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『‘‘生きているから歌うんだ,, 完結』 作者:ニラ / 未分類 未分類
全角10138.5文字
容量20277 bytes
原稿用紙約31.3枚
 人には「幸せになる」権利がある。それを誰かに壊される権利なんてない。
 だから「死ねよ」と言われる権利もない。
 誰も人の言う事を素直に聞く権利は無い。
 自分は自分なんだと誇りを持てば良い
 自分がいると言う事は「生きている」と言う意味。
 だから、「生きているから歌うんだ」 

      ≪生きているから歌うんだ 第1話≫
 蒸し暑い夏の午後、さしこむ光は青い葉に反射し、所々に影を作る。
 「太陽は皆にとっての母親だ」そう言う人もいる。「太陽があるから皆笑顔になる」と言っていた子もいる。
−でも、今の僕には、太陽なんて見えないよ…
 少年は今、葬式の最中だった。学校の同じクラスの生徒たちは皆出席しているが、彼以外はこの葬式の「少年」を悲しむ者はいない。
「なあ、あいつ飛び降り自殺だってよ…」
「知ってる知ってる・・歌うたいながらだったんだろ?」
「歌ぁ?」
「ああ、♪僕らはみんな生きている♪とかって言ってたらしいぜ・・」
「変なの・・まあ、うざかったから消えて良かったなぁ」
−うるさい・・
「すこしいじめて自殺はないよなぁ?」
−お前らなんかに分かるかよ・・
「普通流すよなぁ? 間に受ける馬鹿って本当にいたんだな・・」
−お前らなんかに…
「そうだ! 葬式終わったら、こいつの死んじゃったパーティやんね? あいつの死という喜びを分かち合おう〜ってな・・」
−お前なんかにぃ!!
「ふざけるなぁ!!」
 少年はとっさに言っていた生徒の首にかかっていたマフラーをきつくする。その生徒はもがきながらマフラーを掴む。
「お前に!! お前に!! いじめられてた隆の気持ちがわかるのかよ!! えぇ!!」
 少年はマフラーを離すと生徒に馬乗りして殴りかかる。生徒は必死で腕をクロスさせて抵抗するが、その抵抗は空しく終わり、結局顔をタコ殴りにされた。
 先生が止めたときには既に気絶状態でだった。少年は先生に押さえられてもまだ怒りに満ちた顔だった。
「殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!! 殺してやる!!!!」
 気がつくと少年は泣き始める。そして、最後には蹲って泣き始めた。その姿に他の生徒は、おどおどしながらずっと黙っていた。
 葬式が終わると、先生に呼び出された。
「春日!! 何をしているんだ!! 全く・・先生の面子丸つぶれじゃないか!!」
 先生もまた、自殺した生徒のことを悲しんでおらず、自分のことしか考えていなかった。その先生の事も、少年「春日章輔」は睨みつづけた。そして、呟いた。
−先生はいつだっていじめている方の味方をしているんだ・・いつだって先生は自分のことしか頭に無いんだ・・
 その言葉が聞こえたのか、誰もいないことを確認し、春日を思いきり殴り飛ばす。春日は右頬は大きく腫れあがる。
「うるせぇんだよお前!! なんだ? 死んだ奴なんか俺にとっちゃこれっぽっちも関係ねぇじゃねぇか!! グダグダ言ってるとまた殴るぞ!!」
 その時の先生は、さっきの困ったような表情ではなく、まさしく自己中心的な顔であった。鬼とも言えるだろう。
 春日は先生から逃げたい一心で、道を駆け出す。先生が鬼のような形相で追いかけてくるが、そんな物は見ていない。春日に見えているのは真っ白な風景と一本の道だけだった。
−俺は・・もう、いきる事が嫌になってきた・・
 春日の家族は事故で全員死に、それでずっといじめられてきたのである。しかし、そこに隆と言う存在が現れ、閉ざしてきた心の扉を開けたのだった。しかし、その隆がいじめで自殺し、もう春日には何が何なのかわからなくなっていた。
 目の前で死んだ隆が今でも春日の頭の中で何度も出てくる。気がつけば春日の目には涙が溜まっていた。
 目をつぶって道を走っていると、横から大きな音がしてきた。その音はだんだん
大きくなり、目を開いたときにはもう時遅く、バーンと言う音と共に春日は吹っ飛んだのであった。
 自分の体から流れていく血をその目で見ながら、春日は「隆・・」と力いっぱい叫ぶ。しかし、その声は叫び声にもならず、結局小声にしかならなかった。
 まぶたが重くなってきているとき、目の前に勝ち誇ったような顔で見ている先生がいた。
「春日、よかったなぁ? 君のお友達の隆君の所へ行けるぞぉ?」
 春日は血の涙を流しながら、力を振り絞って先生の足を掴もうとする。しかし、努力は空しく、掴む寸前でまぶたは完全に落ち、春日は意識が飛んだのであった。

       ≪生きているから歌うんだ 第二話≫
 気がつくと春日のいる場所は、一面に花が咲いている所であった。一つの川をはさんで向こうにも何かがあるのに春日は気がつく。
 空は真っ白で、一つのかげりも無く、何も差し込んでいない。自分は白装束を着ていて、手には三文銭を持っているのを確認する。
――俺、死んだのかな…
 春日は自分の姿、周りの風景をゆっくりと眺めながらそう思う。すると、川の方から人影が一つ、やってくるのが見える。川にかかっている霧でよく見えないが、春日と同じような身長に、似たような体格に見える。
 春日はその姿の正体を理解するまでにそう時間はかからなかった。
「た…隆? 隆なのか!?」
 春日の叫んだ言葉に、川の向こうにいる男は反応する。それをみて、春日は隆だと確証する。
 すると、その男が霧から手を一つ出す。それを春日はゆっくりと手を出し、その手を掴もうとする。
 しかし、その手は近づいて来た春日の体を思いきり押す。どこにそんな力が隆にあっただろうかと言うほど強かった。その反動で、春日は花畑が終わっている所まで押し返される。花畑の奥の白い景色に体が触れたとき、霧から出てきた手が、春日に向かって手を振っているのだった。
「隆・・嫌だ!! 俺はもう離れたくない!! たかしぃ――――!!」
 突然目の前が真っ暗になり、何かがピっとなる音が耳に響く。恐る恐る目を開けてみると、そこは花畑ではなく、病院の一つの部屋のベッドだった。腕には点滴をうたれ、口には呼吸器と言う、まさに意識不明状態だったと言う風な手当ておし方である。
 春日の脳が活発に働き始めると、何かに締め付けられるような感触がした。それは、春日の住ませてもらっている死んだ父の叔父と叔母が春日を抱きしめている感触であった。叔母は泣きながら春日を見る。しかし、その目は悲しんでいるようには思えない目であった。叔父も、抱きしめてはいるが、汚い物を触るような目で見ているのが、春日にも分かった。
「良かった・・章輔・・生きてたんだな」
「…うん」
「車に轢かれてから三日間、脈が消えかかってたし脳も機能を停止しかけてたのよ!! ・・本当に良かった・・」
 叔母は春日が生き返ったので、治療するための費用が無駄にならなくてすんだ・・と言いたそうな顔でいる。叔父の場合は、こんな奴の為に三日分もの治療費を払いたくなかったと表情で言っているのが分かる。
「では、意識が戻ったので、明日退院でよろしいですね?」
「待ってください、俺は車に跳ねられたのに、重症じゃなかったんですか?」
「そうですよ、大型トラックに轢かれたのに対して、君は骨一つ折れていないし、内臓の損傷も無かった。あったのはかすり傷程度でしたよ」
 医者はにこりと笑いながら春日に言う。しかし、春日にとっては地獄だった。
――あのまま死んでいれば、隆に会えたのに…
 春日にはあの光景がずっと頭の中で交差していた。夜の消灯時間が過ぎても、結局春日は眠る事が出来なかった。
 朝になると、叔父叔母が迎えに来てくれた。しかし、叔父の4WDの自慢の車に乗ると、二人の表情は激変した。叔父はこんな事はうんざりだと言いたいが、運転のために話せないので、ハンドルを握っている手はプルプルと痙攣していた。叔母に至っては、後ろで春日の頬を2・3度叩いていた。
 家に帰ってから、二人の猛攻撃が始まった。
「ふざけるな!! 聞いたぞ? お前、死んだ友達に涙している奴を笑いながら殴ってたらしいじゃないか!!」
「しかも、最後にはその子の写真を壊す始末・・もう我慢できないわ!!」
 先生が造った嘘の話だと、春日は確信した。そして悲しんだ。
――この年になるまでいつも良くしてくれた叔父叔母とにも、とうとう見放されるんだ。もう、僕には「生きている価値」なんて無いんだ…
 春日の心の中に指していた光は、この瞬間に闇へと変わったのだった。
「聞いてるの? 章輔!! あんたなんかもう知らない!!とっとと出ていって! あの薄汚い母親の子供なんて要らないわ!!」
 その時、春日は頭の上に血が上った。
「俺の母さんは、薄汚くなんか無い!!汚いのはこの町の奴らだ!!」
 春日はそう叫び終わると、自分の部屋に走っていき、乱暴にドアを閉めた。そして、部屋の物をすこし大き目のショルダーバッグに詰め込み始める。始めに自分の貯金通帳、次に机の上の貯金箱、その他にも色々と詰め込み、終わると自分の部屋の窓から飛び降りた。叔父叔母の家は1階建てなので、別に窓から飛び降りたって危なくは無い。
 春日が家を後にした時に、叔父叔母の絶叫の声が聞こえた。きっと、家でしたのに気づいたのだろう。と春日は考える。
――もう絶対にこの町には帰らない
春日はそう呟くと、裸足の足で1歩1歩道を進んでいった。

         ≪生きているから歌うんだ 第3話≫
 薄暗い体育館倉庫の中で、春日は隆にいじめで出来た傷を治療してもらっている。何故、この場所なのかは言うまでも無い。
 見つかれば隆もいじめの対象にされてしまう。と言う事で、春日はあえていつもここでお願いした。
「…見つかったら、隆もいじめられるよ? 僕とは付き合わない方が良いよ?」
 春日は暗い中で、隆から目をそらしながら言う。しかし、隆の反応は春日の思った通りだった。隆は春日を見て鼻笑いすると、春日の頬を指でつつく。
「何言ってるんだよ? お前とはもう親友だろ? 親友の俺がお前を助けられなくてどうすんだよ・・な?」
 春日はその一言を聞き、隆と目を合わせられなくなった。しかし、目が合っていない状態で、一言呟く。
「…ありがとう…」
 その時、体育館倉庫の扉が強く押し開けられた。暗い中にまぶしい光が入り、二人は一瞬目をつぶり、もう一度開けると唖然とした。
「へぇ・・ここにいたんだ・・しかも隆と一緒かぁ・・」
 二人は青ざめた。
_____________________________
 そこはどこかの裏路地だった。春日は泥だらけで穴開き状態のソファの上に寝そべっていた。このソファは偶然見つけた物だった。寝床が無い状態で仕方なく裏路地に入って見ると、偶然にも狭い道に存在を示しているように置かれていた。
 狭い裏路地の上から入ってくるかすかな光が目に入ってくるのを感じつつ、春日は目を覚ます。起きると、頭を強く左右に振る。
「もう朝か・・それにしても、嫌な夢だったな・・」
 春日はさっき見た画像を鮮明に思い出したが、肝心な所だけ忘れていた。隆の言った一言。それだけが思いだせなかった。
 ソファから降りると、裏路地の少し広めの道のほうからなにやら聞こえてくる。
−た…頼むよ、薬が…切れ・・切れたんだ・・ハァハァ・・くれよぉ
−金が無きゃ駄目だな・・あきらめて苦しんで死にな
−待っててくれ!! 親の貯金から金を持ってくる!!
 その声の方に気がつけばふらふらと言っていた。しかし、その足取りは重苦しく、行くか行かないか春日の足は迷っていた。
 しかし、その時偶然にも音を立ててしまい、二人組に気づかれてしまった。
−誰だ?
−サツかもしれねぇ・・一旦行ってみよう・・
 春日はすぐに反対方向に駆け出す。後ろからは二つの足音が急ぎ足で聞こえてくる。しかし、なんとか表通りに戻る事が出来た。ここは無数の人がいるから安心し、人ごみに紛れた。
 その10分後、二人の男は表通りに出てきた。二人は太陽を見て、手をかざし、まぶしそうな仕草をした。
「なぁ、直さん、表はまぶしすぎます・・戻りましょう・・もどってから薬くださいよぉ」
「おい、そのことはここでは口にするな・・」
「ひ、ヒィ!!」
 一人の男は急いで裏路地に逃げていった。「直」と呼ばれる少年は人ごみを懐かしそうに見てから、呟いた。
−表に出るのは久しぶりだな・・だが、俺が表にいても意味は無いんだ・・
そして、少年は裏への狭い道に入り、姿を消した。
 春日は、息を切らしながら町の広い大通りを一人走っていた。まわりは大勢の社会人でいっぱいで、横断歩道を渡るのにも人を掻き分けなくてはいけなかった。しかし、会社勤めの人たちは平然とした態度で歩いている。ここまで大勢の人で暑苦しい中を、嫌な顔一つしないでいるのである。中にはタバコを普通に吸っている者もいる。このままだと誰かに火傷させてもしょうが無い。
−俺も・・いつかはこんな風になっちゃうのかな?
 春日は気がつけばこの周りの人全員を嫌悪し始めていた。せまっ苦しいのに、危ないのに、ここまで普通にいられるのは何故だろう…いつの間にか、そんな気持ちが湧いてきていた。
 春日の目にはもう希望なんて物は無かった。しかし、まだ一筋の光はあったはずだ。しかし、この大人達の行動を見て、確実に、その小さい光でさえも、消えてしまっただろう。
 そんな春日の手を誰かが引っ張る。春日はこの現状に打ちのめされていて、何も考えられない状態のため、簡単に引っ張られていく。人ごみの中で誰だかはわからない、だが、春日は一瞬ハっとする。
−隆・・・?
 春日は一瞬だけ頭にそう言う予感がよぎった。しかし、その考えも春日にとっての光とならずに、春日の心の中の真っ黒な絶望感の中に沈んでいった。
 死んだような目をうっすらと開けると、そこは朝いた裏路地だった。春日の目の前には酒を片手に持っている少年がいた。
「君は・・だれなの?」
 気がつけば最初に出てきた言葉はそれだった。その言葉に飲んでいる酒を止め、一旦酒瓶を地面に置き、春日をじっくりと見てから答えた。
「俺? 俺は【日永直】・・ってもまあ、家出したときに苗字は捨てたけどな・・」
「なんでここにいるの? なんで家出したの?」
 何も考える気の起きなくなったはずの春日は、いくつもの問いをかけていく。それを直は面倒くさそうに答えていく。
「まあ、素直に言うと、受験かなぁ? 俺はいつでも上にいた兄と比べられて馬鹿にされ、見下されていた。だから逃げたんだ・・」
−家出のしかたが少し・・・俺と同じだ・・
 春日の目には少しだけだが、光が戻っていた。何故なのかは本人にも分からないが、たぶん自分と同じも者を見つけたからだろう。
 直は元気の無い春日を見てから、立って歌い始める。長く、響く声だ。
「♪僕らは皆、生きている・・生きているから歌うんだ♪」
 直はその曲を歌い終わると、春日の目の前に来る。
「知ってるか?この歌・・俺さ、実を言うと、最初までお前みたいな状態だったんだ・・お前と同じく、この世界の状態をみて希望を失った…でもさ、あるときにこの歌が流れたんだ。・・でな、その歌を聴いてたら、【俺、がんばらなくちゃな・・】って急に思い始めたんだ・・」
 直はそう熱心に語ると、立ちあがって空を見ながら話を続ける。
「【生きているから歌うんだ】・・俺もそう思う。きっと、人には一人一人生てる意味があると思うんだ。だからさ、俺はずっと人は歌いつづけてると思うんだ。歌っていればここに生きているって言う証拠になるしな・・」
 直がいっている事は、あまり良く理解できなかった。しかし、いっている事は分かったような気がすると、春日は思う。
「ごめんな・・初対面なのにこんな事言っちゃって・・意味わからなかっただろ?すまないな・・でもさ、一つ言わせてもらうよ…キミだって今に良い事があるはずだよ・・」
 春日は、心の中に溜まっているもやもやした黒い物が直という少年によってやっと、晴らされたような気がした。春日の中は今、満天の大空だろう。春日は、足に力を入れて、立ちあがると、直に握手を求めた。
「ありがとう・・そうだね・・誰にだって生きちゃいけないなんて事は無いよね・・本当にありがとう…」
 その時は、春日は隆の時の事を思い出していた。自殺したのはいじめのせいだとしか考えていなかったが、そこにはいつも「逃げている自分」の姿があったことに気づく。春日の目にはあふれんばかりの涙が溜まっている。
「俺…春日、春日章輔…これから、しばらくキミのそばにいても良い?」
 その言葉を聞いて、直は笑顔になる。
「いつまでもいて良いよ・・よろしく「章輔」…」

        ≪生きているから歌うんだ 第四話≫
 胸の悪くなるような匂い、目にしみる煙、どれもまさに「研究所」と言う名前をつけるしかないような部屋に春日はいる。ソファにはしっかりと存在を強調しているように、透明な袋が重なって置いてある。
「どうだ? ここが俺の家だ」
 直は自身満万にそう言う。春日はただただ笑うしかなかった。
 春日は、最初に目についた透明でちいさな袋を持って見る。中には小麦粉と同じ大きさの白い粉が袋の半分に入っている。春日が開けようとすると、直は慌てて袋をひったくる。
「やめろ!! これ吸うと、依存して何度も必要になるぞ!!」
 依存? と春日は首を捻る。しかし、しばらくしてやっとの事で「麻薬」と言う言葉を頭の中から引き出す。
「直…麻薬やってるの?」
「違う違う…これは裏の世界で生きてく為の知恵…かなぁ?」
 直は腕を組んで良く考える。それをみた春日は、急に何を思ったのか、ソファの下に手をいれる。
 やっぱり…と春日が呟くと、ソファから手をひきぬく。その手には大量の万札がしっかりと握られていた。
「あちゃ〜〜…見つかっちまった」
「直ぅ…こんな事してると警察に捕まるよ?」
「大丈夫…今回のこの麻薬を売ったらもう手を引くつもりだしな・・それにそろそろ医学の勉強するつもりだし」
「医学…って!! 直医者目指してるの!?」
「まあな・・でも、親がいない俺は医療学校に入るためにも金必要だからな・・だからこう言うの売ってたんだ」
 直はそう言いながら麻薬の入った袋をひらひらさせる。
「直はそんな事考えてたんだぁ」
 春日は感心しながら直を尊敬の眼差しで見る。そんなとき、直の隠れ家の電話がなる。直はゆっくりと受話器を取ると、春日には分からないような言葉を言う。そうしてから話を始める。
「…ああ、分かった・・これが最後だぞ? ちゃんと金は用意しろ?」
 話が終わると、直は袋をソファの近くに置いてあったジュラルミンケースに入れる。そして、隠れ家のドアを開ける。
「章輔も来るか?危ない奴じゃないし・・今回は・・」
「一応いってみようかな?」
 春日は直に着いて行く事にする。隠れ家から歩いて三十分位した所で、小柄でひょろひょろな男が来ている。直はケースを地面に置くと、男に向かって叫ぶ。
「おい!! 持ってきたぞ! 金は?」
「その前に・・これ聞けよ・・」
 男はテープを取り出す。そして、再生ボタンを押す。
【そろそろ医学の勉強するつもりだし・・】
 それは、さっきの会話が全て録音されていた。直は顔を青くする。
「こっからは足をあらわせねぇ・・・洗ったら、このテープをサツに届ける」
「てめぇ!! どう言うつもりだ!!」
「だから、これからは造った麻薬をただでもらおうってことだ…」
「くっ」
 男はテープレコーダーをひらひらさせる。それを見ながら直は男を睨むしかなかった。春日は、男に向かって走っていくと、拳を振り上げる。その拳は、男の右頬に強くヒット――せずに空を切った。男は後ろに回りこみ、懐からナイフを出すと、春日の背中を裂いた。春日は激痛を感じ、その場に座り込む。男は春日の左の背中にナイフをつきたてる。
「さあ!! その薬を渡してもらおうか!! 嫌とは・・いえねぇよなぁ?」
「この・・卑怯者!!」
 直は仕方なくケースを男の持っていく。男がケースを手に取ろうとしたとき、違和感を感じた。それは、春日がいきなり立った反動で脇腹にナイフが刺さった事を意味した。春日は再び悲鳴を上げると、刺さったナイフを男の手から取り、道へ放り投げる。
「な!?」
 男が気がついたときには、既に右頬に直の拳がヒットしていたときであった。男は地面に倒れこむ。
「料金は春日の慰謝料つきで貰っていくぞ」
 男の懐から財布を取り出すと、全ての札束を引き抜く。そうした後に、春日を起こす。
「大丈夫か!? なんであんな事したんだよ・・」
「だってさ…直の夢を壊してほしくなかったから・・」
 春日は痛みを堪えながらそう言う。そして、春日は傷ついていない右腕の方で、自分の持ってきた財布を取り出す。
「これも・・直のだよ・・俺より、直が使った方が言い・・」
「何言ってんだよ!!早く病院行くぞ!!」
「良いよ・・今、やっとすっきりしたんだ・・」
 春日の体中がだんだんと赤いシャワーで色が付いていくのに直は気がつく。しかし、そんな事は気にもせず、春日を抱きしめる。
「やめろよ!! 医者になれなくてもいい!! お前がいてくれれば良いさ!!」
「何…言ってるんだ? …夢をかなえてよ…俺の夢は、直が自分の夢をかなえてくれる事だって・・気づいたんだ・・・」
「何で・・なんでそうなんだよ!! 会ったばかりなのに・・もうお別れかよ!!」
「何でって? 俺達・・もう親友・・だろ? 親友を…守れなくて・・何が、親友だよ・・」
 春日は出血多量で意識がハッキリしない時に、隆の言葉を言っていた。そして、抱きしめる直を力を振り絞って離すと、握手する。
「だからさ・・俺みたいにならないで、夢叶えてくれよ…な…」
 握手した手にはもう力は無く、春日は出血多量で意識が途切れ、目をつぶっていた。しかし、その顔は、今まで見せたような顔ではなく、満面の笑顔だった。その顔を見て、直は涙しながら微笑む。
「春日・・サンキューな? 俺、お前の夢をかなえてやるよ・・・」
 春日を自分の背中に背負うと、テープレコーダーを取ると、隠れ家に向かった。
 隠れ家につくと、裏にあるコンクリートがはげて土が見えている所に、春日とレコーダーを埋め、石を立てる。そこに鉄釘で一生懸命石を削って、「章輔」と書く。その後、隠れ家の中のものを全て春日の持ってきていたバックなどに詰め込むと、真夜中のうちにここを去っていった。

           ≪FINISH SONG≫
「先生!! 急患です!! 急いで緊急手術を」
 一人の看護士が、病棟の個室でゆったりとした椅子に座っている男性に向かって叫ぶ。男はゆっくりと振り向いてから、持っていたペンを置く。男は、看護士に状況を尋ねる。
「何があった?」
「今日、裏路地に偶然入ってしまって襲われた少年が、ナイフなどで所々切られて重傷です!! 早くしないと出血多量の可能性も…」
 男は椅子から立ちあがると、机から手袋をだす。そうしてから、個室を後にし、病院の廊下を急いで走っていく。
――そういや、あいつが死んだのもそのせいだったな・・
 男は頭の中にふと過去の出来事が鮮明に思い出される。しかし、頭を振って、今の状況の方を考える。
「少年の親は!? もう手術だと伝えたか?」
「はい!! 親は少し落ちつきを無くしてますが、平気です」
 状況を詳しく聞いていると、あっという間に緊急手術室へついた。手術用の服に着替えて手術室に向かうと、荒く呼吸をしながら、男に話かけてくる。
「ねえ、僕…死ぬの?」
「大丈夫、死なせはしないよ…安心して」
「いいの、死んだほうが良い…このまま生きてても、意味無いから・・」
 その言葉を聞いて、男は数年前の事をはっきりと思い出す。
『♪僕らは皆、生きている・・生きているから歌うんだ♪』
 男は少し黙ると、リズム良く歌い出す。その姿に、周りの医師は唖然とした。
「♪僕らは皆生きている 生きているから歌うんだ♪」
「なんなの? それ・・・」
「手術が終わったら教えてあげるよ・・」
 苦しみながら意味を聞こうとする少年をなだめてから、麻酔をうつ。少年はあっという間に眠ってしまった。
「これから…オペを始める…」
 長い手術が始まった。
_______________________
少年の手術は成功した。男はしばらくしてから、元気が戻った少年に会いに行き、歌の理由を教えた。

――ねぇ、あの時なんで歌ったの?
 少年のワクワクしたような声が聞こえてくる。
――それはね、だれでも生きてて嫌な時があるけど、ずっと人は幸せを願って歌ってるって事を教えたかったから…
 男のやさしい声も聞こえる。
――でも、僕は歌ってないよ・・たまにしか・・ 
 落ちこんだ声が響く
――歌ってるじゃないか・・生きてる証拠を…
 男は軽く少年の左胸を叩く。少年は驚いて胸を触る。
――こう言う事なの?
――そうだよ…だから、何があっても歌うのをやめちゃ駄目だよ・・
    ≪そう・・皆、幸せを願って「生きる」と言う歌を歌っている》 
         
        ー生きているから歌うんだー

                                END
2004/08/12(Thu)17:03:32 公開 / ニラ
■この作品の著作権はニラさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
完結です。感想、アドバイスなど、皆様ありがとうございました。今度こそちゃんと終わらせられました。
ご感想をくれた方々のお礼は、申し訳ありませんが、かけそうにありません。
また、次回作も、見てもらえると・・と思ってます。
ありがとうございました。
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