『幼馴染の法則』作者: / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「また背、伸びた?」
 私は隣を歩いている幼馴染の忠志に聞いた。
「そう?毎日、牛乳飲んでるしね」
 ここ最近の忠志の成長はすごい。
 小学生までは私のほうが断然大きかったのに、
 中学に入ってから一気に追い越された。
 そして同じ高校に進学してからは、一目瞭然。
 頭一個分、忠志が出ていた。
「カヨさぁ」
 学校の校門前で忠志が改まったように声をかけてくる。
「何?」
「帰り、ちょっと一緒に服、買いにいってくんない?」
「別にいいけど何買うの?」
 カヨと忠志はたまにこうやって二人で買い物をする。
「服買うんだけど…。俺、あさってデートなんだ」

 は?!

 それには心底ビックリで、「ありえねー!」と心の中で呟いた。
 だって、私と忠志は付き合ってないけど、
 幼馴染っていうのはそうゆうもので、ドラマに出てきた幼馴染も漫画に出てきた幼馴染も全部、本当はお互いが好きなんだよ?
 そうゆうものでしょ?
 忠志、何もあんたがその常識を打ち破ることないじゃない!
 ありえねぇ、ほんっとにありえねぇっ!
 と女の子なんだか男の子なんだかわからない口調で、
 心の中のもう1人の私は目の前で微笑んでる忠志に叫んでいた。

「あ、そう」
 でも私はつよがってみせた。
 まるで「気にしていないよ」というみたいに。

 その日の授業は、朝のことで頭がいっぱいだった。
 黒板と、同じクラスの忠志を交互に見て、ひとり落ち着かなかった。
 誰とデートするんだろ?
 そんなこと当然、本人には聞けない。
 プライドが邪魔をする。
 損な性格だな。私は思った。

「ねぇねぇ、カヨ」
 友人の優子が休み時間、私の机にやってきて、ニヤニヤしている。
 こいつは噂話が大好きで、まるで盗聴器をしかけたのか?と思うくらい、
 誰よりも早く情報をキャッチする。
「忠志君さ、デートするらしいよ」
 ほらね。
 私は本気でブレザーの内ポケットや襟に盗聴器がないか探した。
「相手、誰だか知ってる?」
「知ってるの?」
 私は思わず大きな声を出して優子に詰め寄った。
「絶対に内緒だよ?」
 絶対内緒の絶対は守られないことを私は知っている。
 たとえ私がその「絶対」を侵したとしても彼女は怒ったりしないだろう。
 彼女もまた「絶対内緒」を破っている人間だから。

 でも私は一応、契約を交わす。「絶対、内緒にする」
 契約完了。

 彼女は自分の口元を手で押さえながら私の耳元でささやいた。
「デート相手はユミユミだよ」

 私はまた「ありえねー」と心の中で呟いた。
 だってユミユミは正直言って可愛くないぞ?
 彼女は怖いくらい細くて、暗い顔に時代遅れの大きな大きなメガネをかけている。
 そんなユミユミだぞ?
 どう考えても、不釣合いだった。
 おいおい忠志よ、あたしにはあんたの考えがまったくわからん。
 普通こうゆう場合は、どのドラマでもどの漫画でも
 学年一の美人とか、部活の先輩とか、マドンナ先生とか、
 そうゆう人に恋するのがお決まりでしょ?そうゆうもんでしょ?
 あんたはまたしても常識を打ち破るつもりなのね?
 ありえねぇ、ほんっとにありえねぇ!
 と男の子なのか女の子なのかわからない口調で、またしても心の中で叫んでいた。

 でも私は言ってしまうんだ。
「お似合いじゃない」
 お金持ちのお嬢様みたいな言い方だった。
「お似合い?そうかな?」
 優子は、ひとりで外を眺めているユミユミと、
 黒板の下で友人達とじゃれあっている忠志を交互に見て、首を傾げた。

 放課後、予定通り忠志と駅前の商店街に服を買いに行った。
 忠志は鏡の前で「どっちが似合う?」とか
「こっちの色のほうがいいかなぁ」とか言ってる。
 私はそのたびに面倒くさそうに、
「こっち」とか「そっち」って素っ気無い返事で答えた。

「カヨ、今日機嫌悪くない?」
 忠志と両手に服の入った袋を持って家路を歩いてると、そういわれた。
「べっつに」
「べっ」ってゆうところにアクセントを置いてそっぽを向く。
「服買ってるときも、ムッスーってして、俺悪いことしたっけ?」
「べっつにー」
 空はオレンジ色でカラスがかぁかぁと鳴いている。
「なんだよ、さっきから「別に」「別に」って」
 私は立ち止まり眉間を指で揉みながら
「じゃぁ言わせてもらうけど」
 と道の真ん中で忠志と向かい合う。
「なんで私があんたの服選び手伝ってるわけ? 普通は、女の子が男の子に、 これどっちが似合うかなぁ?とか聞くんだよ!なんであたしが男の子の役をやってるわけ?」
「だって、朝「買い物行こう」って誘ったら「いいよ」って言ったじゃん!」
 忠志にそう言われて私は黙ってしまう。ごもっともだ。
「カヨ?」
「なによ?」
 忠志の真面な顔を太陽がオレンジ色に染めていた。
「間違ってたら聞き流して。俺の初デートに嫉妬してるの?」
「バカじゃないの。誰があんたなんかに」
 図星だった。
「なんだ、嫉妬してるのかってドキドキした」
 そういって忠志は再び歩き出した。
 私は忠志の背中に声をかけた。
「私と忠志が服を買いに行くことってデートじゃないのかなぁ?」
「俺とカヨは物心ついたときから一緒に居るからさ、一緒に居ることがあたりまえだからなぁ」
 だからたぶんデートとかと違う気がする、
 忠志の最後の言葉は私の胸をえぐるように突き刺さった。

 幼馴染は損だ。
 早く知り合いすぎてお互いの手の内も見せ合って、
「デートしたい」「何を今さら」って感じなのだ。
 手をつなぐことにドキドキしたり、1つのコーラを二人で飲んで、
「間接 キスだなぁ」って思いながらドキドキしたり出来ないのだ。
「ありえねぇ」
 私の言葉はまっすぐ伸びる影の上にポトリと落ちた。

 次の日、このデート騒動にあっけなくピリオドを打ったのは
 やっぱり情報屋の優子だった。

「ピピピピピ、情報キャッチ情報キャッチ!」
「あ、そう。優子、悪いけど私は今、それどころじゃないよ」
 私は頬杖をついて、楽しそうに話すユミユミと忠志を見ていた。
 ユミユミってあんな顔して笑うんだ。
「忠志君のデートの真相でございます」
 マジ?
「なに?真相?!なによ?!はやく言いなさいよ!」
 私は優子の襟を掴んで言った。
「ほら、あの二人図書委員でしょ」
「うん。うん、忠志は図書委員!」
「だから今度の日曜。先生に頼まれて本を買いに行くらしい」

 なに?それだけ?

「でも、ユミユミは忠志君のこと好いてるね!
今度のデートのときに告白とか、あるかもよ」

 優子のその助言は私をその日一日心配にさせた。
 優しい忠志のことだ。
 もしかしたら、ユミユミに告白されたらOKしてしまうかもしれない。
 それに、教室で見る限り二人はほんの少しカップルに見えた。
 ヤバイ。

 帰り道。
「明日、本、買いに行くんでしょ?ユミユミと」
 私は忠志に聞いた。
「なんだ知ってたんだ?」
「うん。聞いた」
「俺の初デートが渡瀬さんだなんてビックリだ」
 私はその言葉にドキリとする。
「うれしい?」
「まぁ、渡瀬さんと話してるのって面白いし、嬉しいと違うけど、楽しみだよ」
「あのさ、忠志」
 私は全てのプライドを捨てることにした。
 プライドを生け贄にして心の中で神様に「おねがいします」と唱えた。
 神様、これから私は、忠志に告白をします。どうか見届けてください

「忠志」
「なに?」
「忠志」
「なんだよ」
「私とデートしませんか?」

 告白のとき人はなんで敬語になるんだろう。
 そんなことを客観的に感じていた。

「は?え?なに?今から?」
「今。私を忠志の初デートの相手にさせてください」
 とは言っても、今から映画館や遊園地に行くのは無理。
「とりあえず手、つないで帰ろ」
 私は忠志の手を握る。
 告白してから繋いだ手は、幼い日につないだ手よりドキドキして、
 思ったより忠志の手は温かくて湿っていた。
「これってデートなの?」
 忠志が聞く。
「たぶん、デートだよ。ドキドキするから」
 いつもはふたつに伸びていた影が今日はひとつ。
 オレンジの夕日が私達を照らしていた。

「カヨの手ってさ、うちの親父の手に似てるな」
 忠志はニコッと笑って無邪気に言った。
「ありえねぇ、ほんっとにありえねぇ」
 私は女の子なのか男の子なんだかわからない口調で言った。

 でもたぶん女の子だ。
 好きな人と手をつないで、こんなにも嬉しいし
 こんなにも幼馴染の忠志という男の子が好きだから。

2004-03-20 16:00:57公開 / 作者:律
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■作者からのメッセージ
本当はカヨと忠志は結ばれない予定でした。二人がこの結末まで導いてくれた気がします♪書き終わってみれば「描写をもう少し」など、反省点の多い作品ですが、よかったら読んでみてください☆
この作品に対する感想 - 昇順
おもしろかったです!カヨのキャラがいいです♪次の作品も期待してます!
2004-03-20 17:56:42【★★★★☆】柚紀かなめ
カヨと忠志の関係が好きです!次回の作品も楽しみにしているので頑張って下さい!
2004-03-21 17:28:56【★★★★☆】怪盗ジョーカー
計:8点
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。