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『no answer』 作者:黒子 / 未分類 未分類
全角896文字
容量1792 bytes
原稿用紙約3.05枚
no answer



 人のために何かがしたくって、僕は夏休みにボランティアグループに参加した。
 貯めてたっていうよりは、貯まっていった貯金。それを全部おろして、行ったのは外国だ。
 白い砂漠が果てしなく続く、暑い国。
 ……もしかしたら、そのどこかに地雷が埋まっていたって、ちっともおかしくなんかない、危険な国。
 ジープに揺られて、三時間。僕と一緒に車に乗った人たちが、隣でひっきりなしにゲェゲェ吐いてた。そしたら、少しだけ木と、草と家があるところに辿り着いた。
 用を足すなら今のうちだ、って言われたから、僕は車を降りた。他にも何人か。
 ほとんどの人はかたまっていったから、僕はその人たちとは少し離れた、木の側に行こうと思った。
 ……木と、僕の、間。
 松葉杖代わりみたいな木の棒によりかかった、男の子か女の子か分からない小さな子供が、黙って僕を見つめていた。

 僕はとりあえず、にこり、と、笑う。
 その子は、笑わなかった。

「どうしたの?」

 覚えたての、現地の言葉を使って、話し掛ける。
 ……その子は、何も答えなかった。代わりに、杖をつきながら、ひょこひょこおぼつかない足取りでこっちへ来たから、僕もその子に歩み寄った。
 僕はその子の前まで行くと、目線を合わせるように、座り込む。
 ……横に、持ってたリュックを、ぼすん、と置いた。

「……こんにちは。どうしたの?」

 もう一度、話し掛けた。

 その子は、何も、答えなかった。

 そして、リュックを引っつかむと、松葉杖みたいにしてた棒を放り投げて、すごい勢いで走って逃げた。

「……」

 ……僕は動けなかった。

 おろした僕の貯金全部と、日記にしてたノートが入ったリュック。ほかに、水と、保存できる食べ物。
 それを奪ったその子をの背中は、すぐに見えなくなった。

 ……僕は、ボランティアでここへ来た。
 あの貯金全部、くれてやるつもりで来た。

 ……なのになんで、盗られたのが悔しくって、たまらない気持ちになるんだ?



 ……体調不良を理由に、僕は日本に帰ってきた。
 出かける前の、あの何か揚揚とした気持ちは、そこには、なかった。



 END
2004/03/04(Thu)15:07:49 公開 / 黒子
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