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『死ぬ前の瞬間 最終話』 作者:風間 リン / 未分類 未分類
全角6176.5文字
容量12353 bytes
原稿用紙約21.7枚
「ねえ、3万でどう?」
この辺のうろうろしてると、一晩で一人はこういう風に声をかけてくる。
モチロン声をかけてくるのは、40過ぎのオヤジであきらかに家族を持っている。

「妻に求めれないことを君に求めるんだ…。」というけれどそんなことはどうでもいい。
「いいよ。」
麻衣はいつもそういって、暇があればそのままホテルに行く。
「小一時間オヤジの相手をしたら金が手に入る。」
「どうせ年をとればもうできないことだから。」
そういって売春を繰り返していた。

    *  *  *
「よかったよ…。最高だった…。」
オヤジは財布から一万円札を3枚取り出した。
「毎度。」
そういうと長い黒髪を軽くなびかせホテルを去った。


「麻衣ちゃん!何時だと思ってるの!お母さん、心配したのよ!」
家の玄関をあけるといつもこの声が聞こえる。
「別に。」
いつものことのように階段を上って自分の部屋に入った。
 
 麻衣の父は日本でも有数の企業の会長で、まあそれなりの家だ。
そんな金持ちの家のお嬢様として生まれた麻衣がどうして売春なんてするのか、まわりの友達はいつも疑問に思っていた。

「麻衣ちゃん、ご飯よ。」
母の呼ぶ声がする。静かに階段を下りた。麻衣の父は多忙で、昔から家に帰ってくることなんてほとんどなかった。広い家に麻衣と麻衣の母そして数名の家政婦達だった。
 リビングに入ると大きなテーブルに豪華な食事が並べられていた。
「こんなにいらないっていつもいってるじゃん。聞こえないの?」
「残してもいいのよ。好きなものを好きなだけ食べなさい。」
麻衣の母はいつもそんな感じで麻衣を甘やかしていた。本当にいつもそうだ。麻衣が小学生の時、クラスの女子とケンカしたときも金にものを言わせ、そのクラスメイトの親を操り、まるで麻衣の奴隷のように変わらせた。
ほしいものも何でも買ってやった。麻衣はそんな母が気に入らなかった。

「これだけでいい。」
そういうとメロンを一切れとって部屋にもって上がった。
 部屋に入ると携帯が光っていた。
「あ、メール。」
携帯をあけるとメールが3件入っていた。
     麻衣ぃ!今から合コンなんだけど来てくれない?Y高の男だからはずれなし! 由美子
     今から会える?  圭介
     車でどっか行こうよ  俊

圭介と俊は麻衣の彼氏だが、麻衣には愛なんてなかった。二人ともそれなりに顔もよく、金もあり女に人気があるから付き合っていた。
「由美子のはパス…。圭介は昨日会ったばかりだから、今日は俊でいいや。」
そういうとメールを打ちはじめた。
   いいよ。山行きたい。

 第二話・・・・混乱

15分ほどすると黒い車に乗った俊が現れた。
「よっ!」
車の中には俊のほかに3人、男友達がいた。
「だれ?」
「あぁ麻衣、紹介するよ。仕事仲間で隆二に、章に、明。」
3人ともまぁそれなりにモテそうな顔立ちだった。
「麻衣ちゃん、かわいいねぇ。」
3人が口をそろえて言ったが、麻衣は見向きもしなかった。
「山に行きたい」という麻衣の要望から、近くの山に行った。
 あたりは誰もいなく山と山の間から都会の景色が見えた。
「…こんな汚い町も、遠くから見たらこんなに綺麗。何か気味悪い。」
ぽつりと行ったが、俊を含め4人は聞いていなかった。

「ねぇ、麻衣ちゃんビール飲もうよ。」
そういって口の開いた缶ビールを差し出された。
 麻衣はそれを受け取ってグビリと一気に飲み干した。酔いが来たのか一瞬ふらりと足がふらついた。
「!?」
酒に強いはずの麻衣が、一本の缶ビールで酔ったということに麻衣自信が驚いていた。

  *   *   * 
「ただいま・・・。」
玄関を開ける音がして、麻衣の母が駆け寄ってきた。
「また出掛けていたの?お父様からお電話があってね、来週にはお帰りになるんですって。」
「お母さん。」
ほんの小さな声で麻衣が呟いた。「お母さん」この言葉を麻衣の口から聞いたので麻衣の母はものすごく驚いていた。
「何?麻衣ちゃん?」
「………何でもない。」
「?…そ、そう?何かあったら何でも言ってね。」 
麻衣は小さくうなづき自分の部屋に入っていった。
 
 3日間、麻衣は部屋から一歩も出ようとしなかった。
「麻衣ちゃん?どうしたの?」
心配して麻衣の母が何度も声をかけていた。だが麻衣はその言葉にほとんど無反応でかすかな返事しか聞こえない。
「麻衣ちゃん?どこか調子が悪いの?お医者様、呼びましょうか?」
「…!やめてっ!」
いきなり大声が聞こえた。
 麻衣は、あの4人にレイプされていたのだ。麻衣が閉じこもっているのは、そのときのことを引きずっているからだ。

「麻衣、お父さんだよ…久しぶり。」
ドア越しに麻衣の父の声がした。あの日から2週間たってからのことだ。
(…お父さん、帰ってくるの1週間ずれてた…。いつもことだけど。)
「麻衣、食事に行こう。銀座のレストランを予約してあるんだよ。」
とても、優しそうな声だった。麻衣はいつも家を空けている父が憎くてたまらなかった。麻衣にとって、父の愛はまるで表面上の愛だと思っていた。小さな時から
仕事、仕事で少しも遊んでくれない、約束してもやぶやれる。
いつしか麻衣は父のことが嫌いになっていた。
「いらない。お母さんと行ってきなよ。」

麻衣と父の会話はそれだけだった。
2日後にはまた仕事に行ってしまった。

あの日から丁度1ヶ月たったある日、麻衣はめまいに襲われた。もうあの日から、俊から連絡は無い。
「お母さん、調子悪いから病院行く…。保険証ちょうだい。」
「大丈夫?お母さんも一緒に行こうか?」
「ふざけんじゃねぇ!来たらぶっ殺すぞっ!」
保険証を母から奪い取ると急いで家を出た。

「産婦人科…。来たくないところトップ10には入る…。」

「どうされました?」
「妊娠してるか、確認したくて…。」
「市販の検査薬、試しました?」
「いいえ…。」
「じゃあ調べてみましょう。」
「……はい。お願いします。」


「ただいま…。」
いつものように麻衣の母が駆け寄ってきた。
「麻衣ちゃん、どうだった?風邪?お母さん、氷枕作ろうか?」
麻衣の目から涙が出てきた。
「お母さん…ごめん……。私、妊娠してるって…。」
「え?」
「ちょっと前にね……私、レイプされたの…その時の…。」
「じゃあ誰の子って…。」
「わかんない…。」

    そのまま自分の部屋に戻った麻衣は一晩中静かに泣いていた。

  第3話 いいなり

ドア越しに知らせを聞いてやってきた麻衣の父だ。
「麻衣。子供ができたらしいな。誰の子だ。」
「わかんない。向こう行って。」
「入るぞ。」
「くるなぁぁぁぁぁ!!!!」
麻衣は狂ったようにベッドから起き上がり、いすを振り回した。
「麻衣ちゃん、落ち着いて!」
麻衣の母もパニック状態になっていた。
「……麻衣。」
まだ麻衣はいすを振り回して暴れている。
「麻衣!子供は今すぐおろせ!!今すぐだ!!」
そう言い放つと札束の入った封筒を麻衣に投げつけた。
「…何よ、これ。」
「金だ。今すぐ病院に行って来い。 おい!!車をだせ!」
「お父さん!麻衣ちゃんがかわいそうよっ!」
麻衣の母が麻衣をかばうように半泣き状態でさけんだ。父は冷たく麻衣を見つめ続け、少し間があいた。
「…他人の眼に触れるな!いいか、お前は私の顔に泥を塗った。お前は私の言う相手と結婚し、ちゃんとした子を産めばいい。そうすれば、今回の件は許してやろう。」
父は部屋を出、仕事に戻った。
「麻衣ちゃん…!」
母が駆け寄ってきた。
「お母さん…。車…。病院行ってくる。こんな子供、私…。」
眼をえめいいっぱいに広げ、歯を食いしばって耐えていた涙が一気にあふれ出てきた。
「麻衣ちゃん、無理しなくていいのよっ!」
「いってくる…。」
玄関を抜けると黒塗りのベンツが門の前に用意されていた。スーツを着た中年の使用人がドアを開け、「病院でございますね」と一言いった。
「早く出せ。」
麻衣はそれしか言わなかった。

「産みたい産みたい産みたい…。この子は何も悪くない。」
何かの呪文のように繰り返し繰り返し発する言葉。小さくささやくような声だったが、横にいた母にはしっかし聞こえていた。
(この子が、こんなにも自分の意思を口にするの…初めてだわ…。)

「では、お時間になりましたら、お呼びします。」
麻衣が中絶しに、病院に来て2日。2日間は検査などをやっていた。医師の言葉にもほとんど答えず、ひとこと「父親はわかんない」それだけだった。


 麻衣の体が台にくくりつけられた。
「いやっ!!はなして!!!」
手術室に麻衣の声が響く。
「落ち着いてください!!!今から数を数えますからねー」
「お薬入りますよー」
 いーーち  にーーい
「力抜いてっ!!」
「いやぁぁ!!」
 さーーん………
           2日後 麻衣退院、帰宅

「私は…一人の子供を殺したわ…。ふっふっふっふ…。父親にすすめられて…。
 ははははっっ!!殺したわ!!あっけないわっ!!人間なんて!!」

「お嬢様が…狂いはじめたわ…。」
一人の使用人が呟いた。麻衣の母はこの言葉をわすれないだろう。

 第4話 狂気

「お姉ちゃん、今暇?」
 麻衣はまた前のように町に出ていた。中年の男が声をかけてきた。
小さくうなづくと、男は麻衣をひっぱりホテルに連れ込んだ。

「ねえ、おじさん、死ぬ前って悲しいかな。」
「さあどうだろうね。死にたいと思うときは何回かあるけど。」
「じゃあ、死んでみよっか。」
「へ?」
そういうと、かばんからナイフを取り出し、男の胸に突き刺した。
 ナイフを抜き、また振りかぶったとき、男は必死で命乞いをした。
「許してくれ!金は払う!」
「はははっ!!わかったじゃん!死ぬ前は、死ぬ前の瞬間は命乞いをするんだよっ!」
ザクザクとナイフが刺さる音が、血の飛び散る音が響いた。

シャワーをあびてホテルを後にした。男はもう死んでいた。翌日の新聞、テレビで報道されたのは言うまでもない。

 家に帰ると、急いでパソコンの前に座った。
カタカタとキーボードの打つ音が聞こえる…。
  『毒物』 『死』 『劇薬』
「……あった。これだ。8万円。こんなに少ないのに。ま、いっか。」
銀行に言って、固定の講座に8万円振り込んだ。
「来週には届くね。」

「宅配でーす。」
来た。
「ご苦労様。」
書類にハンコを押し、宅配員を笑顔で見送ると部屋に駆け込んだ。
「ふふふ…。まずは、家のやつらで試すか。」


「お母さん!今日の夕飯、私が作ってもいい?」
信じられない麻衣の言葉に麻衣の母は動転したが、すぐに笑顔になり、
「えぇ!楽しみだわ!」
と言った。

「できた!ね、食べて!」
母をせかしてテーブルに座らせる。
「みんなも食べて!」
使用人を全員呼び出して、大量に作ったシチューを皿に盛った。
「ねえ、おいしい?みんな。」
そこにいた、全員がニコニコ笑ってうなづいた。…機嫌をとるように。
「バーカ。死んじまえ。」
麻衣はリビングを後にした。リビングのドアがパタリを閉めた瞬間、シチューを食べた全員が口から血を吐き出し白目をむいてこの世を去った。
薬の名は青酸カリ。

 第5話 復讐という名の汚い心
 
人殺しが快感になった麻衣は喫茶店の砂糖の中に薬を入れたり、ホテルに誘い込んだ男を刺し殺したりと、殺しを続けていた。

 ある日ふと、自分の父の存在に気がついた。
毎日のように人を殺している麻衣は、父親なんて忘れていた。
あいつは薬で私の子を殺した。自分も薬で殺そう。
決断まで10分もなかった。

 麻衣は父のいるNYにいた。
「なんだ、話って。結婚する気になったか?」
「別に。」
会話という会話もなく間があいた。
「社長、お電話です。」
秘書が父を呼びに来た。それと同時にコーヒーをもってきた。部屋には麻衣と秘書しかいない。
「あんたもあのおっさんに体売った一人でしょ。」
にっこりしながら、コーヒーをテーブルに置く秘書をながめた。秘書の顔が一瞬青くなり、逃げるように部屋を去った。
 麻衣はクスクス笑った。
父が戻ると麻衣はもういなかった。置手紙だけがあっただけだった。

  『お父さんへ、お母さんは使用人のみんなと長い旅行に行ったので家にはいません 麻衣』

麻衣の父はそのてがみを読みながらコーヒーをコクリと一口飲んだ。

 翌日、一流企業の社長が死んだという事で大きなニュースになっていた。


最近、殺しにも飽きてきた。薬も尽きたし。金はあるけど嬉しくもなんともない。
 
最終話 死ぬ前の瞬間
実際、自分が警察に捕まるのも時間の問題。家のたくさんの死体はばれてないようだけど、他の外で殺った人達の死体は大きな事件になっていた。

 夕方、麻衣の横を浴衣姿の子供が家族と川原に向かっていた。
「祭り?…あぁ花火大会か。」
やることもないので川原に行ってみた。やはり花火大会だった。人が多かったので止めようかと思ったら木の下にはだれもいなかったので丁度よい、と座っていた。
 麻衣は父を殺してから、黒髪だった髪を茶毛にした。
 30分もしないうちに一人の男が声をかけて来た。
金髪によどよく焼けた顔を見ると、誰でも遊び人だとわかる。
「車で来てるんだけどぉ一緒にこない?」
あーなんか古いドラマの台詞みたいだなぁとあきれていた。
「いいよ。暇だし。」
美人な麻衣と一緒にいれるという事で、男は舞い上がっていた。
「車行こうっ!車!」
男は強引に麻衣を車に入れた。車は人どうりのまったくない林の道の中に止めた。
一時間ほど車はギシギシゆれていた。

 翌日、麻衣は駅前に新しくできた流行りのカフェにいた。
窓際の席に座っている麻衣。そこは道に沿ってガラスの壁。白いワンピースを着て、肩から軽くこぼれた茶毛がとても目立っていた。
 コーヒーの中に砂糖をひとさじ。くるくるスプーンを回した。
その姿に若い男性客だけでなく女性客も見とれていた。

 カララン
カフェのドアがなる。
 入ってきたのはカフェには明らかに不釣合いな中年の男と若い男。
二人ともスーツを着ていた。中年の男が一枚の写真と店内を交互に眺める。
「…!いた。」
その不思議な動作に店内の何人かの客が二人を眺めていた。
ツカツカと麻衣に近寄る。若い方の男はきれいとしかいいようのない麻衣を見て、かすかに心が躍った。
「平山麻衣だな。殺人などの容疑で疑いが出てる。署まで同行願う。」
中年の男が声を殺して言っていたが、近くにいた客には聞こえていた。携帯を取り出してカメラをカシャカシャ撮っている客もいた。
「結構遅かったね。もっと早いと思ってた。警察って仕事の効率悪いねぇ。」
手グシで軽く髪をなびかせニッコリ笑った。
 かばんのから財布を取り出し、千円札をテーブルの上にそっと置いた。そして一言。
「店員さん、おつりいりません。ここにいる皆さん私、近いうちにテレビでますから。」
ドアをあけた瞬間、風が吹いた。長い髪がきれいになびく。
 店にいた全員がその姿を忘れなかった。

      数年後、長い裁判も終わり麻衣の死刑が決まった。

         死刑執行
  その瞬間、死ぬ前の瞬間麻衣は何を思ったのだろう。
2004/08/08(Sun)13:07:49 公開 / 風間 リン
■この作品の著作権は風間 リンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
終わりました!!
何か悲しい気もしますが、とても楽しかったです!!
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ご注意いただいた誤字は直させていただきました。
もっとよく確認すれば直せる点でした。申し訳ございません。
またあればご報告お願いします。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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