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『かあちゃんと一海ちゃんと俺 (完)』 作者:千夏 / 未分類 未分類
全角4372.5文字
容量8745 bytes
原稿用紙約15.1枚
カランカランという、コップの中の氷の音が聞こえた。
「佐鳥。アイスコーヒー、できたから。置いとくわよ」
そう言ったのは俺の姉、一海。台所にあるテーブルにコップを置く音がした。
俺は「ああ」とそっけない返事を返し、胡座から寝転がった。
(チリンチリン)
風鈴の音だけが聞こえる。目を閉じた。開いている窓から風がヒュウと音を立て、俺を包み込んだ。こんな時は、ふと、昔のことを思い出してしまうのだ―――




「佐鳥、佐鳥、ほら、蛍」
俺を呼ぶ声の方に行くと、母が手を水をすくう様な形にして差し出してきた。
「覗いてみ」
「うん」
幼い俺は、母の手の中を覗きこむようにして見た。
「うわあ」
みっともない声を出して俺は母の手から顔を離した。母の顔を大きな目で見て、言った。
「光った、かあちゃん、光ったよ。なあに?コレ」
母は笑って、「なあにって・・・。分かんないの?蛍よ、コレ」教えてくれた。
俺はまた手の中を覗きこみ、「すごいなあ、すごいなあ」ただただ感心して声を出していた。
母が俺が覗きこんでいるのにも関らず、水をすくう様な形の手を開いた。すると当たり前だが、蛍は手からどこかへ行った。そんななんでもない事を、俺は手品を見ているような気分になって、「すごいすごい」と言うのだった。
母はまた笑って、「佐鳥、お姉ちゃん呼んで来な」と言った。
俺はまだ素直だったから、短い足を懸命に動かし姉を探した。
「一海ちゃん、一海ちゃーん。かあちゃんが呼んでるー」
足が一瞬止まった。耳に聞こえて来るのは、風鈴の音。目に見えているのは、少し洒落た服装の姉。なぜかとても恥ずかしくなって、姉に見とれた。そして、小さな声で言った。
「一海ちゃん・・・。かあちゃんが、呼んでるよ」
声に気が付いた姉は、優しい笑顔で、俺に言った。
「佐鳥、これ、いいでしょ?お母さんが買ってくれたの。いいよ、行ってて。後から行く」
「うん」
俺は頷き、かあちゃんのところへ戻っていった。




隣りでコトッと音がしたので横を向いた。そこには、コップを持った一海がいた。俺は置きあがって、「どしたの」と聞いた。
「どしたのって、アイスコーヒー薄くなっちゃうわよ?氷いっぱい入れちゃったし」
そう言うとコップを俺に渡した。
俺は「ああ、うん」と曖昧な返事をした。一海は「ふう」と一息ついて、寝転がった。そして言った。
「佐鳥、昔のこと覚えてる?あんたがまだ私のこと一海ちゃんって呼んでた・・・。あの頃あんた、私のこと・・・」
俺はアイスコーヒーを半分ほど飲んだ。一海は俺を下から見てる。俺も寝転がった。
隣りで一緒に寝転がってる一海は、何も言わずに「ふう」と言った。




俺がさっき母と一緒にいたところに戻ると、誰もいなくなっていた。
「かあちゃん・・・?」
泣きそうな声を出した。すると、隣りの部屋の縁側でパタパタという音がした。
「かあちゃん?」
言って縁側に行くと、母が団扇で扇いでいた。
「あら佐鳥。どうしたの?」
幼い俺は母の顔を見ると泣きそうだったのが嘘のように笑顔になっていた。
「かあちゃん、一海ちゃんもう少ししたら来る」
そう言ったらトントンと足音がして、一海が来た。
「お母さん、なーにー?」
母は俺に微笑んで、一海のほうを指差した。
「佐鳥、この服、お姉ちゃんによく似合うでしょ」
俺は一海の方を向いて、小さく頷き、小さな声で「うん」と言った。
それは、色白で髪の長い一海にはよく似合っていた。一海が綺麗な白いワンピースが似合うことを、俺は初めて知った。洒落た服の一海と、みすぼらしい白いシャツに短パンの俺。なんだか恥ずかしくなって、目を逸らした。
幼いながらに、こんなに綺麗なものははじめて見たような気がした。
「佐鳥にも今度買ってあげようか」
母が言う言葉を俺は無視して、縁側に足を放った。そしてぶらぶらさせて言った。
「かあちゃん、俺にも買ってね」
その言葉は、一海の隣りにいても変じゃない男になりたいというものだった。




俺と一海が寝転がってもう十分ぐらいは経っただろうか。一海の「私のこと・・・」から一言も話していない。
俺はこの沈黙になんとなく耐え切れなくなって、言葉を発した。
「俺さあ、小さい頃、一海ちゃんって言ってたじゃん。あれさあ、一海のこと姉だなんて思ってなかった証拠だよね」
「そうね。・・・図々しいわね」
二人で笑った。図々しいとまで言われるとは思っていなかったが、確かにそうだ。「お前何様だ?」って感じだ。
俺は寝返りを打って、一海の方を向いた。一海はそれに気付いて、一海も俺の方を向いた。
「私実はね、佐鳥のことよく分からないのよ。だって、胸の内を明かしてくれないし。小さい頃・・・私のこと嫌ってたでしょ」
俺は目を丸くして驚いた。だって俺は・・・




「一海、佐鳥!起きなさい!!」
翌朝、母の第一声はそれだ。いや、毎朝これなのだ。
俺と一海は「おはようございます」と言いきる前に、「おは・・・ふわあ」と、大きな欠伸をする。そして二人で布団をたたみ、一海が押し入れにしまう。この頃はベッドなんてものは我が家にはなく、いちいち取り出してしまうというのが普通だった。
作業が終わると母は「よし!」と言って、今日の予定を話し始めた。
「今日はー、佐鳥の新しい服買いに行こう」
俺はその言葉を聞いて素直に嬉しかった。言葉にこそしなかったものの、一海に一歩近づくことが嬉しかった。
「いいなー。私はもうダメ?」
一海が母に聞いた。母はにこっと優しい笑顔になって、「良いよ。行こう」と言っていた。
俺と一海と母は、買い物に行く準備をはじめた。


身支度がみんな終わると外に出て、最後に母が鍵を閉める。
右に俺、左に一海が、母の手を繋ぐ。母は持っていたバッグを肩にかけ、俺たちの手をしっかに握る。
道はまだ細くて、今も広くはないが今よりもっと細かった。一本の細い道で曲がるところなんて無いに等しかったが、俺はこの道が好きだった。
なぜなら、母と一海は二人で会話をしている中俺はその会話に入れなかったからだ。そして入る気もなかった。
俺は手を繋いでいたのを離し、一人道の白線の上を慎重に歩いた。手を広げ、バランスを取りながら。今思えば、白線なんて全然無視で気持ちだけ白線の上だった。子どもはどうしてこんなに分かり易いものを「白線の上を歩いてる」と信じていたのだろう。不思議だと思う。子どもって。
大分道が広くなり車も通る道まで来た。
「佐鳥、危ないからこっち」
そう言って手を差し伸べる。俺はその手を掴まえるのが好きだった。


「じゃ、一海はなんか見たいのある?」
「ううん。着いてく」
母は一海に微笑み、手を繋いだ。
俺はもう片方の母の手を強く握って、言った。
「かあちゃん、俺、ゲームのとこ行きたい」
母は「えー。だって今日は服買いに来たのに」と言って、その後「しょうがないな」とゲーム売り場に連れて行ってくれた。一海は俺に微笑んだ。
売り場に来ると、俺は母の手を離し見て回った。後ろから一海がついて来てて、母が一海の服を引っ張っていた。
「こら!一海も佐鳥もちっちゃいんだから迷子になったら困るのよ!」
母が言った。俺はそれには反応せず、普通に行こうとした。
が、素直でよくできた一海はちゃんと「はーい」と言って、俺を捕まえ服を引っ張った。
「走ったらダメ。お母さんに怒られるよ」
俺は「うん」と言って、母が俺たちに追いついた。
「ゲーム売り場は物がいっぱいだから走ったら危ないのよ。分かった?」
俺はまた頷き、母は続けた。
「一海と佐鳥は手繋いでて。一海、ちゃんと離さないように気をつけてね」
俺と一海は手を繋いだ。見たまんま姉と弟だった。
一海は平然としていて、俺は一海のその横顔を見ていた。ふと一海がこちらを向くので、俺は顔を背けた。一海が少し俺のほうを見て、少し間が経ってから俺は前を向いた。
一海が俺の手を強く握るのが分かった。少し、嬉しくて、鼓動が早まったのが分かった。
一海がまた俺のほうを向き、笑顔で言った。
「佐鳥、あそこ。なんかやってるよ」
一海の短い(と言っても子どもだからしょうがないが)指を指している方向に顔をやった。
そこには、クマのきぐるみを着た人と、若いコスプレっぽい服を着たお姉さんが立っていた。
母もそれに気付いて、「行く?」と聞いた。
俺と一海は声をそろえて「行く!」と答えた。一海も俺も、きぐるみが好きだった記憶がある。そして、母もそういう面白いことには興味があったのだ。これぞ、似たもの親子というのだろう。
俺と一海は母の手を引っ張り、「早く」と急かせた。母は「分かった分かった」と言って、楽しそうだった。




「俺は・・・一海のこと嫌いじゃなかったよ」
口から出た言葉は、本当のことだから、俺は言ってからも後悔はしなかった。
一海は起き上がり、苦笑して、
「う・・・うそだよ。だって私・・・」
途惑っていた。俺も起き上がって、一海の方を向いて言った。
「一海。俺にとって一海は姉さんと言うより・・・」
「だって・・・」
一海の目を見た瞬間、言葉が出なくなった。涙がどんどん溜まっていき、ついにキラリと光る雫が下へ落ちた。
落ちたと同時に、風が吹き、風鈴が鳴った。
俺は本音を言えなかった。本音を言うと、一海を困らせてしまうから。一海を、泣かせてしまうから。




(チリンチリン)
「楽しかったね、佐鳥」
一海が微笑んできた。縁側に座る俺の隣りにコップを置いた。
「はい」
渡されたものは氷の入った水。
一海が足を放り投げ、ぶらぶらさせている。俺は寝転がって、下から一海の顔を見た。幼いながらに、綺麗だと思った。そんな事を思っていると、一海は俺を見て、「どうしたの」と微笑んだ。俺は黙っていた。
「一海ちゃん。楽しかったね」
そう言うと寝返りを打ち、遠くを向いた。
視界にポッと灯りが灯るのが見えた。そして消えた。また灯る。
「かあちゃん!」
俺は一海を置いて母を探しに行った。すぐそこまで廊下を行くと、母はもうこちらへ向かっていた。俺は手を引っ張り、強引に縁側まで来させた。母は「なになに」と言っている。
光が見えたさっきの縁側まで行くと、一海が寂しそうに笑った。
「お母さん、さっき、蛍が見えたのよ」
母は一海に「あ、そうなの」と言った。俺も言った。
「蛍。蛍がいたんだよ。とってとって」
母は「うん・・・一回だけよ?」と言って微笑んだ。
俺は一海のほうを見て純粋に言った。
「蛍、綺麗だったね、一海ちゃん」
一海は笑顔になり、頷いてくれた。




「佐鳥だって、私のこと嫌いだったんじゃ・・・」
俺は一海の手を握った。
「俺は、姉さんを好きだったよ」
一海は泣いた。「嫌われてなかったんだね」と言って泣いた。




「佐鳥、ほら、蛍だよ」
微笑む母の顔が浮かんだ。

END
2004/08/04(Wed)13:54:05 公開 / 千夏
■この作品の著作権は千夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
今日和ー!終わりましたぁ!!!
一気に仕上げた感じですね。はい。
個人的にこういう終わり方は好きなんですけど、嫌な人いますよねぇ;でも、いいんです。私はもうがんばり終えましたので。(ォィ!)
えー、できたらこれは読み終えてから読んでもらうということで。
1、現代には母親が出ていません。ということは・・・です。
2、最後の佐鳥は、「姉さん」と言った。
このへんをよく分かってもらいたいと思います。
それでは、最後まで読んで下さった方々、感謝感謝です!
そして、只今書いております、「噂のあの山」「病弱天使と庭でお散歩」もぜひ・・・(強制じゃないですよ!)
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