『WAKE!!  第二巻』作者:六Z‐基(ロジック) / - 創作小説 投稿掲示板『登竜門』
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〜あらすじ〜
少女・明日原緑鈴(あすはらみりり)は、幼い日に両親をなくし、身寄りのないところを従姉の秋崎芽衣子(あきざきめいこ)に救われる。その後、6年が過ぎ今年高校の入学を果たした。
一方、同刻、緑鈴が住む「春乃木町」から少し離れたところで、「彼の残骸」と呼ばれる大妖怪が、配下の妖怪を使って自分の敵である「鬼の一族」の末裔であるという者を殺害することを決意する。そして、トップバッターとして中級妖怪「滑瓢(ぬらりひょん)」が向かった。
今回は、緑鈴の高校の入学式からはじまる。

・0・
名主、箪笥を引きい出し驚きにける。別段、ただの木綿と思いきや、その木綿自ら動き、のたうちまわりける。はて、これはいかなるものかと、木綿を拾いきや、小さき双眸がぎろりと名主をにらみけり。是、一端木綿といいける。

・3・
高校はやはり違う。中学のときのように、同じ塾に通っていたから・だとか、同じ小学校だったから・だとかといった同類意識が無条件で放棄される。知っている顔の生徒もいるが、それ以外が圧倒的に多い。入学式の会場の開門を待つ生徒とその保護者+諸々で人だかりが発生しているそんな中、少女・明日原緑鈴は誰かなじみの顔が近くに居ないかつま先立ちであたりを探っていた。隣に居るはずの芽衣子さんは「あうー」といいながら人ごみにもまれている。これで3度目の偵察を終え、そろそろあきらめようとした頃、
「あーー!!緑鈴ちゃんだーっ!おーい!」
遠くのほうから、聞きなれた声が聞こえて来る。あれは…
「あ、やっほー!児乃(にの)−!!」
人だかりをはさんで反対側に中学からの同級生である先綾咲児乃(さきあやざきにの)がいた。彼女の姿を視覚にとらえた瞬間、緑鈴の表情がパッと明るくなる。人ごみをかきわけ見事対岸まで渡り終えた児乃は一言、
「おーはーよーっ。あー、疲れた。んもう、そろそろ開場してくれてもいいのにね。あ、芽衣子さんおはようございます。」
あうー、おはよぅ・と言う芽衣子を無視し児乃は続ける。
「高校かぁ。なんか不思議な感じだね。ついこの間までセーラー服で中学生だったのに。なんかレベルアップしたって感じ?」
そういいながら、児乃はガッツポーズをしてみせる。
 先綾咲といえばここら一帯ではその名を知らぬものはいないほどの紡績会社である。そして児乃はそこの社長令嬢に当たるのだが、彼女の性格からは「そのような」雰囲気は感じられない。中学のときでは、女子からは、明るくて活発で話してて楽しい娘。男子からは、可愛くて胸のある女の子という風な目で見られていた。外見は肩より少し長いくらいの艶やかな黒髪に、純・和風美人ふうの整った顔立ちをしており、着物を着たときの姿は大和撫子そのものであった。
児乃はさらに話を続ける。
「でね?私、もしかしたら答辞を読めちゃうかもしんないんだって!」
どうだ・と豊かな双丘をさらに突き出しえへん、と咳払いをする。
「でも、入試の点数が同じだった人がいるらしくて、会場で伝達するって言われたんだけど…」
正直、緑鈴は驚いていた。児乃の頭脳のレベルは付き合いのながい自分がよく把握している。この娘と並ぶ頭脳の持ち主がいるとは、かなりのびっくりである。
緑鈴が応えた。
「ふぅん、どんな人なんだろね」
「うーん、明るい人だったらいいなぁ」
そういって児乃はニコッと笑った。

・1・
結局、答辞は児乃ではないもう一人のほうに回ったらしい。しかし、残念は続き、答辞を読む生徒というのはどうやら男子生徒らしい。一気に二つの楽しみを奪われた児乃はふくれっ面だったが、式が始まれば緊張感が漂う空気に自然と真剣な表情に変わっていった。

『新入生代表、答辞・等々一年(らとうひととせ)』
どうやらこの男子生徒らしい。児乃の表情が再び険しくなる。緑鈴は目の前で答辞を読み上げているその等々ナントカとかいう生徒を観察していた。
 男にしては少し長めの髪だろうか、しかし、だからといって顔にまとわりついていたり、オタクっぽかったりするわけではなくごくごく自然に見える。また顔はかなりの美形ですぅっと通った鼻筋と、異様なくらいに鋭い三白眼が妙に合っていた。唇からつむがれていく言葉の一つ一つが聴覚を刺激し心に響いてくるような気さえする。そのせいか、ほんのりと赤く染まっていた自分の頬は観察ができなかった。
 答辞が終わり校長先生の祝辞が終わり、学年担任が発表され、無事式は終了を迎えた。集合写真を撮り終え、会場を出てもなお、先ほどの少年のこえがしみついて離れない。自分はどうしてしまったのだろう。今までに経験したことのない不可思議な想いに気をとられていたので、はじめはその声に気付かなかった。
「――っちゃん?緑鈴ちゃん?どうしたの?」
「えっ、あぁあぅ、め、芽衣子さん、何?」
あわてて取り繕うが、やはりおかしさは残る。
「うーんとね。この後保護者説明会とかがあってね、一緒に帰れそうにないから、先に帰っててくれる?」
「あ、そか。うんわかった、じゃね」
芽衣子にむかって軽く手を振り、緑鈴は会場を後にした。

・2・
科学的に分析をすれば、恋愛なんてものは簡単に答えの割り出せる二次方程式である。相手に対する尊敬の念、または思慕の念、微妙な誤解、経験に基づく偶像化、優良な遺伝子を選ぶための本能的な能動手段。それらの様々な要因が絡み合い、交差し、時には解け、時にはきつく結び合い、人間は恋愛という感情を生み出す。ただ解が求まったとしても、それが一つだけでない、二つ、あるいはそれ以上といった複数の要因が存在するのが世間一般の「恋愛」であって、「ひとめぼれ」とは要因が存在しないのに心が過剰反応してしまった状態である。

…なんてことを少女・明日原緑鈴が理解しているはずもなく。明らかに日常とは異なった心拍数を刻む自分の循環系中枢器官に疑問を感じていた。
 漫画やアニメや小説なんかではよくよく目にしたことがある。しかしこれは現実である。先が見えない恐怖感と、今の心情をいとおしく思う自己陶酔が彼女の頭を駆け巡っていた。
「あふぅー。ホントにどうしちゃったんだろ・・・」
つぶやいてみるものの、この気持ちを処理する解決策は見つからない。
「名前もよく知らないし」
さすがに、花も盛りの16歳、今自分が抱えている気持ちが「限りなく恋愛に近い感情」であることは認識している。しかし「スキ・キライ」といった単純な感情で表現できるものとも違う。いったいこれはなんなのだろう?
ふと、我に返りあたりを見回すと、自分が歩いている道が自宅へのコースから大幅にずれていることが分かった。
「やっばい、やっばい。こんな調子じゃ自動車にもはねられちゃう」
急ぎ足で今来た道を戻ろうとしたとき、

        不意に頭を横切る『声』が聞こえた。

いや、声というよりは直感的に感じた衝動のようなものだったようにも思うが、緑鈴にはそう感じられた。
「な、なに?」
あわてて後ろを振り返る。その道の先には「あの」寺と桜の木。分かる。自分を呼んでいる「ナニカ」がこの先にある。しかし、ここから一歩でも踏み出せば、自分はもうのっぴきならぬ所へと踏み出してしまうんじゃないかとも思える。

そして、その衝動の来訪が唐突なら、帰還も唐突だった。ぶつりと、つないであった導線が引きちぎられるように、その『声』もやんだ。
「なんだったんだろ」
先ほどのほわほわとした恋愛妄想は一気に吹き飛び、意識は今さっきの不思議な出来事に奪われていた。そして同じく、自分の背後に迫る人外の存在にも。
「見ィーつっけた!っと」
2004-03-13 02:26:58公開 / 作者:六Z‐基(ロジック)
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■作者からのメッセージ
二回目の投稿デス!流れ出がばーってかいたので意味不明なとこもあると思いますが、そこはシャット・アイズでカバーしてください。
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?削除。以後、編集口から追記するように。
2004-03-13 04:06:12【☆☆☆☆☆】紅堂幹人【EDP】
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