『死喰い人 1〜2』作者:九邪 / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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原稿用紙約24.37枚
〜序章〜



ボクの名前は桜庭紅(さくらば くれない)。どこにでもいる普通の小学6年生……だった男だ。

これから語ることは全て本当の事だ。うそなんかこれっぽっちもない。

僕はもうすぐ死ぬ、とかそう言うのではない。ただ、誰かに聞いて欲しいだけだ。

僕は訳あって普通に人とは話せる存在ではないからだ。

ボクの人生はあの日から変わった。あの日の塾の帰りから……


?章


その日は満月だった。今でも覚えている。満月と言うのは狼男や月の男など不気味な面も持っている。

その日の満月からもそんな感じがした。

僕は塾の帰りだった。宿題をしてこなかったので塾の講師に残されたため帰りが遅くなった。

(やんなっちゃうよなぁ…あ、満月だ)

僕は墓場を通り過ぎた。だが、すぐに戻ってきた。

ボクの家は墓場の向こうにある。この墓場を突っ切れば近道になる。

いつもは怖くて、行かないのだが、今日は夜から見たいドラマがあったので行く事にした。

「よっこらしょっと!」

墓場の柵を乗り越え中に入る。

夜の墓場と言うものは何と言うか不気味だった。そう言うしか表せれない感じがする。

さっさと立ち去ろうとした時、何か向こうで動くものがあった。

「なんだろう?」

僕は怖かったが、好奇心をおさえられなかった。

近づいてみると、何かの上に何かが覆いかぶさっている。

「なんだろう?…あ!!」

目が慣れてくると判った。それは人だ。人がぐったりとした人の上に覆いかぶさっている。

僕は怖くなった。逃げようと走り出した時、小枝を踏んだ。

パキッと音がした。小枝を踏むだけでこんな音が出るとは……

男は明らかに気付いたようだった。

「小僧……見たな?」

僕はおびえた目でそいつを見ていた。男の口には血のような赤いものがついている。

僕は殺される、そう思った。

男はしばらく僕を見下していた。男の目は赤かった。しかし、やがてその目は穏やかな目つきになった

「……小僧。ここで見たことは忘れろ……俺は子供を殺したくない…さぁ家に帰れ」

僕はゆっくりと立ち上がり、逃げていった。

(何であの男は僕を逃がしたんだろう)

殺されなかっただけでもましだ、と自分に言い聞かせた。

忘れよう……今夜見たことは……



「おかえり」

家に帰ると母さんが迎えてくれた。

僕は母さんとの2人暮らしだ。父さんは僕が小さい頃に死んだ……

けど、僕は顔も覚えてないし別に寂しいわけでもない。この生活には充分満足している。

僕は母さんの言葉など上の空でフラフラと自分の部屋に向かう。

「どうしたの?」

母さんが心配そうに尋ねてきた。

僕は母さんに悟られまいとウソをついた

「うん…ちょっと塾の先生に怒られてね……」

母さんはボクの説明に納得したようだった

「そう、あんまり気にしないようにね。」

「うん…」

僕は寝た。





次の日、僕は学校に向かった。学校で楽しく友達といれば、昨日のことなんてすぐに忘れられるはず、そう思っていた。

「よぅ、紅」

「あ、茂」

こいつは城鳥茂(じょうちょう しげる)僕のクラスメートで友達で親友だ。

僕に仲良くない子はいない。僕は誰とでも仲良く出来た。

茂は野球が上手く休み時間の野球ではヒーローだ。僕もなかなか上手いが彼には敵わない。

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン

授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。今から休み時間だ。

僕たちの学年での流行りは野球。クラス別にチームを作って対抗戦をしている。

僕たちのチームは今首位だ。茂とボクの活躍のおかげ。

僕はピッチャーで茂はキャッチャー。僕たちのコンビネーションから点を取るのは難しい。

「よし、茂行こう」

「おぉ、紅今日も勝ってやろうぜ」

しかし、今日の試合、僕たちのチームは苦戦した。相手は2位の『4組』だ。

3回に2点を取られ、只今9回の裏、ランナーは1、2塁。バッターは我らが茂だ。

「茂!頑張れよ。」

「任せとけよ」

茂はみんなの期待通り甘いコースに来た球を打った。サヨナラホームランだ!

やっぱり茂には敵わない。ここぞという時にちゃんと打ってくれる。

皆はワァと歓声を上げて茂を向かい入れる。

茂は僕に近づきこっそりと言う。

「あとで今日の宿題見せてくれ。お前のせいでまけそうだったんだろ?」

「チェ、そう来ると思ったよ」

友達と楽しく話していたら昨日のことなんてすぐに忘れられた。

家に帰るまでは……





「家で何かあったのかな?」

学校の帰り、茂と別れ家に戻った僕は家の前いる大勢の人が目に入った。

中には警察の姿も見えた。

僕は近くによって見る。待っていたのは信じられない光景だった。

「かあ…さん?」

そこにあったのは僕の母さん親の死体だ。

無残にも腹がかっさばかれて切り口からは中身が飛び出ている。

醜い、自分の母親でもそう思ってしまうような光景だった。

僕が見ているのを気付くと警察は慌てて死体を隠した

「この人の子供かい?」

捜査に来ていた警察官に話しかけられた。僕は頷く。

「可愛そうに…これは最近出回っている連続殺人犯の犯行だ。君はお母さんと二人暮しなんだね?親戚の人が引き取ってくれるそうだから着いて来なさい。」

僕は警察の人に言われるままに車に乗った。

親戚の和美おばさんは小太りのやさしいおばさんで母さんと何度か行ったことがある。

車で20分ほどのところにある家だ

別におばさんが嫌いだったわけじゃないけど僕はその晩に家を抜け出した。

母さんを殺したやつは誰か?答えはすぐに出た。奴だ。昨日の晩見たあの男だ

僕は後など無いのにあの男を捜しに街に出た。




「見つけた……」

僕は町の中であの男を見つけた。おばさんの家を飛び出てからもう5日も立っている。

5日間もちろん食事や睡眠などとっていない。おなかは減らなかったし、眠くはならなかった。

ただひたすら奴を探していた。

僕の服は擦り切れてボロボロになっていた。たった5日でここまでボロボロになるとは思わなかった。

まるで幽霊のようだ。周りの人は僕を見てヒソヒソと声を立てている。

あの男は一人の男をつけていた。きっとあの男を狙っているのだ!!

男は人気のない路地裏に行った。付けられている男は気付きもしない。

突然例のおとこが前の男に飛び掛った。

僕は声を上げて襲おうとしている男に飛び掛った。

「ワアアァァァァァ!!!!!」

「!!!??」

僕は男を押し倒し馬乗りになって殴った。

「よくも!よくも母さんを!!」

「ま、待て!何のことだ!?誤解だ!」

「うるさいっ!」

僕は男の話に耳を貸さず殴り続けた。男はやがて気絶した。

僕は呆然とそれを見ていた男の方に行く。

「もう、大丈夫ですよ。あの男が最近話題の殺人犯だったんです。」

男は変な顔をしたがすぐに納得した。

「そうだったのか……ありがとう。助かったよ」

男は僕に握手してきた。僕は誇らしかった。きっと母さんが生きていたら誉めてくれたに違いない。

「けどね…ボウヤ。一つ勘違いしているよ…」

「え?どうゆう……」

男はボクの腹を大きな刃物で突き刺した。僕は訳がわからなかった。

最初は痛みなど感じなかった。しかし、急に耐えがたい痛みがボクの腹を襲ってきた。

「グアァァ!」

「ボウヤ。連続殺人犯てのは俺さ……ありがとよ、おかげで捕まらずにすんだぜ。そして、おめでとう。お前は記念すべき俺の10人目の獲物だよ」

僕は痛みと悔しさで涙が出た。そして腹からは紅い液体がとめどなく流れ出た。あたりにはたちまち赤い水溜りが出来た。

男は笑いながら去っていった。

僕は気を失った。恐らく死ぬのだろう……





しばらくすると目が覚めた。雨が降っていた。

まだ生きていた。そのことにただ驚いていた。

だが、まもなく死ぬ。少し眠って体力が一時的に戻っただけだ。

すると、前からさっき殴りかかった男が歩いてきた。

男の手にはさっきの連続殺人犯の首が下がっていた。

首からはまだ血が滴り落ちていた。

「いいザマだな小僧。まさか殺人犯と間違えられるとはな…」

男はあざけるような顔で僕を見下ろしていた。僕はも男の目を見つめた。

「……ほぅ、いい目をしている…いい魂の持ち主だ……」

男は手に持った首を投げ捨て、しゃがみこみ僕と目線をあわした。

「小僧…生きたいか?」

僕はゆっくりと頷いた。もはや喋る力などなかった。

「一つだけ方法がある。私達の仲間になればいい。」

僕は言ってる意味が判らなかった。この人は僕等と同じ人間じゃないのか?

男は説明を始めた

「私たちは人間ではない。死喰い人<デスイーター>、魂喰い人<ソウルイーター>と呼ばれる生き物だ。外見や中身は人間と変わらない。しかし、食事が少々人間と違う。」

僕はその説明を黙って聞いていた。

「人間が我々の仲間になるとき、体のあらゆる部分が変化するため新陳代謝が良くなり傷がふさがるのだ。その傷は今から医者に言っても助かるまい…さぁ小僧選べ、我らのように闇に生きる化物となり生きるか、そのまま死ぬか…私はお前が気に入った。普通の人にはこんな事は言わんよ。あの日墓場で始めて会った時からな…」

僕は迷った。あいつみたいな化物になって生きるのは正直いやだった。

僕は人間でいたかった。

しかし、このまま死ねばそんな気持ちすらなくなる、そう思うと答えは一つしかなかった。

僕はかすれる声で言った。

「僕は……生き…たい…どんな姿に…なっても」

「よし…口を開けろ」

男は親指を噛み切り血を流す、その血を僕の口に入れる。

初めは何も起こらなかったが、しばらくすると傷口がこぞばゆくなり、痒くなった。

それを乗り越えると痛みはどこかにいった。傷口を見ると傷などない。

たったこれだけで僕は人間から他の者へ変わったのだろうか?

しかし、男は歩き出していた。ということは成功したのだろう。

男は向こうを向いたまま言う。

「私の名前は神威邑一(かむい ゆういち)だ。着いて来い、今からお前は私の部下だ。」

「小僧じゃない。僕は桜庭紅だ」

僕は起き上がり神威の元へ走っていた。

神威は僕のほうを振り返りフッと笑うとまた歩き出した。

こうして、僕は闇の住人となった。正直、死喰い人とは何なのか全くわからない。それはオイオイ神威に聞いていくとしよう…

今は生きていることを単純に喜ぼう。僕の旅はこれから始まる。

奇しくも今日この日はボクの誕生日だった……


?章



ある夜。

一人の男が大急ぎで家に向かっていた。

男の名は大林光、学校教委だ。

彼は家に続く森の中の道を走っていた。

(何か今日はいやな予感がする…)

大林はきょろきょろとあたりに何かいないか探った。

夜の森の中はものすごく不気味だ。何か出そうな気がする…

大林は自分の考えた事をハハハッと笑い飛ばした。

何をバカな事を…子供じゃあるまいし。

しかし、森の中からガサッと音がすると、いっきに怖くなった。

「な、何だ!?」

音は段々近づいてくる。

大林は走った。音から逃げるために。

しかし音は近づいてくる。そして、音はすぐ後ろまで来た。

大林は何かに殴られ気を失った。




「殺したの?」

「いや、気絶させただけだ」

大林の近くに二人の人がいる。紅と神威だ。

僕たちは今全国を旅して回っている。

最初はなかなか打ち解けなかったが僕の持ち前の性格のおかげで今はすっかり普通に話が出来るようになった。

今は神威が言うには“食事”らしい

「そうだ。お前には死喰い人の食事を教えてなかったな。こうするのだ」

神威は服から注射器のようなものを取り出した。

「“魂吸いの針”<たますいのはり>だ。我等死喰い人は人の魂を吸い生きていくのだ。」

「人の魂?そんなの吸ったら人の寿命が縮むんじゃ…?」

「ハハハ、私も最初はそう思っていたが、そうではい。吸った後はしばらく寝込むかもしれんが寿命には直接関係ない。私たちは少しすえば1週間は持つ。しかし、いつまでも吸わなければやがて死ぬ。しかし、普通の食事もしなければ死ぬし、事故や病気でも死ぬ。」

「何だよそれ?じゃあ人より不利じゃないか?」

「いや、我らは人より2倍長く生きるし、魂を吸うため不思議な力も使える。人より有利な部分もあるぞ」

「フ〜〜ン」

神威は早速、魂吸いの針を大林の腕に刺し、魂を吸い取る。

その吸い取った魂を瓶に入れ一気に飲み干す。

「うむ!美味い!やはりなかなかの魂の持ち主だったな。ほれ、お前も飲め」

「いや、僕は遠慮しておくよ…」

「バカモン!早く飲まんか。飲まなければ死ぬのだぞ」

「けど、1回くらい大丈夫でしょ?」

「駄々をこねとらんと早く飲め!」

「うぅ、判ったよ…」

僕は神威から瓶を受け取り鼻をつまんで飲んだ。

しかし、思いのほか美味しかった!僕はもう死喰い人なのだと再認識された。

「どうだ?美味かろう?昔は直接牙を立て獲物に噛み付き魂を吸ったため、我らは吸血鬼とも呼ばれたのだ。しかし、今はこのように注射器で取っておる。この方が衛生的にもいいのだ。」

「ヘェ〜知らなかったよ。じゃあ、何で今は牙がないの?」

「退化したのだろうよ」

僕たちは泊まっている宿に向かった。

行こうとしたとき僕は大林を蹴ってしまった。ウゥッと少し呻いていたが大丈夫だろう。

今は夏だし、風邪を引くこともない。




僕たちは今I県のK町の宿に泊まっている。

昼間は、神威はどこかに行っている。僕は一人家で暇を持て余した。

することもないので外をブラブラしていると、学校へ向かう子供が目に入る。

その時、前いた学校の友達を思い出した。

ある日おもいきって神威に言ってみた。

「あのさ…学校に行かしてくんない?」

予想どおり神威は反対した。

「ダメだ!言ったろ。我々は闇に生きるもの。人間とは違うんだ。学校に行ってもお前は傷つくだけだぞ」

「大丈夫だよ。気をつけるから。頼むよ。」

僕は必死に説得した。神威はずっと反対し続けたけどボクの必死の説得によりとうとう折れた。

入学に必要な書類を書き上げ近くの学校に提出する。

後日僕は学校に向かった。

別れぎわ神威が言った。

「良いな。絶対に目立つ行動はするなよ?」

「判ってるよ。じゃあね」

僕は学校に入っていった。

その学校は私立蓮代寺小学校。全校3百人ほどの大きな学校で、サッカーが強いらしい。

2年連続全国出場の強豪だ。

僕は6年のクラスへ向かう。ちょうど朝礼の途中だった。

ガラガラガラ

ドアを開けて中へ入る。皆は僕を見てこそこそと隣と話し出した。

転校生や転入生はどこの学校でも似たような反応だ。

先生に促され自己紹介をする。

「転校してきた桜庭紅です。前は、O町の学校にいました。」

「じゃあ、紅君は佐藤猛(さとう たける)君の横に座ってね。」

「はい」

佐藤というのは後ろの方にいる気の弱そうな男の子だそうだ。

僕は彼の隣に向かう。しかし、どこにでもいるガキ大将が僕に足をかけてきた。

僕は大きくすッ転ぶ、皆が僕を見て笑う。僕はそいつを殴ってやろうかと思ったが、頭に神威の言葉が浮かぶ。

――良いな。絶対に目立つ行動はするなよ?――

僕は握った拳を戻し服を払い席に座った。

僕は神威の言いつけどおりあまり目立つ行動はせず、授業でも手を挙げたり発言したりせず虎視眈々と学校生活を送った。

ガキ大将の大沢は僕に目をつけたらしく、僕にイタズラばかりしてくる。

僕は言いつけ通りそいつを無視しているがそれが気に入らないらしく毎日のようにあいつは僕にイタズラをしてきた。

ある日、僕はとうとう切れてしまった。

しまし、それは僕にされたことではなく、隣の席の佐藤に対する事でだった。

「おい、佐藤。お前まだパソコンばっかしてんのか?根暗な奴だな。そんな事だから友達が出来ねぇんだよ」

大沢とその仲間が笑い声を上げる。僕はイジメ、と言うものが嫌いだった。

最初は黙ってみていたが、我慢できなくなった。

「お?何だその目は?やるのかコラ!」

大沢は佐藤を殴ろうとした。しかし、その手を僕がパシッと止めた。

「転校生!?邪魔だ!すっこんでろ!」

「いやだね。彼に謝れ!」

「はぁ?何言ってんだお前?バカじゃねぇの?」

僕は、大沢の拳をギュウと握った。僕は死喰い人なので力が人間より強い。

大沢の拳はミシミシと音を立てる。

「ギャア!」

「彼に謝れ!」

「だ、誰が…ウワァ!!」

僕はさらに力を込めたもう少しで骨折するほどに。大沢はとうとう佐藤に向かって謝った。

「おい佐藤、悪かったよ。さぁ、これでいいだろ!?」

僕は大沢の手を放してやった。大沢は仲間と共に逃げていった。

僕は自分の席に着いた。

すると、授業が始まるちょっと前に佐藤が寄ってきた。

「さっきはありがとう…あの、これ」

佐藤は僕にTVゲームを渡してきた。僕はにっこりと笑う。

「ありがとう。面白そうだね」

僕と佐藤は友達になった。しかも、飛び切り仲のよい。

僕は嬉しくて家に帰って神威に話した。

「ほう、よかったではないか。しかし、気をつけるのだぞ。正体が悟られんようにな」

神威はやや不安そうに言った。

「わかってるよ」

僕はその日遅くまで佐藤にもらったゲームをしていた。



次の日、僕は佐藤の家に行った。

佐藤の母さんは若くてきれいだった。父さんは仕事らしい。

佐藤の母さんを見ていたら母さんのことを思い出した。僕は少し涙ぐんだ。

佐藤の家はゲームがいっぱいあった。僕たちはずっとテレビゲームで対戦をしていた。

遅くなったから、夕飯までご馳走になった。

帰ろうとした時佐藤が行った。

「ねぇ、今度は桜庭君の泊まっているところに連れて行ってよ」

僕は困った。多分入れさせてもらえない。神威が許さないだろう。

「ゴメン。無理なんだ」

「えぇ!どうして?」

「父さん、人見知りが激しいから…」

なんともいえない理由だ。しかし、いくら一緒に住んでいて最近仲がよくなったとはいえ、神威を父さん呼ばわりするのはゾッとした。

佐藤は悲しそうに手を振って僕を見送っていた。



僕は家に帰って神威にそのことを話した。

「うむ、よく断った。いくら仲がよいとはいえ、さすがにそこまではな……」

「やっぱり…」

「そんな悲しそうな顔をするな。別にここにこれずとも問題はあるまい」

「うん、そうだね」

僕もそう思っていた。別に佐藤がうちにこれなくても僕たちの友情には問題ない、と。

しかし、佐藤は驚くべき行動をこの後とる。






ある日、佐藤はどうしても、紅の家に来たがった。

せめて、場所を知るくらいいいだろうと思い、学校が終わった後紅をつけていた。

しかし、佐藤はとんでもないものを見てしまう。

(どこにいくんだろ?この先に家なんか…)

紅はどんどん人気のないところに行く。

そして、待ち合わせていた大人の男となにやら話してから、別の場所に向かう。

今度の場所は、あまり人が来ないが20分に一人は来るというほどの町の郊外だった。

そこで佐藤は見てしまった。通り行く人を気絶させ、注射器のようなもので何かを吸って飲む紅と大人の男の姿を。

(ば、化物…!)

佐藤は恐ろしくなった。最後まで見ていられずに家に帰っていった。

「ふむ、1週間たつのは早いな。今度はやや大目に飲んでおくか…」

神威はそう言ってもう一杯魂を飲んだ。

「生きるためとはいえ、やっぱり気が進まないなぁ」

「何を言う、そんあことでは立派な死喰い人にはなれぬぞ?」

「別に僕はなりたいわけじゃないよ…」

(ふむ、学校に行って、普通の生活になれ、死喰い人が嫌になってきたのか…)

神威は困ったぞ、と考え込んだ。

しかし、結局答えは出ず家に帰った。



次の日、紅はいつもどおり学校へ行く。

しかし、教室に入り、おはよう、と声をかけても誰も答えなかった。

むしろ皆紅を避けているようだった。

変に思い机に座ると何と机には多くの落書きがしてあった。

“バケモノ”“死んじまえ”“バカヤロウ”などひどいものだ。

「何でこんな事が…?」

「ヘヘヘヘ俺たちのプレゼントはどうだい?バケモノ」

後ろを向くとニタニタ笑う大沢が立っていた。

「お前がしたのか!?」

僕は拳を握り締め、立ち上がる。

「おっと、情報提供者はこいつだぜ」

大沢は隅の方で震えている奴を指差した。

「そ、そんな、猛?ウソだろ?」

佐藤猛は何も答えず、ただ震えていた。

「こいつが昨日、お前をつけていたら見たんだとよ。さぁ、どうするバケモノ?」

僕はプチンと切れた。教室で暴れ周り、女だって殴った。

大沢も自分でけしかたくせに怖くなって非難した。やがて、女子生徒が連れてきた教師に僕はつかまった。

先生に訳を聞かれても僕は黙っていた。

そして、僕は家に帰った。

僕は家の隅ですすり泣いていた。

あれほど信じてたのに、猛のことを、それなのに…

やがて、神威が帰ってきた。僕に気付き訳を聞く。僕は話す。

「………なるほどな。しかし当然の反応だ。いつの時代でも人の心は自分と違うものを受け入れがたいものよ。だから言ったであろう?傷つくだけだ、とな」

「……………」

僕は何も言わなかった。そして、神威はボクの肩をたたいた。

「いくぞ。もうこの町には居たくないだろう?」

僕はゆっくり頷き涙をぬぐい立ち上がる。

「さて、次はどこへ行こうかな……」

僕たちは歩き出した。

2004-03-15 17:37:44公開 / 作者:九邪
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■作者からのメッセージ
こんにちは。とりあえず2章まで書きました。変な話ですが、まぁ読んだ方は感想下さい。待ってます。
この作品に対する感想 - 昇順
初めまして。。とても面白い設定で、読みやすかったです!神威のような謎的キャラがいいですね〜。。「死喰い人」になった桜庭くんが、遭遇した出来事はちょっと悲しかったです。。いや、でも読み飽きることはないです。。
2004-03-16 11:53:17【★★★★☆】葉瀬 潤
計:4点
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