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『客人幽霊』 作者:律 / 未分類 未分類
全角3128.5文字
容量6257 bytes
原稿用紙約11.05枚
 霊感は強いほうだった。
 だからあの日、部屋に見知らぬ男がいたときも、
 その類のものだと思って僕は驚くこともなく冷静だった。

 アパートに帰ると、その男はダンボールに詰められた荷物を出していた。
 日常で起こりえない非現実。
 僕はすぐにわかった。
「あ、これ、向こうの人だな」って。
 実際の幽霊は、足もあるし透けてなんていない。
 見た目は生きている人間とまったく変わらないのだ。
 だから、「幽霊なんて見たことない」と言う人もいるけれど
 実際は見ていると思う。
 ただそれが死んでいるか生きているか区別がつかないだけ。

 僕がその男の背中をトントンと叩くと、彼は僕を見るなり青白い顔をして
「あぁぁぁぁ」と叫んだ。叫びたいのはこっち。

 最初に見えたのは忘れもしない小学校6年生の修学旅行の記念写真のとき。
 滝の前で集合写真を撮ったとき、明らかに見慣れないクラスメイトがいた。
 僕の横でカメラに向かってピースをしているのである。
「なにしてるの?」僕は一通り驚いてから恐る恐る聞いた。
「ちゃうねん、俺なー、修学旅行、行く前に病気で死んでん」
 なにが「ちゃうねん」なのかよくわからなかった僕は、ふうん、と鼻を鳴らして
「これは見てはいけないものなんだ」と思って見て見ぬフリをした。
「1+1は?」カメラマンのお決まりのセリフに「にぃー」と誰よりも元気に答えたその関西弁の幽霊は、
 写真が出来上がったときにしっかりと入り込んでいた。

 あれから僕はちょくちょくとそうゆう体験をしている。
 これで何回目だ?
 僕は記憶を辿りながら自分の指を折り曲げていった。

 こないだなんて、女の霊が僕の部屋にいて「付き合って」と言ってきた。
 お茶を出して話を聞くと、片想いの相手が僕にそっくりだったらしい。
 冗談じゃない。「僕は君の片想いの相手の代わりか?」
 こめかみの辺りをぽりぽりと掻き、よっぽど塩でも撒いてやろうか?
 と思ったけれどやめた。
 1日だけ、という約束をしてデートしてあげたら、その女は僕に笑顔で手を振り天に召された。

 またあるときは、男の霊が僕の部屋にいて「ツッコミをやれ」と言った。
 お茶を出して話を聞こうとすると、
 そいつは「コーヒーがいい」と、台所にいる僕の背中に声をかけた。
 インスタントのコーヒーを啜りながら、
 その男は「漫才コンビを組んでいたんだけれど、相方がおまえにそっくりだ」と言った。
 冗談じゃない。「だったらそいつの所へ行けよ」っていう話だ。
 僕は鼻の頭をぽりぽりと掻き、よっぽど数珠で縛ってやろうかと?と思ったけれどやめた。
「相方は霊感なくてさ、俺の姿が見えないんだよ」
 1回だけ、という約束で漫才をしてあげたら、その男は僕に笑顔で手を振り天に召された。
 笑いに関しては素人の僕でも言える。漫才としては最低だった。ボケが幽霊なんだから。

 こんな体験を腐るほど持ち合わせていた。
 だから記憶を辿りながら折り曲げていった指は曲がっては戻り、曲がっては戻り、
 結局、途中で数を数えるのをやめた。

「君はここで何してるの?」
 僕はまだ叫んでいる男に聞いた。
「あ、あなたこそ、誰ですかぁ。ここは俺の部屋だ、引っ越してきたんだ!」
 今日のは、タチが悪いな。
 たまにいるんだ。こうゆう立場をわきまえてないやつ。
 ため息をつきながら「ここは僕の部屋だから、出て行って」と言うと
「お、おまえが出て行けー!」と男は言った。

 僕もそろそろお祓いを受けたほうがいいのかもしれない。
 いつか彼女に言われた。「そんなに見るならお祓いしたほうがいいよ」って。
 僕の彼女もよく見る子で、僕と同じような体験を持ち合わせていた。
「私なんて、マンションに帰ったらいきなり男が「こんばんはー」なんて言うの。 即、塩撒いたもん」
 と笑顔で言った彼女は少し残酷だった。

 男はまだ僕を見て「あ、あ、」とか「ああぁぁぁ」とか叫んでいる。
 しまいには「来るな」といいながら僕に座布団や空ダンボールを投げてきた。
「そんなことしてないでさ、早く出て行ったほうがラクだよ」
 出来れば僕だって塩や数珠は使いたくない。
 一回だけ使ったことがあるけれど、あれは嫌なもんだ。
 だって、なんだか無理矢理、成仏させている気がする。
 だから僕は相手が納得する形で成仏させてあげたい。平和主義者なのだ。

 そんな僕の気も知らず、まだ怯えている男を見て
「最近、ついてないな」と思っていた。
 今日だって、この男が部屋にいるせいで月9の最終回を見るのを諦めているし。
 つい先日は交通事故にまであった。 トラックにひかれたんだけれど幸い、傷ひとつなかった。
 正直、死ぬかと思った。おそるべし我が生命力。

「何をそんなに怯えてるんだよ、言ってごらん。聞いてあげるから」
 僕は真っ青な顔をした男に優しく手を差し伸べた。
「な、なに、言ってるんだよ」
「だから言ってごらん、って言ってるんだよ。僕に出来ることならなんでもしてあげるから」
 僕は幽霊と漫才をした男だ。この男のどんな要求にも答えられる自信があった。
「な、何もしなくていいから出て行ってくれ」
「いいかげんにしろよ!」
 どんな幽霊だよ。
 こいつは生前は相当臆病なやつだったんだな、と思った。
 お化けが人間に怯えてどうする。
「おまえ、人の家に勝手に入り込んでおいて、何が出て行けだよ、ふざけんなよ!こっちは月9の最終回見逃してまでおまえの相手してんだよ!」
「だ、だから、ここは俺の部屋なんだってばー」
 そう言って男は部屋の隅で体を丸め、捨て犬のように震えだした。
 
 プツン。
 
 僕の頭の中で何かが切れた音がした。
「おまえがそうゆう気なら、強制的に成仏させてやる」
 僕は箪笥の小さな引き出しから数珠を取り出し、塩を取りに台所へ向かう。
 柱にかけられた、小さな鏡の前を通ったときに、なんとなく違和感があった。
 なんだ、この違和感。妙な胸騒ぎがした。
 心臓がトクンと鳴って、次第に速いリズムを刻み始める。
 僕は再び、鏡の前に行ってそれを覗いた。
 
 僕の顔が写っていなかった。

 え?
 台所のテーブルには3日前の読みっぱなしの夕刊が置いてあって、
 よく見ると流しの食器も、ラップのかけられているお皿も3日前のものだった。
 僕は新聞を手に取りギョッとした。
「信号無視の暴走トラック、人を跳ねてそのまま逃走」
 その見出しのすぐ横に、亡くなった藤沢一樹さん(24)と顔写真が出ていた。
 僕だ。僕以外の何者でもない。
 男は部屋の端で「南無阿弥陀仏」と繰り返し唱えている。
 死んだのは僕だ。
 幽霊だと思っていた男は生身の人間。
 人間だと思っていた僕は幽霊。
「あぁぁぁぁぁぁ」僕は自分の手を見ながら叫んだ。

 
 霊感は強いほうだった。
 だからあの日、部屋に見知らぬ男がいたときも、
 その類のものだと思って僕は驚くこともなく冷静だった。


 
                             おわり

  
 後日談


 僕は見知らぬ高校生の部屋でお茶を出してもらいながら話をしている。
「それでね、死んでいたのは僕だったんです。もう笑い話でしょ?」
「そうだね、ちょっとそれは悲しいね」
 そう言って高校生は笑った。
「で、今日来たのは他でもないのよ。月9の最終回ビデオに録った?」
「うん、録ったよ」
「見せて。それ見なきゃ成仏できない」
 
 そして無事に月9の最終回を見終えた僕はその高校生に向かって
 笑顔で手を振り天に召された。


                         ほんとにおわり



2004/04/26(Mon)15:15:15 公開 /
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■作者からのメッセージ
真夜中に書いた幽霊の話。
楽しんでもらえたら嬉しいです☆
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