- 『プラスチック・プラス01〜02』 作者:硝子 / 未分類 未分類
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原稿用紙約7.25枚
「―――」
それは、大切な記憶。
決して、忘れてはいけないモノ。
「―――?」
だったはずなのに。
01>>
夕焼けが校舎を紅く染め、窓のガラスを反射させる。
最高階である四階の一番端の教室にも、その光は侵入してくる。
眩しいなぁ。
私は、ご贔屓の文庫本に菫の押し花の栞を挿む。
私以外、誰も居ない放課後の教室。傷だらけで古い三十個あまりの机は、ガタガタに並べられている。クリーム色の壁と、木製の床には汚れが目立つ。前にある黒板は白く、粉っぽい。
ガラッ。
黒板側の前のドアが勢いよく開いた。
「千暮ぇー」
やけに語尾を伸ばし、かつ甘ったるい声。
「何? 雪芽」
腰まである、ストレートの黒髪。可愛らしい顔立ち。この中学校の制服である、紺色のセーラー服。
息を切らせて教室に入ってきた雪芽に歩み寄る。
「柄本先生が、千暮のこと探しるから逃げた方がいいよぉ」
「柄本がか……チッ…帰るぞ、雪芽」
バリバリ体育会系の生活・風紀担当である、柄本のムサイ顔が脳裏にチラリと浮かぶ。あいつは、まずい。そして、キモイ。
机の横に掛けていた、黒に白で骸骨が描かれたリュックを取る。原宿で買った、お気に入り。そして、ジッパーを開けリュックに文庫本を入れようとした時だった。
ピーンポーンパンポーン。
爽快な音が教室に響く。
『一年B組黒瀬千暮さーん。羽柴雪芽さーん。至急、職員室まで来てくださーい』
柄本のねちっこい声。
「えっ!? 私までぇ?」
雪芽が驚いた様に叫ぶ。
「んなのシカトして、行くよっ」
リュックを肩に掛け、雪芽の細く白い手をひっぱり、教室から走って出る。
私の肩までの金髪がなびく。左耳には三個、右耳には二個の合計五個のシルバーのピアスが露になる。制服のエンジ色のネクタイの上には、「KILLYOU」と刻まれたペンダント。雪芽をひく指には、幾つもの指輪。腕には皮製のブレスレット。
私が、先公に目を付けられる理由。
私が、あの人に敬意を表す証。
あの人。
「千暮ぇー。授業終わって、何ですぐに帰らなかったのさぁー」
夕日が沈み、暗くなった階段を駆け下りながら、雪芽が口を尖らせる。
「家に、帰りたくないの」
きっぱりと言い切る。
「あっ……」
雪芽はそう一言いうと、何も言わずに俯いてしまった。
もしかして、あのこと気にしてんのか。
溜め息をつき、雪芽を掴んでいた手を放す。
「嘘。私、家庭事情なんて気にしてない…」
「何やってんだ」
私の声に被さるように、背後から低い声がした。
>>02
私と雪芽は、声のした方に同時にバッと振り返った。
「高塔――……」
そこに居たのは、クラスメイトの高塔だった。
とりあえず、柄本じゃなくて良かった。
私はホッと息をつく。
「黒瀬に羽柴。お前ら、放送聞いたか?」
高塔はバスケ部で引き締まった腕で、自分のさらさらの髪をかきあげる。
「勿論。これから行こうと思っているの」
私は、悟られないように、平常を装って言う。
雪芽は何も言わない。
あぁ、そういえば雪芽はこいつのこと好きなんだっけ。
「ふーん。せいぜい頑張れよ。…じゃ」
興味なさそうに高塔はそう言い放つと、スタスタと階段を登っていった。
―何をせいぜい頑張んなきゃいけないのよ。
学ランをだらしなく着た、高塔の背中を睨みつける。
「蓮史君、かっこいいなぁー」
雪芽が目を輝かせながら言う。
雪芽は、すっかり乙女モードになっていた。
「はいはい。行くよ」
そりゃあ、高塔、少しかっこいいかもしれないけど。
細く引き締まった体とか。
前髪が目に掛かる、色素が薄めのさらさらの髪とか。
あの人に少し似てるな、と思ったことあるけど。
…本当に、少し……だけど。
ぺシッ。
私は両手で思いっきり自分の頬を叩く。
今は、そんなこと考えている場合じゃない。
グイッ。
再び、雪芽の手をひっぱって残り三階を駆けていった。
カタカタと、リュックに入っている教科書や筆箱や文庫本らが揺れ、鳴る。
「千暮ぇー早いぃー」
「うっさいなぁ。先公にバレるだろ」
私、雪芽と違って百メートル十二秒台だし。
階段を一気に下って、職員室と反対側の右側を曲がると下駄箱についた。
「ほらっ。さっさと靴履いて」
黒のスニーカーを下駄箱から取り出しながら、ぐずぐずしている雪芽に言う。
「はぁい」
雪芽は、のろのろとショッキングピンクのスニーカーを履きはじめた。
下駄箱や一階には、私達の他に誰もいなく、静けさだけが漂っていた。
と、そこでピーンポーンパーンポーンという不愉快な音が静けさを破った。
『一年B組、黒瀬さーん、羽柴さーん。校内にいるのはわかっていまーす。早く職員室に来なさーい』
もっと不愉快になる柄本の声だ。
「雪芽、早くっ」
まったく、ウザイことこの上ない。
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2004/02/28(Sat)19:57:05 公開 / 硝子
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■作者からのメッセージ
初めての作品ということで、お見苦しい点があると思いますが、もし読んでくださった方、有難うございます!