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『せんたくびより。』 作者:岡崎依音 / 未分類 未分類
全角3509.5文字
容量7019 bytes
原稿用紙約12.3枚



目が痛いほどの真っ青な空。
そこに彩られた白い雲。
まるで大きなキャンパスに誰かが落書きしたみたいだ。
家に篭っているのももったいない。
かといって、でかけるような場所もないし…。
あ、洗濯物、干さなきゃ。





せんたくびより。





「…チカ…こ、これは一体…」
「何?」
庭には布団やらカーペットやら服やらがこれでもかというくらい物干し竿にかけてあり、その中でチカは飼い猫のクロとのんきに戯れていた。
「何。なんなの?これ、僕に対するイヤガラセ?」
「なんで諒に対するイヤガラセになんのよ。こんなに天気がいいからさ、せっかくだから溜まってた洗濯物洗っちゃえと思ってんだけど。やり始めたらこれが また次から次へととまんなくなっちゃって」
「やりすぎだよチカ…片付けるのどうするつもり?」
「二人でやればいいじゃん」
「ああ、もう僕に拒否権はないわけね」
いいけどさ、と諦めた彼は目覚めのコーヒーを入れるためにキッチンへと向かう。
手間をかける気力もないので、もうインスタントでいいや、と諒は考えた。
彼女はその背中をチカはしばらく眺めていたけれど、クロを一撫でして後を追いかける。
クロは一人にされる淋しさを嫌がるようにチカの足元でじゃれ、彼女を引きとめようとする。
今日の天気とはまったく正反対のどしゃぶりの雨の日、チカがダンボールの中で今にも息絶えそうなこの黒猫を見つけた。びしょびしょに濡れた毛と、何回も 鳴きつづけたのだろう、もう掠れて細くなった声を聞いた瞬間、胸を抉られたような感覚が襲った。
ここで放っておけば、この猫は死ぬだろう。
そしてゴミとして処理されてしまうのだ。まるでヌイグルミのように。
そう思ったら、もうダメで。そのまま服が濡れるのもかまわず、チカは猫を抱き上げ、家まで走った。

『おかえり。遅かったねー…うわっ!なにその猫!』
『死にそうなの。どうしても見捨てられなくて…ねえ諒お医者さんでしょ?助けてあげてよ…』
『そりゃ僕は獣医だけどさ…いいよ。病院に行こう。ここじゃ何にもできないから。チカ、毛布持ってきて』

それから二人は大慌てで諒の勤める病院まで車を走らせ、手当てをした。
助けたはいいが、貰い手が見つからなかったため、チカが強引に家につれてきた。何よりも、手当てをしたチカがすっかり黒猫になるいてしまった。
チカが何を言っても聞かない強情者ということを彼はよくわかっていたし、命の尊さも心得ていたので、反対する事もなかった。
もっとも愛しい人の願いなら何でも叶えてやりたいと思ってしまうのもあるのだが。
「クロー。あんたこんな綺麗な景色見たことあるー?こんなに天気がよくて、洗濯物がいっぱい干してあんの。こういう天気はねぇ、洗濯日和っていうのよ」
返事をするようにクロは一声鳴いた。それに微笑んでクロを抱いた。
「あ!チカ!クロ外に降ろしたんだろっ!足拭いたの!?」
「まだ」
「あーもーっ!ちゃんと拭かなきゃ床汚れるだろ!?」
「…諒、細かい…」
「この間そのせいで掃除するはめになりましたからね」
と言って、どこからかいらなくなった布きれを取り出し、水に濡らす。
軽く絞って、それをクロに向けた瞬間、目を見開いたクロが精一杯抵抗する。
クロは足を拭かれるのが嫌いなのだ。
嫌がろうがなんだろうが、諒はしっかりとクロの足を手で固定し、拭っていく。
「そうやって乱暴に扱うから嫌がるんだよ」
「んじゃチカやってくれる?」
「…やだ」
「じゃあ文句言わない。足の肉球触れるのを嫌がるのは特有のものだからしょうがないんだよ」
足が綺麗になったクロは、そっと諒の手によって下ろされた。
クロはこの時の諒はどうもお気に召さないらしく、諒の顔からふっとそらしてしまい、少し離れたところにちょこんと座りしっぽを振りながらそっぱを向く。
あーあ、嫌われちゃったとチカがからかうと、今度は諒がそっぽを向いた。
「何かクロと諒、そっくり」
「人事だと思って…」
差し出されたコーヒーを受け取ると、チカはクロを素通りして、窓際へ移動し、そのまま座り込む。
本当に綺麗な空だ、と彼女は思った。
雲の白は薄かったり濃かったりするくせに、どうしてこの空の青はどこまでも同じ色なんだろう、とチカは呟いてみたりする。でもそれはずっとずっとチカの知 ることのできない、とても大きい事なので、あえて答えを求めたりはしなかった。青は青だ。それでいい。こんな綺麗な空があるなら、それでいい。
いつまでも空ばかり見るチカにため息を漏らしながら、窓を全開にした後で諒が隣りに座る。コーヒーの匂いが風に舞って、そのまま透明な空気の中へと溶 けていく。
風も、日差しも、まるで包み込むかのように暖かかった。コーヒーを口にする。…やっぱりインスタントは味が落ちるなぁ。
ぱたぱた、と洗濯物が踊る。その白も、服の鮮やかな色たちも、とてもとても空の青によく映えていた。
日を浴びた布団は特に寝るとき気持ちがいい。温かくて、ゆっくり眠る事ができる。期待すると、少し体が疼いた。
横の諒に、甘えるように肩に頭を寄せる。目を閉じるとコーヒーと、少し苦い煙草の匂いが染み付いている。諒の匂いだ。
彼はカップを持つ左手をそのままに、右手でチカの短い髪をなでる。髪は指先から逃れてすぐに逃げた。
そのうちクロがうんと背伸びをした後、とてとてとチカの元へやってきて、ひざの上に座る。どうやら機嫌が直ったらしい。
しばらく、三人は日だまりの中、まどろんだ。




諒、今日仕事は?
昨日無いって言ったんだけど僕。
え、そうだっけ。
…まあチカの記憶力には期待してないから…痛いってっ!
そうか。じゃあ一緒に洗濯日和楽しもうね。
楽しむものないと思うけど…僕はこの後これを片付けると思うと頭が痛くなってくるよ。
いーじゃない。日に当てた方が温かいし、服にもいいんだから。
僕がいってんのはこの膨大な量のことなんだけどな。
やっちゃったもんはしょうがない。
…さいですか。
さいですよー。
…暖かいね。
うん、暖かいね。
なんかさ。
ん?
眠く、ならない?
は?




クロを抱き締め、そのままチカは諒の足の上に倒れこんだ。
なんて自分中心なんだこの人は。
「寝て、いい?」
「いいけどさ、ここじゃ風邪引くよ」
「引かない」
「どっから出てくるのその自信」
悪態をついても、彼女が動く事なかった。このままだと本当にぬくもりに身を任せてここで眠ってしまう。諒は今一度大きなため息をついて、彼女を抱き上げ た。
「うわぁっ!持ち上げるなら持ち上げるって言ってよっ!」
「半分眠りの世界に行ってる人に何言っても聞こえないと思って」
「ってかあたしのベット、布団ないんだけど。諒のベットは煙草くさいし」
「ソファーなら関係ないよ」
そのまま彼女の体がソファーに落下。
衝撃に彼女は顔をしかめ、クロは一瞬中に浮いたことに目をぱちくりさせる。
諒は寝室へ行き、いつも彼が昼寝に使っていた毛布を持って戻ってきた。
どうやらここで寝ろということらしい。
床もソファーもあまり変わらないと思う。あえて寝るものの意見としてはでこぼこしているソファーよりも平らな床の方が寝やすいのだが。
「あたしが寝てる間、諒何してんの?」
「本の続き読む」
「退屈じゃない?」
「全然」
テーブルの上にはしおりが挟まったままの赤いカバーがつけられた本が置かれている。彼はそれに手を伸ばし、しおりを抜き取った。片足だけを立てて、ソファーにもたれる。
彼女は手を伸ばして彼の髪を指先ですくった。
薄い茶色が、光に反射してきらきらひかる。少しパーマがかった髪はぴょんとはねた。
目を閉じる。彼が何かの曲を口ずさんでいる。聞いたことがある曲。なんだっけ。
『ふゆのつばさ』
ああ、この曲。ホントに好きなんだなぁ。
今は夏なのに、冬の唄なんて、笑ってしまう。


4時に起きよう。
あの青い空がオレンジに染まる頃に起きよう。
そしたらすっかり日を吸収した洗濯物を取り込もう。
さあ、あの量はホントに大変なんだぞ。
おかしくなって、チカは笑った。



今度の晴れた日は洗濯日和だけじゃなくて。
外に出て、デートなんかしてしまおうか。ねぇ。




                                                                  <END>





2004/03/01(Mon)23:53:04 公開 / 岡崎依音
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ほのぼのにしようと思ったら何か方向が間違ってしまったような…。
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