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『少年アリス』 作者:海神 眠兎 / 未分類 未分類
全角7494.5文字
容量14989 bytes
原稿用紙約21.15枚
少年アリス

プロローグ:不思議の国のアリス

 世界的に有名な童話をいくつ貴方は知っているだろうか。
 シンデレラ、眠りの森の姫、赤ずきんちゃん、ブレーメンの音楽隊、実にさまざまな種の御伽噺は存在し、それらは確実に語り継がれ愛すべきキャラクターの一つとして一人一人の脳裏に焼きついているのであろう。内容を知らずとも、この人生をたどる道筋の中で、一度は耳にしたことがあるはずだ。
 そしてこの童話はいくつかの教訓を刻ませ、夢見る心のエネルギーになって蓄積される。
 生きるうえで誰もが知っていることかもしれない、ただ言われなければ案外気がつかない。そんな当たり前でもある教訓を携えた、反面教師のような話で物語りは生きる。
 勿論、こんな夢のような話があるはずがないと言う現実主義を頑なにも貫こうとする人間がいることも承知しているつもりだ。誰しもこの目で見た、感じたこと以外の起こり得ないであろう事柄を拒否しようとする、それは人間の防衛本能だから仕方あるまい。事実このような、魔法や冒険の童話が実際に歴史にあったとすれば、命の危うさも同時に示唆するのだ。童話を本気で信じることは、童話の中の恐ろしい魔女や魔物も実在することを間接的に認めるも同じである。
 そう、童話の物語はあくまで紙上の話であるから受け入れられるわけであって、決して現存することを許すわけにはいかない。

 だが、不思議の国のアリスは少しばかり上記の童話の類とは異なる。
 カボチャが馬車になることや、100年の眠りからキスで目覚めたり、狼の腹に石を詰めこんでみたり、はたまた種族の違う動物たちが協力して人間を見返すなどという非現実な内容は一切含まれて居ないのだ。
 アリスは時計を持った兎と出会い、彼を追って不思議な世界へ入り込んでしまうわけだが、結局それはアリスの夢の中の出来事であり、アリスが不思議の国から抜け出したと言うことにはならない。まして、不思議の国という世界がこの世にある、ということの理由には足りなすぎる。
 だから、どんな人間でもアリスになることは容易であるし、彼女よりも現実味のある不可解な夢を見ることさえも可能にする。これは現実に起こりうる童話と言えるのだ。
 ただ、アリスはその夢を鮮明に記憶し、あたかもそれが実際に起こったかのように錯覚したに過ぎない。
 しかし、一つだけ間違えてはいけないことがある。
 不思議の国、という世界が無いと言い切ってしまうことは出来ないのだ。
 つまり、アリスが本当に兎を追って不思議の国に迷い込み、なんとか間一髪出口を探し当てた、それを夢と勘違いしてしまったのかもしれないということだ。
 アリスという少女はこの世に実在した人間ではないであろうから、彼女が本当に夢を見ていたのか、それとも夢を見たと思い込んだのかは永遠に謎ということになる。

 不思議の国、という夢島のような世界観の他に、もうひとつ鍵となるものがある。
 時計を持った走る兎だ。
 兎は本来不思議の国、つまりはもう一つの世界の住人であるから、現実世界に紛れ込むことはない。だが、この兎は現実という名前の世界に住むアリスの元へと現れた。そして何事も無く、自分の世界へと帰るべく、大きな穴に入っていったわけだ。
 一体アリスはいつから夢を見ていて、いつから現実に戻ったのかさっぱりわかることではないが、彼女は兎という物質要因によって世界を行き来したと考えられる。
 
 不思議の国のアリスに限ったことではないが、物語としてだけの不可思議さや奇妙さ、楽しさだけを映した童話も少なくは無い。果たしてこれらは何を伝えようとしているのだろうか。
 もしも、もう一つの違う童話がその童話の裏に潜んでいるとしたら、神はどんな教訓を与えるだろうか。
 その答えがわかれば、またはアリスが本当に歩んだ経緯が分かれば、物語りは繋がっていくのだろか。

 真実は、己が主人公を動かそうとするまで、道端で隠れながら不意を付く瞬間を狙っているのだ。


少年アリス

一話:有栖、白乃と出会う

ある時代、あるところにアリスという活発な少女がいました。
お姉さんと読書を楽しんでいたアリスですが、じっとしているのが苦手なアリスは退屈していました。
するとそこへ、白い兎がおしゃれなチョッキを着て、頭から懐中時計を下げて目の前を走り去ったのです。
「大変だー、遅刻しちゃうよ! 女王様に怒られてしまう!」
立って歩く、喋る兎をみてアリスの胸は沸き立ち、夢中で兎を追いました。
やがて兎は人一人がすっぽりと収まるぐらいの大きさの穴へ落ちていきました。
アリスはためらいましたが、どうしても兎の行方が気になってしまったので、あとを追うことにしたのです。
彼女はその穴が不思議の国に繋がっているなどと、想像はしませんでした。


「紅葉陸橋、紅葉陸橋ー、お降りの方はいませんか?」

 バスの運転手のしわがれた声の後、車体前方のドアはぴったり閉まり、流れ込んでこようとする冷たい北風を遮り、乗客のざわめきが一回り大きく聞こえ出した。バスは一つ大きく揺れ、一面雪の精霊がもたらした銀色の毛布の上を走り始める。小刻みに震える床に足を取られて、前のめりにならないように人々は座席に取り付けられた取っ手を掴み、天井からぶら下がったつり革に手を掛けた。
 さっきまで近くの市立校の生徒で賑わっていたバスは、今しがた停車した停留所で何十もの生徒を降車させたおかげで軽くなったように、すいすいと道を進む。雪道なので少しばかり道路は渋滞をしているが、時刻表にさほどの狂いは無く、人々の表情は安堵しているようであった。暖かそうなコートやブーツ、カラーバリエーションの豊富なマフラー、手袋、外の空気に鞭打たれて赤く染まる頬全てが冬を醸し出していた。
 通路に立つ人の姿もまばらになり、そろそろ終点にたどり着くバスで、紺色のコートを羽織った薄茶の短い髪の頭を華奢な腕で支えながら眠りこける少年が居た。窓枠とバスの壁との間の僅かな隙間に肘を乗せて、背中に背負うべきである鞄をもう片方の腕で膝に抱えている。どう見ても、学生という格好の少年の他には制服を着た人間はバスに乗り合わせていない。しかし、少年の目は依然として開く様子も無い、どうやら穏やかな眠りは彼を支配し、バスの車体の揺れは彼にとってはゆりかごに揺られるように心地よいのだろう。その影響もあってか、口元が少しばかり微笑んでいる。
 
 少年は姫路 有栖(ヒメジ アリス)こんな名前でもれっきとした男である。
 北の大地である、広大な北海道の土地に育ち市立校に通う高校三年生、一般試験に向けて猛勉強をしている最中。良くも無く悪くも無く、彼自身この人生は四季が巡るよりも普遍的だと思った。
 それが普通であって、どれが変則的なのかはわかるところではないけれど、有栖本人は自分を普通過ぎる少年と称し、これまでもこれからもずっとそうあり続けるのだと感じていた。
 一つだけ自分を異質だと思うことがあると言えば、幼い頃母が突然姿を消したことと、その頃の記憶がおぼろげにしかないことだけだ。無理矢理父親にひっぱられて泣く泣く医者に観てもらったこともあったが、内的ショックによる記憶喪失ではないかと言われた。頭にたんこぶが出来て、それより以前のことを忘れるという漫画じみた話はよくあるが、酷く恐ろしいことが起こって心が不安定になったとき、恐怖を強めないように脳が記憶を封印してしまうこともある、と医者は言った。実際は本人が気がつかないだけで、克明に記憶していると言うのだが、18歳になった今でもそれは思い出せない。脳みそをほじくってまで思い出したいわけでもないので有栖は構わないでいるが、時々妙にそのことを考えることがある。だからと言って、脳裏に記憶がよぎってくるわけでもないのだ。
 憧れ、という理由で初めて実力をつけたバスケットも引退し、真面目に一般試験に合格しなければならないということが先にたっているから、今はそんなとっくの昔のことなど考える必要も無い。前にひたすら進むだけだ、有栖にとって前進以外のものは邪魔になるだけであった。

 突然バスが急ブレーキを掛け、つり革に捕まっていた女の子は今までにない大きな揺れに一つ声を上げていた。運転手が上手くハンドルを切らなければ地震並の大揺れになっていただろう。いきなり割り込みをしてきた前方の軽自動車に向かって、運転手は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
 流石の有栖もこのぐらぐらのせいで頭を支えていた腕が反れて、それによって頭ががくんと前のめりになり、一番前の座席の背もたれに豪快にぶつけることになった。それによって当然彼は目を覚まし、貰われてきた子猫のようにあせりながら辺りを見回す。
 曇っていた窓ガラスを両手でこすり、外を伺うと、見慣れない景色が広がっていて住宅地もまばらな殺伐とした風景画のようだった。人一人が通れるぐらいの幅しかない歩道は、雪に埋もれていて人っ子一人通っていない。乗客も有栖を含めて6、7人ほどでありいつも彼が降りる頃見かける化粧の濃い女子高生や、隣の座席で読書をかましている男子生徒がいない。
 事の重大さに今頃気がついた有栖は、少なくともこれ以上の進行を止めようと停車ボタンを押し、小銭を右手でポケットに押しやると、鞄を背負い席を立った。もしもこの場で一言叫ぶとしたら迷わず彼は「おーまいがー」を選んだだろう。そのくらい、長年このバスで通い続けた彼にはショッキングだったのだ。
 家から学校までが極端に遠い有栖は、中学校からバスを利用し、一時間に一本しか通らない路線に毎朝遅刻しないで乗ったし、乗り過ごしたことなどただの一度も無かったのだ。

 バスは大雪で歩道が完全に埋もれた停留所に止まり、有栖の前に座っていた少し洒落た格好の少女と彼を降ろしてまた田舎への道を走り出した。ぼんやりとその背中を見送っていた有栖は、自分の前に降りた少女が尻餅をつく格好で転んだのを見やり、現実にいやおう無しに引き戻されて、真っ白な羽毛にも似た雪で敷き詰められた歩道に踏み込む。
 腕時計によるとまだ始業までに30分はある、今から走り出せば十分間に合うだろう。
 1年生からずっと守り続けてきた、無遅刻、無欠席、無早退を貫くためには雪の中全力疾走をすることになる。忌々しそうに白い絨毯を見つめると、有栖はとうとう走り出した。ザクザク、という雪を割る音ではなく、雪に穴を開けるようような音がリズミカルに響く。しかし、後ろを見ても前を見ても、この歩道を歩いているのは自分だけのようなので、有栖はいたたまれない気持ちになった。
 自分の後に道が出来る、もうそれだけだ! まるで北海道を開拓した屯田兵の気持ちにでもなったのか、少しこの行為を褒め称えながら、有栖は寒さのせいでじんじんと痛む両足を持ち上げながら走った。バスケット部でやった走りこみの辛さに比べれば屁でもないだろう、そう思わなければたまらずに大の字になって転がってしまいたくなるほどであった。
 コートのポケットに入っていたMDからは絶えずメロディーが流れて、それが多少ではあるが有栖の気分を紛らわしてくれていた。横を通り過ぎる車の群れと自分しかいないのをいいことに、有栖は鼻歌を歌いながら駆けていく。だが、途中でふと立ち止まり、今までの自分の行動を考えてみたら、にやにや鼻歌を歌いながら全力疾走する高校生、という客観的な想像図が出来上がったので頭を一振りして、真面目に走ることにした。
 目の前に広がるは白だけの世界、何もかもが幻のような気がしてくる。足取りが落ちる。

 たまに、有栖は自分は何がしたいのかわからなくなる。
 同じ作業をしていたり、途方に暮れたり、意味の無いテレビを眺めている瞬間にそう感じている。
 用意された道を歩いているわけじゃないとわかっているつもりだったけれど、実際そうでもない。レールから一人はみ出して歩くのが嫌いだし、窮屈な世界を変えることもしない。居心地が良いから、このままでいるのが一番だと思うから。
 人生は一つの物語だと誰かが言った。でも、有栖は自分自身の人生は物語になれないと感じた。
 生きているのかも不確か過ぎて、意識だけになったら脆く消えてしまいそうだから。
 活き活きしている表情の人間を見ると無性に陰鬱としてくるし、無感動な人間の瞳を見ているとまるで鏡を見つめている気分がしてくる。要するに人事に思えなくなっている。
 まだ、半分も生きていないけれども、何か駆け出すことに諦めを抱かずにはいれなくなっている。
 頭のねじが常に無いのかもしれないと、それか頭の表面から見えないくらい埋め込まれてしまっているのではないかと度々思う。
 でも、立ち止まっているわけにはいかなくて、背中を見せないようにしながら生きている。

 呼吸が荒々しくなって、生ぬるい息が白く染まり空気に出て行く。肩は上下しながら、ポンプのようにせわしなく動いている。寒いはずなのに体は熱くなって、額からは汗が滲んだ。
 無我夢中で、という言葉の意味をなんとなく理解した気分になった。有栖は立ち止まり、空を仰いだ、
 青い世界が見えなくなった、灰色に染め上げられたキャンパス、汚水が流れ出したように青い世界はたちまち姿を変えて。もう一つの世界を映しているようだった。
 この世界は黒い世界だったかもしれない、悪意が漏れ出していた気がする。もし、もう一つの世界があるとしたら、もっと違う歴史を刻んでいるのだろうか。あの空を越えて、ずっと遠く誰も見つけられない幻想の世界には、白い偽物じゃない善意があるのだろうか。
 途方も無いことを考えていたと、有栖は再び足を動かす。持ち上げる足の感覚はすでに微弱だった。
 頭の上にも雪は積もりだし、溶け出したそれの冷たい水が頬を伝う。涙じゃないけれど、切ない気分になる。何がここまで自分を困らせているのか、一生知ることはないだろうけれど、胸に引っかかる。
 そんな沈んだ有栖の心から車が走る音が消えて、雪の降りしきる音も消えていく。代わりに、何か違う音楽が鼓膜という鼓膜を支配した。
 
アリス、アリス、何故幻を追う。
アリス、アリス、何故光を追う。
いたずらチェシャ猫、チェシャ猫、天邪鬼。
帽子屋、帽子屋、いつでもお茶会。
三月兎、三月兎、いつでもお茶会。
居眠り鼠、居眠り鼠、いつでもお昼寝。
カードの兵隊、薄ぺら兵隊、役立たず。
ハートの女王、わがまま女王、意地悪意地悪。
アリス、アリス、何故幻を追う。
アリス、アリス、何故光を追う。
アリス、アリス、何故兎を追う。

 上からだろうか、下からだろうか、右、それとも左? どの方向かはわからないが、どこからともなく軽快な音楽が有栖の耳に響いた。音楽よりは、喜劇の歌のようであった。少女のソプラノがきいた声で、心から嬉しいという歌声ではなく、誰かに歌わされているようなどこか直立した歌。フェアリーテイルの真ん中に迷い込んだのかと思ったが、あくまで風景は今までのものと同じ。
 有栖は空耳かと思った、なぜならどんどん頭がくらくらと飽和したように揺らぎ、全身がほてって、眩暈がしだした。寒さのあまり熱でも出したのだろう、しまいには体が前後にふりこのように動き、冷たい雪のステージの上にぶっ倒れてしまった。指先は痙攣するように微かに震え、目に映る全てが残像を伴って狂い始める。
 そういえば、昨日から体調が悪かったことを忘れていた。有栖は腕を持ち上げて、めくれた制服の下から見える時計を見やった。長針と短針の区別さえ付かなくて、今が何時なのかもわからない。頬が冷たい風に晒され凍えた。瞼が重たくなってきて、全身が死後硬直したように微動だにしない。

アリス、アリス、何故兎を追う。
アリス、アリス、何故王になる。
アリス、アリス、不思議の国のアリス。

 煩い、耳障りな歌はまだ続いている。
 歌に洗脳されそうな自分をなんとかしようとしきりに体を奮い立たせようとするも、金縛りしている。辛うじて開いた目は動き、状況を探るが人の姿は相変わらず見えない。
 こういう馬鹿げたいたずらが好きであろう小学生が通学する時間帯でもない、第一声の主は有栖と同い年ぐらいの声色である。艶っぽいのに、どこか柔らかい。
 歌声はやがて止み、有栖の脇を暖かい南の楽園から吹いたような風が通り抜ける。
 どこからどう流れたのかなど考えることもなかった、全ての事象に理由はない気がしたから。
 風は場を和ませるかのようにこの場に留まり、何か一つのものを取り囲んでいるようだった。そして、有栖の目の前に白くて繊維の細かいすらっとした腕が差し出される。目線を持ち上げると、目の前には黒髪を腰まで伸ばした白いワンピースだけを纏った少女がかがみこんでいた。本当にそれだけだったが、彼女の肌から鳥肌さえ立ってはいなかった、温度を感じていないのか、またはこの風そのものなのか、有栖の沸騰しきった頭では考えもつかなかったがとにかくじっと有栖は少女を見ていた。
 少女は手を受け取って欲しいのか、しきりに手をこちらへ持っていく。彼女の黒檀の色をした瞳がなんどか瞬き、赤ん坊のもののように小さく柔和な印象を受ける唇は何かをつぶやいているように動く。だが、有栖には何を言っているのかが全くわからなかった。
 少女の指先はまっすぐに前に伸び、少しも震えなかった。目の前によくできた彫刻を見ている気分に陥って有栖は彼女の動きを追おうとした。すると、先ほどまで動かなかった首をひねるということが出来て、有栖は自分の右手を握っては離す、どうしてだろうか一気に気分が全快してしまった。少女を包む暖かい風を受けていると、何故か気分が良い。どこか懐かしい風の匂いがした。

「お前、誰?」不意に口をついて出たのはこの言葉だった。

 少女は一瞬不意をつかれたようにきょとんとしたが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべて微笑んだ。
 それは答えにはなってはいなかったけれどもとても安心する笑顔だった。太陽が雲の陰から顔を覗かせたように、繊細で光り輝いていて、神秘的な。
 
 次の瞬間、有栖は本当に何も考えずに、少女の手を取っていた。
 それが少女白乃(シロノ)と少年有栖の出会いであった。

 思えば、アリスが兎を追ったのに理由など無かったのかもしれない。

NEXT…。
2004/01/11(Sun)18:05:20 公開 / 海神 眠兎
■この作品の著作権は海神 眠兎さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
一話を書き上げました、有栖と白乃の出会いがメインのはずですが、有栖の紹介という感じにもなってしまったかなぁと思います。
展開が唐突ですが、次からはもっとボリューム出したいです。
感想批評ありましたら、ぜひ参考にさせてください。
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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