『Needles』作者:九邪 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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「あ〜いい気持ちだ。兄さん若いのに上手いねぇ」

「ありがとうございます。」

客に針を刺しながらニコリと笑い若者が言う。

この店は針治療の店。院長の名は黒田瞬一(くろだ しゅんいち)23歳。

若くして店の経営者だ。腕もよく客に評判のこの店。今日も満員だ。

しかし、この店は針治療の患者だけにだけ評判の店ではなかった。

「いらっしゃい」

カウンターで客にあいさつをしたのは河波流星(かわなみ りゅうせい)

まだ高校生ぐらいの少年だ。

黒い帽子を深くかぶりサングラスをした男はカウンターに針を3本出した。

「……判りました。 お〜い瞬一さ〜んお客だよ〜」

「判った!え〜とすいませんお客さん。今日はこれで店じまいです。」

客たちは不満の声を上げながら帰っていった。この店はたまに急に店じまいする事がある。

瞬一達は客を奥の応接室に連れて行った。

「さて、と。お客さん。俺に依頼ですか?それならその帽子とメガネを取ってもらいたい。客の素性が知れないってのはイヤなんでね」

「……………」

男は黙って帽子とサングラスを外した。顔が見える。

50代くらいのおじさんだがその顔に瞬一は見覚えがあった。

「こりゃあ驚いた。あんた確か政治家の柏木(かしわぎ)さんだろ?テレビで見たことがあるぜ」

「あんたたちが『ニードルス』かい?」

「あぁ、そうだ。」

『ニードルス』裏の世界では有名な殺し屋。

言われたことは何でもこなす凄腕の二人組み。年齢、素性、力など全てが謎の二人組み。

普段は『黒田医院』という腕のいい針治療院を経営しているが、先ほどのようにカウンターで針を出されたら、一転して裏の顔になる。

彼等のアジトを見つけるだけでもかなりの情報が必要とされている。

「俺たちに依頼に来たってことは相当のことなのか?まぁ、相手が政治家であろうと、大統領であろうと金さえくれりゃ仕事はするぜ?」

「依頼なのだがおまえは『Bスト』という薬を知っておるか?」

「あぁ。よーーく知ってるぜ」

『Bスト』今噂になっている新型の薬。

飲んだ者の肉体的機能を上げ、銃弾すらきかぬ肉体、壁すら貫く力を手にするという薬。

しかし、副作用として知能がどんどん下がっていき、使ってから約2時間後には人としての知能、全てを失い、あたかも獣のようになってしまうという効果もある。

外見は大して変わらないが、胸に大きな傷が出来るらしい。

薬を飲んだ時のあまりの苦しみで胸を掻き毟るからだ、そうだ。

最近では薬の使用者が増え警察、軍も手を焼いているのである。

瞬一はそれ以外の『Bスト』の他のことも知っていそうだった。

「その『Bスト』を作っている巨大組織『アーカイブス』をつぶして欲しい。」

『アーカイブス』と聞いたとたん瞬一の顔つきが変わった。

「へぇ、そんな頼みを何でわざわざ俺にするんだ?」

「警察は当てにならん。裏の世界最強といわれておるお主らの力が必要なのだ」

「フ〜ン…だが、『アーカイブス』はかなりの組織だ。かなり高くつくぜ
それに成功の保障もないしな」

「お前らの噂は政治家は耳にたこが出来るほど聞いておる。
わずか5日で3国の大統領を殺したいう、な。金はいくらでも出す。頼む。」

「判った。そこまで言うなら引き受けてやろう。」

柏木は金額の書かれていない小切手を瞬一に渡し、また帽子とサングラスを被って帰っていった。

瞬一はカウンターの流星を呼ぶ。

「おい、流星!」

「はいはい何ですか?」

流星が大急ぎでこっちに来た。

「お前の情報網を頼る。検索して欲しい。」

「わかりました。で、何と検索するんですか?」

「『アーカイブス』の本部の場所。または『そこを知る者』、だ」

流星はノートパソコンを取り出した。そして今言われたことを打ち込んで検索する。

「…『アーカイブス』の場所はさすがにないですね…」

「では、『そこを知る者』は?」

「う〜ん………あ、いましたいました。森優一、元『アーカイブ』の者です。数年前『アーカイブス』から逃げ出し、今なお逃亡中の男です」

「そいつはどこにいる?」

「え〜と今はクラブ『E―パル』と言う飲み屋です。」

「よし行くぞ」





「よぅ森さん」

森と呼ばれカウンターで飲んでいた男が振り返る。

その男はまだ若かったがやつれ、ひげも伸びていたたまめひどく老けて見えた。

「なんだい?お若いの……」

「あんたに聞きたい事があるんだ」

瞬一はカウンターの森の席の横に腰掛ける。

実はこの店は『E―パル』ではない。瞬一たちはその店に行ったが森はいなかった。

この店でちょうど5軒目だ。いろんな人に聞き込み、ようやくここにたどり着いたのである。

「聞きたい事?」

森が落ち窪んだ目で瞬一を見つめる。

「あぁ『アーカイブス』のことだ」

「!!!」

森は何か衝撃を受けたように立ち上がりよろよろと2、3歩後ずさった。

「知らん!俺は何も知らん!あんな所のことなんか何も!」

「おいおい、おっさん。“あんな所”って思いっきし知ってんじゃねぇかよ」

「殺される!話したら殺されるんだ!」

森は狂人のようにギャアギャアと叫びまくっている。

瞬一は針を一本取り出し、ブスッと刺す。

「うっ!!」

森は急に力をなくしたように座り込む

「どうだいおっさん。落ち着いたろ?さぁ、話してくれ」

「……ダメだ。アンタ何する気か知らんが、あそこにいったら死ぬだけだ。
ビーストには誰も敵わん…」

「それがここにビーストと戦って生きている人がいるんだな」

流星が言う。森は驚いた表情で向く。

「まさか…」

「確かに俺はビースト化した人間と戦って勝ったことがあるぜ」

瞬一がそう言うと森は瞬一の腕を掴み、わなわなと震える。

「あんた…能力者か?」

「あぁそうだ。」

この世界には人ではありえないような不思議な力の持ち主がいる。

それが能力者だ。人の脳みそというのはまだ解明されてない人体のブラックボックス。

その脳に隠された力を使うのが能力者。

能力というのは突然目覚める。大人になってから目覚める者もいれば、子供の時に目覚める者もいる。

しかし、能力者は世界中でも極わずかで、数えるほどしかいない大変珍しい人なのだ。

「さぁ、おっさん話してくれ。たとえ俺が捕まってもあんたのことは絶対に言わない。まぁ捕まるなんてありえねぇけどな」

森は尚も黙っていた。話す気配など一行にない。

「ふむ、参ったなぁ」

カウンター席で酒を飲んでもう一回聞こうとしたら、出口の方で誰かに名前を呼ばれた。

「黒田さ〜ん。黒田さんいますか〜?」

「はいはい俺ですが?」

「あの、出口の方で誰かが呼んで下さいって」

「あ、どうも。オイ流星、俺はちょっと行って来る。少し待ってろ」

了解、と小さな声で返事が返ってきた。瞬一は出口へ向かった。




出口へ向かうと、一人の男性が立っていた。

男性は喋らず、身振りでこっちへ来い、と瞬一を連れて行った。

しばらく歩き、人気のない路地裏まで来ると男はようやく口を開いた。

「あんたが有名な『ニードルス』の黒田瞬一か。若いんだな」

「大きなお世話だよ。おめぇは誰だよ?」

「あんた最近『アーカイブス』のことこそこそ探ってるらしいな?」

男はニヤニヤ笑いながら言う。

「あぁ依頼だからな……お前は『アーカイブス』の者か?」

「あぁ、そうだ。なぁその依頼から手を引かねぇか?お前も俺たちと同じ裏の者だろ?出来れば殺したくないんだよ」

「やだね。なんだ俺が怖いのか?まぁ仕方ねぇよな、なんたって俺は『ニードルス』の黒田だもんな」

男はピクッと顔を変える。明らかに怒っているようだ。

「おい、ちょっと有名だからって調子に乗るんじゃねぇぞ。
お前らなんか俺一人でも殺せるんだぜ?」

「御託はいい。来るなら来いよ。」

瞬一は男に向けてちょちょいと手を向ける。

男は完全にキレて襲い掛かってきた。

「おらぁ!」

男は両腕を組んで殴りつけてきた。瞬一は軽く後ろにかわす。瞬一のいた地面は大きく裂ける。

驚いたことにその手は普通の5倍ぐらいの大きさに膨れ上がっていた。

「ほぅ…お前能力者か?」

「そうさ、俺の能力は『ビッグパーツ』体のどの部分も大きく出来る能力さ。」

「へぇ…カッコ悪い能力だな」

「貴様!!」

男は今度は足を大きくして蹴ってきた。瞬一はこれも軽くよける。

「今度はこっちの番か…」

瞬一は針を取り出し、大きくなった足に刺す。

続いてヒザ、太ももに続けて刺す。

「ふん、こんな針なんざ痛くも痒くもねぇよ。行くぞ!!」

男は瞬一に飛びかかろうとした。だが、足が動かない。

(何故だ?)

男はあせった。手で持ち上げてもすぐに下に落ちる。

「お前の足のツボ3箇所に針を刺した。お前の足はしばらく動かない」

「ツボ、だと?まさかお前も能力者?」

「そうだ。俺の能力は『バイタルパーツ』相手の体のツボや急所、どこをどうすればどの部分が動かなくなるかなど全てが見えるんだ。
俺は針治療師でな、治療の時はどこに針を刺せば治るかがわかって便利だが、戦いの時はどこに針を刺せば相手が壊れるかが手に取るように判る……」

瞬一は説明し終わると男に近づいてゆく。

「さぁ、『アーカイブス』の本部の場所を教えてもらおうか?」

「ふん!誰が教えるか!さぁ殺せよ」

瞬一はしばらく考えた。その結果思いついたことをするために針をまた出した。

「殺しはしないさ。死というのは一瞬の苦痛だからな。お前には死より苦しい事を味わってもらう…」

瞬一は男の右腕を持ち上げる。

「このツボはな、血管を詰まらせるツボなんだ。ここを刺せばどうなるかな……」

瞬一は軽くそこに刺し、人差し指で一気に押し込む。

初めは何も起こらなかった。

しかし、時間がたつと右腕は赤く変色していき、さらに時間がたつと、紫色になっていった。

「ほらほら、早く言わないと腕が腐って落ちるぞ」

「!!!!」

男はただおびえた目で色が変わっていく自分の腕を見つめていた。

しかし男は尚も話さなかった。そして、とうとうボトッといういやな音と共に腕は腐って落ちた。

「ギャアーー!!!俺の腕が!腕がー!」

「さぁ言え!言うんだ!」

「言うものか……!」

その後も、瞬一は拷問を続けた。

それは伝えるだけでも痛々しい内容だった。

なのでここでは何も書かないでおこう。

そのあまりにも残酷な行為に男はとうとう折れた。

「……もう…やめてくれ……助けてくれ…」

「『アーカイブス』の場所を吐け。そうすれば楽にしてやる。」

「…………東のB地区の砂漠だ…さぁ早く…」

「あぁ、今楽にしてやる」

瞬一は針を男の延髄に差し込んだ。

男はビクッと体を震わせて静かに倒れる。

「“死”こそが最高の安らぎさ……」

瞬一は男に刺していた針を抜き、血をふき取ってかる。

しばらく男の死体を眺め、やがて酒場に戻る。


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「遅いなぁ瞬一さん…」

酒場では流星が退屈そうに待っていた。

「あ、どこ行くんですか森さん!?」

森はこそこそと酒場を立ち去ろうとしていた。

「あの男にこれ以上聞かれる前に逃げるんじゃ!」

「あ、ちょっと待ってください。そうなったら僕が瞬一さんに殺される」

森が出口の戸を開け外に出ようとしたら、帰ってきた瞬一にぶつかった。

「おぅおっさん。」

「ヒィーー!助けてくれ。私は何も言いたくないんだ」

「何だそのことか。それならもういいぞ。」

「……え?」

瞬一は森と流星をカウンターに座らし、落ち着かせるために森に酒をあげた

「どこに行ってたんですか?瞬一さん」

「あ〜ちょっと『アーカイブス』の奴に襲われた」

森は飲みかけていた酒をブッと吐き出す。

その酒は流星にジャストヒットする。

「な、なんだと?それで?逃げてきたのか?」

「バカ言うんじゃねぇ!殺し……ゴホン!倒してきたんだよ」

「どんな奴だった?」

「え〜と、確か腕とかが大きくなる能力を持つ奴だ。」

森の頭にはすぐに一人の人物が浮かび上がってきた。

「田代征(たしろ せい)だ!幹部候補の奴だ。…勝たと言ったな?」

「おうよ!楽勝だったぜ」

「………」

森は酒を一気に飲み干し立ち上がる。

「オイおっさん。どこ行くんだ?トイレか?」

「逃げるのだ。私は『アーカイブス』も恐ろしいが、それを簡単に倒すような奴も恐ろしい……お前さん達とは関わりたくない…」

流星が何か言おうと立ち上がったが、瞬一がそれを手で制す。

流星はしぶしぶ座る。

「じゃあな、お二人さん」

森は去っていった。

「良いんですか?」

「あぁ別に構うねぇよ…それはそうと場所はわかったんだ。行くぞ」

「はいはい」


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今二人は東地区の砂漠を車で走っている。

『アーカイブス』の資格からの情報だとここに本部があるらしい。

「あ〜のどが渇いた…おい流星 水!」

瞬一が流星の方に手を出す。

「ダメです!水は貴重なんですから。せっかく僕が超極安で仕入れたのに瞬一さんすぐに飲むんですもん」

「お母さんみたいな口利くなよ……でまだ着かねぇの?」

流星は望遠鏡を覗いて周りを見わたす。

「あ、見えてきました!多分あれです」

「何!?ちょっと貸せ」

瞬一は流星から望遠鏡を奪い覗く。

確かに前方には建物があった。

大きく突き出た二つの塔。あれが見張り台。

下にはまるで工場のような建物がくっついている。

周りは砂漠なのになぜかあそこの周りだけは緑がある。

どうやらポンプで外に送り出して緑を育てているようだ。

犯罪組織のくせに緑を大切にしているとは……

「フフ〜ン、流星防犯赤外線とかは?」

「え〜と、ありますね。そこを右、次のところを左です」

「OK」

流星は愛用のノートパソコンで場所を知らせ瞬一が運転する。

2?くらい近づきようやく肉眼でも見えるようになった。

「よし、まずは見張りを潰すぞ」

「アイアイサー」

流星はライフルを構え、まだ3キロくらい先にある見張り塔に狙いを定める。

鋭い銃声、そのすぐ後に見張り塔の見張り番は倒れる。

それを4回繰り返しすべての見張りを倒す。

「相変わらずいい腕だ。」

「エヘヘヘ…」

流星は誉められて照れたように頭をかきながら笑う。





「ん?なんだこの音?」

『アーカイブス』本部の玄関にいるものが言う。

さっきから変な音がする。しかもどんどん近づいてくる。

「ウワァ!!」

前方から車が突っ込んできた。

「Hello皆さん。ボスは居るかな?」

「侵入者だ!」

男は警報を鳴らし、中に入っていった。

「あれ?」

「あれ?じゃないですよ!当たり前じゃないですか!」

「まぁまぁホラ行くぞ。」

二人は車を降りて中に入る。

中には警報を聞き、すでに何人もの兵隊が居た。みんな銃を構えている。

「ふふ〜ん面白そうじゃん。」

兵隊たちはいっせいに銃を撃ってきた。

瞬一たちはそれを飛んでかわす。

「やっちまえ、流星」

流星は小型の拳銃を構えて撃つ。

一発の銃声しか聞こえないのに、なぜか3人4人と倒れる。

あまりの早撃ちに一発分の銃声しか聞こえないのだ。

あっという間にみんな殺された。

「はい、一丁上がりですよ」

「ごくろーさん。お前に早撃ちで敵う奴はいないな。おや、真打の登場だ」

前方から来たのは人間よりはるかに大きい人間だった(言葉おかしい…)

目は虚ろで白目をむいていた。薬の苦しみのため胸を掻き毟った後がある。

『Bスト』使用者だ。もう、すでに獣化している。

「さて、こいつは俺がやる」

ビーストは飛び込んできた。そのスピード、破壊力は人間レベルではない。

初めはよけていたが徐々に追い詰められていく。

「グァッ!!」

不意を付かれ一発食らう。

ビーストは飛びかかろうとしたが動かない。

「フゥ…効いてくれたか。さっき殴られた時にカウンターで刺しといたんだよ」

ビーストは動けなかった。当たり前だツボを指したんだから。

しかし、ビ-ストはゆっくりだが、動き始めた。

「ゲゲ!アリエナイ」

ビーストは完全に動きを取り戻し飛び掛ってきた。

瞬一の後ろは壁だ。避けられない。

「チッしゃあねぇな…」

瞬一は腕を動かしたように見えた。

ビーストは目の前にいた、だが、急に止まりばたりと倒れる。

見れば額に針が刺さっていた。

「危なかった…」

「何が“お前に早撃ちで敵う奴はいないな”ですか?やっぱり瞬一さんの方が早いじゃないですか!」

「いや〜ハッハッハ。そうみたいだな」

二人は先に進んでいった。

やがて大きな部屋の前に来た。

「多分ここが製造室だ。」

瞬一はドアを開け中に入る。

中には大きな機械があった。何か材料を入れて『Bスト』をつくり箱詰めしている。

「さて、と。ここに時限爆弾をセットしてぶっ壊しますか。
んで、その後ボスを殺せば任務完了だ」

瞬一は爆弾をセットしようとした。

「そこまでだ侵入者よ」

振り返ると出口にスーツを着た小柄な男が立っていた

「驚いたなぁ。いつの間に入ったんだ?俺に気配を感じさせないとは……」

「私は荒木安人(あらき やすひと)ともうします」

「あんたがここのボスかい?」

「いえ、ボスはここにはいません」

「なら、聞き出すまでだ…」

瞬一は針を取り出し構える。

「おや、あなたの顔は見覚えがありますね…」

瞬一はピクッと動きを止める。

「あなたは黒田瞬一というのですか?黒田……そういえば3年前『アーカイブス』の研究者に黒田という女がいましたね……」

「そいつは俺の妹、黒田奈美恵(くろだ なみえ)だ……」

「ほぅ、そうなのですか…『Bスト』の制作者の…」

その一言に瞬一は激しく怒った。

「違う!あいつは全ての病気を治す特効薬の開発をしていたんだ。その研究の過程で生まれたのが『Bスト』だ!妹は処分しようとしたがおまえらは俺の妹を実験体にした!」

瞬一はギロリと荒木をにらむ

「ふふふ、『Bスト』によって狂暴化した妹を自分の妹と知りながら殺した残酷な男は誰ですか?しかも、あなたの妹は研究所の子供を殺したんですよ?」

「貴様……殺すぞ?」

瞬一はゾッとするような冷たい笑みを荒木に浮かべる。

「ふん、やってみなさい」

荒木は腕を流星の方に向ける。

すると腕がグーッと伸びて流星をつかみこっちに引き寄せる。

「ふふふ、私の能力『バンジーアーム』です。これでも私を殺しますか?」

荒木は拳銃を流星のこめかみに押しつける。

「…………」

瞬一は気にせず近づく。荒木は焦る。

「お、おい!いいのか?おまえの仲間だろ?」

「…………」

「クッ!クソ!ならば死ね!」

荒木は流星に押しつけていた拳銃をぶっ放した。

流星は吹っ飛んだ。

「ハハハハハハハハ…ハァ?」

荒木は目を疑った。なんと流星は起きあがり頭をさすっている。

「イテテテテ……」

「ば、バカな!?なぜ?」

荒木ははっと気づき流星の服を破る。

なんと流星の胸には大きなひっかき傷があった。『Bスト』使用者特有の傷だ。

「まさか小僧…おまえ『Bスト』なのか?」

「違うね」

代わりに瞬一が答えた。

「そいつは『メフィスト』だ。」

「『メフィスト』?」

荒木が素っ頓狂な声を上げる。

「そう、『Bスト』の知能退化副作用を抑え、身体機能強化、回復のみを兼ね備えた薬だ。」

「そ、そんなものが……?」

荒木は目を輝かせて言う。

「作り方のヒントを教えてやろうか?ヒントはこの薬は赤いこと。もう一つはこれを作ったとき必ず誰かが死ぬ」

荒木は考える。一つの結果が出た。

「血…か…」

「ご名答。まぁ材料は他にもあるがな。大まかなのはそれさ。しかも18リットル、人間の約9割の血だ。さらに一人の人間から取らなければならないし、死体じゃだめだ。」

瞬一はチッチッチと指を降る。

「こいつはさっきおまえが言った妹が殺した子供だよ」

瞬一は流星を指さす。

「では、まさかおまえ自分の妹の血を…?」

「あぁ、妹は俺がとどめを刺そうとしたときに奇跡的に意識を取り戻した。そのときの遺言だ。“私の命をこの子にあげて”ってな。そして妹の血で俺は『メフィスト』を作った。だが、人を生き返らすのは人のする事じゃない。だから、俺達はこの薬に地獄の大悪魔『メフィスト』と名付けた。」

「正気の沙汰じゃない…自分の妹を……」

「お前には、おれたち兄妹の絆は判らないだろうよ。あいつは獣として人を傷つけ生きるより俺に殺された方が本望だっさ……」

瞬一はジリジリと荒木に近づく。

「クソッ!」

荒木は銃を取り出し瞬一を撃とうとする。

「ウワッ!!」

荒木は撃つより早くに針が手に刺さり拳銃を落とした。

「遅いな…瞬一様の投げる針は一瞬よりも早いのさ」

瞬一は逃げようとする荒木の足に針を刺す。

ツボに入った荒木は動きが止まる。

「人の体というのは不思議でね…足に刺せば手が痛む、手に刺せば足が痛む……ここに刺せば……」

瞬一は膝に近い部分の太股に軽く刺す。

「ギャッ!」

「ほら。目が痛むだろ?こうしたら」

瞬一は一気に押し込む。

そのとたん荒木は光を失った。

「目が見えなくなったな?次はどうしてやろう……」

光を失った荒木はあわてて言う。

「待て!何だ?何が知りたい?」

その言葉を待っていた、と瞬一はにやりと笑う。

「お前らのボスの名だ」

「…………」

荒木は黙り込んだ為、瞬一はぐいっと針を差し込む。

「ギャア!判った。言う、言うから待て!」

「お前らのボスの名は?」

瞬一はもう一度言う。

「か…柏木だ。」

柏木…どこかで…

そうだ!このことを依頼してきた政治家だ!

「あいつ…俺を騙してやがったのか……」

瞬一はにやりと笑いゆっくりと針を抜く。

「体は2日後くらいには動くようになる。それまでのがまんだ…」

瞬一は“時限爆弾”をセットした。

荒木は光を失っているため何も見えない。

瞬一と流星は去っていった。後ろからは大きな爆音が聞こえた。


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柏木宅。政治の賄賂などでもうけた金で造った大きな屋敷の中で柏木はバスローブを着てワインを飲んでいた。

「あいつら成功したかのう……」

「当たり前だろう?」

柏木はそっちを向く。そこにはニードルスの二人がいつの間にか立っていた。

「おぉやってくれたか!良くやったぞ!」

「しかし、一つ腑に落ちないんですうがね…」

「なにかね?」

「あんた『アーカイブス』のボスだろ?」

柏木は表情が変わる。

「荒木に全て聞いたよ。あんたは『アーカイブス』を捜査され自分の地位が崩れるのを恐れた、だから、俺達に警察より先に潰させた…」

「言い逃れは出来ないよ」

流星はノートパソコンに録音した荒木の証言を再生した。

「クッならば、私の能力の……」

言い終わる前に瞬一は柏木の首をつかみ壁に押しつけた。

「うるせぇよ……俺は嘘つきが嫌いなんだ……」

「ガハッ!ま、待て。何がほしい?金か?金ならいくらでも…」

「いや、いらいない」

「な、ならばお前を大統領にしてやろう…私の力なら可能だ……」

「そんな者になりたくない」

瞬一は針を構える。

「ならば何がほしい……?」

瞬一は静かに延髄に針を差し込む。柏木はうなだれ、落ちる

「お前みたいなゴミのいない世界だよ…」

瞬一はしばらく天を仰いでいた。

「流星。こいつは大物政治家だ。さすがにやばい。お前の力でもみ消してくれ」

「また難しい事言う……」

「頼りにしてるよ相棒(^^)」





柏木を殺してから数日後。

「ほら!見て瞬一さん」

「ん?」

瞬一は流星が持ってきた新聞を見たそこには一面にデカデカとこう書かれていた。

『政治家柏木氏自宅で自殺。本人の筆跡の遺書も発見。犯罪組織『アーカイブス』とのつながりに関係があると思われる』

「どう?」

「たいしたもんだ。本当にもみ消しやがった。」

瞬一が新聞を持って感心しながら言う。

流星は嬉しそうだ。

「すいませ〜ん。」

玄関の方から声が聞こえた。

「あ、瞬一さん。お客だよ。」

「さて、その客は『黒田医院』の客か『ニードルス』の客か……」

瞬一は面倒くさそうに声を出す。

「どっちでもいいじゃん」

「どっちでもいい、ってだいぶ仕事の内容が違うぜ……」

「ほら早く瞬一さん!」

瞬一は流星に引っ張られ玄関に向かう。

「やれやれ……」
2004-03-17 23:03:35公開 / 作者:九邪
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■作者からのメッセージ
とりあえず書いてみました。
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この作品に対する感想 - 昇順
これはもう立派な小説だと私めは思います。素晴らしい。ただ、地の文で人物名を出すのではなく、会話の中で自然と出てくる方が拙さもなくなり、シャープな仕上がりになると思われます。貴方様が読み手を思う書き手ならば、改行の量やタイミングなどにこだわられるとさらに素晴らしいモノになると確信致します。流麗な文章はぱっと見も美しいもので御座います。偉そうなことを言って申し訳御座いませんでした。私見では御座いますが、もし、お気が向かれたならば、その点に留意なさいませ。
2004-03-18 03:35:22【☆☆☆☆☆】南極三号
計:0点
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