空に描かれる弧が止まらない。私は地を滑るように、低い姿勢から足を踏み出す。

戦武踏『水面駆け』

私の体は文字通り水面を駆けるがごとく軽やかに、そして刹那の間にアシュレイの側面へと移動した。
死角の侵略。
そして……弧を描く銀の飛沫がアシュレイの後頭部に向け、ほとばしった。

そこに響くは鈍い激突音。

それは途絶の音だった。

「……今のは本当に危なかったけど。殺そうとしてないお姉ちゃんの甘さが、隙」

刀を繰り出した体勢のまま、私はゾッと肌を泡立たせながらその言葉を聞く。刃を返し、峰で振るわれたはずの剣は、アシュレイの後頭部の直前で止められていた。

アシュレイが背中にまわした右手。その広げた中指と親指に乗せられた剣の峰。
白くて、触れれば折れてしまいそうなほど細い指に、剣は受け止められていた。

「だけど、僕は本気」

バッ、と私は思いっきり飛び退いて間合を取った。ドッと冷たい汗が流れ落ちる。

冗談じゃない。

ギリリ、と私は歯を軋らせた。

冗談じゃない、峰打ちとはいえ、振り下ろされる高速の鉄を指2本で!?

「化け物並ね!」

そうかい、とそっけなく呟いて、アシュレイは刀を納める。そして、剣をすらりと抜き放ち、ぶらりと右手にさげる。

「今度はこっちの番だよ、お姉ちゃん」

感情の消えた声。底冷えした寒気が吹き荒ぶ。
私の顔がみるみると青ざめるのが、自分でも分かる。

ヤバイ!

すでに充分取ったはずの間合。だけど、私はさらに後ろに飛び退いた。本能と経験がハモりながらそこは既に危険地帯だと絶叫する。
吹き荒ぶ圧力から逃れるように……退く。
だが、警鐘は止まない。

音も無く、気配を気取る暇もなく、気づいた時、すでにアシュレイの姿は私懐の内に……

ああ……

私は心の中で絶句した。

これじゃあ最初から最後まで全てアシュレイという名の悪魔の掌の上じゃないの?

ド……ガッ

肩口からの体当たり。
肺から空気が強制的に吐き出された。
私の体は重力に逆らって、宙を舞い、やがて重力に逆らいきれずに大地に叩きつけられる。

「かッ……はッ」

足りない酸素を補おうとする意思と、衝撃にさらに吐き出される空気がぶつかり、行き場を失った。私の体を駆け巡る矛盾の衝撃。
暗む視界を無理やり開いて私は、自分を見下ろす悪魔の顔を睨みつけた。

「本気って、いったよね」

降り注ぐ、言葉。
トリガーに指がかかった。


あはッ、はははは

侮蔑すら含まぬ感情の擦り切れたそのセリフに私は喉を震わせた。声は出ない。

言う……じゃない……言って……くれるじゃない

嗤いが思考を侵していく。
何もかもが楽しくなってきた。

ふらふらになりながらも、私は立ち上がる。

思わず、笑い転げそうになりながら剣を肩に引っ担ぎ、目の前にいる悪魔に向って言う。

「痛いじゃない。坊や?」

ガッ、と頭がぶれた。
気がつくと、視界に空が見える。顎が痛い。どうやら下から顔を打ち上げられたらしい。
今度は鳩尾。いきなり突かれた。弓なりになり、続けて背中から叩き伏せられる。
地面に口づけする直前、視野の端にチラリと映ったのは細めて眼で見下ろすアシュレイの姿。

ははッ……ははははッ

顔を手で覆いながら忍び嗤う。
楽しくて仕方が無い。頭にきて仕方ない。

言うじゃないの、君。こっちだっていい加減頭にきてるんだよ? 好き勝手やってくれちゃってさあ。

アシュレイの表情が段々と険しくなっていくのが分かった。ギリギリと歯軋りの音が響く。

「それともホントに死にたいの?」

アシュレイの声が低く凍った。気配が一変する。放たれるそれはもう殺気の領域を超えていた。

それに打たれて、私の体は震えた。

違うわ、君……私は死にたいんじゃない……よ

ヤバイ……なあ……君…そんなに殺気を撒き散らさないで

私まで




コロシタクナルジャナイカ


「なッ?」

アシュレイは振りおろそうとした刀の動きを止め、その細い眼をむき出しにして、大きく跳び下がる。

ああ、君にもわかるんだね? 私の気配が。私の本性が。

私は自分の顔を片手で伏せたまま、地面に放り出された剣を拾い上げ、肩に担ぐ。アシュレイからも分かるだろうね。私の肩が、体が震えているのを。

ああ、楽しくて、しょうがない……

私の体は周りにはどう見えているんだろうか。9メートルはある間合いを、私は立ち尽くしたままの状態で埋め尽くす。間合いを侵略し、アシュレイの目前でしゃがみこんで死角を埋め尽くして、飛びのくアシュレイとの距離をさらに侵略して、放たれるのは三日月の一閃。聞こえたのは、鉄と鉄との激突音。

アシュレイの体は人形のように大きく私から遠ざかっていく。激しい金属音が生み出したのは私の手に残るしびれと、高揚感。

そう、私は今楽しいんだ。あの子と斬りあっている今が、どうしようもなく

吹き飛んだ体勢のまま後方へスライディングして起こる砂煙の中を、私がいきなり現れるなんて考えなかっただろうね。私は剣を突き出す……フリをする。アシュレイは見事に引っかかり、横ッ跳び。その動きにあわせて私もサイドステップ。アシュレイの驚愕と焦りの表情が一層濃くなっていく。

「あはは……私も、本気だよ」

振り放たれたのは、私の体の周囲を引き裂く、円形の殺刃。

サイドステップして着地。まともに踏ん張っても無い状況で、私は『氣』を足裏に集約させ、爆発。驚異的な踏み込みが生み出したのは、如何なる反動をも跳ね返す強靭な固定。瞬間、次にその『氣』を大胸筋、上腕二等筋、そして手首、指に。

剣を振るう腕をひねるための胸の筋肉、そして剣を振るう腕の筋肉。回転しながらもしっかりとその剣を掴むための指。そして、急激な一回転からの静止を止めるための、手首。高速で私の体は一回転。そして急な静止。斬撃、衝撃が生まれる前に静止した事による空間のいがみ。一瞬遅れる円形の衝撃破。アシュレイの体のところどころから少なながらも吹き出る飛朱。

私の剣を受け止めたアシュレイの刀は、見事に真っ二つに割れていて、その刀身はずれ落ちることも無く、ただその刀身に一本の線を刻みつけて、そこにあった。

『な……なんと言うことでしょうか。シャルル選手が優勢に思われた次の瞬間。シャルル選手の体は消えて、横に飛んだアシュレイ選手の目の前に消えたシャルル選手が出現。そして着地した瞬間。シャルル選手の体があまりの速さにどんな動きをとっているのか分からなくなり……アシュレイ選手の体を何かが襲いました』

続く〜
2004/09/30(Thu)18:07:36 公開 / ベル
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■作者からのメッセージ
あはははは(ぇーぇー

久しぶりに更新しました。何だか冒険記です。
いや中篇というのが非常に中途半端ですが、そこは皆様の生暖かい目で見守ってください。ではでは〜

(いやもうなんか主人公の性格変わってるぞ)
(いやたまにはこういうのもいいかなと)
(いやいや、絶対無理があるから)

ていうか誤字脱字多数発見。補足します(何
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