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『REVENGERS!!0〜6』 作者:水柳 / 未分類 未分類
全角27692.5文字
容量55385 bytes
原稿用紙約84.9枚
プロローグ

俺、中学一年生石山洋介(いしやまようすけ)は何もかもが信じられなかった。
父、母が共に殺人者として捕まった。
何故そんなことをしたのか、それさえも聞けず、両親は俺の元から消えた。
言いようのない悲しみが俺の心を独り占めにした。
その時、俺は何も考えることができなかった。
辛かった。
そんな俺に声をかけてきた友達、いや、友達と思っていた者の言葉が俺にもう一つ感情を与えてくれた。
両親が刑務所へ送られた翌日六月のある、雨の日だった。
いつもどおり学校へ行った俺は下駄箱で親友、と思っていた奴、黒澤慶介に出会った。
「よお」と挨拶をする俺に近付いてくるそいつはもう事件の事を知っているのだろうか?
慰めの言葉の一つでもかけてくれるのだろうか?

「聞いたぜ? お前の親が殺人事件を起こして捕まったんだってな」

俺は嘲りともとれるその言葉に、耳を疑った。
俺は驚きながらもコク、と頷いた。
俺は驚きながらも、のんきな性格だった彼の事だから、事の重大さや、俺の心境などわからないのだろう、と自分を納得させた。

しかし、十分後、教室で俺は先程の考えが間違っていた事を悟った。
クラス中の奴ら全員が教室についた俺の方を窺いながらひそひそ話をしている。
気になりつつも、俺は自分の席に座・・・いや、座れなかった。
俺の席の椅子がなかったのだ。
さらに、驚いたことに俺の机に黒の油性ペン(推測)で、でかでかと「人殺し!」 「悪魔の子」 「お前に生きる資格はない」などと書かれていた。
俺はキッと顔を上げてクラス中を睨んだ。
誰だ、誰がこんなことしやがった。
俺がてめえらに何をした!?
俺は生意気な態度をとった覚えもないし、容姿も自分では悪くないと思っている。
さらに成績も悪くないし、スポーツでも活躍している。
性格的にも容姿的にも能力的にもこんな仕打ちを受ける覚えはない。
しかし俺はハッと気付いた。だからこそだ。
奴らは俺に非がないことを密かに妬んでいた。
そして、俺を嫌っていた。
だから奴らは俺が社会的に惨めな立場になったのをいいことに、今まで積もり積もった妬みの感情を爆発させたんだ。
そう思っていると急に俺の視界が暗くなった。
クラスのガキ大将大山豊(おおやまのぼる)、身長170センチの巨漢で、高校生と喧嘩してもかすり傷一つつかない、とんでもない奴だ。
できれば敵に回したくなかった。

「よぉ、人殺し。クラス一同のメッセージは気に入ったか?」
大山がニヤニヤしながら言った。
クラス一同だと!?俺は慌てて机の落書きを見た。
よく見ると、ごく小さな文字がほとんどであったが、数えてみると35個、俺のクラスの人数全員で36人だから、俺を除いた全ての奴が俺への侮辱を書いたわけか。
「ああ、素敵なメッセージをどうもありがとう」
などと皮肉を言う心の余裕はなかった。

「ふざけんな!!」
俺は大山に飛び掛かっていった。当然、殴られる。
怒り狂った俺は前後不覚になっていた。
体勢を立て直した俺は大山の近くで俺を笑っていた女子生徒を殴った。
そこからはもう覚えていない。
暴れまわる俺に逃げ惑うクラス一同、そして俺を押さえる親友と思っていた奴。
そこに殴りかかる大山。
歓声を上げる親友と思っていた奴。
いつの間にか他クラス、他学年からも助っ人が現れた。リンチに近かった。
しかし、朦朧とした意識の中ではっきりと覚えていたこと、それは36番目の裏切りだった。
「先生呼んできたよ!!」
高い声が騒然とした教室に響いた。
声の主は佐藤麗華(さとう れいか)。俺の幼馴染で、俺とは違うクラスだ。
彼女の背後にはハゲが目立つ社会科教師、田沼義正が呆気に取られながら立っていた。
そんな田沼に黒澤が説明する。
「石山が突然暴れだしたんです。 大山がちょっとからかっただけで。 それで大山との喧嘩だけなら良かったんですけど、近くにいた鈴木さんまで襲ったものですから、他のクラスや先輩達にも協力してもらったんです」
言うまでもないが鈴木とは俺が殴った女子生徒である。しかし、黒澤は嘘はついていない。大山の言葉に俺が暴れだしたのは事実なのだから。
「今の話は本当かね、石山」
俺は答えなかった。いや、答えられなかった。
10人近くにボコられて意識が朦朧としていた。
「保健室にでも行って来い。その後、校長室にぶちこんでやる」
田沼は俺が答えないのを、俺が認めたからだと勝手に決め付けたようだ。
俺はふらついた脚で立ち上がると教室のドアを開け、よろよろと歩いていった。
しかし、保健室には行かなかった。
俺はグラウンドに出た。家に帰るつもりだったが、途中で力が入らず、倒れてしまった。
砂まみれの顔に涙が流れた。
誰を憎んでいいかわからなかった。親か、親友か、ガキ大将か、幼馴染か、社会科教師か、先輩達か、それとも自分自身か。
答えは一つだった。全てが憎い。学校も家庭も、俺の周りの物全てが。壊したい。こんな学校などきれいに破壊したい。
「私と同じ目をしている・・・」
いつの間にか目の前に若い男が立っていた。年は20代前半。これといった特徴はなく、メガネだけが唯一目立つ。
「誰だ、てめえは」
俺はその男を睨んだ。
見るからに悠々とした暮らしをしているように見える。
「私は『リベンジャーズ』リーダー、秋山浩二だ。 よろしく」
奴は俺に優しく微笑んだ。
「しかし、君は随分とひどい目に遭ったみたいだね」
奴は俺の体中のケガをまじまじと見た。
「同情か? そんなもんいらねえ! とっとと消えやがれ!」
奴はやれやれと肩をすくめた。
「なら君はこのまま引き下がる気かい?」
「黙れ」
奴の言葉に俺はそう答えた。
リベンジャーだかなんだか知らないが、こんな青二才に俺の気持ちがわかるわけはない。
「君は憎くないのかい?この学校、そして裏切った者全てが」
「憎いに決まってる」
「ホントに憎いのか?」
「憎い」
つくづくねちっこい言い方をする奴だ。そう思いながら俺は答えた。
「なら、もっと大きな声で言え!」
その言葉に俺は叫んだ。
「憎い!!俺を裏切った全ての人間、そしてこの学校が!!できることなら全部ぶっこわしてやりたいさ!!」
たとえ学校の誰かに聞かれていても構わなかった。
ほとんど俺はやけくそだった。
「ならそのために全てを捨てる勇気があるか!?」
「ある!」
俺は声を振り絞って叫んだ。秋山は頷いた。
「なら、君も我らの一員だ。ついてくるがいい」
こんな状態の人間を歩かせるか、普通?それでも俺は気力を振り絞って歩いた。
最後に校舎を見つめた。
今ではこの学校が魔王の城のように思えた。
「待ってろよ・・・・必ずリベンジしてやる」
俺は学校を見ながら呟いた。
 あれ以来、俺は人をまともに信じたことがない。
 ずっと孤独だった。
 組織の中に居ても。



第1章



六月十四日、東京のとある通り。月明かりの下で少年が右手にスチール缶を持ちながら壁に寄りかかっていた。外見的にはどこにでもいそうな少年だが、彼の眼光は鷹のように鋭い。それは生まれつきなのか、あるいは、人生観を変える出来事にでも遭遇したのか。
とにかく彼の周りには深くドロドロしたオーラが漂っていた。
少年は持っていた缶を軽く振る。
「空だな・・」
そう呟くと少年は缶を後ろに投げた。
スチール缶はコン、と軽快な音を立てて、何度か弾んだ。
なんともマナーの悪い少年だ。
少年は腕時計を見た。時計の針はちょうどPM11:30を指していた。
「時間だな。そろそろ行くか」
立ち上がり、欠伸をするとゆっくりと歩き始めた。

******

「よお、待たせたな、依頼人」

俺、15歳春風洋介は公園で不安そうに辺りを見回している高校生に呼びかける。
「春風」なんて聞かない名前だと思うだろうが、それで当然だ。これは俺が自分でつけた姓だからだ。要するに俺は前の姓を捨てたわけだ。1年前、俺の親が殺人事件を起こして、俺の前の姓「石山」の名は汚されたわけだ。
俺は今でもバカなことをした両親を憎んでいる。だから、その親と血のつながりがあることが嫌だったんだ。もっとも姓を変えたって、バカ親との縁は切れないけど。
そんなことを考えながら依頼人に近付いていく。

「君が僕の復讐を果たしてくれるのか?」

高校生は半ば期待し、半ばバカにしていた。それはそうだろう。依頼の担当者がこんなガキなのだから。

「ああ、そうだ。依頼の内容は広川さんから聞いた。早速そいつらを呼んでくれるか?」
復讐、依頼。
話の展開がわからなくなりそうなので解説しておこう。俺は2年前、両親の起こした殺人事件を期に、クラス、いや、学校の人間全員から拷問に近い仕打ちを受けた。それも親友や幼馴染からもだ。恥ずかしい話だが、俺はその後グラウンドに倒れて一人泣いていた。その後、秋山浩二という男に会い、「リヴェンジャー」と呼ばれる組織に入ったのだ。
別名「復讐屋」。
あっ、それから俺の組織に入ってからの昔話をさせるのは勘弁してくれよ。
とても人に言えるような内容じゃないんでな。
その仕事内容とは、いじめを受けた者、家族を殺された者、彼女を取られた者など、人に恨みを持つ依頼人の代わりに、その者に復讐をするというもの。
 とても人に自慢できる仕事じゃないが、この荒んだ世の中だ、結構儲かる。
俺が入った理由は学校に復讐するため。
だが、復讐をしないのはまだ時期じゃないからだ。俺の復讐劇には、絶対にあの日でないといけないのだ。
 まぁ、それは置いといて。
 大抵、武力行使の場合は素手だが、倉庫には手榴弾や、銃、さらにリヴェンジャー特製の武器も各種用意してある。
 ちなみに俺の階級は、上から、S,A,B,C,D,Eの内の、Aクラスだ。おかげで俺の手元には大人のダークな事情が絡まった依頼書が送られてくる。
 しかし、今回の依頼はいつもより少しソフトだ。依頼人は高校二年生。
依頼内容は以前、同級生にカツアゲされた恨みを晴らしてくれというもの。
具体的には、そいつらをボコして、代わりに金を巻き上げろ。
報酬は巻き上げた金の3割。
俺にとっては簡単な仕事だ。

「その必要はない。 奴らはこの辺を徘徊して、ちょうど十二時にこの公園で、巻き上げた金を集計する。 奴らはグループに分かれて行動するため、全員がそろう時はその時しかない」

依頼人が答える。心なしか顔色が悪くなっているのは俺の気のせいか?

「いっ・・・き、来たぞ!」

依頼人がますます顔色を悪くしながら俺に囁く。

「あいつらか・・・。それじゃあ、あんたはその辺に隠れてろ」

俺は依頼人が体勢を低くして隠れ場所を探すのを眺めた。
他力本願というか・・・もっとも依頼人はほとんどがそうなんだが、俺はあんまり好きになれない。
噂のカツアゲ同級生が公園に肩を揺らしながら入ってきた。
俺は彼らの方へ歩み寄る。

「あんたらが噂のカツアゲ魔人か?」

カツアゲ魔人。我ながら言いえて妙なり。

「あん?カツアゲ魔人?誰だ、んな噂流したのはよぉ?」

いかにも不良らしい口調だ。
俺はニヤリと笑うとこう言った。

「カツアゲされたあんたらの同級生、○○さん(依頼人の名前)から聞いた噂だよ。 だけどその口調からして、事実みたいだな」

俺は背後の茂みで依頼人の顔が死んだように青くなっていくのを想像して笑った。
要は依頼内容を完璧にこなせばよいのだ。
報酬をもらった後、依頼人がどうなろうと知ったこっちゃない。

「○○か(依頼人の名前ナリ)・・・。一度だけじゃ物足りないみてぇだな」

俺は背後で依頼人の顔が凍死したように青くなっている様を想像しながら、噴出したいのを必死でこらえた。

「んで?俺らに何の用だぁ?」

やっと本題に入った。
俺は目の前の十人のカツアゲ魔人を見上げた。

「その○○さん(くどいようだが依頼人の名前)からの依頼でね。あんたらをボコして金を巻き上げてほしいって」

カツアゲ魔人ズのこめかみがピクリと動いた。
カツアゲ魔人ズ、戦闘モードだ。
ちなみに、依頼人の名前を出すのは、○○に限らず、全ての依頼人の時もやってきたこと。
いわば俺のポリシーだ。
人に復讐させておいて、自分は傍観しているのはズルイ。
本当に復讐したいなら、自分も何かリスクを負え。
金ではない、何かでな。
それが俺に復讐させるときの条件だ。

「そんなわけだ。 ちょいと遊んでもらうぜ。 最近デスクワーク的な依頼ばっかで体がなまってるんだ」

俺はそう言いながらカツアゲ魔人ズの顔色を窺った。
どんどん赤くなっていく。
体温も急上昇中だ。多分。

「てめぇ・・・さっきから依頼だ何だって、わけわかんねぇことほざいてんじゃねぇぞ!俺らから金を巻き上げるだぁ?やってみやがれ!」

まぁ、一般人に理解できないのは当然だな。
俺は気にせずに言い返す。

「そっちこそ。ベラベラ喋ってないでかかってきなよ」

この言葉でカツアゲ魔人ズはぶち切れたようだ。一斉に襲い掛かってくる。
だが、俺は二年前の俺とは違う。
リヴェンジャーで戦闘訓練も積んだし、体力もついた。
俺は隙だらけのカツアゲ魔人ズの一人の腹に回し蹴りを喰らわせた。

「うっ!」

カツアゲ魔人ズの一人はうめき声を上げた。
なんだ、大したことねぇな。
「・・・んのクソガキ!!」

俺は繰り出された拳をひょいとかわす。
ガードのとけた腹にすかさずパンチを食らわす。

「ガキっていってもあんたらとたった2歳の差だよ。 ガキなんていわれる覚えはないね」

俺は冷ややかに言う。なんか飽きてきたな。そろそろ終わりにするか。
そう思い、俺は懐から黒い物体を取り出した。そう、銃だ。その途端、カツアゲ魔人ズの動きがピタリと止まった。

「これがなんだかわかるか?」

俺はニヤリと笑いながら尋ねる。

「ま、まさか本物か?」

俺は無言で頷く。

「さて、おとなしく金を全て渡すならいい。 けど、抵抗したら、撃つ」

カツアゲ魔人ズは顔を見合わせた。

「グズグズすんな!早く決めろ。5秒前ぇ〜」

俺は右手を広げ、親指を折った。。

「4、3」

俺は右手の人差し指と中指を折り曲げた。

「わ、わかった!」

カツアゲ魔人ズは財布から各々金を取り出すと、俺の足元に投げた。
俺はそれを確認すると、満足気に言った。

「どうもありがとう。んじゃ、ちょっくら眠ってて」

俺は引き金を引いた。



第2章 報告



数秒後、俺の目の前にカツアゲ魔人ズの面々が倒れていた。無傷で。

「リヴェンジャー特製麻酔銃『トゥ・ザ・ドリーム』。こんな巨漢でも当てれば数秒で夢の中だ」

俺はトゥ・ザ・ドリームを人差し指でクルクルと回した。麻酔銃の名前については突っ込まないでくれるとありがたい。

「もう出てきてもいいぜ、依頼人」

俺は目の前の財布を手に取り、中の札束を数えながら呼びかけた。え〜と。千、二千、三千……おお、結構あるな、30万だ。さすがカツアゲ魔人ズ。これで俺への報酬も結構な金額になるぞ。俺はそう思い、ニヤリと笑った。

「…………」

依頼人は無言で目の前の数個の財布と倒れているカツアゲ魔人ズを見つめた。依頼人はまだ顔を青ざめている。そんな彼を安心させるため、俺は明るい声で言った。

「 そんなシケた顔すんなよ。依頼通り、あんたの復讐は果たした。それに心配しなくてもこいつらは少なくとも二,三時間は起きねえよ」

依頼人は青ざめたまま俺を見つめた。しかし、

「 どうして、僕の名前を出した!? 復讐は君が全部請け負ってくれるんじゃなかったのか!?」

依頼人は先程とは対照的に顔を真っ赤にして叫んだ。おそらく、カツアゲ魔人ズの復讐を恐れているのだろう。俺は後頭部を掻きながら言った。

「虫が良すぎるんだよ。自分では何の努力もしないで他人の力で復讐を成し遂げようとするなんてさ」

「バカ言うな! 君たちはそのための組織だろう!? 」

「まぁ、確かに俺らは依頼人の代わりに復讐を行う組織だ。けど俺らも探偵なんかと同じように仕事を選べるんだ。本当なら俺だってこんな依頼やりたくねえんだ。 別にあんたの依頼を断った所で、組織の評判は絶対に落ちない。……この荒んだ世の中だ。 こういう類の仕事は宣伝なんかしなくても客の方からやってくるんだ。……依頼を受けてやっただけ、ありがたいと思え」

俺は平然と言い返す。依頼人は相変わらず真っ赤な顔をして俺を睨みつけている。先程のカツアゲ魔人ズの顔とどっちが赤いか悩む所だ。俺はその視線をたじろぎもせず、受け止めていた。しばし、嫌な沈黙が公園内に流れる。

「……チッ!」

依頼人は俺から視線を外すと財布の山の方へ向かった。地面を踏み鳴らしながら財布の一つに手をかける。

「こんな事態になったんだ。報酬金はナシだ!」

依頼人は全ての財布を両手で抱え込み、俺に捨て台詞を吐いて去ろうとした。しかし、そんなことを「はい、そうですか」と認める俺ではない。こっちも給料がかかってるからな。

「ぐわっ!」

依頼人は突然、声を上げて、倒れこむ。俺の撃った麻酔銃の弾がヒットしたのだ。

「この麻酔銃はトゥ・ザ・ドリームより効力が弱いんだが、あえて使わせてもらった。夢の世界へ入る前にあんたに忠告しなきゃならないことがあってね」

俺は依頼人を見下ろしながら言った。依頼人は睡魔に耐えながらも俺を睨む。

「リヴェンジャーの依頼人として絶対にやってはならないこと。 それは報奨金を払わないことだ。 あんたは巻き上げた金の三割を俺によこすと言ったよな? その証拠に契約書にも書いてある」

俺は懐から上質の紙を取り出した。そこには依頼内容と報奨金について明確に記してあった。

「チッ!」

依頼人は悔しそうに舌打ちした。彼は歯をくいしばっている。多分、なんとか起き上がろうとしているのだが、体が全く動かないのだろう。

「まぁ、いい。僕は金輪際、あんたらに世話になることはない」

「それはどうかな。 実際あんたは俺達に頼らざるを得なくなるよ」

依頼人の最後の意地を俺はあっさり否定した。まぁ、事実なんだからしょうがない。いずれわかるさ。

「ああ、それと、あんたをリヴェンジャー依頼人のブラックリストの一人として上に報告しておくから。 これからあんたが払う報奨金は五倍近くまで跳ね上がる……」

「金輪際依頼はしないと言っているだろう!」

俺の言葉を遮って依頼人が半ばヤケになって叫ぶ。こちらをギン、と睨みつける依頼人。俺はため息をついてこう言った。

「はぁ〜。さっきから大声でうるさいなぁ。近所迷惑だぞ。俺もこれ以上議論続ける気はさらさらないから。 そろそろ眠ってくれる?」

俺はそう言ってトゥ・ザ・ドリームの引き金を引いた。依頼人のまぶたが閉じ、うるさい口も閉じた。俺は懐から携帯電話を取り出し、本部へかけた。

トゥルルル……
トウルルル……

なかなか出ない。さては受付の姫宮嬢め。また寝ているな。俺は舌打ちしながらも応答を待った。

トウルルル……ガチャッ

『は、はい! こちらリヴェンジャー本部。な、名前とパスワードをどうぞ!』

案の定寝ていたな、姫宮嬢。俺は彼女の緊張気味の声を聞き、苦笑しながら名前とパスワードを言った。

「こちらクラスA、春風洋介。パスワード……SpringWind」

しばしの沈黙の後、姫宮の声が聞こえた。さっきとは打って変わって緊張気味の声から親しい者と話すような軽い口調になった。

『なんだ、洋介さんじゃないですか! もう任務は終わったんですか?』

「ああ、今さっきな。それより、秋山に伝えておいてほしいことがあるんだが」

『リーダーならついさっきトイレへ行かれましたが、待ちますか?』

「いや、たとえあんたの傍らにいても替わらないでくれ。とにかく用件を言うぞ。『六月十四日、午後十一時四十三分、依頼人ナンバー100023、高校生田中雅夫の依頼完了。しかし、彼が報奨金を払わずに逃げようとしたため、警告の後、トゥ・ザ・ドリームで撃ち、未だ睡眠中。よって彼をブラックリストレベル1の処分にすることを提案。』以上だ」

『了解。伝えておきます』

俺は姫宮に依頼完了と田中雅夫の件について報告した。秋山と話す羽目になるのは避けたいので、俺は電話を切ろうとした。

「じゃあ、切るぞ」

『あっ! 待ってください。今夜もみんなで慰労会しましょうよ!』

俺が携帯の電源を切ろうと指を伸ばしたそのコンマ数秒の間に姫宮は早口で言った。さすがは受付係。その辺は得意分野のようだ。もっとも彼女も俺と同じAクラスなのだが。彼女はここ数日、人数の関係で受付係をやらされていた。もっとも姫宮は喜んでいたが。俺も受付係になれたら、小躍りするだろう。リヴェンジャーは階級によって給料が変わるため、できるなら楽な仕事をしたいというのが俺らの本音だ。
 ちなみに慰労会とは、俺らAクラスのメンバーでほぼ毎日行われていることで、お気に入りの店で皆で宴会をするものである。俺らの日給は多い時は十万近く。実際今日の俺の給料は、田中雅夫が契約違反をしたため、巻き上げた金は全部、リヴェンジャーのものになる。俺はその内の五割を得ることができるのだ。つまり、15万。そのため、毎日宴会をしても全然平気なのだ。世間ではこういうのを金持ちの道楽と言うのか。

「悪いな。今日はそんな気分じゃないんでな。また今度行かせてもらうよ」

俺は彼女の誘いをあっさり断る。

『相変わらずキザですねぇ。それはそれで別にいいですけど、付き合い悪いと上にも嫌われますよ』

携帯電話ごしに姫宮の少しスネた声が聞こえる。

「別に好かれなくてもいい」

俺はそれだけ返した。彼女をからかっているのではなく、本心だ。とりあえずリヴェンジャーの面々とはそれなりの付き合いをしているが、実際、完全には信用していない。いや、過去の経験からどうしても信用できないのだ。信じれば裏切られる。だから、信じなければ裏切られない。あの日を境に、俺はそう割り切って考えることにした。おかげでふっきれたというか、随分気持ちが楽になった。

『あいっかわらずかわいくないですねぇ。陽さんも理奈さんも来ないって言ってましたし……。今日はみんなノリが悪いですよ!!』

彼女の怒ったような声が電話ごしに聞こえてくる。怒っているつもりなのだろうが、何故か笑える。まぁ、そこが彼女らしいと言うかなんというか……。

「じゃあ、そんなわけだから切るぞ。まだ飯、食ってねぇんだ。明日はたぶん慰労会に出れると思う。じゃあ、おやすみ」

『おやすみなさい。私はまだ、当分寝れませんけどね』

彼女は恨めしそうな声で言った。リヴェンジャーの任務は二十四時間無休で行われる。だから、俺が任務を終えて帰路につこうとしているこの時、Sクラスや同じAクラスの面々がダークな仕事に就いているかもしれない。彼女は彼らからの依頼報告を受け付けるため、今夜は徹夜になりそうだ。受付と言っても全く楽な仕事というわけではない。

 「そう言うな。どうせまた電話がかかってくるまで寝るつもりなんだろう?」

『初めから寝ようと思って寝たわけじゃありません!! 頑張って起きてようと思ってましたけどつい、睡魔に……』

「あんたがどう思っていようと関係ない。 結果的にあんたは寝てしまったんだし、これからまた、寝てしまうだろう?」

俺はズバリと言う。仕事において、そいつがどう思っていたかなど関係ない。要は結果だ。結果を出せないのなら、やらなかったことと同じだ。それは俺自身の意思も含んでいた。たとえ、俺を虐げた奴らがあれやこれやと言い訳をしても、奴らが俺を虐げた結果に変わりはない。だから、俺はその仕打ちの代償に奴らにもそれなりの仕打ちをさせてもらう。何を言われようとな。

『ぐ…』

姫宮は言い返せなかった。これまで口論において、彼女に負けたことはない。…そう、口論においては。

「…じゃあな」

俺はそう言うと返答も待たずに電源を切った。しばし、携帯電話を見つめる。しかし、携帯電話のことを考えているのではない。先程の姫宮との会話のことを考えているのでもない。
 俺は携帯電話のデジタル時計を見ていた。十一時四十六分。今日という日が終わるまで後十四分だ。六月十四日。それは俺がリヴェンジャーに入った日。そして、俺が復讐を決意した日であった。




第3章 最憎の依頼人

「う〜ん……」

気がつくと俺は布団の中にいた。あれからいつ家に帰ったのか。どんな道で帰ってきたのか。全く覚えていない。ちなみに俺はアパートに一人暮らし。このアパートは2階建ての1DK、錆びたボロアパートで、まさに貧乏人が住むような場所。家賃は月三千円と信じられないほどに格安。まさに学生たちの天国とも言える。しかし、これほど安いと心霊現象やら何やら曰くつきな気がする。
 俺は寝ぼけ眼で都合よく目の前に置いてある目覚まし時計を見た。六時五十分。

「もう一眠りするか」

春風秘技、二度寝。これが一度やると癖になる。どんなに遅く寝ても、これさえやれば、寝不足からくる、頭痛、吐き気などを防げるのだ。多分。
それから10分ほど経ったろうか。俺が夢の世界をさまよっているとき、

ドガガガガ!

突如、俺は鼓膜が破れるほどの騒音で目を覚ました。

「うるせえ!またか!」

俺は誰に怒鳴るともなく、怒鳴る。毎朝ながらなんとも嫌な目覚め方だ。俺は殺気立ちながら、カーテンを開け、騒音の発生源をギリ、と睨んだ。
 それは向かい側に立つ予定の高級マンションの工事だった。筋肉質の男達が慌しく動いている。現時点、三ヶ月で半分ほど出来ている。つまり、後三ヶ月、毎朝この騒音を聞くことになる。この騒音だと、幽霊もどこかへ行ってしまうだろう。無論、居ればだが。
俺はさっさとこの騒音から逃れることにした。布団を畳みもせずに、鍵をかけ、部屋を出る。
外に出たので、先程よりも騒音がひどくなった。俺はトゥ・ザ・ドリームで工事員を全員眠らせたいという、妙な衝動に駆られた。
俺は騒音を少しでも和らげようと耳を手で押さえながら、一階に止めてある自転車の元へ走った。俺の自転車はリヴェンジャー特製品。そこらの自転車とは性能が段違いだ。
俺は滑らかなハンドルを握り、ペダルに足をかけ、全速力でこぐ。朝特有のすがすがしい風が顔を打つ。

「はぁ……。毎朝こんな騒音を聞いてると耳がおかしくなりそうだぜ……」

俺はそう呟く。今後の対策として、MDウォークマンでも買っておこうか。ぼんやり思いながら、俺はリヴェンジャー本部へと自転車を走らせた。

           *******

リヴェンジャー本部ビル。それはかなり高いビルだ。仕事上、表には出れないはずの組織なのだが、それはそこらのビルと比べてずば抜けて高いビルだ。一流企業のビルだと言っても通用するだろう。俺はこのビルを見上げるたびに全く謎めいた組織だと思う。
それはともかく、俺は整備された駐輪場に自転車を止めると、ガラス製の自動ドアを通り、一階のロビーへ入った。そこでは雑用全般のEクラスがせわしなく動いていた。
俺はその数人に「よぉ」と挨拶をしながら受付へ向かう。

「あ! 洋介さん、おはようございます!」

受付に居たのはあの姫宮嬢だった。俺は内心ため息をつきながらも挨拶を返す。実を言うと俺はどうも彼女が苦手だ。それにしても朝からなんてハイテンションなのだろう。

「ああ、おはよう。ところであんた、今日もまた受付係か?」

「違いますよ! 今日の担当者がまだ来ていないんで、来るまで私が引き続き受付係です」

「そうか……」

俺は今、遅刻した次の担当者をトゥ・ザ・ドリームで……。ん? 最近俺は催眠衝動に駆られているような気がするぞ。気をつけねば……。

「それより、ちょうど良かったです。秋山リーダーが誰かAクラスのメンバーはいないかって。任務ですって」

「そうか。今回もソフトな依頼がいいな……」

俺はそう言い、欠伸をする。そして今回の依頼も依頼人が契約違反をしてくれることを願った。

「そんな都合のいいことあるわけないですよ」

「違えば断るのみだ」

俺はそう言い放ち、エレベーターへと向かった。背後では姫宮嬢が憎たらしそうな目で睨んでいた。
俺はエレベーターに乗り込み、二十五個もあるボタン―つまりこのビルは二十五階建てなのだ―を眺める。そして二十五階のボタンを人差し指で軽く押す。

「全く……朝っぱらから任務とは……」

本当なら俺はここで朝食を取る予定だったのだ。リヴェンジャー本部ビルにはカフェテリア等も用意してある。また、メシ抜きの任務になりそうだ。だがそれはつらいので任務の途中で何か買おうか。
俺はため息をつくと、エレベーター内の壁に寄りかかる。しかし、たいした考え事もできずに、エレベーターは二十五階、秋山の聖域に着いた。
エレベーターを降りた俺は秋山の部屋―事実、社長室だが―の前に来た。扉は頑丈な鉄でできており、その横にはカードの挿入口のようなものがある。

「なんでいちいちこんな面倒なもの造るかなぁ」

ぶつぶつ言いながら俺はリヴェンジャー証明カードを差し込んだ。続いて、その下にある、アルファベット二十六字がそれぞれ刻まれた二十六個のボタンにパスワード「Spring wind」を入力する。鉄の扉が横にスライドする。これでようやく中へ入れる。全くくだらないものを造ったものだ。二十五階にわざわざ侵入する輩はいないだろうに。それに秋山にかかれば並みの男二十人をかすり傷一つなく倒すことが出来る。こんな防犯装置は意味がないだろうに。

「失礼します」

俺はそう言うと社長室へと足を踏み入れた。社長室では若い男が背もたれ椅子に腰掛け、窓の景色を見ていた。彼がリヴェンジャーリーダー(社長)秋山浩二だ。
秋山は俺の気配に気付いたのか、椅子を半回転させ、俺に向き合った。

「やぁ、春風。まさか、君がこんな時間帯にいるとは思ってもみなかったよ」

秋山はわざとらしいまでの微笑みを浮かべてこちらに一瞥をくれた。

「おはようございます、秋山リーダー。アナタこそ、毎日こんな朝っぱらから窓の外の景色を見ているんですね。さぞヒマでしょう?」

俺は取って付けたような笑みを浮かべて言う。

「いや、そうでもないさ。私は毎時間、ここから『二十五階から見下ろす町の景色』を見ている。こんな上空から他人を見下ろすというのはなかなか気持ちの良いものだよ、春風」

俺は秋山の嫌みったらしい台詞の一つ一つに腹が立った。なんというか、人を小バカにしたような……。

「それより、リーダー。今回の依頼は何です?」

俺は早速本題に入る。一刻も早く、ここから去りたかった。

「依頼内容は他校の生徒に喧嘩を売って負けてしまった屈辱を晴らしてしてほしいというもの。報奨金は五万五千円」

「ありきたりですね」

俺はため息をつきながらも内心喜ぶ。連続でこんな簡単な依頼が来るとは。最近は何やらついている。

「依頼人は?」

別に聞く必要も無いが、とりあえず聞いてみる。

「依頼人か? それは……」

秋山の次の言葉を聞いた俺は、胸が熱くなるのを感じた。

「中学三年生大山豊」

大山豊。二年前、俺を虐げた人物の一人だ。あの時の憎しみがさらに鮮烈に脳裏に浮かぶ。

「どうした?」

俺の様子に気付いたのか、秋山が尋ねる。

「なんでもありませんよ。それより待ち合わせ時間は?」

俺はかろうじてそう答える。それでも全身が震えるのを抑えられなかった。

「午前八時だ。早速向かってくれ」

俺は秋山の言葉に無言で頷くと、部屋を出ようとした。だが、秋山に呼び止められた。それも秋山にしては真剣な物言いだった。

「待て、春風。一つ忠告しておく。お前と依頼人がどういう関係かは知らないが、依頼を終えるまで手を出すことは許さん」

つまり、依頼が終わればどうしようとも構わないということ。俺は「はい」とだけ答えた。

「呼び止めて悪かったな。さぁ、行きたまえ」

俺は秋山の言葉を背に、部屋を出る。その時の俺は自分でもわかるほどに全身を震わせていた。それでも依頼を断らなかったのは心のどこかで喜んでいたのかもしれない。復讐のチャンスがめぐってきたと。




第4章フラッシュバック


俺は秋山の部屋を出た後、真っ直ぐに11階の倉庫へ向かった。倉庫の中は、学校の倉庫などとは違い、埃はひとかけらも見当たらない、清潔な倉庫だった。実際俺の部屋よりきれいかもしれない。さらに倉庫というと薄暗いというイメージが思い浮かぶが、ここの倉庫はスポットライトを浴びているかのように電灯が眩しい。中には麻酔銃はもちろん、ロケットランチャーやショットガン、誰が使うやも知れない日本刀などが多々展示、いや、保管してある。よくもまぁ、これだけ集めたものだ。なんて銃刀法違反な組織だろう。
俺はその中の一つを手に取る。リヴェンジャー特製実銃KR-00だ。俺は懐からサイレンサーを取り出し、装着する。さらにKR-00専用の銃弾を入れる。準備完了。

「さぁて。行くとするか」

俺は倉庫の出口へ向かった。しかし、そこで思わぬ人物に出会ってしまった。

「笹倉さん……」

俺はその人物の名を呼んだ。名を呼ばれて微笑むのは若い男性。さっぱりとした短髪に、真四角の眼鏡、顔もなかなか恵まれている。気のよさそうな好青年に見える。本名笹倉影雄さんは、俺より階級が一つ上のSクラス。しかも副社長というポジションで頼りなく(俺視点)、自分勝手(俺視点)な冷血漢(俺視点)の秋山をサポートする有能な人物である。年の頃は秋山と同じくらいか。
この人は俺や他のメンバーの誰に対しても優しく接してくれ、悩み等も聞いてくれる、リヴェンジャー社内ランキング「頼りになる人」「優しい人」「いい父親になりそうな人」「かっこいい人」「頭が良さそうな人」その他諸々で堂々の一位を獲得しているまさにMan of perfect(訳:完璧の男。しかし、我ながら何故英語? )だ。
ちなみに俺は、「無愛想な人」「暗い人」「身勝手な男」「嫉妬深い男(何故!? )」「頼りにならない男」の最低五部門で秋山と一位争いをしている。こんちくしょう……。 何故俺が……。

「どうしたんだい?そんな暗い顔をして。何かあったのかい?」

笹倉さんが穏やかに聞く。俺は彼に話を聞いてもらうことにした。

「実は……」

俺は事情を語った。その間、笹倉さんは微笑みながら聞いてくれた。その辺は面倒なんで省略。事情については前章に書かれているはずだからそこをご覧あれ。

「そうか……辛いだろうがくれぐれも早まったマネはしないようにな」

笹倉さんは哀れむように言った。俺は頷いて見せた。

「じゃあ、これから仕事なんで……。では」

「じゃあな。そのKR-00が使われないことを祈っている」

やはり気付いていたか。なんとなく持ってみたかっただけだったんだがな。俺は苦笑いしながらリヴェンジャー倉庫を後にした。

********

六月十五日日曜日、午前八時。俺は早速待ち合わせ場所―石波公園―に行った。石波公園は東京湾に面しており、公園内には緑が多く見られた。今話題のデートスポットらしく、午後は数組のカップル達が各々の時間を楽しんでいる。俺はベンチに腰掛けた。そして石山洋介だとバレぬように似合いもしないサングラスをかけ、依頼人−大山昇−を待った。
しばし空を眺めていると、足音がした。顔を下げると大柄で筋肉質な男がこちらに歩いてくる。来た。大山昇だ。二年前と大して変わらない。俺は立ち上がり、彼に声をかけた。

「あんたが依頼人か?」

「ああ。俺が大山昇だ。今日はよろしく頼むぜ」

やはり俺だとは気付いていないようだ。俺は慣れないサングラスを指で上げながらこう言った。

「この依頼成功率100%の春風に任せておけ。あんたのリベンジ、果たしてやるよ」

「そりゃあ、頼もしいぜ。こっちだ」

大山はそう言って俺を誘導した。本当にサングラス一つで別人と思えてしまうのか。それともただ単に大山が鈍感なのか。俺は九割方後者のほうだと推測する。
大山は少し離れた―とは言え公園内だが―で立ち止まった。俺はしばし硬直した。何故ならそこには「私は不良です」と体全体で宣言しているような、典型的な不良が五十人ほどたむろっていた。もしかしたらハメられたんじゃないだろうな。俺はそんな予感がして、サングラスの中で大山を睨んだ。

「よぉ……懲りねえなぁ、大山ぁ」

不良の一人が大山に言う。大山はそいつをギンと睨む。おいおいまさか大山、一人でこの人数にケンカ売ったんじゃあるまいな。

「この前のようにはいかねえからな」

大山が言い返す。不良五十人ほどが一斉に大山を睨む。戦闘モードに入ったな。

「いい度胸じゃねえか。」

リーダー格らしき不良が睨む。なんて妙な光景だろうか。日曜日の朝早く、公園で、睨み合う五十人の不良と大山、そして傍観する俺。

「今日こそは負けねえ!」

大山は突進していった。この場合俺も突っ込まなければならんだろう。しかし、奴がやられるのを見るのも面白い。そして奴がやられた後、俺が五十人の不良を軽く倒す。その後、報奨金をもらい、大山をさらにボコす。あの日の本格的な復讐までにちょっとくらいやったていいだろう? 俺。俺は自問自答する。しかし、我ながら実に陰険。「暗い人」ランキング一位の座は確実だ。ざまあみろ、秋山。……嬉しくないが。
リーダー格は拳を振り上げた。やれ! 殴れ!しかし、だ。

「なんだオメェはぁ? 大山の仲間かぁ?」

リーダー格が振り上げた拳を止め、今度は俺を睨む。ああ、そうだ。仲間だったよ。昔はな。結構仲は良かったんだ。それをあの日、いきなり人殺し呼ばわり。その後リンチ。殺したいほど憎んでいるさ。俺が無意識にKR-00を持ってきたのは、その憎しみが働いたのかもしれない。

「そうだ! こいつは俺の仲間だ。俺ら二人、最強コンビにかかればお前らなんぞ屁でもないぜ」

俺が言う前に大山が言った。最強コンビ。親友だと思っていた黒澤の事を思い出す。俺達はサッカー部で「最強コンビ」として名を馳せていたんだ。俺は奴を本気で信頼していた。奴の笑顔は作り物じゃない。そう信じていた。しかし、違った。結局奴は俺のことを嫌っていたんだ。俺には友達なんて一人もいなかったんだ。信じていた分、裏切られた時のショックは大きかった。

「なら二人まとめてやってやらぁ!」

リーダー格のその言葉を合図に五十人が一斉に襲い掛かる。適当に避けながら、大山がやられるところを見る。それを十分堪能した後、不良共をぶちのめす。そう思っていたが俺は突如奇妙な感覚に襲われた。
罵声を浴びせ、襲い掛かる男子生徒達。殴られた時の痛み。屈辱。絶望。憎悪。幼馴染の裏切り。蔑みの視線を浴びせる社会科教師。
襲い掛かる不良たちを見て二年前、あの日のことが突如、いつになく鮮烈に脳裏に浮かぶ。気がつくと俺はナイフを握り締め、不良達に突進していった。体が勝手に動く。俺はどうしたんだ? いきなり目の前にあの日の教室が現れた。俺はナイフを片手に裏切った者全てを切り裂いていった。深く、憎しみを込めて。なんだ、俺は何をやっている? 生温かい液体が俺の腕にかかる。血だ。俺が切り裂いた奴らの血だ。血とはこんなに温かいものだったのか。俺は腕の血を舐める。実にいい気分だ。俺はこれを望んでいた。裏切った相手を傷つけることを。

「……風! 春風!!」

大山の声。俺はハッと我に返った。気がつくと俺は血まみれのナイフを手に、血まみれで倒れている不良達を見下ろしていた。慌てて様態を確認する。良かった。生きている。
俺は目の前に倒れているのが大山だと気が付く。大山は腕から血を流していた。不良同様大したケガではない。

「お前……強いな」

大山が起き上がりながら言う。俺は大山を見つめる。

「でも加減をつけられないのが弱点だな」

大山は右腕を押さえながら言う。俺はKR-00をポケットから取り出し、銃口を向けた。大山は硬直した。俺はこう言った。

「これは本物の銃だ。エアガンとは違うぜ」

俺はニヤと笑う。大山は青い顔でこちらを見る。そうだ。お前らが裏切らなければ……。そしてこいつを殺せば、思い出と共にこいつへの憎しみも無くなる。
しばし沈黙が流れる。俺は大山の青い顔を見ながら銃口を下ろす。

「なんてな。冗談だ」

大山はため息をつく。まだ顔が青い。そしてこう言った。

「すごい迫力だったぜ。映画にでも出たらどうだ?」

「悪くないな。それより報奨金だ」

大山は財布を取り出し、それごと渡した。俺は片手で受け取る。

「それじゃあ、これで依頼終了だな。俺は飯食ってないんで、早く帰らせてもらうぜ」

「ああ。今日はありがとな!」

大山が礼を言う。俺は踵を返し、血まみれの不良がいる広場を後にした。
冗談ではなかった。俺は本気で奴を殺したいと思った。それほど奴らを信じていたから。友達だと思っていたから。大山だけじゃなく、俺はクラス全員を信頼していた。その分憎しみも深い。決行日は三月十二日。俺の中学校の卒業式だ。

************

洋介が去るのを見送り、さらに不良達が逃げていった後、大山一人が残されていた。誰かを待っているようだ。もう二十分ほど待っている。

「大山君」

大山は名前を呼ばれ、振り返った。どうやら来たようだ。声の主は大山と同じ年頃の少女だった。そしてその傍らに同じく少年が立っていた。

「遅かったじゃねえか、佐藤。黒澤。どうせそこら辺の草陰で見てたんだろう? もっと早く出て来いよ」

大山が文句を言う。見た目通り、彼は短気だった。少女が青ざめた顔で答える。さらに体中を震わせている。

「だって洋介があんな事するなんて……」

「言うな。俺達が原因だろう」

そう言ったのは黒澤と呼ばれた少年だ。黒澤は続ける。

「本当はすぐに出て行こうと思ったんだけどよ。佐藤が卒倒しちまって……」

大山は呆れた顔をしなかった。それも無理なかったからだ。

 「洋介があんなになっちまったのは俺達のせいだ。あいつ、暴れながら俺達の名前を叫んでただろう?」

本人は気付かなかったが確かにそうだった。不良達をナイフで切り裂きながら洋介は三人の名前を叫んでいた。

「そうよ。私達のせいよね」

佐藤が相槌を打つ。彼女の瞳に涙が流れる。

「そうだな。俺達があの時……あいつの口車に乗せられなければ……」

「責任転嫁なことを言うな。俺達は自ら進んでやったんだ」

大山を責めるように黒澤が言う。大山は「すまん」と謝る。

「次は私がやろうか? そして、洋介を説得してみる」

「やめろ。殺されるぞ。特にお前は……」

黒澤が即座に止める。その瞬間突如空が曇り、ぽつぽつと雨が降り出した。
佐藤は雨に打たれながら言う。

「でもこれ以上、私は洋介のあんな姿見たくない!」

黒澤は彼女を見つめながら考えた。夏慮の末、こう言った。

「わかった。お前に任せよう。だけどばれない様にしなきゃな。変装していくといいだろう」

しかし、洋介のような変装では一発でばれるだろう。その辺は慎重にすべきだ。

「うん……」

佐藤はそう答えた。涙を流してはいたが、その瞳からは確固たる決意が読み取れた。
三人は後悔していた。あの日、ささいな理由で彼を裏切ってしまった事に。だからこそ、週に何回か三人で集まって会議を開いているのだ。クラスの人達にも呼びかけている。

「絶対、あいつと元の仲に戻ろうな」

三人はそう誓うとそれぞれ別れた。そんな彼らの気持ちを洋介は何も知らない。彼は雨に打たれながら、強烈な殺意に身を震わせていた。





第5章 夏期休暇 特別任務

「暑いな」

俺は思わずそう言っていた。現在七月二十一日午後一時。大山との一件以来、俺の元には簡単な、たまにダークな依頼が転がり込んでくる。ああ、あれから暴走したりしたことはないから安心してくれ。
言うまでもなく今は夏。七月二十日から、リヴェンジャーの十六歳以下は休暇に入る。ああ、この束の間の休暇が味わえるのも来年で最後か……。そんな風にたそがれ中。こんなんだから「暗い人」ランキング一位、または二位にはいってしまうのか……。気をつけねば……。
しかし、俺の部屋にはクーラーなどないので、リヴェンジャー本部ビルのクーラーで涼んでいた方がいいかもしれない。金があるんだからクーラーを買えばいいって? フン、甘いな。日頃の慰労会等でほとんど金を使ってしまったわけよ。そのため俺はこの上ない貧乏ライフを送っているわけさ。休暇なんで給料も入らんしね。しかし、学校のように宿題がないので暇だ。俺はそう思いながら周りを見渡す。
一人の少年が寝転がっているのが目に入った。純度86%(半端だ)の金髪にグレーの瞳。そしてかなりスタイルも顔もいい俺と同い年くらいの少年。こいつは俺と同じリヴェンジャーAクラスの一人、秋風ヒカルだ。こいつは母親がイギリス人、父親が日本人のハーフってわけ。だから金髪なんだな。こいつは学校で金髪だというだけの理由で仲間外れにされ、いじめられた。なんでもクラスのガキ大将の親が外国人嫌いだったそうな。そんな中、両親が離婚。ヒカルは母親に引き取られた。しかし、母の再婚相手が超子供嫌い。そのため、今何かと話題になっている虐待が起こったわけだ。
それからの云々は俺と同じ。秋山と広川さんっていうSクラスの女性によってリヴェンジャーに勧誘された。俺は秋山がムカつくが、こいつは秋山を尊敬しているらしい。まぁ、あいつの強さには感心してやらなくもないが。
強さと言えば、こいつは銃に関してはホントすごい。週に何回か麻酔銃で決闘なんてしてるが(幼稚)一度も勝ったことがない。

「ヒカル」

俺はだるい声で話しかける。ヒカルもだるそうにこちらを見、答える。

「なんだい?」

「暇じゃないか?」

「そりゃ、休暇だから」

「なんか、こう面白いことないのか。暇殺されそうだ……」

「今頃リヴェンジャーの皆は忙殺状態になってるよ」

つまらぬ会話が続く。
俺は地面にうつぶせに倒れる。畳のざらついた感触が、顔の感覚器官を刺激する。外は静まり返っている。ここで疑問に感じた人もいるだろう。マンションの工事はどうなったのかと。答えは簡単。あまりにも工事の騒音がうるさいんで、全員トゥ・ザ・ドリームで眠らせたのだ。そういや、それを見た近所の住民が歓声を上げてたっけ。まぁ、その辺は共感するが、こんな少年が麻酔銃など持っていることに何の疑問も感じないのだろうか。突っ込みたかったが、敢えて、問題を提示することもあるまい。そう考えて、俺は口にしなかった。
話を現実に戻そう。ヒカルはあまりにも暇なので高級マンション(何故だっ!? )から俺のボロアパート(なぜだっ!? )に遊びに来ていた。しかし、二人ともやることがないのである。
そんな時だった。

ピンポーン

呼び鈴が鳴る。二人は顔を上げた。俺はのろのろと起き上がり、ドアを開けた。

「オッス!」

目の前で元気に挨拶をしたのは俺と同い年の少女。長くも短くもない微妙な髪型をしている。リヴェンジャーAクラスの一員、春川理奈だ。こいつはとにかく元気が良い。たまにそのハイテンション振りについていけなくなるくらいだ。こいつは両親を誰かに殺されたらしく、犯人はまだ捕まっていない。住むあてもないところを広川さんに拾われたそうだ。詳しい事情は知らないが最も付き合いが長い。ちょくちょく俺のアパートに遊びにくる。
まぁ、姫宮よりは付き合いやすい。ちなみに彼女は強い。なんか手近に持つ物があれば、それを利用して、プロレスラーでも倒せる。俺も勝ったことがない。ちなみに姫宮は体術が異常に強い。俺はというと、彼らには劣るが、全てにおいて強い。まぁ、バランスがいいってこと。

「よぉ、理奈。元気そうだな……」

俺は気のない声で挨拶をする。理奈をそんな俺を見てため息をつく。

「相変わらず暗いわねぇ。そんなんだからいつまで経っても『暗い人』ランキング一位争いから抜け出せないのよ」

「ほっとけ……」

俺は相変わらず気のない返事をする。ヒカルが理奈に気付く。

「やぁ、理奈。相変わらず元気そうだねぇ」

俺とほぼ同じ事を言う。さらに気のない言い方も同じだ。

「二人して元気ないわねぇ……。ヒカルも「暗い人」ランキングにランクインしちゃうかもよ?」

「こんだけ暇だとそういう気分にもなるさ……」

ヒカルは大欠伸をして答える。理奈は再度ため息をつくと靴を脱いで上がった。
それから十分後。俺達に理奈が加わり、先程の無気力状態に戻った。普段忙しいだけに休みになるととても退屈に感じるのだ。そしてその生活が慣れ始めたころに休暇が終わる。そうすると今度は慣れた仕事なのに死ぬほど忙しく思える。俺達はこれをリバウンドと呼んでいる。
そんな中。

ピンポーン

再び呼び鈴が鳴った。俺達は顔を上げ、顔を見合わせた。

「誰だ?」

「姫さんじゃないか?」

俺の質問にヒカルが答える。

「そうね。かなえも暇だって愚痴ってたし」

ちなみに姫宮のフルネームは姫宮かなえ。姫宮、姫さん、姫様、かなえなど、人によって様々な呼び名がある。それだけ、おもしろい名前なのだろう。
俺は気が進まなかったが起き上がり、ゆっくりと玄関へ向かった。居留守がばれると後で彼女のパンチが顔面を直撃するからだ。

ガチャリ

ドアが鈍い音を立てて開く。そこに居たのは姫宮ではなかった。

「こんにちは……」

俺と同い年くらいの少女。しかし、ふちのある帽子で顔が隠れている。いや、隠しているのだろうか。どっちにしろ今時見ないタイプの少女だ。俺は戸惑いながらも言った。

「あ〜。どちら様でしょうか?」

「奈々といいます。こちらに春風さんがいらっしゃると聞きましたので……」

「春風は俺だけど、何の用だ?」

俺は驚きのあまり、敬語を忘れてしまった。まぁ、いいか。年近そうだし。

「昔、幼馴染にもらったペンダントをガラの悪そうな人達に取られてしまったんです。取り返して欲しいんです」

俺達は少女の言葉に再度、顔を見合わせた。ん? ペンダント? 覚えがあるような……。気のせいか。
 
「あ〜。それはリヴェンジャーとして、復讐して欲しいってこと?」

俺はそう聞く。少女がコクと頷く。

「本当は本部ビルに行ったんですけど、忙しいらしくてなかなか相手にしてくれなくて。どうしようかと思ってたら、秋山って人が『そうだ。確か春風が休暇中だったな。どうせ暇を持て余しているだろうから、やらせようか』とおっしゃって。住所を教えてもらってここを訪ねてみたのです」

ほぉ……秋山殿、女子には随分お優しいようですな。さらに休暇中の俺に仕事を回すとはいい度胸してるじゃないですか。
しかしだ。

「成る程。わかった。引き受けるよ。どうせ暇だったしな……」

俺はそう答える。俺としてもこんな少女の頼みを冷たく断ることはできなかった。思春期だし(照)。

「ありがとうございます!!……やっぱり優しさはあの時のままだ……」

「ん?なんか言った?」

なんか呟いたような。

「いえ、なんでもありません」

少女が慌てて言う。まぁいいか。
傍らでヒカルが冷やかすように笑う。「少女には優しいなぁ」と顔で言っている。もう一つ。背後に殺気を感じた。おそらく位置的に理奈だと思うが、殺される理由がない。放置だ。
それから十分後。俺は奈々と名乗る少女、それにニヤニヤ笑うヒカルと気のせいか殺気立つ理奈と共に、彼女がペンダントを取られた神社に向かうのであった。

……今回はいい雰囲気で終わったな。次回もこのノリが続くといいと思う。

         ******

「ん?」

秋山の低い声が昼下がりの社長室に響く。近くにいる秘書らしき女性が尋ねる。彼女が広川綾香。Sクラスの一員だ。

「どうされました、社長?」

「誰かがメンバー個人情報が入ったパソコンをいじったらしい」

秋山が考えながら言った。メガネの奥で瞬きをする。ちなみに リヴェンジャー社長室にはいくつものパソコンがある。リヴェンジャーは大変大きな組織なので、それぞれの情報ごとにパソコンが用意されていた。

「何故、そう思われるんです?」

「マウスの埃がちょうど指で触ったように少し取れている。このパソコンは長いこと使ってなかったからな。埃がたまっていたはずだが」

真面目な顔で言う秋山に広川はため息混じりに言う。

「自室の掃除くらい、きちんとやってください」

しかし、秋山にはどこ吹く風。秋山は腕組みををして何か考えていた。

「監視カメラの映像を見てみよう。ビデオにとってあるはずだ。実際今もとられている」

秋山はそう言うと、四隅に取り付けられた監視カメラを指差す。広川は万全なセキュリティに感心する一方でこう言った。

「……四六時中、監視カメラに見られてるって居心地悪くありませんか?」

「そんなことはないぞ。この私のカックイイ姿を二十四時間納めることが出来……冗談だ。早速見てみよう」

広川に睨まれて、慌ててそう付け足す。そして一階下の監視ルームへ向かう。
二人は警備メンバーに事情を話すと、早速見せてもらった。
そこに映っていたのは、パソコンをいじる、一人の少女。

「誰でしょう? リヴェンジャーのメンバーとは思えませんが……」

広川は警備メンバーに言う。

「もっとはっきり見られないの?」

「わかりました。ズームインします」

少女の姿がはっきりと見える。しかし、これといった特徴はなく、あるとすればふちのついた帽子で顔を隠していることだけだった。

「一体この少女は?」

広川が呟く。

「もしかしたら―」

秋山が呟きに答える。

「春風関係かもしれないな」

「え?」

広川が聞き返す。

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

秋山は笑顔で言う。しかし、何やら春風の周囲に不穏な動きが見られていることは明らかだった。
しかし、当の本人は、何も知らず、軽い気持ちで神社に向かっていたのだった。


第6章 再会

広川は不審そうな目で秋山を見ていたが、やがて、

「では、私は任務があるので。失礼します」

と言い、彼に背を向けてドアに向かった。監視員が頭を下げ、「頑張ってください」と言う。
彼女は適当に答え、そのままドアを開けようとしたが、ノブを回したところで秋山に呼び止められた。

「待ちたまえ。綾香」

「名前で呼び捨てするのは謹んでいただけますか、社長」

広川は思い切り不機嫌な顔で振り返った。秋山は訂正する。

「わかった。じゃあ、広川。今回の依頼は?」

「依頼人は前田紀夫、35歳。内容は自分をリストラした上司に復讐してほしいというものです。なんでも前田は会社をクビになったせいで奥さんと離婚するハメになったようです。12歳と10歳の息子さん達は母方に引き取られたとか」

広川はどこからかB5用紙の書類を取り出し、読み上げた。秋山はため息をついて呟く。

「よくあることだな。で?復讐の方法は?」

「まだ決まっていませんが、武力行使になることは間違いなさそうです。場合によっては殺しの可能性も……」

「困ったな」

秋山がいつになく真剣な声で呟く。広川は首を傾げる。

「一体どういうことです?」

「最近、リヴェンジャーのBクラス以上の依頼での成功率が急激に低くなっている。初めは大して気にもしなかったが、ついに20パーセント以下にまで落ちてしまった。さすがに不思議に思い、関係者に話を聞いたところ、依頼遂行を邪魔している者達がいるらしい。それも相当大きな組織だ。武力も我々と同じ程度。もしかしたら先程の少女もそいつらと関係があるのかもしれないな」

秋山はモニターに映る少女をじっと見つめる。広川も彼にならい、モニターを見つめる。
やがて、鼻の頭に中指と人差し指を当て、考えながら言う。

「それにしても疑問があります。何故少女は証明カード及び、パスワードがなければ入れないはずの社長室に―」

「ああ、それなら簡単なことだ。私が食堂で昼食を取ろうと思い、部屋を出た時、ついうっかり扉を開けっぱなしにしてしまったんだ」

広川はものすごい形相で秋山を睨む。秋山はたまらず目をそらした。頬に冷や汗が流れる。

「私は忙しいんだ。それに人間だから、ついうっかり、ということもあるだろう。そ、それでだ。問題の組織のことだが、奴らは我々の活動を妨げることを目的としているようなんだ」

秋山は慌てて話をそらす。広川は睨んだまま聞く。

「それでその組織の名は?」

秋山は安堵のため息をついた。そして、顔を引き締まらせて言う。

「『プロテクター』」

      *********

俺はヒカル、理奈、そして依頼人奈々と共に、問題の神社に来ていた。この神社の鳥居までの階段が四百段ほどあり、ここまで息を切らしながら上がってきたのであった。
どうにか息切れがおさまった頃、ヒカルが奈々に聞く。

「とりあえず問題の場所に着いたけど、奴らはここに来るのかい?」

「ええ。いつもこの時間帯にここで騒いでいますから」

奈々が答える。しかし、俺はまだ彼女の話を思い出していた。幼馴染からもらったペンダント……どっかで聞いたような……。

「来ました!」

奈々が声をひそめて指で指す。俺達はその指の方向を見た。そこにはガラの悪そうな輩が12人、神社の階段を息切れしながら登っていた。年は俺達と大して変わらない。詰襟の黒い制服を着ている。

「んじゃ、とっとと終わらせるか」

俺は理奈とヒカルに呼びかける。二人はニッと笑い頷いた。

数10分後、俺達の目の前には不良生徒達が転がっていた。「覚えてろ!」と捨て台詞を吐くと
階段を駆け下りていった。予想していたことであったがつまらなかった。もっと骨のある輩はいないものか。
俺は右手を奈々に差し出す。その掌には銀に光る星型のペンダントがあった。

「ホラ、これだろ? あんたのペンダントは」

俺がそう言うと奈々は頷く。彼女は俺の掌にあるペンダントを両手で水でもすくうように手に取った。そしてペンダントに何か思い出があるのか、胸元で両手でぎゅっと握り締めた。そして俺の顔を見てこう言った。

「皆さん、本当にありがとうございました」

皆さんと言っているのに俺のほうだけをじっと見つめるのは何故だろうか。そんな俺の気持ちに気付いたのか、急に理奈とヒカルのほうを見、お辞儀をした。理奈が言う。

「それじゃあ、これで依頼は完了ね。さようなら、奈々さん」

「ハイ。本当にありがとうございました」

奈々はそう言い、再びお辞儀をした。俺達は手を振り、神社の階段を下りていった。

「いや〜。今回の依頼は簡単だったね。いい暇つぶしになったよ」

ヒカルが満足そうに言う。俺も気分が良かったので答えてやる。

「そうだな。あのままアパートに居たら暇すぎて死んでいたな。依頼人様様って感じだ」

「へぇ〜。洋介でもそんなこと言えるんだ。ユーモアの欠片もない人だと思ってたのに」

理奈が明らかに茶化したように言う。俺がフンと鼻を鳴らす。もちろん多少大げさにやって見せたが。

「うるさい。この俺がいつまでも『暗い人』ランキング1位になっててたまるかっ!」

他愛のない会話が続く。
太陽はすでに西に35度くらいの傾きで、赤い光を放っていた。もう夕暮れだ。そう言えば涼しくなってきた気がする。俺達はしばし立ち止まり、夕日に照らされる町を見下ろした。

「今日はどうする? 慰労会」

理奈が聞く。俺はすかさず答えた。

「パス。金がない」

先程説明したとおり、俺は慰労会で金を使いすぎてとんでもなく貧乏なのだ。しかし、俺を誘うということは理奈は金に余裕があるということだ。俺とほとんど変わらない生活をしているはずなのに何故だ?
ヒカルは親切にその答えを示してくれた。

「だって洋介は夏期休暇の一週間前に『ストレス発散だ!』とか言ってゲーセンで無駄遣いしてたじゃないか」

……そう言えばそうだった。その日の依頼人がむかついたからストレス発散のために8時間くらいゲーセンで遊んでたんだ。手元にあるだけの金は全部使ったからな。恐らく相当な額だろう。

「さぁ……? なんのことだか」

俺はごまかす。この事実を知っているのはヒカルだけだ。理奈がそれを事実だと受け止めれば、長々と説教をしてくるだろう。さらに悪いことに姫宮にそのことが知れればリヴェンジャー中に広めるだろう。さらにさらに悪いことにそれが秋山に知れれば社長室に呼び出しをくらい、小一時間も嫌味だらけの説教を聞かされることだろう。ここでごまかさねば大変なことになりかねない。
理奈はじっとこちらを見つめると予想通り説教を始めた。俺は階段を下りきるまで説教を聞かされるはめになった。彼女はそういう生活面では厳しいのだ。
そして10分後、階段を下りきった時にはもうあたりは薄暗くなっていた。夕日はもう沈みかけ、ほのかな赤い光を放っていた。さらに空にはうっすらとだが、星が輝いていた。
待てよ。星。ペンダント。幼馴染。その三つのキーワードを思い浮かべた時、俺は突然思い出した。思い出すのも辛い思い出を。

「悪いけど、先に帰っててくれるか? 用事を思い出した」

「用事? 何の用事よ?」

やはり理奈はこの程度ではごまかせないようだ。やはり具体例を挙げねば。

「奈々さんにちょっと聞きたいことがあってな。本当に大したことじゃないけどな」

理奈はまだ疑わしそうな目でこちらを見つめていたがため息をつくとこう言った。

「わかったわ。じゃあ、また今度ね」

「じゃあな。洋介」

ヒカルが手を振ったので俺も手を振り返した。二人の背中が見えなくなると、俺は神社の階段を駆け上り始めた。
数分後、俺が階段を登り終え、鳥居に着いたとき、奈々はまだそこに居た。わずかに不安そうな声で聞く。

「あの……春風さんでしたっけ? 何か私に用ですか?」

「ああ。あんたに聞きたいことがあるんだ。」

俺はそこで一息ついた。

「あんたの本当の名は佐藤麗華じゃないのか?」

「麗華」という言葉を聞いて奈々はビクッと身を引いた。麗華。それは俺の幼馴染の名前だ。ついさっき俺は思い出した。彼女が持っている星のペンダントは小学校の卒業式に俺があげたものだ。その日は彼女の誕生日だったから。

「どうやらごまかしても無駄みたいね」

いきなり口調が変わる。しかし、反論しないところを見ると俺が気付くのを予想していたようだ。彼女は顔を隠していた帽子を右手で取る。帽子の下から現れたのは俺がもっとも長い付き合いで親しかった、信じていた女の顔だった。そして俺も口調を変えて聞く。

「今更、何しに俺に会いに来た?俺をあんな目に遭わせておいてよくもその憎たらしいツラを見せにこれるな」

俺は彼女を穴が開くほど睨んだ。こいつだけは何があっても裏切らないと信じていた。だから裏切られた時の憎しみも大きい。ここでトラブルを起こすのは面倒だとわかっていながらも俺の手はポケットの中のKR−00に伸びていった。

「洋介、話を聞いて。誤解なのよ」

「うるせぇ! お前は俺を裏切った。それが事実じゃないか!」

今は彼女の全てが憎らしかった。不安げなその表情も、言い訳をするその口も、彼女にあげたペンダントさえも。

「二度と俺の前に現れるな。もし現れたらその日がお前の命日だ!」

「ごめんね、洋介。私達が間違っていた。ほんの小さな誤解と―」

「黙りやがれ! さもないとその口、切取るぞ!」

彼女が喋れば喋るほど、俺の憎しみが火に油を注いだように増していくのを感じた。

「黙らない! 私は洋介に誤解を解いてもらうまで黙らない!」

フン! どうせ俺があまりにも強くなったんで報復を恐れているんだろう。だから、俺に今更ながら謝罪して許してもらおうというわけだな。俺はそんな策略に乗るほどバカではないさ。

「いいから黙れ。そして今すぐに目の前から消えろ。二度と現れるな。さもなくば撃ち殺すぞ」

俺の憎しみはピークに達していた。体がやけに熱い。俺はKR−00を右手に握ると、いつでも引き金を引けるように構えた。そして銃口を麗華の額に当てる。フン。麗華はきっと逃げ出す。誤解を解くだの私たちが悪かっただのと言っていたことはやはり俺の機嫌を取るための口車にしかすぎなかったのだ。これで証明される。
だが麗華の言葉は俺を驚愕させるものだった。

「撃ちたければ撃って。私は洋介の気が晴れるまで絶対にここを動かないから」

「正気か? 本物の銃だぞ。怖くないのか?」

俺はわずかに嘲笑した。

「怖いけど……。洋介の誤解が解けるなら……」

誤解? まさかあの日の事件には特別な訳があると言うのか? 嘘だ。俺は彼女の瞳を見た。何かを決心したような強い瞳。……本当に何か訳があるのか? 俺はどちらにも判断しかねた。彼女は俺のもっとも信じた女。そしてもっとも憎い女だ。逃げないというのなら卒業式までは少し早いが今ここで……。しかし、俺の中の何かが引き金を引くのをためらっている。今こそ復讐の時。しかし、このもやもやしたわだかまりはなんだ?
俺はもう一度麗華を見た。さっきと変わらぬ強い眼差し。

「チ……」

俺は銃を下ろした。そしてまともに麗華の顔も見ずに言った。

「今日は見逃してやる。とっとと帰れ」


俺は踵を返し、神社の階段を逃げるように降りていった。
階段を一段下りるごとに、後悔、自責、苦悶、憎悪、迷いが重くのしかかってくる。俺はやらなかった。いや、やれなかった。あれほど覚悟を決めたはずなのに……。復讐に生きると誓ったはずなのに……。もしかしたら心のどこかで彼女を信じているのかもしれない。信じれば裏切られるとわかっているのに。

「どうすればいいんだよ!?」

俺は最後の一段を降りきった時にそう叫んだ。ここらへんは人通りがなく、周りに民家は一軒も見当たらない。俺の叫びが夕暮れの空に虚しく響いた。しかしそんな俺の叫びに答えた者が居た。

「簡単だよ。復讐をやめればいいじゃないか。春風洋介」

声の主は夕日を背にして立っていた。これといった特徴はなく、メガネが唯一目立つ男。秋山か? いや、少し違う。メガネの種類が微妙に。

「あんた……何故俺のことを知っている?」

俺は警戒しながら聞いた。中学一年の時から行方をくらませていた俺の素性を知っている者はそう多くない。となれば知っているのはリヴェンジャーのメンバーと過去の依頼人くらいだ。

「我らの情報網を駆使すればそれくらい知るのはわけもない。しかもキミはリヴェンジャーの主力の一人だからな」

メガネはそう答えた。

「リヴェンジャーを知ってるとは……あんた何者だ?」

俺はメガネを睨みながら聞く。絶対に俺のためになるような人物じゃない。むしろ関わると面倒なことになりそうだ。

「申し遅れたね。私は『プロテクター』のリーダー、三河正彦(みかわまさひこ)。主にキミ達の活動を妨げるのが仕事だ」

俺はその意味を理解した。つまりキミ達とは敵同士だと言いたいのだ。さらにリーダー直々に俺に会いに来たということは……。

「私と闘え。春風洋介。キミは厄介な相手だ。任務妨害も難しいだろう。だからここで潰させてもらう」

メガネはニヤリと笑いながら言った。一体こいつはなんなのか。いきなりプロテクターだの任務妨害だの闘えだの、どれも唐突すぎてさっぱりわからない。しかし、売られたケンカは絶対に買うのが俺の主義だった。

「いいだろう。なんかよくわからないが、闘えだって? 上等じゃないか。こっちは実銃を持ってる。死んだって責任は取らないぜ」

俺がそう言うとメガネは何がおかしいのかクスクス笑った。

「キミに人を殺す覚悟があるのか? 現にさっきも佐藤麗華を殺せなかったろ?」

見ていたのか、こいつは。俺はムッとして言い返す。

「あんたには関係のないことだろ。それよりさっさと始めようぜ」

メガネは相変わらず嫌味ったらしい笑みを浮かべて言い放った。

「わかった。では早速始めようか。復讐に囚われた哀れな者よ」

奴がそう言ったのを合図に俺は地を踏みしめ突っ込んでいった。ちょうど太陽が完全に沈んだ時だった。



2004/03/06(Sat)14:17:29 公開 / 水柳
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■作者からのメッセージ
第6章です。
久々に更新しました。これからもよろしくお願いします。
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