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『一面の菜の花   【完】』 作者:九邪 / 未分類 未分類
全角16323.5文字
容量32647 bytes
原稿用紙約54.6枚

『いちめんのなのはな』という詩がありますよね? 山村暮鳥さんのあれね。
 今、俺の頭の中にはその詞が浮かんでるんだよね。何故かと言うと普通に昨日の晩、軽く勉強した後、少しマンガ(ドラゴンボール)を読んで寝ただけなのに、今俺の目の前にあるのは――



一面の菜の花だけ



 本当に見渡す限りの花、花、花。地平線が黄色く見えるくらいに広がっていて、蝶がフワフワ飛んでいる。それが、なんかバカにされてるみたいで少し腹が立った。
 さっきいったとおり、俺は昨日普通に寝ただけで親から旅行とかなんも聞いてない。ていうか今の状況は絶対におかしいです。舗装されていない道路に、布団を敷いて寝ている男の子がいます。はい、俺です。なぜか布団ごと(と言うより布団と着替えだけ)ここにいます。正直変人、奇人の類に見られてもおかしくない状況。さっきから誰もこの道を通らないことや、この一面の菜の花から察するにここは多分田舎って呼ばれる場所だと思う。それが不幸中の幸いか、俺のことを見る人は誰もいない。
 俺は今思っていることを言葉として口から出した。そうすると少しは気が楽になると思ったから。
「……ここ……どこ?」
 どうやら俺は知らない場所に放り出されたらしい。




一話.【トーキョーモンがっ!!】

「うん、きっとこれは夢なんだ。そうに違いない」
 夢ならば、もう一度寝て現実に戻ろうと思い、俺は布団の中にいそいそと入り込む。布団は舗装されていない土むき出しの地面に敷いてあるから、布団の中に入ったときジャリッて砂の音がした。まぁ、夢なんだから気にしない気にしない。
 思えば最近、あまりまともに寝ていない。殆どはゲームやマンガとかを夜遅くまでしてるからなんだけど。だから、今寝れるだけ寝ておこう。ほら、なんか眠たくなっ…て…きた……
 スコーン!!
「痛゛ッ!!」
 せっかく気持ちよくなってきて、眠れそうだったのに突如俺の頭に激痛が走った。何かが頭に当たったみたいだ。見ると布団の脇に石ころが落ちている。多分俺の頭に当たったのはこれだろう。石はこぶし大ほどの大きさで、石の当たった場所に手で触ってみたらかなり腫れていた。自然にこんな大きな石が飛んでくるわけないので、辺りをキョロキョロと窺ってみる。
「おい、お前か! 俺に石を投げたのは! 何なんだよ一体!」
 道の向こうに一人の女の子が立っていた。肩にかかる位の長さの髪で、小柄なその子は親の敵を見るような目で俺のことを睨んでいた。俺が何かしたかこの野郎。地元の子か?
「それはこっちのセリフや! なに人んチの花畑の前で布団敷いて寝てんねん! 気違いか、お前は!」
 ちょっと相手の女の子が勝気なんでビックリしたけど、気違いとか言われて黙っちゃいらねぇぜ。
「これは俺の夢なんだから何しようと勝手だろうが! お前こそなんだ、人の夢に入り込んできやがって!」
「……は? 夢? ほんまに大丈夫かお前? 時にあんた、出身はどこや? どっから来はった? その言葉遣いやともしや……」
 どうしてそんな質問をされるのか判らなかったが、取り合えず答えといた。
「東京だよ。それがどうしたんだ」
「東京やて!? あんたやっぱりトーキョーモンか!? なんや、トーキョーでは地べたに布団敷いて寝るのが流行っとるんかい」
 その女は俺が東京出身だと聞いた瞬間、更に嫌悪感を顔に出した。
「そんなわけないだろ! これは俺の夢だからそうしてんだよ」
 なんで、あの野郎はあんな変な顔してんだ? 俺なにか変なこと言ったか? ……ちょっと待てよ。さっき石が当たった場所、まだ痛んでるんですけど? なんか嫌な予感が……。ちょっと頬をつねってみよう。
「痛ッ! ……ヤバ。これ夢じゃないじゃん。……どうしよう」
 夢じゃないのこれ? だって、俺昨日なんもしてないよ? 神隠しに遭うほど悪い事した覚えもないよ?
まじでここ……どこ?
「なんやこいつ。固まってしもたわ。怪しい奴みたいやし、ばあちゃんとこ連れてこか」


「あれ? 何だやっぱり夢じゃねぇか。いつの間にか俺んちに戻ってきてるよ。あ〜、夢でよかった」
「だから、夢やない言うとるやんけ」
 突然柱の影からあの女が出てきた。なんで、あなたがここにいるんですか? 夢の続きですか?
「ここはウチとばあちゃんの家や。あんた突然気絶したんでここに運んできたんや。なぁ、ばあちゃん?」
 あの女の隣に妖怪……じゃなくて、奴のばあさんが立ってた。年のわりには腰も真っすぐで、元気そうなばあさんだ。
「目ぇ覚めたんか。兄ちゃん」
「あ、はい」
 ばあさんが俺に話しかけてきた。年を経た威厳というのか婆さんの言葉には威圧感があった。
「兄ちゃん、名前はなんていうんや?」
「神島……。神島正宗(かみしま まさむね)です」
「はん! 大層な名前やな」
 今度は俺があの女を睨む。正直俺はこの名前が気に入ってんだよ、ちくしょー。
「そうか。あんたがそうなんか」
「はい? 俺がどうかしたんですか?」
 ばあさんはニコリと笑うと「いや、なんもないんや」とはぐらかした。
「わしは藤堂(とうどう)しのぶ。この子は孫の藤堂司(つかさ)っちゅうんや。よろしゅう」
 ばあさんが頭を下げてきたんで、俺もつられて頭を下げる。てか、本題に戻ろうと思う。
「夢じゃないんならここどこなんすか?」
「京都やでここは」
「京都!!?? 京都って大都市じゃないの? なんでこんなに田舎風景なんだよ!」
 あの女が俺を睨む。
「田舎で悪かったな! このトーキョーモンがッ! 京都やからって何処も彼処も大都市なわけないやろ。東京かて郊外は大した事ないくせに」
 言われてみればそうだが。まだ俺には納得のいかないことがあった。なんで関東の東京にいた俺が関西の京都にいるのかが。
 ポケットに手を入れてみる。携帯はちゃんとあった。これで家にかけてみようと思い、携帯を出してみたが……
「圏外じゃん……。あ〜ばあさん。電話ありますか?」
「廊下に出て真っすぐ行ったとこや」
「ちょっと借りますよ?」
「ああ、ええで」
 部屋のドアを開け廊下に出る。全部が木で作られた和風の家だ。木の香りが心地よい。こんな家に住んでみたいと昔から考えていた。首都東京の都心に住む俺にはまず無理な夢だった。数歩行ったところに電話が置いてあった。昔懐かしのベルを手で回す黒電話だ。一度やってみたかったんだよなぁ。
「ハイテクのトーキョーに住むお人がその電話使えるんかい?」
 あの女が俺をニヤニヤ笑いながら見ていた。絶対に使ってやる!
 家の番号を回す。呼び出し音が聞こえる。数秒待つと聞きなれた女性の声が聞こえた。
「はい、神島ですが」
「あ、母さん。ちょっと信じられないかも知んないけど聞いてくれ。俺いま京都にいるんだけど」
「ああ、そうなの。で、どこから電話かけてるの?」
 きっと俺を探していたんだろうと思い、もっと慌てた声が聞こえると思ったら、落ち着き払った声が聞こえ俺はビビッた。もしかして、俺は捨てられたんでしょうか?
「藤堂さんっていう人の家」
「良かった!! 無事に着けたのね!」
 母さんはとても喜んだ声を出した。どういう事ですかー?
「その家に女の子はいる?」
「ああ、いるよ」
 クソ生意気な奴がね。
「その子あんたの許嫁だから」
 …………はい? いい奈良漬け? お漬物ですか?
「……何とおっしゃいましたか?」
「だからその子はあんたの許嫁だって言ったの。つまり婚約者よ」
 はぁぁぁぁぁぁぁ!!!???
「ど、どどどどどういうこと?」
「まぁ、落ち着いて聞いてね」
 母さんはコホンと咳払いをするとその経緯を話しはじめた。
「その家のお父さんとうちのお父さんは飲み仲間だったのよ。それで、昔酔った拍子にうちのお父さんが「あんたのところの娘をうちの息子の許嫁にしようや」と言ったの」
 なに言っちゃてんのお父さん。
「向こうのお父さんも乗り気で、結局婚約者にしたのよ。それで、数年前向こうのお父さんがそのことについての話をしたいって言ってきたの。お父さんは「酔った拍子のことだから無しにしよう」と言おうと思ったんだけど、あっちの娘さんの写真を見て、気が変わったのよ。すっごい可愛かったの。あんたもそう思うでしょ?」
「まぁ……“顔は”悪くないけど……」
 それ以外がねぇ。性格とかが。
「それで、もう決定。あっちの親もあんたの写真を見て、「これなら大丈夫や」って言ったからね」
 これはちょっと嬉しかった。けど、それとこれとは話が別だっ!!
「今すぐ婚約を解消してくれ!」
「それは無理。あっちの両親二人とも亡くなったらしいし。まぁ、あんたのことだからそう言うと思って、無理やりそっちに置いて来たのよ。菜の花キレイだったでしょ?」
「なんで布団もあったんだよ! 俺変人みたいだったぞ!」
「だって、寒いかな、と思って」
 俺の母さんははっきり言って天然だ。料理に砂糖と塩を入れ間違えるのはいつものことさ。「寒いかなと思って」ってあんた……
「じゃあ、そっちでお世話になるのよ。もうそっちのおばあさんには言ってあるからね。あ、電話しようたって無駄よ。私たちもう引越しの準備は出来てるから。じゃあね正宗」
「ちょっ、ちょっと!! ……切れた」
 後ろを振り返る。今の会話が聞こえたのか、あの女も青ざめた顔をしていた。
 陰でばあさんが笑ってた。



..............................



二話.【バラ寿司って薔薇の寿司??】


「うちは嫌やで」
「俺も断固拒否する」
「まぁ、そう言わんといてや。」
 こんにちわ。皆さん元気でしたか? 神島正宗です。いま俺たちはいまの机を囲って話し合いをしています。その内容は……
「そやさかい、うちはこいつと婚約するなんて絶対嫌や!」
「俺もだよッ! 誰がこんな会うなり石投げてくるような凶暴な女となんか――……」
 奴がこっちをじろりと睨んでいたので途中で詰まる。
 そう俺達はいま婚約解消してもらうように必死にばあさんに頼んでいる。昨日俺は(あいつもだが)あまりに突然の事なのでボーっとしていたが今日の朝、目が覚めるなりに事の重大さに気付き、こうやって説得しているわけだ。
「そやさけ、さっきから言うとるやろ? もう、司のおとんもおかんも死んでしもうたんやさかい、婚約解消は無理やて」
「ばあちゃ〜ん。そこんとこなんと出来ひんの?」
 あの女がすがる様な声、顔で言う。ばあさんは頑固らしく一切表情を変えずに
「出来ひん」
 ときっぱりと言った。
「なんでうちがこないな奴と……」
「それはこっちのセリフだ!」
「まぁまぁ、折角やさかい今日はお祝いにばら寿司でも食べよか?」
 ? ばら寿司? もしかして薔薇のお寿司ですか!? そんな物食べるのか、関西人は!!
「ほんまに!? きゃあ、おおきにばあちゃん」
「兄ちゃんも食うやろ?」
「え? あ、はい……」
 なんかよく分からないうちに返事をしてしまった。やばい。俺花なんか食ったことねょ。聞こうとしたけど、ばあさんはそそくさと買いに行ってしまった。
「お、おい」
 ばあさんが行ってしまったので、嬉しそうな顔をしている奴に聞いてみた。
「なんやトーキョーモン」
「お前ら関西人は……花を食うのか?」
 あの女はプッと笑ったあと意地の悪い表情で「ドアホ」と言って去って行った。


「さぁ、たんと食べや」
 ドキドキしながら食卓につき机の上に乗っているものを見た。机の上に置いてあったもの、それは酢飯の上に海苔の細く切った物をふりかけ、色んな魚をトッピングしたご飯。そう、ちらし寿司だった。
「……あれ? ばら寿司は?」
「なに言ってんにゃ。これがばら寿司やで?」
「へ? ばら寿司って花の薔薇の寿司じゃないの?」
 俺のその言葉を聞き、ばあさんと女は顔を見合わせたあと、
「「ぶわははははは」」
 と大笑いした。
「兄ちゃん。ばら寿司ってのは京都の言葉でちらし寿司って意味なんやわ」
「あ、そうなんすか……」
 俺は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。まだあの女は馬鹿笑いをしていた。
「薔薇を乗せた寿司ってどんなんなんや。関西人でもこんなボケはせんで。ブワハハハ」
「うるせぇバカヤロー」
 俺しゃもじを女めがけて投げた。キレイにデコに当たり、あいつは後ろにのけぞる。
「っし」
「なにすんじゃ!」
「お前が馬鹿笑いしてるからだろ!」
 女は俺に飛びかかろうとしたが、ばあさんに止められた。飛び掛ってこようとしたあいつは、正直怖かった。

「あ〜おいしおいしかった。やっぱ、ばあちゃんのばら寿司は最高やわ」
「? なんだ? 「おいしおいし」って?」
「美味かったちゅうことや」
 さも面倒臭そうに俺に説明するあの女は腹がたつなぁ。
「一回でいいじゃん。「おいしい」って風に」
「知るかそんなん。ご先祖様に言いや。あ、トーキョーモン。そこのゴミほかしといて」
「ま〜た、わけの分からん事を。「ほかす」ってどういう意味だキョート娘」
 キョート娘はやれやれといった感じで首を振り、説明した。
「あんな、「ほかす」っての「捨てる」っちゅう意味や。説明したからな。もい二度とこの質問すんなや。まったく、逐一言葉を教えなあかんなんて、まるで赤ん坊やわ」
 これにはブチッと俺は切れた。最初の方はまだ我慢していたが段々我慢できなくなりとうとう……爆発した。
「誰が赤ん坊だ! 体格的に言ったらお前のガキじゃねぇか、このドチビ!!」
「むむ、気にしている事を……。お前かてなんや正宗って名前。戦国の武将気取りかっちゅうんや!」
 これはちょっと効いた。
「あ〜ほんま、何でこないな奴が許婚なんや」
「こちらこそお前なんか頼まれたっていやだね」
 俺達は互いにしばらく睨みあってから、それぞれの部屋に向かった。
 またも、陰でばあさんが笑ってた。



..............................



三話.【兄から婿へ】


 今日も一日が始まった。俺は割りと早起きなほうでいまの時刻は午前6時。こっちに来てからは学校も行っていないので、もっと寝ていいのだが体内時計がばっちりセットしてあるため、よほど夜更かししないとこの時間に起きる。こんな田舎じゃ夜中までしていることがない。
 着替えを済ましてから、下に降りていく途中ばあさんに会った。
「おお、“婿殿”。ちょうどええ。ちょいと水遣りに行ってくれませんか?」
「おい、ばあさん。何で俺の呼び方が『兄ちゃん』から『婿殿』になっていらっしゃられるんでしょうか?」 
 やや複雑な敬語を使いつつ、ばあさんに尋ねる。正直、顔の筋肉がぴくぴくしている。
「おや、こりゃ失礼」
 ばあさんはテヘへと笑った。
「――で、何に水を遣んの?」
「あの花畑」
 ばあさんが指差すほうを見るとそこにあったのは一面の菜の花畑。そう、俺が(布団ごと)置いてきぼりにされてたあの花畑。
「おい、いくらなんでも広すぎやしねぇか?」
「司はいつも一人でやっとったぞ」
 それでも俺は納得いかない。あんな人間かどうかも疑わしいキョート娘と一緒にすんな。
「司起こして、一緒に行けばええやろ」
 俺が? あの女と?
「ほな、がんばるんやで婿殿」
 その名前で呼ばないでください。


「ていうかさ、やばくないか? いいのかあのばあさん」
 俺はいまキョート娘の部屋の前にいる。ばあさんは「起こして一緒に行け」と言った。てことはやっぱり俺があいつを起こさなきゃいけないんだよな。
「男が寝ている女の部屋にはいるのはどうかと思うんですが……」
 と言う訳で俺は部屋の前にずっと立ちっぱなしでいる。このままじゃ拉致があかんと思い、意を決して戸を開ける。
「おい、起き…ろ…」
 部屋の中では(当然)あの女が寝ていた。昼間あれだけ騒がしいのが嘘のように、静かに寝息を立てて寝ている。布団の中で寝ているあの女の寝顔は正直かわ……、て俺は何考えてんだ。
 女の子の部屋なので当然(なのか?)鏡が置いてある。その鏡に映った俺の顔は真っ赤だった。それがまた腹が立った。
「おい、起きろ!! 朝だぞ」
「へ? もう朝なん? まだ眠いわぁ」
「早く起きろよ。水遣りに行かなきゃならねぇんだから」
「ちょっと待ってぇな……。今行くさかい」
 俺は部屋から出た。良かった。「何でお前が部屋におんのや!!」とか言われたらどうしようかとずっと不安だったんだよ。どうやら寝ぼけてたみたいだ。
 数分後部屋からキョート娘が出てきた。
「……何でお前がうちの部屋の前にいるんや!!」 
 予想はしてました。


「これ全部に水遣んの?」
「当たり前やないか」
 深ーく溜息をつく。見渡す限りの花畑。地平線まで黄色く見える。俺はジョーロに水を汲み、手前の花から水を遣り始める。
「お前ずっとひとりでこれしてたのか?」
「まぁな。たまに友達が手伝いに来てくれたけど」
「え? お前友達いたの?」
 ムッとした表情で睨んでくる。当然だ。言い方が悪かった。
「いや、そういう意味じゃなくて、学校とか行ってたのかって意味でさ」
 少しは納得したのか、もう睨んではいない。
「中退したんや。おとんが死んでからな」
 納得してない俺の表情を見て、説明を続けてくれた。
「この花畑は昔はおとんが水やっとってん。けど2年前おとんが死んでからはうちが水遣るんになったんや。結構時間かかるさかい、学校はいっとれんねん。友達てのは学校いっとったときのや」
「フーン。学校辞めてまで何で花畑に水やってんだ? そんなに大事なのか?」
「この花畑はおとんの夢やったんや。一面の菜の花畑がな。けど、やっと完成した途端死んでしもた……。だからうちが夢を継いだんや」
「ふーん……」
 初めに会った時、俺が花畑で寝てたのをあんなすごい剣幕で怒ったのは、こういう訳が合ったからなのか……。激しく反省。ていうか、母さんの所為だよな。

 俺たち二人は黙々と水を遣ってた。半分くらいまで遣り終えたところで急にお腹が減った。
「あ、そっか。朝飯食ってねぇんだった」
 俺がお腹を押さえてるのに気付いて、キョート娘が声をかけてきた。
「なんや、腹減ったんなら飯食うか?」
「食う食う」

 それはあの女の手作り弁当だった。少し抵抗があったが腹に入れば皆同じと思い一思いに口に入れた。……美味いんですけど
「う、美味い。激しく意外だ」
「ケンカ売っとんのか?」
「いやまじで。腹に入れば皆同じだと思って食ったら美味いんだもんよ。いやぁ、意外な一面発見だな」
 少し自慢げにキョート娘は
「うちのおかんの料理はもっと美味かったんやで」
「へぇ。よかったじゃねぇじゃ、そういうところが似て」
 俺がそう言うと、キョート娘は少し悲しそうな顔を見せた。俺何も変な事言ってないよな? どっちかと言うと誉めたよな?
「うちはおかんの子じゃないねん」
 は? どういう意味? じゃあ誰の子なんだ
「うち、捨てられとってん。それを拾われたんや」
「な!? マジで?」
 キョート娘は深く頷いた。
「ほんまや。けどうちは本当の両親になんか会いとない。娘を捨てるなんて最低や。うちの両親はもう死んでしもた二人だけや」
「……」
 俺が何を言っていいかわからずに黙りこくっていると、キョート娘は俺のデコにデコピンを一発かました。
「痛ッ」
「なに深刻な顔してんねん。さ、水遣り始めるど」
「ったく暴力女め」
 俺がボソッと言うと
「なんやと?」
 とこちらを鬼の形相で振り返った。地獄耳め。


――その頃
「はぁ……。これどないしよ」
 ばあさんは途方にくれていた。
「粗大ゴミに出すわけにもいかんしな。……似たようなモンやけど」
 藤堂家の前に見知らぬ男性が倒れていた。



..............................



4話.【新たな同居人】


「で? これはなんなんだ?」
「粗大ゴミと違うんか?」
「んな訳ねぇだろッ!!」
 居間で机を囲んで話し合う俺、キョート娘、ばあさん。そして、その横で眠ったように死んでいる……、死んだように眠っている中年の男。40後半くらいで、顔つきは優しく、若く見えた。さっき、ばあさんが家の前に落ちてたのを拾ったらしい。
「どう見たって生きてるだろうが! ……ってばあさん? 何を飲ましてんの?」
「秘伝のキツケ薬。元気でるで」
 どう見たってやばい色をしている薬をどんどん男に流し込む。
 その薬をビンの半分ほど飲ました所で男の体が小刻みに震え出した。そして、遂に男は目を覚ました。
「お、目覚めたんか。おっちゃん、あんたなんで――」
「ト、トイレはどこですか!?」
 キョート娘が尋ね終わる前に男は青い顔をして聞いてきた。その迫力と青い顔の不気味さに圧され、トイレの場所を教える。男は聞き終わるとすぐに駆けて行った。
「……やっぱりやばい薬だったんじゃねぇ?」
「秘伝の薬じゃい。ちゃんと起きたやろが」
 きっと天国から舞い戻るほどの強烈な味だったんだろうな。ビン半分の量も飲まされて気の毒に。

 10分ほど経ち、水を流す音が聞こえた。男はやつれた顔をしてトイレから出てきた。
「いや、すいません。急にお腹が痛くなって……」
 謝らなくてもいいと思うよ。9割はばあさんの所為だし。
「あんた、何でわしの家の前で倒れとったんや?」
「いや、その……。……が……って」
 男は小さな声でぼそぼそと言ったが聞き取れず、
「は? 何て?」
 と、尋ねると顔を赤くしてこう言った。
「お腹が減って……」
 そういった途端、タイミングばっちりに男の腹が鳴った。この男は腹の音を自由自在に操れるのか?
「妻が死んで、会社も辞めさせられてする事が無くてですね。全国ブラリ一人旅をしてたんですよ。その途中、ここの近くでお腹が減って倒れた、とそういう訳です」
「大変やったんやなぁ」
 キョート娘が同情の声をかける。ていうか、何で妻が死んで、会社辞めさせられたら“全国ブラリ一人旅”をしようということになるんだ? それより、キョート娘。「大変やったんやなぁ」で片付けるなよ!
「まぁ、家の前で倒れてたのも何かの縁。行くところが無いんやったら、」
「ここにいさせてくれるんですか!?」
 男は顔を輝かせていった。
「え?」
「ありがとうございます! ほかに行く宛なんて無いんですよ、本当に」
「ちょっと……」
「精一杯働きますんでよろしくお願いします」
 男はばあさんの手をとり、感激で泣きそうな顔をしながら言う。
「は、はぁ。こちらこそよろしゅう……?」
 と、いうわけでこの家に新たな同居人が出来ましたとさ。(ばあさんは本当は知り合いが経営するアパートと、仕事を紹介するつもりだったらしい)


「自己紹介が遅れましたね。私は西澤智宏(にしざわ ともひろ)と言います。これからしばらくお世話になります」
 男――西澤さんは礼儀正しく自己紹介をした。俺たちも自己紹介をしていく。
「神島正宗です」
「藤堂司や」
「藤堂しのぶや」
 一通り自己紹介を終えると、男は不思議そうな顔をしていた。
「正宗君。何で君だけ名字が違うんだい? 言葉遣いもここの人とは違うし」
 痛いところを突かれた。自分の口から「俺はキョート娘と許嫁なんだ」と言ってしまうと認めたような感じになってしまう。けど、言わなかったら不自然だし。あー、どうしよう
「この子は司と許嫁なんや」
 クォラ、妖怪ババア!
「へぇ、許嫁。いいね、そういうの」
「よぉないわ。今時なんでそんな人権無視の風習が残ってんねん」
 そういって、キョート娘は俺を睨んできた。俺も負けじと睨み返す。
「西澤さんはどこの人なんスか?」
 睨むのも疲れたので、話を変え、西澤さんに質問をする。
「私は神奈川からだよ」
 このおっさんは神奈川からここまで来たのか。てぇした根性だな。
「あのさ、西澤さん。西澤さんには子供はいなかったの?」
 西澤さんはその言葉を聞き、少し怒りの混じった表情をした。聞いてはいけないことを聞いたようだ。素直に謝る。
「あ、すいません。何か聞いちゃいけないことだったんスね」
「あ、違うんだ。別に怒ってるわけじゃないよ。あれは私が悪いんだから……」
 西澤さんは俺たちが心配そうに見ているのに気付き、慌てて笑顔を作る。
「ああ、ゴメン。思わず感傷にふけってしまって。あのことを思い出すとつい、ね……」
 皆が押し黙っていると思わぬものが沈黙を破った。西澤さんの腹の音だ
「す、すいません」
 西澤さんは顔を赤くする。
「ほな、わしの飛び切り美味いばら寿司を食わしたる」
 そういって、ばあさんは笑いながら台所に向かった。キョート娘は嬉しそうだ。しかし、西澤さんは深刻な表情をしていた。
「き、君達は花を食べるのかい?」
 ほらやっぱり知らない人はこう思うんだよ。って笑ってんじゃねぇよキョート娘。


「あ、それはそこ置いといてな」
「へ〜い」
 何故だか分からんが今俺はばら寿司の準備を手伝っている。「お前も食うんなら働けや!」と言うキョート娘の言葉が引き金だ。家でもあまり手伝いなどしないため、さっきから迷惑かけてばかりなのは分かっている。何も言われないのが逆に辛い。キョート娘の視線も……痛い…
「わたたた!!」
 食器を運んでいる途中躓いて転びそうになる。が、持っているものは食器なので転んでたまるか! とかつて無いパワーで踏ん張る。
「ふぅ……」
「皿割れたらちゃんと弁償してや」
「へ!? さらわれたら?」
「せや」
 こいつは誰かに狙われてんのか? 今までも誘拐されたことが有るんだろうか?
「婿ど……。兄ちゃん、皿が割れるいう意味やで?」
 ずっと考え込んでいる俺に向かってばあさんが言った。あ、皿が割れるって意味か。納得
「お前、ほんまアホやにゃ」
「うるせぃ」
 恥ずかしかったので、何かする事が無いかばあさんに聞こうと、ばあさんのところへ走っていった。すると、ちょうど振り向いたばあさんは驚き手に持っていた包丁を落としてしまった。ばあさんは少し背が低いので大に乗って調理をしていたせいで、包丁は俺の頭上から落ちてきた。
「え? う、うわぁ!!」
 あまりに突然のことで叫ぶ事しか出来なかった。
「危ないッ!!」
 その時、キョート娘が俺に飛びついてきた。その拍子で俺とキョート娘は吹っ飛ぶ。間一髪で包丁が地面に刺さった。
「いててて……」
「気ぃつけや。ほんまに『アホ』やな」
 随分と“アホ”を強調されたが命の恩人(決して言い過ぎではないと思う)なので何も文句は言えなかった。
「あ、足ケガしとるやん。血ぃ出とるわ」
 見れば確かに右足の甲から血が流れていた。少しだけ包丁にかすったんだと思う。
 その後、俺はとんでもなく驚く。なんとキョート娘がポケットから白いハンカチを取り出し俺の足に巻きつけたのだから。巻かれたハンカチが白から俺の血で赤に染まっていく。俺はただ呆然としていた。
「これでよしや。気ぃつけやほんま」
「あ、ああ。サンキュ……」
 俺が礼を言うとキョート娘は笑った。まだ無邪気さが残る子供のような笑い顔だ。
 ――ドクン
 心臓の鼓動が聞こえる。なんでだ? そうだ。きっとさっき危ない目に有ったからだ。それでまだ心臓がドクンドクン言ってるんだ。それしかない!
 
  
   
    
     
 自分で言ったけど、それが違うってことは……分かっている。



..............................



5話.【山にて始まる】


 俺がここに来てからもう3週間が経とうとしている。大分ここのノリには慣れたけど、
「いきなりやけどな。山登るで」
 ばあさんが言ったこの一言にはさすがに驚いた。
「……ナントオッシャイマシタカ?」
「あ、もうそんな時期かいな」
 キョート娘は溜息をつく。俺の場合は溜息だけじゃすまないくらいにビックリしてるんだけど。
「あのぅ。どう意味なんですか?」
 恐る恐る聞く俺に、キョート娘は面倒臭そうに言う。
「もう食料が底を付いたんや。そやさかい、山に登って山菜採りにいくんよ」
「あ〜、なるほど。って、そんな無茶苦茶な!!」
「ノリツッコミとは兄ちゃんも大分関西に馴染んできたな」
 いや、まぁどうでもいいんだけどさ。
「買出しに行けばいいじゃないか」
「そんな金なんかないわ」
「勝手に採って怒られないのか?」
「わしらの山やさかい大丈夫や」
 ……なんで自分らの山を持ってるような奴らが食料買えんほど金が無いんだよ!!
「あんま細かいところにいちいちツッコンどッたら禿げるで」
「大きなお世話だバカヤロウ」
 ブツブツ言いながらも用意していると後ろから西澤さんが声をかけてきた。
「正宗君。山菜取りに行くんだって?」
「……そうみたいッスね」
 ブスッとした調子で答えると、西澤さんは少し困ったような顔をした。
「そんなに不機嫌にならないで。お金が無いんじゃ仕方ないだろう?」
「西澤さんは心広いッスね。俺はそんな風に割り切れませんよ」
「ハハハ。心が広い、か。良さそうに聞こえるけど、損することもあるんだよ」
 西澤さんともうしばらく話していたかったが、ばあさんの呼ぶ声がしたんで気合を入れて立ち上がる。
「じゃあ、頑張って来るんだよ」
「……へ? 西澤さんは来ないんスか?」
「ああ。おばあさんが仕事を紹介してくれたんで、車を貸してもらって行くんだよ」
 車もあるんかい!! 大人いなくて大丈夫なのか? ばあさんと子供と子供で山登り。かなり不安だ。


「なに言ってんねや。ばあちゃんも大人やろが」
「まぁたしかに大人だけどさ。行き過ぎてるって言うか、もう少しで人ですらなくなると言うか、え? 人だったの? って言うか……」
「なにをブツブツ言ってねん」
「大丈夫や。もう少しで他の山菜狩りグループの人と合流するさかい」
 あ、それなら安心だ。
 俺がそう思ったのもつかの間だった。

「久しぶりやのう、しのぶさん」
「元気じゃったか司ちゃん」
 全員ジジババじゃねぇか! こんなのでいいのかよ。今までよく無事だったなぁ。
「では行きましょうか」
 じいさん、ばあさんで構成された山菜狩りグループは山道を登っていく。3倍以上若い俺でも辛いのに何でかじいさん、ばあさんはスラスラと登っていく。
 途中で俺がへばってたらグループの中の一人のじいさんに長々と説教された。おかげで少しは休めたが。
「まだ、付かない、のか? 山菜の採れる、ポイントに」
 ハァハァと息をつきながら先頭を行くばあさんに尋ねる。
「あと2`ほどやな」
「どぇ〜。マジかよ」
 
 1`ほど歩いたところで辺りは木に囲まれた。どれも樹齢200年を超える大型の木で(じいさんの受け売り)昼間だというのに薄暗い。こういう所で1番迷子が出るらしい。俺は迷わないように、俺の前を歩くキョート娘の後にしっかりと付いて行った。
「あれ? あれあれ?」
 急に俺は前に進めなくなった。どうやら木に何かが引っかかったようだ。悪戦苦闘する俺に気付きキョート娘が戻ってきた。
「何をしとるんや」
「いや、木に何かが引っかかって動けなくなったんだよ」
「なんやと?」
 キョート娘は俺の後ろに回り、俺の担いでるリュックを調べる。
「うわぁ、リュックの紐が枝にこんがらがってるわ。ちょっと待てや」
 そう言って、キョート娘は俺のリュックの紐を必死でほどき始める。数分掛かったがやっとリュックの紐は取れ、俺は自由になる。
「ふぅ。助かったよ。サンキュー」
「ほら、動けるようになったんなら、さっさと行くで」
 キョート娘は地面に置いてあったリュックを担ぎ、前を向く。が、すぐに止まった。どうしたのかと思い、俺も前を向いた時その理由が分かった。
 前には誰もいない。じいさんとばあさんのパーティーも。ただ木が広がっているだけだった。唐突に俺は初めてここに来た時に見た一面の菜の花を思い出した。
 そう、俺たち二人は置いてかれたのだ。もっと簡単に言えば、『遭難』してしまったのだ。



..............................



6話.【名前を呼ぶ声】
  

「どないすんねや」
「どなしましょうか」
「真似しんといてや」
「そいつぁ、すんまへんなぁ」
「……」
 二人の間に気まずい沈黙が流れる。今はふざけてる場合ではないのだが。
「もとはといえばお前が――」
 キョート娘は何かを言おうとしたけど何も言わなかった。正直遭難したのは俺の所為だ。これは素直に認める。だから、キョート娘に非難されても黙って聞いているつもりだったのだが。
「人の所為にしてもしゃあないし、さっさと行くで」
「あ、ああ」


 辺りは木だらけ、コンパスとかそういう物は先頭の集団しかもっていない。いや、本当にどうしよう。
「おい、トーキョーモン。ちょっち切り株探して来ぃや」
「は? 切り株? そんなも何に使うんだ?」
「いいから探して来いや」
 俺はブツブツ文句を言いながら切り株を探す。こんだけ木があれば絶対きり株はあってもいい筈なのに不思議と全然見つからなかった。
 やっとの事で見つけたのは言われてから20分ほど経ってからだった。
「おい、有ったぞ」
 キョート娘はこっちに来て、顎に手を当て切り株を念入りに見回した。
「こっちや、こっちに行くで」
「は? 何でわかんだよ?」
「切り株の年輪はな、北に向いとるほうが年輪の間隔が狭いんや」
 そう言われて切り株を見てみると、確かに年輪の感覚が左右で全然違う。
「ばあちゃんに「もし山で迷たら、年輪見るんやで」って何遍も聞かせたからな」
 妖怪の知恵、か。
「なに一人で頷いてんねん。ほら早よ行くで」


 大体一時間歩いたところで、キョート娘が何かに気付いた。
「ん? 何か音がする」
 俺も耳を澄まして聞いてみたら、それは車の音だった。道路が近い証拠だ。もう少しで山から下りられるんだ! 俺は嬉しくて走り出そうとした
「待ちぃや。今日は風が強いさかい、風に乗って聞こえとるだけや。まだまだあるんやで」
「マジかよ……」
 しかし、方角はあっていたということだ。それだけでも希望はわいてきた。「それなら早く行こう」と、俺とキョート娘は再び歩き出した。が、キョート娘は段々と歩くペースが遅くなっていった。先ほどの場所から1キロほど歩いたところでキョート娘は俺と大分差がついていた。
「おい、どうしたんだよ」
「なんも無いわ」
 キョート娘は平静を装った。
「おい、すげぇ汗じゃねぇか。どうしたんだよ」
 キョーと娘は汗でグッショリと濡れていた。今の季節こんなに汗をかくはずは無い。明らかにおかしい。俺は視線を下に落とした。すると、キョート娘のは右足のくるぶしが以上に腫れていた。
「な!? お前これどうしたんだよ」
「ばれてもうたか……」
 なんでも俺のリュックを木から外したあと木の根っこに足を引っ掛け、挫いたらしい。
「だから、年輪を俺一人に探させに行ったのか」
「……」
 キョート娘は視線を俺から外した。
「ウチはもう歩けへん。ウチを置いて先行ってや。そんで誰か助け呼んできて」
 キョート娘は喋るだけでも辛そうだった。それも当たり前だ。なんせくるぶしはもう拳大くらいに腫れているんだから。
 キョート娘の言うことも尤もだ、無理に歩かせればさらに悪化するかもしれない。俺はそう思い、先に行こうとするが
――アオーン
「……」
「……」
 何故日本の山に狼がいるのかはまた別として、これで置いていけなくなった。
 俺はキョート娘のほうに近づく。俺はキョート娘を持ち上げ、背中に担ぐ。
「な、なななにするんや。下ろしてぇな!!」
 背中でキョート娘は恥ずかしさでか、暴れ出した。
「うるさい! 怪我人なんだから静かにしてろ!!」
 キョート娘はピタリと大人しくなった。
「あとどれくらいで山から出れる?」
「……2キロくらいやけど…」
「よし、いける」
 本当言うときつかった。


 もう冬だというのに俺は汗が止めどなく流れていた。キョート娘を担ぐ手も、地面を蹴る足も力が入らなくなってきた。キョート娘もそれを察したのか、心配そうに声をかけてきた。
「おい、大丈夫かいな?」
「……正直やばいかも」
「なら、もうええて。こんなとこまで動物は来ぃへんて」
「やだね……。絶対、おろさ、ねぇ」
 俺は汗を垂らしまくり、息も絶え絶えにそう答えた。
「何でそこまでするんや!?」
 俺は一瞬ためらったが、ためらったのは悪魔で一瞬だった。
「お前は……俺の、許嫁だろ?」
「―――!!」
 かーなーり恥ずかしかったが言い終えたあとはスカッとした。何かまだ走る力出て来た気がする
「……アホ」
「あん?」
 あんだけ恥ずかしい事言わせといて「アホ」だとこの野郎
「一回も本名呼ばんといて何が許婚や」
「……」
 さっきよりももっと恥ずかしかったが、云わなきゃ男じゃねぇだろう。
「つ、司」
「なんや正宗」
 たぶん顔真っ赤だったと思う。司は背中で意地悪い笑いを浮かべていた。


「つ、着いた」
 俺はその場にベシャッと崩れ落ちた。司はポケットから携帯電話を出し、アンテナの立っているのを確認した後電話をかけた。これでやっと救われる。




―――その後


 司の足は結構ひどかったらしい。傷口からばい菌まで入っていて手術にまでなった。無事成功して何よりだ。今、俺達はあー、結構仲良く暮らしている。
 そういえば驚いたことに西澤さんが司の父親というのが判明した。詳しい事は西澤さんのところで話す。


 ばあさんは特に変わりはない。あれ以上変わっちまったら『妖怪』から『大魔王』への昇格決定だ。あ、そういえば最近「新しい宗教を作る」たらなんたら言っていたが、冗談であって欲しい……


 西澤さんは、さっきも言ったが司の本当の父親らしい。話しは変わるが、ちょっと前に司は事故に遭った。その時分かったのだが司の血液型は特殊なモースル型といって日本に5人ほどしかいないらしい。しかもあとの4人は皆中年だとか。その時西澤さんは気付いたそうだ。自分も同じモースル型だし、親がモースルじゃないと子供もならないそうだから。DNA鑑定でも見事一致。
 肝心の司は赤ちゃんの時に捨てられていたという部分だが(この所為で知らせを受けたあと司はかなり西澤さんを拒んだ)これは司は小さい頃に一度誘拐されたそうだ。その途中犯人は捕まるが、司は車内にはいなかった。犯人は「ビービー泣いてうるさいんで捨ててきた」と言った事から死んだと思っていたそうだ。初めは信じていなかったが、その事件の新聞を見せてもらうと、やっと信じたそうだ 


 さて、あとはこの俺、神島正宗だが。俺達はもうじき……、あっ! やべっ。もう時間だ。という事でこの日記はここまでだ。やばい、司に殺される。





【エピローグ】


「あ、こんな所にいたのか」
 男は縁側に座る女性に声をかけた。
「動いてていいのか? おなかの子供に悪くないのか?」
 女性は大きくなったお腹をさすりながら、ニッコリ微笑んだ。
「適度な運動したほうがええらしいで」
「なら、いいんだけど」
 男は女性の隣に座り込んだ。春の陽光は心地よかった。目の前には一面の菜の花畑が広がっていた。まだ、花はつぼみのようだ。
「もう少しでこの一面の菜の花が咲くんやなぁ」
「ああ、ちょうど子供が生まれる頃じゃないかな」
 蝶がヒラヒラ飛んでいた。とても愛くるしい。
「名前、付けなあかんなぁ」
「ああ、そうだな。女の子、だよな?」
「そうや」
 女性は優しく言った。
「何にします?」
 男はしばらく悩んだ後、言った。
「菜の花の“咲”く“季”節に生まれるから咲季(さき)ってのは?」
「う〜ん、菜の花っちゅうのを入れたいと思ってるんやけど……」 
 男はまた悩んだ
「じゃあ、“菜”の“花”で菜花(なか)か花菜(かな)は?」
「ちょっと安易すぎん?」
 男はまたも悩んだ。悩みに悩みぬいた末、男はパッと閃いた。男は飛び上がるように立ち、こう言った。
「すっごい、いい名前思いついたよ」
「なんですのん」
 女性も興味心身に尋ねる。
「俺たちの子供の名前は――」










【完】
2004/08/20(Fri)15:45:15 公開 / 九邪
■この作品の著作権は九邪さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何だかんだで終わらせちゃいました。スミマセン。散々シリアスにすると公言しておいて、結局自信がなくてやめました。
まぁ、この物語を書いて1番思ったのはババアは妖怪だ、という事で……(違 
最後二人が付けた名前、何だと思います?ちょっと皆さんにも聞いてみたくて。

新作予告です。八月二十日午後4時半に絶対投稿します(どうでもいい
【Who am I?】という物です。
ファンタジック調な恋愛ものです。笑いは今回一切と言っていいほど無いと良いなと思います。有るかもしれません。
これは宣伝です(きっぱり(笑 ぜひ読んでみてください。

今まで読んでくれた、冴渡さん、村越さん、紅い蝶さん、千夏さん、神夜さん、卍丸さん、双狗さんありがとうございました!!

また会いましょう
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