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『雨宿りと招き猫』 作者:英 / 未分類 未分類
全角3683.5文字
容量7367 bytes
原稿用紙約13.45枚





「雨まで降ってきたか…。」
学生服に身を包んだ青年は、軽く舌を鳴らした。
天気予報では今日いっぱい天気はもつと言ったはずなのに、大はずれだ。
大粒の雨が上着に染み込んで、足取りが重くなる。
駅までは数分で着くが、それまでにびしょ濡れになることは容易に想像できた。
「雨宿りする所なんかあったか…?」
近くに見えるバス停はひさしはあるものの、よこなぶりの雨でベンチは濡れている。
そうこうしているうちにも靴の底から雨水が染み込んでくるのがわかり、焦ってとりあえず駅の方面へと走り出した。
「…あ」
一つ目の曲がり角を曲がったところで青年の足は止まった。
そこには一軒の家があった。
どうやらだいぶ古い日本家屋らしく、人が住んでいるのかいないのか瓦のいくつかは割れていている。
雨模様と相まって、その建物は自分に迫るようにしてたたずんでいた。
つたの絡まる門からこわごわ覗くと、広いひさしの玄関が見えた。
-----あそこなら、雨宿りに丁度良い。
この荒れ方では、おそらく人は住んでいないだろう。
この辺りは住宅ばかりで立ち寄れるコンビニも喫茶店もないから、ここを逃せば必ずぶ濡れになってしまう。少々不気味ではあるが…、
「おばけが怖い歳じゃあるまいし、背に腹はかえられないよな。」
きぃ、と音をたてて門をくぐる。
生い茂った草木が、雨を受けて青臭いにおいを醸し出していた。
ひさしの中に入ると、雨水を吸い込んで重くなった上着を持っていたリュックの上に掛けておいた。
戸にもたれかかり、木々の間から覗く白く濁った空を見上げる。
-----俺という人間はつくづくついてない。
上げた首を今度はがっくりと下げて、溜息をつく。
今日は公立高校の合格発表の日であった。
青年は、第一志望の高校に落ちていたのだ。
心配する母親に、1人で見てくると言いくるめ張り出された結果を見に来たが、まさか落ちるとは思っていなかった。
塾の講師にも太鼓判を押され、万全の体勢で臨んだにもかかわらず、だ。
別に落ちたことを今更嘆いたって、何にもならない事は分かっている。
併願した私立の方は受かったのだから、贅沢を言う訳ではない。
しかし…。
-----家族や先生に申し訳が立たない。
青年は濡れた頭を抱え込んだ。
先生にはつきっきりで夜遅くまで勉強を見てもらった。
父にも母にも弟にも気を遣わせ、応援してもらった。
ちらと視線を送ると、リュックにぶら下がったお守りが視界に入った。
-----あれは、先生と母が入試の朝に駅で俺に渡したものだ。
   あれと一緒にカイロも貰ったな…。使い捨てカイロには、手紙がはりつけ
   られていた。
   『頑張れ!家族みんなより』と。

ふいに、涙がこぼれた。
悲観することはない。
今更泣いたって仕方がない。言葉通り、自分は頑張ったのだ。
きっと誰も責めはしない。
しかし問題はそこではないのだ。
自分が情けなくて仕方がないのだ。



「そんな所にいては風邪をひいてしまうよ。」
青年は飛び退いた。
突然後ろから声がかかったのだ、誰もいないはずなのに…。
そこにいたのは、1人の男だった。
見た目60歳といったところか、頭のてっぺんはつるりとはげ上がり、囲むように白髪が生えている。
小さな丸い眼鏡の奥にある瞳は、垂れ下がっておりひどく優しげである。
-----いつの間に…。
玄関は開いている。音はしなかったが、家から出てきたのだろうか。
「あの…、誰ですか?」
青年がそう尋ねると老人は、はは、と朗らかに笑う。
「何がおかしいんですか?」
「おかしいねぇ。ここは私の家だ。今のは本来私の言う台詞じゃないかい?」
濃紺の着流しの下で、老人の腹が揺れる。
恰幅のいい老人で、青年は幼い頃に亡くした大好きだった祖父を思いだした。
「時に君。泣いていたようだけど、どうかしたかね。」
青年はうつむく。
見ず知らずの老人に、聞かせるような話しではないのだ。
「別に…、雨宿りをさせてもらっていただけです。勝手に入ってすみませんでした。…てっきり誰も住んでいないと思ったもので。」
はは、と老人は笑いながら腹をさすった。
「随分荒れ果てているからそれも仕方のないことだ。
君はもう帰るつもりかね。雨はまだまだやまないよ。家でお茶でも飲んでいくといい。」
青年は迷った。
高校に落ちたことを家族や先生に連絡しなくてはならない。
だが、まだ勇気がでない。知られたくないのだ。
誰か、全然関係のない人にこの気持ちを打ち明けたい。
「何か悩みがあるのなら、聞いてあげるよ。」
青年の心を見透かすかのように、老人は言った。
亡くなった祖父の面影と重なる。
「…お邪魔します。」
青年はそう言って玄関の敷居を跨いだ。その時-----。

にゃぁお。

何処かで猫の鳴き声がした。
振り向くと塀の上に黒猫が座っていた。
こちらを見つめ、にゃぁおと二度鳴く。
金色の目がギラギラと輝いていた。

「不気味な猫だ。あっちへ行け。しっ、しっ。」
老人は忌々しそうに言った。
青年はぎょっとした。
見ず知らずの雨宿りをしていた青年を、わざわざ家に招き入れてくれる老人だ。
そんな親切な老人が雨の中にたたずむ猫を邪険に扱うとは…。
猫好きだった祖父からイメージが一歩、遠のいた。
「猫がお嫌いなんですか?」
「あぁ、嫌いだね。あいつらは人の物も横取りするんだよ。」
老人は腹をさすりながら言う。
雨はバケツをひっくり返したように本降りになってきた。

荒れた外観とは裏腹に、中はきれいに片づいていた。
こたつに入るようにすすめられ、老人は後から煎餅を持ってやってきた。
「お食べ。」
「ありがとうございます。」
青年はお腹がぺこぺこだった。
入試の合否結果が心配で、朝ご飯も喉も通らず今日はまだ何も食べていないのだ。
ぱりぱりと煎餅をかじっていると、老人がきりだした。
「して君は、どうしてあんなところで泣いていたのかね。」
「…試験に、落ちたんですよ。」
青年は諦めたように言った。
「大切な…、大切な試験だったんです。
他の高校には受かったけど、お金がかかるんです。
父や母は、かまわないって言ってくれるだろうけど、俺自分が情けなくて…。」
老人は、寂しそうに青年を見た。
「それはつらかったね。私も昔、そういう事があってね。親友と共に受けたが、私は落ち、彼は受かった。あのやるせなさは、どうにもね…。」
「はい、自分を、責めずにはいられません。でも、誰も責めないんです。
いっそ何か言われた方が、気が楽になるような気がして…。」
老人は茶をすすり、腹をしきりにさする。
「そうか、でもね、その苦しみを君は忘れてはいけないよ。」
「…え?」
青年は顔をあげる。
老人の口調がかわった気がしたのだ。
「自分をめいっぱい責めなさい。苦しみをバネにすればいい。」
老人の顔が暗い。丸い眼鏡が反射して、表情がわからない。
「それは、そうかもしれないけど…俺は、そういう考えはできないんです。
今は確かに落ち込んでいるけど、でも、この事は忘れて心機一転したいんです。」
「何度も言わせるな!!」
ばんっ、と老人は机を叩いた。

ふ、と電気が切れた。部屋が薄暗くなる。

「あ、あの。おじいさん…?」
青年は立ち上がった。
しかし、目の前に座っていたはずの老人の姿が忽然とない。

おかしい。逃げなければ。
あの老人は、どこかおかしい。

そうだ、腹を…。
腹をしきりに触っていた。
空腹を訴えるように。
舌なめずりをして。

青年は玄関へ走った。途中でゴミ箱か何かを蹴飛ばしたが、気にする余裕はない。

玄関で待っていたのは、外へ続く扉ではなかった。
「もうお帰りかね。」
老人が、立っている。
腹をさすって。
舌なめずりをして。
「君の心に渦巻く自責の念は、うまそうだ。食わせろ、食わせろ!」
老人は、その大きな体からは想像も出来ないようなスピードで青年に飛びかかる。
血なまぐさい、獣のにおいがする。
「食わせろ、食わせろ。腹が減ってもうたまらん。」
足を掴まれ、横転する。
老人は牙をむく。もはや人間ではない。

-----絶体絶命だ-----。

にゃぁお。

猫の鳴き声が聞こえたような気がした。
見ればすぐそこに、玄関で見た黒猫がいる。
口に何かをくわえている。

「それは…!」
-----それは、俺のお守りじゃないか。
猫の口からお守りを取り、老人に向かってかざす。
「消えろ、消えろ!」

ぐあおおぉん。

苦しげな咆哮が、老人の口からほとばしる。






後に残ったのは、老いさらばえ、でっぷりとした猫の死骸だけだった。






あれは、化け猫だったそうだ。
祖母が俺を撫でながら言った。
人の暗い心を喰らう化け猫がいるそうだ。
そいつは獲物を見つけると、その獲物が安心するような姿に変身して近づく。
そして弱い心の隙をついて、胃袋にいれちまうのだと。

猫好きの祖父の飼った最後の猫は、黒の毛並みと金色の瞳を持っていたらしい。
そいつが、俺を助けるためにみんなの願いのこもったお守りを届けてくれたのかもしれない。




                                終







2004/03/03(Wed)21:53:19 公開 /
■この作品の著作権は英さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんばんは、英というものです。
怪談ふうの話しを書いてみました。
怖さを引き出す書き方が全く分からず、苦戦しました。
アドバイスなどお待ちしております。よろしくお願いします。
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