『チクタク時計の螺旋渦 第一話』作者:さらさら / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
全角925文字
容量1850 bytes
原稿用紙約2.31枚
 暗いリビングの中、男が、一人掛けソファに身を任せ、オットマンに脚を預けている。ズボンは履いているが、上半身は裸である。胸に痛々しい切り傷が刻まれている。

 脇にはスタンドとコーヒーテーブルを置き、洋書を片手にその世界に浸っていた。

 正面の窓から光が差し込んできたその時、男の背後から二つの白い肢が男の首に狙いを定めている。
 気付かれないようそっと……

 そして白い肢を首に絡ませ……


 「おはよん、タツヤン。」


白い肢の正体は女だった。その姿は裸身に男物のシャツを羽織っているだけだった。
 「あ、ああ、おはよう。」また意識を洋書に向ける。
 「またそれ読んでるの。よく飽きないよねぇ。」皮肉は無視するに限る。
 「…………。」
 「へぇん、いいさいいいさ。ご飯作ってあげないから。」そういってキッチンに向かった。
 「まずは着替えてからにしろ。それにこの前のはよせ。」
 「この前は喜んでたじゃない。」
 「エプロンに地の臭いが移ったんだよ。その体臭が。」
 「ひどいわね。その臭いをかいでたのはどこのどなたよ。」
 「いらん事は言うな。」苦笑しながら言った。全く事実だから仕方が無い。
 コーヒーテーブルにおいてあるグラスを傾けた。

 久美と暮らし始めて早三週間が経つ。出会った当時は大変なものだった。それは根暗、陰気、腐臭が立ち込めた女。美という美が闇にうずくまっていった。だが、彼女には何か光るものがあった。
 それが見たい、ただそれだけで付き合った女性である。

 向こうの都合なんかはどうでもいい。

 だが、どっちに転がるかは愉しみでもあり、不安でもある。
 さすがに『アレ』みたくはなってもらいたくは無いな。

 南青山のマンションを出て、職場の六本木に向かいながら、その事に軽く思案した。
 自宅から職場まで直線距離1キロ、実際距離で約1,5キロである。
 軽い運動も兼ね、徒歩で通勤している。

 井の頭通りに沿い、青山霊園を過ぎ去った頃には仕事のことだけを考えていた。
 斎藤は別人と化す。


 そう眼鏡をかけて―― 
2003-09-16 16:50:30公開 / 作者:さらさら
■この作品の著作権はさらさらさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 いよいよ本編スタート。

 見てくれた方に感謝。いなくてもオーナーに感謝。
 そしてコメンテーターには多謝。

この作品に対する感想 - 昇順
感想記事の投稿は現在ありません。
お手数ですが、作品の感想は旧版でお願いします。